プロローグ
ショコランドが賑わう中、カカオの精たちもその賑わいを楽しんでいた。
「行け!」
「そこだ!」
ぐるりと囲むように、妖精たちが集まっている。飛び跳ねたり、羽を使って文字通りの高みの見物をしたりと、その様相は様々だ。
通りかかったウィンクルムが、何事かと覗いてみる。
頬にチョコレートをつけたカカオの精と、口の周りにチョコを髭の様につけたカカオの精が、手押し相撲をしていた。
腰には、どういうわけか風船がついている。
「今度こそ勝つ!」
そう勢いよく手をぱちんと押し合って、足元の土俵に見立てた石から落ちないように二人の妖精が踏ん張っている。
なんとも和やかな光景だ。幸せな時間に包まれる。
二人の妖精の決着がつき、先を急ごうと踵を返したタイミングで、声をかけられた。
「そこのウィンクルムもやってみないか?」
「えっ?」
まさかの申し出に、声を上げてしまった。
妖精は、悪戯好きだ。やけにしたり顔なのは、きっとそのせいだ。
「応援するぜ!」
なにを、と聞きそうになったが、ひらひらとチョコレート色の服を着た妖精がやってくると、耳元で囁いた。
「手押し相撲なんて、アンタらのチャンスじゃん?」
何がどうチャンスなのかは、あえて聞かずにおく。
が。
「ねえ、やってみようよ」
意外と乗り気なパートナーに誘われるまま、ウィンクルムが中央へと招かれる。
ウィンクルムのサイズに合うように、土俵も大きさを変えている。
妖精たちの仕事の速さに、驚いてしまう。
「あ、言い忘れてたけど、激苦スウィートドリンクを飲むっていう罰ゲームもあるからな」
あのチョコの髭は――つまりそういうことか。
解説
ウィンクルムで手押し相撲対決。
ルール解説:
腰に風船を3つ付けて勝負開始。
3回勝負で、2回先に負けた方が「カカオ100%激苦スウィートドリンク」を飲む、という罰ゲームがあります。
パーンってやったらドーンって終わる感じです。
割と近い距離になるので、その距離感も楽しんで頂ければと。
教えて頂きたいこととしまして、
・勝った時の反応
・負けた時の反応
・カカオドリンクを飲んだ時の反応
を教えてください。
他にも諸情報があれば、可能であればでかまいませんので教えてください。
腰につけた風船は、妖精が割ってくれます。
(大きな音はしませんので、ご安心ください)
参加費として300Jrを頂きます。
ゲームマスターより
手押し相撲できゃっきゃしてるのって、可愛いなぁと思います。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
手押し相撲か~楽しそう! ふふ、いくら恋人だからって手加減しないんだから(見かけによらず負けず嫌いその1) 勝負だよ、エミリオ!(楽しそうに) ・勝った時の反応 …うそ、勝っちゃった!? やった、やった!私の勝ちー♪(ぴょんぴょん飛び跳ね) 後で皆(友人ウィンクルム)にエミリオに勝ったよってラインしなくちゃ…いひゃい、いひゃい、ほっぺたつねっちゃいやー(じたばた) ・負けた時の反応 あちゃ~負けちゃった…残念(しゅん) でもでも次は負けないんだからっ(ぐっと握りこぶし) やっぱりエミリオは強いね!尊敬しちゃう(目キラキラ) ・カカオドリンクを飲んだ時の反応 にがっ、苦い~! 実は私苦いの嫌いなの うう、でも全部飲まなきゃ |
真衣(ベルンハルト)
手押しずもう。楽しそう! 手だけで押しあうのね。あ、そうだ。 ハルト、わざと負けるのはだめよ? このぐらいかしら。えいっ。(押す わわっ。 バランスとるのがたいへんね。思いっきりだとたおれるかも? うーん、でも思いっきりしないとハルト動かないわよね。 ていっ。きゃ!(前に倒れる ぜんぜん動かない。(ぷくっとむくれる やっぱり、おとな相手だとむずかしいのね。 でも。ハルトとこうやって遊ぶの、そんなにないから楽しい! もう1回、えいっ!(ぐっと押す えへ、負けちゃった。うん!(笑顔 カカオ100%って、どのくらい苦いのかしら。 にがーい!(少し飲んで半泣き ううん、決まりだもの。飲めるところまでがんばる……。 うん、ありがとう。 |
レベッカ・ヴェスター(トレイス・エッカート)
罰ゲームがある以上、負けるのはいやよ やるからには勝つ!これしかないわ それにしても… あのドリンクを飲めばエッカートさんも表情変わったりするのかしら? それにはちょっと、興味あるわね 思ったより近いというか…、首が痛い(身長差 待って待って精神攻撃は卑怯だから! ・勝 やった!と思わず拳握ってガッツポーズ じゃ、罰ゲームよね?とドリンク勧めるもあまり変化なくてがっかり ・負 う、嘘でしょ…と項垂れ 少しくらい手加減してくれてもと恨めしく思うも勝負だしと自分納得させ ・ドリンク 実物を前にして若干怯むも二言があってはならないと思い切って口を付ける 苦い、と呟き顔をしかめていたものの精霊の行動にぱちくり これ、罰ゲーム…よね? |
マーベリィ・ハートベル(ユリシアン・クロスタッド)
急な展開にあわあわ 「は、はい、お相手努めさせて頂きます 1戦 手の大きさにドキリ 手加減してくれているの感じる 立場的に勝って頂きたいと考え、少し押したりして様子伺う 「はい! 勝ち、焦り 2戦 楽しんでいらっしゃる わざと負けたらきっと快くお思いにならない… 負けたいとつい思ってしまう葛藤で集中できずバランス崩す (あ、負ける…良かった 抱き寄せられ言葉に詰まる「…!? 勝ち、大恐縮 飲んでいる彼見て 2戦目はどう考えても自分の負けなので おろおろ「私に半分受け持たせて頂けないでしょうか? 片手で制され大丈夫の意思表示されてしまい見守る 髭を拭ってもらうため さわやかポケT 差出す 笑顔「立派でございます 言葉に腰支えの行動繋がり 赤面 |
風架(テレンス)
先に2回勝利 手押し相撲……へえ、なんか楽しそう テレンス、遠慮はいらないよ。どーんばーんとやっちゃってー だから良いんだって。変に遠慮されたらやりにくいって あーはいはい。意見は後で あれま、勝っちゃった 手押し相撲ってけっこう距離縮まるんだびっくりした 距離縮まった時、上半分見えていなかったが自然とテレンス、顔綺麗だなぁと感じた カカオって苦いって言うよね。やっぱり苦いの? 99%でもカカオは苦いって言うけど、本当に苦かったんだ… うん、食べたことないよ普通のチョコレートしか …にしてもテレンスの手、温かかったなぁ 掌から伝わったぬくもりを思い出し、微笑む テレンス楽しかった? それは良かった…で良いの? |
●
「せっかっくのお誘いだ、やってみようか」
ユリシアン・クロスタッドは乗り気にマーベリィ・ハートベルを誘った。
触れ合って遊ぶことなど、大人になってしまえばそうそう機会のあるものでもなく、かと言って理由もなく触れ合って遊ぼうというのも、おかしな話だ。
だから、これはいい機会だ。
「は、はい、お相手務めさせていただきます」
マーベリィも手を合わせるという行動に多少の緊張を隠せないようだった。
焦りが見て取れる。
妖精がひらひらと羽ばたいて二人の間で止まると、声を張る。
「いくぜ、レディー……ゴー!」
ぱちん、と小さな音を立てて、ユリシアンの手とマーベリィの手がぶつかる。
ユリシアンの大きな手は、マーベリィの心を少しだけ乱す。
一方でユリシアンは、彼女の小さな手に、愛しさが募った。
――もっと触れていたい。
そんな気持ちが、ユリシアンに手加減をさせる。
マーベリィが、彼に勝ってほしいと、様子を窺いながら押しているのを感じたとしても、もう、既に彼の中でマーベリィは守るべき人。
――無理、だよ。
思わず、くすりと笑みがこぼれる。
勝てるわけがない。
「だ、旦那様っ?」
マーベリィは、必死な様子だ。
不意に笑ったユリシアンに疑念混じりの声をかけてしまうほどに。
「勝っても負けても、恨みっこなしだ」
「は、はい!」
再び二人の掌がパン、と打ち合わされる。
ユリシアンが少しバランスを崩し、規定された土俵の外へ出てしまう。
「あっ……」
「ふふっ、ぼくの負けだ」
マーベリィが声を上げたが、ユリシアンは嬉しそうだ。
「精霊の負ーけ!」
妖精が嬉々としてユリシアンの腰についた風船を一つ割る。
「後がないな……、勝負だ、マリィ」
二勝すれば勝ちのルールだ。ユリシアンには、一度の負けも、もうできない。
が。
(楽しんでらっしゃる……!)
それがマーベリィに伝わっても、わざと負けたりすればユリシアンは快く思わない。
(ど、どうすれば……)
あたふたとしていると、妖精が開始の掛け声をかけた。
二人がぱちんと音を立てて掌を合わせる。
マーベリィは、ただただ、ユリシアンに勝ってほしいだけだ。だが、負けに行くことも難しい。
悩んで葛藤していたせいか、押し合いに集中できず、うっかりとマーベリィがバランスを崩した。
(あ、負ける……良かった)
安堵した。
けれど、倒れそうになるマーベリィの腰をぐっと引き寄せる力に捉えられた。
「あれ?」
マーベリィが土俵から出るより先に抱き止めてしまったものだから、どうしようかな、とユリシアンが微笑みながら首を傾げている。
「ぼくの反則負けだね、これ」
「……!?」
咄嗟に手が出てしまったらしいユリシアンの腕にすっぽりと収まってしまったマーベリィは、固まってしまっていた。
くすっとユリシアンが笑って、
「この勝負、初めからぼくに勝ちはないよ」
そう言いながら、少しだけ身体を離す。
――ぼくが、きみに勝てるわけないよ。
「ウィンクルムでいる時、ぼくはきみの『ナイト』だからね」
そっと抱き寄せた身体を開放して、マーベリィに片目を瞑って見せる。
「精霊の2敗ー!」
パンっと小さく風船の割れる音がした。
そして、妖精はユリシアンに罰ゲームにと用意したドリンクを手渡す。
「苦いのは得意だけど、これは手強そうだ」
「私に半分持たせていただけないでしょうか?」
2戦目はどう見てもマーベリィの負けだった。それなのに、ユリシアンにだけ罰ゲームをさせていいのかという罪悪感がある。
しかし、ユリシアンはその申し出を、「大丈夫」と片手で制した。
見るからに苦みを醸し出しているカカオドリンクを一気に呷る。
眉根を寄せて苦悶する表情に、マーベリィがおろおろしている。それを察したのか、ユリシアンがグラスを外して、チョコ髭の付いた顔をマーベリィに見せた。
「似合ってる?」
マーベリィはさわやかポケTを取り出す。
「立派でございます」
彼の優しさに、心が温かくなる。
●
「手押し相撲……へえ、なんか楽しそう」
妖精たちの誘いに、風架が好奇心のままテレンスに勝負を挑んだ。
テレンスは、手押し相撲と言う勝負にやりにくさを感じたのか、スケッチブックを取り出してさらりとペンを走らせる。
『しかし』
しかし、だ。風架は女性で、テレンスは男性。躊躇うのは当然の心理だ。
「テレンス、遠慮はいらないよ。どーんばーんとやっちゃってー」
『どーんにばーんだと、かえって危険では?』
それはつまり、全力でやれと言うことだろう。
「だから、いいんだって。変に遠慮されたらやりにくいって」
『遠慮をするなと言う方が無理だ』
「あー、はいはい。意見は後で」
聞く耳を持たない風架に、テレンスは再びペンを走らせた。
『承知』
承知はしたが、むろん渋々の了承だ。
風架が土俵で態勢を整える。テレンスも後に続いて、風架と向き合う。
「んじゃ、お二人さん、行くぜ。レディー、ゴー!」
妖精の掛け声と同時にパチンと両手を互いに合わせる。
思いの外強い力で押されて、テレンスがバランスを崩した。
足が一歩、土俵の外へと出る。
「テレンス、大丈夫?」
あっさりと勝ち星を付けた風架は少し拍子抜けだ。
妖精がテレンスの腰についた風船を小気味よく割る。
「もう一勝負。ばーんとやるよー」
頷くテレンスが、風架の前に立つ。
妖精の合図と同時に再度手を合わせる。
さほど縮まらないのではないかと思った手押し相撲だが、意外に距離が近い。
風架は、押し合う途中に、テレンスを見上げる。上半分はフードで見えないが、そんなことを抜きにして、思う。
(テレンス、顔綺麗だなぁ……)
思わず見惚れてしまいそうだ。
フードから覗く白金の髪も、色白の肌も、テレンスを彩る静かな美しさだ。
ぐっと、強い力で掌を押されて、ふと我に返るように、勝負の途中だったことを思い出す。
即座に思考を切り替え、テレンスの両手を勢いよく、力を込めて押し返す。
拮抗が続いていた力関係が崩され、テレンスがよろめいて姿勢を崩した。
「精霊の負けだな!」
「あれま、勝っちゃった」
パンッ、と妖精が風船を割った。
風架のストレート勝ちだ。
「手押し相撲って結構距離縮まるんだ。びっくりした」
言葉とは裏腹に、テレンスには驚いたように見えなかった。
そう伝えようとして、思い留まる。
妖精が持ってきたカカオドリンクに視線を移し、書きかけた素振りをごまかすためにも別の事を風架に伝えた。
『これを飲めばいいのか、承知』
テレンスはカカオドリンクをぐっと飲み下す。
いつもと何も変わらない様子だったせいか、風架が問う。
「カカオって苦いって言うよね。やっぱり苦いの?」
『美味い、と言えるものではないが、不味いわけでもない。カカオと言うのは、こんな味だったのか。とてつもなく、苦い』
表情を変えるようなことはなかったが、テレンスは相当『苦い』を表現していた顔だったのだろう。
とてつもなく苦いという感想に、風架が思案するように言葉を紡ぐ。
「99%でもカカオは苦いって言うけど、本当に苦かったんだ……」
『風架は食べたことないのか』
「うん、食べたことないよ。普通のチョコレートしか」
そこまで言って、風架は自分の掌を見つめた。
「……にしても、テレンスの手、温かかったなぁ」
しみじみと、噛み締めるように呟き、微笑む。
一瞬の触れ合いではあったが、掌を合わせた時の温もりは鮮明なほどに今も掌に残っている。
テレンスも、自分の掌を見つめた。
温かかった――。
「テレンス、楽しかった?」
問われて、思い返す。
『風架が楽しかったのなら、自分も楽しい』
スケッチブックに、素直な気持ちを記す。
それを見て、風架は、
「それは良かった……で良いの?」
と首を傾げて、もう一度微笑んだ。
●
レベッカ・ヴェスターに、負ける気は毛頭ない。
「罰ゲームがある以上、負けるのはいやよ。やるからには勝つ! これしかないわ」
どう考えても苦そうなドリンクを飲むなど、まっぴらだ。
レベッカは闘志を燃やしてトレイス・エッカートを見る。
「手押し相撲か。可愛らしい遊びだな」
「やったことある?」
「実際にやったことはないが、まあ、なんとかなるだろう」
トレイスはどこまでもマイペースだ。
しかし、とレベッカは思う。
(ドリンクを飲めば、エッカートさんも表情が変わったりするのかしら?)
周囲の反応を見るに、ドリンクは相当苦いようだ。となれば、ほとんど表情を変えないトレイスでも、表情が変わるかもしれない。
(それにはちょっと、興味あるわね)
妖精が合図をする。二人そろって土俵に立ち、準備をする。
――思ったより……
身長差がある。頭一つ分の差は、相当だ。
それに、考えていた以上に近い。
「……というか、首痛い」
小さな泣き言を口にしたところで、試合開始の掛け声がかかった。
両手を合わせ、押し合う。
――手も、小さいな……
トレイスは無意識にレベッカの手をぎゅっと握る。
「待って待って精神攻撃は卑怯だから!」
手を握られて、動揺したレベッカが声を上げる。
トレイスは涼しい顔をするばかりだ。
レベッカが力を込めて押すと、トレイスが少しバランスを崩し、土俵の外で体勢を整えた。
「やった!」
少しの油断を見事についたのだが、トレイスがここで表情を変えるはずもない。
トレイス残しの風船が一つ、妖精に割られて、2試合目が即座に始まる。
パン、と手を合わせて押し合う。
先ほどと同じように、トレイスはレベッカの手をぎゅっと握ってくる。
小さな手を包み込んでしまうのは意識の外にある庇護欲からなのだが、なにせ、無意識だ。
トレイスが自覚を持ってレベッカに精神的なダメージを与えているわけではない。
分かっていても動揺は隠せない。
再び押し合うと、レベッカがバランスを崩して土俵の外へと出てしまった。
(……これは、まずいわね……)
お互い後がない。
レベッカの腰の風船がパンと割れると、3試合目にまでもつれ込んだ試合が始まる。
妖精の合図で二人が掌を合わせると、驚くほどあっさりと決着した。
コツを掴んだトレイスが、上手くレベッカのタイミングに合わせて押したものだから、レベッカは容易く土俵から落とされてしまったのだ。
完全に勝つ気でいたレベッカは、呆然としてしまう。
「う、嘘でしょ……」
辛うじて出た言葉は、未だ現実を受け入れられない様子のもの。
花を持たせるという気の利いたことは、トレイスにはできなかった。
「俺の勝ちだな」
感情の起伏が相変わらず少ない。
もう少しくらい手加減してくれても、と思わないわけではないのだが、良くも悪くもそんな真似をしないのがトレイスだ。
勝負だ、と言い聞かせて、妖精が嬉しそうに差し出すカカオドリンクを受け取る。苦いイメージしかできない色と香りだ。
やや怯んでしまうが、二言があってはならないと、レベッカは思い切ってグラスに口をつける。
「に、苦い……!」
顔をしかめるレベッカの様子に、トレイスの好奇心が刺激される。
レベッカの手からグラスを取り上げると、味の想像がまるでできないカカオドリンクを飲んでみる。
何とも言えない味に、眉がぴくりと動いたが、目を瞬かせているレベッカが、その変化に気づいた様子はない。
「エッカートさん?」
「どんな味かと思ったが、飲めないことはないな」
いつも通りの涼しい顔で、そんなことを言う。
これは、敗者が飲むもので、それはつまるところ。
「これ、罰ゲーム……よね?」
勝ったトレイスが飲んでしまっては罰ゲームも何もあったものではない。
しかし、そんな罰ゲームよりも、自分の好奇心を満たすことを優先したトレイスに、思わず笑みが零れてしまう。
●
「手押しずもう。楽しそう!」
真衣がベルンハルトを誘った。
ベルンハルトは困った様子で、妖精の説明を嬉しそうに聞いている真衣を見つめる。
「手だけで押し合うのね。あ、そうだ。ハルト、わざと負けるのはだめよ?」
釘まで刺されて、ベルンハルトは更に困り顔になる。
――勝負以前の問題と言うか。
小さな真衣に、ベルンハルトが負けるはずがないのだ。かと言って、本当に勝ちに行くわけにもいかない。
――カカオ100%を飲ませる訳にも。
罰ゲームでカカオドリンクを飲んでいる参加者の顔を見れば、刺激が強いのであろうことは明白だ。
――加減はしなくては。
困った顔に笑みを浮かべて、準備を整える。
妖精の元気な掛け声を合図に、試合が開始された。
「このぐらいかしら。えいっ」
真衣が小さな手でベルンハルトを押した。
ベルンハルトも押し返しはするが、ほとんど力を入れていない状態だ。が、大人の男の力と言うのは、真衣には大きな力になる。
「わわっ」
「おっと」
バランスを崩しそうになる真衣に思わず手を出して支えかけたが、真衣が寸でで踏み留まった。
それに、真衣を支えてしまったらベルンハルトの反則負けになる。それを思えば、一瞬の躊躇いも生じる。
わざと負けられないなら、どうするべきだろうか。
そもそも、刺激の強い味は、子供には危険なのではないだろうか。
「バランス取るのがたいへんね。思いっきりだとたおれるかも?」
ベルンハルトの心配をよそに、真衣は勝負に勝つことを懸命に考えている。
「うーん、でも思いっきりしないとハルト動かないわよね」
「あんまり無茶はするなよ」
「ハルトを動かしてみせるんだから。いくわよ、ハルト。ていっ」
一つ小さく微笑んで、ベルンハルトが真衣の力を受け止める。
真衣は本当に思い切り押したようで、押し合った反動で姿勢を崩し、土俵を超えて前に倒れ込む。
「きゃ!」
「っと、危ない」
今度は躊躇することなく真衣をベルンハルトが受け止める。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
妖精がひらひらとやってきて、真衣の風船を割る。
「うーん。ハルト、もう一回!」
再び妖精の合図で手を合わせる。
真衣が力の限りで押しているのだが、当然ベルンハルトを動かせるほどの力はない。
「ぜんぜん動かない」
ぷくっと頬を膨らませてむくれる真衣に、ベルンハルトは微笑む。
真衣は、ころころと表情を変える。そんな姿はとても子供らしく、とても可愛い。
「やっぱり、おとな相手だとむずかしいのね」
「簡単だったら困るだろう」
「でも。ハルトとこうやって遊ぶの、そんなにないから楽しい!」
――そういえば……。
真衣と契約してからは、こんな風に遊ぶことはなかった。
だからこそ、真衣もいつも以上に楽しんでくれているのかもしれない。そう思えば、やはりわざと負けるわけにはいかないと思い直す。
「もう一回、えい!」
押される力に、ベルンハルトは加減する力を控えて、相応の力で押し返す。当然だが、真衣は容易にバランスを崩した。
「えへ、負けちゃった」
「楽しめたか?」
「うん!」
負けても楽しそうな真衣に、ベルンハルトは胸をなでおろす。
そして、真衣の目の前に差し出されたカカオドリンクを見て、どうしたものかと思案する。
「カカオ100%って、どのくらい苦いのかしら」
おずおずと真衣がグラスに口をつける。
「にがーい!」
ほんの少ししか口にはしていなかったが、泣きそうな顔だ。
「飲めないなら俺が飲もう」
真衣には刺激が強すぎると、ベルンハルトが申し出たが、真衣は首を横に振る。
「ううん、決まりだもの。飲めるところまでがんばる……」
「わかった。それなら、後で口直しに金平糖を食べよう」
「うん。ありがとう」
真衣が涙目になりながらカカオドリンクを飲む姿に、妖精も懸命な応援を送る。
その後、金平糖を口に入れた真衣の嬉しそうな顔は周囲を安心させるには十分だった。
●
「手押し相撲か~、楽しそう!」
通りかかったミサ・フルールがエミリオ・シュトルツの手を引く。
「やってみようよ、エミリオ」
「何? ミサのくせに俺に勝負を挑もうっていうの?」
くす、とエミリオは悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「いくら恋人だからって手加減しないんだから」
楽しげに勝負を挑むミサに、エミリオは負けじと言葉を返す。
「それはこっちの台詞だよ。勝つのは俺だ」
勝負には勝つ。それがこの二人の譲れないもの。――つまるところ、二人とも負けず嫌いなのだ。
「勝負だよ、エミリオ!」
「ふふ、いいよ。かかってきなよ」
楽しそうに二人は土俵へと上がる。腰に風船をつけると、妖精が元気な声で試合開始を告げた。
パンッ、と掌を合わせる。
ミサの力は、エミリオにしてみれば可愛いものだ。
――でも、負ける気はないよ。
エミリオは勝つことに本気だ。当然ミサも本気だが、埋まらない体格差に、押し合う手を一度離す。
「やっぱりびくともしないね」
「当然だ」
ふらふらしてなどいられない。そんなことでは――。
再び両掌を打ち合わせる。
少し思考を他のところへと外していたエミリオの動きが一瞬遅れた。
「――?」
ふわりとした感触が、掌に伝わる。
「マシュマロを掴ん……」
「マシュマロじゃないよ! 何触ってるの!」
思い切りミサに押されて、身構えられなかったエミリオが土俵の外に押し出されてしまう。
何が起こったのかいまいち理解できないエミリオは、僅かに呆然としたが、ミサが顔を真っ赤にしているところを見れば、なんとなく察せてしまう。
「ミサ。これはハプニングだ」
「もうっ!」
むっとしてみせるミサに、悪いとは思うものの、思わず笑みがこぼれる。
「で、でも、私の勝ちだよ! エミリオに勝ったって皆に教えな……いひゃい、いひゃい!」
ミサの頬をむに、と抓る。
懸命な強がりも可愛いが、友人に言いふらされてはたまったものではない。
頬を抓っていた手を、頭に置いてよしよしと撫でる。ここで褒めておくのも、エミリオの策。
「俺に勝つなんてすごいじゃない。えらいいえらい」
「子供扱いしないでよ」
「え? 違うよ。恋人扱いだよ」
面白そうに眼を眇めて笑う。
エミリオの腰の風船が一つ割れる。そして、2試合目の合図がかかった。
「今度は負けないよ」
「私も負けないんだから」
そう言いながら押し合う。が、完全にミサの動きが硬い。
あっけなく押し出されて、2試合目はエミリオの勝利となった。
平静を装っていても、ミサの動揺は隠せなかった。
恋人として、どれだけ近くにいても、こんな表情を見せるミサは、やはり可愛く映る。
「ミサ、大丈夫だよ。もう絶対にハプニングは起こさないから」
くすくすとエミリオが笑うと、ミサもつられて笑う。
――ハプニングは、ね。
なんてことは、さすがにミサには言えなかったけれど。
「次は負けないんだからっ」
「ミサのくせに」
3試合目の合図と同時に、掌を合わせる。
押し合って、時々引いてみる。
何度目かの押し合いの後、ミサがふらついて前のめりに倒れた。
とっさにその身体をエミリオが受け止める。
「ミサの負けだね」
「う~、悔しい。やっぱりエミリオは強いね! 尊敬しちゃう」
負けてもミサは目を輝かせている。思わず、その耳元に囁く。
「お前を守るためにどれだけトレーニングしてると思ってるの」
「え?」
「ふふ、何でもないよ」
こんなことで負けられない。
そんなことでは……
――お前を守れない。
ふっと笑みをこぼして、ミサが罰ゲームにと出されて持つカカオドリンクを見る。
「苦そうだね」
「実は私、苦いの嫌いなの」
少しの泣き言を洩らしながら、ミサはグラスに注がれたカカオドリンクを飲む。
「にがっ、苦い~!」
見た目通りの飲み物に、予想通りの反応が返ってきて、エミリオは顔を背けて笑いを押し殺している。
「頑張れ、ミサ……ふふっ」
「もう、エミリオ、笑い過ぎ! ああ、でも全部の飲まなきゃ」
ミサはほとんど泣きそうになりながら、少しずつカカオドリンクの量を減らしていった。
●
参加者全ての試合が終わると、妖精が金平糖を手にウィンクルムの元へやってきた。
「今日はありがとうな!」
チョコ髭を付けた妖精が、満面の笑みでウィンクルムの手を握った。妖精なりの、握手の様だ。
「楽しんでもらえたら嬉しい。また遊ぼうな」
大きく両手をぶんぶんと振り、次の機会を願う。
――せめて次は甘いカカオでありますように。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 真崎 華凪 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 03月05日 |
出発日 | 03月13日 00:00 |
予定納品日 | 03月23日 |
参加者
- ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
- 真衣(ベルンハルト)
- レベッカ・ヴェスター(トレイス・エッカート)
- マーベリィ・ハートベル(ユリシアン・クロスタッド)
- 風架(テレンス)
会議室
-
2016/03/12-19:05
レベッカよ。よろしく。
罰ゲーム……、これは負けられないわね。 -
2016/03/11-23:49
-
2016/03/11-23:49
こんばんは、ミサです!
パートナーのエミリオと参加するよ、よろしくねっ
初めましての人は初めまして!
手押し相撲対決とても楽しみ♪
エミリオに勝てるように頑張らなくっちゃ(ぐっ) -
2016/03/08-22:40
真衣です!よろしくね。
手押しずもうは楽しそうだけど。
にがいのは飲みたくないから、勝てるようにがんばる。
ふうせんは負けたらわるのかしら? -
2016/03/08-19:46
えーと、
カザカ、だよよろしく。精霊はテレンス
手押し相撲……なんか楽しそうだね? -
2016/03/08-18:51
どうぞよろしくお願いいたします