プロローグ
バレンタインのシーズンは終わり、ショコランドの店ではホワイトデーのラストスパートに差し掛かっている。
バレンタインからホワイトデーの間は、色んなお菓子を食べる機会があったが、甘いものラッシュでちょっぴりマンネリ気味だ。それに、カロリーやお肌の調子も気になるところ……。
そこで人気を博しているのが、ココアバターを使ったボディケア用品のショップだ。
ショコランドの特産品カカオと関係のあるお土産で、しかも使うと綺麗になれるとあって、女性から支持されている模様。
ココアバターはカカオ豆からとれる植物性の脂肪で、料理や自然派化粧品の材料として広く使われている。
ほんのかすかにチョコの香りがするが、あくまでも控えめなものだ。他の芳香成分を追加して、香りをつけることもできる。店頭には、バラやラベンダーやストロベリーなど、様々な香りの商品が並んでいる。
品揃えが豊富なので、探せば好みの香りのアイテムが見つかりそうだ。チョコレートの香りをしたものも存在する。
この店ではホワイトデーのキャンペーンをおこなっており、商品を買うと祝福の金平糖がサービスでついてくる。
あなたは、パートナーと一緒にショコランドまで遊びにきていた。目的はショッピング。
神人と精霊は安全上の理由でなるべく一緒にいた方が望ましいが、ここは治安の良い場所柄だ。待ち合わせ場所を公園にして、精霊一人で買い物をする余裕ぐらいはありそうだ。
もちろん、あなたと精霊の二人で買い物を楽しんでも良い。
解説
・必須費用
交通費:1組200jr
ハンドクリーム:100jr(どれか一つを選択)
ヘアオイル:200ir(どれか一つを選択)
リップバーム:300jr(どれか一つを選択)
香りは自由に選べます。
・プラン次第のオプション費用
メッセージカード:50jr
花一輪:50jr
・難易度について
このエピソードでは「精霊が神人にプレゼントを渡す」ウィッシュプランがウィンクルム性格やデート系ステータスの高低を問わず、実行可能です。
そのため、このエピソードの難易度は簡単になっています。
「精霊が神人にプレゼントを渡す」以外のウィッシュプランモーションは、通常のハピネスエピソード同様に、ウィンクルム性格やデート系ステータスに基づいて判定がおこなわれます。
・プレゼントのシチュエーションについて
神人が精霊にプレゼントを渡しており、今回のエピソードで精霊がそのお返しするなど、過去の出来事が絡むシチュエーションの場合、プラン内に簡単な説明を書いてくださるとGMが状況を把握しやすいです。
例:バレンタインに神人が手作りチョコを贈り、そのお返し
例:イベントは無関係で、神人への日頃の感謝でプレゼント
・デートコーデの小ネタ
連合軍制服「青の旅団」
金時計「グローリア」
手袋「ロイヤル・レット」
手袋「ロイヤル・チェック」
エンシェントクラウン
など、バレンタイン地方での功績を示すアイテムをPCが装備していると、NPCから敬意を払われます。
安く買い物できたり……といった直接的な利益は特にありません。
ゲームマスターより
山内ヤトです。
「【糖華】あの人への贈り物」の舞台はバレンタイン城下町でしたが、今回の「【薫/祝祭】あの人からの贈り物」の舞台はショコランドです。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
かのん(天藍)
ココアバターのボディケア用品って乾燥する時期に欠かせないのですよね ハンドクリームだけは仕事柄一年中手放せないので…1つ買えたらと思うのですが 他の商品も気になります 色々あって、ラインナップ見て回るだけでも楽しいですね キャンペーンのせいか人出がすごかったですね 今日はお買い物に付き合って貰ってありがとうございました …これは? 確かに春らしくて素敵だなと思って見ていましたけれど… 日頃の感謝の形みたいな物だからって…嬉しいですけど、あまり甘やかすと我が儘になって天藍困らせるようになってしまいますよ? ……ありがとうございます、大事に使いますね 優しい笑みを向けられ、大切そうに両手で包み込み、天藍へ笑みを向ける |
シルキア・スー(クラウス)
待ち合せベンチで百葉集読み彼を待つ バレンタインのお返しをしたいと言われ驚いた イベント趣旨をその後知ったそうだ まあそういうのに明るくない感じの人ではあるから あの日の落ち着いた対応も納得してしまった でも今は理解して私への贈り物を選んでくれている…赤面 彼が来た! あの日の様に狼耳付けた※落ち着く為の願掛け的な メッセージカード 『我、終生寄添う所存』 自分のメッセージに返す様な文言にウルッ 贈物はヘアオイル(香シトラスオレンジ 癖っ毛な自分にマッチし過ぎて脱帽 香りに「爽やか…落ち着く 言葉に動揺赤面 「そ、そうなんだ、ああ、ありがと 彼と祝福の金平糖分け合い食べる (でも香もの贈るって…あるのかなこの人にも…征服…欲? |
桜倉 歌菜(月成 羽純)
バレンタインに、高級専門店で買ったミルクチョコを、一輪の薔薇と一緒に羽純に贈っている 羽純くんとショッピング ボディケア用品って、見ているだけで癒されます♪ ココアバターって、無添加で、抗酸化効果、保湿効果に優れてるんだね ハンドクリームのお試し? 羽純くん、して貰ってもいい? 彼が快諾してくれたので、ウキウキとハンドクリームを塗って貰います フルーティなお花の香りが好きかも♪ 凄く癒されてお店を出て、休憩に近くのカフェテラスへ 羽純くん、付き合ってくれて有難う 何か良い物見つけた? え?私に?……嬉しい(嬉し過ぎて言葉が出ないよ) わあ…銀色のハートのケースにラインストーンがキラキラ 凄く良い香り… 有難う 大切に使うね |
レベッカ・ヴェスター(トレイス・エッカート)
精霊と一緒に買い物 色々と見回っている内にお店を見つけ誘ってみる ええ、お菓子はもういいわ。充分食べたし それに、背はもう伸びないのに横には伸びるとか笑えないし… 色々とあるのね。見ているだけでも楽しいわ そりゃあ、ね。興味はあるわ そろそろ気にしないといけない年ともいうけど(ぼそぼそ リップバームは軟骨なの 使いやすさではクリームの方だけどね 気になるの?それじゃ買ってみたらどうかしら 男性が使っても大丈夫でしょ でも、これも素敵ね。私も買ってみようかしら え、でも悪いわよ 私バレンタイン何も上げてないし… …それ、私が実験体?いっそ清々しいわね わかった、頂くわ。ありがとう そういえば薔薇の香りなのはどうして? |
紫月 彩夢(神崎 深珠)
深珠さんから、贈り物…? え、あ、えっと… …ふふ、全部先に言われちゃった ごめん、なんか深珠さんに分かられてる気がして、つい 別に、そう言って嫌がってるわけじゃないのは、判ってくれる? 無条件の好意ってのに慣れすぎちゃったから…深珠さんから貰うものには、ちゃんと理由が欲しいだけ うん…大丈夫。ゆっくり聞かせて貰えれば、ちゃんと受け止められるよ それにしても、深珠さんの選ぶ物って、お洒落よね 薔薇の香り…かな?これって指で塗るやつよね …塗っ…!?(赤面して半歩引いて) や、流石にそれはいい!…って、じょう、だん…? …ずるい。なによ。笑わないでよ …深珠さんはとっくに勝ってるのにね (だって、惚れた方が負けなのよ?) |
●月成 羽純からの贈り物
『桜倉 歌菜』と『月成 羽純』は、ショコランドまでショッピングに来ていた。
「ココアバターって、無添加で、抗酸化効果、保湿効果に優れてるんだね」
色々な香りのボディケア用品は、容器のデザインも可愛いものや豪華なものと様々で、見ているだけでも癒される。
賑わう売り場を見ながら、羽純はこんなことを思っていた。
(歌菜にバレンタインデーのお返しをしたい)
バレンタインに、歌菜から高級ミルクチョコのプレゼント。贈り物には一輪の薔薇が添えられていた。
(歌菜自身に選んで貰うのもいいが……やはり驚かせたい)
羽純は買い物に付き添いながら、サプライズのタイミングを伺う。
売り場で商品を眺めていた歌菜が、店員から話しかけられた。
「ハンドクリームのお試し?」
店員のセールストークを聞いたりすると、意外と長く時間をとるだろう。歌菜は、一緒にいる羽純に一言声をかけておく。
「羽純くん、して貰ってもいい? ちょっと時間がかかるかもしれないけど」
「ああ。俺は少し店内を見てる」
快諾し、羽純はその場から立ち去った。
「えへへ。それじゃあ、お願いしまーす」
歌菜はウキウキと試供品のハンドクリームを手に塗ってもらう。
「わあぁ、良い香り! フルーティなお花の香りが好きかも♪」
「……」
少し離れた場所で羽純は歌菜をこっそり観察。彼女がどんな香りを好んでいるのか、プレゼント選びの参考にするためだ。
(歌菜が好きなのは、フルーティな花の香りか……)
香りの傾向を頭に入れて、歌菜への贈り物を探す。
羽純の目に留まったのはリップバーム。
ほんのり明るい桃色に唇をつやりと染めるティントタイプ。普通の口紅などとは違い、色が落ちにくいのが特徴だ。
容器のデザインも煌びやかで、なおかつ可愛らしさもある。
一番の決め手になったのは香りだ。
(歌菜が好きだと言っていた、みずみずしい果物と花の香りだ……)
羽純は、フレッシュなフルーティフローラルの桃色リップバーム、メッセージカードと赤いアネモネの花一輪を購入した。
「あ、羽純くん。おまたせ。凄く癒されちゃった」
歌菜と合流して二人で店を出る。
「歌菜。店の人混みで疲れたりしていないか?」
羽純が優しく気遣う。
歩き疲れた足を休めるため、近くの公園のベンチに腰かける。心地良い木漏れ日が差し込む、公園の中でもちょっとおしゃれな雰囲気の一角だった。
心の距離が近い分、隣り合って座る二人の距離も近かった。
「羽純くん、付き合ってくれて有難う。何か良い物見つけた?」
羽純は微笑みを浮かべて、丁寧にラッピングされた包みを取り出す。
「え? 私に?」
羽純は赤いアネモネの花をそっと歌菜の手に握らせた。そして、視線をカードの方へと向ける。
ドキドキしながら、歌菜はメッセージカードの文字を読んだ。
この花のように想ってる。
赤いアネモネの花言葉は、君を愛す。
「……」
歌菜は嬉しさと感動のあまり、すぐには言葉が出てこなかった。
しばらくして、ようやく……。
「……嬉しい」
「良かった。開けてみてくれ」
包みを開けると、ラインストーンが散りばめられた、銀色のハート型のケースが出てきた。
「使ってくれると俺も嬉しい」
蓋を開けたら、素敵な香りがふわっと漂う。
「凄く良い香り……」
フレッシュな果物と花の香りは歌菜の好みにぴったりだ。
「有難う。大切に使うね」
素敵なプレゼントを贈ってくれた羽純に、にっこりと笑顔を見せる。
が、サプライズはこれで終わりではなかった。羽純はリップバームを指先に取った。
「……だから塗ってみるか?」
「羽純くんっ、ここ人前だよ……? ドキドキしちゃうよ」
赤面してアタフタする歌菜を見て、羽純は涼やかに笑う。
●クラウスからの贈り物
ショコランドのとある町。公園のベンチで『シルキア・スー』は、詩集「百葉集」を読みながら『クラウス』のことを待っていた。バレンタインのお返しがしたいとクラウスに言われ、ここで待ち合わせをしている。
(でも、驚いたな。まさかバレンタインイベントの趣旨をあの時はまだ知らなかったなんて)
バレンタインが終わった後で、クラウスは贈られたチョコレートの特別性を理解したようだ。
(まあそういうのに明るくない感じの人ではあるから、あの日の落ち着いた対応も納得だよね)
そう考えた後に、でも……と本のページをめくるシルキアの指がピタリととまる。
(でも今は理解して私への贈り物を選んでくれている……)
バレンタインのチョコが特別なように、ホワイトデーのお返しもまた特別な意味を持っている。
クラウスのことを意識して、シルキアの頬はほんのりと赤く火照った。
女性向けのボディケア用品の店は、クラウスにとってあまり馴染みの深い場所とはいえない。不慣れな売り場で目が滑る感覚に陥る。
プレゼントを買うためか他にも男性客の姿がチラホラあり、クラウスだけが浮く心配がないのは救いだった。
「すまない。商品のことで相談があるのだが……」
「はい、お客さま! 何をお求めでしょうか」
店員の助言を聞くも、クラウスの中で贈り物のイメージが定まらない。ココアバターだとか、オレイン酸がたっぷりとか、エモリエント効果と言われても……。
「いや、もう結構。ありがとう……」
店員は親切丁寧に説明してくれているらしいが、聞き慣れない単語ばかりで、むしろクラウスを混乱させるだけだ。
(シルキアをあまり待たせては悪いな……)
プレゼントが決まらない事態に、焦りさえ感じてくる。
ふとクラウスは、バレンタインのシルキアの贈り物のことを思い出す。メッセージカードつきの、一口サイズの四個入りチョコレート。
その中に一つだけ忍ばされたハート型のチョコレートがあった。
今思えば、あのハート型のチョコレートがシルキアの真心の象徴であったのかもしれない。
(……俺の不安を払拭してくれたメッセージと共にあれ程の心を俺は返せるのだろうか)
考え込んでいたところに、一つの商品がクラウスの目に留まる。
「これは……」
贈り物を手に、シルキアの待つ公園へと向かう。
(なるほど。あの日、落ち着かない様子だったシルキアの態度に合点がいく)
万全の用意をしたつもりだが、それでもクラウスは心持ち緊張を覚えた。
(彼が来た!)
シルキアはあの日のように、狼耳の髪飾りヴェアヴォルフを身につけた。落ち着くための、ちょっとした願掛けのようなものだった。
「シルキア」
ヴェアヴォルフをつけたシルキアを見て、クラウスはクスッと笑う。
「俺からの気持ちだ」
綺麗な包みと一緒に、メッセージカードが添えられていた。
シルキアはカードに書かれた言葉を見る。
我、終生寄添う所存。
先に贈ったシルキアのメッセージに返事をしてくれたような文言に、つい感動で涙腺が緩む。ウルッときた。
プレゼントは、シトラスオレンジのヘアオイルだった。
「癖っ毛な自分にマッチし過ぎて脱帽!」
「気に入ったか」
クラウスは、シルキアの反応を見て安堵したようだ。
「それに香りも爽やか……落ち着く」
「お前の香りだと思ってな」
サラリと言われた言葉にシルキアは動揺。
「そ、そうなんだ、ああ、ありがと」
その後、お店のオマケでもらった祝福の金平糖を二人で分けて食べた。
(でも香もの贈るって……あるのかなこの人にも……征服……欲?)
チラリとクラウスの方を伺う。
無自覚に、クラウスはこんなことを考えていた。
(髪から香るなら俺も感じ取れる、打算的だろうか……)
●神崎 深珠からの贈り物
『紫月 彩夢』は、いぶかしがるように『神崎 深珠』の顔と彼の手にある包みを交互に見てつぶやいた。
「深珠さんから、贈り物……?」
彩夢が次に口にしようとした発言は、立板に水の言葉の奔流で押し流された。
「先に言っておく。『バレンタイン渡してないけど』は無しだ。日頃の感謝だからな、これは」
鋭い彩夢に反論の隙を与えないよう、深珠は一気にしゃべりまくる。
「……『感謝されるようなことがない』も『咲姫の方が似合う』も無しだぞ。少なくとも俺はお前に感謝しているし、これからも宜しく願いたい。俺が、お前に、贈りたいんだ」
そこまで言い終えてようやく深珠は口を止めた。
「え、あ、えっと……」
言うつもりだった言葉は、深珠にことごとく封じられてしまった。少し困った顔をして彩夢は笑う。
「……ふふ、全部先に言われちゃった」
一方、深珠は笑ったりしない。真面目な顔でこう言った。
「……笑うな。お前がいつも俺の言葉を遮ってくるからだ」
それを聞いて、彩夢も少しばかり真剣な態度に変わる。
「ごめん、なんか深珠さんに分かられてる気がして、つい」
一呼吸置いてから、彩夢の方からこう尋ねる。問いかけと確認を兼ねた言葉だった。
「別に、そう言って嫌がってるわけじゃないのは、判ってくれる?」
深珠は静かに首肯した。
「拒絶ではないのは理解している。必要だと言った言葉に嘘があるとも思っていない」
ただ……。
「先に線を引かれるのがもどかしいだけだ」
視線を彷徨わせた後、深珠はしっかりとした眼差しで彩夢を見つめた。
「たまには踏み越えないと、肝心な時に言えなくなりそうで……。好意まで、抑制されたくはない」
「無条件の好意ってのに慣れすぎちゃったから……」
彩夢の脳裏に一瞬兄の姿がよぎった。無条件で己を愛してくれる存在。血のつながり、家族という関係。
「深珠さんから貰うものには、ちゃんと理由が欲しいだけ。うん……大丈夫。ゆっくり聞かせて貰えれば、ちゃんと受け止められるよ」
そんなやりとりを経てから、彩夢は深珠からのプレゼントを開封した。
メッセージカードに綴られた文字は。
いつもありがとう。
素朴でシンプルな感謝の言葉。そのメッセージに、彩夢はほんわかとした安らぎと喜びを感じた。
「それにしても、深珠さんの選ぶ物って、お洒落よね」
ラッピングの中から姿を現したリップバームを見て、彩夢がそう感想を述べる。
さっそくリップバームの容器の蓋を開けて、その香りを嗅いでみる。上質な花の香りが広がった。
「これは……薔薇の香り……かな?」
「ああ」
深珠は、彩夢の赤い瞳を見ながら頷く。
「彩夢に似合うと思ったんだ」
彩夢は贈り物のリップバームをしげしげと眺めた。
「これって指で塗るやつよね」
「……塗ってやろうか?」
「……塗っ……!?」
カァーッと顔が赤くなる。彩夢は驚いて半歩ほど下がった。突き出した手を軽く横に降って、NOという意味のジェスチャーをする。
「や、流石にそれはいい!」
視線を左右に動かして、自分達を見ている人がいないかと、思わず確認してしまった。
オーバーリアクションでうろたえる彩夢に、深珠は落ち着いた声でこう伝える。
「さすがに冗談だ」
「……って、じょう、だん……?」
ついさっきまでの緊張がウソのようになくなり、彩夢は脱力感に襲われる。
そんな彩夢の気持ちを知ってか知らずか、深珠はちょっと得意げだ。
「はは、ようやく彩夢に勝てた気分だな」
笑われて少しムッとした彩夢は、深珠に抗議した。
「……ずるい。なによ。笑わないでよ」
ツンとそっぽをむいてから、彩夢は小声でポツリとつぶやいた。
「……深珠さんはとっくに勝ってるのにね」
(だって、惚れた方が負けなのよ?)
●天藍からの贈り物
「ココアバターのボディケア用品って乾燥する時期に欠かせないのですよね」
お客で賑わう売り場で、『かのん』が『天藍』にそう話しかけた。
「ハンドクリームだけは仕事柄一年中手放せないので……一つ買えたらと思うのですが、他の商品も気になります」
庭仕事で土や水に触れる頻度が多い分、かのんは手荒れのケアには気を配っている。ハンドクリームは強い味方だ。
(俺は、かのんの手が好きだがな)
ケアがしっかり行き届いているのか、かのんの手はそこまで荒れた印象はない。
「色々あって、ラインナップ見て回るだけでも楽しいですね」
かのんは興味深そうに色々な香りの製品を見ていた。薔薇やラベンダーといった花の香りのもの。ストロベリーやチョコレートといった、ショコランドらしい美味しそうな香りのもの。
そして、今の季節にぴったりな桜の香り。
かのんは色々な商品を見ていたが、結局は普段使っている定番商品を選んだ。
「……」
人混みを利用して、天藍はかのんの気づかぬ間に手早く買い物を済ませた。
「キャンペーンのせいか人出がすごかったですね」
「ああ。かなり混雑していたな」
買い物を終えた二人は、ショコランドの公園のベンチで一休みしているところだ。
「今日はお買い物に付き合って貰ってありがとうございました」
天藍は、この場で贈り物を渡そうと決めた。
「かのん。渡したいものがある」
お礼を言うかのんに、天藍はそっとピンクのミニ薔薇を一輪差し出した。贈り物は、桜の香りがするココアバターのハンドクリームだ。
ホワイトデーのお返しはもう渡している。これはイベントとは無関係の、気軽なプレゼントのつもりだ。
「……これは?」
「日替わりで使うのも良いだろう?」
店の商品を見ていた時に、かのんが最後まで気にしていたのは、桜の香り。
「確かに春らしくて素敵だなと思って見ていましたけれど……」
プレゼントに対するかのんの反応は微妙だ。贈り物が気に入らないわけではない。むしろ、そんなに物をもらっては悪いからと辞退する、かのんの慎み深さの表れだった。
「そう遠慮するな。これは、俺からかのんへの日頃の感謝の形みたいな物だ」
「日頃の感謝の形みたいな物だからって……」
かのんはそう控えめに苦笑してから、冗談っぽくこんなことを言った。
「嬉しいですけど、あまり甘やかすと我が儘になって天藍困らせるようになってしまいますよ?」
照れ隠しの混ざる、素直じゃないお礼の言葉。今度は天藍が苦笑する番だった。
「気にするな。好きな相手の可愛い我が儘は叶えたいと思うものだからな」
これまでかのんからは、我が儘らしい我が儘をそもそも聞いたことが無い。
(それがかのんの良い所なのだとも思うが……)
「好きな相手……ですか」
かのんは少し照れながらも、嬉しそうな顔で天藍を見た。その口元には優しい笑みがたたえられている。
「……ありがとうございます、大事に使いますね」
ミニ薔薇と桜のハンドクリームを大切そうに受け取った。
無事にプレゼントを渡せて、天藍は満足そうに笑う。
「困るどころか、かのんにはもう少し甘えて貰いたいと思っているからな」
かのんは、両親と早くに死別している。それからかのんは一人で強く、でも孤独に生きてきた。
礼儀正しい性格ということもあるがこの生い立ちも、なかなか無邪気に甘えられないことに関係していそうだ。
甘えることに少し不器用なかのんが天藍は愛しくて、彼女を守っていきたいと強く思う。
「かのんの我が儘ならいつでも大歓迎だ」
そう言って天藍は、包容力のある優しい笑みをかのんに向ける。
「天藍……」
かのんもまた、彼の気持ちが込められたプレゼントを大切そうに両手で包み、天藍に微笑んだ。
●トレイス・エッカートからの贈り物
『レベッカ・ヴェスター』は『トレイス・エッカート』と一緒にショコランドまで買い物に来ていた。
特に目的もなくウインドウショッピングを続けていると、レベッカは気になるお店を見つけた。トレイスを誘ってみる。
「ねえ、あそこのお店をちょっと覗いてみない?」
「あそこには食べるものはなさそうだがいいのか?」
トレイスの言葉に、レベッカは軽く肩をすくめる。
「ええ、お菓子はもういいわ。充分食べたし。それに、背はもう伸びないのに横には伸びるとか笑えないし……」
148cmという身長と、外見年齢が十代半ばに見えてしまうこと。それがレベッカの悩みの種だ。もう成人して看護師として働いてもいるというのに……。
「甘いものを食べたところで、そんな一日二日で急激に横には伸びないと思うが」
と、トレイスがいたって真面目に正論を吐く。
「――っ! もうっ、空気を読んでよね!」
なんだかんだで、レベッカとトレイスはボディケア用品のショップに入っていった。華やかに見栄え良くディスプレイされた、様々な商品を眺める。
「色々とあるのね。見ているだけでも楽しいわ」
レベッカはウキウキと店内を見回している。
「こういったものに興味があるのか?」
その楽しげな様子に、他意のない素朴な疑問をトレイスが口にした。
「そりゃあ、ね。興味はあるわ」
そう答えてから、レベッカがぼそぼそとアンニュイな口調でつぶやく。
「そろそろ気にしないといけない年ともいうけど」
「それもそうか」
またしても空気を読まずに、勝手に納得するトレイス。落ち着いた雰囲気だが、彼にはミステリアスでマイペースな部分もある。
トレイスが店内をぶらついていると、ふとリップバームが目に留まった。コロンとしたその容器を一つ手にとってみる。
「リップクリームならよく聞くが、バーム?」
レベッカの方を見ながら確認する。彼女ならきっと、男性の自分よりもこういう品物に詳しいだろうから。
「ああ。リップバームは軟骨なの。使いやすさではクリームの方だけどね」
「ふうん」
レベッカの説明を聞いてからも、トレイスは何か珍しい品を見るようにリップバームを観察していた。
「気になるの? それじゃ買ってみたらどうかしら」
「買う? 俺が? ……買っても良いのだろうか」
気にはなるもののよく知らない商品を買うことに、ちょっと迷っているトレイス。
レベッカが軽い調子で後押しする。
「男性が使っても大丈夫でしょ」
そう言いながらレベッカも、陳列されているリップバームに関心を寄せた。
「でも、これも素敵ね。私も買ってみようかしら」
「……」
トレイスは何かを考えているようだ。
「ちょっと待っていてくれ」
そう言い置いて、薔薇の香りがするリップバームを一つ購入した。
買い物を終えて公園に差し掛かったところで、トレイスがレベッカに声をかけた。
「ホワイトデーだ」
ただそれだけ言って、先ほど買ったリップバームを渡す。
思いもよらぬプレゼントにレベッカは少し目を丸くした。
「え、でも悪いわよ。私バレンタイン何も上げてないし……」
「自分が買っても結局使わない気がしてな」
淡々とした声でトレイスがそう話す。
「使ってみて感想を教えてくれ」
レベッカは、ごく軽い怒りと呆れが混ざったような顔になる。
「……それ、私が実験体? いっそ清々しいわね」
だが、すぐに明るい表情へと戻る。
「わかった、頂くわ。ありがとう」
少々腑に落ちない点もあるが、これはプレゼントなのだ。トレイスにはお礼を言っておく。
「そういえば薔薇の香りなのはどうして?」
「いや、なんとなくだな」
そう返事をした後になってトレイスは気づく。
レベッカの髪の色が、薔薇の花に似ているということに。
依頼結果:成功
MVP:
名前:シルキア・スー 呼び名:シルキア |
名前:クラウス 呼び名:クラウス |
名前:桜倉 歌菜 呼び名:歌菜 |
名前:月成 羽純 呼び名:羽純くん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 山内ヤト |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 03月09日 |
出発日 | 03月14日 00:00 |
予定納品日 | 03月24日 |
参加者
- かのん(天藍)
- シルキア・スー(クラウス)
- 桜倉 歌菜(月成 羽純)
- レベッカ・ヴェスター(トレイス・エッカート)
- 紫月 彩夢(神崎 深珠)
会議室
-
2016/03/13-22:41
挨拶が遅くなってしまったわね。
レベッカよ。今回はよろしく。 -
2016/03/13-21:00
よろしくお願いします
-
2016/03/13-18:29
-
2016/03/13-00:41
-
2016/03/13-00:41
羽純:
月成羽純です。パートナーは歌菜。
皆様、宜しくお願いします。
ホワイトデーの贈り物を買って、歌菜に渡す予定です。
さて、何がいいか…。
よい一時となりますように。