リザルトノベル

●マシュマロニア王国へ ~森
 マシュマロの森は、歩き慣れないウィンクルム達にとって厄介なものだった。
 柔らかいマシュマロが敷き詰められたその地面は、踏みしめるとぐんにゃりと足を取られる。
 一行は少しずつ森の中を進んで行った。
 光なく、闇に包まれている森。風が吹き、木の葉はザワザワと音を立てる。

 小人達に道に滑り止めの砂まきを可能であればお願いしたい、と要請していたのはアイオライト・セプテンバー。
 敵も出てくる森であったため広範囲に巻くことは出来なかったが、何もしないよりは歩きやすい地域もいくらか出来る。
 その道を通り、皆は進撃していく。
 凄腕のウィンクルム達が特に集まる、ヘイドリック王子率いる隊。
 事前にヘイドリックに城下町への最適なルートを聞き、セイリュー・グラシアはサバイバルの知識をフル活用し罠を探る。
 張り巡らされた罠を解除しつつ、彼らは道を急ぐのだった。
 しかし、スムーズに事は進まない。
 暗い森の中から突如現れるハーピーの大群は光を頼りにウィンクルムに襲い掛かる。
 森に紛れたデミ・トレントの枝がウィンクルム達の足に絡みつき、吊し上げる。
 カエルに似た形態を持つヤグアマルは酸性の雲を呼び出し、局地的な集中豪雨を降らせる。
 魚に似た頭を持つヤックドーラは、ウィンクルムを小さな川へと引きずりこんでいく。
「これは……想像以上だね」
 セイリューのパートナー、ライフビショップのファータ、ラキア・ジェイドバインは防衛と仲間の回復に専念していたが、あまりの敵の数に困惑の表情を見せる。
 セイリューも敵の死角を突き、目に入る敵へと攻撃を当てる。
 アイオライトのパートナー、白露は手に持つ拳銃で威嚇射撃をし、まずは森を抜けることに専念することにした。
「森さえ抜ければ、多少戦いやすくなるはずです」
 白露のその言葉に、皆戦いながらも少しずつ城へ向かって戦線を上げていく。
 その結果、一部のウィンクルム達が森を抜けることに成功した。
 今なお森の中では戦闘が続いている。しかしここで立ち止まるわけにはならなかった。
 森に残る仲間達を見て、表情を翳らせるヘンドリック。
「大丈夫だから、王子様も翳った顔は無しですよ」
 ヘイドリックに声をかけたのは柊崎 直香。見た目はヘイドリックと同年代に見えるその少年は、ヘイドリックを安心させるように笑顔を向ける。
「あ、ありがとう……」
 自信なさげに、礼を言う彼に、直香のパートナーでディアボロのゼク=ファルが言葉を続けた。
「ウィンクルムの数より敵の方が多いのは事実だ。攻撃を受けている者もいる。しかし、確実に敵は減っている」
 普段、言葉数の少ないゼクも、彼なりにヘイドリックを安心させるよう戦況を伝えた。
「……わかりました。いきましょう……」
 ヘイドリックの空色の瞳が、キリリと引き締まった。

●マシュマロニア王国へ ~城下町
 森を抜け、マシュマロの段々畑を横目に一行は城下町までやってきた。
 アキ・セイジの勧めで、まずは教会を解放し、そこに住人を避難させることに決まっていた。
 城下町も森同様、現れる敵の数は多い。
 森ではオーガやデミオーガ、ネイチャーと混在していたが、城下町で現れるのはほとんどがDスケールオーガだった。
 耐久力があるのにも加え、知性もある。
 教会まで移動する道で、敵の仕掛けた罠に引っ掛かり傷を負うウィンクルムや、奇襲攻撃に合うウィンクルムも出てくる。
 白露が威嚇射撃を行い、またゼクも朝霧の戸惑いを詠唱し、出来る限り敵を切り抜け、教会へ向かうことを最優先した。

 途中、逃げまどう妖精たちを見つけたのはセラフィム・ロイス。
「こっちだよ!」
 と、その妖精たちに声をかける。妖精たちは安心した表情でセラフィム達の元へ駆け寄った。
 そして妖精たちを追いかけていた敵が現れる。
 猪のような頭を持つ、ヤックアドガが数体。妖精を護るように立つセラフィムに、彼のパートナーでである虎系テイルス、火山 タイガがヤックアドガ達を迎え撃つため前へと出る。
 それに加勢するようにゼクと、アキのパートナーでエンドウィザードのヴェルトール・ランスが詠唱を始める。
 彼らの詠唱時間をを稼ぐため、タイガがホワイトファングを使い素早い攻撃を仕掛けていく。
 それに合わせ、周りにいるウィンクルム達もヤックアドガ達に攻撃を仕掛け、敵の体力を徐々に奪う。
 セラフィムによる妖精の誘導が終わっているのを確認し、ゼクとランスの魔法が発動した。
 天空の涙により威力の増した、2人のエンドウィザードによる乙女の恋心Ⅱは効果が絶大だった。
 その場にいたヤックアドガは全て倒れていく。
 しかし彼らは真剣な表情も変えず、教会を目指していった。

 仲間達が住民の安全確保のために動く中、敵の目を引くことに力を注ぐのは羽瀬川 千代とラセルタ=ブラドッツ。
 千代はヘイドリックと握手を交わし、陽動隊の更に前線へと向かっていった。
 セイリューやラキアと共にオートリ・デ・コイを使用し、また激しい音を立てて敵の気を引く。
 迫りくる敵達は際限なく思えるが、此方にもまだたくさんのウィンクルム達が残っている。
 ブレストガンナーであるラセルタと共に千代は前線に立った
「背中は任せるぞ、千代」
 こんな時でも上品で、しかしどこか不敵に思える笑みを見せるラセルタに、千代は真剣な表情で頷いた。
 ラセルタはファスト・ガンを使用し敵の不意を突く。
 お互いを守り合うように千代は剣を振るい、ラセルタは銃で敵達を華麗に射抜いていった。

 こうして、激しい戦いは各地で行われるものの、ウィンクルム達は逃げ遅れた妖精達を確保し、教会へ辿り着いた。

●マシュマロニア王国へ ~教会
 たくさんの住民が教会へと避難を完了する。
「みんな……無事でよかった……」
 ヘンドリックの瞳に涙が滲みそうになるが、彼はそれを堪える。戦いはまだまだ終わっていない。
 住民達も王子の帰還に、不安だった心が和らいでいるようだった。

 外では陽動班がまだ戦っていることもあり、早急に城を奪還できるよう、ウィンクルム達は体制を整える。
 直香やゼク、セラフィムやタイガ等いくらかのウィンクルムは、残っている住人がいないかの確認もかねて城下町へ残り戦闘を続けることに。
 そしてまだ余力を残しているウィンクルム達で城へと向かうことに決定する。
「あと、ちょっとですね……」
 ヘイドリックが窓から視線を城であるタワーへと向ける。
 記憶の中では明かりの灯るタワーは、今は真っ暗で。こんなにも印象は変わってしまうのか、と彼は憂う。
「王子」
 そんなヘイドリックにアキは声をかけた。
「城を取り戻す間、此処で民の心を支え命を守ってくれ」
 その言葉に、ヘイドリックは明らかな不快感を表す。
「僕を置いていくってこと……!?……嫌、です。ボクだって、母様を助けたい。兄様達がいなくても、できるってことを証明したいんです……!」
 拳を握りしめながら、ヘイドリックは下を向く。そんな彼にアキが厳しい言葉を投げかけようとする。
 が、そのやりとりを眺めていたのスウィンがそっとアキを制した。
 スウィンは力を温存しつつ、王子を表立ってではないがこの道中守り続けてきていた。
「王子。今までの敵との戦いを見てきたでしょう?ウィンクルムであっても、皆必死なの」
 そんなスウィンの言葉に、彼のパートナーであるイルドも言葉を続けた。
「王子を一刻も早く女王に会わせたい気持ちはある。だけど、正直そこまで楽観できる状況じゃない。王子を護ってやりたいが……万が一でも傷がつくようなことがあったら、俺達は女王に会わせる顔がなくなる」
 イルドの鋭い眼差しには強い意志が込められている。
「ね、王子。見て、ここにいる住人達の表情を。王子が帰ってきたことで、こんなに多くの民が安心するのよ」
「貴方にしかできないことだ」
 アキも、真剣な表情で頷けば。
「……わかった……皆の言う通り、です……」
 頭の良いヘイドリック。少し落ち着けば自分が足手纏いになることは容易に気づいたようだった。  
 こうして、護衛用にいくばくかのウィンクルムが教会に残り、他の者は城の奪還を目指すこととなった。
「吉報を待て」
 アキは少しだけ笑みを浮かべ、ヘイドリックに伝えれば。
「……待っています。皆さん、気を付けて……」  
 ヘイドリックが微笑みを返した。

●マシュマロニア王国へ ~タワー
 千代やラセルタが指揮を執り、激しい攻撃を続ければ城下町の敵はだいぶ減ってきていた。
 それを感じたウィンクルム達は皆ディスペンサを使用し、総力を上げて残る敵に攻撃を加えていく。
 戦い続ける仲間達の隙間を縫い、いくらかのウィンクルム達は城の奪還へと向かう。
 スウィンやイルド、アイオライトや白露のように力を温存していたウィンクルムもまだまだたくさんいたのだった。
 一行は戦闘地域を抜け、城へと近づいていく。徐々に戦闘は激しくなる……と予想されたが、むしろ城に近づくほど敵の姿は減っていった。
 そして、想像以上に呆気なくウィンクルム達は城の前まで辿り着いた。
「嫌な静けさだな」
 そう呟くのは高原 晃司。隣にいる彼のパートナーであるアイン=ストライフもその言葉に同意する。
 大柄で強面なアインは表情を変えず、仕事に取り掛かる時のような冷徹な面持ちだった。
「皆、行くわよ」
 スウィンの声に、ウィンクルム達が城内へと攻め入った。

 城内に入れば、まだまだ敵の姿は見受けられた。
 それらを撃破しつつ、安全確保や逃げ遅れた者達を護るウィンクルムと、制圧を目的としたウィンクルムとに分かれ行動することとなる。
 晃司やアイン、アイオライトや白露達は城内に残っている人の探索を続ける。そしてタワーの中の大広間にやってくると、そこは妙な静けさに包まれていた。
「パパ、ここには誰もいないのかな?」
 緊張した面持ちでアイオライトが周りを見回す。女王の安否が気になるアイオライトは人の気配がないことに表情を曇らせた。
 しかし、白露はほの暗い影がかかるカーテンにスリムな女性の陰があるのを見つける。
「大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
 女王か!?と思うも、まずは声をかけつつ、その女性の影に近寄っていく。
 しかし、その途中で白露は妙なことに気が付く。女性の後ろ姿……と思っていたが、それは違かった。
 影だと思っていたものは……そのまま此方に向かってきた。
 前身は真っ黒で、顔には目や口がない。
 見た目は人間の影のように見えるが、ソレは確かに目の前に存在していた。
「ワガナハ、ビィ……」
 発せられる言葉は冷たい。
「ワレハ、ソノクチビルヲ……ホッスル」
 そう言うと、その黒い影は普通の人間サイズから巨大なものへと引き延ばす。あたかも夕暮れ時の影のように。
 そして伸びた手を白露の後ろにいたアイオライトへと伸ばし、彼の身体に鞭のように巻きつける。
「いやぁっ!パパッ!」
「アイっ!」
 即座に白露が銃を影の身体に向けるも、アイオライトが掴まり顔と思える部分に寄せられているため射撃できずにいた。
「くっ……」
 晃司やアインも攻撃を加えようとするが、やはり仲間を盾にされたら……と攻撃の手が揺らぐ。
 そんな2人を見て、白露は
「すみませんが、まずは他の仲間を呼んできてくれませんか?」
 と頼めば、彼らは頷き戦線を離れていった。
 他のウィンクルムが近接攻撃を加えても、その影の空いた腕は盾状となり攻撃を防ぐ。
 そして次の瞬間にはトゲのように変化させ、かかってくるウィンクルム達に容赦なく攻撃を加えた。
 しかし、仲間の近接攻撃に敵は気を取られたようで、自分にまとわりつく腕の力がやや緩まる。
「……あたし、パパや皆にめーわくかけられないもんっ」
 その瞬間にアイオライトは己の銃を即座に取り出し、敵の顔の中心目掛けて弾を放った。
「グ……オロカモノタチヨ、オブシディアンニ、ハムカウノダナ……」 
 効果があったのか、敵の手はアイオライトを離す。そのまま地面に落ちそうになる彼を白露は懸命にキャッチした。
「アイ、すみません……」
「大丈夫よ、パパ」
 微かな笑みを白露に向け、そして体制を整えた2人は大きな影に向かって銃弾を発射させた。
 だが大きな影はまた瞬時に人間サイズの影へと戻ったために、胴体を狙った弾はそのまま後方へすり抜けて行ってしまう。
「なんだ、アレは……」
「アイちゃん、大丈夫っ!?」
 後方から仲間達が駆け付けた。
 しかし、皆その黒い影に呆気にとられる。アキは見たこともない敵に目を見開けば、スウィンは掴まってたというアイオライトに近寄り。その無事に胸を撫で下ろす。

 その場にいたウィンクルム達が攻撃をしかけては、自身の姿や形を変化させ攻撃を払い、また反撃する黒い影の姿に恐怖を感じる。
 自分をオブシディアンと称するその黒い影はまたもアイオライトを捕獲しようと両手を鞭のように伸ばす。
 が、アイオライトはすんでの所でその手を交わす。
「ワレハ……ホッスル……ソノ……クチビル……」
 その黒い身体をグニャーリと広げる。どうやら可愛い系男子がお好み?なのかその腕を伸ばし、神人精霊問わず可愛い雰囲気の残る美少年を捕まえようと腕を伸ばす。
(あたしは女の子だもん!)
 というアイオライトの心の声は置いておき。集まったウィンクルム達による攻撃で美少年の捕獲は阻まれていた。
「エエイ……メンドウダ……」
 オブシディアンは自身の身体を伸ばし、ウィンクルム達に覆いかぶさってくる。
「わけわからないこと言ってるんじゃねぇっ」
 ハイトランス・ジェミニを使い能力を上げたランスが詠唱を終わらせ、乙女の恋心Ⅱを発動させた。
 しかし、その瞬間敵の黒い影が鏡状に変わり……かと思うと更に乳白色へと変化する。
 確かに敵に届いた、と思ったその攻撃は敵の体に吸い込まれていく。そして敵の胸部と思われる場所が熱を持って膨らんでいった。
 そして。
「コザカシイ……!!」
 敵の腕から黒い光が発せられ。それはランスに向かって飛んでいった。
 即座にアキがランスに飛びかかり避けさせる……が、黒い光がかすったランスは身体の中心に熱を感じ、苦悶の表情で胸をかきむしった。
「ぐ……ぐあっっ」
「ランスっっ」
 愛しい者の苦しむ姿にアキはギリリ、と歯を食いしばる。
「だ、大丈夫だ……あいつ、多分……俺の技、使ってきた……」
 息も切れ切れにランスがアキに伝え。側にいたライフビショップがランスの怪我の治療に当たる。
 そして、他のシンクロサモナーが黒色に戻った敵の身体へコスモ・ノバを発動させた。
 その瞬間、黒い影は今度は鏡のような形状となりウィンクルムの姿を映し出す。
 コスモ・ノバのエネルギーが当たった……と思いきや、そのエネルギーは反射し、ウィンクルム達へと跳ね返すのだった。
「ぐあぁっ!」
 3メートル四方にいたウィンクルム達が、そのエネルギーのより吹っ飛ばされる。
「技が跳ね返される……ということなの……!?」
 スウィンも驚きの表情を隠せない。攻撃手段に悩み、ウィンクルム達は防戦一方となっていく。
 オブシディアンは攻撃の手が弱まることなく、また受けた技をウィンクルム達へと繰り出してきた。
 その場にいたライフビショップたちに守られ攻撃はいくらか防げてはいるものの、此方が先に消耗するのは目に見えている。
 どうすれば……と皆が表情を曇らせた時、アイオライトが声を上げた。
「あ、でも……物理攻撃なら、やれるかも……!?」
 防戦するために振るった攻撃は、ことごとく敵の形状変化による盾でふさがれ傷を付けることは少なかった。
 しかしアイオライトが至近距離から発した弾丸は確かに敵にダメージを与えたように思える。
「イルド」
「あぁ」
 スウィンがイルドに目配せし、2人はハイトランス・ジェミニを発動させた。
「攻撃する気か?でもスキルは反撃されちまうのかもしれないぜ……!?」
 晃司が不安げな表情を見せるも、スウィンは
「ありがと。でもあたしたち、コレがあるから」
 そうウインクしたスウィンの手には、白ウサギの懐中時計。 
 少しだけその時間を戻せるという懐中時計をイルドも握りしめ、2人は黒い影へと挑んでいった。
 スウィンの呪符による攻撃は敵の黒い腕に払いのけられる。
 しかしそのタイミングを狙ったイルドの攻撃は見事に敵へとヒットした。
「ナマイキナ……」
 またしても乙女の恋心Ⅱと同じ効果を持つような黒い光が飛んでくる。しかしその光を2人は華麗に避け。
「行くぜっ」
 ハイトランス・ジェミニに加えインプロ―ジョンで重さを加えたイルドのグラビティ・ブレイクが敵の身体を直撃した。
「ゴ、グアアア……っ!」
 黒い影が揺れ動き、暴れる。
「どうやら物理攻撃なら……行けそうだな」
「オ、オノレ……オノレエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」
 怒り狂ったオブシディアンは体長を最大限に変化させる。5メートル程はあるようなその胴体からは更に触手のような腕を何本も生えさせ、鞭のように所構わず打ち付けてくる。
 ウィンクルム達はその攻撃を避けるものの、敵の腕が柱に当たり、壁に当たり建物が音を立てて崩れ行くのを目にする。
「やめろっ」
 回復したランスと共にアキも攻撃を加え、晃司やアイン、アイオライトや白露も残った力を振り絞り。
 怒り狂った黒い影に傷を加えていく。
「皆、どけっ」
 そして、イルドがトルネードクラッシュを発動させる。胴体は勿論、数多い触手を巻き込み敵に大打撃を与えた。
「オマエラ……ゴトキニ……コノ、ワレガ……ガアアアアアアアアアアアア!!!」
 最後に雄叫びをあげると、その体が徐々に膨らんでいく。
「これ、やばそうだな……」
 ランスが息を飲むと。
「みんな、こっちへ!」
 その声に振り向けば、そこにいたのはラキア達だった。
 ラキアが皆に声をかけ、セイリューが誘導する。戦闘地帯で戦っていた仲間達が、いつの間にか塔へとやってきていたようだった。
 ラキアをはじめライフビショップ達がチャーチを使用し、ロイヤルナイト達はフォトンサークルを発動させる。
 トリックスターはパペットマペットを発動させるなど、各自が皆を護るため、また自衛の手段を取る。
「ゴアアアアアアアアアアア!!」
 どんどん膨らんでいくオブシディアン。そして皆が予想する通り、限界まで膨らんだかと思うと……その身体が破裂する。
 激しい破裂音と共に黒い影があたりへと飛び散っていった。その激しさは衝撃波となり建物を揺らす。
 更に。
「あ、危ないっ!」
 セイリューの言葉に皆が周りを見回した。激戦のため、敵の攻撃で被害を受けた柱や壁が今の爆発の衝撃に耐えられなかったようで。
 ガラガラと塔が崩れ始める。
 戦闘の終了に息をつく暇なく、ウィンクルム達は下の階へと避難していったのだった。

●秘密の抜け道
 話は少しだけ逆戻り。
 市街戦は激闘の末、ウィンクルム達により敵を一掃することができた。
「あとは、城だけだね……」
 直香やゼクを始め、ウィンクルム達が城内へと侵入していく。
 上の階から激しい戦闘音が聞こえ、一部のウィンクルムは上の階へと移動していった。
 そして残った者達は城内に残った敵を潰していく。
 ヘイドリックが伝えてくれた秘密の抜け道にウィンクルム達が来ると……大きな爆発音が響き、次の瞬間に建物が激しく揺れた。
「なんだ……!?」
 咄嗟にゼクが直香を庇う。幸い、衝撃だけ……かと思いきや。
 グ、グググゴアアアア!!!!
 と、半壊した壁を突き破り、残った敵達が現れた。
 もうほとんどの敵は倒され、自分達で最後だというのを理解しているのだろう。狂ったような叫び声を上げ、ウィンクルム達へ突撃してくるのは勿論、塔自体を壊すかのように攻撃を仕掛けてくる。
 そして、敵は秘密の抜け道も壊しにかかってきた。
「この通路が壊されたら、これまでの皆の努力が泡に……」
 セラフィムの呟きに反応するように、タイガはウルフファングを敵へと咄嗟に食らわせる。そしてゼクは詠唱準備に入り、直香はそれを護るように剣を携え、ゼクにディスペンサを施す。
 ハイトランスした千代とラセルタも互いの武器を携え、敵に攻撃を仕掛けていく。
 周りを破壊する行動を取っていた敵達に、ゼクの朝霧の戸惑いが発動する。あたりを霧が充満する。
 狼狽える敵達に向かって、タイガが激しく腕を振るう。
「止めだぁぁっ!!!」
「……消えろ」
 タイガの至近距離からの攻撃と、ラセルタの拳銃からの攻撃が同時に敵へと命中し……そのまま息絶えたのだった。
 その場にいた全ての敵を打ち取ることに成功した。
 攻撃を受け、かなり損傷はしたが秘密の抜け道の確保も出来た。
 直香は、真剣な表情は崩さないものの心中で安堵の息を吐いたのだった。
 秘密の抜け道の安全の確保をマシュマロパンチャーによって他の仲間へ伝えれば、それと同時に城内の敵を一掃したという返事を受け。
 残ったウィンクルム達は歓声を上げたのだった。
 
 こうして、激しい戦闘を迎えたヘイドリック隊は城の奪還を成功させた。
 塔は半壊してしまったが、オブシディアン戦を戦い抜いた仲間達の無事も確認が取れた。
 森を始め、城下町、城内、と見事に取り返してくれた皆にヘイドリックは笑みを向け、命がけで戦ってくれたウィンクルム達に礼を伝える。
 安堵の息をつくウィンクルム達。
 しかし、あの初めて会った敵、オブシディアンと対峙した者達は厳しい表情を崩せずにいたのだった。


シナリオ:上澤そらGM


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