リザルトノベル

●クッキーラント王国へ ~草原から城塞内
 ジャック王子と共に、ウィンクルム達は小高い丘の上にある城塞都市を目指す。
 あらかじめ俊・ブルックスやヴァレリアーノ・アレンスキー達がジャックに城塞までの道のりや、城塞内部の構造について問い、それをまとめ皆で共有したために移動はスムーズだった。
「ちょっと静かすぎるな……」
 俊が呟く。一行は草原を進むが、不気味な程に敵の姿はなく。
 この世界にオーガなんていないようにも思える静けさだった。奇襲などに気をつけるも、戦闘は起こらず。
 一行は無事に城塞都市の入り口まで辿り着いた。

「それじゃあ、行ってくるねー」
 ちょっとお散歩に、とでも言うような雰囲気で皆に手をヒラヒラと振るのは柳 大樹。
 パートナーでシノビのクラウディオと共に偵察を任されていた。
「すまないが、頼んだぜ大樹。クラウディオ。どうか、無理はしないでくれ」
 ジャックがそう言えば、他のウィンクルム達も頷く。
 クラウディオは無言で伝達用の緑羽レンジャーを小脇に抱え、大樹と共に城内へと侵入していった。
 ジャックから聞いた城内の情報を大樹はあらかじめメモに書き込んでおいた。
 そのメモをクラウディオは記憶し、記憶を頼りに大樹の前を行く。
 息を潜め、己や大樹の影にも気を配り。ひっそりと城内の状況を彼らは確認しながら進む。
 いくらかの敵をやり過ごし、敵の種類や数、潜むポイント等を詳細にメモに記載していった。
 ある程度の情報を集め、大樹はそのメモを緑羽レンジャーへと託す。
 声は出さず(よろしくね)と伝えれば、ピャーッと妖精は皆の元へと戻ったのだった。

 しばらく城塞の入り口でウィンクルム達が待機していると、緑葉レンジャーが無事に帰ってきた。
 初瀬=秀やイグニス・アルデバランがその情報を整理し、土地勘のあるジャックや皆と共に襲撃場所を決定する。
 戦闘時までトランスを温存する者を除き、各自がトランスを済ませ。
 まずは襲撃を行う場所まで、情報を元に静かに移動することとなった。

 しかし、大樹たちの情報が正しくとも、敵も単純ではなかった。
 鋭い嗅覚を持つハイエナ頭のヤックハルスや、鳥のような頭を持ち、聴覚に優れたヤグアートらがウィンクルムの気配を察知し戦いを挑んでくる。
 突然の攻撃や、後ろに回り込む厄介さ。
 ウィンクルム達はほぼ一丸として動いている状況だったので、個々に現れる分には怪我をする者もおらず、しっかりと撃退することが出来た。道がそこまで広くないのもよかったのだろう。
 しかし戦闘が始まったことで、より多くのランクDオーガがウィンクルム達の元へ集まり始めたのだった。
「陽動する前に結構集まってきましたね……」
 イグニスの言葉に秀が周りを見回す。目的の襲撃場所まではあと少し。
 その時、秀に声がかかった。
「こっちこっち。少し遠回りになるけど、道が狭いから混戦は避けられるよ」
 声のする方を見れば、そこにいたのは叶とそのパートナー、テンペストダンサーの桐華。
 彼らは城塞突入後、息を潜め先行し周りの様子を伺っていた。
「この先の敵は倒しておいた。皆、行け」
 桐華の言葉にジャック王子は「さっすが!」と声をかけ、ウィンクルム達は細い道へと進路を変えていった。

 仲間が行くのを確認し、裏道の入り口を塞ぐように立ちはだかるのは秀、イグニス。
 そして天原 秋乃 とイチカ・ククル、瑪瑙 瑠璃と瑪瑙 珊瑚など数組のウィンクルム達が残った。
 敵の数や状況を把握し、彼らならやれると判断た叶は
「秀君、僕達もう少し周りの様子を探ってくるよ」
 敵と対峙していた際は真剣な瞳を見せていた叶だったが、秀にへにゃりとした笑顔を向け、この場を託す。
「あぁ、気ぃつけろ」
 秀の短い返事を聞くか聞かずか、叶と桐華は敵をすり抜け闇へと消えていた。
 トランス済の瑠璃と珊瑚。そして秋乃とイチカもトランスを行う。
 珊瑚とイチカの2人はエトワールを使い、数多いDスケールオーガ達を優美に惑わす。
 イグニスは朝霧の戸惑いの詠唱準備を始め、秀や瑠璃、秋乃はイグニスを護るようにそれぞれの武器を握り、構える。
 戦う場所が狭いこともあり、多くのオーガがいるにも関わらず、実際に攻撃を仕掛けてくる手数は少ない。
 敵の攻撃を優雅に交わしては少しずつダメージを与えるイチカと珊瑚。
 そしてイグニスの詠唱が終わり、味方には害のない霧があたりを充満した。
 多くの敵がその霧に飲まれ、パニックを起こす。相打ちをしだす敵もいる程だった。
 その様子を見て秀は、持参した大量の爆竹に火をつけ、オーガ達目がけて投げつけた。
 激しく、ババババババババババという音と火花をまき散らし、煙を発する爆竹にオーガ達は更に動揺する。
「朝霧の戸惑いの効果が消えないうちに、行くぞ」
 秀の言葉に皆が頷き、6人は元々使うはずだったルートへと走る。
「ほらよっ」
 そして霧が晴れるタイミングを狙って、秀はオーガ達に可愛いアヒルちゃん、オートリ・デ・コイを発する。
 そのアヒルちゃんがオーガ達の元にガァガァ近寄っていくのを見て、オーガ達はその先に居るウィンクルムの姿を見つけ。
「こっちこっち!」
 と笑うように珊瑚が大声を出せば、オーガの大群は皆彼らを追いかけて行くのだった。

●クッキーラント王国へ ~激戦地帯
 叶達が教えてくれた道を通り、ウィンクルム達は予定していた戦闘地帯へと到着した。
「思ったより敵の数が多かったね……」
 トランスを行った後、信城いつきは脇道や上空を見て、隠れた敵がいないかを注意深く見やる。
 いつきのパートナーであるレーゲンも己の銃の最終チェックを行う。
 普段は穏やかな笑顔の印象しかなさそうな彼だが、今は真剣な面持ちを崩さない。
 ジャックの傍で彼を護っていた木之下若葉は、伝達兵を呼びメモを渡した。それを持ち頷くと、兵は通りへと消えていく。
「どうしたんですか?ワカバさん」
 若葉のパートナーである羊系テイルス……に見える白角ディアボロ、アクア=グレイが小首を傾げた。
「ん。たっちゃんに状況伝えておこう、と思って」
 あぁ、そうですね!とアクアが微笑めば、緊張し肩に力が入っていた周りの者達の荷が軽くなるようで。
 その瞬間、遠くからバババババババと音が鳴る。
「合図、来たみたいだね」
 いつきがその音に、クリアレインを取り出した。
 若葉同じくジャックの傍で彼を護っていたヴァレリアーノは、近くにいたパートナーのアレクサンドルを呼び寄せる。そしてトランスを済ませた。
 ヴァレリアーノは若葉にジャックを任せると、アレクサンドルと共に最前線へと向かっていった。
 前線に到着し道の先を見れば、陽動班達が此方へと走り向かってくるのが確認できた。
 その後ろには、多くのオーガ達が黒い波のように次から次へと視線に入る。
「サーシャ、お前なら出来るな?」
「誰に言っているのかね?無論だ」
 ヴァレリアーノの問いに、アレクサンドルが笑う。ヴァレリアーノは大鎌を携え、駆け出した。

 戦場はまさに激戦だった。
 戦い慣れたウィンクルムが多く、個々の力は相当に高い。しかしDオーガはそれぞれ持久力もあり手強く、また今までに見たことないほどの数となって襲ってくる。
 知能が高いことから、積極的に孤立している者や、体制を崩している者を狙いにかかる。
 少なからず遮断物のある戦闘地帯にてネカット・グラキエスはパートナーの俊と共にクッキーの壁に隠れた。
 そしてネカットは詠唱の準備を始める。
 俊がタイミングを合わせ、コネクトハーツで敵の不意を突きつつ斬りかかる。
 その攻撃に合わせるように、ネカットが乙女の恋心を発動させる。
 敵は苦しそうに胸をかきむしる。その様子にすかさず俊は追撃し、敵は断末魔の悲鳴を上げた。
「よしっ」
 俊は呟くとネカットを連れ、また後退し体制を整えた。

 最前線で戦うヴァレリアーノは大鎌を華麗に振り回す。
 小柄な身体は戦場を舞うように動き、敵の胴体をなぎ倒す。
 アレクサンドルも彼の隣で武器を狼へと変化させ、目に入る敵を全て攻撃するかのように動く。
 合流した秀やイグニス、秋乃やイチカ、瑠璃や瑪瑙も陽動作戦の成功に安堵するものの、休んでいる暇もなく対峙するオーガに攻撃をかけていく。
 ジャックの元まで敵が及ぶことはないが、レーゲンやアクアが後方から射撃支援し細心の注意を払う。
 敵は徐々に数が減っていく。しかしそれと同時に、味方の疲弊やMP切れが多く出ているのも否めない。
 いつきや秋乃達神人もクリアレインを使い相手の目をくらませ、果敢に攻撃を入れる。
「く……」
 ジャックが皆の疲労に焦りを見せ始めた。拳を強く握りしめるのがわかる。
「王子、落ち着いて。大丈夫だから」
 隣にいた若葉が声をかける。相変わらずの無表情で若葉は前を見る。手には魔守のオーブ。
「しかし……」
 その時、ヤグアートの小隊がジャックたちの元目がけて低空飛行で近づいてくるのが数組のウィンクルム達の目に入った。
 立ち向かうウィンクルム達は傷を与え、少しずつ数は減っていくものの徐々にその近づいてくる。
 アクアやレーゲンも応戦するが、やせ細り、また動きの速い敵達は手強い。
 多くの数はいたが、ジャックの元に辿り着くまでに多くの敵は淘汰される。だがしかし、傷ついた一体がジャックの元へ向かってきた。
 若葉が仲間の援護は間に合わなくても、俺が……と、魔守のオーブを使用しようとした時。
 ザシュ、と手裏剣がヤグアートに突き刺さる。
 そしてスピードの下がった敵に、斬撃が加えられ。そのまま敵は息絶えた。
 若葉たちの目に入ったのは
「おまたせー」
 偵察に出掛けた時のように手をヒラヒラさせる大樹に、クラウディオ。偵察兵がクラウディオの小脇に抱えられている。
「皆、凄いね。あとちょっとだね」
 そして、叶と桐華。
「僕達で道は開けといたから。中枢を制覇すれば敵のやる気も削がれる、はず」
 叶の言葉にジャックは頷く。
 彼らが戻ってきたことで、戦力的としては勿論のこと、仲間たちの士気が上がったのだった。

 叶と桐華に導かれ、ジャックとその周りの数組は敵の中枢へと目指す。
 大樹とクラウは戦闘地帯で残る敵を一掃するため残ることに。
 ヴァレリアーノらが道を開き、ジャック達は天守閣を目指した。

●秘密の抜け道
 ほとんどの敵が戦闘地域へと誘き出されていたのと、大樹や叶達の活躍もあり中枢まで順調に進んで行く。
 遭遇する敵達も個々の力は弱いものが多く、またジャック王子の地の理もあるため優位に進む。
 女王の無事をジャックは不安に思いながらも、遂に彼らは中枢へと到達した。
 そこにいたのは女王ではなく……一体のヤックドーラだった。
 その様相や雰囲気から、この城のボスであることが見て取れる。
「皆、行くぞ」
 桐華が足を踏み出そうとするその前に、叶は駆け出していた。
 儀礼刀「エムシ」を片手にヤックドーラへと飛びかかる。
「叶……無茶はするなっ」
 敵への攻撃はヒットし、エムシの効果により敵の防御力は低下する。
 しかしその攻撃に怒り狂った魚型の顔を持つ怪物は長い舌を叶に向け攻撃を仕掛けてきた。
 叶は手に持つ刀でそれを防ぐ。そして桐華が発動したエトワールによりヤックドーラの視線は叶を離す。
 ジャックと共にいた若葉やアクア、珊瑚や瑠璃、その他のウィンクルムの加勢を受け、敵の持久力はあったもののジリジリとヤックドーラは弱まっていく。
「止めだっ」
 桐華がオスティナートを発動すれば、その姿が分身したかのように見える。
 キョロキョロ視線を動かすヤックドーラに向かって、桐華は刃を振り下ろした。
 そのままヤックドーラの身体は崩れ、ウィンクルム達は勝利に沸いたのだった。

 強敵を倒せば、後は早い。
 地下に隠れていた女王の無事も確認が出来、皆の顔に希望の光が灯る。
 残った者達、そして戦闘地域から城へ向かってきた仲間達で場内をくまなく捜索を続ける。
 秘密の抜け穴を確保し、伝令隊を使い戦闘地帯の者へ伝えれば戦闘地域も殲滅完了、という返事が返ってきた。
 アーサー王子に次いで、秘密の抜け道を確保したジャック王子隊。
 城壁内にいた者のほとんどは、城の奪還と激戦を潜り抜けた安堵と喜びに力が抜けその場に座り込むのだった。
「みんな、本当にありがとう……」
 ジャックが皆への感謝と安堵からか、己の目元を拭った。 


シナリオ:上澤そらGM


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