【祝祭】Never_Say_Never(東雲柚葉 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 フラーム神殿で開催されたコンサートイベント。
 蒼いスポットライトをその身に受けながら、華麗に歌う少女の姿があった。
 黒い長髪を揺らして笑顔を忘れることなく観客に自分の精一杯を、すべてを届ける。振り返ることなく前を向き、その笑顔を太陽のように観客に降り注ぐ。
 次第に観客からは、蒼い色をしたペンライトが用意され、フラーム神殿の周囲は蒼い光で包まれた。
 そして、少女の歌がサビへと入った瞬間、彼女のイメージカラーである蒼色をした『祝福の金平糖』が雨のように降り注いだ。
 観客達から笑顔が零れ、歓声が沸き立つ。
 少女はその様子を笑顔で見据えながら――、歌を歌い切った。

*               *                *

「正直、緊張したよ」
 少女はフラーム神殿の控え室で、彼女をプロデュースする男性に手渡されたドリンクを飲み「ふぅ」と緊張を解していた。
「神様が居るところでライブなんて、緊張したけど……」
 半分ほどまで飲んだドリンクを椅子に置き、もう一度少女は立ち上がった。
 彼女だけが作り出せる、とび切りの笑顔で。
「私が笑顔に出来る人達が居るのなら、どこでだろうと歌うよ」
 男性も笑顔を浮かべて微笑み、少女を見送る。
 すると、すぐそこに楽屋に迷い込んだと思われる神人の姿が合った。
 ルックスも申し分ないが、何よりこの娘の笑顔を見てみたい。そう思った男性は、ひとつ自分の胸ポケットから名刺を取り出して神人に手渡す。
「一日だけでも構いません。……アイドルに興味はありませんか?」
 神人はたじろぎながら、名刺と男性を交互に見る。すると、
「ふ~ん。この娘かわいいしさ、盛り上がると思うよ」
 少女がそう言い、神人に促す。
「確かに大変だけど、自分の想いを人に届けるって、すごく楽しいことだと思う。……私もまだよく分からないけど、きっと楽しいと思うよ」
 少女のその一言と、艶やかな笑顔に見惚れて、神人は首肯。
「……それから、ウィンクルムということでしたら、精霊の方にプロデュースをお願いさせていただいてもよろしいでしょうか。その方が、きっといいと思いますので」
 少女のプロデューサーの言葉に、神人はやや黙考し、頷く。すると、遅れてやってきた精霊が慌てて神人を連れ出そうと楽屋に飛び込んできた。
「へぇ、あんたがこの娘のパートナー? まぁ、悪くないんじゃない?」
 ずいっと顔を覗かせて精霊を一瞥する少女に、精霊はやや虚を突かれつつも、よくわからない突然の言葉に問い返す。
 神人は、これまでの顛末を話し、一日アイドルをすること、そして精霊が一日プロデューサーになることを告げたのだった。

解説

・フラーム神殿で、ナイターコンサートをするエピソードです。

・神人が歌を歌い、精霊が神人のプロデュースをします。フラーム神殿に特設されたステージで歌う神人の為に、精霊が振り付けや演出、衣装等を決めてライブへ望みます。

・歌詞は、神人と蒼い少女が一緒に考えたものです。(一緒にしなくてもしてもかまいません)

・感謝の気持ちや、その他諸々……何かを届けたい想いを歌に!

・歌詞や身振り、イメージソングなどがあれば、可能な限り反映させていただきます。

・観客の沸き立ち方なども指定できますので、どうぞご指定下さい!

・ペンライトを買ったので、300jr頂戴します。


ゲームマスターより

『あんたがこのプロローグを書いたゲームマスター? まぁ悪くはないんじゃない?』

今回はフラーム神殿でライブをするエピソードですね。
大切なのは、笑顔です! 頑張っていきましょう!

※一部リスペクトネタがプロローグ等に入っていますが、リザルトノベルに関しましては、
 キチンと皆様のプランに沿った内容で描写させていただきますので、ご安心下さい。

東雲柚葉、頑張ります!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

夢路 希望(スノー・ラビット)

  歌詞はスノーくんへの想いを交えた、恋に気付いた女の子がテーマのラブソング
好きな人へ想いを言葉にして伝えたいと思いたくなる歌にしたい

準備は真剣
歌もダンスも素人、本番に影響が出ないギリギリまで練習
(可能なら女の子にボイトレ打診

順番近付くにつれ緊張
おまじないには赤面
こ、こんなことされたら余計にっ…あ、れ?
不思議と震え治まり
笑顔に励まされ、ステージへ

心を込めて歌います<メンタルヘルス


優しい笑顔 高鳴る鼓動
触れた部分が 熱を持つ

…もっともっと
触れてほしいの 傍にいたいの
いつの間にか欲張りになってる

やっと気付いた恋心
ぎゅっと手を握り締めて 大きく深呼吸
勇気出して 言葉にしよう
「あなたが好きです」


リヴィエラ(ロジェ)
  スキル『歌唱Lv5』『ダンスLv2』

リヴィエラ:

(苦言を呈するロジェに)
それでも私、歌い手になりたいのです!
歌で気持ちを伝える事の素晴らしさを知ってしまったから…
それにロジェも、この前のライブで『立派だった』と
褒めてくださったじゃありませんか(にっこり)

(ステージ上で振付を交えながら歌う。
観客に笑顔を振りまき、『守られるだけの私じゃなく、私も守りたい』と)

(控室でロジェに問われ)
歌詞の意味、ですか?
ええと…(頬を染めて)私、貴方に出会う事が出来たから変われたんです。
ロジェのお陰で、未来を見つける事ができた…貴方は、私にとっての光だから…
だから私も守りたいのです。貴方を…


クロス(オルクス)
  ☆歌唱スキル

☆コンセプト
・男装アイドル

☆衣装
・黒のダメージ風ロンTに片腕通さない桜柄着流し和装、ダメージジーパン、黒ブーツ

☆歌詞
『言葉にできない想いを心で叫ぶ。全身で君が好きだよ。君の心に届く魔法がここにあればいいのに。
でも最近自分の心が分からない。私は貴方が好きだと思っていた。
だけど昔馴染みの人から好きと言われ…。
私の心は二人の狭間で揺れ動く…。いつかは決めなくちゃ、この想い…。』

☆心情
「はっ!?んな年じゃねぇぞ!?
でもまぁ、やってみるか…」

☆終了後
「オルク…
今日の歌詞さ、今の俺の気持ちなんだ…
なぁオルク、一旦距離を置こう
こんな気持ちじゃ傍にいれない
だから、別れてくれ…
御免、有難う(泣笑」


ミサ・フルール(エリオス・シュトルツ)
  お願いします、どうしても彼(エミリオ)に伝えたいことがあって
他に頼める精霊さんは貴方しかいないから

曲のジャンル:バラード

大切な人を思い浮かべて聞いてくれると嬉しいです
では聞いてください

『想いよ届け』

今貴方はどこにいますか
心から笑えていますか?
誰も傷付かないようにって
痛みを隠し貴方は微笑む(わらう)から
どうかその悲しみを私にも分けてほしいの
ああ、この胸に抱く想いのすべて
貴方に届けられたらいいのに
想いよ、貴方に届け
私はいつまでも歌い続けます
貴方は1人じゃないよって(優しい笑顔)

☆終了
歌い終わったらお辞儀
聞いてくださったお客様に感謝
あ、ありがとうございます(精霊に誉められ驚きながらも素直に喜び微笑)


風架(テレンス)
  チャイニーズレッドのショートカクテルドレス
思わず頷いたけど…探偵がアイドルってあり?
一日だけなんだし名前…いらないでしょ
あのさテレンス、衣装に力入れすぎ。似合わなかったらどうすんの
スケッチブックに並んだ文字に少なくとも自信はついた
分かった頑張るって
J-POP/優しげな印象の歌詞
この手から 落ちる
一握りの砂
ずっと見ていた 大きな背中
気が付けば 消えていた

あたしにしては完璧に笑えてた、と思うんだけど
しないから転職とか
歌詞は父さんを思い浮かべて、ね。…宣言みたいなもの?


☆風架 テレンス ペア☆

 風架が着替えている間、テレンスは裏方でライブをするためのプロデューサー活動を進めていた。筆談のみで会話をするテレンスにとって、スタッフとの距離感を掴むのは難しいと思われたが、どうも風架に声をかけたプロデューサーが言葉足らずな部分があるようで、テレンスの意図は筆談でもしっかりとスタッフに伝わったようだ。
 一方、風架はというと、メイクさんにメイクをしてもらい、ドレスアップをしていた。
(思わず頷いたけど……探偵がアイドルってあり?)
 あまり人前に顔を出してしまうと、経歴を洗われやすくなってしまったりするかもしれないので、良いものとは言えないかもしれないが、アイドル的には『探偵』という肩書きを持ったおいしい人間はそうそう居ないので、良いキャラ付けになるのかもしれない。
 そんなことを考えていると、メイクさんにドレスアップが完了したとの報告を受け、一度ライブについての話をするためにテレンスの元へ向かった。
 舞台裏を歩いていると、テレンスの姿はすぐに見つかり、風架は何気ない調子でテレンスに声をかける。
 テレンスは声をかけられて振り返り、風架のチャイニーズレッドのショートカクテルドレスをざっと足元から見て(視線が読めないので断定は出来ないが)ひとつ頷き、スケッチブックを取り出してなにやら書き始めた。
『名前を決めたらよいのでは。KAZAKAと』
「一日だけなんだし名前……いらないでしょ」
 っていうか、何そのネーミングセンス。と、溜息を漏らすように呟き、風架は髪をくるくると弄りながらもう一度テレンスに、
「あのさテレンス、衣装に力入れすぎ。似合わなかったらどうすんの」
 色白な風架の肩と細い腕、脚がすらっと覗くやや露出の多い服で、色合いもかなり人を選ぶような色だ。
 テレンスが選んだ服だからという理由で着てはいるが、正直恥ずかしくてこのまま人前に出るのは憚られる。
 そんな風架の言葉と挙動を確認し、テレンスはさらさらとスケッチブックに文字を書く。
『風架に似合うという確信があった為、それを選んだ』
 並んだ文字を見て、風架がフードで見えないテレンスの目を見据える。
 テレンスは、視線を受けて、もう一度ぱっとスケッチブックに文字を書き足し、風架に見せた。
『それに、風架の父親も見ていてくれるかもしれぬ』
 その文字を見て、風架はふと笑みを溢し、その瞳に凛とした気配を入れ込んだ。
(まだ恥ずかしいけど、でも、スケッチブックに並んだ文字に少なくとも自信はついた)
 ぐっと拳を握り締め、風架は強く微笑んで長いその髪をひらりと翻す。神様に祈りが届くなら、天に居るであろう父にだって自分の歌声は届く筈だから。
 何かをスケッチブックに書き始めたテレンスに、風架は人差し指を自分の口に当てて、
「うん、分かった頑張るって」
 ぶっきらぼうな言葉ではあったが、その言葉には揺らぎはない。テレンスはスケッチブックに続きを書くのをやめて、ステージへ立つ風架の背中を見送った。

 ステージに風架が立つと、想像以上の観客の姿が広がっていた。
 一瞬気後れしそうになったが、それでも、風架は強い意思のままマイクスタンドに手をかける。
 ステージ外に居たテレンスがスタッフに指示を出し、曲を進行させる。ポップな雰囲気の曲調に、イントロから観客は大きく盛り上がりを見せた。
 テレンスがタイミングをはかり、赤橙色のスポットライトを風架に。
 風架が息を吸い――、会場に歌声を届けた。
「この手から落ちる 一握りの砂」
 ポップな雰囲気の曲調に、風架の優しげな印象を与える歌詞が届けられた。
 赤橙色のスポットライトに合わせるようにして、観客たちはその色と合わせるようにして赤橙色のペンライトをリズムに合わせて振る。
 瞬く間に広がった会場の笑顔に、テレンスはスポットライトを調整しつつ静かに頷いた。
 会場が波打つように暖かな光が左右に移動し、風架が一度目を閉じもう一度会場をその双眸で見渡す。
「ずっと見ていた 大きな背中」
 水でもすくうかのように、風架がマイクスタンドの前で両の掌を差し出した。
 そして、すくった水を流すかのようにくっつけていた両の掌を離す。
「気が付けば 消えていた」
 悲壮溢れるような雰囲気を漂わせる振り付けとフレーズに、観客達が僅かばかりペンライトを振る動きを遅くさせた。
 しかし、風架は一度下に向けていた視線をばっ、と上に向けてスポットライトの光で薄明るく照らされた夜空を見据える。
「後ろを向かず進むよ だけどずっと見守ってて」
 強い決心のある瞳で前を向き、右手をゆっくりと前に掲げて最後のフレーズを歌いきる。
「いつか辿り着く 瞬間まで――」
 チャイニーズレッドのショートカクテルドレスとテレンスの照らす赤橙色のスポットライト、そして観客達の彩るペンライトが会場をキラキラと輝かせた。
 最高潮の盛り上がりを見せた瞬間、スポットライトの色と同じ赤橙色の『祝福の金平糖』がフラーム神殿から降り注ぎ、祝福が届けられる。
そして、最後のフレーズを歌いきった風架の表情は、それらの装飾すべてを凌駕するほどの素敵な、とびっきりの――笑顔だった。

 風架がステージから控え室に戻ると、テレンスがすっと水を手渡す。
 手渡された水を受け取り、風架がふとテレンスに問う。
「あたしにしては完璧に笑えてた、と思うんだけど」
 ――どうだったかな。続く言葉を飲み込んで、テレンスを見据える。
 テレンスはスケッチブックに文字を書き込み、風架に見せた。
『完璧だ。会場中が笑顔だった』
 世辞でも飾り付けた言葉でもないその一言に、風架は「そっか」とやや照れくさそうに微笑む。テレンスは、もう一度スケッチブックに文字を書き込み、
『探偵からアイドルに転職というのは』
 書かれていた文字を見て、ジトっとした視線をテレンスに向ける。
「しないから転職とか」
『すまないこれは冗談』
 スケッチブックをめくると、既にその文字が用意されていたことから始めから冗談だったようだが、表情が読めないので冗談なのか本気なのかわかりにくい。
 風架は一口水を含んで、ふと呟く。
「歌詞は父さんを思い浮かべて、ね。……宣言みたいなもの?」
 遠い目をして話してはいるが、その目に迷いは感じられない。
『なるほど、父親を』
 うん、と短く答え、風架は続く言葉を水と共に飲み込んだ。
 けれど、テレンスはその言葉を言わずとも感じ取り、スケッチブックに文字を書き込む。
『伝わっただろう。風架の父親に風架の思いが』
 風架は少しだけ驚いたように目を剥いたあと、すぐにふと微笑んで、
「うん」
 と、短く呟いた。






☆クロス オルクス ペア☆

 ワアアアアア、という大歓声がクロスとオルクスの控えている控え室まで届けられる。
 一日プロデューサーとしての責務を受けてオルクスはクロスの衣装やステージの盛り上げ方などを考え込んでいた。
 蒼い雰囲気の少女のプロデューサーにプロデュース業を一任され、クロスが一日アイドルをすることになった時、それはもう驚いたものだ。

「はぁ!? クーがアイドル!?」
「はい、一日だけでも彼女にアイドル業をしていただき、貴方にプロデューサーもしていただきたいと考えています」
 真摯な男性のお願いもさることながら、クロスも最初こそ「はっ!?んな年じゃねぇぞ!?」と、恥ずかしそうにしてはいたが、先行して歌った蒼い少女の姿を見て。
「でもまぁ、やってみるか……」
と、やる気を見せているようで、断るわけにはいかない雰囲気だ。
(オレのクーを男共に晒すのは些かムカつくが……任務だと割り切ろう……)
 沸き立つ葛藤が、『任務』ということでひとつ収まりがつき、決める。
「仕方ないプロデュースしよう!!」

 蒼い少女のプロデューサーはそのオルクスの可能性を見出してはいたようだが、それでもオルクスの仕事をこなすスピードは目を見張るものがあった。
 なんと、オルクスは1時間ほどで企画を立ち上げて、企画書を書き上げてしまったのだ。
「すごいな、オルク」
 簡単な発声レッスンを受けていたクロスが、オルクスの元へ歩み寄って企画書を手に取る。
「見ず知らずの人間をプロデュースするならともかく、今回のプロデュースはクーだからな!」
 自信ありげに笑うオルクスに、クロスもつられて笑みを溢した。
 そして、企画書を一読。書面に視線を落とすクロスに補足情報を追加するように、オルクスが説明をする。
「コンセプトは『男装アイドル』だ。衣装は男モンでカジュアルパンク系だけど、どこか和テイストも入ってるって感じだな」
 なるほど、と相槌を打ちながらクロスは書かれている内容の一つに目を丸くする。
「振り付けはバラード系のイメージの為、落ち着いた動きって、さっき俺が練習してたのと同じ……」
 クロスの問いに、オルクスはニッと笑みを浮かべて、
「さっきトレーナーさんにそういう風にレッスンできないか確認しておいたんだ。開演までそう時間がないからな、時間短縮は基本だ」
 そこまで見越してレッスンの方向性を決めるというのは、並みのプロデューサーでは難しいことだろう。それを、オルクスはやってのけた。
 備品欄を見れば、マイクスタンドも用意されることになっており、ステージの準備も順調に進んでいるようだ。
「ま、裏方の準備は任せとけっ! クーは、感情を込めて表現とかは自由に、人の心に響くように歌ってくれ。大丈夫、クーなら出来る」
 微笑みながら、それでいて屈託の無い笑みでオルクスはクロスにそう言い放った。
 クロスは、その微笑を見やりふと笑みを溢し、
「ああ、任せてくれ!」
 と、メイクさんと共に舞台裏へと走っていった。

「さて……」
 一通りの準備が完了し、オルクスはひと息ついて会場の様子をざっと眺めた。
 会場はボルテージが高まり絶好の状態。みな、続くライブを楽しみにしている表情だ。
 これだけ会場が暖まっているのならば、カジュアルパンク系の曲調はさぞかし盛り上がることだろう。
 オルクスは、ステージで指示を待つスタッフに合図をし、ライブの進行を伝える。
 瞬間、ステージの真横から煙がステージに吹き込み舞台を覆う。観客達がなんだなんだとどよめいていると、煙を切り裂くようにして一人の女性が姿を現した。
「言葉にできない想いを心で叫ぶ――」
 それは、黒のダメージ風ロングTシャツの上に、片腕を通さず桜柄の着流し和装を着たクロスだった。煙が晴れると、下半身のダメージジーパンと黒ブーツが姿を現し、そのパンクな雰囲気に観客達のどよめきは歓声に変わる。
「全身で君が好きだよ」
 両手を広げて躍動感を与えるパフォーマンスを披露するクロス。
「君の心に届く魔法がここにあればいいのに」
 マイクに向かって全身全霊で自分の想いを叫ぶクロスに、観客達の合いの手が混じりライブ会場に一体感が生まれる。
「でも最近自分の心が分からない」
 困ったような表情を見せながらも、舞台劇のように全身を使って自分の考えを感情を表現する姿は、圧巻の一言だ。
「私は貴方が好きだと思っていた。だけど昔馴染みの人から好きと言われ……」
 スポットライトの光で出来たクロスの影がゆらゆらと揺れる。
「私の心は二人の狭間で揺れ動く……。いつかは決めなくちゃ、この想い……」
 最後のワンフレーズを歌いきり、会場がクロスの歌に感謝を表すかのように大きく波打った。
 クロスは観客達に礼を述べ、ゆっくりと惜しまれつつ舞台を後にする。

 オルクスが微笑みを浮かべて舞台裏へ歩いてくるクロスを迎え入れる。
「クーとても良かったぞ」
 大成功と言って差し支えのない内容だったにも関わらず、クロスの表情はなぜか曇っている。
 クロスは、俯きながらぽつりと呟いた。
「オルク……今日の歌詞さ、今の俺の気持ちなんだ……」
 聞いて、オルクスはふと思い至る。
「あぁ、遂に告白したか」
ディオスが、クロスに思いを告げたのだろう。オルクスが合点のいったように頷くと、クロスは振り絞るかのような声でもう一度呟いた。
「なぁオルク、一旦距離を置こう」
 その言葉に、オルクスは一瞬何のことか理解が及ばなかった。
 理解の追いついていないオルクスに追い討ちをかけるかのように、クロスは続ける。
「こんな気持ちじゃ傍にいれない。だから」
 続く言葉は、聞いてはいけない気がした。
 観客の歓声が、舞台の騒音が、すべてが静寂に支配されたように感じられる。
 オルクスは、ただその場に立ち尽くすことしか出来ずに、クロスの口がもう一度開くのを待つ。
「――だから、別れてくれ……」
「っ別れる……?」
 ほとんど反射のように口から言葉が漏れ、オルクスの手から書類が滑り落ちる。
 ようやく言葉の意味を理解し、オルクスは床に落ちた書類を掴みクロスに向き直った。
「……分かった、クーがそうしたいのなら」
 その表情に迷いは無く、オルクスは真剣な表情で続ける。
「だがオレは、クーが奴が好きだとしても愛する気持ちは変わらない」
 言い放ち、オルクスはニッと微笑んで、
「又振り向かせてやるさ」
 オルクスの言葉を聞いて、クロスは溜め込んでいたものが決壊したかのように頬に涙を溢しながら、微笑む。
「御免、有難う」
 けれど、泣いているクロスを見てオルクスは抱きしめることも出来なかった。
 別れの言葉がショックなのもあったが――、
 今はもう、自分はクロスの恋人ではないのだから。
 ――観客達の歓声が、何故か遥か遠くで聞こえたような気がした。






☆リヴィエラ ロジェ ペア☆

 観客達の大歓声が響く中、ロジェは控え室の椅子に腰をかけていた。渋面を浮かべて座るロジェは、歓声からどの程度の人間が今近くに存在しているのかを考えてさらに顔を顰める。
 蒼い少女のステージを見たリヴィエラは、その少女のプロデューサーに一日アイドルをやらないかと誘われ承諾してしまったのだ。
 気がつけばロジェが一日プロデューサーとなる手筈も整っており、スタッフがあっちに行ったりこっちに行ったりと忙しなく準備を進めている。
 けれど、準備を進めて貰っている身で申し訳ないが、ロジェはリヴィエラをステージに立たせる気はない。ここでステージを後にすれば、ウィンクルムの評判が落ちてしまう原因にもなってしまうかもしれないが関係ない。これは、命に関わることだ。
「この、バカ! この前のライブで懲りただろう、大勢の人間の前に立つ事がどれだけ危険か……!」
 大勢の人間の目に触れるということは、それだけリヴィエラの居場所を多くの人間に晒す事になるということ。追っ手から逃げている身の上では絶対に避けたい事柄の一つだ。しかも、リヴィエラは一度万を超える人間の前で歌を歌ったことがあるのだから、観客の中にリヴィエラを狙う人間が紛れ込んでいても居ても不思議ではない。
 しかし、リヴィエラはロジェの苦言の意図も心配もすべて分かった上で、自分の中で湧き上がる感情を隠すことが出来なかった。
「それでも私、歌手になりたいのです!」
 控え室いっぱいに響き渡るような、強い意志を孕む言葉がリヴィエラから放たれる。
「歌で気持ちを伝える事の素晴らしさを知ってしまったから……」
 リヴィエラは二万人の観客の前で歌ったあの感覚を思い出しながら、真剣な表情から相好を崩して、にっこりとロジェを見据える。
「それにロジェも、この前のライブで『立派だった』と褒めてくださったじゃありませんか」
「っ……」
 確かに、あの時のリヴィエラのステージは瞼の裏に焼きついている。今もふと目を閉じれば思い起こすことが出来るだろう。
 ロジェは、渋面をさらに深くして数十秒悩みに悩んで「はぁ」と息をつく。
「……それなら君には青が似合う」
 渋々といった調子だが、承認を思わせる発言に、リヴィエラはぱあぁっと表情を明るくさせて続く言葉を待った。
 ロジェは、視線を合わせることなくそっぽを向いて、
「それから……あまり観客に微笑みかけるなよ」
 アイドルが観客に微笑みを向けるのはほとんど義務のようなもので、仕方の無いことだとはわかってはいるのだが、ロジェの口から気がつけばそんな言葉が零れ落ちていた。
 リヴィエラは、ロジェのその言葉を受けて満面の笑みを形作り、
「はいっ!」
 と一言答えた。

 それからのステージの準備は滞りなく進んだ。
 ロジェの作業進行スピードもさることながら、スタッフが事前に最低限の準備を進めていてくれたことが良かったのだろう。
 リヴィエラはステージ衣装を身に纏い、大観客の前に姿を現す。
 観客は青をイメージしたリヴィエラのステージ衣装やスポットライト、ステージ構成を見抜き、青色のペンライトを準備し始めた。
「閉ざされた部屋の中で 私は生きてきた」
 透き通るような歌声に、観客達のボルテージが高まりを見せ、ペンライトの動きが活発とそして規則性を見せるようになる。
「ここで終わりと諦めていたあの日 でも思うのあの時が始まりだったって」
 青いスポットライトがリヴィエラから移動し、飛び立つ鳥のように夜空へ向かって行く。観客達のペンライトもそれを追うようにして波打った。
「降りしきる哀しみが 私達を襲っても 乗り越えてゆける二人なら」
 観客達に微笑みを浮かべてリヴィエラは歌い続ける。
「護りたい――でも、護られている」
 リヴィエラの浮かべている微笑は張り付いているような微笑ではなく、内に秘めた強い意志を感じさせる、そんな微笑だ。
「護られるだけの私じゃなく」
 胸の前で手を組んで、とても大切なものを握り締めるかのように歌い続ける。
「全部護りたい この手で私」
 護れないのかもしれない。護られることしか出来ないのかもしれない。自分には護る力なんて無いのかもしれない。
でも。護れないのかもしれないけど。私は自分を護ってくれる彼を――、
「――護りたい」
 最後の一言を歌い終わり、フラーム神殿から青色の『祝福の金平糖』が降り注ぐ。
 金平糖は青色のスポットライトを受けさらにキラキラと光輝いて、観客達の盛り上がりを最高潮まで高めた。
 リヴィエラは観客達の歓声をその背に受け、微笑みを浮かべながらステージを後にした。

 他の誰でもない、リヴィエラが盛り上げた観客達の声援が控え室まで大きく響き渡っていた。
 ロジェは、リヴィエラがステージで歌っていた歌を反芻しながら呆気にとられた表情で問う。
「あの歌の歌詞はどういう意味だったんだ?」
「歌詞の意味、ですか?」
 問われて、リヴィエラは少し照れくさそうに頬を赤く染めながら微笑んだ。
「ええと……。私、貴方に出会う事が出来たから変われたんです」
 ずっと部屋の中で人生を終えると思っていた。希望なんて、未来なんてないんだって諦めて、ただただ毎日をぼうっと過ごしていた。
「ロジェのお陰で、未来を見つける事ができた……貴方は、私にとっての光だから……」
 ロジェが手を差し伸べてくれなければ、連れ出してくれなければ自分はまだ部屋の中に幽閉され未来なんて考えることも無かっただろう。世界の広さも、外の空気も、全部ロジェが教えてくれた。
 暗い孤独の中に居た自分を一筋の光となって照らして導いてくれた。
「だから私も守りたいのです。貴方を……」
 それがリヴィエラの嘘偽りのない本心だった。
 ロジェはリヴィエラの言葉を受け、目を見開いて拳を握り身体を打ち振るわせる。
「俺が君にとっての光……? バカ、それは逆だ」
 リヴィエラは、闇の中に身を堕としかける自分を何度も救ってくれた。
「君がいるから俺は闇に堕ちずにいられる。君は俺にとっての光なんだ……!」
 ロジェは決壊しそうになる涙腺を必死に押し留めて、リヴィエラを掻き抱く。
強く強く抱きしめて離れないように。
(本当は少し嬉しいんだ。屋敷で監禁されていた君が、未来を見つけてくれて)
 追っ手さえ居なければ、ロジェは全力でリヴィエラの未来に手助けをするつもりだ。
 その為には何にだってなる覚悟もある。
「ありがとうリヴィー。俺に光をくれて」
 ロジェはぽつりと、リヴィエラに呟きを漏らす。
 リヴィエラは、ロジェのその呟きに答えるようにロジェの背中に手を回しつつ、
「はい。……ロジェ」
「……ん?」
「未来をくれて、ありがとうございます」
 リヴィエラの透き通る声が、ロジェの耳を打つ。
 たった一言のその感謝の言葉を受けて、ロジェの頬をぽろりと一粒涙が伝った。





☆夢路 希望 スノー・ラビット ペア☆

 ステージから控え室に届く歓声に、夢路 希望は緊張を顔色に表していた。
 スノー・ラビットは、そんな夢路を見て、
(多分断れなかったんだろうな)
 夢路は、真摯にお願いするプロデューサーのお願いを無下にすることは出来なかったのだろう。
(でも彼女は受けた以上全力で頑張る人で)
 スノーは、緊張を隠せていない夢路に歩み寄ってふと微笑みつつ、
「頑張ろうね」
 夢路もその一言で幾分か緊張を解すことが出来たのか、「うん」とやや震えた声ながらもスノーを見つめて頷く。
 夢路は歌もダンスも素人。現状のままにステージに出てもお客さんを盛り上げるのは難しい。
突貫にはなるが本番に影響が出ないギリギリまで練習をして、本番に望みたい。夢路はそう考えて、先ほどステージに立っていた蒼い少女に歩み寄る。
「あ、あの! 私に、ボイストレーニングをしていただけませんか?」
 少女は夢路に声をかけられ、きょとんとした表情で「私?」と呟いた後、夢路の表情が真剣そのものだということを確認し、「いいよ」と二つ返事で承諾した。
「時間も少ないみたいだしダンスと一緒にやった方が良いと思う」
 少女はそう言って、夢路の手を引いて歩きだそうとして止まった。
「あんたがこの娘のプロデューサー? 一緒に来なよ」
 促され、スノーも二人と共にトレーニングルームへと向かう。

 本番までの時間がない以上、出来るだけ本番と同じ状態で練習したほうがいい、と少女が提案し、夢路はステージに出る際の衣装に着替えてトレーニングルームへと足を運んでいた。
 ハートモチーフの入った、薄ピンク色の透明感あるワンピースのような衣装で、大きなリボンでいつもより上の位置で髪を束ねているのが印象的だ。
「……えっと、どうですか? ……ヘンじゃないですか?」
 衣装を身に纏ってそう問う夢路の雰囲気にドキリと鼓動を早めつつも、スノーは照れているのを隠すようにして微笑みながら、
「とっても似合ってるよ、ノゾミさん」
 夢路が顔を俯かせて頬を染め、その反応にスノーは笑顔とはまた違ったほころび方をしそうになる自分の頬を片手で押さえる。
「……いい?」
 すると、少女がやや切り出しにくそうにスノーに書類を手渡した。
「これ、プロデューサーから演出相談として上がってきた歌詞の内容」
 手渡された書面に書いてある歌詞を見て、今度こそ堪えられなくなってスノーは頬を紅潮させる。スノーがちらりと、同じく顔を覗き込ませていた夢路を見れば、夢路もかぁっと顔を赤く染めていた。
「うん、良い歌詞だね。この歌詞でノゾミさんのライブをさせてもらうよ」
 スノーが承諾すると、少女は首肯して夢路の手を引く。
「じゃあ、練習開始だね。立ち止まってる暇は無いから」
「はい!」
 振り付けは、歌詞に合わせた身振り手振りのダンス。
 夢路は少女に指導を受けながら練習を、スノーは夢路のレッスンを見ながらスタッフと共に演出についての会議を行う。
『恋する乙女』をテーマに、ライト色は赤やピンクを中心に取り入れる。
それが、今回夢路というアイドルがパフォーマンスをする舞台だ。
 スノーは、一通り演出の相談が終わった後、今度は夢路に近づいてダンスの時の姿勢と転ばない為の足運びについてのアドバイスをする。夢路のダンスと歌は次第に完成され、申し分ないクオリティまでに引きあがった。
 しかし、必死にやってるからこそ、夢路の一番大事な良さが失われてしまっていた。
 スノーは、一曲を通しで歌い終えた夢路に歩み寄り、ふと微笑む。
「最後は……恥ずかしそうに笑うと可愛い、と思うな」
 夢路は言われて、トレーニングルームに配置されている鏡で自分の顔を見やる。そこには真剣な表情で佇む自分が映っている。
 夢路は、自分で自分の頬を指先で押し上げて、
「うん、わかったよスノー君」
 と、楽しげな微笑みを浮かべた。
『夢路さん、そろそろ準備の方お願いします~!』
 トレーニングルームに順番を告げる放送が入り、夢路の身体が一気に弛緩する。
 緊張する夢路の手を、そっとスノーがとった。
「おまじない」
 そして、優しくスノーが夢路の手の甲へ口付けを落とした。
「こ、こんなことされたら余計にっ……あ、れ?」
 不思議と、身体の震えは治まっていた。
「……ノゾミさんなら、大丈夫」
 満面の笑みでスノーは夢路にそう優しく語りかけ、夢路は胸が熱くなるのを感じた。
「……はい!」
 そうして、夢路は大歓声が支配するステージへと笑顔で出向いた。

 スノーは観客席に入り混じり、夢路の出番を待つ。
 少々待つと、ステージに夢路の姿が現れた。少し震えているけれど、それを補うほどの強い雰囲気が溢れている。
「――心を込めて歌います」
 マイクに向かって夢路が呟いた瞬間、ピンク色のスポットライトが一挙に夢路を照らす。
「優しい笑顔 高鳴る鼓動 触れた部分が 熱を持つ」
 リズムに合わせて夢路がアイドルステップを踏み、マイクを持っていない片手で自分の身を庇うように抱く。夢路のリボンと束ねた髪が左右にぴょんぴょんと揺れた。
「……もっともっと 触れてほしいの 傍にいたいの」
 困ったような笑みを浮かべて、夢路は続けて歌う。
「いつの間にか欲張りになってる」
 観客はしばらく呆気に取られていたが、ピンク色のペンライトを取り出して次第に合いの手を入れ始めた。
「やっと気付いた恋心 ぎゅっと手を握り締めて 大きく深呼吸」
 片手で胸の前で拳を握り、大きく息を吸い込む。
「勇気出して 言葉にしよう」
 俯いていた顔を上げて、紅潮した頬のまま、歌う。
「あなたが好きです」
 小首を傾げて恥ずかしそうに笑いながら歌う夢路を、ピンク色のスポットライトが包み、観客達の大歓声が会場を支配する。
 夢路の笑顔が満面の笑みに変わり、ライブの成功を祝福するように、フラーム神殿からピンク色の『祝福の金平糖』が降り注いだ。

 控え室に戻った夢路に、笑顔でスノーが歩み寄る。
 夢路は、照れたように顔を背けてスノーを直視できない様子だ。
「とても素敵なステージだったよ」
 スノーはステージが良かったと褒めてくれて、自分でも上手くいったと思う。
 高揚感と共に夢路の心の中にあったのは、恥ずかしさだった。
 ライブで歌ったあの歌の歌詞はスノーへの想いを交えた、恋に気付いた女の子がテーマのラブソング。好きな人へ想いを言葉にして伝えたいと思いたくなる歌にしたいという要望を、少女のプロデューサーに出していたのだ。
 顔を背けていた夢路が、ふと視線をスノーに戻すと、スノーは屈託のない笑みを浮かべて優しく言った。
「今度は僕だけに聞かせてほしいな」
 夢路の頬が衣装のピンク色よりも赤く染まり、言ったスノーの頬も僅かに紅潮している。
 夢路は、スノーのその言葉を受けてしばし口をつぐんだ後、こくりと首肯した。






☆ミサ・フルール エリオス・シュトルツ ペア☆

 一日プロデュースをすることになったエリオス・シュトルツは、不満を顕にしていた。
「お願いします、どうしても彼に伝えたいことがあって」
 ミサ・フルールが、そんなエリオスに深々と頭を下げてお願いを繰り返す。
 彼というのは、ミサの精霊の一人エミリオのことだ。
 エリオスはミサの言葉を受けながら、ふと意地の悪い微笑みを浮かべる。
「最近、アイツはお前を避けている節があるからな?」
 言われて、ミサが傷つくような表情をするのを楽しもうとしていたエリオスだったが、しかしミサは気丈な雰囲気を崩すことなく、エリオスを見据えてお願いを続ける。
「お願いします。他に頼める精霊さんは貴方しかいないから」
 その様子に、エリオスはふん、とひとつ鼻を鳴らして、
「まぁいいだろう、お前の保護者として、今回だけ特別にプロデュースしてやる」
「ありがとうございます!」
 ぱあっと表情を明るくさせて、ミサはもう一度深々と頭を下げた。
「お前はどんな歌を歌いたいんだ?」
 エリオスは情報収集の為にミサに問い、ミサはその問いに「はい」とひとつ間をおいた後、
「バラード調の歌を歌いたいです」
 バラードか……そう呟きを漏らし、エリオスは人差し指に顎を乗せて黙考。
そして、ふとひとつステージの情景が思い浮かんだ。
「お前は確かピアノを嗜んでいたな」
 ミサの返事を待たず、エリオスは続ける。
「では『弾き語り』をしてはどうだろうか、曲のジャンルにも合うんじゃないか」
 エリオスが言い放つと、ミサは目を丸くしてきょとんとしてしまった。
「……聞いているのか?」
 不満げに問うエリオスに、ミサは意識を戻して弁明。
「聞いています! ピアノなら私にも出来ます、是非やらせてください」
 まさか、こうも自分のことを親身に考えてくれるとは思っていなかったので、呆気にとられてしまったが、エリオスは計算高く頭が良い。ひとつミサの個性を見つければ、そこを引き伸ばす手段も、その逆も容易に思いつくのだろう。
「そうか。そのように手配しよう。お前はトレーニングルームで歌の練習でもしてくるといい」
 ミサは「はい、ありがとうございます」と頭を下げて控え室から退席し、トレーニングルームへと向かった。
 人気がなくなった控え室で、エリオスは自分の鞄から何かを取り出す。
「この前職人に仕立てさせたドレスが役に立つ時がきたな」
 鞄から出てきたのは、香水アスピラスィオンをモチーフにしたピンク色が美しいドレス。
 もちろん、私用で持ち歩いているわけではない。今回、このドレスはミサのステージ衣装として使用する。
 エリオスは控え室から退室し、ステージ裏へと足を運ぶ。
 行き違うスタッフ達は慌しくあちらこちらへと移動しており、ステージの開演が近いことがわかる。
 エリオスは、ステージ裏につくと蒼い少女のプロデューサーを見つけて声をかけた。
「舞台全体的に暗めで、スポットライトで神人を際だたせる」
 プロデューサーは突然の言葉に数瞬きょとんとしていたが、すぐに真剣な表情に戻り「はい」と首肯。
「桜の花弁を舞台に降らせようと考えている」
「……わかりました、検討しましょう」
 二人はミサの舞台についての詳細を事細かに練り上げ、スタッフ達に情報を共有。開演中のステージと共に、次となるミサのステージの準備も整っていった。
(俺はやってやれることはやってやった)
 後は、本人の想いがどれだけ強いか。それだけだ。
 エリオスは、トレーニングルームへは足を運ばず、そのまま会場の方へと姿を消していった。

 ステージが始まる時間となり、ミサはステージへと踏み込む。ざわざわと漏れ聞こえる観客達の声をその身に受けて一礼し、用意されているピアノの前に腰をかけた。
「大切な人を思い浮かべて聞いてくれると嬉しいです」
 ポロロン、とピアノの音を一度確認して、ミサはもう一度ピアノから観客へと視線を戻して微笑みを投げかける。
「では聞いてください――『想いよ届け』」
 言うと同時にミサの演奏が始まった。鍵盤に奔るミサの指先が音色を形作り、観客の元へと届けられる。
「今貴方はどこにいますか 心から笑えていますか?」
 暗めの舞台に、ミサにだけスポットライトが当たっている様子はミサを強調する効果を見せると共に、そこはかとない孤独感を感じさせた。
 そして、ミサの歌声によって観客達がペンライトを振り始めた頃、ステージに桜の花弁がひらひらと舞い始める。
「誰も傷付かないようにって 痛みを隠し貴方は微笑むから」
 透き通るような歌声と、美しい音色が奏でる旋律に観客達は今までの熱狂的な盛り上がりが嘘だったかのように穏やかな雰囲気で鎮座している。
「どうかその悲しみを私にも分けてほしいの」
 けれどそれは、演奏が観客の求めるものではなかったから、という理由ではない。ミサの奏でる旋律に、心を奪われているからだ。
「ああ、この胸に抱く想いのすべて 貴方に届けられたらいいのに」
 鍵盤を奔らせる指先の動きがより速いものとなり、ミサが大きく息を吸った。
「想いよ、貴方に届け」
 瞬間、会場がミサの歌声に伝播され時を止めたかのように静まり返る。
「私はいつまでも歌い続けます」
 強く走らせていた指の速度を一気に落として、ミサは諭すような口調で、呟くように最後の一言を形作る。
「貴方は1人じゃないよって」
 反響した最後の音色が消え行くまで観客達は誰も動けなかった。次第にミサの微笑みに触発されるかのように観客達が笑顔で拍手をし、会場全体を飲み込む。
 そして、それを祝福するかのように『祝福の金平糖』が桜と共に降り注いだ。
「ありがとうございました」
 観客達に深く礼をして、ミサはステージを後にした。

 ミサが控え室に戻ると、先に戻っていたと思われるエリオスが椅子に腰をかけていた。
 エリオスは、戻ってきたミサに視線を向けると、
「よく頑張ったな小娘にしては上出来だ」
 ミサの目が丸く見開かれ、問い返しの言葉も出なかった。
 その様子を気にする風でもなく、エリオスは先ほどの様子を思い起こすかのように会場の方へ視線を向けて頷く。
「観客の中には涙ぐんでいる者もいたぞ」
 エリオスはひときしり、そうミサのステージを褒めた後、
「お前の想いは伝えられたか?」
 と、ひとつ問う。そして、その答えを待つことなく続けて、
「アイツに届いているといいな」
 そう確かに口にした。
「あ、ありがとうございます!」
 ミサはエリオスに褒められて驚きながらも素直に喜びを顕にして、微笑みを浮かべる。
(エミリオ、私の想いは届きましたか?)
 大変な盛り上がりを見せたミサのステージの後に、ミサを照らしていたスポットライトがピアノを照らし、もうひとつ何もない場所へ。
――誰かを待つようにしてスポットライトが照らされていた。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 東雲柚葉
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ EX
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,500ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月12日
出発日 03月17日 00:00
予定納品日 03月27日

参加者

会議室


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