リザルトノベル

タペストリーの裏に隠された通路を抜けると
そこはバレンタイン城の大浴場に繋がる脱衣所だった。
すりガラスの向こうから、お湯の流れる音はするものの
ボッカがいるかどうかは判然としない。



「さて大きな戦いですね 屈した瞬間、僕達の負けですよ」

 バレンタイン領の命運をかけた戦いに、驟雨が緊張の面持ちで呟く。

「私の実力ではまだまだ役に立てなそうだが 出来る限りの事は尽力するつもりだ」

 100000774も唇をきっと結んだ。


「問題は、お風呂の中にボッカがいるかどうかだねぇ」

 椿姫桜 姫愛姫がかわいらしく小首を傾げて言う。

「そうじゃのう、試しに覗いてくるというのはどうじゃ」

「宏介ぇ、敵の情報収集してこいしぃ!
シノビなんだからうまく隠れて、ちゃちゃっと、位置、弱点、行動パターン、見極めてこいしぃ!
ボッカだってハングリー・ジョーだって、ウチラウィンクルムにかかれば楽勝だしぃ! 」

 麻琵 桜玉 殊月と名生 佳代がなんとも無謀な提案をする。
それを聞いていた吉坂心優音が手にしたオーガ・ナノーカを掲げて言う。

「あたしはぁ、これでお風呂の中を偵察したらいいかなぁと思うの
どうかなぁ、ね、晃ちゃん?」

 意見を求められた五十嵐晃太は、腕組みをして考える。

「そうやな、覗きに行ってしまえば奇襲もかけられるかもしれへんけど
中の状態がわからんまま入っていくのはなぁ……」

「そんなことしなくても、ボッカが中にいるのは確定だろ」

 エリザベータの言葉に、一同が驚いて彼女の方を見る。
エリザベータとヴィルヘルムは脱衣所内を探索し、ひとつの脱衣籠に目をつけていた。

「ほらみろ、これ」

 エリザベータが手にしたのは、一枚のアンダーウェアだ。
ウエストのゴムの部分に、黒の油性マジックで「Bocca」と名前が書いてある。

「この服、ボッカちゃんがテレビに出てた時にきてた一張羅と同じデザインよね
服のサイズも、だいたいボッカちゃんとおんなじくらいだし
中にいることはほぼ確定でいいんじゃないかしら?」

 ヴィルヘルムがきらきらと華美な装飾がついた服を籠から引きずり出して見せる。

状況から察するに、中に入浴中のボッカがいるのは間違いない。


「行くなら早くした方がいい
奇襲には早さが重要だからな」

ヴァーリ=ウルズの一声で
一同は、油断しているボッカに奇襲をかける事にした。




浴室のドアを細く開け、花木 宏介がするりと中に侵入した。
忍法霞を使って、ボッカの居場所を突き止めたら
一同に合図して奇襲を開始する手筈となっていた。

ボッカは、浴場の中央の一番大きな浴槽に浸かっていた。
ふんふんと機嫌よく鼻歌を歌っている。

宏介はボッカの居場所を確認すると
後に続く仲間たちに手を振って突入の合図を送る。
 



総勢53人のウィンクルムが、一斉に大浴場に雪崩れ込んだ。
上巳 桃は入口側で待機し、増援が来ないか見張りをしていた。

「きゃーーーーーっ!?」

 突然のことに驚いたボッカは、浴槽から飛び上がり慌ててタオルで前を隠した。
目を白黒させながらも、敵襲だという事は分かったらしい。
前を隠したまま、尊大な口調で話し始めた。

「は、早かったなウィンクルム共!
ここであったが百年目、俺様の力を見せてやろう!」

 びしいっ!と一同に指をつきつけるボッカに
リクトがファストガン、豊村 刹那がクリアレイン、逆月がカラコルムで攻撃を開始する。

「えっ、えっ、ちょっとタンマ、タンマ!」

一斉に向けられた武器に、ボッカがまたも慌てて後ろに跳び退る。
タオルを腰に巻きしっかりと止めて、ようやく一同に向き直った。

「よし、行くぞ……っぐあっ!?」

気合十分に一歩踏み出したボッカは足元にあった何かを踏んづけて盛大にひっくり返る。
花岡 美園がボッカの足元に滑らせた固形石鹸だ。

ちなみに、ウィンクルムたちが立っている辺りは
菫 離々が脱衣所から持ち出したタオルをばらまいたため滑りにくくなっていた。

転んだボッカをトラ、カスミ、聖、香我美が攻撃する。

「き、貴様ら、卑怯だぞ……」

 なんとか起き上がりかけたボッカに、今度は秋月 沙耶が足払いを仕掛ける。
滑りやすい床では踏ん張りが効かず、ボッカは再度転んで顔を打ち付けた。
ティムル・カリモフが転んだボッカに攻撃して追い打ちをかける。

「いい加減にしろっ!」

 何度目かの正直でやっと起き上がったボッカは、苛立たしげに急いでその場を離れ
力いっぱい怒鳴り散らした。先ほどぶつけた額が赤くなっている。

「貴様ら、黙っていればやれ石鹸だ足払いだと動けない相手に卑怯な手を使いやがって!
それでもウィンクルムか!」

 まさかの正論だが、言われる相手がボッカなのがどうにも釈然としない。

「俺様を怒らせたこと、あの世で後悔するが良い!」

 ボッカの右手が高く掲げられ、掌に魔法弾が出来上がる。
ボッカは大きく振りかぶると、その魔法弾を一同の方へ投げつけた。
狙いは微妙に逸れ、一同の頭上を越えていったが
後方の壁が大きく抉れ、深い亀裂が入る。
食らったら防御力の低いものは一瞬にして戦闘不能になってしまうであろう。

ベルンハルトは、王子の側に付き、いざと言う時には身を挺して守ることにした。

ボッカの魔法弾の威力に驚いた様子の一同を、ボッカの高笑いが包んだ。

「どうだ!俺様の力、思い知ったか!」

 ボッカが再度手に魔法弾を準備し始める。

あれを食らうわけにはいかない。

一同は攻撃を防ぐ術を考え始めた。

斑雪が魔法弾が当たらないよう陽炎で分身を作る。


「一箇所に固まらない方が良いでしょうね」

 井垣 スミはそう言い、一同に散開するように声をかけた。


真衣、ハガネがテープレコーダーで鶏の声を再生しようと試みるが
湿気でレコーダーが故障してしまい、うまくいかなかった。



「いくよ、リデル!」

「わかった、兄さん!」

 リデルとエイルはそれぞれの武器、マシュマローンとカットラスで
ボッカの注意を惹くために勢いよく切りかかった。
だが、ボッカの右腕の一振りで弾き飛ばされ、床に転がる。


淡雪とノエルがそれに気づき
二人を柱の陰に運ぶとファストエイドで回復してやる。
幸い、大きな怪我ではない。



「先に伯爵を探そうぜ、そうすれば、王子も安心できるはずだ」

ユラとルークは、戦いよりも捕えられている伯爵の救出を優先する事にした。
大浴場内に伯爵の居場所の手がかりはないかと、二人であちこちを探し始めるが
突然、背後から声をかけられた。

「何か探し物かね?」

 振り向けば、手に魔法弾を持ったボッカが二人をじっと見つめている。
ルークは咄嗟にユラを背に庇って守る。

「残念ながら、伯爵はここにはいない
別室で丁重におもてなしさせていただいているよ」

 そう言いながら、ボッカは魔法弾を二人に向けて振りかぶる。

「やめろぉ!」

 魔法弾を持ったボッカの手を、幼い裂帛と共に攻撃したのは雨池颯太だ。
同時に、フェルン・ミュラーも反対側から攻撃し、
更に蓮がスネイクヘッドで強化した武器で参戦したため
ボッカが手にした魔法弾は狙いを逸れ、浴場の天井に当たった。



「ミヤ、このままだとまずい
増援を呼んだほうがいいだろう」

ミヤ・カルディナとユウキ・アヤトはボッカの討伐確率を上げるため
他の部隊を呼びに行こうと大浴場を出た。
丁度その時、中庭からハングリー・ジョーを退治した
ジャック部隊とヘイドリック部隊が向かってくるのが見え、ミヤは声をかけた。

「ボッカは大浴場に!皆様お急ぎください!」

二人は二隊を大浴場まで誘導する事にした。



ミヤとユウキの機転により増援を得た一行は、再度ボッカへと向き直った。

上山 樹は他隊のライフビショップたちに指示を出して
怪我をした仲間の回復に当たる。

紫月 彩夢は紫月 咲姫と一緒にボッカの攻撃に当たった。
咲姫の罰ゲームがうまく当たれば、ボッカの動きを少しは止められるはずだ。
咲姫の死角を補うように、周囲の様子に気を配る。

ラブラ・D・ルッチはアスタルア=ルーデンベルグの側に付き
二人で攻撃の機会を伺っていた。
一人でボッカに近づくのは危険なため、出来れば二人以上で攻撃したかったのだ。
アスタルアが忍法霞で隙をついて攻撃を繰り出すのを見
タイミングを合わせて一緒に攻撃することで、ボッカの意識の攪乱を狙った。


シャルル・アンデルセンはノグリエ・オルトが攻撃されないよう
彼と背中合わせになってクリアライトを構えた。
シャルルとノグリエの位置からはサフィールが詠唱しているのが見えたため
彼とアンダンテ、それから向坂 咲裟とカルラス・エスクリヴァに目で合図しておく。

勝負は一瞬。

全員のスキルの発動順がキーポイントだ。



フリオ・クルーエルが、先ほど花岡 美園が置いた石鹸をわざと足に付け
滑りやすくなった状態で濡れた床を滑ってボッカに切りかかる。

その奇策ともいえる動きに、ボッカは一瞬動揺し、魔法弾を打つ手が止まった。
すかさず、アンダンテと咲裟が同時にクリアレインをボッカへ射かける。
それと同時に、カルラスは予めプロテクションを発動させておく。

その瞬間閃光が走り、ボッカの視界を奪った。

ボッカの視界が塞がれた事を確認し、ノグリエ、サフィールが順にスキルを発動させた。

ノグリエのスペードリングを通ったサフィールの乙女の恋心Ⅱが、
ボッカの体を内側から焦がす。
万が一、魔法弾がスペードリングを通ってきた時のために
事前にプロテクションを発動させて防御力を高めておいたカルラスが
二人の盾となった。



「貴様ら……許さんぞ!」

 体のあちこちを燻らせながら立ち上がるボッカは
それでも未だ体力には余裕がありそうだった。

怒りに震えながら、両手でいままでで一番大きな魔法弾が錬成する。
あれが炸裂すれば、一同も大浴場も消し飛んでしまうだろう。

思い思いに防御の準備をする一同の耳に、突然、大きな鶏の声が聞こえた。
どうやら、他部隊の誰かが指令室で放送をかけたようだ。

びくりと体を震わせたボッカの手から、見る見るうちに魔法弾が消えた。

水瀬 夏織は鶏の鳴きまねをしてボッカに追い打ちをかけた。


「くっ、ウィンクルム共め
この借りはいつか倍にして返してやるからな!」

 そう叫ぶと、ボッカは真っ青な顔で大浴場から逃げ出していった。







采女 澪が城内の人間から聞き出した隠し部屋。
バレンタイン伯爵はそのなかの一つに閉じ込められていた。


「父さん!ご無事ですか!」

「おお、アーサー、無事か」

 バレンタイン城内の日の当たらない一室。
バレンタイン伯爵は質素なベッドがあるだけの狭い部屋に閉じ込められていた。

突然飛び込んできたアーサー王子に、伯爵は何があったかを察したようで
アーサー王子の労を労う。
ふと顔を上げ、伯爵はアーサー王子の後ろに立つ一同に気が付いた。

「アーサーよ、彼らはいったい……」

伯爵の問いかけに、アーサーは満面の笑みで答えた。

「彼らはA.R.O.A.から派遣されたウィンクルムです
今回、俺がバレンタイン城を奪還し、こうして父さんを迎えに来られたのも
全て彼らのおかげです」

 アーサーが立ち上がり、ウィンクルムたちのほうに向きなおった。

「みなさん、本当にありがとう
おかげで無事に父を助けることが出来ました

みなさんはこのバレンタイン領の恩人です
どうぞ、いつでも遊びにいらしてください」

 そう言って一礼するアーサーの姿には
王たる者の風格と威厳が感じられたのだった。


シナリオ:あごGM


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