【祝祭】マシュマロ屋根(真崎 華凪 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 マシュマロの服を着た妖精が、慌てふためいている。
「お願いだよ!」
 この、お願いだよ、は何度目だろうか。

 たまたま通りかかったウィンクルムの片割れに、マショマロの服と、ついでにマシュマロの帽子を被った妖精が声をかけた。
「オレの家のマシュマロが吹っ飛んだんだ!」
――それは大変だ。
 なにせ、つまるところそれは、屋根が無くなったということなんだろう。
 妖精が指さす家を見ると、気の毒なことに屋根のない状態なのだから。
「これはウィンクルムの出番だと思ってさ!」
――なぜ。
 妖精たちで力を合わせて、マシュマロを乗せるくらいはできるはずだ。
 勿論、ウィンクルムの方が早いかもしれないが。
 けれど、気になる。
 神人でも、精霊でもなく、『ウィンクルム』なのだろうか。
「オレが作ったマシュマロは、たぶん愛の力で大きくなるんだぜ!」
――たぶん。
 真偽のほどは分からないということだろうか。
「甘くて大きな、立派な屋根が欲しいんだ。……ほら!」
 妖精はひとつのマシュマロを差し出した。
 首を傾げるしかない。ほら、では分かるわけがないのだから。
「アンタの相棒に、愛の一つでもささやいて大きくしてくれよ!」
 なかり無理がある。
 しかも、一つだけを手に、どうしろというのか。
 愛もなにも、割と面白い絵面だ。
「お礼に金平糖をあげるよ! だから、頼むよ!」

――さて……、どうしようか。

解説

※ウィンクルムごとの描写になると思われます。

マシュマロニア王国の妖精宅の屋根が、吹っ飛んでしまいました。
理由はさておき、妖精は早急に屋根の修復をしたいようです。
ですが、家の屋根。小さなものではちょっと心配です。
妖精の言葉を信じるなら、愛の力で大きくできる様子。
余談ですが、渡されたマシュマロは、妖精さんがこっそり作ったものらしく、成功すればちゃんと膨らむ特別品種なのだそう。

どうにも、信じられる気がしませんが、信じてみましょう。


バレンタインのお返しに愛をささやいてみたり。
バレンタインのしそびれた告白を今してみたり。
バレンタインには関係ないけど距離を縮めてみたり。

たった一つのマシュマロを握りしめ……ると潰れますが、そのくらいの勢いで、思いの丈を伝えてみましょう。

妖精に頼めば、マシュマロを増やして袋に詰めてくれるかもしれません。
一つはちょっと、という場合は、事前に交渉しておいてくださいね。

なお、お渡ししたマシュマロ代としまして、量の増減に関係なく300Jrを頂戴いたします。

ゲームマスターより

杜御田です。
マシュマロ大好きです。
ジャムやチョコが入っているのも好きですが、シンプルなものが一番好きです。
ピンクもいいですが、やはり白です。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)

  心情
妖精さんの家の材料にするのですから、つまみ食いはいけませんよ。
屋根が雨漏りしちゃうかもしれないじゃないですか。

行動
ノリノリでストレートな愛の言葉。
うふふ、ラダさん大好きです!
一緒にいると楽しいですし、これからもよろしくお願いしますね!

精霊の態度から、賞賛に飢えているような雰囲気を感じる。

精霊の手を自分からぎゅっと握る。

ラダさんの心が満たされるまで、私はいくらでも愛を贈りますよ。
遠慮は一切いりません。どうぞ受け取ってください。
だってこの気持ちは、ラダさんがいるからこそ私の中で生じたのですから。
それに好きな人に好きだと正直に言えるのは、幸せなことです。

精霊の胸(心臓のあたり)に軽く手を触れる。


上巳 桃(斑雪)
  愛の言葉かー難しいなー
マシュマロをかわいがればいいのかな(悩)
マシュマロちゃん、ほーら、いないないばあっ
…違うみたい
じゃあ以前みたいに、愛用の蕎麦殻枕への感謝を呟いて…
それも違うの?
はーちゃんに愛を囁けばいいの?

そういやはーちゃん、今月お誕生日だっけ
ちょっと早いけど、おめでとう
それから、いつもありがとう
これからもよろしく
でもプレゼントとかないんだ、ごめんね

これでいいのかな
折角だから、もう少し

ずっと一緒にいようね
こんなこと言うの初めてだけど
だってはーちゃん、私より年下だから、将来のこと決めつけたらいけないなって

ところで、このマシュマロをクッションにしてお昼寝したら気持ちよさそう
…Zzz←実行した


桜倉 歌菜(月成 羽純)
  屋根が無いなんて大変です!
私達でお役に立てるなら…

(マシュマロの屋根ってどんなものかも見てみたいし…
その、羽純くんとのあ、愛を確かめられたらそれは嬉しいかなって…(照)

で、でもいざとなったら…何をどう言っていいのやら?
愛の言葉…(ぐるぐる
だ、大丈夫!
私、素直になるって決めたんだから(マシュマロを手に真っ直ぐ羽純くんを見る。すぅっと深呼吸して)

一目惚れ…だったの
羽純くんの声にまず惹かれて…視線の先、羽純くんを見た瞬間に…たぶん、もう好きになってました
羽純くんとパートナーになって…恋人になれて、幸せ、です…

(心臓が破裂しそう。こ、こんなので大丈夫かな?)

もっとちゃんと伝えたいのに、言葉って難しいね


レベッカ・ヴェスター(トレイス・エッカート)
  愛の力で大きく…
…私達で大きくできる気が全くしないのだけど
よく話が噛み合わなくなる精霊を横目でちらりと

よりにもよって愛といわれも全く何も浮かばないし…
トレイスさんもでしょ?って、え、あるの?
この流れで何を言われるのだろうと少し身構えつつマシュマロ渡す

た、確かに愛の言葉だけど…!恥ずかしい、っていうか歯が浮く!
わたわたしていたら知らない女性の名前に固まるも、疑問が
…ああ!それって昔流行った小説での台詞じゃない?
どうりで…

ま、まあそういうオチよね
明らかに心篭ってなかったし
でもそれでもわりと心臓に悪い、わね

ほとんど膨らんでないマシュマロとやっぱりずれている精霊見て
噛み合う日はくるのかしら…


蓮城 重音(薬袋 貴槻)
  右手にぽつんと置かれた一つのマシュマロをじっと見て
(家族愛でも大丈夫かしら……私がタカツキ君の家族だなんて、おこがましいけれど)
こっそり自嘲してから、顔を上げ貴槻に笑顔を見せる
「タカツキ君、私、タカツキ君が好きよ。タカツキ君を守れるように頑張るから、お姉ちゃんだと思ってもっと頼って甘えてね」
二人暮らしには慣れた様子だけど、一歩引いてるように感じていた
(神人だっていっても他人だから仕方ないけど……でも)
「タカツキ君には幸せになって欲しいの。そのお手伝いをさせてね」

貴槻の行動に驚き少し赤面してしまう
(タ、タカツキ君て、将来凄くモテそう……ううん、今もモテてるのかも)
「……なんだかお姉ちゃん複雑」


「じゃあ、よろしく頼んだぜ」
 妖精は屋根の為に、真剣な表情でマシュマロを渡す。
 ほんのりと好奇心が透けて見えるのは、きっと気のせいだ。


 手にしたマシュマロを眺めて、レベッカ・ヴェスターは途方に暮れていた。
「……私達で大きくできる気が全くしないのだけど」
 横目でトレイス・エッカートを見遣る。
 無理もない。レベッカとトレイスの会話は、いつも徐々に噛み合わなくなっていくのだ。
 おそらく、普通の会話で大きくマシュマロを膨らませることですら、難しい。
「よりにもよって愛と言われても、全く何も浮かばないし……」
 マシュマロを見つめて、懸命にレベッカは知恵をひねり出そうとしていた。
「愛で大きく、か」
 トレイスが、ふと呟く。
「トレイスさんも、何も浮かばないでしょ?」
「……事実は小説より奇なり、とはよく言ったものだな」
 口元に手を当て、首を捻る。
 ――そういえば……
「それ、貸してくれないか」
「え? 何かあるの?」
 トレイスの突然の申し出に、レベッカが困惑するのも無理からぬこと。
 思わず身構えてしまうほどだ。
「任せてくれ」
 自信ありげなトレイスに、レベッカがマシュマロを渡す。
 金色の瞳がゆっくりと閉ざされ、トレイスの声が、レベッカの鼓膜を震わせた。
「君は俺のすべてだ」
「――ッ!」
 迷いのない瞳が、レベッカを捉え、逸らされることはない。
 ただ真っ直ぐに見つめてくる。
 反射的に頭まで血が昇っていくのを、レベッカは感じていた。
「君のいない世界なんて考えられない」
「ト、トレイスさん……恥ずかしい……!」
 と言うよりも、むしろ棒読みとすら感じるほどに、歯の浮くセリフだ。
 だが、トレイスはレベッカのそんな様子に構わず続ける。
「これからもずっと、愛している……」
「トレイスさ……」
「ジェニー」
「誰!?」
 ここでほかの女性の名前が出てくるなど、予想すらしていなかった。
 思わず反論してみたが、二の句はさすがに継げなかった。
「……ああ、そうか。間違えた。君はレベッカだったな。彼につられてしまった」
「間違えたって……」
 普通、ここで間違えるだろうか。
 それよりも、どこかで聞いたようなセリフだ。
 レベッカが胸の内で引っかかった疑問を思案する。そして。
「ああ! それって、昔流行った小説のセリフじゃない?」
「その通りだ」
 頷いたトレイスに、レベッカは少し肩を落とす。
 視線を外したレベッカは、トレイスが嬉しそうな目を向けたことに、気付いていない。
「どうりで……」
「あの小説は良かった。見ているかのような情景の描写……」
「ま、まあ、そういうオチよね」
 長くなりそうなトレイスの言葉を、即座にレベッカが制した。
 活字中毒で、読書を生き甲斐にしているトレイスが、本のことを語りだすと止まらなくなる。
「明らかに心がこもってなかったし」
 感じた無感情さは、決してレベッカの気のせいではなかった。
「でも、……それでもわりと心臓に悪い、わね」
 殆ど消えそうな声でそう独り言ちる。
 トレイスを見遣っても、聞こえていないようだ。そんな様子に、少なからず安堵した。
 ――やはり借り物の言葉ではダメか。
 手にしたマシュマロを眺め、そしてレベッカに視線を移す。
 ――愛は躊躇わないこと、悔やまないこととも言うが……。
「ほとんど膨らまなかったな」
「あれだけ心がこもってなければ、マシュマロでなくても膨らまないと思うわ」
 レベッカは額を抑えながら妖精にマシュマロを返した。

 噛み合う日は来るのかしら……――。
 一つ、ため息を吐く。


 ラダ・ブッチャーがじっとマシュマロを見つめている。
「妖精さんの家の材料にするのですから、つまみ食いはいけませんよ」
 その視線が何を言わんとしているのかを察したエリー・アッシェンが釘をさす。
「ちょっとだけでも……ダメだよねぇ」
「屋根が雨漏りしちゃうかもしれないじゃないですか」
 残念そうに、ラダはマシュマロを見つめ続けている。
「では、妖精さんの屋根の為に大きくしましょう」
「言葉で大きくなるなんて超すごいー!」
 マシュマロは愛の言葉で大きくなるのだと妖精に聞かされている。
 今、胸の内にある想いを、そのまま言葉にすればいい。
 エリーがマシュマロを手に、笑顔をラダに向ける。
「うふふ。ラダさん大好きです!」
 迷いのない言葉が、次々に紡ぎだされていく。
「一緒にいると楽しいですし、これからもよろしくお願いしますね!」
 真っ直ぐに伝えられるエリーの想いに、ラダは温かさを感じる胸に、手を当てる。
 ――愛を感じられるのは嬉しいよねぇ。
 じんわりと、熱を持つようだ。
 少しの否定もないエリーの言葉が、心に滲みていく。
 そんなラダの様子に、エリーは、彼が賞賛に飢えているような雰囲気を感じた。
 胸に手を当てて、温かさを確かめているようなラダの手をぎゅっと握る。
「ラダさんの心が満たされるまで、私はいくらでも愛を贈りますよ。遠慮は一切いりません」
 乾いたラダの心が、少しでも愛で満たされるようにと、願う。
「どうぞ受け取ってください」
 エリーの心が満たされていると表すのだとすれば、それはラダがいるからこそだ。
 彼を思う気持ちで満たされるなら、それをラダに返すのも、ごく当たり前のこと。
 だからこそ、エリーは言葉を重ねる。
「この気持ちは、ラダさんがいるからこそ私の中で生じたのですから」
 そっと、ラダの胸に――その鼓動を感じるかのように手を軽く触れ、エリーは微笑む。
「それに、好きな人に好きだと正直に言えるのは、幸せなことです」
 想いを伝えられることの、どれほど幸せなことか。
 ――あ、ボクからエリーに何も言ってない。
 エリーは、躊躇うことなく想いを伝える。けれど、ラダにとって、それは少し緊張すること。
 おそらくエリーは、ラダの気持ちを拒絶などしない。それが分かったとしても、あと一歩をとどまらせてしまう。
 エリーは、好きだと言えることを幸せだと言ったけれど、二人の考え方はだいぶ違う。
 ――僕も勇気を出したら……。
 愛を伝えられる幸福は、エリーが与えてくれた。
 愛を伝えることが出来たら……。
 ――幸せを実感できるかな?
 エリーの温もりを感じる。
 胸に置かれた彼女の手が、ラダに勇気を与える。
「あのさっ」
 与えられた勇気が、躊躇いがちに言葉へと変わる。
 一拍がひどく大きく感じる。
「ボクもアンタのこと、好きだよぉ」
 精一杯の勇気で伝えた言葉に、エリーが笑う。
 それだけで、胸の奥にさらに温もりを感じることができた。
「ウヒャァ……」
 満たされていく気持ちに、ラダが照れたように笑い返した。


 右掌をじっと見つめて、蓮城 重音は熟考を続けている。
 ――愛ねぇ、カサネさんの事だからどうせ……
 薬袋 貴槻は重音が何を考えているか、おおよそは察しがついていた。
(家族愛でも大丈夫かしら……)
 重音が貴槻に向ける想いは、家族の愛。姉が、弟に向ける好意の形。
 けれど、家族と言ってしまうには、重音と貴槻の関係は、異なっている気もする。
(私がタカツキ君の家族だなんて、おこがましいけれど)
 少しの自嘲の後、重音は顔を上げて貴槻に笑顔を見せる。
「タカツキ君。私、タカツキ君が好きよ」
 重音の考えに察しがついていても、この言葉には図らずも、どきりとした。
 その後に続く言葉さえなかったなら、貴槻はどれほど喜べただろう。
「タカツキ君を守れるように頑張るから、お姉ちゃんだと思ってもっと頼って甘えてよね」
 ――家族愛、ですよねー。
 貴槻は、少なからず気落ちしたことを悟られないよう、笑顔を重音に返す。
 内心ではやさぐれ気味だ。
(神人だっていっても、他人だから仕方ないけど……)
 同居をして、二人で暮らすことに貴槻が慣れてきていたことを、重音は喜んでいた。
 しかし、その一方で、どこかで距離を置いているようにも感じている。
 適合したとはいえ、他人は他人だ。距離を置くなと言う方が難しいのかもしれないが、余計な気を使わせたくなかった。
「タカツキ君には幸せになってほしいの。そのお手伝いをさせてね」
 その距離が、貴槻の必死な自重からくるものであると、重音は知らない。
 彼が静かに重音を慕っていることを、知らない。
 伝わらないことは、正直もどかしいが、急いだところで何かが変わるわけでもない。
 まずは、重音に意識してもらわなくては。
 ふ、っと息を吐いて、高槻が自分の右手を、重音の右手に重ねる。
「俺も、カサネさんが好きだ。これでも頼って甘えてるつもりだぜ? でもな」
 ゆっくりと、視線を合わせる。
「守るのは精霊の――俺の役目だ」
 重ねた手に、僅かに力が込められた。
 まるで、揺らぐことのない意思のように強く、優しい感覚。
「傷付くくらいなら俺が全部引き受けるって言ったろ?」
 そっと左手で、重音の頬に触れ、柔らかく撫でる。
 青い瞳はどこまでも真っ直ぐだ。
「傷一つ、つけやしねぇよ」
 その大人びた表情に、重音の鼓動が一つ、高く跳ねる。
 それを自覚すると同時に、顔中が熱を持ったように熱くなった。
 重音のそんな様子に、貴槻は空気を変えるように、悪戯っぽくニっと笑う。
「オネエチャンは俺が幸せにしてやるからな」
 子供のような笑顔を取り戻した貴槻は、ぱっと重音から手を放した。
(タ、タカツキ君って、将来凄くモテそう……ううん、今もモテてるのかも)
 一瞬に垣間見せた、貴槻の『男性』の表情に、くらりと微かな眩暈を覚える。
 子供が大人へと変わる瞬間。
 少年が、青年へと変わる瞬間を目の当たりにして、重音は何とも言えない気持ちになった。
「……なんだかお姉ちゃん複雑」
 重音にとって、貴槻は未だ弟のような存在だ。

 ――とりあえずは弟からの卒業だなー。
 貴槻はそんなことを胸中に零していた。


 妖精の冗談とも思える懇願に、月成 羽純は眉根を寄せる。
「力になりたいとは思うが……愛の力か……」
 ――なんだか眉唾ものだな……。
 マシュマロに疑いの目を向けている羽純は、断ってもいいのではないかと考えていたのだが。
「屋根がないなんて、大変です! 私達でお役に立てるなら……」
 桜倉 歌菜に疑っている様子はない。
「おい、歌菜……」
「その、羽純君とのあ、愛を確かめられたらそれは嬉しいかなって……」
 マシュマロの屋根ってどんなものかも見てみたいし、と言外の好奇心。
 歌菜は、自分の想いを羽純に伝えようとマシュマロを手に考え込んでいる。
 羽純は黙って見守ることにした。
「で、でもいざとなったら……何をどう言っていいのやら?」
 歌菜が首を傾げる。
 愛の言葉など、即座に浮かんでくるものではない。頭が過熱しそうなくらい逡巡を繰り返す。
「歌菜、大丈夫か?」
 不安そうな羽純の声に、頭の中で渦となって乱立していた言葉が、一つずつ想いを紡ぐ言葉へと変わっていく。
「だ、大丈夫!」
 素直になると決めたのだ。
 想いも、素直に言葉にすればいい。
 すぅっと深呼吸をして、心を落ち着かせる。
「無理はするな」
 羽純が声をかけると、頭を振って歌菜が真っ直ぐな眼差しを向けた。
 鼓動が一つ、大きく脈打つ。
「一目惚れ……だったの」
 一拍ずつ、大きさを増す心臓の音が聞こえてしまいそうだ。
「羽純くんの声にまず惹かれて……視線の先、羽純くんを見た瞬間に……たぶん、もう好きになってました」
 頭の芯を熱するように、全身の血が駆け上っていく感覚を覚えた。
 くらくらする――。
 羽純は思わず、口元を手で覆って表情を隠した。
「羽純くんとパートナーになって……恋人になれて、幸せ、です」
 歌菜の言葉が終わりきらないうちに、羽純は歌菜を抱き寄せた。
「不意打ち過ぎだ……」
 心臓が、いつか破裂してしまうのではないかと思うほど、早鐘を打ち続けている。
「もっとちゃんと伝えたいのに、言葉って難しいね」
 微かに声が震える。
 伝えたい言葉のどれだけが、きちんと羽純に伝わっただろうか。
「そうだな……言葉は難しい」
 ふっと息を吐いて、歌菜と視線を合わせる。
「俺も……今のこの気持ちを、うまく言葉にできない」
 懸命に伝えられた言葉に、どんな言葉を返せばいいのだろう。
「――ありがとう。嬉しい」
 耳元に、そっと声を落とす。
 彼女の左手を取り、その薬指にある指輪を撫でる。
「俺も……歌菜がパートナーで幸せだ」
 真摯に伝えられる言葉に、歌菜は見て取れるほど赤くなった。
 思わず、歌菜の額にキスをする。
 ――俺のパートナーはなんて……
 愛らしいのだろうか。
 思っても、口にはしなかった。歌菜が、完全に固まってしまっていたから。
「マシュマロ」
 だから、別の言葉をかけた。
 固まった歌菜を覗き込む。
「ちゃんと大きくなったな」
 よかったな、と羽純が声をかければ、歌菜は嬉しそうに笑った。


 良く見知った白いマシュマロが手渡され、斑雪は好奇心をくすぐられた。
「ショコランドには不思議なものがたくさんありますね」
「愛の言葉かー難しいなー」
 うんうんと唸りながら、上巳 桃はマシュマロを凝視する。
「マシュマロちゃん、ほーら、いないいないばあっ」
 桃が悩みに悩んだ挙句、マシュマロへの愛を、可愛がるという形で表現する。
「主様、たぶん妖精さんの言いたいことと違うんじゃないでしょうか……」
 咄嗟に桃の行動に斑雪は首を捻った。
「じゃあ、以前みたいに、愛用の蕎麦殻枕への感謝を呟いて……」
「それも違うと思います」
 少し的を外している桃に、妖精がそっと耳打ちをする。
「はーちゃんに愛を囁けばいいの?」
 うーん、とひとつ唸る。
「そういやはーちゃん、今月お誕生日だっけ」
 斑雪の誕生日が、そろそろだと気付く。
「ちょっと早いけど、おめでとう」
 桃の言葉に、斑雪はぱっと顔を明るくする。
「えへへー、ありがとうございます」
「それから、いつもありがとう。これからもよろしく」
 素直な言葉に、斑雪は少し照れくさそうに笑う。
「主様もこの前お誕生日でしたよね」
 桃の誕生日は、その名にふさわしい日和だ。
「主様と一緒の3月がお誕生日で嬉しいです」
 嬉々とする斑雪を見つめながら、桃は少し考え込んでいた。
 斑雪が不思議そうに桃を窺うと、
「プレゼントとか、ないんだ。ごめんね」
 心なしか言いづらそうに桃が斑雪を見る。
「プレゼントなんて全然いらないですっ」
 ――主様が主様なら、それで十分なんです。
 斑雪は胸の内に、ほんのりと温かなものを感じた。
 普段伝えない言葉だ。折角だから、もう少し。
 そんな気持ちが、桃に言葉を紡がせる。
「ずっと一緒にいようね」
「あ、え、えっと、主様……」
 珍しい桃の言葉に、斑雪はどう返事をしたものか迷った。
「こんなこと言うの初めてだけど」
「わーい、です」
 少し空々しい斑雪の反応に、戸惑っていることを感じて、桃は言葉を重ねた。
「だってはーちゃん、私より年下だから、将来のこと決めつけたらいけないなって」
 まだまだ先の方が長いであろう斑雪の未来。
 彼より少し長く世界を見つめている桃。
 どんな言葉が、斑雪を縛るか分からない。だから、今まで口にはしなかった、本心。
「拙者こそ、ずっと主様をお守りさせてください。拙者、立派なマキナになりますからねっ」
 純粋な目に捉えられる。
 照れを隠すためか、どんどん膨らんでいくマシュマロに桃は目を向ける。
「……ところで、このマシュマロをクッションにしてお昼寝したら気持ちよさそう」
 気候のせいか、少しずつ眠気が桃を捕まえに来ていた。
 ふわふわと膨らんで大きくなったマシュマロに、ぼふりと顔を埋めて寝入ってしまう。
「主様、お外で寝るにはまだ寒いですよー」
 ワクワクしながら見守っていた妖精が、屋根を枕にされて慌てているのだが、斑雪が無邪気な笑顔で声をかけた。
「妖精さん。もしマシュマロが余ったらもらってもいいですか?」
 とても気持ちよさそうだから、このマシュマロがあれば家でもぐっすり眠れるだろうから、と。

 この後、桃が枕にしたマシュマロを引っ張り出すために、妖精は四苦八苦していた。


 大層な素振りで、妖精が額の汗を拭った。
「一時はどうなることかと思ったけど」
 吹き飛んだ屋根は、ウィンクルムの助力によって立派な屋根に変わった。
「ありがとうな!」
 もこもこと膨らんでいるマシュマロに、妖精はご満悦だ。
 これでしばらくは、雨風が凌げる。
「屋根の予備はまだあるから、またなくなったら手伝ってくれよな!」

 妖精が踊り出しそうなほど喜んでいるので、屋根の取り換えは成功したようだ。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 真崎 華凪
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月01日
出発日 03月09日 00:00
予定納品日 03月19日

参加者

会議室

  • [10]上巳 桃

    2016/03/08-21:22 

  • [9]桜倉 歌菜

    2016/03/08-00:14 

  • [8]桜倉 歌菜

    2016/03/08-00:14 

  • 私はレベッカ。それでこちらがエッカートさん。
    今回はよろしくね。
    不思議なマシュマロもあるものなのね。
    愛、か。…果たして大きくできるのかしら。

  • [6]上巳 桃

    2016/03/06-21:44 

    こんにちはー。
    上巳桃と精霊のはーちゃんこと斑雪です、よろしくっ。
    マシュマロは白で、中にジャムがちょこっと入ってるのが好きです

    (でも、アイコンはおにく)

  • [5]エリー・アッシェン

    2016/03/05-22:00 

    エリー・アッシェンとラダさんで参加します。どうぞよろしくお願いします!
    うふふ。愛の言葉で膨らむなんて、お得な感じのマシュマロですね!
    食い意地の張ったラダさんがつまみ食いをしないよう、私が見張っておきましょう……。

  • [4]桜倉 歌菜

    2016/03/05-00:29 

    桜倉歌菜と申します。パートナーは羽純くんです。
    皆様、宜しくお願い致します!

    愛の力(照)で大きくなるマシュマロ…!
    何だか凄くロマンチックですねっ
    沢山大きく出来るよう、頑張れたらなと…!

  • [3]蓮城 重音

    2016/03/04-23:32 

    蓮城重音といいます。
    みなさん、よろしくお願いします。

    マシュマロが大きくなるなんて不思議ですねぇ。
    どれ位大きくなるのかしら、楽しみだわ。

  • [2]桜倉 歌菜

    2016/03/04-01:04 

  • [1]上巳 桃

    2016/03/04-00:42 


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