リザルトノベル


 アーサー隊は忘れられた古都「ウルプス」から時計じかけのサナウンに来ていた。
 ダンジョンの中は時計の針がカッチカッチと正確に時を刻んでいる。いくつもの時計の音が重なり、時計の中に飛び込んでしまったかのように感じる。
 壁や床、天井には時計の文字盤が無数に埋め込まれていた。丸い形の文字盤、楕円の形、四角に三角と色々な形の文字盤が視界に飛び込んでくる。
 いくつかの時計は他とは違う時を刻んでいて、色や形も不気味だった。
「みんなで冒険するのも楽しいね」
 先行して偵察をしている天宮・水生が横を歩くコンラートに笑みを見せる。コンラートは微笑み返した。
 あたりに敵の影や罠はなさそうに見える。水生とコンラートはダンジョンの状況をアーサー隊に伝えながら、慎重にあたりを警戒していた。
アヒル特務隊「オ・トーリ・デコイ」が胡白眼から放たれて、ダンジョンの道中を先行する。ジェフリー・ブラックモアは何か異変があったら、すぐにでも胡白眼を守れるようにと警戒を怠らない。
 アヒル特務隊「オ・トーリ・デコイ」は順調にダンジョンの奥へと向かって進んでいく。アヒル特務隊「オ・トーリ・デコイ」が通った床は安全なはずだとアーサー隊に連絡し順調に進んでいった。
 時計が時を刻む音になれた頃、第一の部屋にたどり着いた。
 部屋はそれなりに広く、アーサー隊が全員入っても余裕がある。アーサー隊の正面には玉座に座ったゴブリンが見える。
「なんだ、お前達は? 我はゴブリン皇帝であるぞ。皇帝だから偉いんだぞ。この部屋より先に進みたければ、お宝を献上するんだな、ふふん」
 無駄に偉そうなゴブリン皇帝。皇帝というのは自称なのでどこまで本当かは定かではない。
 ゴブリン皇帝の後ろに大きなドアがある。このドアはゴブリン皇帝にしか開けることは出来ない。どうにかして、ゴブリン皇帝にドアを開いてもらう必要がある。
 ハーケインは用意してきた指輪を取り出した。金色のメッキが施された石が付いているおもちゃの指輪だ。
「ハーケイン、貢物は私に任せろ。外面を取り繕うのは得意だからな」
 シルフェレドはそういうと、ハーケインからおもちゃの指輪を受け取った。
 シルフェレドが玉座の前に跪き、いう。
「ゴブリン皇帝よ、急な来訪にもかかわらず受け入れて頂き感謝する。その寛大なる御心への感謝の印と、この先に進む代償として貢物を受け取って頂きたい」
 ゴブリン皇帝を敬うよにしておもちゃの指輪を差し出すシルフェレド。これにゴブリン皇帝は眼をキラキラと輝かせながら「よしよし、わかっているではないか」と上機嫌である。
 ルータス・ファンはコンビニで買ってきたお菓子をゴブリン皇帝に献上した。大丈夫か不安そうにジャミファ・シャンがその様子をうかがっている。
「偉大な皇帝のお口に合うようにと、厳選した物をお持ちしました」
 ゴブリン皇帝はお菓子が好きなので「おお、これはよいものだ」とさっそく封を破って食べ始めた。口に合ったようで、ゴブリン皇帝のテンションがどんどん上がっていく。
 8の字型のシートに、チョコの粒がいくつも入ったお菓子をメガネのように顔に当てながら、ゴブリン皇帝の前に跪き丁寧に挨拶をする萌葱。
 あまりの萌葱のオーバアクションに、蘇芳は笑いをこらえるのに必死だった。
 面白い形状のお菓子にゴブリン皇帝は同じように顔に当てて、メガネごっこをして遊び始める。
 水生がお菓子で遊んでいるゴブリン皇帝にシャボン玉をプレゼントすると、今度はシャボン玉に夢中になるゴブリン皇帝。
 用意してきたクッキーを鳥飼が献上すると、遊んでいたシャボン玉を置いてクッキーに目を輝かせた。
「チョコチップでいいですかね? あとは、僕が歌をつけましょうか? ポップスとか歌えますよ」
 鳥飼が歌っている横で、鴉がビー玉をゴブリン皇帝に献上する。ビー玉がキラキラ光って綺麗である。
「ここに一人、いえ一匹ですか。退屈そうですね」
 鴉の言葉をねぎらいの言葉と勝手に解釈したゴブリン皇帝は、鳥飼の歌も相まってニコニコしている。
 アルクトゥルスはゴブリン皇帝に変化球の品を献上した。それはベテルギウスの脱ぎたてのパンツである。
 ゴブリン皇帝に献上しようとするも、その手は震え、瞳からは血の涙を流すほど本気で献上を惜しむアルクトゥルス。演技なのか本気なのかわからない迫真の表情である。
 満足していてもらえないらなら、この場でさらに脱ぎたてのパンツを献上するとベテルギウスがいうと、ゴブリン皇帝はきっといい物に違いないと喜んでパンツを受け取って頭に被った。
 明智珠樹はパンツを献上しながら、ゴブリン皇帝を煽てる作戦に出る。
「ああっ! なんて威厳のある風格! 王座にたたずむその美しさ! あぁ、素晴らしい! さぁ、この貢物をはいて私を貴方の椅子にしてください……!」
 千亞がゴブリン皇帝にチョコを献上している横で繰り広げられる、珠樹のド変態行動。
「僕がもらったら嬉しいものってこれかな……、って何してんだ珠樹! このド変態!」
 つっこみにしては激しすぎる蹴りで、珠樹を蹴り回す千亞。
「千亞さん、嫉妬しないでください。千亞さんにはあとでゆっくり……」
「嫉妬してない! もうやだこんな神人」
 二人の行動がツボに入ったのかゴブリン皇帝は大きな声で笑っている。
 西園寺優純絆はチョコチップクッキーを、ルーカス・ウェル・ファブレはコンビニで厳選した紅茶を献上した。
 お菓子をたっぷりもらったので、このタイミングでの紅茶はナイスなタイミングだった。
 ゴブリン皇帝はお菓子と一緒に楽しませてもらうと偉そうに言った。
 葵と飛鳥は、葵が趣味で作っているお菓子を献上する。綺麗な包みに入っていて、ゴブリン皇帝は高級品をゲットしたと謎のハイテンションである。
 葵は自分が作ったお菓子を喜んでもらえて、嬉しく思う。
 スコット・アラガキは炭酸水が入った瓶とラムネ菓子をゴブリン皇帝の前に持っていく。大きめの器を用意し始めたスコットを不思議そうにみているゴブリン皇帝。
「俺からは手品を献上しまーす。炭酸水にラムネを入れて……」
 炭酸水とラムネ菓子が反応して瓶から勢いよく水が噴き上がった。
「甘い間欠泉だよ! 悪戯好きの代名詞たるゴブリンの皇帝なら隠し芸のひつとは持ってなきゃね」
 ゴブリン皇帝は手品を見たことがなかったので、とても喜んでいた。どうなっているのかと何度もスコットに聞くゴブリン皇帝はまるで子供だ。
 さらに気分を良くしてもらおうと、ミステリア=ミストが巧みな話術でゴブリン皇帝の容姿を褒め称える。
「高い鼻と尖った耳がいかしてるねぇ、そこらのゴブリンとは違う風格を感じるぜ。いい意味でだよ、わかるだろ?」
 手品を見せてもらった上に褒められてゴブリン皇帝はもうアーサー隊に心を開き始めていた。
 シグマがここぞとばかりにメイクセットを献上する。さらに見た目に磨きをかけたらどうかというのだ。メイクのやり方を教えながらすぐにゴブリン皇帝と仲良くなるシグマ。
「どんな生き物だって、変わる自分に驚かないわけない! ……と思う」
 自信なさそうに言葉が切れたが、強く言った所しかゴブリン皇帝には聞こえていない。
「ゴブリン相手にメイクセットか……」
 オルガはシグマの行動を少し不安そうにみていた。
 ゴブリン皇帝はたくさんのウィンクルムから貢物をもらい、煽てられて最高に機分が良い。
「よしよし、我は満足したぞ。先に進むことを許そう」
 ゴブリン皇帝がそういうと、奥へ続くドアが鈍く重たい音を立てながら開いていく。
 ゴブリン皇帝のテレパシーに反応して魔法のドアが開いたのだ。
 

 第二の部屋に進むと、そこはとても空間が広かった。足元は砂地になっていて歩きにくい。部屋の中央には巨大ひまわりが群生していた。
 アーサー隊が全員、第二の部屋に入ると、人の背丈の数倍はある肉食巨大ひまわりが砂地から根を抜いてこちらに向かってきた。
 根っこを脚のように動かし、わらわらと移動してくる。
 シルフェレドが前に出て武器を振るう。シルフェレドの後ろからハーケインが弓で援護射撃を行った。弓矢の牽制に効果があって、ひまわりが怯んでいるところにシルフェレドの強烈な一撃が決まる。
 シルフェレドの一撃を食らった巨大ひまわりはアーチ型の軌跡を描いて遠くに吹っ飛ばされていった。
「ひまわりか。酒のつまみにしてたがコレは食えんな」
 ルータスはそういうと、第二の部屋を駆け抜ける。砂に何度か足を取られながらも、ジャミファと一緒に巨大ひまわりを迂回し、頑張って第二の部屋の出口を目指した。
「王子が真実の間につかないことには話にならないだろう」
 蘇芳は走りながら巨大ひまわりに攻撃を加えていく。いくつかの巨大ひまわりが蘇芳を追いかけるようにして移動を始めた。
 萌葱は蘇芳が怪我をしないかハラハラしていたが、巨大ひまわりが飛ばす種の勢いが見るからに弱く、特にダメージを受けているようには見えない。
 巨大ひまわりに見つからないようにしたかった水生だが、襲いかかってこられたのなら仕方がない。アーサーを守りながら第二の部屋の出口に向かって急いだ。
 水生の前に巨大ひまわりが現れる。コンラートは巨大ひまわりの動きに警戒していたので素早く武器で攻撃して対応した。
 巨大ひまわりが根を鞭のように振り回すのをよく見て避けつつ、攻撃を繰り返していく。
「巨大なひまわりなー……、高いところの敵に対する攻撃というのはできないから飛んできた種の対処をした方がいいか。とりあえず、当たらないように切って落としたり、軌道を変えたりだな。あとはローレンツに守ってもらおう」
 ロキ・メティスは巨大ひまわりが飛ばしてくるひまわりの種を武器で切り落としながら第二の部屋を進んでいく。
「こんな大きなひまわり、初めてみたよー。俺が攻撃を受けるよ。俺にはこういうのが向いているから」
 ローレンツ・クーデルベルが気合いのオーラを放つと、あちこちに散っていていた巨大ひまわりの多くがローレンツの元に集まってきた。
 種をぽんぽんと飛ばしながらローレンツを攻撃してくる。盾であっさりと防いで、近付いてきた巨大ひまわりに攻撃を加える。
 巨大ひまわりはローレンツにボコボコにされた。
 アルクトゥルスとベテルギウスは第二の部屋を走り抜けようと、足場の悪い砂地に耐えながら駆け抜ける。
 巨大ひまわりが後ろから追いかけてきて種を飛ばしてきたが、ベテルギウスがアルクトゥルスの盾となり、種飛ばし攻撃から守った。
 種の威力は弱く、ベテルギウスは難なくアルクトゥルスを守ることが出来る。
「砂漠は足が取られやすい。しかし、それは相手も一緒。巨大ひまわりは頑丈みたいだが、何度も同じ所を攻撃すれば! フィン、狙っていくぞ」
 蒼崎 海十はクールにひまわりへ向かっていく。
「海十が前衛ってのが、少し納得いかないが……、俺の銃は確かに後衛向きだろう。ああ、しっかり当ててくさ!」
 フィン・ブラーシュは、海十が巨大ひまわりに攻撃した所を正確に狙う。弾丸で撃ち抜くと巨大ひまわりは痛そうに震えた。
 種を飛ばして反撃してきたが、特に痛くなかった。
 優純絆は邪魔にならないように、上手く場所を移動しながら避難していた。優純絆が襲われないように、ルーカスが巨大ひまわりに立ち向かう。
 飛んでくる種を躱しながら、隙だらけの胴体部分に強烈な一撃を浴びせる。
 攻撃を受けた巨大ひまわりは派手に吹き飛ばされて、遠くの砂地にゴロゴロと転がっていった。
 葵は後衛部隊の前に立って、巨大ひまわりが飛ばしてくる種をはじいたり受けたりして守っている。
 思いの外、種に威力が無くて、かなり余裕がある。
 飛鳥は素早く移動して巨大ひまわりに連続して攻撃を浴びせていった。後衛部隊が第二の部屋から早く出られるようにと、道を切り開いていく。
 ハティはいくつかの巨大ひまわりに攻撃を加えると、追いかけてきた巨大ひまわりから逃げるように部屋を走り回っていた。
 巨大ひまわりを充分に引きつけることに成功したと判断すると、ブリンドの元へ方角を急転換して走り出す。
 急に方向を変えられて、巨大ひまわりは仲間同士でぶつかり合い、根っこが絡まったりして身動きがとれなくなった。
 おとりとして部屋に最後まで残っているブリンドは、盾で飛んでくる種から身を守っている。ハティが巨大ひまわりから囲まれる前に、引っ張って第二の部屋の出口に向かっていった。
 スコットはアーサーの護衛に集中している。スコットと一緒にいるミステリアが巨大ひまわりに対して攻防一体の動きを発揮した。
 巨大ひまわりはミステリアに引きつけられ、上手く誘導される。巨大ひまわりの相手をしている間、ミステリアに向かって大量の種が飛んできたが、盾で簡単に防げた。
 ミステリアが上手に巨大ひまわりを誘導したので、アーサーの前に道が開けていく。
 これ以上、長い戦闘は回避した方がいいと意見を出す胡白眼。出口に向かって走って行ったウィンクルムたちの方角から、どこに出口があるかはわかっている。
 敵の数や位置も大体把握できていた。胡白眼がジェフリーやアーサー、他のウィンクルムに情報を伝え状況を有利にしていった。
 ジェフリーは巨大ひまわりの狙いやすい部位を狙って射撃を行う。銃弾が当たるたびに巨大ひまわりは痛そうに震えた。
 反撃で種を飛ばしてくるが、ぽーんと緩やかな放物線を描いて飛んでくるだけなので簡単に避けることができる。
 オルガはシグマやアーサーを守るようにして、第二の部屋の出口に向かって走って行く。 オルガの素早い動作と手数に巨大ひまわりは怯んでいた。オルガが作っていく道をアーサーはしっかりとした足取りで進み、第二の部屋をあとにした。


 最後の部屋には敵は一切いなかった。静かで広い部屋である。部屋を見渡すと上品な装飾などが施されていて、この場所が特別な所なのだとわかる。
 部屋の奥には巨大な扉があった。扉の前には封印された錫杖があるらしいが見えない。
 ダンジョンの封印を解くためにはこの場で真実の儀式を行う必要があった。
 真実の儀式が始まる。
 ルータスにジャミファが小さな声で耳打ちした。
「えーと……、本当のことを言うと……、未だに……、お前がちょっと怖い……と、思うことがあるかな」
「……わかった。これからは気をつける……ようにする」
 ルータスも小声でジャミファに耳打ちする。
 萌葱が明るく蘇芳に真実を告げた。
「思いがけず神人に顕現したけど、結構今の状況を楽しんでいるんだ。よろしく頼むね、相方さん」
「干渉されるのは正直苦手だ。ただ、契約した以上、アンタのことは俺が守る」
 蘇芳は力強く応える。
 鳥飼は何の前振りもなく突然、鴉に告げる。
「言ってないこと? 鴉さんといるの好きですよ」
「はあ、そうですか」
 どう反応していいのか鴉は困惑した。
「私も、嫌ではありませんがね」
 優純絆はルーカスに言葉を選びながら話し始める。
「ルカ様、姉様達から聞いたんだけど、ユズと姉様達、血が繋がってないの……、本当の家族がどこかにいるって……」
 ルーカスは優純絆の言葉をかみ締めるように聞く。そして、自分も真実を告げる。
「ユズ、私には妻がいました。妻は病気で死に、いませんが、今はユズがいるので寂しくないですよ。当時の記憶は曖昧ですがね」
 ハティとブリントは何を言ったらいいかと考えている。
「何かあんだろ」
「特には……」
「人の添い寝がないと眠れねーとか」
「そう思うなら聞いてくれ。そんなことはない」
「だったらありゃ何だ、寝相か?」
「リンと比べる対象がいないから俺にもわからない」
「おめーの寝相のせいで寝不足なんだよ」
 最後にシグマが真実をオルガに告げた。
「家のテーブルにあったオルガさんのお菓子、食べたの俺なんだっ!」
「なんだと……いや、それはまぁいい。しょうもない真実だな!」
 儀式が終了すると、ダンジョンの封印が解け錫杖が出現した。同時に扉が重厚な音を立てて開いていく。新しい地域への道が開けたのだ。
「どうやらオレ達が一番早かったようだね」
 アーサーは満足そうに笑った。
 錫杖は銀と象牙でできた50cmほどの長さがある。無数のダイヤモンドが散りばめられていて、キラキラと輝いている。近くにいるだけで安心感がわいてきた。
 扉の外は小高い丘の頂上だ。景色が一望できる場所で、周囲の状況がよく見渡せる。
 周囲は森林地帯になっていて、鬱蒼とした森は黒い森といった感じである。
 空を見上げると雲間から月が現れ、遙か遠方に城らしい建物が見えた。
 高く鋭い尖塔をもった城は、美しいはずなのに、見たものを戦慄させる雰囲気を纏っている。
 不気味なほど静まりかえったこの場所に、遠くの方から狼の遠吠えが響いてきた。
 ここから先の調査は、別の機会に行うことになり、アーサー隊は帰路についた。


 ダンジョンを出た瞬間、すべてのウィンクルムの体を青白い光が包んだ。
「勇敢なる探索者よ。……汝の勇気と機知を称えん!」
 ダンジョン全体に響き渡る声とともに、ウィンクルムペアに一つの「エンシェントクラウン」が手元に出現した。
 それは、この脅威の迷宮の製作者が千年の時を越えて、挑戦者を称えて授与した攻略の証である。

 


シナリオ:和歌祭 麒麟 GM


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