プロローグ
ショコランドのブランチ山脈にほど近い、小さな村。その村の小人達からA.R.O.A.に手紙が届いた。ほのぼのとした丸い文字で綴られた内容は、ウィンクルムへのお誘いだ。
なんでも、春の到来を喜ぶ行事をするらしい。
冬から春へと移り変わるこの季節に、村はずれののどかな野原を散歩する。
そこで見つけた春の訪れを告げる花を木から少しわけてもらい、枝を手折る。
その花枝を紅茶や炭酸水に浸して飲む。春の到来を喜び、季節の巡りに感謝する、春飲みの行事だ。
村の近くに生えている木は、精巧な砂糖細工のような花をつける。
村の野原で見られる樹木は、桃、ミモザ、杏の三種類だ。
見た目は普通の植物そっくりだが、砂糖でできていてフルーツの味がするところがショコランドらしい。
桃の木。鮮やかなピンク色の花。ピーチの味。
ミモザの木。細やかな黄色い花。オレンジの味。
杏の木。薄いピンク色の花。アプリコットの味。
枝を手に入れたら、飲物のセットが用意されている村に戻ろう。
花を温かい飲物に入れれば、サッと溶けて甘い美味しさが広がる。
冷たい飲物ではすぐに溶けない分、花の形を目で楽しむことができる。
花はいずれ実を結ぶ。花の強さにあやかって、ドリンクを飲む前に目標や抱負を口にするのも縁起が良いこととされている。
また今年はフラーム神殿を中心に、祝福の金平糖がたくさん降り注いだ。村の野原にも、この不思議な金平糖が落ちている。
集めた祝福の金平糖は食べても良いし、食べきれない分は女神ジェンマを祀るフラーム神殿へ送れば喜ばれるだろう。
解説
・必須費用
交通費:1組300jr
春を告げる花の枝を探しながら野原を散策し、村へと持ち帰るという流れです。
砂糖の花も祝福の金平糖も、野原を少し探せばすぐに見つかります。
砂糖細工の花は、桃、ミモザ、杏の三種類。
花を入れる飲物は、ホットとアイス。
ホットの紅茶、ハーブティー、白湯。
アイスの紅茶、ハーブティー、炭酸水。
ドリンクは一人一杯までです。
・デートコーデの小ネタ
連合軍制服「青の旅団」
金時計「グローリア」
手袋「ロイヤル・レット」
手袋「ロイヤル・チェック」
エンシェントクラウン
など、バレンタイン地方での功績を示すアイテムをPCが装備していると、NPCから敬意を払われます。
直接的な利益は特にありません。
ゲームマスターより
山内ヤトです。
春の訪れを感じる花は、きっと住んでいる場所によって人それぞれですね。
春先に樹木に咲く花を三種類ピックアップさせていただきました。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
☆精霊と手を繋ぎながら探索 砂糖の花と金平糖探し、楽しみ♪ わあっ、見てエミリオ! 金平糖がこんなに沢山落ちてるよ! 自分達が食べる分と、せっかくだからフラーム神殿にお供えする分も拾っておこうっと♪ ☆ミモザの花をホットの紅茶で飲む 飲む前に目標や抱負を言うといいんだよね 『ずっと大切な人の隣に立ってその人を支えられるように、もっと強い女性になる』 その為にはウィンクルムの任務もパティシエの勉強も頑張らないとね! いただきますー え、いいの? それじゃあ、遠慮なくっ エミリオ…? 私を優しく見つめるエミリオの微笑みは今にも消えてしまいそうなくらい儚げで どうしたら私はこの人を繋ぎとめていられるのだろうと、 心の底から願った |
ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)
紅茶【杏:炭酸水】 女神ジェンマの為に一緒に金平糖探しを頑張りましょうか この時期はなんだか浮き足立ってきちゃいますね もうすぐで、私とディエゴさんの気持ちが一つになった時から一年が経とうとしてますから。 きっかけになったのは勿忘草 お互いの気持ちが通じあってからの初めてのデートは薔薇園 何かと、花と縁があるんですよね。 砂糖の花は杏を探そうと思います。 【飲む前の抱負】 料理を頑張る 前に私のサンドイッチを食べたときに誉めてくれたので、もっと家事を頑張って覚えようかなって 春先とはいえ まだアイスだと体が冷えますね… え、ディエゴさんのお茶飲んで良いんですか? では…半分ずつ飲みあいしましょう、この間のお礼です。 |
豊村 刹那(逆月)
散策するのにいい天気だ。(目を細める 有休もぎ取って正解だったな。 見つけた金平糖は、後で神殿にかな。 「見つけたか?」(逆月の視線を追う やっぱり、逆月は絵になるな。 自分で取れるけど、「どうした?」(受け取る (理由に顔を赤くし、溜息を飲み込む ああ、もう! 手が届く高さで花が咲いた枝を丁寧に折り、逆月に渡す。 「それなら、私からも逆月に」 だああ! 恥ずかしい!(内心悶える 村では炭酸水を選ぶ。(すぐ溶かしたくない気がした 「冷たいのでいいのか?」寒いの苦手だろ? (聞こえた言葉に吹き出しかけ 「な、何を」こんなに動揺してたらいつかバレそう。 「私だって、逆月に怪我させたくない」(小声で言って飲む 「……おいしい」(呟く |
菫 離々(蓮)
鮮やかな色を探して。 ああ、春、ありましたね。桃の木です。 ハチさんを振り向けば。 金平糖は多めにと言いましたが そんなに腕いっぱいに……こちらのランチボックスへどうぞ。 では低いところの一枝を。 村に戻りお茶を。 金平糖は招待して頂いた小人さん達へお裾分けです あとは神殿へ送りましょうか 飲み物は白湯を選択。 ハチさん、炭酸水は駄目です。ホットにしましょう。 冷たい物ですとなかなか溶けないでしょう? その間ハチさんの視線を花が独り占めなんて、 私、妬いてしまいます。……あら、冗談ではありませんよ? すぐに溶けた桃花を眺めてそっと口にするのは 『水の花』をいただきます 甘い春を飲み干して。 ええ本当に、冗談ではありませんから。 |
静華(ローレンツ)
のんびりと散策と金平糖集め もう春なのですね…早いものです 私、春が一番好きなんです 段々と色鮮やかになっていく雰囲気が特に ローレンツさんはどの季節が好きですか? どの花にしましょう… 手折るのですし自分が飲む分だけがいいですよね …そうでしょうか?えっと、それなら桃にしてみますね 一つ、頂きますねと手折る前に木に声を掛け アイス紅茶 甘い味を楽しんでみたい気持ちもあるのですが もう少しだけ花の形のまま見ていたくて …似合っていると言われるのがこんなに嬉しいものだなんて、知りませんでした 飲む前に目標や抱負… 口に出すのは恥ずかしいですが 小声で、ローレンツさんと… い、いえ、やっぱりなしです 恥ずかしくなりぐいっと |
●強さを願い
『ミサ・フルール』の手は『エミリオ・シュトルツ』の手の中で優しく握られている。
二人は仲良く手を繋ぎながら、ショコランドの野原を散策中だ。
「砂糖の花と金平糖探し、楽しみ♪」
そういったミサがパッと顔を輝かせる。【キャスケット帽】フェアリーウィスパーやプリマヴェーラエプロンドレスなど、ミサのコーデはとてもオシャレで季節に合っている。デートの雰囲気にぴったりだ。
「わあっ、見てエミリオ! 金平糖がこんなに沢山落ちてるよ!」
祝福の金平糖を見てはしゃぐミサは可憐で純粋で、エミリオの心を和ませた。
「ふふ、本当だ」
「自分達が食べる分と、せっかくだからフラーム神殿にお供えする分も拾っておこうっと♪」
エミリオが周囲の景色を見渡すと、春の訪れを告げる花が視界に入った。
「あ、ミモザの花が綺麗に咲いているね」
枝を手折る際に、エミリオは木に向かってささやく。
「ごめん、大切に味わって飲むから、俺達に分けてほしい」
二人分のミモザの小枝を手に入れると、二人は楽しげな足取りで村へと戻った。
ミサはホットの紅茶、エミリオは炭酸水を選ぶ。
もてなし役の小人は、ミサの金時計「グローリア」に気づいた。
「これは! ミサさまとエミリオさまは、ショコランドを救ってくれたウィンクルムなのですね!」
ペコリと丁寧にお辞儀をして、もてなし役は二人に花を溶かして飲むためのドリンクを恭しく手渡した。
「飲む前に目標や抱負を言うといいんだよね」
紅茶のカップを大切そうに手で包みながら、ミサは抱負を宣言する。
「ずっと大切な人の隣に立ってその人を支えられるように、もっと強い女性になる」
真っ直ぐな気持ちを言葉にする。これがミサの願いだ。
「その為にはウィンクルムの任務もパティシエの勉強も頑張らないとね! いただきますー」
目標を宣言して、いきいきとした表情を見せるミサ。
一方エミリオは、沈痛な面持ちで目を伏せている。彼女の抱負に心を打たれたが、エミリオはそれを素直には喜べない事情があった。
(いつか真実を告げた時、その笑顔が消えて、自分の存在を否定されるのを俺は何よりも恐れている)
ハッキリさせていない重要な真実がある。
ミサの笑顔や信頼がキラキラと光り輝けば輝くほど、エミリオの不安や恐れは深くなる。
(そんな絶望しか抱いていない男にどうして抱負が言えるだろう)
今のエミリオには、とても抱負が言える気分ではなかった。
自分は抱負を言わないのをごまかすように、ミサに話しかける。
「俺のも飲んでみる?」
エミリオがミサに自分のコップを差し出す。爽やかな炭酸水の中では、まだミモザの砂糖花がその形を美しくとどめていた。
「え、いいの? それじゃあ、遠慮なくっ」
ちょっと嬉しそうにコップを受け取るミサ。
エミリオはミサの笑顔を切ない気持ちで見つめていた。
(ミモザの花言葉は真実の愛。……愛は甘く優しいものばかりじゃない)
エミリオは自分の心臓の上に手を置いて、ぎゅっと握りしめた。服にくしゃっとシワが寄る。それは、彼の心に刻まれた痛みを表すかのようだった。
(こんなにも切なく、苦しいこともあるんだね)
苦しい思いを抱えながら、エミリオがふっと浮かべたその微笑みはとても儚げで。
(エミリオ……?)
ミサは、エミリオのその微笑みが気になった。
ミサを優しく見つめているエミリオが、なんだか今にも消えてしまいそうに思えてくる。
(……どうしたら私はこの人を繋ぎとめていられるのだろう)
ミサは一瞬、手元のミモザの花に視線を落とす。
(ずっと大切な人の隣に立ってその人を支えられるように……! 強い女性に……!)
改めて、強く、心の底から、ミサは願った。
●心の余裕
春の野原に二人で繰り出していく。
「女神ジェンマの為に一緒に金平糖探しを頑張りましょうか」
金平糖がないかと探しつつ『ハロルド』が言う。
『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』は、金平糖をたくさん集めようと意気込むハロルドを軽い調子でたしなめた。
「金平糖探しに張り切るのも良いが、張り切りすぎるなよ、今日は休みだ。のんびり行こう」
そう口に出した後で、ディエゴは自分自身の言葉にハッとした。
(まさか、こんなことを言えるようになるとは)
ディエゴはかつての自分を回想する。
(昔の自分だったらあり得ないだろう)
そんな風に自分が変わったのは、隣にいるハロルドの存在があったからだ。
その変化を好ましく感じる。
ディエゴの口元には穏やかな微笑みが浮かんでいた。
「この時期はなんだか浮き足立ってきちゃいますね」
軽快な足取りでハロルドはショコランドの野原を散策する。日差しはポカポカと温かい。近くには、砂糖の花をつけた杏の木が生えている。
ハロルドの機嫌が良いのは、うららかな陽気のせいだけではなかった。
ディエゴの方にくるりと振り向いて、蜂蜜色をした彼の瞳を見ながらハロルドはこう言った。
「もうすぐで、私とディエゴさんの気持ちが一つになった時から一年が経とうとしてますから」
今の二人は、互いの思いが通じあっている関係だ。
きっかけになったのは勿忘草。
お互いの気持ちが通じあってからの初めてのデートは薔薇園。
ハロルドはこれまでのディエゴとの思い出を振り返る。
「何かと、花と縁があるんですよね」
「花か……そういえば、そうだな」
ディエゴもこくりと頷く。
「……お前のおかげで四季を楽しむ余裕ができた。前は、休みはおろか季節の移り変わりすらどうでも良かったんだ、本当に」
心からゆったりとした気持ちで、ディエゴは春先の景色を見渡す。心地良い春風がさわさわとそよいで二人の頬をそっとなでていく。
それから、ディエゴはその視線をハロルドへと戻した。
「ありがとう」
杏の花枝を二人分手に入れた後、村に戻る。
ハロルドは炭酸水に入れて花を楽しみ、ディエゴは白湯に溶かして味を楽しむことにした。
「私の抱負は、料理を頑張る」
杏の炭酸水を一口飲んだ後、ハロルドはディエゴにこう言った。
「前に私のサンドイッチを食べたときに誉めてくれたので、もっと家事を頑張って覚えようかなって」
「エクレールの気持ちは嬉しいが……。それなら俺の抱負は……料理以外の家事を頑張る」
自分の抱負を言った後、ディエゴは花入りの白湯を飲んだ。
「家事は二人で分担した方が良い。お前だって依頼で大変なんだし、一人で抱え込む必要はない」
ディエゴはそう言ってくれた。
そのまましばらく二人で、ショコランドの砂糖の花入りのドリンクを飲んでいた。
「……」
ハロルドは一度グラスを置いて、さり気なく手先や腕をさすって温める。
春先とはいえ、アイスのドリンクにしたのは選択ミスだったかと内心悔やむ。だんだん体が寒くなってきた。
「春先とはいえまだアイスだと体が冷えますね……」
「炭酸水で体が冷えたか? 飲みさしだが、白湯飲むか? 温まるぞ」
すぐにディエゴが反応した。ハロルドがつぶやく前から、彼女が寒そうにしていることには気づいていた。段取りの良い彼は、相手のことを思いやって行動するのが上手い。
「え、ディエゴさんの分、飲んで良いんですか?」
ちょっと考えてから、ハロルドは炭酸水のコップを手渡した。
「では……半分ずつ飲みあいしましょう、この間のお礼です」
「わけあいか……そうだな、頂くとしようか」
ドリンクを交換して、ハロルドとディエゴはアプリコット味の春を飲んだ。
●邪気払い
「散策するのにいい天気だ」
『豊村 刹那』は温かな日差しに、眼鏡の奥の目を細めた。
「有休もぎ取って正解だったな」
『逆月』は刹那を見た。
凝り固まった体をほぐすように、刹那は両腕を軽く伸ばしている。
彼女の横顔には、少しだけ疲れの色が見て取れた。
(なかなか勤めの暇を得られぬのか。近頃、刹那は疲れが見える)
今日の休暇は、刹那にとって貴重なものであると逆月は理解する。
「あ、祝福の金平糖発見。見つけた金平糖は、後で神殿にかな」
なくさないようにマカロンコインケースに保管しておいた。若い女性に人気のアイテムという話だが、男兄弟に挟まれて育った刹那にはあまりピンとこなかった。
だが便利なのは確かである。
「刹那」
逆月に名を呼ばれた。
「見つけたか?」
刹那はそちらに視線を向ける。
刹那は一瞬息を呑む。
桃の木のそばに佇む、白蛇の特徴を宿したテイルス。神々しさすら感じさせるその光景は、まるで一枚の絵のようだった。
逆月は桃の木に咲いている花をしばし眺め、静かに一枝手折る。
「これを」
桃の花枝を刹那へと差し出す。
自分で取れるけど、と思いながらも刹那は素直に枝を受け取ることにした。
「どうした?」
と尋ねれば、逆月はこう答える。
「疲れの見える刹那が、邪気を受けぬように」
桃には邪気を払う力があると言い伝えられている。逆月が、刹那のことを心配し思いやっていることがわかった。
「っ!」
刹那は顔を朱に染め、溜息を飲み込んだ。
(ああ、もう!)
逆月の言葉や振る舞いに、胸の奥から熱くもどかしい感情が湧いてくる。
「……」
顔を赤くした刹那に対し、逆月の方も心の中で何か疼くものがあるのを感じていた。
どうにか平静な顔を取り繕ってから、刹那は手の届く高さで咲いている桃の花を探した。見つけた花枝を丁寧な手つきで折り、逆月に渡す。
「それなら、私からも逆月に」
「そうか」
逆月は刹那の手から、桃の小枝を受け取った。
(だああ! 恥ずかしい!)
本来クールな性格の刹那だが、内心悶える。
逆月の表情に目立った変化はない。感情がないのではなく、表情筋があまり働かないのだ。
それでも逆月のまとう雰囲気や気配が、ふっと和らいだのは確かだった。
(俺を気にかけるなど、やはり人が好い)
逆月は嬉しかった。
村に戻ると、村の小人が飲み物を用意して待っていた。
刹那の金時計「グローリア」に気づいて、小人達は深い驚きと尊敬の眼差しを向ける。
「その時計は、ショコランドを守って戦ってくれた方の証! 豊村さま、逆月さま、本当にありがとうございます」
村人からの歓待を受けながら、刹那は炭酸水のグラスを受け取る。持ち帰った桃の花をすぐ溶かしたくない気がしたから。
逆月が冷たい紅茶を選んだのは意外だった。寒いのは苦手なはずだ。
「冷たいのでいいのか?」
確認すればこんな返事。
「春を暫し愛でるのも好い」
刹那が渡した桃の一枝は、逆月の持つグラスの中でまだ咲いていた。春を飲むとは、風情がある。逆月はこの行事を気に入ったようだ。
「刹那が傷つかぬよう、努めよう」
抱負を述べ、逆月は紅茶を飲む。うっすらと桃の果実の甘さ。花が完全に溶けきった頃には、さぞかし甘いだろう。
その横では、逆月の言葉に動揺した刹那が吹き出しかけている。
「な、何を」
想いを告げるつもりはないのに。こんなことではいつか逆月への気持ちがバレてしまいそうだ。
「本心だが」
逆月はただ不思議そうに刹那を見る。
「私だって、逆月に怪我させたくない」
小声で言って、桃味の炭酸水を飲む。
「……おいしい」
邪気を受けぬようにと、逆月が手折ってくれた桃の枝。
なんとなく刹那は疲れが癒えていくのを感じた。
●金平糖の祝福
『静華』は野原をのんびりと散策しながら、あちこちに散らばった祝福の金平糖を集めていた。
『ローレンツ』は、静華の歩くペースに合わせて歩調をゆるめる。
「この金平糖を集めてフラーム神殿に送ると、喜ばれるみたいだね」
送り先があるなら、とローレンツもこまめに金平糖を拾う。神殿に送れば人助けにもなるだろう。
「もう春なのですね……早いものです」
そよ風が静華の水色のロングヘアーを優しく揺らす。水色の髪がなびくありさまは、春の小川を連想させた。
「私、春が一番好きなんです。段々と色鮮やかになっていく雰囲気が特に」
ローレンツの口元に小さな笑みが浮かぶ。季節に対しての静華の瑞々しい感性が、ローレンツには微笑ましく感じられた。
「ローレンツさんはどの季節が好きですか?」
「そうだね……」
ローレンツは少し考えている。どの季節が一番か、決めかねているようだ。
「今現在の季節が、僕の好きな季節……なんて答えは狡いかな? 正直、どの季節にもいい所があるから絞れないんだよ」
そんな風にローレンツは返した。
相槌を打った後で、そういえば、と静華は思案げにつぶやく。
「どの花にしましょう……。手折るのですし自分が飲む分だけがいいですよね」
春飲みの行事で飲み物に入れる花をどれにするかで、静華は悩む。
ローレンツは、静華の頭の髪飾りが桃の花だと気づく。
「その髪飾りは桃だろう? なら、桃の花が良いと思う。髪飾り、とてもよく似あっているし」
「……そうでしょうか?」
「ああ。味も確かめてみたらどうかな」
「えっと、それなら桃にしてみますね」
野原で桃の木を見つけた静華は、手折る前に木に声をかける。
「一つ、頂きますね」
味が気になるという理由で、ローレンツはショコランド産のミモザの花にした。
村まで戻った二人。
味を楽しみたいローレンツは、迷わずホットの白湯を選んだ。
「健康に気をつけて過ごす」
医者という職業柄、健康に関する簡潔な目標を口にした。
「うん、美味しい」
オレンジ味の程良い甘さが、ローレンツの好みにとても合っている。
ふと、ローレンツが静華の方を見ると、彼女はアイスの紅茶のグラスを手にしていた。
「アイスティーにしたんだ?」
「はい。甘い味を楽しんでみたい気持ちもあるのですが、もう少しだけ花の形のまま見ていたくて」
静華は心ときめかせた様子で、小声でこう付け足した。
「……似合っていると言われるのがこんなに嬉しいものだなんて、知りませんでした」
まさに静華は恋する乙女。
大人なローレンツは、懐かしむような微笑ましい思いでそんな静華を見ていた。
「あ、飲む前に目標や抱負……」
口に出すのは恥ずかしいが、小声でそっと口にしてみる。
「ローレンツさんと……」
そこまで言って、静華の唇の動きが止まる。
しばらくアイスティーの中の桃の花を見つめた後で、静華はふるふると首を横に振った。
「い、いえ、やっぱりなしです」
恥ずかしさをごまかすように、ぐいっと冷たい紅茶を飲み干した。かすかなピーチの味と香りが、口の中に広がる。
集めた金平糖がたくさんあったので、静華とローレンツは分け合って食べた。砂糖の花とは、また違った味と食感がして、後を引く幸せな美味しさだ。
祝福の金平糖に宿っている女神ジェンマの加護なのか、こうして一緒に金平糖を食べているとお互いの心がちょっとずつ近づいていくような気がする。
二人でオヤツに食べても、集めた祝福の金平糖はけっこう余っていた。
「夢中になって集めすぎたかな」
少し苦笑を浮かべるローレンツ。
「寄贈先があってよかったよ」
「そうですね」
静華とローレンツは、和やかに笑い合った。
●抱負の真意
春の足音が聞こえてきそうなショコランドの野原で、鮮やかな色を探す『菫 離々』。
『蓮』も道中ちょくちょく祝福の金平糖を拾い集める。
「ああ、春、ありましたね。桃の木です」
桃の花を見つけた離々が振り向けば、そこには腕いっぱいに金平糖を抱えた蓮の姿が。
「金平糖は多めにと言いましたがそんなに腕いっぱいに……こちらのランチボックスへどうぞ」
離々は持ってきていたランチボックスの蓋を開ける。月世界ルーメンのうさぎが編んで作った、バスケットタイプのランチボックスだ。
「すいません、お嬢」
抱え込んでいた金平糖をバスケットへ入れる。手が自由になったところで、蓮は改めて桃の木を見る。
「もうすぐ雛祭りですね」
「ええ。この木の枝を持ち帰るとしましょう」
「! お待ちください」
枝に手を伸ばしかけた離々を蓮が慌てて引き止める。
「手折るのは俺の仕事です。お好みの枝振りはどちらで?」
「では低いところの一枝を……」
蓮は頷くと、桃の木に片合掌で拝み、行事に使う枝をわけてもらう。
離々は蓮から桃の枝を受け取り、楽しげに野原を往く。もう片方の手には金平糖のつまったランチボックス。離々の三つ編みが軽やかに揺れている。髪飾りには、ホイップヘアピン。
今の離々の姿は、まるで絵本から飛び出してきたかのようで。
「……俺の場違い感MAX」
蓮がボソッとつぶやいた。
離々の金時計「グローリア」はショコランドを守るために戦った証。小人達がワイワイと取り囲んでお礼を言う。
離々は小人達に集めた金平糖をお裾分け。それでも余った分はフラーム神殿へ送ることにした。
「菫さまと蓮さまをこの村にご招待できて光栄です! 金平糖までいただいちゃって嬉しいですー」
花を入れる飲み物に、離々は白湯を選んだ。
「飲み物は炭さ……」
「ハチさん、炭酸水は駄目です。ホットにしましょう」
「……ではなくハーブティー、ホットで?」
なぜ止められたのか疑問に思いながらも、蓮は離々の言う通りに注文を変えた。たいていのものは美味しく感じるので、別にこの変更にも不満はない。
「お嬢どうしました? 水の中の花を観賞ってのも乙かと思ったんですが」
炭酸水の代わりにハーブティーの入ったカップを手にして、蓮が尋ねる。
「冷たい物ですとなかなか溶けないでしょう?」
離々は特に隠すこともなく、いつもと変わらぬ泰然とした表情でそのわけを蓮に話す。
「その間ハチさんの視線を花が独り占めなんて、私、妬いてしまいます」
「成程妬いちゃ……んん?」
言葉の意味を理解し、蓮が驚きで目を見開く。
「し、心臓に悪い冗談はやめてください」
蓮は動転して、視線を泳がせる。
気持ちを落ち着けるために、蓮は手元のハーブティーを一気に飲み干した。
「あ、目標とか言い忘れました」
「……あら、冗談ではありませんよ?」
蓮が慌てる様子を離々はじっと眺めていた。
離々が白湯の中へと桃の小枝を入れれば、砂糖細工の花はすぐに溶けていく。
ピーチの香りがふわりと辺りに漂う。
一気に飲んだので自分の分ではあまり堪能することができなかったが、なかなかに良い匂いだと蓮は感じる。蓮は慌てて抱負を言えなかった。離々ならなんと言うのか、気になった。
すぐに溶けていった桃花。離々がそっと口にするのは。
「『水の花』をいただきます」
水の花という部分に特別な思いを乗せて。
甘い春をこくっと飲み干していく。
「……水というよりお湯ですけどね?」
水の花。蓮は離々が口にした言葉の意味に、気づいているのかいないのやら。
「ええ本当に、冗談ではありませんから」
離々はただミステリアスに笑うのだ。
水の花は、蓮の花をさす異称である。
依頼結果:成功
MVP:
名前:菫 離々 呼び名:お嬢、お嬢さん |
名前:蓮 呼び名:ハチさん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 山内ヤト |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 02月16日 |
出発日 | 02月21日 00:00 |
予定納品日 | 03月02日 |
参加者
会議室
-
2016/02/20-21:20
蓮:
お邪魔します。スミレ・リリ嬢と、俺はハチスと申します。
よろしくお願いします。
桃の花と、炭酸……を選ぼうとしたらなぜかお嬢からストップ掛かったんで
ハーブティーを愉しみつつ、春の訪れの祝いを。
自分に大変似合わない組み合わせなのは自覚ありますハイ。
皆さんもどうぞ素敵な春を味わってくださいね。 -
2016/02/20-13:16
こんにちは、静華と申します。
春ももうすぐそこなのですね…、早いものです。
では、どうぞよろしくお願いします。
-
2016/02/20-01:30
-
2016/02/20-01:30
こんばんは、ミサ・フルールです。
春らしい、素敵な企画だよね。
色々悩んだのだけれど、私達はミモザの花を探そうかなって思ってるよ。
素敵な時間になりますように! -
2016/02/19-22:02
豊村刹那だ。よろしく頼む。
春の花を探して散策か。
のんびりできそうだな。
花も悩むけど、飲み物との組み合わせを考えるのも楽しそうだ。