リザルトノベル

物置の中の通路を抜けると、中央に大きな天蓋付きのベッドが設えられた部屋に出た。
どうやら、ボッカの寝室のようだ。しんと静まり返っており、人の気配はない。


「誰もいません、ね……」

 リチェルカーレが辺りを見回して不安げに呟く。
敵はおろか、人影すら見当たらない寝室だが何かがおかしい。

本能が、油断するなと告げていた。

レオン・フラガラッハとリオ・クラインも
敵の奇襲の可能性には気づいていたが確信は持てずにいた。
警戒してあたりを見回す一同だが
唯一の死角を見落としていることに気づいていない。


上だ。


天井を這った二匹の敵が
声を上げながら後衛にいたジャック王子めがけて飛び掛かった。

「王子!」

「危ない!」

 王子の護衛をしていたアイリス・ケリーとガートルードが身を艇して王子を守るが
落ちてきたオーガの尻尾の一振りで壁際まで弾き飛ばされてしまう。

それは上半身が女性、下半身が蛇の姿をしたオーガだった。
ラミアにも似ているが、イメージとしてはそのワンランク上の敵、メデューサに近い。

二匹は双子かと見まがうほどによく似た顔立ちだが
右のオーガは瞳の色が水色、左のオーガは瞳の色が赤く
髪の色もそれぞれ瞳と同じ色をしている。

二人は、壁際の王子に向かってじりじりと近寄っていく。
奇襲に成功されてしまったため、王子からやや距離のある前衛チームは
戻ってくるまでに多少の時間を要した。

「これを使うときですね……」

  咄嗟に、淡島 咲が、手にした砂時計をひっくり返した。
輝白砂の効果で、二匹のオーガは
王子に向かって尻尾を振り上げた状態で動きをを止める

その間に行動を開始したのは
ラルク・ラエビガータとイヴェリア・ルーツだった。

敵の攻撃を妨害することに主眼を置いたラルクの月影と
狙い撃つことに特化したイヴェリアのダブルシューターⅡが
二匹のオーガの足を止めた。

その間に駆けつけてきたレオンがアプローチを使って
オーガの注意を自分の方へ向けさせると
二匹のオーガは王子から離れ一気にレオンへと向かった。

「レオン、気をつけろ!いつものオーガとは違う!」

 ガートルードがレオンに声をかけ、注意を促す。
攻撃を食らった実感から言って、この二匹は
普段戦っているオーガ達とは、攻撃力も素早さも明らかに上だった。

「強敵結構!任せとけって……うおっ!」

 飛んできた水色の目のオーガの尻尾に叩かれそうになるのを
間一髪で避ける。
言わんこっちゃない、とガートルードが立ち上がるが
それよりも早くシリウスが駆けだした。


「加勢する」

「お、助かるぜ」

シリウスは、レオンとともに水色の目のオーガに対峙し
エトワールで敵の攻撃を回避して攪乱する。

徐々に疲れてきたのだろう、オーガの動きが鈍くなったのを
二人は見逃さなかった。
レオンが満でオーガの尻尾を切り落とし
シリウスが懐に入り込みやすいようにする。

邪魔をするものがなくなったシリウスは
アルペジオⅡで一気にオーガの懐に潜り込み素早い連撃を繰り出した。

シリウスが振り抜いた最後の一撃の勢いで
オーガは仰向けに倒れるとそのまま動かなくなった。



もう一匹の赤い目のオーガはリオに迫っていった。
その尻尾を伸ばし、リオに巻きつくつもりのようだ。

「退いてろ!」

 アモン・イシュタールが駆けつけ、リオを突き飛ばす
リオに巻きつく予定だった尻尾は、そのままアモンの右手に巻きついた。
もともとは、人体を締め上げるための尻尾だ。
当然その力は強く、ぎりぎりと締め上げられたアモンの右腕は徐々に変色し始めた。

「アモンさんっ!」

 スノー・ラビットがアモンの腕を離させるべく、オーガにスタッカートを食らわせる。
ダメージは与えているものの、オーガは頑としてアモンの腕を離さなかった。
スノーが迷っている横を、夢路 希望がオーガに近づいていく。

「ノゾミさん、危ないですよ!」

 スノーが希望を止めるのと、希望がオーガにクリアライトを突き立てるのはほぼ同時。
眩い光に目がくらんだオーガは、驚いてアモンの腕から尻尾を離した。

「よくもやってくれたな」

 右腕を解放されたアモンは、オーガをぎろりと睨み付けると
グラビティブレイクでオーガの防御力が下がったところに
トルネードクラッシュⅡを叩き込む。

アモンの重たい一撃にオーガは耐えきれず倒れこんだ。



「皆さん、大丈夫ですか?」

「おれがファストエイドをかけます
こちらへ」

 桜倉 歌菜が怪我をした仲間を月成 羽純のもとへと呼ぶ。
羽純のファストエイドのおかげで、一同は元気を取り戻すことができ
引き続きボッカの居場所を探るために中庭へ出てみることにした。





中庭では、ヘイドリック王子と行動していた部隊が
ハングリージョーと戦っていた。
その場にいるジョーは二体。あちらの部隊だけで相手にするのは骨が折れるだろう。


「俺が行こう
なるべく消耗は均一にしたほうが良い」

 再度アプローチを使おうとしていたレオンをレムレース・エーヴィヒカイトが止めた。

「あたしが囮になるね」

 出石 香奈はそう言って笑うと
レムレースが止める間もなく、ジョーに向かって駆けていく。

ほどなくして、香奈につられたジョーが香奈の後を追って向かってきた。

レムレースがアプローチⅡを発動させたのを確認し
香奈はコーラルペッパーの林に逃げ込むと
ジャック王子を護衛していたニーナ・ルアルディや七草・シエテ・イルゴ
アイリス、咲達と合流し外の様子を伺うことにした。




グレン・カーヴェルと翡翠・フェイツィはコーラルペッパーの林には入らず
ジョーが近くに来るのを待っていた。

ジョーの死角から奇襲をかけ、大きな隙を作る作戦だ。

「行くぜ!」

「今だ!」

 レムレースがジョーの突進を避け、ジョーが体勢を崩したのを確認し
ジョーに飛び掛かる。

グレンのグラビティブレイクがジョーの防御力を下げたところに
翡翠がフロントアタックで思い切りジョーを叩いた。

思いも寄らない方向から攻撃されたジョーは一瞬よろめいたが
すぐに二人に向き直り、大きく口を開けた。

攻撃をし終えたばかりの二人はジョーとの距離が近すぎて避ける余裕はない。
撃退に望みをかけて二撃目を放とうとした時
コーラルペッパーの林の方から飛んできた矢がジョーの鼻っ面に刺さった。

更に、追い打ちをかけるように
コーラルペッパーの枝や葉が飛んできて、ジョーの顔に当たる。

矢を放ったのはシエテ、コーラルペッパーを投げたのはニーナだ。
二人の抵抗は些細ではあったが、ジョーの注意を翡翠とグレンから逸らすには十分だった。
だが、ジョーの注意は今度は神人の二人へと向いてしまった。

ぎろりと動いた金の瞳が、シエテとニーナを睨みつけた。

と。

目の前をがあがあと楽しそうな声を上げなからオ・トーリ・デコイが横切った。
ジョーの興味はたちまちそちらに移り、地響きのような足音を立てながら
アヒルを追いかけて行った。


「待ってたよぉ、ワニちゃん!」

辿りついた先に待ち構えていたのは
ブラッディローズで防御力をあげたラダ・ブッチャーと
フォトンサークルを展開したレムレースだった。
エリー・アッシェンが大事そうにオ・トーリ・デコイを回収する。

ジョーがラダめがけて勢いよく突進するが
ブラッディローズとフォトンサークルで強化されたラダに与えるダメージはそう多くはない。
衝撃でぐらりとラダの体が傾ぐが、体勢を立て直す頃にはブラッディローズが反撃を行っていた。

ジョーに巻き付いた薔薇の蔓が、その巨大な体をぎりぎりと締め上げた。
ラダは、身動きが取れないジョーの側面に回り、追いついた翡翠とグレンとともに
一点へ集中攻撃を加えた。

ラダのショコーディアンが、翡翠の狼が、グレンのウィーゼルが何度も当たったその一か所は
固い鱗がはがれ、柔らかい腹が露出するまでになった。

「よぉし、トドメだぁ!」

 ラダのウルフファングがジョーの腹に直撃し
横倒しになったジョーはもう立ち上がることはできなかった。




見渡せば、ヘイドリック隊の方のジョーも討伐され、
中庭の敵は全て居なくなっていた。
指令室からきたヘイドリック隊の情報によると
ボッカは大浴場にいてすでにアーサー隊が交戦中とのことだ。

一同は急いで大浴場に向かった。



大浴場は、すでにあちこちに罅や抉れが見られ、惨憺たるありさまだった。
先発のアーサー隊は、怪我人こそいないもののその表情は疲弊しきっている。

ボッカが大浴場に入って来た一同に目を向け、鼻で笑う。

「ふん、雑魚が何人群がってこようとも同じこと
返り討ちにしてくれる」

 ボッカが翳した右手から、魔法弾が勢いよく放たれる。

一同の頭上を飛び越えた魔法弾が壁に当たると、壁が大きく抉れた。
あれを正面から食らえば、無事では済まないだろう。

息をのむ一同の中から、サマエルが一歩、ボッカの前へと進み出た。

「よぉボッカ この顔を憶えているか」

 怒りに染まった表情でボッカを睨みつけるサマエルだが
ボッカはちらりと一瞥し、興味を失ったようにあらぬ方向を見遣る。

「生憎男の顔は覚えられないタチでな
お前の事なぞ知らん」

 その言葉に、サマエルの怒りの表情がさらに深くなる。
その体からインプロージョンのオーラが一段と立ち上り、一同は戦闘態勢に入った。


日向 悠夜は冷静だった。
自分がボッカに向かって行っても、うまくいく確率は低い。
だが、持っている武器はボッカの属性耐性を下げる効果があるので
せめて一撃くらいは当てておきたかった。

考えた末に、武器を投擲しボッカにぶつける事を思いつき
注意深くボッカとの距離を測った。
だが、気づいたボッカがぎろりと悠夜を睨んだ。

「残念だったな、その手には乗らんぞ」

 ボッカの手に魔法弾が出現する。

「悠夜さん!」

 降矢 弓弦が悠夜の危機を察知し狐狸鬼宿しに矢を番え
ダブルシューターでボッカを狙う。

両脇から迫る矢の雨に、ボッカは一旦攻撃を中止し、後ろへ飛び退いた。


ひろのもまた、自身の力ではボッカに太刀打ちできない事は良くわかっていた。

(せめて、みんなの迷惑にならないように……)

盾を構え後衛に下がって、せめて戦いの邪魔をしないようにし
遠くからボッカの動きを見て、ルシエロ・ザガンに必要な情報を伝えていく。

ルシエロは、ひろのの指示で魔法弾を避けながらボッカに肉薄し
チェリーベリーで勢いよく斬撃を繰り出して魔法弾の照準が定まらないように攪乱する事にした。



油屋。は手にしたクリアレインで遠くからボッカに向けて矢を射ていた。
だが、これは初めからダメージを与えることが目的ではない。
クリアレインの閃光効果によって、ボッカの動きを止めることが目的だった。

「おい、乳女!まだか!」

 ボッカの動きが止まり次第、全力で切りかかりに行くつもりのサマエルが
焦れて油屋。に当たる。
放たれた矢が、また一つ、ボッカの足元に落ちた。


篠宮潤は周囲を見回し、突出しすぎた仲間の側へ行き、怪我をしないようフォローしていた。
誰も怪我をせずに勝利を掴みとりたかったのだ。
だが、仲間たちに気が向いている分、ボッカへの注意は疎かになりがちだった。

「ウル!」

 ヒュリアスに声をかけられ顔を上げると、すぐ近くで魔法弾が炸裂する。

「ご、ごめ、ん」

「無事かね」

 ヒュリアスは、防御力に不安がある仲間を優先的にカバーするように動きながら
ボッカに複数人で同時に攻撃できるタイミングを狙っていた。
一人で飛び掛かって行くのは無謀に思えたのだ。

そして、その時は来た。

何度目かの挑戦で、ついに油屋。のクリアレインが閃光を放った。

「うおっ、まぶしッ!」

 その眩しさに目を閉じたボッカに、ヒュリアスは好機を見た。

「サマエル!フラン!」

「俺の力を思い知れ!」

「吾輩の力、存分に味わえ!」

 チャンスを狙っていた二人が、ヒュリアスの合図で一斉にボッカに飛び掛かった。
ペシェが抱えていたフランペティルをボッカの前に置いた。降ろしたではなく置いたのだ。

ヒュリアスのブラッディ・ローズとサマエルのグラビティブレイク
フランペティルの乙女の恋心Ⅱが同時に発動した。

三人の攻撃を同時に食らったボッカは、思い切り吹き飛んで壁に打ち付けられる。
次の瞬間、ボッカの表情が今まで見た事もない怒りの形相となった。
腰に巻いたタオルがはらりと落ちたが、気にする様子はない。

「貴様ら、俺様を甘く見たこと、後悔するが良い!」

 ボッカの両手にいままでで一番大きな魔法弾が錬成されてゆく。
あれが炸裂すれば、一同も大浴場も消し飛んでしまうだろう。

思い思いに防御の準備をする一同の耳に、突然、大きな鶏の声が聞こえた。
どうやら、他部隊の誰かが指令室で放送をかけたようだ。

みるみるうちにボッカの顔色が変わったのを見て
フランペティルがにやりと笑った。

「そうかそうか、そう言えば貴様はこれが苦手であったな
ふはははははは!コーケコッコー!!!!」

 高笑いと共に、フランペティルの鶏の声真似がボッカに追い打ちをかけた。

「ち、ちくしょう貴様ら!覚えておけよ!」

 ボッカは涙声になりながら、捨て台詞を吐いて逃げ出し
あとには、彼が腰に巻いていたタオルだけが残ったのだった……




アーサー王子の勝利宣言のあと
一同はジャック王子と共に地下牢に繋がれた人々の解放に向かった。

羽純は、ライフビショップとして
怪我をした人や体調が優れない人に、応急処置としてファストエイドをかけてまわる。
歌菜も、人々の不安や恐怖を取り除けるよう、穏やかに声をかけていく。



「皆、今回は本当に世話になったな、礼を言う」

 ジャック王子が改まって一同に向かって話し出した。
背筋を伸ばしたその姿は、自分の力で誰かを助けることができた自信に満ちていた。

「皆のおかげで、この城も、民も、無事に取り戻すことが出来た
感謝してもし足りない、本当にありがとう」

 そう言って、ジャック王子は一同と固い握手を交わしたのだった。


シナリオ:あごGM


PAGE TOP