プロローグ
『――現在、確認できている情報から、警察とA.R.O.A.はウィンクルムを狙った何者かの犯行であるとの見解を示しておりますが、以前犯人は特定できておらず――』
ショコランドで作られた甘いお菓子の朝食を摂るウィンクルムに、嫌なニュースが告げられる。
「ウィンクルムに危害を加えているって……何のためにそんなことしているのでしょう」
怯えつつ、神人が精霊に問う。
「マントゥール教団の人間がまた動いているのかもしれない」
「でも、オーガが犯人だとは言っていませんでしたよ?」
「……確かにな。ウィンクルムを狙う理由があるのはオーガとマントゥールの連中くらいだと思うんだが、意味わかんねぇよ」
トーストを齧りながら、精霊が悪態をつく。
「けどまぁ」
精霊はテーブル向かいの神人の頭に手を置き、優しく撫でた。
「なんかあれば俺が護るから、安心しろよ」
「はい……」
照れた表情で精霊に頭を撫でられながら、神人は精霊の優しい微笑みを見やる。
ぶっきらぼうな態度を取りつつも、いつも優しく接してくれる精霊に、神人は心を許し恋を実らせた。
この人となら、ウィンクルムとしてだけではなく、生涯のパートナーとしてやっていけると思ったから。
神人は照れつつも精霊と目を合わせて微笑みを形作ろうとして、
――――気付いた。
精霊の後ろに巨大な両手剣の姿と、それを持つ人影を。
酷く虚ろな眼をし、渇いた表情をした人影は、神人と視線を合わせた。
「ひっ……!?」
眼を剥いて、精霊の後ろに指を指す神人。精霊は、神人の形相に、咄嗟の反応で後ろを向いた。
その反応速度は速く、並みの精霊の実力としてはそこそこのモノだ。
けれど。
「……あ、ぐ……っ」
ぐさり、と精霊の身体に巨大な両手剣が深々と突き刺さる。
精霊の表情が苦悶に彩られ、激痛に襲われていることが見て取れた。
「カイルくんっ!?」
目の前で愛する人が突き刺されている姿を見て、神人はほとんど悲鳴のように精霊に駆け寄ろうとする。
しかし、精霊はそれを許さないようにか細く、
「に、げろ……」
精霊が鎌を押さえつけながら、神人に言う。
「そんな、出来ないよ!」
それでも縋り付こうとする神人に、精霊は力を振り絞り、叫ぶ。
「いいから、逃げろ、マナぁ!!!!」
決死の形相で叫ぶ精霊に、神人は這う這うの体で部屋を出た。
泣き叫び、ぐちゃぐちゃの表情で街を駆ける。助けを、求める為に。
すると、神人の前に、一人の青年が立ち尽くしていた。
「――どうしたの?」
青年は癖のある髪の毛を揺らしながら、神人を落ち着かせながら話を聞く。
そして、感情を失った表情で携帯を取り出して、A.R.O.A.に連絡を入れる。ウィンクルムを要請し、この神人の精霊を助けるために。
ウィンクルムを傷つける輩に容赦は必要ない。青年は焦燥しきった神人をA.R.O.A.の保護下に置いた後、無表情のまま踵を返すともう一度どこかに電話をかけた。
解説
今回のエピソードにて戦闘になるのは、『怨嗟の金平糖』を口にしてしまい凶暴化している、過去に神人を亡くした精霊達、そして数匹のオーガです。
精霊達は自意識を失っていますが、戦闘経験から咄嗟の判断をする分、オーガよりタチが悪いかもしれません。
出現する精霊の人数は、参加者×1名で、一人ずつの戦闘となります。
オーガは出現しますが、戦闘の途中で必ず精霊に殺されるので、無視していても問題ございません。
出現する敵は以下の通りですが、戦闘となる敵はランダムです。(ヤックドロアに限り、全員に一匹ずつ出現します)
・シンクロサモナーの精霊。両手剣を使います。
・ハードブレイカーの精霊。両手斧を使います。
・テンペストダンサーの精霊。双剣を使います。
・ロイヤルナイトの精霊。片手剣を使います。
・エンドウィザードの精霊。両手杖を使います。
・ヤックドロア(参加人数×1)
※成功条件※
怪我を負った精霊『カイル』の救出。
いかなる理由でも、『カイル』を殺したり、死なせたりしないで連れ帰ってください。
また、むやみな殺生はやめましょう。
ゲームマスターより
布団から出たくない東雲柚葉です。
今回は、『怨嗟の金平糖』によって凶暴化してしまった精霊を倒すエピソードですね。
現在は自我を失ってしまっていますが、完全に意識が死んでしまったわけではないので、殺さないであげてくださいね!
ではでは、ご参加お待ちしております!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リチェルカーレ(シリウス)
カイルさん大丈夫かしら 早く見つけないと 救急セット(包帯や止血帯)準備 現場へ着いたらトランス カイルさんの名前を呼びながら探す >戦闘 シリウスの死角を補う位置から攻撃 連携して 攻撃を当て 相手の回避率を下げることを狙って 基本相手精霊優先 声かけしつつ カイルさんを助けに来たんです わたしたちはあなたの敵じゃない お願い 落ち着いてください ヤッグドロアは近づいてきたら迎え撃つ >戦闘後 カイルさんを見つけたら手当て 笹さんに包帯等渡す A.R.O.A.に連絡 救急車手配 怪我をした人の簡単な手当て 精霊が正気に戻っていなければ体に触れ 浄化ができないか試みる パートナーが怪我をして平気な人はいません 危ないことしないでって 皆思ってる |
手屋 笹(カガヤ・アクショア)
負傷者の報告があるそうなので救急セットを持っていきます。 カガヤとトランス&ハイトランス・ジェミニを行います。 ヤックドロアは動きが遅いはずなのでカガヤの敵ではないはず。 カガヤ、精霊さんの相手お願いしますね。 (カイルさんの元へ行く前に必須な場合は戦闘に参加します) 負傷者(カイルさん)に近づき 周辺に気をつけつつ 救急セットを用いて可能な限りの応急処置を行います。 (医学3) その後一緒に安全な場所へ移動します。 ・戦闘の場合 精霊さんとヤックドロアに対して距離を取り 神符を飛ばして攻撃していきます。 (ダメージを与えて弱らせる) カガヤが押さえた精霊さんに気を付けて近づき 肩に触れて金平糖の効果が消えないか試します。 |
夢路 希望(スノー・ラビット)
申請: ロープ 心情: 二人とも、きっとお互いを心配しています 早く安心させてあげたい 戦闘:開幕トランス&ハイトランス(初 助けたいのと力になりたい一心 声掛け連携図る 短剣効果で目眩まし狙い、ユキが行動できる隙を作れれば 攻撃には盾持ちユキの死角を守るよう立ち回る SSかHBかEWなら挙動注視し攻撃警戒 TDかRKなら動き回って隙作り 精霊さん無力化後 武器預かりロープで束縛 戦闘後: カイルさん見つけ次第声掛け意識確認、応急手当のお手伝い<医学 助けに来た事 マナさんは無事で今は保護されている事 あなたの帰りを待っている事を伝え励ます<メンタルヘルス 精霊さん: 怪我あれば手当て<医学 触れて正気に戻れば状況説明後謝罪し武器返還 |
八神 伊万里(アスカ・ベルウィレッジ)
到着後トランス オーガはアスカ君に任せて、アスカ君から離れすぎない範囲で狂暴化した精霊を探す 精霊を確認したらハイトランスへ移行 カイルさんを探しつつじりじり移動 時折アスカ君に視線をやって戦況を把握 敵がエンドウィザードだった場合はこちらへの魔法攻撃を警戒し、詠唱を始められたら回避に専念 もしカイルさんが精霊の近くにいれば引き剥がして保護を試みる 当然敵は動きの鈍いこちらを狙ってくる可能性があります そこをアスカ君に割って入ってもらいます それでも突っ込んで来たら迎撃 神人さんはもういないんですね… 悲しいけど、こればかりは私にもどうすることもできません ただ、あなたの心が少しでも癒されますように 精霊にそっと触れる |
エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
心情 殺害は避けますが、殺す気がないと相手にわかってしまうと厄介です。 早急にカイルさんを助けるためにも全力で戦います。 行動 トランスしてすぐハイトランスジェミニ。これで命中率が安定しますね。 私とラダさんの身体能力は同等。それを活かして立ち回りましょう。 敵精霊の武器を見てジョブを判断。 「散開。合図で同時にかかります」とラダさんに小声で指示。 挟み撃ちが理想ですが、無理なら単に二手にわかれ。 「今です」と合図。 敵精霊の腕を狙い攻撃。武器を手放させるのが目的です。 ブラッディローズ中は、私が狙われる確率が高いと判断。盾を構え守りの姿勢です。 負傷しているカイルさんを捜索。 仲間が応急処置をしてくれる間、周囲警戒。 |
☆手屋 笹 カガヤ・アクショア ペア☆
A.R.O.A.から要請を受け、手屋 笹とカガヤ・アクショアは散り散りに逃げていった精霊達を追っていた。
血奔った眼光を覗かせながら、精霊達は広大な敷地を誇る廃墟にて散り散りとなり、二人の目の前へと一人の精霊が降り立つ。カガヤは笹を背後で庇う姿勢を取り、巨大な両手斧を構える。
すると、精霊は背にベルトで括り付けていた両手剣を抜き、カガヤに鋭い眼光を向けた。
「……『私達の全ては、ただ潰滅の為にある』」
トランスが発動し、さらにもう一度笹がインスパイアスペルを唱えると、ハイトランス・ジェミニが発動した。吹き荒れる風が笹の巫女服を揺らし、距離が離れた精霊の元へさえも、旋風のように吹き荒んで行く。
「カガヤ、精霊さんの相手お願いしますね」
この付近にカイルが居る可能性がある以上、精霊を看過出来ない状況ではあるが、カイルの元へ行くことが最優先だ。
笹が精霊の真横を走り抜けようと駆け出す。
――瞬間、散在する瓦礫を吹き飛ばすかのようにして、ヤックドロアが出現した。
「……っ!?」
笹の眼前に出現したヤックドロアは、すぐにでも攻撃の動きを見せるだろう。
鈍重なオーガではあるが、危険なことに変わりはない。カガヤは両手斧を渾身の一撃でヤックドロアへ振り抜く。
しかし、カガヤの攻撃は大きな金属音と共に弾き返された。
「ぐっ!?」
精霊が、カガヤの斧の一撃を受け止め、弾き返したのだ。ヤックドロアはその隙を狙って魔法攻撃の準備を終えて、笹へと攻撃をするために動き出す。
「笹ちゃん!」
今度こそカガヤの口から笹を呼ぶ焦燥の声が吐き出され、弾き返された両手斧の勢いを無視して、腕力だけでもう一度斧での攻撃へと繋げる。
同時に、精霊の両手剣が青白く輝くウルフの頭部に似た形状へと変貌し、大きく横薙ぎに振るわれる。シンクロサモナーのスキル『ウルフファング』だ。
けれど、その攻撃はカガヤにも、笹にも加えられていない。笹がきょとんとした表情でヤックドロアの方を見やると、そこには身体半分を引き裂かれたヤックドロアの姿があった。
「助けてくれた……?」
精霊は、憑依していた狼状態から通常の状態へと戻り、笹を見やる。血走った眼でしっかりと笹を見据えて、つうっ、と一つ涙を溢した。
「……どうして俺を置いていった?」
ゆらり、と精霊の動きが怪しい動きへと変わり両手剣を握る力が、血が滲むほどのものとなる。
精霊はスキル『ダブルハート』を発動し、黒白の相反する翼を翻す。
そして、向上した膂力を持ってして、笹へと両手剣を振るった。
だが、今度はその一撃よりも、カガヤの一撃が早い。しっかりと距離を詰め『グリップビートⅡ』を行使。視線はしっかりと精霊を見据えたままに、ミスディレクションの用法で相手に行動を察知させずに両手剣を弾き飛ばした。
振り上げられたまま万歳の体勢になっている精霊に、カガヤは足払いを繰り出し、精霊を転ばせ手で両足を抑え付ける。
笹はその隙を突いて精霊の肩に手を触れさせた。
「神人を亡くした悲しみが暴走してしまっていたのですね……」
笹がそっと手を離すと、精霊に憑依していた『ダブルハート』の力と、『怨嗟の金平糖』の効力は消え失せた。
「……カガヤ、先を急ぎましょう」
「うん、急がないと」
同じ悲劇を繰り返してはならない。
二人は精霊を比較的安全な場所へ寝かせて、カイルを捜索しに駆けた。
☆八神 伊万里 アスカ・ベルウィレッジ ペア☆
精霊を追って到着したのは、瓦礫が積み上げられた廃墟。
身の丈程にもなる巨大な両手斧を軽々と持ち、精霊は八神 伊万里を睨みつける。
(ハードブレイカー……)
アスカ・ベルウィレッジは、精霊の横に鎮座しているヤックドロアを睨みつけながら、両手剣を構える。
「伊万里」
アスカに促され、八神が首肯してアスカに歩み寄った。
「『運命を切り拓く――朱い火の鳥のつがいが飛び立つ』」
インスパイアスペルの連続詠唱。発動せしは、ハイトランス・ジェミニだ。
発動と共に紫色のオーラが出現し、煌々と沸き出るオーラはまるで蝶のようにひらひらと舞っている。
八神は敵から目を逸らさないようにゆっくりとカイルを探すために移動を開始し、廃墟の中へと足を踏み入れてゆく。
しかし、もう少しで敵の死角に入り戦線から離脱できる、その瀬戸際で。
ヤックドロアが魔法攻撃の準備をし始め、狙いを八神に向けた。アスカがヤックドロアに近づき、魔法攻撃を阻止しようと両手剣を振りかざすが、重い両手剣での攻撃は頂点までに持っていくまでに時間がかかってしまう。
攻撃準備が整うかと思われたその時、精霊が突如として斧を振るい、『グランドクラッシャー』を発動した。
地面を削り取りながら放たれたその一撃はヤックドロアの身体をも粉砕し、魔法攻撃のために溜めたエネルギーが一気に霧散する。
(伊万里を、助けた……?)
アスカが怪訝そうに精霊を見やると、精霊はアスカを気にも留めない調子で八神の元へ歩き出した。
「僕のことなんで置いていったの?」
「……え」
精霊は八神にゆっくりと歩み寄り、胡乱気な瞳のままに斧を握りなおした。その瞳には、八神が映ってはいるが、八神を見ているようで見ていない。
「ずっと僕と一緒に居よう、ずっとね」
大きく持ち上げられた斧が、八神の顔に影を形作る。
「――させるか」
けれど、精霊の斧は八神のすぐ隣の地面に突き刺さって制止。
アスカが、精霊の斧の一撃を両手剣で弾き軌道を逸らしたのだ。
「邪魔をするなァ!」
精霊が地面に突き刺さった斧を引き抜く動作をした瞬間、アスカが両手剣を再び振るう。すると、精霊はその瞬間を待っていた、というようにニヤリと口角を歪ませて『グランドクラッシャー』を発動。
その一撃は、地面をアスカごと粉砕し、破壊する筈だった。
アスカが『グリップビート』で、精霊の斧を弾き飛ばしていなければ。
分けられたアスカの前髪から敵を射抜くような鋭い眼光が覗き、体勢を崩した精霊の鳩尾に、渾身の肘内が叩き込まれた。
空気が漏れるような声が精霊の口からこぼれ、がくん、と力を失って地面に倒れ伏す。
「神人さんはもういないんですね……」
八神が、倒れた精霊の前にしゃがみ込み、眉を顰めて悲しげに呟く。
「悲しいけど、こればかりは私にもどうすることもできません」
死者を甦らせるなどということは――誰にも出来ないのだから。
八神は、そっと精霊にふれて祈る。
「ただ、あなたの心が少しでも癒されますように」
浄化された『怨嗟の金平糖』が光となって空中を舞い、消えていった。
精霊の表情は穏やかなものに戻ったが、反面、アスカの表情は曇っている。
(神人を失って狂暴化か……『怨嗟の金平糖』のせいだけなのか、それとも……)
杞憂だと思いたい、けれど完全に否定は出来ない蟠りが胸中でざわめく。
(――俺も伊万里を失ったらこうなるんだろうか)
☆エリー・アッシェン ラダ・ブッチャー ペア☆
精霊を追って駆けていたエリー・アッシェンとラダ・ブッチャーは、瓦礫の山が形成されている廃墟へと行き着いた。
立ち塞がるは精霊とヤックドロア。カイルを捜索しようにも、邪魔があっては助けに行くことも困難だ。
「どうして精霊がボク達の邪魔するのぉ!?」
ラダが片手剣を構える精霊に投げかけるが、精霊からの返答はない。
「なんかオーガもいるし!?」
「……仕方がありません、無理矢理にでも通りましょう」
早急にカイルを助けなければ、命の危険がある。すぐにでも精霊とオーガを倒してカイルの元へ駆けつけたいが、オーガはともかくとして精霊に重症を負わせてしまうのはいただけない。
かといって殺す気がないと相手にわかってしまうのは、相手に隙を見せてしまうことと同義だ。
「ラダさん、ささっと終わらせてしまいましょう」
「うん、そうだねぇ!」
エリーがラダに歩み寄り、頬に口付けを落とす。
「『身は土塊に、魂は灰に』」
インスパイアスペルを一気に二度詠唱し、トランスからハイトランス・ジェミニへと移行させる。
エリーが、態勢を変えないままに横目で敵の装備を確認する。装備は盾と片手剣。まず間違いなくロイヤルナイトだろう。
「散開。合図で同時にかかります」
耳元でエリーがラダに小声で指示を出し、ラダも「わかったよぉ」と小声で承諾。
散開した二人は一気に左右から精霊の元へ駆け、両側から同時に攻撃を繰り出す。
しかし、その攻撃は精霊の盾に阻まれてしまう。エリーが一旦後方に退き旋回、ラダが『ブラッディローズ』を行使。
ラダが立て続けに攻撃を繰り出し、精霊を追い詰める。そして、エリーが背後に回り込み、隙を突く。
「今です」
精霊がエリーに反応したその瞬間、ラダは『タイガークローⅡ』を繰り出す。精霊はその一撃に反応し、迎撃しようと動くが、それが悪かった。『ブラッディローズ』のカウンター攻撃が発動する。
二つのスキルが合わせられた強烈な一撃だ。けれども、かなり堪えるであろうその一撃は、しかし精霊へと届くことはなかった。
「なっ……」
精霊はヤックドロアを盾に使い、その威力を殺して防御行動を取っていた。ヤックドロアは霧散し消え、精霊は『フォトンサークル』を発動した後、続けて『アーマードマスターⅡ』を発動。
次はこちらの番だとでもいうように、今度は精霊が片手剣を構えてエリーに向かう。
エリーは盾を構えて防御態勢を取り、精霊の攻撃を受け流して後方へ撤退。
「こうなったら、もう奥の手を使うしかないよねぇ」
ラダは攻撃のフェイントをして、精霊を引き付け、続けて攻撃をするフリをして後方へ飛び退く。それにより、二人の間に距離が開く。
その距離を詰められるよりも早く、エネルギーがラダの身体を中心に集まり、エネルギー弾を形成してゆく。
高濃密度のエネルギー体。『コスモ・ノバ』だ。
させまいと精霊が動き、ラダに近づく。しかし、間に合わない。
一挙に放出されたエネルギーが精霊の盾と剣を粉砕し、吹き飛ばした。
「――私の負けか」
精霊は瓦礫の中に落下し、意識を失った。
エリーはそっと精霊に触れて『怨嗟の金平糖』を浄化し、負っていた切り傷はハンカチで抑えて止血。
「……怪我させてごめんねぇ」
「カイルさんを救出したら、またこの方も手当てしましょう」
エリーとラダは精霊を安全な場所へ寝かせ、カイルの元へと向かった。
☆夢路 希望 スノー・ラビット ペア☆
スノー・ラビットは精霊を追いながら、行き着いた廃墟への道のりを正確にメモに書き記していた。
眼前で瓦礫の山に立ちつくしているのは両手杖を携えた精霊と、ヤックドロア。夢路 希望は、スノーへと歩み寄り敵を視認する。精霊の血奔った眼光で射抜かれ、それでも助けたいのと力になりたい一心で夢路はスノーの頬へ口付けを落とした。
「『あなたに、力を』」
インスパイアスペルが二度唱えられ、二人の周りを通常時のトランスよりも大きな光が噴出する。
夢路が眦を決して敵を見据え、同じくしてスノーも精霊を見やった。両手杖装備――エンドウィザードだ。直線状、そして遠距離に居るのはマズイ。そう判断して夢路とスノーが一気に距離を縮めて攻撃への糸口を掴もうとするが、
「『カナリアの囀り』」
空中から飛ばしてきたプラズマ弾が、二人の目の前に着弾し砂煙を上げる。
「ノゾミさんっ!」
姿が見えなくなる前に、とスノーが手を伸ばし夢路の手を引く。すると、手を引いていなければ直撃していたであろう位置にヤックドロアの魔法弾が炸裂した。
そして、その隙にエンドウィザードはヤックドロアの力場へと姿を隠す。この組み合わせは、最悪だ。近距離でも遠距離でも苦戦を強いられることになる。
「どうすれば……!」
スノーが苦悶の表情を浮かべて、両手剣を握る右手を額にあてがい思考を回転させる。
少しずつ距離を縮めてはいるものの、大技が繰り出されれば後退するほかない。どうすれば、と再度スノーが自問しようとした時だった。
夢路がスノーの手にそっと手をあてがい、敵を見据えて言い放つ。
「スノーくん、――希望を失っちゃだめ」
そう言って夢路はスノーの手から自分の手を離し、精霊へと向かって行った。
スノーもそれに続いて夢路の背後に身を隠すように駆け出す。だが、これは防御をしているわけではない。希望へ繋がる、一撃の布石だ。
精霊は『カナリアの囀りⅡ』を行使し、発動の準備を整える。直撃すれば、即戦闘不能になるであろう大技だ。それでも、夢路は駆けるのをやめずに、走り続ける。
攻撃の準備が完全に整い、精霊が攻撃態勢に入る――その瞬間、夢路は短剣「クリアライト」に光を集束させて敵の瞳に直撃させた。行き場を無くした精霊の魔法は暴発し、ヤックドロアに炸裂。
「憎い、憎いィ……!」
精霊はなおも両手杖に力を集束させて二人を狙い澄ます。
スノーは、杖での払いのける攻撃を『エトワール』によって簡単に避け、距離を目前までに詰めてゆく。
「思い出して。その武器を手にした日のことを、理由を。きっと大切なものを守るためだったはず」
諭すように語りかけるスノーの言葉を受けて、精霊は呻き声を上げた後、大きく後方へ跳躍した。
「憎いィィィ!!!!」
発動されたのは、『一筋の希望』。その一撃は天空に轟音を轟かせるほどのすさまじい威力だったけれど、彼の放ったその希望は空しく虚空に響くだけ。
二人は、その一撃を軽々と避け、両側から精霊へと詰め寄る。
そして二人は、精霊の歪んだ希望へ、本当の希望を叩き込んだ。
精霊の鳩尾に叩き込んだ二人の一撃は、精霊を後方に吹き飛ばして瓦礫の山へと衝突させる。
駆け寄ってみれば、気絶はしているが怪我はない。武器を少し離れたところに置き、両手を持参したロープで縛っておく。
夢路が優しく触れ、『怨嗟の金平糖』の効力を掻き消すと、その表情は晴れやかな寝顔へと姿を変えた。
☆リチェルカーレ シリウス ペア☆
精霊を追っていると、精霊は突如としてリチェルカーレとシリウスに向き直り、ヤックドロアと共に戦闘態勢に入った。
シリウスは、相手の状況がわからないことを認識して無意識に眉を顰めて、
「無茶はするな。危ないと思ったら呼べ」
「はい! ……では、参りましょう」
リチェルカーレは、シリウスに向き直り、そっと頬へ唇を触れさせた。
「『この手に宿るは護りの力』」
トランスが発動。ふわりと柔らかく暖かい風と光が広がり、羽根のようにちらちらと光が二人の間を舞い降り、消える。
先に動いたのは、シリウスだった。
ウェルテックス・ギアのオーバードライブ『風の音楽』が発動。シリウスの身体が風でも纏ったかのように軽くなり、移動速度が一気に速まる。
精霊から連続で突き出される攻撃を、シリウスは『エトワール』で軽々と回避し、
「遅い」
『アナリーゼ』を発動して手数を向上させる。精霊の連撃をすべてシリウスは弾き返し、左肩を突き出すように素早く間合いに入った。そして、精霊が隙を見せたと判断し斬りかかって来たと同時に、バックビハインドをするように突きを繰り出す。
「カイルを襲ったのはお前か? 何が目的だ」
完全に不意を突かれた精霊は無茶な防御を強いられた。そして、シリウスはその隙を見逃さない。『オスティナート』を使い、シリウス本体は下から、分身は上から両手剣で斬りかかる。
防ぎようのない一撃だ。
もし回避したとしてもシリウスの真後ろに位置するリチェルカーレが攻撃を加えればそれで終わりだろう。
しかし、精霊は咄嗟に『レクイエム』を発動し、ヤックドロアに攻撃を加えた。
「何っ!?」
本能で反応したヤックドロアが精霊へ反射的に魔法弾を放出し、シリウスはそれを回避するために攻撃を中断。
「そんなもの無い」
精霊はヤックドロアの生命力を連続で吸収し、ヤックドロアを消失させる。
「お前達こそ、何をしにきた」
「カイルさんを助けに来たんです」
リチェルカーレは精霊に臆することなく、はっきりと答える。
「わたし達はあなたの敵じゃない。お願い、落ち着いてください」
「落ち着けだと?」
精霊は両手剣を構えてリチェルカーレに歩み寄る。
「この気が狂いそうになるほどの、理不尽を強いられた俺に落ち着けだと?」
激昂した精霊が『オスティナートⅡ』でリチェルカーレの首を刎ねようと横薙ぎに剣を振るった。
しかし、その攻撃はシリウスの蹴りによってずらされリチェルカーレの真横の地面へと叩きつけられた。シリウスが視線を移し、攻撃に反転しようとした瞬間。
精霊は身体を空中で回転させ、斜めにもう一度斬りかかる。
するとリチェルカーレはそのまま両手を広げて攻撃を受ける態勢を取った。
「リチェ!」
シリウスが目を見開いて叫ぶ。リチェルカーレが斬られる――そのビジョンが浮かぶ。
けれど、そのビジョンは現実とはならなかった。
「なんだよ、それ」
精霊が両手から剣を落として、頬に涙を伝わせた。
「敵ではないと、わかってもらえましたか?」
リチェルカーレはそう微笑み、精霊の頬にそっと触れる。
「……ああ、お前達は敵じゃない、な」
すると、『怨嗟の金平糖』の効力が消え、精霊は膝から崩れ落ちた。
シリウスが地面にぶつかるギリギリで身体を支え、精霊を地面に寝かせる。
「拘束の必要はなさそうだ」
「はい、カイルさんを探しに行きましょう」
二人はカイルを探すべく、その場を後にした。
●発見
ウィンクルム達は、別々の箇所からカイルを捜索し、やがて全員が同じ場所に辿り着く。
そこには、血溜りを形成しているカイルの姿が。
エリーは周囲を警戒し、付近に敵がいないかを確認する。精霊一同は、神人に危害を加える者が居ないか、眼光を鋭くして周囲を見渡す。
「私の声、聞こえますか!?」
夢路が駆け寄り、カイルの意識があるかどうかを確認。
「……なんとか。……マナは?」
あくまでも神人を心配するカイルに、夢路は返答する。
「マナさんは無事で今は保護されています。あなたの帰りを待っていますよ」
カイルは、それを聞いてふと微笑み、
「そうか、それはよかった……」
笹は救急セットを取り出して、カイルの傷を確認。リチェルカーレが、笹に包帯を手渡す。
「火傷?」
怪訝そうに笹はカイルの腹部にある傷を見やり、笹は的確に包帯を巻いていく。
「ああ、それは『神様のパン籠』で傷を焼いて塞いだんだ」
力なく笑うカイルに、リチェルカーレは、
「パートナーが怪我をして平気な人はいません。危ないことしないでって、皆思ってます」
そう告げて、A.R.O.A.へ連絡し、救急車を手配した。
「……マナには悪いことしたかな」
「謝罪は、後で本人にしてあげてください」
エリーがそうカイルに諭し、カイルは「その通りだね」と笑った。
無事にカイルを救出した一行は、その後一緒に安全な場所へ移動した。
●再開
「ごめんね、マナ」
「よかった、カイル……!」
一命を取り留めたカイルは、快復へ向かい、何度もウィンクルム達に謝礼を繰り返した。
倒された精霊達も、二人に何度も謝罪をし続けていたが、カイル達はそれを笑顔で許していた。蟠りもなく、これで一件落着。めでたしめでたし。
……――とはいかない。
「準備、出来たかな。そっか、じゃあ向かうよ」
病室の扉から二人を見ていた青年は、先程電話をかけた先にもう一度電話をかけた。
通話先は、青年に組する少女の携帯だ。
罪人を裁くのに、ウィンクルムの手を汚す必要は無い。青年は笑みを絶やすことなく病院を後にした。
●報復
「まさか教団の人間ごときが、神人を失った精霊の憎悪を『怨嗟の金平糖』で煽るなんてね」
青年は、巨大な檻の中で暴れる数人の教団員を見下ろし、手元のボタンをカチリと押す。
すると、教団員の口元に着けられていた装置から、『怨嗟の金平糖』が飛び出し、彼等の口内に無理矢理入れられた。
次第に金平糖は教団員達に効力を与え始め、教団員の一人が青年に助けを求める。
それに笑みを向けて、青年は踵を返し、
「じゃあね、ゴミ虫さん達」
教団員の悲鳴と共に、青年が扉を閉める渇いた音が響き渡った。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 東雲柚葉 |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | 戦闘 |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 02月15日 |
出発日 | 02月20日 00:00 |
予定納品日 | 03月01日 |
参加者
会議室
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2016/02/19-23:42
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2016/02/19-23:30
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2016/02/19-23:30
カガヤは戦闘+精霊さん取り押さえ関係のみ。
わたくしは応急手当+応急手当前に必要であれば戦闘くらいの内容になりました。
対精霊さんの心情面を揺さぶって正気に…というのは文字数の関係で厳しかったので
神人が触れて治るかどうかに賭ける状態になっています…。
治ってくれると良いのですが…
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2016/02/19-23:18
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2016/02/19-21:51
相手の精霊さんはとりあえず手加減攻撃(気絶させるだけ)で戦闘力を奪う。その後武装解除で浄化できるか試みる。声かけもできれば、という感じでしょうか。
ヤックドロアは精霊さんと一緒に出てくるんですよね?基本相手の精霊狙い、向かってきたら攻撃するくらいかな、と思っています。 -
2016/02/19-18:36
戦闘終了後の行動は、こんな感じです。
エリー
・負傷しているカイルさんを捜索。
・仲間が応急処置をしてくれる間、周囲警戒。
ラダ
・武器を奪った敵精霊の見張りor取り押さえ
・敵対精霊に、切り傷など素人でも処置できる怪我があれば簡単に止血
敵対精霊の心理面のフォローや浄化については手が回ってないです。
神人が触れて浄化を試みるのとは別の方法として、食べた怨嗟の金平糖を吐き出させるってのが一瞬浮かんだんですけど、冷静に考えると相手を必要以上に苦しめてしまいそうなのでやめておきました。
>ヤックドロア
この状況で無視するのは不自然な気もしますが、文字数がギリギリになってしまい、私はスルーしてます。
文字数があれば、対策しておいた方が良いような気もしますね。 -
2016/02/19-15:20
応急手当は、手屋さんが医学スキル3をお持ちとのことで心強いです。
私も少しですが(医学1)、何かお手伝いできることがあれば。
精霊さんの浄化については、試してみるのに賛成です。
連絡は、A.R.O.Aにはマナさんもいますし、きっと心配していますから、救急隊への手配も合わせて入れたいですね。
ただ……状態や救急隊の到着時間によっては、私達で運ぶことも考えておかないとかも、です。
それと、すみません。
少し確認したいのですが、
>オーガは出現しますが、戦闘の途中で必ず精霊に殺されるので、無視していても問題ございません。
このオーガというのは「ヤックドロア」を指している認識でいたのですが、どうでしょうか……?
対策するに越したことはないかとは思いますが。 -
2016/02/19-01:48
笹さんは応急手当ありがとうございます。
>戦闘後
一旦体内に入った怨嗟の金平糖にも神人の力が効くかどうかわかりませんが
浄化できるならしたいですね…
AROAに連絡して、来てくれるまでの間は取り押さえているでしょうから
その時にやってみてもいいと思います。
あ、アイテムの申請がどうなるか分からないので、アスカ君のストレッチ知識を駆使して
関節を押さえておいてもらう予定です。 -
2016/02/18-23:49
>カイルさん
笹さんがいてくれて良かった!応急手当て、お願いしてもいいでしょうか。お手伝いすることがあったら教えてください。あと、カイルさんは重傷のようですし、合わせてアロアなり救急隊に連絡した方がいいかもしれないですね。
>戦闘後
怨嗟の金平糖のせいで、おかしくなっちゃったのでしょうか?金平糖自体は神人が触ると浄化できるみたいだし、私たちが触ったら正気に戻ってくれないかしら…。とりあえず、早くカイルさんの所へ行かなくちゃですし、気絶させたり拘束したりは仕方ないかな?その後なんとか、元に戻したいですね。 -
2016/02/18-22:58
>対精霊の個別戦闘、カイルさん救出は合同
うふふ……。
では、この認識でプランを書きます!
>戦闘後のフォロー
武器を取り上げたり、暴れるようなら一時的にロープで縛ったり、ですね。
ロープのアイテム申請が確実に通るかわかりませんが……。
心情面のフォローは、私には良い案が思いつきません。
>応急手当
医学スキルのある手屋さんがいるなら、安心ですね!
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2016/02/18-22:39
手屋 笹と精霊のカガヤです。
よろしくお願いします。
>対精霊の個別戦闘、カイルさん救出は合同
わたくしもこの認識でした。
わたくし医学スキル3を持っていますのでカイルさんの応急手当を行おうかと思います。
救急セット必須ですね…
敵対してしまう精霊さん達は気絶させるか、武器を落とすなどで無力化した後
落ち着くまで取り押さえておく、くらいしか思いつきませんでしたが、
金平糖の効果はいつまで続くのでしょうか…
ところでAROAに連絡頂いた青年さんは通報の後更にどこに連絡したのでしょう…? -
2016/02/18-21:48
夢路希望、です。
パートナーは、テンペストダンサーの、スノーくん、です。
宜しくお願いします。
戦闘は、一組ずつ。
救出は、戦闘が終わった組から急いで向かって、最終的には共同で、という認識でした。
戦闘後のフォローは、私も気になっていました。
正気に戻ってくれるといいんですが……。
戻らなかった場合は……どうするのがいいんでしょう。
こちらもそのままにしておけませんが、救出も急がないといけませんし。
カイルさんを襲った精霊さんは……そういえば、そうですね……まだそこにいるでしょうか。
いた場合は、カイルさんの救出を優先しつつ可能なら取り押さえ、でしょうか。
応急手当は、もし医学スキルをお持ちの方がいらっしゃれば、より適切な手当てができそうですね。 -
2016/02/18-20:20
リチェルカーレです。パートナーはマキナのテンペストダンサー シリウス。
皆様、よろしくお願いします。
戦闘は私も1組ずつの認識でした。自意識を失っている…ということですけど、戦闘後は正気に戻れるのかしら?彼らへのフォローはいるのかな。
カイルさんの救助、エリーさんが仰るように皆でかな?と思っていました。応急手当てだけでもできたらいいんですけど…。 -
2016/02/18-07:46
八神伊万里と、パートナーはハードブレイカーのアスカ君です。
よろしくお願いします。
>出現する精霊の人数は、参加者×1名で、一人ずつの戦闘となります。
とあるので、戦闘は個別という認識で合っていると思いますが
カイルさんの救出の部分はどうなんでしょう…?
どちらにせよ、早く助けなくてはいけませんね。
精霊にやられたようなので、その精霊を取り押さえてからの保護、という形になるでしょうか? -
2016/02/18-01:52
エリー・アッシェンです。シンクロサモナーのラダさんとの参加です。
皆様、どうぞよろしくお願いします。
ちょっと確認しておきたいことが。
戦闘はウィンクルムごとに個別で、カイルさんの救助は共同という認識で合ってますか?
カイルさんの負傷具合が心配ですね……。