プロローグ
柔らかい春の日差しが、優しくカーテンを照らしている。
カーテンを開ける。快晴だ。
外に出れば風も穏やかで、正に洗濯日和。
部屋の中へと戻る。室内を見渡せば、乱雑に放置された服達。しばしサボって溜まってしまった洗濯物だ。今日は、洗濯機に何度か働いてもらわなくてはならないだろう。そんな量を一人で干すのは大変だ。乾いた洗濯物を片付けるのも一苦労。
そうだ! とあなたは思い立ち、パートナーへと連絡を入れる。
「今日、暇? 洗濯を手伝って欲しいんだけど」
ワガママな提案を、彼は呆れながらも承諾してくれた。
ベッドのシーツも干そうか。一人でベッドメイキングをするのは存外、骨が折れるのだ。誰かに手伝ってもらえるならば、ありがたい。
パートナーが来るのを待っている間に、洗濯機に第一弾の洗濯物を放り込む。洗濯用洗剤を入れる。そして、柔軟剤。
香りに悩み、何種類か買い込んだ柔軟剤。今日はどれを使おうか。
フローラルの甘い香りも良いが、シトラスの爽やかな香りも捨て難い。
定番のソープの香りも好きだ。洗濯する物ごとに、香りを変えるのもありかもしれない。
加えて、ショコランドで購入した一風かわった香りの柔軟剤。
チョコレート、プリン、クッキー……そんな、お菓子の香りの柔軟剤だ。『祝祭』を記念しての特別品だそうだが、洗濯物はどんな甘い香りに仕上がるのか。
そんなことを思いながら、柔軟剤を選んで洗濯機の中へ。
柔軟剤の優しい香りに表情が緩む。
洗濯機のパネルを操作すれば、あとは洗い上がりを待つだけだ。
洗い上がりを告げるアラームが鳴る頃には、彼がここに到着するだろう。
低く響く洗濯機の音を聞きながら、あなたは窓から見える、綺麗な青空へと視線を移した。
解説
●概要
パートナーと一緒にお洗濯をしましょう。
どちらかのお宅へお邪魔して洗濯します。
洗濯物を干しながら、乾いた洗濯物を片付けながら、洗濯物の優しい薫と共にパートナーとのひと時を楽しんでください。
●消費Jr
柔軟剤の購入費として400Jr消費します。
●柔軟剤について
定番のフローラル、シトラス、ソープの香りに加え、チョコレート、プリン、クッキーの香りがあります。
お好きな香りを選んで洗濯をしてください。
●その他
寿ゆかりGM主催のフレグランスイベントと、3月イベントの複合エピソードです。
https://lovetimate.com/campaign/201512event/gm_frag.cgi
https://lovetimate.com/campaign/201602/episode/
ゲームマスターより
ご覧いただきありあとうございます。りょうです。
春の優しい日差しの下、お洗濯をしませんか?
最近の柔軟剤は香りの種類も豊富で、どれを買おうか悩んでしまいますよね。
そんな香りを楽しみつつ、パートナーとのひと時をお過ごし下さい。
皆様のご参加をお待ちしております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
雨続きで溜まった洗濯物を抱え孤児院に一人 手伝って貰えたら嬉しい、と電話を掛ける ショコランドで買ってきたお菓子の柔軟剤 混ぜたらチョコレートクッキーの匂いになるかも知れないね 折角だから冒険しようかと一緒に柔軟剤を入れ 一足先に乾き具合を確認 ふわふわのシーツを抱えながら彼を探す この香りを早く分かち合いたくて 見つけた後姿に湧く小さな悪戯心 彼に呼び掛けて俺もろともシーツを 覆い被せる …たまにはね。びっくりさせたくて 柔軟剤、どうかな?俺は成功だと思うのだけれど 春の陽射しが作る優しいお菓子の香りと、傍には愛しい恋人 逃げずにそっと鼻先をすり寄せて微笑む 俺の好きな物で満ちたシーツの中から逃げようだなんて思わないよ |
蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
フィンと同居 前日はライブで心地良い疲れでぐっすり眠って起きたら、フィンが洗濯物と格闘してた フィンにおはようと挨拶 昨日ライブで着た服とかも洗濯籠に入れたし…シーツ洗うとか言ってるし、きっと一人じゃ大変だ 急いで朝食を食べると(いつもながら美味い)フィンの手伝いをしよう ご飯美味かった、サンキュ 俺も手伝う だって、俺のものが多いだろ?今日は休みだし、偶には俺だって 柔軟剤?…そうだな、クッキーの香りがいいかも 甘くて美味そうな香り 二人で干した洗濯物が、アパートのベランダに並ぶ こういう光景…何だか幸せだ 乾いた洗濯物を入れるのも勿論手伝い 思った通り美味しそうな香り この香りに包まれて今日は眠れるんだな…うん、幸せ |
カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
イェル、これで全部だろ(洗濯籠持ってくる 旅行すると洗濯物溜まるよなー ※ティエン込みでホワイトデー旅行帰り 家事? スキルあるってレベルじゃねぇな 洗濯も柔軟剤の用量間違えず洗濯物とぶち込んで洗濯機操作出来る程度だ ソープ? 定番だろ あと、イェルに合う 『贈り物』、美味しかったぜ?(耳元で囁く じゃ、洗濯籠預けて手を塞ぎキスして退散 あ、フィンの奴にメールしてやろう 『お勧め宿発見。個人露天風呂と景色が綺麗な離れ。夜も静かでいい』 メール送信直後にイェルに張り倒された いーじゃねぇか…ティエン?(ティエンがカインの足を諭すように叩く なるほど…(にや 俺の嫁は可愛いなぁ(頭撫で って、あざてぇな なら、俺以外に見せるなよ? |
咲祈(サフィニア)
プリン 同居だが神人が外出から戻ってきて精霊の手伝いをするという流れ 基本的に洗濯物のしわを伸ばして精霊に渡す 本屋、しか行くところがない …興味深いけど、そこに一人で行こうとは思わないな ところで、今日は温かいと思ったら、もうすぐ春がくるんだね ……。ねえサフィニア、洗濯物から甘い香りが漂っているけどいつものじゃないだろうこれ へえ……なるほど ショコランドにも、柔軟剤とかあったんだね いや、嫌いじゃない。これはこれで面白い 少し想定外だったけれど ふむ、これで終わりのようだ 晴れてる日にベランダに出るのもたまには良いかもしれない そう? なら今日みたいな晴れ具合の時にまた手伝おう |
カイエル・シェナー(エルディス・シュア)
「洗濯など、生まれてこのかた一度もしたことがないのだが──」 何だ、いつになく拒絶反応が強いな。何か問題発言をした記憶は……無い 悩みながら、第二弾となる洗濯物の中に、『てきとーに』と言われた柔軟剤を流し込む ん──これはショコランドの特別品か。チョコレートとクッキーを混ぜたら良い香りがしそうな気がする。 (試しにカップの中で混ぜ合わせて香りをかいで) 非常に食欲をそそられる香りだな。 (問題ないと確信して注ぎ口に、適量とは言え躊躇い無くだばー) 洗い上がった洗濯物をベランダに届ければ──何故そんなに怒る! (精霊の言葉を聞いて、やっと思い至った様子で) ……済まなかった……それはとても穏やかに眠れそうに無い… |
●はじめてのお洗濯
玄関の扉が開く。エルディス・シュアは洗い終わった、洗濯物第一弾が入った籠を抱えたまま、訪れた神人——カイエル・シェナーを出迎えた。
「助かった! 洗濯物が一週間たまって——」
エルディスが言い終わる前に、カイエルは無表情に告げる。
「洗濯など、生まれてこのかた一度もしたことがないのだが——」
「あーあーあー!! 聞こえませんよ! そんな見掛けまんまにボンボンな台詞と現実なんて聞こえませんよ!」
本当は両手で耳を塞ぎたいところだが、残念ながら洗濯籠で塞がっている。代わりに大声を出して、カイエルの言葉を遮るしかない。
「とにかく、残りの洗濯物を頼むぞ! 洗剤はもう入れてあるから、てきとーに柔軟剤を入れて洗ってくれ」
言って、エルディスはベランダへと向かう。
(あーはいはい! そんなこったろうと思いましたよ! こんな生活臭のしない一般人が居てたまるかってんだっ!)
胸中で毒づく。
『蝶よ花よ』とはよく言うが、この言葉は、本来女性に向けて使われる言葉だ。けれど、カイエルにはその言葉が正に合う。A.R.O.A.から聞かされた情報では、彼は軍属らしいのだが信じ難いというのが、エルディスの素直な感想だ。
カイエルにとって、はじめての洗濯……とはいえ、全自動洗濯機を使うのだ。洗剤と柔軟剤を入れ、スタートボタンを押せば、洗濯機が洗いから脱水まで勝手にやってくれる。何も難しいことはないはずだ。
しかし、一抹の不安があるのはなぜだろう。
カイエルは洗濯機を前に、ふむ、一つ息を吐く。
洗濯機の中には、すでに洗濯物——シーツらしい——が入っている。洗剤も入れてあると言っていた。あとは柔軟剤だ。
『てきとーに』と言われたが、洗剤類が置かれた棚には、幾つかの柔軟剤が並んでいた。カイエルは目についたボトルを二つ、手に取った。ラベルを確認する。
(これは……ショコランドの特別品か)
一つはチョコレート、もう一つはクッキーの香りらしい。
ボトルを裏返す。成分表と用法・用量が細かな字で記されている。それをじっくりと読み、クッキーの香りのボトルの蓋をあけた。蓋は軽量カップになっている。そこに、用量の半分を注ぐ。続いて、チョコレートのボトルの蓋をあけ、こちらも用量の半分をカップへ。さらに、それらを混ぜ合わせる。
「非常に食欲をそそられる香りだな」
チョコレートクッキーを彷彿させる甘い香りに、問題ないなと一人頷くと、柔軟剤の注ぎ口へと躊躇いなく流し込んだ。
洗濯機が洗い上がりを告げる音を鳴らす。
カイエルは洗濯機の蓋を開けた。洗い上がった洗濯物を両手に抱え、エルディスの待つベランダへと向かう。
無事に洗われたシーツを、内心、安堵しながら受け取るエルディス。けれど、
「何故に……」
受け取ったシーツの香りに、目の色が変わる。
「何故に、最初に『シトラスの香りで洗った枕カバー』があるのに『チョコクッキーの香りのするシーツ』を持って来るかな?!」
「何故そんなに怒る!」
シトラスの香りも、チョコクッキーの香りも良い香りではないかと、カイエルは反論するも、
「お前寝れるか? これが混ぜ合わさった香りのする寝具に安眠できるか!?」
続くエルディスの言葉に口を噤む。
穏やかな風が、洗濯物をはためかせた。すでに干された洗濯物からは、爽やかなシトラスの香りが。その後に、今しがた洗い終えたシーツから香る、チョコレートクッキーの甘い甘い香り。
そして、思い至る。この組み合わせは、よろしくない。
「……済まなかった……それはとても穏やかに眠れそうに無い…」
しょぼんと項垂れるカイエルに、エルディスは嘆息するも、気をとり直すように声を上げた。
「もー、洗っちまったものは仕方ないから干すぞ、手伝え!」
シーツのしわを伸ばさず干そうとするカイエルに、再びエルディスが世話を焼くのは、このすぐ後のことだ。
●秘め事
「イェル、これで全部だろ」
洗濯籠を抱えたカイン・モーントズィッヒェルが、ベランダに姿を見せる。
「ありがとうございます、カイン」
先に洗い終わった洗濯物を干しているイェルク・グリューンが振り向いた。足元に寝そべるレカーロのティエンの耳が、二人の声に反応してピクリと動く。
「旅行すると洗濯物溜まるよなー」
同居中の二人と一匹が、ホワイトデーに合わせた旅行から帰宅してするべきことは、溜まった洗濯物の片付けだ。カインが荷解きをして洗濯し、洗った物からイェルクが干していくという作業分担で、それも終わりが見えてきた。
今まで、カインの家事レベルについて、実感したことがないイェルクだ。こうしてスムーズに洗濯ができてはいるが、そのレベルはよく分からない。
「二人で洗濯すれば早く片付きますね。カインは家事は得意なんですか?」
良い機会だから訊いてみる。
「家事? スキルあるってレベルじゃねぇな。洗濯も柔軟剤の用量間違えず洗濯物とぶち込んで洗濯機操作出来る程度だ」
なるほど、とイェルクは納得する。マイナスではない程度、ということだろう。
そんなカインが洗った洗濯物が入った籠を受け取ると、柔軟剤の香りがイェルクの鼻孔をくすぐった。
「ソープの香り好きですよね」
「ソープ?」
ポツリと溢れたイェルクの言葉を、カインが拾う。定番だろ、という言葉の後に、彼はニヤリと笑った。
「あと、イェルに合う」
カインはイェルクの耳元に唇を寄せた。
「『贈り物』、美味しかったぜ?」
景色が綺麗な、旅館の離れの一室。そこにはカインとイェルクが二人きり。静かな部屋に、響くのは二人の衣擦れの音。
ホワイトデーの一夜がフッラシュバックし、動きが止まる。その隙に唇を奪われた。
真っ赤に染まったイェルクは、「あとはよろしく」とベランダを後にするカインの後ろ姿をただ見送ると、手にした洗濯籠にボスっと顔を埋めた。
ソープの香りを吸い込んでから、顔を上げた。
頬を染めながらも、洗濯物を干す作業を再開する。黙々と作業をしていると、脳裏に浮かぶのは、カインからの贈り物。揃いのオルゴール付きの装飾品入れだった。優しく響くオルゴールの音色が蘇る。
自然と、口元が緩んだ。
洗濯物を干し終えたイェルクはリビングへと戻る。ティエンも一緒だ。
ソファーに座ったカインが、何やら携帯電話をいじっている。
洗濯籠をランドリールームに持って行こうと、カインのそばを通った時に、画面が見えてしまった。フィン・ブラーシュにメールをしているようだ。
『お勧め宿発見。個人露天風呂と景色が綺麗な離れ。夜も静かでいい』
それは間違いなく、ホワイトデーに泊まった宿の事。
あっ、と思った時には遅く、メールは送信されてしまった。
送信相手のフィンとは、親しい仲である。けれど、何でも伝えるのは嫌だ。
あの場所は二人だけの秘密にして欲しかったと思うのは、子供染みているだろうか?
イェルクはカインの頭を小突いた。
「痛っ。なんだよ、イェル」
小突かれた頭をさするカインは、そんなイェルクの想いには気づいていない様子。そこに、ティエンが近づくと、カインの足をぽすっと叩いた。まるで、何かを諭すかのように。
「ティエン?」
カインがティエンとイェルクを見比べる。
何か言いたそうな、イェルクの顔。僅か、頬が紅潮しているのは気のせいか?
(なるほど……)
そういう事か、とニヤッと笑う。
カインはイェルクを隣に導くと、彼の頭を優しく撫でた。
「俺の嫁は可愛いなぁ」
カインの手が、イェルクの髪を梳く。イェルクは上目遣いでカインを見た。
「カインが私を可愛くしてるのでは?」
拗ねたような響きを持って、イェルクが言えば、カインはパチクリと瞬きを一つ。
「って、あざてぇな」
イェルクの頭を包むようにして、彼の顔をまっすぐに捉えた。
「なら、俺以外に見せるなよ?」
そんなこと、言われるまでもない。
——誰があなた以外に見せるか。
●同じ香りに包まれて
カーテンの隙間から差し込む春の日差しに照らされ、蒼崎 海十は目を覚ました。
昨日はライブだったこともあり、心地よい疲れでぐっすり眠ってしまっていた。
ベッドから抜け出し、顔を洗おうと洗面所に顔を出せば、ランドリールームを兼ねているそこに、フィンの姿があった。
「おはよう」
「あ、海十、おはよう。朝ご飯用意出来てるよ」
洗濯物と格闘しているフィンに挨拶をすれば、笑顔が返ってくる。
「今日は天気が良いから、シーツ洗うね」
「うん、わかった」
ダイニングテーブルには、フィンが用意してくれた朝食が並んでいた。フレンチトースト、定番のベーコンエッグ、それにサラダ。
それらを口へと運ぶ海十の頭に、洗濯物を抱えたフィンの姿がちらつく。
(昨日ライブで着た服とかも洗濯籠に入れたし……シーツ洗うとか言ってるし、きっと一人じゃ大変だ)
フィンの手伝いをするために、急いで朝食を平らげた。
ごちそうさま、と手をあわせる。急いで食べたけれど、その味はいつもながら美味しかった。
海十はひょいと洗面所に顔を出した。
「ご飯美味かった、サンキュ」
フィンは両手にシーツを抱えていた。丁度、寝室からシーツを運んできたところらしい。
「俺も手伝う。だって、俺のものが多いだろ? 今日は休みだし、偶には俺だって」
「有難う。それじゃ、早速だけど、シーツを畳むの手伝ってくれる?」
海十は頷き、フィンが抱えているシーツへと手を伸ばすが、畳み方がわからない。困惑気味の海十に、フィンはくすっと小さく笑う。
「じゃばら状に畳んで、洗濯ネットに入れるんだ」
フィンに指示されるままに、シーツを畳む。大きなシーツを一人で畳むのは大変だ。けれど、二人でならば、楽に畳むことができる。
あっという間に折り畳まれたシーツを洗濯ネットの中へ。
その時、第一弾の洗濯が完了したようだ。洗濯機のアラームが鳴っている。
洗い上がった洗濯物を取り出し、代わりにシーツの入った洗濯ネットを洗濯機の中へ入れる。
「海十、どの柔軟剤が良い?」
「柔軟剤?」
棚に並んだ柔軟剤。カイトはボトルに貼られたラベルを眺めた。ラベルには、香りをイメージしたイラストがプリントされている。
「……そうだな、クッキーの香りがいいかも」
クッキーがプリントされたボトルを手に取った。蓋を開けると、それだけでも甘くて美味しそうな香りが広がる。
洗剤と柔軟剤を投入し、スタートボタンを押す。
シーツが洗い上がる前に、先の洗濯物を干してしまおうと、二人は洗濯物をベランダへと運んだ。
日頃使うタオルや衣類に加え、海十がライブで着た服が物干し竿に並んでいく。
一通り干し終わったところで、洗濯機の呼び声が響いた。シーツが洗い上がったようだ。
二人がかりでシーツを広げ、物干し竿へ掛ける。
優しく吹く風に乗って、香ばしくも甘い、クッキーの香りが二人を包む。
「こういう光景……何だか幸せだ」
洗濯物が並ぶベランダを眺め、海十がポツリと言った。
陽射しを受け、洗濯物たちが輝いて見える。
そうだね、とフィンが同意する。
「俺、洗濯って好きなんだ」
好きな人の洗濯物、それを任されている自分が、特別に感じられるから。
今日は特に。
大切な、好きな人と一緒に干した洗濯物。フィンは眩しそうに目を細めた。
洗濯物が乾くまでお茶でもしようかと、フィンはキッチンへと足を向ける。その時、ポケット中の携帯電話が鳴った。
「へぇ……個人露天風呂と景色が綺麗な離れの宿……」
オススメの宿だと、メールで情報提供をしてくれたのは、カインだ。
フィンはそっと携帯電話をポケットに戻した。含み笑いでキッチンへ。旅行の計画は、こっそり進めなくては。
日が沈む前にベランダに出た。洗濯物は乾いている。
二人で洗濯物を取り込む。日光の香りと、甘い、クッキーの香り。
思った通り、美味しそうな香りに仕上がっている。
(この香りに包まれて今日は眠れるんだな……うん、幸せ)
ふわりと微笑む海十に、フィンも微笑む。
二人、同じ香りに包まれて、きっと良い夢がみれるだろう。
●晴れた日には
「おかえりー咲祈、どこ行ってたの?」
帰宅した同居人——咲祈に、精霊のサフィニアが声をかけた。
「本屋、しか行くところがない」
「あるでしょ喫茶店とか」
「……興味深いけど、そこに一人で行こうとは思わないな」
それもそうか、とサフィニアは納得する。咲祈が一人で行きそうな場所ではない。
過去の記憶を失くしてしまっている咲祈には、喫茶店で時間を過ごすより、本屋で好奇心を満たす方が有意義だろう。
「手が空いているなら手伝ってくれないかな? 洗濯物が溜まっててさ」
サフィニアが両手に抱えた洗濯物を示す。一人で干すには、骨が折れる量だ。
「洗濯……」
咲祈の好奇心が刺激される。
わかった、と咲祈は頷いた。
洗濯物を抱え、ベランダへ出る。
二人に注ぐ日差しは暖かく、そよぐ風も穏やかだ。
「今日は温かいと思ったら、もうすぐ春がくるんだね」
「前までは寒かったのに、早いよねぇ……」
鳥の囀りが、春の訪れを告げている。今日の陽気は、まさに洗濯日和だろう。
咲祈は洗濯物を広げた。途端、香るのは、甘い香り。
おや、と思って鼻先を洗濯物に近づけた。
普段、洗濯はサフィニアがしてくれている。洗いたての衣類から、いつも良い香りはしているのだが、今日はそれとは違う香りだ。
「……。ねえサフィニア、洗濯物から甘い香りが漂っているけど、いつものじゃないだろう、これ」
訝しげに問うと、サフィニアの小さな笑い声。
「気づいた? ショコランドの……特別品、らしいよ? たまには良いと思ってね」
「へえ……なるほど。ショコランドにも、柔軟剤とかあったんだね」
もう一度、洗濯物の香りを嗅いだ。
何の香りだろうか?
花の香りではない。お菓子のような、食欲を誘う、甘い香りだ。
カスタード……いや、バニラだろうか。
正体がわからず、咲祈はサフィニアに尋ねた。
「これって何の香り?」
「プリンだよ」
「プリン……」
驚く咲祈に、サフィニアが首を傾げた。
「あれ、こういうの嫌い?」
「いや、嫌いじゃない」
咲祈はかぶりを振った。
「これはこれで面白い」
珍しい香りだとは思っていたが、まさかプリンの香りだとは思はなかった。
どのような成分で香りを作っているのだろうか。あとで、成分表を確認してみようと思いながら、洗濯物のしわを伸ばしてサフィニアに渡した。それを、サフィニアが物干し竿に干す。
ベランダに、プリンの香りが並べられていった。
「ふむ、これで終わりのようだ」
咲祈は最後の一枚をサフィニアに手渡した。
「手伝ってくれて助かったよ。ありがとう」
全ての洗濯物を干し終えたサフィニアが言った。
隣の咲祈は、どこか満足そうな表情だ。
もしかして、とサフィニアは咲祈に訊いた。洗濯は初めてかと。咲祈は頷いた。
咲祈にとっては、洗濯という行為も好奇の対象だったのかもしれない。それを体験することができ、好奇心を満たされたという事か。
「……最初だけとかそういうのなしで洗濯って意外と楽しいものだよ? そりゃあ、多少大変ではあるけど」
うん、と咲祈が頷く。
「晴れてる日にベランダに出るのもたまには良いかもしれない」
それは、咲祈の素直な思い。
先ほどより高くなった太陽が、咲祈の髪を輝かせた。
「なら、また手伝ってもらおうかな? 一人でするより二人でやった方が楽しいしさ」
「そう? なら今日みたいな晴れ具合の時にまた手伝おう」
空を見上げる。綺麗な青空だ。
風が吹く。
甘い香りが、二人を包んだ。
●白い世界
『洗濯を手伝って貰えたら嬉しい』
羽瀬川 千代からの電話越しのお願いを、ラセルタ=ブラドッツは二つ返事で引き受けた。
千代は人の手助けは率先してするが、自ら助力を願う事は珍しい。そんな千代に頼られるのは、悪い気がしない。寧ろ良い気分だ。
ラセルタは千代が住み込みで手伝いをしている孤児院へと向かった。
ここ数日の雨により溜まっているであろう洗濯物の量は、一人暮らしのそれとは比較にならないだろう。
案の定、孤児院に到着すると、出迎えてくれた千代は大量の洗濯物を抱えていた。
千代がありがとうと礼を述べれば、ラセルタは気にするなと笑顔を見せる。
ランドリールームに足を運ぶ。千代は手際よく洗濯物を分別し、洗濯機の中へと放り込んでいく。その動きがぴたりと止まった。手には二つのボトル。
どうしたのかと、ラセルタは千代の手元を覗き込んだ。
千代が睨めっこをしているのは、柔軟剤のボトルだ。一方にはクッキー、一方にはチョコレートのイラストがプリントされたラベルが貼られている。どうやら、香り選びに悩んでいるらしい。
「選べぬのなら両方入れたら良い」
ラセルタの進言に、千代はうん、と頷く。
「混ぜたらチョコレートクッキーの匂いになるかも知れないね」
折角だから、冒険しようかと言う千代に、ラセルタはふっと笑う。
「どのような結果も甘党の俺様達には歓迎だろう?」
そうだね、と千代も笑う。二人は大の甘党なのだ。
千代はチョコレートと、クッキーの香りの柔軟剤を洗濯機へと投入した。
孤児院の庭の物干し竿には、すでに幾つもの衣類が干されていた。ラセルタが来るまでの間に、千代が干したものだ。
ラセルタは今しがた洗い終えたシーツや枕カバーを、物干し竿へと掛けていく。彼は自宅での家事は業者に任せてはいるが、この程度の家事ならば普通にこなせるのだ。
千代も一緒に子供達の寝具を干していく。
時折吹く優しい風が、静かにシーツをはためかせた。
その僅かな間、目が合う。
ふっと優しく笑う千代。
愛おしさに、ラセルタは目を細めた。
洗濯物を干し終え、数時間。
千代はシーツに触れた。日の光と穏やかな風で、ふわふわに仕上がっている。
シーツを物干し竿から降ろし、両手で抱えた。鼻孔をくすぐるのは、香ばしいバターとカカオが混ざり合った、チョコレートクッキーの香りだ。
あたりを見渡し、ラセルタの姿を探す。この香りを、彼と分かち合いたい。
庭の隅に、ラセルタの姿を見つけた。
その後ろ姿に、千代は小走りで近づいた。
「ラセルタさんっ」
呼ばれ、ラセルタは振り向いた。
バサッ
視界が塗り替えられる。
真っ白な世界。その中に見つけた唯一の色。千代だ。
二人の姿を、シーツが覆い隠す。
「……たまにはね。びっくりさせたくて」
慣れないイタズラに、照れたように笑う。
白いシーツが日の光を集める。その柔らかな光が、鮮やかに千代を浮かび上がらせる。
嗚呼……と、ラセルタは感嘆した。
(今再び恋に落ちるかのようだ)
千代はラセルタを見上げながら言った。
「柔軟剤、どうかな? 俺は成功だと思うのだけれど」
「悪くないな」
千代の体を引き寄せる。
ラセルタは自身の唇を千代の唇に重ねた。
唇を離し、笑みを浮かべる。
「逃げねば、悪戯な甘い匂いに俺様が唆されてしまうぞ」
揶揄うような彼の口ぶり。千代はそっと鼻先を彼にすり寄せ、微笑んだ。
「俺の好きな物で満ちたシーツの中から逃げようだなんて思わないよ」
春の陽射しが作る優しいお菓子の香りと、傍には愛しい恋人。逃げる必要など、ない。
シーツが揺れる。
二人を包む、甘い香り。
再び重ねられた唇。
白い世界。そこにいるのは、二人だけだ。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | りょう |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 03月07日 |
出発日 | 03月14日 00:00 |
予定納品日 | 03月24日 |
参加者
- 羽瀬川 千代(ラセルタ=ブラドッツ)
- 蒼崎 海十(フィン・ブラーシュ)
- カイン・モーントズィッヒェル(イェルク・グリューン)
- 咲祈(サフィニア)
- カイエル・シェナー(エルディス・シュア)
会議室
-
2016/03/13-18:07
-
2016/03/13-14:36
-
2016/03/13-14:36
最後になってしまいましたが…羽瀬川千代とパートナーのラセルタさんです。
折角のいいお天気ですから何とか一思いに洗濯を終わらせられたらな、と。
お菓子の香りの柔軟剤、使ってみるのがとても楽しみです(ふふ) -
2016/03/13-10:26
…挨拶、したような気がしたけれど(してませんでした)
よろしくね咲祈だ。
カイエル、大丈夫だ僕も洗濯したことある覚え全くないから(しれっと
サフィニア:うん分かってたよ、咲祈…(頭抱え -
2016/03/13-01:35
カイエル・シェナーにエルディス・シュアだ。宜しく頼む。
エルディス:
楽しそうな話が聞こえるな。しかし、まずはこの当面の洗濯物を…(山積み)
カイエル:
手伝えと言われてきたが、『洗濯など人生で一度もした事な──』
エルディス:
あーあーあー!! 聞こえない!俺はそんな事聞こえないからな!!(絶叫) -
2016/03/12-01:10
フィン:
>カインさん
ふむふむ、個人露天風呂と景色が綺麗な離れの宿……と。
有難う。参考にさせて貰うね♪ -
2016/03/11-21:05
>フィン
りょーかい。
俺達が行ったのは、個人露天風呂と景色が綺麗な離れの宿だ。夜も静かでいいから、プランの参考にしてくれや。 -
2016/03/10-22:28
-
2016/03/10-22:27
フィン:
フィンです。パートナーは海十。
皆さん、宜しくお願いします!
洗濯って凄く好きなんだよね。
良い天気の日にお日様の光をたっぷり吸った洗濯物って、すっごく気持ち良くて良い香りで好きだな♪
風に揺れる洗濯物を眺めるのも、何とも言えない幸せだよね。
大切な人の衣服と一緒に揺れる、自分の服……頬が緩んじゃうな。
のんびりと楽しい時間を過ごせたらいいね♪
>カインさん
わぁ、それはすっごく興味ある!
丁度、来年、海十の学校卒業に合わせて、旅行でもどうかなぁと思ってたんだよね(気が早い)
良い宿の情報は有難いな♪
微に入り細に入り…情報期待してます! -
2016/03/10-19:30
-
2016/03/10-19:29
カインとイェルクだ。
全員面識あるな、よろしく。
天気のいい日は洗濯物が乾いていいよな。
うちのティエンもぽかぽか日向ぼっこすりゃふかふかになんだろ。
ま、皆もいい時間過ごしてくれや。
>フィン
あぁ、洗濯物乾かしてる間、ちょいとメールするかも。
この前いい宿に泊まってだな。
可愛い嫁(イェル)がひじょーに喜んでいたので、そっちの嫁(海十)にもどうかと思って。
情報忘れない内にそっちに流しとく(にやにや)
ってことで…