*3月エピソードイベント*
『祝福を蝕みしオーガの徒』
エピローグ


フラーム神殿
朝霧圭 IL


『祝福を蝕みしオーガの徒』
関連エピソード



『祝福を蝕みしオーガの徒』
*エピローグ*

 フラーム神殿には、大量の色鮮やかな金平糖が運び込まれていました。
 ウィンクルム達が回収した『祝福の金平糖』です。
 ウィンクルム達は、神殿周囲に舞い降りた『祝福の金平糖』を次々と回収しました。
 マントゥール教団は、『祝福の金平糖』を『怨嗟の金平糖』に変え神殿の周囲にばら撒く事で、
 『女神ジェンマ様』の力を削ぐ事を狙っていましたが、その企みは悉くウィンクルム達に阻止されていました。

 そして今、神殿内には、集まった『祝福の金平糖』の温かな光が満ち溢れています。

「女神ジェンマ様の力が高まっています。ウィンクルムは直ぐにフラーム神殿にお出で下さい」

 フラーム神殿の祭司のA.R.O.A.を通じての呼び掛けに、ウィンクルム達は神殿を訪れました。
 神殿に一歩足を踏み入れたウィンクルム達は、この場に不思議な力が満ちている事を感じます。
 ウィンクルム達が立ち並ぶ中、『祝福の金平糖』は一層の輝きを放ちました。
 そして、その輝きが弾けた瞬間、ウィンクルム達の脳裏にあるビジョンが浮かび上がったのです。

 そこは、仄暗い空間でした。
 目の前には、精霊が膝を付いて俯いています。

 精霊は呆然と、もう一人の己の姿を見ていました。
 俯いて顔は見えませんが、間違いなく、目の前にあるのは自分の身体です。
 これは、本当に己なのか?──一体どういう事なんだ?
 確かめようと動こうとするも、精霊の身体は微塵も動きません。
 声を出そうとしても、一向に唇は言葉を紡ぐ事は出来ませんでした。

 ──どうしたの? 大丈夫?
 一方、神人は目の前の己のパートナーに手を伸ばします。
 しかし、どうした事か──やはり神人の身体も鉛のように重く、指先一つ動かせません。

 やがて、目の前で蹲った精霊の身体が痙攣するように跳ねました。
 グゥうううう。
 苦しむ獣のような、低い低い声が響きます。
 長いような、一瞬のような時間が過ぎ去った後、ウィンクルム達は目を見開きました。
 目の前の精霊の身体が、どす黒い霧のようなものに包まれた瞬間、その頭に禍々しい角が生えて来たのです。
 ディアボロの角とは異なる、おぞましい色彩を纏うそれは──……ウィンクルムならよく知っているものです。

「…………オーガ……?」

 信じがたく呟いた神人の声が、大きく響きました。
 黒い霧に包まれた精霊が、ゆっくりとゆっくりと顔を上げます。
 その鈍く光る瞳には、神人が良く知る精霊の輝きは残っていませんでした。
 血のように紅い涙が、つっと精霊の頬を伝わります。
 それはまるで、最後の彼の理性が流れ落ちたような、そんな印象を受けました。
 そして、彼は叫びました。
 否。それは咆哮。

 グォオオオオオオ!

 彼を中心として、強い力のうねりが広がっていきます。
 激しい熱風に晒されながら、ウィンクルム達は悟ったのです。
 今ここに誕生したのは、間違いなく『オーガ』なのだと──。


 夢から覚めるように、ウィンクルム達は瞬きしました。
 視界に映るのは、元のフラーム神殿です。
 神人は直ぐに傍らの精霊を見ます。
 精霊は、己を確かめるように握った拳を見下ろしました。
 何も変わってはいない──ウィンクルム達は、震えながら顔を見合わせます。
 乾いた唇を舐めて、精霊がぐっと拳を握ります。
「だから、俺達精霊が『怨嗟の金平糖』に触れても、『祝福の金平糖』に戻すことが出来なかったのか……」
 呟きに反応する声はありませんでした。それは、俄かには信じがたい事です。

 ──ウィンクルム達よ。

 不意に、直接心に訴えてくるような温かな声がして、ウィンクルム達は顔を上げます。

 ──これから、貴方達の前に、新たな脅威が現れるかもしれません。

 響く女神ジェンマ様の声と共に、『祝福の金平糖』が再び輝き始めました。

 ──しかし、忘れないで下さい。ウィンクルムの『絆』、そして『愛』こそが、闇を払う唯一の力。

 眩く輝いた全ての『祝福の金平糖』が溶けるように消えると同時、神人達は己の身の内に、不思議な力が宿るのを感じていました。

 ──貴方達の絆を、愛の力を信じて下さい。

 女神の声は、それを最後に途切れたのでした。


 ※

 オーガの襲撃により、廃墟となった町の一角。
 あちこちに傷を残しながらも、その存在を残しているビルの中に、その一団は居ました。
「『怨嗟の金平糖』は、全て消えたか……忌々しいウィンクルム共め……何処までも邪魔しおって……!」
 頬に大きな傷を持つ大男が、苛立ちを隠せず持っている杖で床を叩きます。カッと鈍い音が響きました。
「申し訳ありません……」
 男の強い怒りを感じ取り、その前に跪いた数人の男達は深々と頭を下げました。
「まぁ良い……女神ジェンマの力を削ぐ事には失敗したが……『怨嗟の金平糖』は十分に役に立ってくれた」
 男は深く息を吐き出すと、傍らの黒い影を見つめます。
 男の隣には、深い闇が立っていました。
 禍々しく深い闇を見つめ、男はうっとりと瞳を細めます。
「『怨嗟の金平糖』のお陰で、オーガ様は新たな力を得た……新たなオーガ様のお姿、素晴らしい……」
 にたり。
 闇の中、不気味な影が微笑んだように男には見えました。
「そして──この強化した『邪眼のオーブ』があれば、次こそウィンクルム達を葬る事が出来る」
 男の手で、邪悪な光を宿した水晶が光ります。

 『邪眼のオーブ』とは、持つ者がデミオーガを服従させることが出来る球体です。
 嘗て、『ジャック・オー・パーク』にて、ギルティ『ヴェロニカ』がある実験を行いました。
 それは即ち──『オーガを思うままに操る』実験。
 特殊なジャックオーランタンの被り物を用いることで、オーガに『お菓子にして食べた人間の思考をコピーして、その人間の声で喋ることが出来る』力を与える等の効果が確認されました。
 男が持つ『邪眼のオーブ』は、その実験結果を元に強化され、オーガを操る力を持つに至ったのです。
「『邪眼のオーブ』でオーガ様を使役し、ウィンクルムを打ち倒すのだ……!」

 ──本当に、上手く行くと思ってる? 役立たず。

 耳朶を擽るように声が聞こえた気がして、男は瞬きしました。
「今、確かに──……」
 男の声はそこで途切れました。
 ひゅっと空気を裂くような音と共に、男の唇は地面に口付けていたから──。
「ひぃい!!」
「助けて……!!」
 悲鳴、そして切り裂く音。
 男達の断末魔の声が響いた後、ビルの中は静寂に包まれました。
 ニタリ。
 返り血を浴びた邪悪な影は、嗤いながらその場から消えます。
 後には、惨殺されたマントゥール教団の幹部とその部下、そして『邪眼のオーブ』が残されたのでした。


 ※

「結局、マントゥール教団も……あの下僕と同じく役立たずだったわね。所詮は人間……」
 ふわり、ふわり。
 舞い落ちる薄紅色の花びらの中、黒と血のような赤色を基調としたゴシックロリータなドレスに身を包んだ狼女が、遠くを見つめ気だるげに呟きました。
 脳裏を過ぎった、今はもう居ない部下の顔を即座に打ち消して、彼女は前を見据えます。
 彼女の前にあるのは、紅く彩られた大きな月。
 足元には、『ヨミツキ』という妖しくも美しい桜の花が咲き誇る城──『紅桜城』があります。
 妖しい紅の色に輝く月光の中、妖艶に、狼女の唇が弧を描きました。
「次の舞台の用意は整っているわよ、ウィンクルム。……愉しみね」
 狼女が両手を広げると同時、突風が吹いて、ヨミツキの木々が震えます。
 ヨミツキの花びらが舞う夜の世界に、ギルティ『ヴェロニカ』の愉悦に満ちた声が響いたのでした。


(プロローグ執筆:雪花菜 凛GM





ウィンクルム達が『祝福の金平糖』を奉納し、
女神ジェンマを脅威から護り抜いた為、全ての神人が新スキルを習得しました!

【コンフェイト・ドライブ】祝福の金平糖を奉納したことによって愛の女神ジェンマから授かったスキル。 どちらかがパートナーの頭をポンポン撫でることで発動する。 頭を撫でられた側の、攻撃、防御、命中、回避のステータスが4Rの間5ずつ上昇する。 発動中は強化される側が纏うトランスのオーラが一層強くなる。 略称:( CD / k2 )



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