リザルトノベル

●牙をむく罠
 進軍開始前、ハロルドが王子に森の進み方を聞くと、王子はうーんと悩んで、
「……マシュマロの森には慣れる、しかないと思いますが……あ! そうだ、地元の人が使う通り道があります。そこなら道が踏み固められているので、歩きやすいです」
「では、その道は避けた方がいいと思います」
 八神 伊万里の言葉に、一同が彼女を向く。
「進みやすいということは、奇襲されやすいということですし、罠も多いと思います」
 ディエゴ・ルナ・クィンテロが、「成る程……しかし、あえて地元の人も歩かないような、困難な道を行くというのもな……」
 手屋 笹が、「その道にオ・トーリ・デコイを放って様子を見てみましょう」と提案した。

 一同、その道に来ると、オ・トーリ・デコイを放った。それはよちよちとしばらく進んだが、突然、巨大な落とし穴がぽっかりと空き、その中に飲み込まれた。3メートルはありそうな深さの奥底には、数百の鋼鉄の槍が、マグナライトの光を反射してギラギラと光っている。
 少しして、オーガ達が森からわらわらと出てきて、落とし穴をのぞきこみ、何もかかっていない様子に「?」と首を傾げた。
 アスカ・ベルウィレッジのトルネードクラッシュⅡが炸裂した。カガヤ・アクショアのヘルダイバーが空中でうなりをあげ、二人の攻撃に怯んだ敵にアルヴィン・ブラッドローがすかさずとどめを刺す。
 オーガ達が苦労して掘った穴は、自らの墓穴となった。
「伊万里さんの機転がなかったら、森で作戦が終わってたかもしれないわね……」
 ミオン・キャロルがぞっとした様子で穴をのぞきこんだ。

●マシュマロの森の死闘
 慣れないマシュマロの森で、一行は苦戦を強いられた。柔らかく、足にべたべたくっついてくる上に、視界は暗い。オーガ達も決して弱くはなかった。カガヤ・アクショアがグラビティブレイクを発動させる程の敵もあった。アスカ・ベルウィレッジは彼と連携して強敵を仕留めていく。手屋 笹と八神 伊万里はいつでもディスペンサできるように身構えている。劉 碧華と范 銀龍も戦っていた。
 テレーズと山吹はマシュマロのふわふわを結構楽しんでいる様子だったが、マグナライトで空中を確認して警告の声を発した。
「ヤグアートです!」
 この状況で、最も恐るべき敵かもしれない。聴覚が鋭く闇の中でも行動しやすい上に、ムササビのように低空を無音で滑空できるからだ。ハロルドがテレーズに倣い、敵を照らし出す。頭上に10匹以上いる。
 バンッ!
 いち早く動き、銃でヤグアートを狙撃したのはCurtだった。彼は進撃隊サポーターだったものの、先行隊が飛行系の敵に苦戦していた場合はMPを温存しつつも援護しようと心に決めていたのである。隊の役割に拘泥しない柔軟な戦い方だった。Elly Schwarzもマグナライトで照らして彼を援護する。ディエゴ・ルナ・クィンテロ、クロスやオルクスもCurtに続く。
「助かるぜ!」
 傷ついた翼では、無音で滑空できない。アルヴィン・ブラッドローが風切り音を頼りに、降りたヤグアートを斬り伏せた。彼の死角を護るようにミオン・キャロルが続く。

●城下町にて
 激戦の末、森を通過した一同は、城下町に突入した。ここにいるオーガ達も強力だった。逃げ惑う住民、その民を護るようにオーガの前に立ちふさがったのは、リゼットとアンリ。
「俺たちに任せて先に行け!」アンリが叫ぶ。「……いっぺん言ってみたかったんだ」
「しかし、民が、皆が」動揺したようにヘイドリックが言うと、
「心配いらねぇよ、すぐ片付けるさ」とアンリ。
「同感ですね。さあ、どなたがコスモノバの餌食になりますか」笑顔で言い放ったのはアルベルト、月野 輝は彼の後ろを通り抜けて、町の人々の避難誘導に当たっている。
「しかし」とヘイドリックが言うと、
「私たちを信じて下さい。さあ、母上が待っていますよ!」アルベルトが剣を抜きはなった。
 ヘイドリックはミサ・フルールに促され、進撃隊と先を急ぐ。
 やがて、アンリとアルベルトの情け容赦ない技が、夜の城下町に派手に咲き誇った。
 二人は激しい戦いを繰り広げた。その後方に護るべき大切な人を意識し続けながら。

●マシュマロタワーの怪物
 激闘の末、一同がやってきた塔は、不気味なほどに沈黙していた。オーガも、逃げ遅れた人も見当たらない。
「母上……ご無事でしょうか」ヘイドリックが呟くと、
「王子、何か俺達に協力できることはあるかな?」エミリオ・シュトルツが優しく聞いた。お兄さんのような優しい言葉に、ずっと緊張と不安の中にいたヘイドリックの目が潤んだ。
「……大丈夫、です。ボクが弱いだけだから」
「王子は弱くないよ。弱かったら、オーガだらけのこんな所にいることなんてできないよ。王子はとても強い人だ」
「……ボクが、強い……」
 王子は目を見開いてエミリオ・シュトルツを見た。

「待って。……何か、いる」
 かのんが足を止める。天藍が素早く皆に注意喚起した。

 それは、影だった。マグナライトの影が、あらゆる角度に変な風に動いている。
 やがて影はゆっくりと形を整え、スリムな女性の姿でこの世界に出現した。真っ黒で、目も口もない怪物。
「ワタシハデミ・オブシディアン……ナマエハ、ディ。ハジメマシテ、ドウゾヨロシク……」
「……どうも」
 頭を下げて丁寧に挨拶され、一同、思わず挨拶を返す。
「トコロデミナサマ……ボッカサマハ、オスキデスカ?」
「……」
 一同、返答に困る。ディ、はにかむように、
「ワタシハダイスキデス……デスカラ、邪魔者ハ排除シマス。ソコノ若イ女ドモ、死ネ」
 言うなり、ディの手足が鋭い棘に代わり、矢のように襲いかかってくる。
「やっぱり戦闘かっ!」
 天藍、かのんを抱えて逃げる。ハロルドも素早くヘイドリックを庇い、物陰へ誘導する。クロスが王子の側で魔守のオーブを発動した。オルクスが銃を構える。
 ミサ・フルールとエミリオ・シュトルツは未知の敵との戦い用にハイトランスを温存していた。アナリーゼ、そしてオスティナート。本体が、分身がディに襲いかかる。
 しかし。
 ディの手足が今度は盾となり、二人の攻撃をしのぐ。オルクスの銃撃も盾で防がれた。盾の向こう、ディの身体の表面が鏡状に変化している。攻撃を受ける度に乳白色に変化しているようだ。
「エネルギーを吸収してる……?」ロア・ディヒラーが呟く。
「ならば、吸収できない程のエネルギーをぶつければいい!」
 クレドリックが詠唱していた魔法を発動する。
 炸裂するはずだった乙女の恋心Ⅱは、ディの鏡が光り輝くと、なんとはじき返された!
「うぁあ?!」
「きゃー!!」
 乱反射したため直撃した者はいなかったが、すさまじい熱に壁が砕け、天井ががれきとなって砕け落ちる。魔守のオーブでも守り切れず、ウィンクルム全員が多少なりともやけどを負った。
「なんて奴……!」
 クレドリックがロア・ディヒラーを庇いながら、がれきから這い出す。そこにディの棘が襲いかかる。
 避けがたい一撃に思われたが、天藍がギリギリで、双剣でディの棘を叩いて方向をそらした。
「皆、いったん下がれ!」
 Curtが叫ぶ。がれきを盾にオルクスやディエゴ・ルナ・クィンテロ、Curtが遠距離から攻撃し、すぐ隠れて相手からの反撃をやり過ごす。マシュマロタワーはたちまち銃撃の穴だらけになった。
 ディが呟く。「乙女ノ恋心……ワタシニ、ピッタリ」
 どす黒いエナジーがディの胸元から放たれた。すさまじい熱が、塔を、がれきを、ウィンクルム達を灼く。塔は音を立てて崩れ、やけどを負ったウィンクルムの叫び声が上がる。
「魔法をコピーしてる……」かのんが呟いた。
 自分たちの魔法をコピーしてくる怪物。全員が戦慄した。

●力を合わせて
 だが、ウィンクルムは誰も戦いを諦めてはいなかった。 かつてない強敵だったが、皆の力を合わせれば、必ず勝てる、そう信じていた。
 そこに、戦いを終えた先行隊のメンバーが駆けつけてきた。
 プレストガンナー達がディの注意を引く間に、残る全員が相談した。全員の力を合わせるときが来たのだ。
 
 プレストガンナー達が銃撃をやめた。かわりに天藍、ミサ・フルール、エミリオ・シュトルツが飛び出していく。
 ディの棘が襲いかかった。さらには、どす黒いエナジーを四方八方に分散照射する。いかにテンペストダンサーといえど、全てを避けることはできず、三人の悲鳴が響いた。
 しかし、それは、他のメンバーがディの背後に回り込むまでの時間稼ぎだ。
「うぉぉ!!」
 アルヴィン・ブラッドロー、カガヤ・アクショア、アルベルト、アスカ・ベルウィレッジ、アンリが、タイミングを合わせ、その全ての力をディの鏡部分のただ一点に集中してたたき込んだ。鏡は一瞬、乳白色に転じたが、あまりのエネルギーに耐えきれず激しく砕け散る。
 そこにクレドリックの二度目の乙女の恋心Ⅱが決まった。怪物は激しく絶叫し、真っ黒な身体をわななかせながら縮んでいく。
「アア……セメテ……ボッカサマニチョコレートヲ……」
 それが、ディのいまわの際の台詞となった。

 激しい戦いで、塔はひどく損傷し、かなり崩れてしまった。ハロルドは辛うじて王子に怪我を負わせずに護り抜いたが、進撃隊メンバーにかなりの負傷者が出ていた。山吹が忙しく回復に立ち回る。テレーズのディスペンサが大いに役に立った。

 かのんに支えられるようにして、マシュマロニアの女王が塔の奥から出てきた。薄紫の髪、スタイルのよい容姿、整った顔は紙のように真っ青だ。女王はヘイドリックを一目見ると、抱きしめて泣き崩れた。
「ヘイドリックちゃん……本当にヘイドリックちゃんなの……? もう二度と会えないかと思いましたわ」
「母上、よくぞご無事で……」
 女王はふらふらと立ち上がると、それでもはっきりとした口調で、
「ウィンクルムの皆さん、マシュマロニアを救って頂きありがとうございました。でも、まだ戦いは残っていますわ……この子の父親も心配ですが、どうか、どうかこの子を護り、バレンタイン地方に平和をもたらして下さい」


シナリオ:蒼鷹GM


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