リザルトノベル


 忘れ去られた古都「ウスプス」から奈落のルプトにヘイドリック隊は向かっていった。
 ダンジョン内部に入るとそこら中に落とし穴が開いている。よく見えない落とし穴もあり、慎重に進まないと落下してしまいそうだ。
 奈落のルプトにある落とし穴に一度落ちると、ダンジョンの封印が解かれるまで未来永劫、奈落を彷徨うことになると言われている。
 アヒル特務隊「オ・トーリ・デコイ」で落とし穴がないルートをしっかりと確認しながらセラフィム・ロイスが先頭を歩く。
 火山 タイガはセラフィムに危険が無いように、近くで警戒しながらダンジョンを進んでいった。
 第一の部屋にたどり着くと、ヘイドリック隊が全員入っても余裕のあるサイズの空間があった。室内は赤一色で染まっていて、よく目をこらすと柱が何本かあるように見える。
 どこに光源があるのかわからないが、赤い光が部屋の中を照らしていて、暗闇で困る心配はなさそうである。
 入口の近くに、何かで引っ掻いたような痕を見つけた。それは文字になっていて「やつは赤い!」と強く刻みつけられている。
 ヘイドリックの部下の数人が突然悲鳴を上げた。ヘイドリックの部下は頭にできた、たんこぶを押さえてうずくまる。どうやら、何者かがこの部屋にいるようだ。
 カンケツセンに白く染まった水を入れてあたりに撃ちまくるアイオライト・セプテンバー。
「あたしの目線くらいの高さで撃てば、透明人間や柱に当たって見やすくなんないかな?」
 カンケツセンから放たれた白い水によって、赤一色だった部屋に色が付いて少し見やすくなる。
 部屋は広く、なかなか柱の位置などを正確に特定することはできないが、何かが白い水を踏んで走り回っているのに全員が気がついた。
 白露はアイオライトの方へ何かが向かってこないか警戒したが、カンケツセンに警戒しているのか近寄ってくる気配は感じない。
 セラフィムを守るように前衛に立つタイガは物音に集中していた。何かが部屋の中を走り回っている音が聞こえる。それはヘイドリック隊の足音とは違ってハッキリとわかった。
 タイガは背後になにかが回り込んだのに気がつき、武器で薙ぎ払う。確かな手応えを感じた。
 即座にカラーボールを取り出し、投げつけると、白いインクが付いたなにかが赤い部屋を移動しているのが見える。
 敵の位置がわかったとなればあとは倒すだけだ。タイガはヘイドリック隊に「やるぞ」と声をかけた。
 カラーボールのインクだけでは部屋の中を駆け回る相手を特定しにくい。
 スウィンが近付いてきた何者かにペンキを浴びせるようにかけた。すると、人の頭のような物がハッキリと見える。目鼻口はないようで、マネキンのような頭だった。
 ペンキを頭にかけられた何者かをよく見ると、どうやら透明で姿が見えないというより、部屋の色と同じ赤色の皮膚で全身が覆われていて、見つけにくいだけのようだ。
 イルドがスウィンの援護に入ると赤い皮膚をもった敵は逃げるように距離を置いた。
 羽瀬川 千代が赤い部屋に白い接着剤とペンキを撒き終わった頃には、敵の姿はハッキリとわかるようになっていた。接着剤をまいた場所を正確に記憶して、ラセルタ=ブラドッツやヘイドリック隊に連絡いれることも忘れない。
 千代の連絡を聞き漏らさないように集中し、敵に向かって遠距離射撃で応戦するラセルタ。攻撃を受けた敵は見るからに焦り始め、ラセルタが上手く攻撃で逃走経路をコントロールしてやると、接着剤を踏んで動きを鈍らせた。
「見えにくいのならば、見えるようにするまでだ」
 ヴェルトール・ランスが敵に至近距離でスプレーを噴射する。敵の赤かった皮膚は今ではペンキや塗料でカラフルに染まり、目立つ存在になった。
 アキ・セイジが敵を鞭で叩くと、頭を庇うようにして防御体勢になる。バシバシと叩きまくると、たまらずに敵は逃げ始めた。
 セイジは敵の逃げる先に偶然、落とし穴があるのを見つけた。落とし穴に落とそうと指揮を執ると、ヘイドリック隊の猛攻が始まる。
 カラフルに染まった敵は倒され、落とし穴に落ちていった。


 ダンジョンを進むと第二の部屋にたどり着いた。第一の部屋より広く、天井は倍以上の高さがある。
 部屋の中は暗闇に包まれている。中央に魔法の明かりが灯るとうっすらと壁の文字が浮かんで見えた。
 急いで書いたようで文字が乱れているが「明かりを増やせ、ぼんやりさせろ」と読み取ることができる。
 魔法の明かりによって部屋の中に無数の影の巨人が出現し、ヘイドリック隊は警戒を強めた。
「影の巨人、自分の影が関係するかも。ゼクとくっ付いてたら影の数が減らせる?」
 柊崎 直香はゼク=ファルとくっ付いてみる。影の巨人の数は一つ減ったような気がするが、数が多いのでよくわからない。
 影の巨人が大きな岩のような拳を振りまわすと、天井や壁が砕け、石の破片が飛んでくる。
 ゼクは怯まずに詠唱を続け、影の巨人に強烈な攻撃を加えた。
 セラフィムは懐中電灯の光を鏡で一点集中にして影の巨人に浴びせる。光を浴びた巨人はぼんやりと色が薄まり、急に大人しくなった。
「気を付けて」
 タイガにセラフィムがいうと、タイガは影の巨人に応戦する。
 スウィンとイルドがランプやマグナライトで明かりを増やすと、影の巨人は色がぼけて力を弱めていく。
 イルドのトルネードクラッシュを影の巨人たちは避けられずに、何体も巻き込こまれて、はじき飛ばされていった。影の巨人が壁にぶつかると大きな音を立ててめり込んだ。
「暗けりゃ四方に灯火だ。影は薄まるぜ」
 ランスとセイジは部屋をどんどん明るくしていく。影の巨人は部屋の明るさが増すにつれて力を弱めていった。
 ランスとセイジが攻撃を始めると、影の巨人は攻撃の手が緩む。
「影の巨人は自分たちの影が敵じゃねぇの? だからライトとか光源をいくつか用意して影を消すように進めば敵の数が減ると思うぜ」
 セイリュー・グラシアがそういってマグナライトを影の巨人に集中的に浴びせると、影の巨人は姿を消していく。
 どうやら、セイリューの言う通りらしい。
 ラキア・ジェイドバインはセイリューやヘイドリック隊のみんなと協力して、ライトで影の巨人を消していった。
 その間に影の巨人からの攻撃をスキルで守っていく。効果範囲にヘイドリック隊をあつめて、ラキアは攻撃に弱い仲間もしっかりと守り抜いた。
 影の巨人はヘイドリック隊のライトによって姿を消して、完全に無害になる。ライトを消さないように注意しながら先に進むと、第二の部屋を抜けることができた。


 最後の部屋にたどり着くと、そこは他の部屋とは違い、装飾などが施されていて、特別な場所だとわかる。
 奥には大きな扉があり、見えないが王冠がこの場所にあるのは間違いない。
 ダンジョンの封印を解くためには、この部屋で真実の儀式を行う必要があのだ。ウィンクルムたちはさっそく真実の儀式を始めた。
 白露が真実を言おうと口を開く。
「アイに真実を告白するいい機会かもしれません。アイ、実は私は……」
「あたし本当は男の子なのっ! パパー、ごめんなさい!」
 アイオライトが割り込むように真実を告げる。冗談を言っているようではなく、ものすごく真剣な表情をしている。
「……え? そりゃ改めて確かめたことはないですが……、今更? え? え?」
 白露は困惑しつつ、アイオライトの真実に頷くしかなかった。
 イルドにスウィンが告げた。
「今まで言ってなかったけど……、俺が神人に顕現したのはオーガに襲われて大怪我して、殺されそうになった時なの……。詳しいことはまた、ね」
 イルドはスウィンの言葉を聞いて驚いたものの、詳しいことはまたの機会に教えてくれるというので、この場はそれ以上を聞こうとはしない。
 直香がゼクに自信満々に、いう。
「僕、家事できるよ? ゼクが全部してくれるけど」
「できるなら手伝え」
 ゼクはすばやくつっこみをいれた。そして、自分も真実を告げる。
「動物で一番好きなのは猫、だ……」
 ゼクはなぜか言いにくく感じたが、真実の儀式のためである。真実をちゃんと言えた。
 千代はラセルタに、いう。
「お酒に酔うたびに絡んでくるのが最近可愛く思えてね……ごめん」
 自分で言って照れる千代。
「何をせずとも千代といる時間は悪くない、と最近思うようになった」
 ラセルタは照れる千代に告げた。
 真実の儀式が終わり、ダンジョンの封印が解けると王冠が姿を現した。
 銀の台座に金の飾りが付いた比較的地味な見た目である。王冠は周囲を圧する威厳のよう雰囲気を発していて、ランスが手に取ると見た目よりずっしりと重い。
 セイジにランスが王冠をちょっと被せると、セイジは意外と重たいと感じ、首が疲れそうだと思った。
 ヘイドリックが王冠を受け取り、開かなかった扉を調べに行く。すると、アデン郷の日記を発見することができた。
 日記を読むとダンジョンを抜けた先の三つの地域について、わずかだが書かれていた。
 一つは灼熱の砂漠、一つは神秘の海、そして黒い森。どれも美しく、多くの謎と冒険を秘めた地域だったと書き始められている。
 残念なことに、オーガや怪異がすでに勢力を張っていて、地元の人々に助けを求められたが、探検隊の力ではどうしようもなかったと記されている。
 当時の伯爵は発見されたダンジョンが危険な場所と繋がっていることを恐れていたそうだ。三つの地域の調査を終えた後に封印することを決意したようである。
 最後のページには封印が順調に行われたことと、三カ所目の封印の最中に襲撃され、封印の成功の代償のように探検隊が全滅したと記されている。
 ヘイドリックはこの資料を持ち帰れば、もっと何かがわかるかもしれないという。
「僕たちは宝物を2つも手に入れたようです……。この情報は千金の値があります」
 ヘイドリックの部下が扉に新しい封印を施し終わると、全員でダンジョンをあとにした。


 ダンジョンを出た瞬間、すべてのウィンクルムの体を青白い光が包んだ。
「勇敢なる探索者よ。……汝の勇気と機知を称えん!」
 ダンジョン全体に響き渡る声とともに、ウィンクルムペアに一つの「エンシェントクラウン」が手元に出現した。
 それは、この脅威の迷宮の製作者が千年の時を越えて、挑戦者を称えて授与した攻略の証である。

     


シナリオ:和歌祭 麒麟 GM


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