プロローグ
バレンタインデーから一月が経ち、迫るのはホワイトデー。
勇気を出して渡したバレンタインの贈り物。パートナーは喜んでくれた、と思う。
けれど……。
果たして彼は、そのお返しをしてくれるだろうか?
物が欲しいわけじゃない。言葉、それだけでも十分なのだけれど……。
ぶっきらぼうな彼。
奥手な彼。
恥ずかしがり屋な彼。
不器用な彼。
ホワイトデーのことなど、覚えていないかもしれない。
覚えていたとしても、忘れたふりをするかもしれない。
そんなパートナーから、ホワイトデーの誘いはあるのだろうか?
不安に思いつつ、彼からの誘いを待っていたのだが……。残念ながら、その気配は無い。
それならば、こちらから誘ってやろう。
「『フラーム神殿』でイヌティリ・ボッカを退けた戦勝一周年の『祝祭』をやっているんだって。面白そうだから行ってみない?」
『女神ジェンマ様』を祀った『フラーム神殿』。その周囲には、ジェンマ様の加護を受けた『祝福の金平糖』が散らばっているという。その金平糖をウィンクルムが手にすれば、互いの愛の力が高まるらしい。その力をお借りしよう。
祝祭の催しを楽しんだ後、喧騒を離れて二人でフラーム神殿の周囲を散策する。
あちらこちらに散らばる金平糖。それらを拾いながら、または食べながら、二人の会話を楽しむ。そして、さりげなくホワイトデーの話をしよう。
さぁ、お膳立てはしてあげた。
あとは君の言葉を待つばかり。
解説
●概要
パートナーを誘ってフラーム神殿の周囲を散策します。
自分からはホワイトデーの話をすることができないパートナー。
そんな彼にさりげなく話題をふって、きっかけを与えてあげてください。
●消費Jr
交通費として400Jr消費します。
●祝福の金平糖
女神ジェンマ様の愛の力が結晶化したもの。フラーム神殿の周囲に散らばっています。
味はとても甘く、ウィンクルムが手にすることでお互いの愛の力が上昇します。
●その他
3月イベント関連エピソードです。
https://lovetimate.com/campaign/201602/episode/
ゲームマスターより
ご覧いただきありがとうございます。りょうです。
自分からきっかけを作れる人もいれば、そうでない人もいるのでは?
じれったいパートナー。待ってるくらいなら、こちらから動いてしまえ! というエピソードです。
うまくパートナーにホワイトデーのきっかけを与えてあげてください。
皆様のご参加をお待ちしております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
いつもは所構わず(と俺は思っている)好きだよ意思表示を躊躇わないランス けど…WD近づいてきたのに何も言って来ないんだ VDの時はチョコくれーとか言ってきたのに… 信じてないわけじゃないけど…不安はあるわけで 面と向かって聞くのも躊躇われる そこで祝祭に誘う で、金平糖拾ったり食べたりして チラチラともうすぐイベントあるよなと水を向けたり するんだけど… 何って?…もうっ、WDだろ 言わせんなよ; って…えええええ! そういう魂胆?! くそーっやられた 別にっ、不安になんかなってないしっ 嬉しくないしっ ま、お前が誠意を形にしてくれるなら許してやらなくもないぞ ホントはホッとしたし嬉しいけど でも照れくさいから 言ってやらない>< |
セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
神殿近くの自然を楽しみつつ金平糖も捜しつつ。かな。 今まで3月14日は自分の誕生日って事が中心だったけどさ。 でもホワイトデーという美味しいイベントも見逃すわけにはいかないじゃん? もちろん誕生日はいつも利用に盛り上げて欲しい。 美味しい豪華な料理をたっぷり食べたい。肉料理♪ しかしまた別にWデー的お菓子も楽しみたい、という欲望が! (どれだけ食い意地はってんだ、と我ながら思う!) 誕生日も楽しむ。でも別にホワイトデーなお菓子も欲しい、とラキアにおねだりしたい。しかし面と向かっては言いにくい。 誕生日と纏めて、じゃない感じなのが良いんだよなぁ。 デザートとは別っていうか。 と話すけど、上手く伝わるかな(もだもだ。 |
蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
バレンタインの時、チョコを渡すのは初めてだと言ってくれたフィン お互いにチョコを渡し合った…けど、ホワイトデーにそのお返しはやっぱりしたい訳で… どうやって切り出そう…と、切欠を求めてフィンを散策に誘う 祝福の金平糖を探して歩くの、結構楽しいかもしれない 地上に落ちた星を探すみたいで… 他にチョコなんて… フィン以外の人から貰いたいと思わないし…受け取らないと宣言してた (照れ隠しに)お返しするのも面倒だし フィンから先にプレゼントを貰って面喰い 嬉しい けど、先を越されてしまった 俺もお返しを用意してるんだ 俺が贈るのは…歌 フィンの為だけに歌うから、聞いてくれるか? 最近、恋の歌が増えたと言われるのは…フィンのせいだ |
カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
※金平糖食べつつ 祝福の金平糖か あの頃はウィンクルム活動してねぇけど、恩恵に肖っていいのかって…祭りならいいか 仕事?順調だから今ここにいるし あ、14日は休みだったな 用事入れるなよ? ティエンもぼっちは良くないから取れるならティエンも宿泊OKの宿がいいが家でのんびりも悪くねぇなー …は?バレンタインの時覚悟しとけって言っただろうが 俺の外出中に可愛くもチョコを準備してた訳だが※越智ILのカプピン 俺も指輪以外にもチョコをあーんしてやったし※EP39、螢ILのカプピン スッゴイ期待してる※笑顔 ※発言聞いた そりゃ凄いお返しだ その夜はたっぷり味わうが、後で味見させろよ?※耳元囁き とりあえず、今はつまみ食い※キス |
葵田 正身(うばら)
バレンタインに贈ったキャンディフラワーの花束。 少し強引に渡してしまった事もあり お返しなど不要と思っていますが…… 律儀な子ですからね ホワイトデーに何か、と悩んでくれるでしょう。 そんな彼にお誘いを。 金平糖。拾っていかないか? 少し食べてみたい 色は取り取りあるのでしょうか 子供の頃はどの色の糖花を摘もうか楽しく悩んだ物です 十分な量が拾えたら、はい、とうばらへ。兄弟でどうぞ うばらからのは有難うと遠慮なく。 うん? ……ああ。うばらは優しいから屹度受け取ってくれたろうね 贈り物なら既に頂いたけれど? 金平糖を一つ摘んで。 それは楽しみだ。夕飯の買い出しの誘いでも歓迎しよう うばらと出掛けられるなら何処だって嬉しいって話 |
●恋は駆け引き
(ランスの様子がおかしい)
アキ・セイジは、パートナー——ヴェルトール・ランスの最近の態度を思い返した。
ランスは好きだという意思表示を躊躇わない方だと、セイジは認識している。バレンタインの時には、チョコをくれとねだってきたりもした。それなのに。
ホワイトデーを目前に、彼からのアプローチは、ない。
ランスのことを信じていないわけではない。けれど、もしかして? と不安になる。かと言って、面と向かって聞くことも躊躇われる。
だから、セイジは考えた。どうにかしてランスの真意を確認しようと。
二人が歩くのは、フラーム神殿の近くの遊歩道だ。
セイジは地面に落ちている祝福の金平糖を一つ拾い上げ、口に含んだ。優しい甘さが広がる。
そばのランスに視線をやれば、彼も金平糖を食べている。そして、瓶を持ってきたんだと言って、小瓶を取り出したかと思うと、金平糖をその中へと入れた。乾いた音が静かに響く。
神殿から漏れ聞こえてくる賑わい。セイジが神殿の方へと首を向けると、ランスもそれに倣う。
「一年経ったんだなあ」
「そうだな」
祝祭。それは、イヌティリ・ボッカを退けた戦勝一周年の祝いの祭りだ。ランスとセイジは、戦いに参加したウィンクルムだった。
「よく脱ぐ敵だったっけ?」
ランスが思い出すように首をひねる。セイジも記憶を手繰るように視線を動かした。しかし、
(違う! そんことはどうでもいいんだ!)
頭を振って、ボッカの記憶を払いのける。
今はランスに話さなくてはいけないことがあるのだ。
「それより、もうすぐイベントあるよな……」
顔は神殿の方を向けたまま言えば、
「ん? イベント?」
何だっけ? と首を傾げるランス。
思わずセイジはランスの顔を見返した。キョトンとしたランスの顔。
「だ、だから、3月……」
皆まで言わせるなと思いながら口にすれば、ランスは反対側に首を傾げる。
「もうっ、ホワイトデーだろ!」
なんで分からないんだとセイジはヤキモキしながら言った。その表情は寂しそうであり、不安そうでもある。
罪悪感に、ランスの胸は痛くなる。
(俺も我慢の限界だしな)
これ以上、セイジを不安にはさせたくない。
ランスはセイジを抱きしめた。
「ゴメンなー、セイジ」
驚いたようにランスを見上げるセイジ。
ランスは申し訳なさそうに眉を下げ、さらに耳もしょぼんと垂らして言った。
「実は……」
(え?)
セイジはパチリと瞬きを一つ。
「えええええ!」
ランスの口から語られた真実に、思わず叫べば、ランスが苦笑いを浮かべる。最近のつれない態度には、ちゃんと理由があったのだ。
「じゃあ、ここ最近、ハグとかしてこなかったのは……」
「俺から言わずにおいたら、セイジから誘ってくれないかなって待ってたんだよ」
「そういう魂胆?!」
「だって、俺からばかりってのは寂しいじゃん」
恋愛は駆け引きが大切だろ? と言われ、セイジは頭を抱えた。
(くそーっやられた!)
全てはランスの策略。セイジはまんまとそれに嵌ってしまっていたのだ。
「でも不安にさせたよな。本当ゴメン」
ぎゅーっと力を込めて抱きしめられる。
「別にっ、不安になんかなってないしっ。嬉しくないしっ」
ランスの腕の中でセイジは強がる。さっさと離せと暴れるが、自分を抱きとめる力は弱まりそうにない。
怒ってる? と問われ、セイジはふんっと鼻を鳴らした。
「ま、お前が誠意を形にしてくれるなら許してやらなくもないぞ」
「誠意……ホワイトデーディナーの手配なら任せてくれ。それで、いいだろ?」
どうしようかなと、セイジは態と悩む素振りをみせる。精一杯の反撃のつもりなのだが、ランスにはあまり効果はないようだ。
「うーんとロマンチックな夜を演出してやんぜ」
自信満々の笑みを浮かべるランスに、セイジはわかったと答えるしかない。
力強く抱きしめられたまま、ランスにばれないよう、セイジはそっと吐息をついた。
全てが彼の謀だとわかり、ホッとしたやら嬉しいやら。
(でも、照れくさいから言ってやらない!)
●誕生日とは別に
3月14日。その日はセイリュー・グラシアにとって、特別な日である。それも、世間一般とは違う意味で。
その日は、彼の誕生日なのだ。
今まで3月14日は誕生日という事で、盛り上げてもらっていた。それに不満があるわけではない。けれど、世間一般でいうところのイベントも逃したくはない。
つまりは、ホワイトデーも楽しみたいのだ。
パートナーのラキア・ジェイドバインは誕生日のお祝いはきっとしてくれるだろう。けれど、さらにホワイトデーまでねだるのは……。
フラーム神殿の周囲は自然が多い。生い茂る木々の隙間からは、柔らかな日差しが差し込んできている。
光を受けて輝く木々の葉たち。女神ジェンマ様の加護を受けた祝福の金平糖も、光を乱反射させ輝いている。
豊かな自然を感じながら、ラキアは金平糖を拾う。そばではセイリューが同じく金平糖を拾い、そして、口へと運んでいる。幾つも金平糖を頬張っているのだろうか。片方の頬が膨らんでいた。
もっとゆっくり食べれば良いのにと、ラキアはセイリューの様子を観察する。
金平糖を拾いながらも、チラチラとこちらへと視線を向けるが、すぐに逸らして、また金平糖を拾う。何かを言いたそうに口を開きかけるが、止め、また金平糖を探し出す。落ち着きがない。
そういえば、家でもそわそわしていることが多い気がする。ここ最近のセイリューの様子がラキアの脳裏に浮かぶ。
(ああそうか。もうすぐ誕生日だものね)
思い至り、ラキアは小さく笑いを漏らした。そして、世間話をするように切り出す。
「もうすぐ誕生日だね。誕生日、何が食べたい?」
セイリューの表情はパッと明るいものになる。
「美味しい豪華な料理をたっぷり食べたい。肉料理♪」
ローストビーフ、ハンバーグ、チキンの照り焼き、ポークソテー……。
思いつく肉料理を、笑顔を浮かべながら指折り口にするセイリュー。クスクスというラキアの笑いが重なる。
「お肉系ガッツリ豪華料理だね。わかったよ」
誕生日には、セイリューの要望通り、豪華な肉料理が並ぶことだろう。
嬉々として肉料理の名前を挙げいてセイリューだったが、気づけば眉間に皺。ラキアはセイリューの顔を覗き込んだ。
不機嫌、というわけではない。何かを言いたくて、でも言えない。いや、言い方がわからないのだろうか。
実は、セイリューにはもう一つ欲望ある。彼はホワイトデーのお菓子も欲しいのだ。なかなかに食い意地が張った望みではあるけれど、食べたいのだから仕方がない。けれど、そんな我侭なお願いを、どうラキアに伝えれば良いのか。うーんと悩んだ結果が、今の眉間の皺だ。
ラキアに心を読む術などないから、そんなセイリューの思いはわからない。けれど、こういう時はチラっと聞いてあげるべきだと、経験上知っていた。
ラキアはにっこりと笑みを浮かべると、優しく言った。
「セイリューって結構色々ハッキリ言うのに何か遠慮しているの? 何かお願い事、あるの?」
ラキアの助け舟に、セイリューの眉間のシワは一瞬で消える。けれど、ラキアの言うとおり、遠慮はある。
「お菓子も……欲しいんだ」
「デザートってこと?」
セイリューは躊躇いがちに首を横に振る。
「そうじゃなくて……。誕生日と纏めて、じゃない感じなのが良いんだよなぁ。デザートとは別っていうか……」
ちらりとラキアの顔色を伺う。
「誕生日とは別に、ホワイトデーのお菓子も欲しいなぁ……って……」
もじもじと遠慮がちに、しかも上目遣いに言うセイリュー。その声も、常の彼とは違ってかなり小さい。
クロウリーとトラヴァースが遊びや餌をおねだりする時もこんな感じだなと、飼い猫たちの姿とセイリューの姿が重なる。
セイリューのあまりの可愛らしさに、ラキアは先ほどとは違う笑みを浮かべた。
そして、クスッと笑い声を漏らす。
「誕生日のデザートじゃなくて、別が良いんだね?」
力強く頷くセイリューに、再びラキアは笑いを漏らす。
「わかったよ。当日をお楽しみに」
●贈り物
フラーム神殿に続く道を葵田 正身は歩いていた。
バレンタインに精霊のうばらに贈ったキャンディフラワーの花束。うばらが受け取ってくれるようにと白薔薇を選んだのだが、少し強引に渡してしまった。だからこそ、ホワイトデーのお返しなどは不要と正身は思っている。けれど、律儀なうばらのことだ。きっと、何かお返しをと悩んでいることだろう。とはいえ、自分からホワイトデーの話をするような子でもない。手を差し伸べるような気持ちで、正身はうばらを祝祭に誘ったのだ。
少し首を後方に向ければ、うばらの姿がある。けれど、彼は先ほどから何か考え事をしている様子。
正身が神殿へと続く道を外れ、神殿の周りを散策できる遊歩道に入っても、うばらは大人しくついて来ていた。
道には祝福の金平糖が落ちている。けれど、既に多くの人が拾ったのだろうか。数はあまり多くない。
視線を道から外す。遊歩道の周りは人の手が入っておらず、木々が茂っている。地面には短い草が生えている。その上には、無数の金平糖が散らばっていた。
正身が遊歩道からも離れて木々の間へと歩を進めると、ようやっと、どうしたんだとうばらは首を傾げた。
「金平糖。拾っていかないか? 少し食べてみたい」
「金平糖? 好きに拾って食えば?」
そう言いながらも、うばらは正身について遊歩道から外れる。正身を追い越し、木々の中へ。視線は祝福の金平糖を探し始めている。
「その図体なら満腹になるまで時間掛かるか。手伝ってやる」
皮肉気な言葉に、正身はただ笑みを浮かべた。
まるで、童心に返ったように、正身は色とりどりの金平糖を拾い集めた。
手の中がカラフルになったところで、正身に付き合って金平糖を拾っているうばらに差し出した。
「はい」
両手にいっぱいの金平糖を笑顔で差し出すと、うばらは半ば呆れながら正身を見返した。
「短時間で随分拾ったな」
「兄弟でどうぞ」
「って、俺と兄貴のかよその量……」
うばらは溜息を一つ吐くと、
「ほら。俺が拾ったのは葵田の分。やる」
ハンカチに包んだ金平糖を差し出した。
「有難う」
にこりと微笑み、正身はそれを受け取る。代わりに、いっぱいの金平糖をうばらに渡す。
カラフルな金平糖。その一つを、うばらは口に含んだ。
甘さと一緒に、どこか温かい気持ちが湧く。
「……なあ。花束」
ぽつりとうばらは言った。
「うん?」
「別に、あんたからの贈り物なら、何でも受け取ったぜ?」
わざわざ白薔薇を選ばずとも。
うばらの言葉に、正身は目を細めた。
「……ああ。うばらは優しいから屹度受け取ってくれたろうね」
「優しくはねぇよ」
ぷいっと顔を背けた。けれど、すぐに正身へと向き直る。
「飴、美味しかった」
キャンディで出来た、たくさんの白薔薇と、たくさんの青薔薇の花束だった。あれが、バレンタインの贈り物であった事は間違いないだろう。ならば、「美味しかった」の一言で終わらせるのは、さすがにどうかと思う。
うばらなりに、ホワイトデーの事は考えていたのだが。
「ホワイトデーの贈り物。考えたけど思い浮かばねぇ」
彼にしてはとても素直に、そう言った。
お返しに悩んでいるのではと予想はしていたが、当たっていたようだ。
正身はクスッと笑った。
「贈り物なら既に頂いたけれど?」
ハンカチの中の金平糖を一つ摘みあげれば、うばらは苦笑いを浮かべる。
「それは含まれないだろ」
うばらは視線を彷徨わせた。何かを考えるように。その視線が、ピタリと止まる。
「今度出掛ける時は、俺の方から誘うから。あんたが気に入りそうな所、探して」
思いもしなかった申し出に、正身は目を見開いた。けれど、その目はすぐに細められた。
「それは楽しみだ。夕飯の買い出しの誘いでも歓迎しよう」
「夕飯は日常過ぎるだろ」
「うばらと出掛けられるなら何処だって嬉しいって話」
余裕の笑みを浮かべる正身。
「……茶化すなよ」
吐き捨てるように言った。けれど、うばらの口元には笑みが浮かんでいた。
●期待してる
「祝福の金平糖か……」
カイン・モーントズィッヒェルは地に落ちている金平糖を一粒拾い上げると、太陽にかざした。
「あの頃はウィンクルム活動してねぇけど、恩恵に肖っていいのかねぇ?」
「お祭りですから気にしなくて大丈夫ですよ」
クスリと笑って、イェルク・グリューンは金平糖を口へと運ぶ。その姿に、カインも、
「祭りならいいか」
と手にしていた祝福の金平糖を口の中へ。普通の金平糖よりもとても甘い。そして、とても美味しい。満たされた感じがするのは、美味しさ故か。それとも、女神の祝福故なのか。
結構落ちてるな、と金平糖を拾うカインの隣で、イェルクの心中では穏やかではない。今日、彼がカインを誘ったのには訳があるのだ。
目前に迫ったホワイトデー。
カインのことだから、きっと誘ってくれるとは思う。けれど、今の時期、仕事が忙しい事をイェルクは知っている。ならば、こちらから動こうと考えたのだ。
どうホワイトデーの話題へと切り替えるか。考えながら、イェルクは口を開いた。
「そういえば、仕事の状況どうですか?」
「仕事? 順調だから今ここにいるし」
カインの回答に、そうですよねと納得して次の言葉を考えていると、
「あ、14日は休みだったな。用事入れるなよ?」
ニヤリと笑って告げられた。
「ティエンもぼっちは良くないから取れるならティエンも宿泊OKの宿がいいが、家でのんびりも悪くねぇなー」
「……あの?」
こちらから話題を振るまでもなかった。
レカーロが泊まれる宿ってあると思うか? と問いかけるカインの言葉を遮った。
「ホワイトデー前提の話?」
驚き、聞き返せば、カインは眉をひそめる。
「は? バレンタインの時、覚悟しとけって言っただろうが」
カインはイェルクに躙り寄る。
「俺の外出中に可愛くも、チョコを準備してくれていた訳だが……」
イェルクは頬を染めながら、カインの言葉にただ頷いた。
(思い出すのも恥ずかしい……)
チョコレートを用意したものの、どう渡したものかと悩んでいたところに、カインが帰宅したのだ。
「俺も指輪以外にもチョコをあーんしてやったし」
「そう……ですね……」
さらに赤くなるイェルクの頬。それを隠すように、彼は両手で顔を覆った。左の薬指にはめられた指輪が、日の光を受けてキラリと光る。
だから、とカインの声。
「スッゴイ期待してる」
まるで、太陽のような明るい笑顔を向けられた。
(カインが凄いイイ笑顔だ……)
指の隙間から、カインの顔をうかがった。
(きっと……贈り物も用意してる、な………)
期待していると言われた。けれど、カインもホワイトデーの準備をしてくれているのは明白だ。
(恥ずかしいけど、嬉しい……)
両手に顔をうずめたままでいると、カインが訝し気に、イェル? と顔を覗き込もうとしてくる。
もう少し待って欲しいと思いながら、イェルクはうるさすぎる自身の鼓動を聞いていた。
(勇気を出して、言おう)
カインの期待に応えられる贈り物を、ちゃんと考えているのだと。
イェルクは顔を上げた。
ああ、頬が熱い。
「……わ、私は……その……」
鼓動がうるさい。
「わ、私を、お返しに贈り、ます………」
言葉は徐々にフェードアウトしていき、それに合わせてイェルクの顔は俯向く。ただ、頬の赤さは徐々に濃くなっていた。
ふっとカインが笑みを浮かべる。
「そりゃ凄いお返しだ」
イェルクを抱き寄せ、耳元に唇を寄せた。
「その夜はたっぷり味わうが、後で味見させろよ?」
意地悪な響きをもって囁かれ、ゾクリとする。
(……味見されるのが楽しみ………)
などと思ってしまったのは、互いの愛の力が上昇するという金平糖を食べたせいなのか。自分は何を考えているのだと思っていたら、顎に手をかけられ、俯いた顔を上げるよう促された。
カインの顔が迫る。そして、互いの唇が触れた。
(当日は新品のリボンでも掛けるべきか)
金平糖より甘いキスの中、イェルクは頭の隅でそんな事を考えた。
●この歌を君に
祝祭の騒めきから離れて、蒼崎 海十とフィン・ブラーシュはフラーム神殿の周囲を散策していた。神殿の周囲に散らばる祝福の金平糖を探しながら、歩を進める。
「祝福の金平糖を探して歩くの、結構楽しいかもしれない」
言って、海十は地面にしゃがみ、金平糖を一つ拾う。
「地上に落ちた星を探すみたいで……」
拾った金平糖をフィンに示した。海十のすぐそばにフィンもしゃがむ。
「星探しか……」
バンドをやっている海十らしい発想に、フィンは笑みを浮かべる。
海十の言うとおり、日の光を受けて輝く金平糖は、夜空に瞬く星のようだ。
「確かに、凄く綺麗だよね」
二人は再び歩き出す。ゆっくりと歩を進めながら、海十は考えていた。
(どうやって切り出そう……)
思い出すのは、一ヶ月前のバレンタイン。お互いにチョコレートを渡しあった。しかも、フィンはチョコレートを渡すのは初めてだと言ってくれたのだ。ホワイトデーにお返しをしたいと思うのは、当然のことだろう。きっかけを求め、彼はフィンを誘ったのだ。
海十が言葉を探していると、ふいにフィンが問いかけてきた。
「海十はライブハウスとか、学校とか……外でバレンタインのチョコは貰わなかったの?」
トリオ編成バンド『ミアプラ』。そのギター兼ボーカルである彼の人気を、フィンは知っていた。
フィンの問いに、海十はかぶりを振る。
「他にチョコなんて……。フィン以外の人から貰いたいと思わないし……受け取らないと宣言してた」
それに、と海十は続ける。気恥ずかしさから、視線はフィンから逸らして。
「お返しするのも面倒だし」
海十の言葉に、フィンの顔に笑顔が浮かぶ。
「じゃあ、海十がチョコをあげた人は?」
海十は視線を逸らしたまま、フィンだけだと答えた。
「……うん、なら……海十にお返しをあげるのも、俺だけだね」
にっこりと笑って言えば、海十の視線がフィンへと向く。自然と二人の歩が止まる。
フィンは用意していたマカロンを海十へと差し出した。
驚いた様子の海十に、フィンは笑顔を浮かべたまま言う。
「マカロンには『特別な人』って意味があるんだって」
『特別な人』。その意味を噛み締めながら、海十はマカロンを受け取る。リボンが掛けられた透明な箱の中には、優しいパステルカラーのマカロンが並んでいる。
微笑みながら、ありがとう、と感謝の言葉を伝えれば、フィンの笑顔が一層輝いて見えた。
日が傾き始めている。
自分からホワイトデーのお返しを切り出すつもりだったのに、先を越されてしまった。海十は手の中のマカロンを一瞥してから、決心したようにフィンに向き直った。
「俺もお返しを用意してるんだ」
ゆっくりと、海十は言った。
「俺が贈るのは……歌」
「歌を……歌ってくれるの?」
頷いた。
「フィンの為だけに歌うから、聞いてくれるか?」
「嬉しい……海十の歌を、今日だけは俺が独り占めだね」
綺麗な笑顔向けるフィンを、まっすぐに見つめた。
海十の顔が、赤く染まる。それは緊張か、恥ずかしさか。それとも、夕日に照らされているからなのか。
海十は目を閉じ、呼吸を整えた。
目を開ける。映るのは、フィンの顔。
息を吸った。
海十の歌声が、辺りに響く。
それは、フィンの為だけに紡がれる、優しい詩。
それは、フィンの為だけに奏でられる、あたたかいメロディ。
それは、フィンの為だけに響く、甘い歌声。
ステージの上で歌うのとは異なる。
海十は自分のありったけの想いを込めて、歌う。たった一人の特別な人の為に。
夕日が、二人の姿を赤く染める。
自然のライトを受けて輝く金平糖の星たち。その中に、二つの影が落ちている。
一陣の風が吹いた。
二人の影が重なった。
フィンの唇が、海十の唇を塞ぐ。まるで、海十の声ごと奪うような、甘いキス。
抱きしめられ、重なる鼓動。
海十はフィンの体温を感じながら、思う。
(最近、恋の歌が増えたと言われるのは……フィンのせいだ)
静かに、日が沈んだ。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | りょう |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 02月17日 |
出発日 | 02月24日 00:00 |
予定納品日 | 03月05日 |
参加者
- アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
- セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
- 蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
- カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
- 葵田 正身(うばら)
会議室
-
2016/02/23-23:50
出発間際になってしまいましたが。
葵田と、同行の精霊はうばら、と云います。宜しくお願い致します。
ホワイトデーとして所謂“お返し”を貰う心算は無かったのですが、
うばらの方が物言いたげでしたのでお誘いを。
切っ掛けになるかは分かりませんがね。 -
2016/02/23-22:52
プランは提出できているよ。
いつもは積極的なランスなのに、最近おかしいんだ。
で、それで一寸誘ってみたんだよな。
あいつ…いったいどうしたんだろう。
まさか…(不安) -
2016/02/23-01:43
-
2016/02/22-01:43
-
2016/02/22-01:43
蒼崎海十です。
パートナーはフィン。
皆様、宜しくお願いいたします!
丁度良い機会なので、フィンにバレンタインのお返しをしたいなって思ってます。
…バレンタインはチョコ交換ってカンジになりましたけど、やっぱりホワイトデーはホワイトデーでお返しは必要かな…と。
よい一時となりますように! -
2016/02/21-18:39
-
2016/02/20-17:05
イェルク:
イェルクです。
パートナーはカイン。
初めての方もそうでない方もよろしくお願いします。
ホワイトデー…バレンタインデーに十分すぎるものをいただいたのですが、その、……デ、デートを誘う口実に、い、いいかなーとかそういうことを考えてですね(もごもご)
皆さんも頑張ってください。 -
2016/02/20-11:27