リザルトノベル


 ジャック隊は彷徨えるバザー「バザー・イドラ」から逆立ちグラプに向かっていった。
 ダンジョン内部に入ると重力が逆さまに働き、ジャック隊は天井を歩くことになる。
 第一の部屋につくと、砂漠の昼並みに高温と乾燥が襲いかかってきた。汗が噴き出し、呼吸がしにくい。
 部屋はとても広く天井もすごく高い。砂の床のあちこちにロート状の穴が開いていて、蟻地獄が穴の底で待っているに違いない。蟻地獄の姿は見えない。相手をするのならば砂の中にいる蟻地獄は厄介そうである。
 ヴァレリアーノ・アレンスキーは暑さ対策に水などの用意をきちんとしてきた。アレクサンドルも同様に暑さ対策は万全である。
 アレクサンドルは周囲に敵がいないか警戒しつつ、みんなと先に進んでいった。
 ヴァレリアーノは先頭の方を慎重に歩いて行く。正常な重力の箇所もあるらしく、逆さまに落下することは防ぎたいところだ。
 信城いつきは暑そうにしているジャックに水筒から飲み物を渡す。ジャックはお礼を言うと、水分を補給した。
 いつきがジャックの面倒をみている間に、ジャックの部下の小人が数名、蟻地獄に転がり落ちていくのをレーゲンは見逃さなかった。
 蟻地獄の一番下まで転がり落ちる前に縄ばしごで助けてやる。蟻地獄は獲物が落ちてこないのを不満そうに少し眺めたあと、砂の中に戻っていった。
 初瀬=秀がビー玉を進行方向に向かって撒きながら進む。正常な重力の箇所ではビー玉が落下していくので、ルートを変更しながら慎重に出口を目指した。
 アヒル特務隊「オ・トーリ・デコイ」に紐を付けて、先を進ませる秀。アヒル特務隊「オ・トーリ・デコイ」には塗料が塗ってあり、砂の上にアヒル特務隊「オ・トーリ・デコイ」が歩んだあとがしっかりと刻みつけられた。
 出口までの安全なルートが確保できたのを確認すると、秀は紐を引っ張ってアヒル特務隊「オ・トーリ・デコイ」を回収する。
 イグニス=アルデバランは秀と並んで出口に向かって進んでいった。
 叶はアヒル特務隊「オ・トーリ・デコイ」を走らせて重力が正常になっている場所を避けるようにして先を急ぐ。途中で、ジャックの部下が蟻地獄に転がっていくのを見つけると、縄ばしごで救助活動も頑張った。
 桐華は叶が走らせたアヒル特務隊「オ・トーリ・デコイ」の後ろを警戒しながら歩く。罠があるかもしれないので慎重に歩みを進めた。
 ジャック隊は被害無く第一の部屋を攻略することに成功した。ジャックの部下が汗と砂で汚れていたが、乾燥しているのですぐに砂の汚れは落ちるだろう。


 第二の部屋にたどり着くと、乾燥がさらに強くなる。ここは巨大な鍾乳洞になっていた。
 水分を補給しながら部屋の中を眺めると、第一の部屋よりも広い空間に数百体もの大量のミイラが横たわっていた。
 床の上で干物のようにからからに乾いたミイラたちはジャック隊が第二の部屋に入っていくるのに反応して、息を吹き返したかのように起き上がる。
 歩く速度はゆっくりしているが、乾燥して体が軽いため、悪い足場に足を取られにくく、移動速度は侮れない。
 柳 大樹は重力が正常になっている場所を注意深く観察しながら第二の部屋を駆け抜ける。大樹を追いかけるミイラの数は、数えるのが面倒なほど多い。
「クロちゃん、俺が落ちたら受け止めよろしく」
 寄ってきたミイラをクラウディオが投げ飛ばして床に転がす。ミイラは軽いので簡単に吹っ飛ばされていった。
 他のミイラとぶつかり、ドミノ倒しのようにパタパタとミイラが転んでいった。
 大樹が先を急ぐと運悪く正常な重力の場所に引っかかってしまった。一瞬にして反転した重力によって落下が始まる。
 クラウディオは即座に大樹を元の重力の場所に掴んで引き寄せ、難を逃れた。
 近付くミイラたちをクラウディオが蹴散らし、順調に進んでいく。
 イグニスは攻撃をしたり、落ちそうになっているジャックの部下を助けたりと大忙しである。イグニスに向かってくるミイラの攻撃を躱しながら場をしのぐ。
 秀もイグニスが囲まれないようにと協力して安全を確保した。
 桐華は持ち前のスピードで誰よりも早く出口にたどり着いていた。出口に寄ってくるミイラを素早い連続攻撃で突き飛ばす。
 重さの軽いミイラ達は簡単に遠くまで吹っ飛んでいった。
 叶も出口にたどり着くと、第二の部屋にまだ残っている部隊のためにがんばった。
 イチカ・ククルは天原 秋乃に自分に掴まれというと、秋乃を担いで出口に向かって駆けていく。
「秋乃、ひとりくらいなら……!」
 イチカのスピードに付いてこられるミイラはいない。圧倒的な走りを見せるイチカに、足が速いなと感じながら、秋乃は落っこちないように掴まっていた。
 出口に付くと秋乃はすぐに弓を引いた。まだ第二の部屋には仲間が残っている。全員が出口に到着するまではミイラの足止めをしようと、仲間の援護に集中する。
 イチカは秋乃に寄ってくるミイラを素早く蹴散らして全員が移動を終えるのを待った。
 ヴァレリアーノはミイラにバーナーで火を付けながら、第二の部屋を走っていた。
 アレクサンドルがヴァレリアーノを守っているので、ミイラはほとんど手も足も出ない。
 しばらくすると、ミイラに炎が燃え移り、乾燥しきっている体が炎で見えなくなっていく。炎は一気に燃え広がり、数百体のミイラ全てが燃え上がっていく。
 ヴァレリアーノとアレクサンドルは燃えて崩れていくミイラを横目に第二の部屋をあとにした。


 最後の部屋にたどり着くと、そこは今までの部屋とは違い、装飾などが施されていた。この部屋が重要な場所なのだとすぐにわかる。広さは今まで攻略してきた部屋に比べるとかなり狭い。
 部屋の奥には巨大な扉があった。扉の向こう側から巨大な何かが、扉の破壊を試みたあとがしっかりと残っていた。扉は頑なに閉ざされていて、扉の破壊は失敗したようだ。
 この扉の前には剣が封印されているはずだが、目には見えない。
 ダンジョンの封印を解き、剣を手に入れるためには、この場所で真実の儀式を行う必要があるのだ。
 大樹がクラウディオに印象を伝えた。
「思ってたけど、アサシンっぽいよね」
「そうか」
 クラウディオは大樹のいった真実を聞いても特に気にしなかった。
 いつきは伝えてないことって何だろうなと頭を捻る。なかなか思いつかない。
「……あ、先日酔ったレーゲンに抱きつかれましたー。責任とってくださいー」
 笑いながら言ういつきにレーゲンは優しく微笑み、自分からも真実を口にした。
「いつきにはね、見守ってくれる存在がきっといるよ……」
(これしか言えないけど。見守ってるよ、きっと「彼」は)
 レーゲンの言葉を聞いたいつきはきょとんとしていた。
 イグニスは秀に思い切って真実を告白する。
「実はコーヒーはブラックでは飲めないのです……! でも頑張って飲めるようになりたいですから淹れてください!」
 秀はイグニスから視線をそらし、言いにくそうに応える。
「イグニス、お前のカップ、割っちまった」
 イグニスはガーンとショックを受けるのだった。
 叶は桐華に真実を言う。
「僕の前のパートナーってさ、育ての親なんだ。心の準備が出来たら、ゆっくり、紹介してくね」
「……お互い、会って紹介できる家族がいないのな。墓参りなら付き合うから、付き合え」
 桐華はぶっきらぼうに言うが、優しさが言葉の端から顔を覗かせていた。
 イチカが秋乃に真実を告げる。
「僕は秋乃のこと、好きだよ。っていつも言ってることだから意味ないか。でも真実だしなあ~」
「お前のこと、最初変なヤツだと思ってた。……今も少し思ってるけど」
 秋乃はイチカに対して率直な感想、というか真実を告げた。
 真実の儀式が終わると、ダンジョンの封印が解けていく。
 剣が姿を現す。だが、扉が開くことはなかった。
 剣は4mはある巨大な両手剣だ。重量は100kgを確実に越えているだろう。全く飾り気がなく、鋼鉄の塊だった。
 ジャックは扉を丹念に調べ、厚さが1mはある鋼鉄の扉をガタガタにひんまげてしまった怪物が、この扉の向こう側にいると想像した。
「敵の強さからいうとここが一番のあたりだな。開かなくて良かったぜ」
 ジャックの部下が扉に新しい封印を施す。
 ジャックは、いった。
「皆で倒せるようになったら行ってみようぜ!」
 ジャック隊はジャックの指示でダンジョンをあとにした。


 ダンジョンを出た瞬間、すべてのウィンクルムの体を青白い光が包んだ。
「勇敢なる探索者よ。……汝の勇気と機知を称えん!」
 ダンジョン全体に響き渡る声とともに、ウィンクルムペアに一つの「エンシェントクラウン」が手元に出現した。
 それは、この脅威の迷宮の製作者が千年の時を越えて、挑戦者を称えて授与した攻略の証である。

 


シナリオ:和歌祭 麒麟 GM


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