【薫/祝祭】妖精茶会(山内ヤト マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 A.R.O.A.に、ウィンクルム達に宛てて手紙が届いた。送り主は、ショコランドに住んでいる妖精からだ。
 赤い蝋で封印された手紙は、上品さと高級感を漂わせていた。

 さて。肝心の内容はというと、パーティーへの招待状だ。
 今度妖精の屋敷の庭園で立食形式のパーティーが開催される。そこに、ウィンクルムもぜひ参加してほしい、とのことだ。
 主催者はドレスや礼服に身を包んだ妖精達だが、ちゃんと人間のサイズに合わせたカップや椅子が用意されているので心配はいらない。
 屋敷の庭園には、噴水やガゼボ、常緑樹を刈り込んだトピアリーがある。
 ケーキやクッキーなどのお菓子の他に、軽食としてサンドイッチやスコーンも用意されている。

 優雅な旋律を奏でるのは、妖精の音楽隊。演奏や歌の飛び入り参加はできないが、パートナーとダンスを楽しむことはできる。
 手を繋いでくるくると回るシンプルなダンスでも、充分盛り上がる。自信があれば、複雑なステップに挑戦してみても楽しそうだ。
 踊りや目立つことが苦手な者は、静かに見物していても構わない。

 このパーティーの醍醐味は、自分の好みでブレンドができるハーブティーのコーナーだ。
 色々なハーブが取り揃えてあるので、カモミールやラベンダーといったメジャーなものだけでなく、コーナーを探せば珍しいものにもお目にかかれそうだ。
 単品で飲むこともできるが、ハーブを組み合わせて飲むのがオススメ。
 自分の手で、好みの香りを作り出してみてはいかがだろう。

 パーティーの参加者には、お土産に綺麗に包まれた祝福の金平糖が渡される。

解説

・必須費用
参加費:1組600jr



・ハーブのブレンド
会場には、色々なハーブティーの材料が用意されています。
例に出したハーブは、GMが実際に飲んだことのあるものです。例以外のハーブもブレンドできます。使用したいハーブがあれば、プランに記入してみてください。
ダンスや食事をするかは任意ですが、ハーブティーに関するプランは必須でお願いします。

エルダー(花) マスカット系の香り。黄色。
カモミール(花) リンゴ系の香り。黄色。
ハイビスカス(花の萼) 爽やかな酸味。濃いルビー色。
ペパーミント(葉) 清涼感が強い。黄色。
マリーゴールド(花) 癖がなく飲みやすい。黄色。
ラベンダー(花) 特有の芳香。好き嫌いのわかれる味。紫色。
ルイボス(葉) 癖がなく飲みやすい。茶色。
レモングラス(葉) レモン系の香り。黄色。
ローズヒップ(果実) ビタミンCが豊富。単独では、意外と赤い色が出ない。黄色。



・デートコーデの小ネタ
連合軍制服「青の旅団」
金時計「グローリア」
手袋「ロイヤル・レット」
手袋「ロイヤル・チェック」
エンシェントクラウン
など、バレンタイン地方での功績を示すアイテムをPCが装備していると、NPCから敬意を払われます。
直接的な利益は特にありません。

ゲームマスターより

山内ヤトです!

飲んだことはないのですが、ブルーマロウはレモンで色が変わる面白いハーブティーらしいですよ。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)

  【ハーブティー】
ハイビスカス(花の萼)
色がきれいです

ダンスは得意ですが、ディエゴさんはそうではないですし
踊りたかったんですが二人でガゼボでゆっくりハーブティーでも楽しみましょう
ディエゴさんのハーブティーは変わった香りですね…少しコーヒーに似てるかも。

ダンスっていうのは…特にパーティーでのダンスは一人で楽しむものじゃないですから
二人で楽しむものなんです
…ですが、そんなにダンスに興味あるならちょっと練習してみましょうか?
ここなら誰にも邪魔されずにできますよ。

…では音楽はディエゴさんがお願いします
歌うんですよ
その音楽に合わせてステップを踏みますので覚えてくださいね
それから腕を組んでダンスです


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  妖精さん達のハーブティー楽しみです。

精神的な癒しを求めてカモミール。
少し蜂蜜を入れるとほんのり甘くて美味しいです。
リンデンの花・苞や白木を混ぜるとより気持ちが落ち着くとか。

妖精さん達を見ると先日の依頼を思い出して、心が痛みます。
色々と反省する事しきりです。もっと考慮するべきことを見落としていたし、連係不足の印象も否めません。
あの村の妖精さん達は私達の行動を「助かった」と容認してくれたかしら。それとも苦く嫌な出来事を運んできただけ?
至らぬ事から学ぶべき点は沢山あります。
その経験を何か活かさなければ。
そんな事をずっと考えていて、疲労感を溜めてしまってたかも。
フェルンさん、私達もっと努力しなくては。



紫月 彩夢(神崎 深珠)
  自分でブレンドが楽しめるなんて、素敵よね
でも、今日は深珠さんに選んでもらいたい
深珠さん、真面目だから、多分事前に言っておけばちょっと齧ってくるだろうし

花粉症予防…アイブライトなんて初めて聞いた
どのハーブも、凄くいい香りよね。混ぜ方間違えると喧嘩しそう
…深珠さんの作ってくれたのは、素敵な香り
うん、おいしい
深珠さんも飲もうよ

ダンス…?
いい、けど…ちょっとびっくりした
うん、思いっきり踏むかもしれないけど、怒らないでね

…勉強したことも、ダンスが初心者なのも、黙っておけばいいのに
結局は、何でもそつなくこなしちゃうんだから
でも、それを素直に言うところが、深珠さんの魅力よね
…言うと照れそうだから、黙っとこう


藤城 月織(イリオン ダーク)
  お茶だけ!と無理言って参加

周りは案外見てませんって

ウスベニアオイ(マロウブルー

嫌そうな顔の精霊に苦笑
大丈夫、苦くないですよ?

これね…面白いんですよ
お茶にレモンを数滴
毒なんか入っていませんってば

子どもの頃に咳が続くと、祖母が喉に良いからと飲ませてくれて…
俯いて沈黙

え?
暗に聞いてやると促され

祖母は庭に多種多様なハーブを植え、お茶、料理と活用
特に自分の気管支が弱かったため、ウスベニアオイは多かった
今の庭に面影はなく、祖母がいないことを実感
ハーブティと聞いて懐かしくなった

意外な言葉に瞬き
思いがけず零れる涙
あ…れ?
葬儀の日だって、涙出なかった、のに…
涙を止める術がない

彼がパートナーで良かったと改めて思う


アリシエンテ(カデンツァ)
  ギルティとは救うという概念自体が違う、価値観も違う
本来、命懸けで抗う行為を『正義』等と呼んでいれば、ギルティどころか普通の人ですら嘲笑うわね
それ故に、不毛
あれ等とは最早種族争いの生存競争をしているに過ぎない

ブルーマロウにレモンを一滴(色、紫へ)

それに…瘴気にあてられ発現したオーガはジェンマの愛でも救えない
それらは、元精霊であり、動物であった
それらを救えず『私達が生きる為に殺す』しかいないのならば、
『【存在を殺し続ける】私の往く道は地獄しか無いではない』

それでも、私は殺し続ける
殺す以上はいつか殺される

(レモンを一滴、色ピンクへ)

地獄の旅路にはエストを連れて行くと決めているの
貴方は連れて行けないわ


●ウスベニアオイの記憶
「お茶だけ! お茶だけですから、ね?」
 お茶会への参加をしぶる『イリオン ダーク』を『藤城 月織』は拝み倒して押し切った。
 しぶしぶ参加を承諾したものの、イリオンは居心地悪そうにしている。
 イリオンは己の醸し出す雰囲気が場にそぐわないのではないかと思っている。周囲を恐がらせていないか気掛かりだ。なにしろイリオンは強面で、頬には傷まで走っているのだから。
「……明らかに場違いだろうが」
 隣の月織へそうぼやけば、気楽なフォローが返ってくる。
「周りは案外見てませんって」

 会場に用意された数あるハーブの中で、月織はブルーマロウに目を留めた。ウスベニアオイという呼び名の方が月織には馴染み深かったが。
 茶器の種類も充実していた。月織はガラスのポットを選ぶ。
 イリオンは月織がお茶を用意するのを眺めていた。手馴れている。そんな印象を受けた。
 ウスベニアオイを入れたポットにお湯を注げば、さあっと爽やかな青が広がった。
「飲めるのか、これは」
 そう尋ねるイリオンの声には、若干不安げなトーンが滲んでいた。たしかに青い食品というのは、自然界ではあまり見かけない代物だ。
 イリオンの嫌そうな顔に月織はちょっぴり苦笑する。
「大丈夫、苦くないですよ?」
「……俺は子どもか」
「まあまあ。これね……面白いんですよ」
 月織はイリオンによく見えるようにして、ウスベニアオイのお茶にレモンを数滴入れる。青からピンクへ、魔法のように色が変わった。
 それを見ていたイリオンの眉間の皺が深くなる。
「……本当に飲めるんだろうな」
 あからさまに警戒した声で月織に念を押す。
「毒なんか入っていませんってば」
 イリオンの警戒を解くために、月織はウスベニアオイのお茶の説明を始める。
「子どもの頃に咳が続くと、祖母が喉に良いからと飲ませてくれて……」
 そこまで言って、声が小さくなり消えてしまう。月織は俯き、ただ黙っている。
 月織の表情と声の変化。話に耳を傾けていたイリオンが気づく。
(祖母……。そういや、昨年亡くなったと言ってたか……)
 沈黙を破ったのはイリオンからだった。
「で? 続きがあんだろう」
「え?」
 少し粗暴な言葉だが、もっと月織の話を聞いてやると促している。
 最初は遠慮がちに黙っていた月織だが、やがてぽつりぽつりと祖母との思い出を語り出す。
「私の祖母は庭に色んなハーブを植えていて、それでお茶や料理を作ってくれたんです。特に自分の気管支が弱くて、喉に良い効能のあるウスベニアオイはよく利用してました」
 月織の声は寂しげだ。
「でも、祖母はもう亡くなって……。今の庭にはもう面影がなくて……」
 改めて大切な人の死を実感する。
「だから……ウスベニアオイのハーブティーを見てたら、つい懐かしくなっちゃったんです」
 どこか申し訳なさそうにしている月織に、イリオンが言葉をかける。
「……今みたいに話せ、そして溜め込むな。アンタ、俺に遠慮しすぎだ」
 イリオンからかけられた意外な言葉に、月織は驚いたように瞬きした。そして、彼女の両目から零れ落ちるものがあった。
「あ……れ?」
 涙。
「葬儀の日だって、涙出なかった、のに……」
 あふれ出す悲しみの雫をせきとめる術はない。
「俺が泣かせたみたいだろうが……」
 イリオンは驚きながらも、不器用に月織を引き寄せて自分の胸を貸す。彼女の泣き顔が周囲に見られないようにという配慮からの行動だった。
 そのまま何事もないかのように、イリオンはウスベニアオイのお茶を一口。
「……別に旨いもんじゃないな」

 イリオンの胸を借りて泣きながら、月織は改めて思う。
 強面で、不器用で、優しくて。
 そんな彼がパートナーで良かったと。

●ダンスレッスン
 妖精達の音楽隊の演奏に『ディエゴ・ルナ・クィンテロ』はしばし聴き入った。音楽に合わせて、踊っているゲストの姿もちらほらと。
「踊らないのか?」
 ディエゴは『ハロルド』へと声をかける。彼女はダンスが上手かったはずだ。
「ダンスは得意ですが、ディエゴさんはそうではないですし」
 少し首をすくめて、ハロルドはそう返事した。
「踊りたかったんですが、二人でガゼボでゆっくりハーブティーでも楽しみましょう」
「まあ、お前がそういうなら……ゆっくりハーブティー飲むか」

 会場には、ハーブティーのコーナーが特設されていた。
「色がきれいです」
 ハロルドは、ハイビスカスの鮮やかな赤に惹かれた。
 ディエゴはチコリのお茶を選ぶ。

 庭園のガゼボへ。
「ディエゴさんのハーブティーは変わった香りですね……少しコーヒーに似てるかも」
 植物の根を素材としたそのお茶は、一般的なハーブティーのイメージとは少し異なっており、コーヒーを思わせる香ばしい香りがした。
「このハーブは香りで選んだ。確かに……コーヒーに似てるな、風味もそれっぽい」
 ティーカップに口をつけ、ディエゴはチコリのお茶を味わった。
 ハロルドが選んだハイビスカスは適度な酸味。この鮮やかなルビー色の中には、ビタミンCやクエン酸といった美容や健康に良い成分が含まれている。
 ハーブティーを飲んで一息ついたところで、ディエゴがダンスの件を切り出す。
「それはそうと……お前、踊らなくてよかったのか? ついていけるかはわからないが、俺も付き合うぞ」
 ハロルドはこう答えた。
「ダンスっていうのは……特にパーティーでのダンスは一人で楽しむものじゃないですから。二人で楽しむものなんです」
「そうか……気遣ってくれたんだな、ありがとう」
 だが、ディエゴはそこで会話を打ち切る気はなかった。
「なら、少しダンスを教えてくれよ」
 ディエゴはハロルドの顔を見つめながら、そう頼んだ。
「今度こういう場があるなら少しくらいはお前に合わせられるようにしておきたい。パートナーとして恥ずかしくないようにな」
 パーティーでのダンスは二人で楽しむもの。ハロルドの言葉を受け止めたディエゴは、自分がダンスを上達させるという道を選んだようだ。
「そんなにダンスに興味あるならちょっと練習してみましょうか?」
 ハロルドもそんなディエゴの思いを無下にはしない。ダンスの指南に、協力的な姿勢を見せる。
「ここなら誰にも邪魔されずにできますよ」
 ガゼボの周囲には人影はまばら。ハロルドの言う通り、周りを気にせずダンスの練習ができそうだ。
「……では音楽はディエゴさんがお願いします」
 ダンスにはやはり音楽がつきものだ。
「音楽というと……歌うのか、俺が」
「歌うんですよ」
 当然、とばかりにハロルドが頷く。
「じゃあ、さっき妖精たちが演奏していた曲を、ハミングで良ければ」
「では、それで」
 先ほど聞いた妖精の曲。ハロルドの耳にもメロディが残っている。
 ディエゴのなめらかなハミングが聞こえてきて、それがダンスレッスンの合図となった。
「その音楽に合わせてステップを踏みますので覚えてくださいね」
 まずはハロルドがディエゴに手本を見せる。しなやかでスラリとした足が、優雅にステップを踏む。
 ディエゴはその動きをしっかりと頭に叩き込んだ。
「それから腕を組んでダンスです」
 二人で腕を組み、息を合わせてステップを踏む。
「……上手いな」
 ハミングをちょっとだけ中断して、ディエゴがハロルドの顔を見つめてつぶやく。
「お前のステップを見ていたら、踊るのも楽しそうに思えてくる」
 そのまま二人、ダンスの練習を続けた。
 ディエゴの心地良いハミングを聞きながら。

●地獄行脚
 人気の無いテーブル。『アリシエンテ』と『カデンツァ』の間には張り詰めた空気が漂っていた。
 緊迫感の原因は、アリシエンテの会話の内容だ。
 アリシエンテの前には、ブルーマロウの入ったティーカップ。その中身は、まだ澄んだ青色をしている。
「ギルティとは救うという概念自体が違う、価値観も違う。本来、命懸けで抗う行為を『正義』等と呼んでいれば、ギルティどころか普通の人ですら嘲笑うわね」
 最高峰の神学の知識に基いて、アリシエンテはよどみなく持論を語る。そして、そんなアリシエンテが出した結論は。
「それ故に、不毛。あれ等とは最早種族争いの生存競争をしているに過ぎない」
 アリシエンテはレモンに手を伸ばす。ブルーマロウにレモンの果汁を一滴。お茶の色は、青から紫へ。

(せっかくの茶会に人気の無いテーブルをと思えば……成程、これは他人には聞かせられないな)
 カデンツァは落ち着かない気持ちで、自分のハーブティーを口にした。レモングラスとペパーミントの爽やかなブレンド。
 だが、その清涼感でも払拭できない胸のつかえがあった。
「……聞こえないな」

「それに……瘴気にあてられ発現したオーガはジェンマの愛でも救えない」
 怨嗟の金平糖で凶暴化した者であれば、神人の力で正気に戻せる。また、ウィンクルムの力で場に立ちこめた瘴気を払うこともできる。
 だが、アリシエンテが指摘したように、一度デミ・オーガ化した生き物を治す手段は見つかっていない。神人や精霊の力をもってしてもだ。
「それらは、元精霊であり、動物であった」
 カデンツァはこの深刻な話題から逃れるように顔を少しだけそむけていたが、それでもアリシエンテの迷いのない言葉は彼の耳に入ってくる。その言葉は、確信にも似た硬さと鋭さを持っていた。
「それらを救えず『私達が生きる為に殺す』しかいないのならば、『【存在を殺し続ける】私の往く道は地獄しか無いではない』」

「聞こえないと言っているんだ」
 カデンツァは高度なメンタルヘルスの技術があり、普段なら思いのままに感情の制御ができる。だが、今この場ではあえてその技術を使わない。
 驚くアリシエンテに目を閉じて、カデンツァは剣呑に告げる。
「俺にもう一度親しくして頂いた存在の血を見ろと言うのか?」
 二人は幼なじみで、家ぐるみの付き合い……だった。
 アリシエンテの両親はオーガに襲われた。その場に居合わせたカデンツァは、意識を手放す直前まで、彼らを助ようと必死で庇ったのだが……。
 そんなカデンツァの抵抗を嘲笑うかのように、オーガはアリシエンテの両親の命を奪っていく。
 カデンツァは拳を握る。
「今度こそ、今度こそ守れる力があるというのに!」
 視線に強い力を込めて、カデンツァはアリシエンテを見た。

 冷静な。けれど強い信念を感じさせる声。
「それでも、私は殺し続ける。殺す以上はいつか殺される」
 いかに優れた軍師や武人でも、常に順風満帆の勝ち戦とはいかない。
 負傷、重症、そして訪れる最悪の事態……。

 死亡。
 生命活動の停止。
 この世界からの存在の抹消。

 アリシエンテはそれすらも覚悟の上で、オーガと戦い続けると今ここで宣言した。
 ぽたり。
 紫色のお茶にレモンを一滴。色はピンクへと変わる。

「──決めた。やはり俺も巻き込ませろ」
 カデンツァは自分の左手の紋章に視線を向けた。
「お前の言う通りにして、お前のご両親と、お前が同じ姿になった時……。俺は間違いなく自分の存在意義を失う。俺が決めた選択だ。どうか、頷いてはくれないか?」

 アリシエンテが口にしたのは、今ここにいないもう一人の精霊の名前。
「地獄の旅路にはエストを連れて行くと決めているの。貴方は連れて行けないわ」

●勤勉でそつなく素直な
 妖精茶会の誘いを『神崎 深珠』に持ちかけた時に、『紫月 彩夢』は彼がセレクトしたハーブのブンレドが飲みたいとほのめかしていた。
 そう言っておけば、深珠のことだ。事前にハーブのことを調べてくれるだろう、という当てが彩夢にはあった。

 そしてお茶会の当日。
「自分でブレンドが楽しめるなんて、素敵よね。でも、今日は深珠さんに選んでもらいたい」
 ハーブティーのコーナーで彩夢がそう頼めば、深珠はなんだかんだでリクエストに応えてくれる。
「俺が詳しいのは紅茶であって、ハーブは専門外なんだが……彩夢はそれでも良いんだな」
「うん」
 彩夢の思った通り、茶会への誘いがあった後、真面目な性質の深珠はハーブティーについて勉強してきたようだ。
「軽く齧った程度だが……」
 そう前置きしながらも、深珠の手はテキパキと動く。たくさんの種類の中から、まずは必要なハーブをピックアップする。
「そうだな、これからの時期花粉症の予防にいいブレンドがあると聞いたな」
 アイブライト。エルダーフラワー。ローズヒップ。
「この三種類のハーブを2:1:1ぐらいの割合でブレンドする」
「花粉症予防……アイブライトなんて初めて聞いた」
 ちょっと感心した顔で、彩夢は深珠の作業を眺めた。
「彩夢は、花粉症で困ったりしていないか?」
 深珠から話題を振った。
「んー、そうねー……」
 しばしの間、厄介な風物詩の会話をかわす。

「どのハーブも、凄くいい香りよね。混ぜ方間違えると喧嘩しそう。……深珠さんの作ってくれたのは」
 彩夢はすっと香りを吸い込む。
「素敵な香り」
 調和のとれた配合。
 深珠はティーポットにお湯を入れ、ハーブティーの抽出にとりかかった。
「色は、良いな……美味いか?」
 味見をした彩夢は満足そうな笑みを浮かべる。
「うん、おいしい。深珠さんも飲もうよ」
「……そうか。菓子も、少し貰ってこようか」
 執事服やメイド服を着た妖精が、甘いケーキや焼きたてのスコーンを用意してくれている。ショコランド産だけあって、お菓子の味は上等だった。

「ダンスでも、してみるか?」
 ハーブティーを飲み終えて、深珠がそんなことを言い出した。
「ダンス……? いい、けど……」
 彩夢の返事は微妙に歯切れが悪い。
「ちょっとびっくりした」
 深珠からこんな風にダンスに誘われるとは、思っていなかったから。
「たまには俺から誘わせろ。いつも彩夢にリードされてばかりでは男が廃る」
 彩夢は少し冗談めかして頷く。
「うん、思いっきり踏むかもしれないけど、怒らないでね」
「まぁ、ダンスは初心者だが……足を踏まれても怒らないから安心しろ」
 見栄は張らずに、深珠は自分がダンスの初心者だと明かす。
「見よう見真似で、それっぽく盛り上げるとしよう」
 妖精の音楽隊の演奏に合わせて、たくさんの妖精のゲストが楽しそうに踊っている。妖精に招待された人間達の姿もまばらに見える。
 二人で手を繋いで回るシンプルなダンスなら、初心者でも踊りやすそうだった。
 深珠は場の雰囲気に合わせて、王子のように恭しく彩夢の手をとる。
 最初は見よう見真似のぎこちなさがあったが、やがて二人の動きはなめらかな円舞へと変わっていく。
(……ハーブティーのブレンドを勉強したことも、ダンスが初心者なのも、黙っておけばいいのに。結局は、何でもそつなくこなしちゃうんだから)
 くるくると踊りながら、彩夢はそんなことを思う。
 視線の先には深珠。
 周りの景色は、回転のせいで幻のようにぼやけて、目に入らない。
(でも、それを素直に言うところが、深珠さんの魅力よね)
 彩夢は自分の唇を嬉しそうにきゅっと結んだ。
(……なんて言うと照れそうだから、黙っとこう)

●癒やしと切り替え
 『瀬谷 瑞希』の頭に輝くエンシェントクラウン。
 『フェルン・ミュラー』は連合軍制服「青の旅団」をまとっている。
 どちらも二人のショコランドでの功績を示すものだ。何人かの妖精達が親しげに近づいてきたが、瑞希の憂い顔を気遣い、丁重な目礼だけでその敬意を示した。
 瑞希は先日達成した依頼の件で少し落ち込んでいた。
 そんな彼女を見兼ねて、フェルンから今回のパーティーに誘ったのだ。美味しいハーブティーを飲めば、少しは気持ちも上向くだろうという期待を込めて。
「妖精さん達のハーブティー楽しみです」
 ちょっと力のない笑顔で、瑞希はフェルンの誘いを受けた。

「ハーブティーは何にする?」
 瑞希が選んだのはカモミール。精神の癒やしを求めていた。
「ミズキはカモミールが好きなんだね」
「少し蜂蜜を入れるとほんのり甘くて美味しいです。リンデンの花・苞や白木を混ぜるとより気持ちが落ち着くとか」
 豆知識まで披露してくれた。その様子にフェルンはホッとした微笑みを見せる。
「俺はミントティーを貰おう」
 爽やかな味が、気持ちをスッキリと切り替えるのに良いと思えた。

 二人それぞれハーブティーのカップを持って、ゆっくりと会話する時間をとった。
 妖精茶会というだけあって、庭園には豪華な服で着飾ったショコランドの妖精達が優雅に翔んでいた。幻想的とも言える光景だったが、今の瑞希が感じるのは美しさだけではない。
「妖精さん達を見ると先日の依頼を思い出して、心が痛みます」
 瑞希がポツリと心情を吐露した。
「ミズキの話を聞くよ」
 フェルンはミントティーを飲みながら、話を聞いてくれる。依頼の後でその内容をこうして反省するのは、二人にとっては毎回のことだった。
「色々と反省する事しきりです。もっと考慮するべきことを見落としていたし、連係不足の印象も否めません」
「……」
 フェルンは黙って曖昧な表情を見せた。
 最良の選択と結果を求める瑞希。それゆえに疲れ傷ついている彼女の心理面をケアしながら、巧く軌道修正していきたい。それがフェルンの思いだったが、迂闊に肯定できない言葉もあった。
 連携不足という点に踏み込んでしまうと、二人の反省という枠を越えて、共に依頼を請けた他のウィンクルムへの非難にもなりかねない。
「あの村の妖精さん達は私達の行動を『助かった』と容認してくれたかしら。それとも苦く嫌な出来事を運んできただけ?」
 ウィンクルムが救助に駆けつけた場合と、あのまま助けがなくオーガの占拠が続いた場合。
 いったいどちらの方があの村の妖精にとって、苦く嫌なことか。心を落ち着けて考えれば、自ずと答えはわかるはず。
「至らぬ事から学ぶべき点は沢山あります。その経験を何か活かさなければ」
「経験は次以降へより良い形に活かしたい、と」
「……そんな事をずっと考えていて、疲労感を溜めてしまってたかも」
 カモミールのハーブティーに瑞希が口をつける。ほのかなリンゴの香りに、飲みやすい味だ。
「フェルンさん、私達もっと努力しなくては」
「そのため自分達により厳しい目線で振りかえりがちだね」
 これまで聞き手に回っていたフェルン。瑞希の話をまとめながら、彼の言葉でフォローを入れていく。
「自分達は万能ではなく、出来る事は限られているから」
 ウィンクルムとて絶対的な存在ではない。個人の能力を超えた行動はできない。実行可能なだけの能力を備えていても、常にベストの案を見つけられるとは限らない。過酷な状況であればなおさらのこと。
 それでも。
「その中で最良の選択を求めるミズキの真摯さはとても好きだ」
 フェルンは瑞希の瞳をじっと見つめながら、強く優しい声でそう言った。



依頼結果:成功
MVP
名前:藤城 月織
呼び名:おい、アンタ
  名前:イリオン ダーク
呼び名:イリオンさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 山内ヤト
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月03日
出発日 03月08日 00:00
予定納品日 03月18日

参加者

会議室

  • [6]瀬谷 瑞希

    2016/03/07-23:56 

    こんばんは、瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのフェルンさんです。
    皆さま、よろしくお願いいたします。
    ハーブティで、心穏やかな時間が過ごせますように。

  • [5]紫月 彩夢

    2016/03/07-17:50 

    紫月彩夢と、深珠おにーさんよ。
    喫茶店勤務の深珠さんに、ハーブティのお勧めを教えてもらおうと思って。
    専門外だから期待するなって行ってるけど…あたしよりは詳しいと思うのよね。

    上品な雰囲気で緊張するけど、楽しめればと思ってるわ。
    皆もどうぞ、素敵な時間を。よろしくお願いします。

  • [4]藤城 月織

    2016/03/06-20:03 

    こんにちは、藤城月織です
    パートナーのイリオンさんは、場にそぐわないとかなんとかんとか
    あんまり乗り気じゃないんですけど……
    でもどうしても私が行きたくて、ちょっと我儘言ってしまいました

    ハーブティーだけでも楽しめればそれで満足です
    皆さんよろしくお願いします!

  • [3]ハロルド

    2016/03/06-19:24 

  • [2]アリシエンテ

    2016/03/06-00:31 

  • [1]アリシエンテ

    2016/03/06-00:31 

    お邪魔するわっ! 当方アリシエンテとカデンツァよ。
    ダンスは忘れてしまったから、食事の後にハーブティでも、と考えているわ。

    こちらは少し立て込む予定だけれども、皆さんにとって素敵な時間となりますように!


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