【祝祭】内緒のスイーツプレゼント(木口アキノ マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

 タブロス市内にある某料理教室。
 精霊は本日、自らのパートナーである神人に内緒でここに来ていた。
 その目的は、というと。

「―――できた―――」
 目の前の自作スイーツを眺め、ほう、とため息をつく。
「喜んでくれるかな」
 精霊は、神人の顔を思い浮かべる。
 先月、バレンタインデーにチョコレートをくれた神人の顔を。
 そう、精霊は、ホワイトデーにチョコのお返しとして、こっそりスイーツを作りプレゼントしようと試みたのだ。
 そして、料理教室で開催された「バレンタインのお返しを作ろう!男性限定スイーツ講座」に参加したのである。
 しかし、出来上がったスイーツの見た目も、味も、何か足りないような気がしてならない。
「そうだ!」
 彼は思いついた。
 現在ショコランドのブランチ山脈付近には、祝福の金平糖が散らばっているという。
 その金平糖はとても甘く美味しいとも聞いた。
 祝福の金平糖を自分が作ったスイーツにトッピングすれば、それはそれは素敵なものが出来上がるのではないか。
 丁度、A.R.O.A.から「ウィンクルムはできるだけ多くの金平糖を集めよ」との指示も出ている。
 金平糖を集める名目でデートに誘い、手作りスイーツをプレゼント。そして2人で金平糖を少しトッピングしよう。
 そう決めた精霊は、神人をブランチ山脈の麓にある椿園に誘うことにした。

 美しい椿を眺めつつ散策し、金平糖を集め、最後にスイーツのサプライズプレゼント。
 さて、精霊の計画は上手くいくだろうか?

解説

 スイーツ製作費及び椿園入園料として【700ジェール】いただきます。
 精霊の作ったスイーツは「レアチーズケーキ」「シュークリーム」「苺タルト」のいずれかをお選びください。
 料理教室で作っていますので、料理の不得意な精霊でも味はそれなりだと思います。
 ラッピングは精霊のセンスにお任せします。プランにて指定がない場合はこちらで描写させていただきます。
 精霊から神人に宛てたメッセージなどもあると嬉しいですね。

 椿園は和風の庭園のようになっており、玉砂利に石畳の路、鯉のいる池が設けられています。
 また、随所に東屋があり休めるようになっています。
 全て回りきるには3時間くらいかかります。

 さて、精霊のサプライズプレゼント、神人であるあなたはどんな反応をするのでしょうか?
 あ、トッピング用以外の金平糖も集めるのを忘れないでくださいね。

ゲームマスターより

 お返しを期待してチョコをあげたわけじゃないけれど……それでもやっぱり貰えると嬉しいですよね、バレンタインデーのお返し。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)

  ☆椿園散策
エミリオ今日は誘ってくれてありがとう!
金平糖たくさん集めようねっ
(繋いだ手が絆創膏だらけなのに気づき)その手の怪我、どうしたの?(心配そうに)
トレーニング中に?もう、気をつけてね(エミリオが怪我をするなんて珍しいな)

わあっ、綺麗な椿だね!
素敵、夢の中にいるみたい(うっとり)
エミリオ、何かいった?

ふー金平糖、これくらいでいいかな
そだね、休憩しよう

☆サプライズプレゼント
(驚いて)これ、エミリオが作ったの?
っ、(精霊が怪我をした本当の理由を察する)
いただきます
・・・私、こんなにおいしいケーキ初めて食べたよ
ありがとう、エミリオ・・・っ(泣き笑い)
西洋の花言葉?
何ていうの?(精霊の囁きに赤面)


月野 輝(アルベルト)
  誘われたの嬉しかったし喜んで行くと言ったんだけど
何か企んでる?
警戒してるって言うか
アルの笑顔の種類、見分けられるようになってるのよ、これでも

何でもないって言われたけど
さっきからずっと持ってる手提げ袋も気になるのよね
いつもあまり荷物持たないのに

でも椿園を歩いてるうちにそんな事は忘れてて
椿は綺麗だし金平糖も可愛いし
何より一緒に歩いてるのが嬉しくて
ちょっとくらいなら…って
腕を絡めたらまた笑われて、自分でも赤くなるのが分かって
ふふっ、でも楽しい

そろそろ散策も終わりかなって思ったら
あの袋から出てきたプレゼント
手作りって聞いて目を瞠って
カードの言葉に顔を見上げたら優しい笑顔に胸が高鳴って

いつでも大丈夫、よ


かのん(天藍)
  金平糖集めに誘われ椿園へ
見つける度道から離れ拾い集める
天藍見てください、椿のお花の中にも金平糖が入っています
はしゃいで楽しそうって…恥ずかしいです

バレンタインのお返し?
今年天藍にチョコ渡せなかったのに良いんでしょうか…
チョコよりも欲しかった言葉を貰ったの言葉にカカオの精の悪戯の一件で伝えた言葉思い出し本心だけど頬が染まる

折角なので2人で食べませんか?
タルトの影にあるカードを見つける
今回はちゃんと意味を分かって使った、と言われ花の指輪を作った時知らせた四つ葉の花言葉Be mineを思い出す

おせちを2人で作った時の話から心の何処かで待ってた彼の言葉
喜びと嬉しさに涙浮かび返答
はい、よろしくお願いします


夢路 希望(スノー・ラビット)
  椿園:
わぁ…風流ですね…
(スノーくんに椿…絵になります)
綺麗です
…え、えっと…あ、袋を持ってきたので金平糖はこちらにどうぞ

散策中
視線に振り向けば笑みを返され赤面しつつ黙々金平糖探し

結構拾えましたね
…おやつ、ですか?

東屋:
促されて目を閉じ、合図で開けば瞬いて
…これ、スノーくんが?
添えられた手にドキドキしつつ金平糖を飾る
凄く嬉しいです
えっと、じゃあ…いただきます
優しい味に自然と笑み
美味しい
きっと二人で食べればもっと…
勇気出し
…あーん

あれ?
カードに気付き読んで赤面
恥ずかしいけど視線合わせ
私の方こそ…あ、あの…私…私も、スノーくんが…す、す…っ
好きの二言がなかなか言えず俯く
ちゃんと言葉にしたいのに


シャルティ(グルナ・カリエンテ)
  あ、グルナ
なに? …なにか用事でもあるの
…なんか、らしくないわね…?
いつもなら、言いたいことははっきり言うのにって
別に。悪いなんてことないけど…?
えっ? …私、に?
そりゃあ、好きだけど……

はっ? 手紙……
あ、ああ…そう。じゃあ後で読む
…あ。これ、ありがとう
たった一行だけの文章だが、濃い消し痕に思わず笑ってしまう
『これからもよろしく』
……。グルナにしては、結構頑張ったみたい、ね
不格好だけれどお菓子も嬉しい


 普通に購入した物でもいいか。
 初めはそう考えていたアルベルトだがこの講座の存在を知り、彼女なら手作りの方が喜ぶのでは、と思い直した。
 それに、彼女が驚く顔も見たい。
 そんな気持ちで参加したこの講座。
 教室には、丁寧に調理に取り組んでいるスノー・ラビットをはじめ、見知った顔が並ぶ。
「こういうの、得意じゃねぇんだけど……」
 と独り言ち泡立て器で卵と格闘しているグルナ・カリエンテ。
 いつもの冷静さはどこへやら、慣れない調理器具に苦戦しているエミリオ・シュトルツ。
 自分なりのアレンジを加えようとしているのか、苺を眺め考え込んでいる天藍。
(皆考えることは一緒か)
 アルベルトはこっそり笑った。
 

 こういうのはガラじゃないけど。
(……まあ、世話になってるし、たまには悪くねぇか)
 グルナは手にした紙袋に視線を送る。
(あいつ、甘いの好きだしな)
 視線を、椿を眺めつつ金平糖も探しているシャルティに移した。
 プレゼントを用意したはいいが、どのタイミングで渡せばいいのやら。
 落ち着かず、そわそわしながら金平糖を探す。
 しかし、いつまでもこうしているわけにもいくまい。
 グルナは意を決した。
「あー………シャルティ?」
「あ、グルナ。なに?……なにか用事でもあるの」
 シャルティがこちらを向く。
「べ、別に……用事とか大それたもんじゃねぇけど……」
 切り出し方がわからず、グルナは頬を掻く。
「……なんか、らしくないわね……?」
 その一言に、つい苛立ちを含んだ口調で言い返してしまう。
「は? 俺らしくない……ってなんだよそれ……」
「いつもなら、言いたいことははっきり言うのにって」
「う、うるせぇな……悪いかよッ」
「別に。悪いなんてことないけど……?」
 シャルティはいつも通りだ。いつもと違うのは自分のほうだとグルナは自覚していた。落ち着かなくって、シャルティについ突っかかってしまっている。
 落ち着け、自分。グルナは深呼吸をひとつ。
 シャルティから視線を逸らし、手にしたボルドーの紙袋を差し出す。
「……。これ」
「えっ?」
 シャルティはきょとんとする。
「迷惑かけまくってるからよ……詫びも兼ねて、っつーか……」
「……私、に?」
「甘いもん、好きだろ?」
「そりゃあ、好きだけど……」
 金平糖を集めるために紙袋を持って来ていたのだと思っていたから、その中身が自分へのプレゼントだったなんて、シャルティは予想もしていなかった。
「んで、これも」
 グルナはポケットから小さな封筒を取り出すと、思考がついていっていないシャルティに、押し付けるようにして手渡した。
「はっ? 手紙……」
 シャルティは受け取った手紙をまじまじと眺める。
 言いたいことはその場でスパッと言うグルナが、わざわざ、手紙?
 顔を上げ、問うような眼をグルナに送ると、グルナも逸らしていた視線をぐいとシャルティに向け、低い声で一言。
「俺のいねぇとこで読め。……良いな?」
 ものすごく真剣な目だ。
「あ、ああ……そう。じゃあ後で読む」
 シャルティが答えると、グルナはほっとした表情になり「さて、金平糖探すかー」と、彼女に背を向けた。
 シャルティは一連の流れに唖然としていたが、はっと我に返る。
「……あ。これ、ありがとう」
 背中に向かってお礼を言うと、グルナは片手を挙げて応えた。
 シャルティは東屋を見つけ、そこで一休みしようと思い立つ。
 離れた場所で金平糖を探しているグルナにはあえて声をかけなかった。
 長椅子に腰かけ、シャルティはグルナからもらった手紙をそっと開ける。
 たった一行だけの文章。だが、その文字と重なって濃い消し痕があり、思わず笑ってしまう。
 書く言葉を考えに考えて、何度も書き直しているグルナの姿が目に浮かぶようだ。
『これからもよろしく』
「……」
 シャルティの口許に笑みが広がる。
(グルナにしては、結構頑張ったみたい、ね)
 紙袋を開けると、そこにはちょっと形の崩れたシュークリーム。はみ出たクリームに、無造作に入れた祝福の金平糖が乗っかっている。
 お店で売っているものに比べると不格好だけれど、そこがまた、嬉しかったりする。
 シャルティは、金平糖を拾っている自分の精霊を見つめた。
 いつになく優しい微笑みをたたえて。


「エミリオ今日は誘ってくれてありがとう!」
 椿園に降り注ぐ陽光。
 その光よりも輝いた笑顔のミサ・フルール。
「金平糖たくさん集めようねっ」
「ふふ、やる気満々だね」
 エミリオは紅の双眸を細め、ミサに手を差し出す。
「手、繋ごうか」
「うん」
 2人の手を重ねた時、ミサは違和感を覚える。視線を落とすと、絆創膏だらけのエミリオの手。
「その手の怪我、どうしたの?」
 ミサは心配そうにエミリオの顔を覗き込む。
「っ、トレーニング中にちょっとね」
 エミリオは一瞬動揺を見せるが、すぐに笑顔に戻る。
「トレーニング中に?もう、気をつけてね」
 いつも冷静な彼が怪我だなんて、珍しい。無茶なトレーニングをしたのでなければいいが。
 そんなミサの杞憂は、園内の椿がすぐに吹き飛ばしてくれた。
「わあっ、綺麗な椿だね!」
 栗色の瞳をきらきらさせる。
「素敵、夢の中にいるみたい」
 うっとりと椿に魅入るミサ。
「うん、とても綺麗な椿だね。でも俺は花よりお前の方が……」
「エミリオ、何かいった?」
「ううん、何でもない」
 つい、「お前の方が綺麗」だなんて台詞が口をついて出そうになり、エミリオは苦笑した。
「ほ、ほら、金平糖集めるよ」
 照れを隠すようにミサを促す。
 2人でピクニックバスケットにたくさんの金平糖を集め、ミサは満足げな溜息。
「ふー金平糖、これくらいでいいかな」
「これだけ集めれば十分でしょ。そろそろあそこの東屋で休憩しない?」
 エミリオが、すぐそばにある東屋を指す。
「そだね、休憩しよう」
 歩き疲れていたミサは、彼の提案に賛成する。
 エミリオは長椅子の上の埃を軽く払い、ミサを座らせると、彼女の目の前にすっとパステルピンクのリボンで飾られた白い箱を差し出した。
「えっ」
 ミサは驚いて、造花のピンクの椿が添えられたその箱を凝視する。
「開けてごらん」
 エミリオに促され、ミサはそっとリボンをほどく。蓋を開けると、可愛らしい苺タルトが。
「こ、これ……っ」
 ミサが顔を上げれば、はにかんだ顔のエミリオ。
「これ、エミリオが作ったの?」
「ミサみたい上手に作れなかったのだけど」
「……っ!」
 ミサは精霊が傷だらけの手をしていた理由に気付いた。
 慣れないことを……怪我までして、私のために……。
 そう考えると、ミサの胸が締め付けられた。
「食べて欲しいな」
 ミサの隣に腰を下ろしたエミリオは、苺タルトの上にピンクの金平糖をちょこんと乗せた。
 もちろん、とミサは頷く。
「いただきます」
 ぱくり、と一口。苺の酸味と、カスタードの甘さがミサの味覚を優しく刺激する。
「……私、こんなにおいしいケーキ初めて食べたよ」
「お前を思いながら作ったんだ」
 その言葉に、ミサの涙腺は脆くも決壊してしまう。
「ありがとう、エミリオ……っ」
「ちょ、泣くか笑うかどっちかにしなよ」
「だ、だってっ」
 泣き笑いのミサを、エミリオは嬉しそうに見つめ、造花の椿をすいと持ち上げる。
「ねえピンク色の椿の花言葉、何ていうか知ってる?」
「花言葉?」
 エミリオの口許に悪戯っぽい笑みが含まれていることに気付かず、素直に訊き返す。
「何ていうの?」
 エミリオはミサの耳にかかる髪を優しく除けると、そこへ唇を寄せる。
「恋しく、思う」
 囁かれた言葉は口づけのようにミサの耳を擽る。
 ミサの頬が椿と同じ桃色に染められた。


 椿園に足を踏み入れると、その景観の見事さに、スノー・ラビットは感嘆の息を漏らす。
「わぁ……風流ですね……」
 そう言う夢路 希望の視界の中央にあるのは椿ではなくスノーだったりする。
 スノーと椿。
(……絵になります)
「綺麗です」
 と、2人は微笑み合う。
 しかし、椿(とスノー)に見惚れてばかりもいられない。
「……え、えっと……あ、袋を持ってきたので金平糖はこちらにどうぞ」
 袋をスノーに差し出すと、希望は、スノーの手に既に手提げ袋があることに気付く。
 希望の視線に気づいて、スノーは人差し指を唇に当て笑った。
「こっちは、まだ秘密」
「秘密、ですか」
 そう言われては、希望もそれ以上の詮索はしない。
「たくさん集まるといいね、金平糖」
「はい」
 2人は椿の咲く小路を歩きながら、金平糖を探し始める。
 希望は椿を楽しみつつ金平糖を探しているが、スノーは気もそぞろ。
(どうやって渡そうか)
 そんなことを考えては、希望をちらちら見てしまう。
 椿の葉に乗る金平糖に手を伸ばしかけていた希望はスノーの視線を感じ振り返る。
 スノーは慌てて笑顔で誤魔化す。希望はスノーの笑顔に思わず赤面。
(集中しなくては)
 希望は真っ赤な顔で、黙々と金平糖集めに勤しむ。
「結構拾えましたね」
 やがて袋にはたくさんの金平糖。
「この辺で休憩にしておやつにしようか」
「……おやつ、ですか?」
 不思議そうな顔の希望を促し、東屋まで連れていく。
 椅子に腰を下ろした希望に、うきうきした様子のスノーが、
「少し目を閉じてて?」
 とお願いする。
「……こうですか?」
 希望が目を閉じると。
 とすん。何かが、テーブルの上に置かれる音がした。
「……ん、いいよ」
というスノーの声を合図に目を開く。 
 そこには、白い不織布に包まれたプラスチックケース。不織布はケースの上方でニンジンみたいな色のリボンできゅっと結ばれていて、端がウサギの耳のようにピンと立っている。
 その可愛らしさも目をひくが、なんといっても不織布に透けて見えるその中身。
 苺のタルトだ。
 希望は目をぱちくり。
「……これ、スノーくんが?」
 シンプルな苺のタルトに、もしかして、という考えが過る。
「うん、でもまだ完成してないんだ」
 スノーはケースの蓋を開けると、希望の手に先ほど集めた金平糖をいくつか渡す。
「これに金平糖を少しトッピングして……」
 希望の手にスノーの手が重なる。希望の胸が、高鳴る。
 添えられたスノーの手に導かれ、金平糖をトッピングしていく。
 胸がドキドキしすぎて、手まで震えそうになりながら。
 シンプルな苺のタルトは、小さな金平糖で可愛らしく仕上がった。
「バレンタインと誕生日をお祝いしてくれたお礼」
「凄く嬉しいです」
 早速食べてみてほしい、という期待のこもった瞳でスノーが微笑みかける。
「えっと、じゃあ……いただきます」
 一口齧れば、その優しい味に自然と笑みが浮かぶ。
「頑張ってみたんだけど、どうかな」
 スノーは心配そうに希望の顔を覗き込む。
「美味しい」
 希望の笑顔で、その言葉が嘘ではないことがわかる。
「……よかった」
 スノーに安堵の笑みがこぼれる。
(本当に、美味しい……きっと二人で食べればもっと……)
 希望はちらりとスノーを見る。
 スノーに笑顔を返されドキっとする。
 が、ここは勇気を出して。
「……あーん」
 タルトの一辺をフォークで掬い、おずおずとスノーの口許にタルトを差し出す。
 誰も見ていない。椿しか見ていない。
 だから。
 ぱくりと、スノーはタルトを口に入れる。
「うん、美味しくできてる」
 2人は微笑み合った。
 タルトを食べきったところで、ケースの底にハート型のメッセージカードがあることに気付く。
 記された言葉に、希望の頬はまたもや染まる。
『僕を見てくれて、傍にいてくれて、ありがとう
大好きです』
 大好き。
 スノーは真っ直ぐに、気持ちを伝えてくれる。自分も、それに応えたい。いつも、途中で勇気が挫けてしまうけれど。
「わ、私のほうこそ……」
 希望はますます真っ赤になりながらも、顔を上げる。
「……あ、あの……私……私も」
 スノーの瞳が希望を見つめ返す。
「スノーくんが……す、す……っ」
 「す」の次は?
 ああ、口から言葉が出てこない。
 好き、の二文字。
 ちゃんと言葉にしたいのに。
 振り絞っていた勇気がしゅるしゅる縮み、希望は俯いてしまう。
 自己嫌悪に囚われそうになった希望だが、優しく頭を撫でられ顔をあげる。
 スノーの優しい笑顔が、そこにはあった。
 言葉にならなくても、気持ちは十分に伝わっているから。
「ありがとう」
 スノーの声は、希望を自己嫌悪から救い上げてくれた。
 

 ショコランドに金平糖を集めに来た月野 輝とアルベルト。
「この近辺に、椿園があるそうだ」
 思い出したようにアルベルトが言う。
「椿の花を見て、ついでに金平糖を集めないか」
 誘いの言葉に、輝は笑顔で「行くわ!」と返事。
 だが、アルベルトが笑顔を返すと、輝の表情が僅かに曇る。
「何か企んでる?」
「おや、何故そんな警戒するのかな?」
 アルベルトは笑顔を崩さない。この笑顔が曲者なのだ。
「警戒してるって言うか。アルの笑顔の種類、見分けられるようになってるのよ、これでも」
 この腹黒眼鏡が輝をからかってやろうと企んでいるときの『良い笑顔』など、とうに見抜けるようになっている。
「考えすぎじゃないのか」
 とアルベルトは自分の顎をひと撫でした。
(習慣とは恐ろしい)
 どうやらいつもの癖で『良い笑顔』になってしまっていたようだ。
「それともう一つ」
「どうした?」
「その手提げ袋、どうしたの?」
 輝は、普段あまり荷物を持たないアルベルトが手提げ袋を持っていることが気にかかっていたのだ。
「ああ、これか。何でもない。それより、どうするんだ?」
 話しながら歩いているうちに、椿園の入口に辿り着いたようだ。
「それは……もちろん」
 ここまで来て、行かないという選択肢はない。

 輝の疑念は、椿園を歩いているうちにきれいさっぱり消えていた。
「鮮やかな赤い椿も綺麗だけれど、淡いピンクの椿も素敵だわ。あ、こっちの花びらが何重にもなっている椿、これは何ていう種類なのかしら」
 歓声をあげる輝に、アルベルトは兄のような笑顔を向ける。
 椿は美しいし、それを飾るように落ちている金平糖は可愛らしいし。
 何より、この風景の中をアルベルトと一緒に歩いているのが、嬉しい。
「ちょっとくらいなら……」
 人目もないことから思わず大胆になり、輝はアルベルトに腕を絡める。
 するとまたしても彼に笑われ、輝は頬を染める。
 だけどそんなやり取りも楽しくて。
「ふふっ」
 輝の唇からも笑い声が零れる。
 輝は、椿園での散策でアルベルトとの恋人としての時間を堪能した。
 出口が近づいてくるとほんのり寂しさも感じ、言葉少なになってくる。
 そんな輝の気持ちを察したのか、アルベルトが足を止めた。
「輝。返事はゆっくりで構わない」
 謎の言葉と共にアルベルトは、手提げ袋から小さな箱を取り出した。赤いリボンがまるで花のようにその箱を飾っている。
「これ……」
 輝がアルベルトを見つめると、そこには例の『良い笑顔』。
 なるほど、アルベルトはこれを狙っていたのか、と納得する。
 しかし、輝は甘かった。
 アルベルトの「企み」がこんな簡単なものであるはずがない。
 普通に渡したってつまらない。そう考えたアルベルトは、この中に特大の爆弾を仕掛けている。
 アルベルトは輝の目の前でするりとリボンをほどき、箱を開ける。
 中には、真っ赤な苺が乗ったタルト。
「美味しそう。どこのお店のかしら」
「私の手作りだが?」
「えっ」
 輝は目を瞠り苺タルトをじっと見つめる。
 アルベルトが自分のために作ってくれたお菓子。
 嬉しさに頬が上気する輝を見つめ、アルベルトは、苺タルトにして正解だったな、と思う。
 アルベルトがこのお菓子を選んだのは、苺が輝の赤くなった顔を連想させて、彼女に似合いそうだと思ったから。案の定、輝の頬は苺のように可愛らしい。口づけをしたら甘酸っぱいのではないかと思うほどに。
 輝は苺タルトの横にメッセージカードが添えてあることに気付いた。
 そこに記された言葉を目で追って、勢いよく顔をあげる。
『結婚式はいつにする』
 先ほどのアルベルトの言葉「返事はゆっくりで構わない」の意味がやっとわかった。
 見上げた先には、優しい笑顔のアルベルト。
 彼の笑顔の種類なら見分けられる。
 輝をからかう時の笑顔。何かを企んでいる時の笑顔。兄のような気持で自分を見ているときの笑顔。そして、今のこの優しい笑顔は――愛しい人を見つめる笑顔。
 輝の胸が高鳴り、唇は自然と言葉を紡いでいた。
「いつでも大丈夫、よ」


 椿園で金平糖を集めないか、と天藍に誘われて、かのんは一も二もなく頷いた。
 祝福の金平糖を集めるのはウィンクルムの務め。それを、椿を愛でながら行えるなんて、一石二鳥とはまさにこのこと。
「あ、金平糖ありましたよ」
 椿の根元に金平糖を見つけ、かのんは駆け出し道を外れる。
「天藍見てください!椿のお花の中にも金平糖が入っています」
 かのんが、大発見!と言うように天藍を振り返る。と、くすくす笑う天藍の姿が視界に入る。
「どうかしました?」
「いや。はしゃいでいて楽しそうだな、って思ってさ」
 言われて、かのんはかあ~っと赤くなる。子供じみた恥ずかしいところを見られてしまった。しかし、花の中に黄色の金平糖がころころと2つ入っている様子があまりにも可愛らしかったのだ。
「これは特別な金平糖かもしれないな」
 天藍はかのんの隣に並ぶと、ひょいとその金平糖を摘み上げ、大切なもののようにマカロンコインケースに入れた。
 そろそろ疲れてきたかな、という頃合いで、天藍が休憩を提案する。
 金平糖もかなり集まったし、少し足を休めてゆっくり椿を眺めるのも良いかもしれない。
 かのんは天藍とともに、東屋へ向かう。
 椅子に腰をおちつけたところで、天藍が、かのんの前にリボンのかかった箱をそっと置く。
 驚き天藍を見つめるかのんに、彼は微笑む。
「バレンタインのお返し、だよ」
「バレンタインのお返し?」
 今年は天藍にチョコを渡せなかったのに、お返しをもらっても良いものかどうか。
 かのんの躊躇いの理由がわかったのだろう、天藍が言う。
「チョコよりも欲しかった言葉を貰ったから」
 欲しかった言葉……。
(あ!あの時の!)
 かのんの脳裏に浮かぶのは、カカオの精の悪戯でなりゆきとはいえ「愛しています」と言ったあの日のこと。
 言わなければいけない状況だった、とはいえ、口から出たその言葉は本心で。だからこそ、思い出すと恥ずかしく。
 かのんの頬がじわじわと朱に染まっていく。
 赤い顔をしながらかのんが箱を開けると、綺麗にスライスされた苺が乗ったタルトがあった。
「苺がまるでお花みたいです」
 顔を綻ばせるかのんに、天藍は満足げに笑う。苺を花に見立てて彼がアレンジしたのだ。
「そこに、これを飾ろう」
 天藍はマカロンコインケースから黄色の金平糖を取り出した。
 微笑みあうと2人一緒に金平糖をスライス苺の花の中心に置く。
「折角なので2人で食べませんか?」
 天藍が頷き、かのんはフォークでタルトを分ける。その時、タルトの陰にあるメッセージカードが目に入った。
 かのんがカードを手にとると、天藍が
「今回はちゃんと意味を分かって使った」
 と伝える。
 カードには「愛している」の言葉と四つ葉のクローバーの絵。
 かのんは、共に花の指輪を作った時に語った四つ葉の花言葉を思い出す。
『Be mine』
 かのんが天藍の瞳を見つめる。
 天藍はかのんの手を優しく取り、穏やかな声で告げた。
「かのん、俺と結婚して欲しい」
 かのんの瞳がみるみるうちに潤んでいく。
 年末、一緒におせちを作った時から、期待していた言葉だったから。
 天藍とて、かのんと共に生きる約束が欲しかった。
 今までの関係や、今日カードを見たかのんの反応から、良い返事がもらえるという自信も得た。
 年末に両親に紹介したい事を話した時も嫌がってはなかった。
 だからこそ告げた言葉ではあったが。
「……いや、すぐに返事をしてくれとはいわないが」
 やはり少し、逃げ道を残してしまう。
 けれど、逃げ道なんて必要なかった。
「はい、よろしくお願いします」
 喜びと嬉しさに涙を浮かべて微笑みながら、かのんがそう答えたから。
 安堵の息を漏らし、天藍はかのんを優しく抱き寄せ、彼女の耳元に囁く。
「必ず幸せにする」
 風が吹き、椿の葉が揺れた。葉擦れの音は、まるで2人を祝福するように。



依頼結果:大成功
MVP
名前:かのん
呼び名:かのん
  名前:天藍
呼び名:天藍

 

メモリアルピンナップ


( イラストレーター: 渡辺純子  )


エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月03日
出発日 03月09日 00:00
予定納品日 03月19日

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