リザルトノベル

タペストリーの裏に隠された通路を抜けると
そこはバレンタイン城の大浴場に繋がる脱衣所だった。


「初陣が大きな戦いか
悪くない
…まぁ足手まといにならない範囲で頑張らせてもらおうか
無理をして命を落とすなんざマヌケ以下だ」

「大丈夫だ、俺もここで終わるつもりはない だから援護、求む」

 アルド・ファッシとヨルク・リーシュが
初陣とは思えない落ち着きぶりですりガラスの向こうを眺めた。
すりガラスの向こうから、お湯の流れる音はするものの
ボッカがいるかどうかは判然としない。


「俺様が良い物を持ってきた
これを使うが良い」

 ハーケインが取り出したのは、アヒル特務隊「オーガ・ナノーカ」だ。
これがあれば大浴場内の様子を確認することが出来る。

「あ、俺も持ってるぜ
俺のも使えよ」

ロキ・メティスも手したオ・トーリ・デコイを取り出した。
大浴場にそっとアヒルたちを滑り込ませ
ハーケインとロキは手にした端末に視線を落とした。

浴場の中は湯けむりが立ち込めているが、大きな浴槽の中に三本の角を持つ男が見えた。
頭にタオルを乗せ、機嫌よく鼻歌を歌っている。

「居たな、なんて緊張感のない……」

 フィン・ブラーシュがやや呆れ気味に画面を見つめる。

蒼崎 海十はにやりと笑った。

「優雅に風呂に入ってる所を殺られたら、さぞ恥ずかしいだろうな
どうする、このまま突入してもいいと思うんだが」

「お待ちください」

 ルーカス・ウェル・ファブレの眼鏡がきらりと光った。

「私に良い考えがございます」



 
 西園寺優純絆と千亞はチョコレートを手に入浴中のボッカの元へと向かう。
二人を見たボッカは、なんだ、貴様らはと声を上げるものの
警戒はしていないようで未だ浴槽に浸かっている。


「ボッカ様、あのぉ……」

 もじもじと、照れた様子でチョコレートの包みをいじる優純絆。

「ボ、ボッカ様、ファンです…!」

 千亞も、やや声を高めに、まるで女の子のように見えるようにしながら
ボッカへチョコレートを差し出した。
にやりと笑ったボッカは浴槽から上がり、千亞の差し出したチョコレートを受け取った。

「ふむ、俺様のファンか
ここまで持ってきた熱意は褒めてやろう
お返しは何が良い?俺様のサインでいいかな」

 嬉しげに話すボッカだが、千亞は別の事が気になってそれどころではなかった

(ボッカ様前!前!隠して!)

 浴槽から上がったままチョコを受け取った為、ボッカのタオルは未だ頭の上だ。
つまり、ボッカは今一糸纏わぬ姿で二人の前に立っている事になる。

「ボッカ様、ユズのチョコもどうぞ」

「おお、そうだな、では……」

 固まって動けない千亞を余所に
優純絆は自身が持ったチョコレートをボッカに差し出すふりをして
チョコの箱に隠したテープレコーダーのボタンを押した。
鶏の鳴き声が再生され、ボッカの不意をついて弱体化できる……はずだった。

(あれ?おかしいな?)

 ボタンを押しても、テープが再生されない。
どうやら、浴場の湿気で故障してしまったようだ。
そうこうしているうちに優純絆の手からチョコを受け取ったボッカは
その裏に隠されていたテープレコーダーの存在に
次いで、二人の手の甲にある紋章にも気づいてしまった。

「貴様ら、俺様をたばかったな!」

 怒声を上げ、ボッカはまず頭に乗せたタオルを腰に巻いた。
しっかりと結べたことを確認してから、再度二人に向きなおる。

「俺様の純情を弄んだ罪は重いぞ!食らうが良い!」

 チョコレートを放り投げ、ボッカは手をかざし二人の方へ向けた。
千亞は咄嗟に手にした月盾で優純絆と自分を守る。



「千亞さんのチョコレートになんてことをぉおおおおおおお!」

「え」

 響いた声に、思わずボッカの手が止まる。
びしょびしょの床に転がって
ボッカが投げだしたチョコレートをキャッチしていたのは、明智珠樹だった。
あまりの唐突さに固まっているボッカにも構わず、珠樹は立ち上がって話し始める。

「いいですかボッカさん!このチョコレートはですね!今この瞬間!
今現在地球上にあるどんな高級な財宝もかなわないほど価値のある物になったのです!
それと言うのも、この天使!天使のような小悪魔!マイスゥイーート千亞さんが触れ」

「今だ!行くぜ!」

 明智の熱弁に固まったボッカの隙だらけの様子をみて
葵の合図で一同が一斉に大浴場に雪崩れ込んだ。


「うおおぉぉぉ!気合い入れてくぜーっ!」

「はいはい、落ち着いて 嘗めちゃダメだよ」

 遥 宏樹が気合十分にボッカに向かってツッコんで行こうとするのを
月都がいなし、二人でボッカに向かって行く。
月都がグラビティブレイクでボッカの防御力を下げ、宏樹がダメージを与えていく。

「久々の戦いでも戦えるもんだな!」

 衰えぬ二人のコンビネーションに宏樹が笑った。

飛鳥は普段の戦い通り、敵の周囲を走り回って攻撃の攪乱をしようとした
しかし

(足元が……かなり滑りやすくなってるね)

 大浴場と言う場所の性質上、床には水が撒かれており
走ると転んでしまいそうだった。

(しかたないな)

 飛鳥は蝉時雨を構え、最低限の動きで攻撃すべくボッカの隙を伺った。




「女の子からチョコ欲しい気持ち解るけど
だからってこんな事、俺達が黙ってないよね!」

 そう言ってクリアレインを放とうとしているのはシグマだ。
無類の女好きである彼もまた、ボッカのように
世界中の女の子からチョコレートをもらってみたいと望む男の一人だ。

「馬鹿は後ろに居ろ、邪魔だ」

 そう言って、前衛で弓を構えていたシグマを、オルガが後衛に蹴り飛ばす。

「痛いよ!蹴っ飛ばさなくてもいいじゃない!」

 文句を言いながらも、シグマはクリアレインでボッカに攻撃を始めた。



「王子、こちらへ」

 天宮・水生とコンラートはアーサー王子の護衛をすべく、彼の傍らにつく。
水生は大浴場内を見回し、遠距離攻撃が王子に当たらないよう気を配った。
水生はいざとなれば、自分が盾になるつもりでいるが、コンラートも同じことを考えていた。
もしも王子は水生が危険に晒されるようなことがあれば、自分が盾になろうと決め
コンラートはギルを握りしめた。


真と新も、王子の護衛に着いた。


「俺らまだまだ駆け出しだけども手伝いくらいはできるだろ
いくぞ、キイロ!」

「うへへ、はいあおとおでかけー」

灰青=マージナルマンが手にした武器を握りしめ
キイロ=マージナルマンを伴ってボッカに向かって突撃していく。

部位を狙うようなことはせず、真正面から切りかかって行った。
息の合ったコンビネーションで交互に切り結び、すこしずつボッカの体力を削っていった。


(一斉に掛かるにも限度がある
周囲のサポートに徹しましょう)
 
 鴉は混戦を防ぐため、ボッカには突撃せず少し離れたところから
鳥飼と共に仲間たちのサポートをすることにした。
パペットマペットを使い、ボッカの隙を作って他の仲間の攻撃が当たりやすいように配慮した。



「突入した僕達にも非はありますが、今回も全裸とは…少しは学びなさい」

「全くだ、せめて水着くらい着ててほしいものだな」

 暁 千尋が額を抑えて溜息をつくと
隣でティーダが同意した後ボッカに向かって大きな声を上げた。

「裸の魔物よ!まずはその貧相な角から撃ち抜いてやろう!! 」

「そういう下品な発言はやめたほうが良いよ 子供だからね」

 ティーダの発言に、アリスがツッコむ。
ジャミファ・シャンとアルクトゥルスが後に続けた。

「ホント、彼程度でイケメンとはよく言ったよねえ
本当のイケメンがどういうものか、僕を見て反省するがいい!」

「更にいうならなんて筋肉要素の足りない体でしょう
こんな体でイケメンを名乗るとは恥知らずにもほどがありますね」

 これを聞いていたボッカが、ついにそのあまりの言われように怒りを爆発させた。
よっぽど悔しかったのか、ちょっと目が潤んでいる。


「貴様らそこに直れえええ!
先程から黙っていれば、好き放題言ってくれるな!」

一歩踏み出したボッカの足元には
蘇芳が作った、石鹸の泡とトリートメント液を混ぜた液体が撒いてあった。
迂闊にそれを踏んだボッカは、そのまま転んでべしゃりと転ぶ。
踏んだり蹴ったりとはまさにこのことだ。


「貴様ら!おちょくりおって!もう許さんぞ!」

 ボッカは両掌に一つずつ魔法弾を作り、それを一同の方に投げた。

咄嗟にベテルギウスがローズガーデンを発動し、魔法弾を防御する。
遠距離攻撃だったためカウンターには至らなかったが
ローズガーデンで強化されたベテルギウスの防御力でも
大きなダメージを食らうほどの威力の魔法弾は
防御力の低いものであれば一撃で戦闘不能になってしまうだろう。

もう一方の方の魔法弾は、ローレンツ・クーデルベルが時の砂で止め
ギリギリで避けることが出来た。
避けた先の壁は、見るも無残に大きく抉れてしまった。

ボッカがもう一度魔法弾を作り、今度は天井に向けて発射した。
魔法弾によって大きく抉られた天井から、次々に破片が降り注ぎ
ウィンクルムたちにダメージを与えていく。
中には、落ちてきた瓦礫に足を挟まれ、動けなくなるものも複数名居た。
動けない者に向かって、ボッカが魔法弾を放つ準備をする。

「させないわよ!」

 それを見たジルヴェール・シフォンが、詠唱を終えていたカナリアの囀りをボッカに放ち
意識を別の場所へと向けさせる。

その間に、スコット・アラガキとミステリア・ミストが
動けなくなった仲間たちを助け、怪我の酷いものは安全な場所へと移動させた。
ジャミファが、仲間たちの怪我を順次治していってやるが
その間にも、ボッカは次の魔法弾の準備をし始める。

ジルヴェールの詠唱はまだ終わっていない
代わりに、ハティとブリンドがボッカの前に出て
魔法弾の的を引き受けた。

魔法弾が放たれるギリギリまでその場を動かずにいて
放たれると同時に二人とも急いでその場を離れる。

この作戦はボッカの怒りを煽ったようで
ボッカは何度もハティとブリンドめがけて魔法弾を放っては
逃げられて口惜しい思いをすることを繰り返していた。

魔法弾を躱す事はできるが、肝心の攻撃に通じるきっかけがなかなか掴めず
先程までウィンクルムに有利だった戦況は少しずつボッカが優位な方向に傾き始めていた。


このままではいずれ、体力と気力が尽きてしまう。

一同に焦りの色が見えた頃、不意に、大浴場の入り口から鬨の声が響いた。
見れば、他の通路を通ってきたはずのジャック隊とヘイドリック隊が
一同の増援に来てくれていた。
各隊のライフビショップや医療の心得のある者が怪我をした仲間の回復にあたり
エンドウィザードたちは次々に呪文の詠唱を始める。

「みんな……」

 仲間たちの気持ちにジルヴェールの瞳が一瞬潤む。
仲間たちに勇気をもらったジルヴェールはすぐに気を取り直し
再度カナリアの囀りの詠唱をボッカに向けて放った。


仲間たちの増援で勢いを取り戻したウィンクルムたちの力で
ボッカは少しずつ追い詰められていった。
はた目から見て、息が上がってきているのがわかる。

「おのれウィンクルム共……」

 ぎりり、と歯噛みし、ボッカは最後の賭けに出た。
両手を使って、今までで一番大きな魔法弾を作り上げていく。
あれが炸裂すれば、ここにいる全員ひとたまりもないだろう。

なんとかして止めなければ、とウィンクルムたちが思考を巡らせる中
ニヤリと笑ったボッカが腕を持ち上げ、魔法弾を投げようとした。

「ロキ!アレだ!」

 ローレンツ・クーデルベルがロキに大きな声でアイテムを使用するよう促す。
ロキは白い砂の入った砂時計を取り出すと、くるりとひっくり返した。
輝白砂が眩い光を放ち、一瞬ボッカの動きを止めた。

その時。



突然、大浴場内に鶏の鳴き声が響いた。

「なんだと!?まだ夜明けには早いだろう!」

ボッカが飛び上がって驚き、練り上げていた魔法弾はあっという間に雲散霧消する。

「くっ、ウィンクルム共め、この借りはいつか必ず返してやるからな!」

 ボッカは何とも小物めいたセリフを吐くと
呆気にとられる一同には目もくれず、ボッカは一目散に大浴場から逃げ出していった。




「……勝ったんだ」

 ボッカがいなくなり、静けさの戻った大浴場内で
アーサー王子がポツリと呟いた。

「勝った、俺達が勝ったんだ……
父さんとバレンタイン城をボッカの手から取り戻したぞ!」

 アーサー王子が叫ぶ。
その言葉で少しずつ実感が湧いてきたウィンクルムたちも
歓声を上げて勝利を喜び合うのだった。









「父さん!ご無事ですか!」

「おお、アーサー、無事か」

 バレンタイン城内の日の当たらない一室。
バレンタイン伯爵は質素なベッドがあるだけの狭い部屋に閉じ込められていた。

突然飛び込んできたアーサー王子に、伯爵は何があったかを察したようで
アーサー王子の労を労う。
ふと顔を上げ、伯爵はアーサー王子の後ろに立つ一同に気が付いた。

「アーサーよ、彼らはいったい……」

伯爵の問いかけに、アーサーは満面の笑みで答えた。

「彼らはA.R.O.A.から派遣されたウィンクルムです
今回、俺がバレンタイン城を奪還し、こうして父さんを迎えに来られたのも
全て彼らのおかげです」

 アーサーが立ち上がり、ウィンクルムたちのほうに向きなおった。

「みなさん、本当にありがとう
おかげで無事に父を助けることが出来ました

みなさんはこのバレンタイン領の恩人です
どうぞ、いつでも遊びにいらしてください」

 そう言って一礼するアーサーの姿には
王たる者の風格と威厳が感じられたのだった。



シナリオ:あごGM


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