リザルトノベル

●静まりかえった草原
「いないな……」
「誰もいないね」
 不気味に沈黙した夜の草原を、一同は灯りを消して注意深く行軍していた。
 クッキーも降ってこないし、オーガも見当たらない。拍子抜けするくらい簡単に、一同は城壁へとたどり着いた。
 道中があまりに順調だったので、ブルーノ・ブラッドとマナ・ロウガはその辺に自生する草になっているクッキーが食べられるか味見をした。食べられるとわかると、ペシェもつまみ食いして、フランペティルに「肥えるぞ!程々にしとけ」と突っ込まれていた。

●忍び歩く斥候
 城壁の中は灯りはあるものの、迷路のように入り組んでいる。
 ガートルード・フレイムとレオン・フラガラッハが、事前に予想される敵待ち伏せ地帯を記載した地図を全員に配ってはいたが、実際行ってみなければ確かなことはわからない。
 アイリス・ケリーとラルク・ラエビガータ、リチェルカーレとシリウスが斥候として潜入することになった。
 ラルク・ラエビガータは斥候役全員へ偽装を行い、アイリス・ケリーは黄羽レンジャー2人に同行を頼む。上空の敵への警戒のためだ。リチェルカーレとシリウスはさらに黒っぽい服を着て目立たないようにしている。

 4人は足音を殺し、城壁内を陰から陰へ、素早く、静かに進む。曲がり角でラルク・ラエビガータはぴたりと止まった。
「オーガの群れだ」
 いくつかの小路が集まる大通りにオーガの大群が待ち構えている。注意深い動きと服装、黄羽レンジャーのお陰で見つからずにすんだ。

 斥候は先発隊の元に帰ってくると、オーガの位置を伝え、後発隊と合流した。
「やっぱりな。主要な大通りを封鎖していると思ったぜ」ジャック王子が頷く。「大丈夫だぜ。使用人や王族しか知らないような抜け道があるんだ」
「じゃ、先発隊がオーガと交戦を始めたら、敵が気を取られている隙に、そっと迂回して抜け道に入りましょうか」出石 香奈が囁く。彼女とレムレース・エーヴィヒカイトは、ジャック王子の側を片時も離れず護衛に徹していた。

●切り結ぶ先発隊
 先発隊は大通りに乗り込んでいった。喚声を上げてオーガが突進してくる。
 真っ先に剣を振り上げたのはジャスティ=カレック、ウルフファングが牙をむく。その勢いにひるんだ敵にリーリア=エスペリットがさらに追撃を仕掛ける。
 翡翠・フェイツィは完全に無言のまま斧を振り回す。かえって声を上げるより、無言のままの方が相手に威圧を与えるものだ。その斧はサフラン=アンファングのスペードリングで強化され、敵を容赦なくなぎ倒す。七草・シエテ・イルゴもマリーゴールド=エンデと背中を合わせるようにして武器を構え、敵の不意打ち防止に余念がない。
 アモン・イシュタールのトルネードクラッシュⅡが敵をなぎ払えば、リオ・クラインが隙なくあたりを見回して敵の動きを予想し、緑羽レンジャーで情報を皆に伝えていた。先発隊の見事な連係プレーだった。

●挟み撃ち
 その頃、後発隊の後方では、ニーナ・ルアルディが油断なく後方を警戒していた。街灯の下に揺らぐ影を特に注目していた彼女は、ある曲がり角に来ると、なにか違和感を覚えた。
(……動いた?)
 物陰になっている路地に数歩近寄る。
「ニーナ!」
 グレン・カーヴェルが突き飛ばす。ほぼ同時に、路地に身を潜めていたオーガたちがグレン・カーヴェルに襲いかかった。

 オーガは斥候が通り過ぎた後、この路地にやってきたのだ。
 挟み撃ちを考えていたのはウィンクルムもオーガも同じだった。
 幸いだったのは、先発隊と後発隊の分離前にオーガが攻撃してきたことだった。
 後発隊が抜け道へ去った後だったら、先発隊のみが挟み撃ちに遭い、壊滅していたかもしれない。

 グレン・カーヴェルがただ一人で敵を押さえていると、後方を護っていたレオン・フラガラッハとガートルード・フレイム、油屋。とサマエル、イヴェリア・ルーツと淡島 咲が駆けつけてきた。
 「王子や他のウィンクルムに危険が及ぶ行動は止めさせてもらう」イヴェリア・ルーツがそう言うと、構えた銃口が火を噴いた。オーガが怒号を上げて倒れる。
 妖精レンジャーたちと頻繁に連絡を取り合っていた篠宮潤は、ヒュリアスにいち早く挟撃の状況を伝え、ヒュリアスは即座に後方に駆けつけた。その場にいた神人たちに「一度下がりたまえ」と促し、レオン・フラガラッハと攻防連携して戦う。
 サマエルが装甲の固いオーガを正面からぶった斬れば、油屋。の適切な指示を受けて直ちに後ろに退く。
 出石 香奈とレムレース・エーヴィヒカイトはそんなときも、決して王子の側を離れなかった。
 幸いにも、背後から奇襲してきたオーガは小部隊であった。油断なく警戒していた後発隊の活躍でたちまちのうちに壊滅し、後発隊は当初の予定通り、抜け道へと進入した。

●苦しい戦い
 先発隊とオーガの大軍は大通りで激戦を繰り広げていた。ウィンクルムは獅子奮迅の勢いで攻め立てていたが、何しろオーガの数が多かった。
 最前線でアプローチⅡを用いて積極的に敵の攻撃を引き受け、一糸乱れぬ見事な戦いを続けていたヴェルナーにも疲れが見えていた。そんなときにアマリリスがディスペンサでMPの回復を行う。ヴェルナーは彼女がいるから戦えるのだ。
 ヴェルナーの隣で斧を振り回すウォルフもそれは同じこと。ウォルフが遠慮なく戦えるのは、楓乃が後方にいるから。彼女らはディスペンサをするだけではない、彼らの心も支えているのだ。
 桜倉 歌菜と月成 羽純は後方で忙しく働いていた。自分たちの役割の重要さをよく理解している二人は、消耗の激しいシンクロサモナーを中心に、怪我人の回復に努めていた。MP切れは魔力のオーブで回復する。
 月成 羽純に回復してもらったラダ・ブッチャーは、戦線に復帰するとヤックドーラを狙い澄まし、口を開けたタイミングでキラーシザーズで舌を切断した。エリー・アッシェンは後方で観察していたが、ヤグナムに気がつき、「耳を塞いで!」と叫んだ。ひろのも同じく叫んで耳を塞いだが、異変に気がついて手を下げた。
 オーガに動揺が走り、ばらばらと戦列を離れ出している。先発隊がそれに気がつくとほぼ当時に、緑羽レンジャーが「後発隊が天守閣に突入しました!」とのニュースをもって飛び込んできた。
 先発隊は大いに沸き立った。

 オーガの群れのリーダーは焦っていた。大通りを塞いでおけば大丈夫だと思っていたのに、まさか抜け道があるとは……早く戻って天守閣を護らねば。オーガのリーダーは鋭く吠えると、前線を部下に任せ立ち去ろうとした。
「どこに行く気だ?」
 不意に、冷ややかな男の声が背後から聞こえた。ルシエロ=ザガンがリーダーの背後に回り込んでいた。オーガの足首に容赦のない一撃を食らわすと、大きく退いた。
「フランペティル!」
 ルシエロ=ザガンが叫ぶと、
「ふははははは! 部下を置いて逃げようとはなんたる卑怯者! 我が輩のカナリヤの囀り、とくと味わうがいい!!」
 高笑いとともにフランペティルがとっておきの魔法を発動した。炸裂した魔法はリーダーの周りのオーガもろとも巻き込んで、夜の町に派手な光を放った。
「さぁ、我が輩あとは人の陰に隠れつつ魔法弾を撃つぞ」
「もう大丈夫だと思いますよ」
 ペシェが笑う。オーガ達が完全に戦意をなくし、敗走しているのを見て。

 先発隊が道を行くと、赤い布が路地のあちこちに巻かれているのに気がついた。先発隊が道に迷わないよう、油屋。とサマエルが巻いておいてくれたのだ。この布のお陰で、先発隊は迷うことなく天守閣へとたどり着くことができた。

●天守閣の戦い
 後発隊は天守閣へと突入した。不意を突かれたオーガの防衛隊は動揺したものの、決死の攻撃を仕掛けてきた。
 スノー・ラビットは素早く立ち回り、オーガの攻撃をエトワールの流れる動きで回避する。夢路 希望はトランス後にいったん下がって、王子の傍で魔守のオーブを使用し、王子や神人達を護っていた。
 ロジェとリヴィエラはハイトランスをして、スノー・ラビットが引きつけた敵を、ラピッドファイアで命中率を高めた弾やワイルドショットで狙撃していく。リヴィエラはジェンマを構えて、パートナーが死角から攻撃されないようサポートしていた。紫雲 かなめとブラック・ウィンターも戦った。
 だが、天守閣の戦いで最も活躍したのは日向 悠夜と降矢 弓弦であろう。日向 悠夜の剣が敵の風耐性を低下させ、降矢 弓弦が風耐性の低下した敵から優先的に弓で狙い撃つ。神人と精霊の見事な連係プレーの前に、オーガ達は次第に勢いをなくしていく。
「あれが多分リーダーだ!」
 ラルク・ラエビガータが叫ぶ。リーダーの前に立ちふさがると、攻撃を受ける寸前に忍法霞で姿を消す。降矢 弓弦がすかさず、リーダーの頭を弓で狙撃し、同時にサマエルが一撃を叩きこんだ。オーガは怒号を上げて倒れた。
 リーダーを失った敵は総崩れになり敗走した。
 天守閣は解放された。日向 悠夜と降矢 弓弦は記憶スキルを使って事前に城の地図を頭にたたき込んでいたので、女王の隠れ場所が地下であろうとすぐに予想をつけることができた。ロジェとリヴィエラが鍵を開けると、女王は隠れ場所から出てきてウィンクルムを出向かえた。
「ジャック! 遅かったじゃない、待ちくたびれたわよ!」
 女王は活動的な容姿の細身の女性で、嬉しそうにジャック王子の肩をばんばん叩いた。
「ウィンクルムの皆さんには本当に感謝しなきゃね! でも祝勝会はボッカを倒して、バレンタイン城のオーガを一掃してからだね! 皆、もうひとがんばりだよ!」
 女王はぽんぽんと手を叩きながら、小気味よくウィンクルムに告げたのであった。


シナリオ:蒼鷹GM


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