リザルトノベル

●隠密潜入部隊 執筆:雪花菜 凛 マスター

 鉛のような暗い雲が、夕日を隠している。
 隠密潜入部隊は、密やかに女神の湯を目指し進行していた。
 正面攻撃部隊が敵を引き付けているお陰で、一行はトラブルもなく女神の湯へと辿り着く。
 女神の湯は、10m四方のそれほど大きくない湯船の露天風呂だ。
 一枚岩が侵食で凹んで出来た天然のもので、女神スワロが実際に入ったという伝説がある。
 テルラ温泉郷で最も古い温泉であり、病気払いの湯としても有名なこの温泉が、ルミノックスへ辿り着くための唯一の道だった。
 
『女神の湯から決められた日時に湯に映る月――テネブラへ、想い人と手を取り合って飛び込むと、ルミノックスへと辿り着く』
 確認するように、アイオライト・セプテンバーと白露、数人のウィンクルム達が、伝説の一節を呟く。
「想い人とじゃないと行けなかったりすんの?」
 ルイード・エスピナルが、女神の湯を覗き込みながらそう首を傾けた。
「別にお前とだったら、心配なんてねーけど」
 顔を上げると、隣に居るパートナー、ドルチェ・ヴィータを見遣る。ドルチェは微笑んだ。
「ほら、手貸せ」
 ルイードが手を差し出し、ドルチェがその手を取る。
「パパー、あたしと手を繋ごうよ。ぎゅっとして」
 アイオライトもぎゅっと白露の手を握る。
「これでもう迷わない、ね?」
 それに呼応するように、ウィンクルム達はそれぞれパートナーの手を取った。
 分厚い雲の隙間から、一瞬月が湯に映る。
「今だ!」
 ウィンクルム達は湯船へと踏み出した。

『開き隠せ ロザ・ルナ・テネブラ』

 呪文と共に湯船へ飛び込むと、ウィンクルム達の身体は温かな光に包まれた。
 

 月の道、と呼ばれるそこは、不思議な光に満ちていた。
 月明かりのように、仄かに輝く一本道を、パートナーと手を取り合い歩いて行く。
 暫く歩くと、やがて、ぽっかりと穴の開いたような出口が見えて来た。
「酷いな……」
 森だったそこは、瘴気を受けた木々の葉が落ちたせいで、薄ら寒く不気味な雰囲気を纏っている。
 その中に、暗い口を開けて、ルミノックスの入り口があった。
「行こう」
 皆で顔を見合わせ頷くと、慎重にルミノックスの中へと足を踏み入れる。
 中は薄暗く、通路は狭かった。
 目を凝らして観察すると、小さな小部屋が無数にある事が分かる。
 そこで、封印の間を探す班と、ボッカの居場所を突き止める班と、部隊は2つに別れる事となった。


「死角や物影に隠れながら移動して封印の間を探そう」
 ルイードの言葉に、アイオライト達『封印の間を探す』班の面々は頷く。
 通路の死角なる場所を探し、敵の気配が無いか探りながら、ドルチェが注意深く先頭を進む。
「ここか……?」
 一際大きな扉の隙間から中を覗き込むと、何かを守るようにウロウロと歩いているオーガが居た。
 一同は顔を見合わせて頷く。
 不意を突いて、一気に静かに倒す。
 スウィンとイルドが剣を抜き、前へ出た。
 扉を静かに開くと、一気にオーガへ駆け出す。
 オーガが振り向くより早く、跳躍したイルドの剣がその首を一閃した。
 倒れ伏すオーガが息絶えた事を確認し、イルドと拳を合わせる。
「これが『封印の水晶』?」
 部屋の中央で、台座に輝く結晶を見つめ、一同は確信した。
 破壊すべく、白露が銃で狙いを定め弾丸を撃ち込む。
 両脇から弾丸が水晶に命中し、砕けた。
 その瞬間。

 !!

 凄まじい光の渦が一行を襲った。
 水晶の中にあった魔法エネルギーが暴走したのだ。
 稲妻のような光が龍のように部屋の中を暴れ回り、ウィンクルム達は為す術もなく吹き飛ばされる。
「ア……がッ……!」
 嵐が去った後、壁や床に叩き付けられたウィンクルム達は、まともな言葉すら発せずに痛みに耐えた。
「立てる奴……いるか?」
 声を振り絞り、ルイードが辺りを見渡す。ドルチェが庇ってくれたお陰で、辛うじて声は出せた。
「……何とか……ね」
 よろよろとスウィンが身を起こす。
 傍らで自分を守ってくれたイルドの頬をそっと撫でた。
 向こうでは、白露がしっかりとアイオライトを抱えた状態で倒れている。
「味方に知らせてくれ。扉はもう開く、と!」
 ルイードの言葉に頷くと、スウィンは痛む身体を叱咤し、走り出す。


 その頃、『ボッカの居場所を突き止める』班は、慎重にルミノックスの奥を目指していた。
『背景に紛れて、足元、気付けて』
 目と手を使い自分へ指示してくれる火山 タイガに、セラフィム・ロイスはしっかりと頷いて指示に従う。
 静養するなら、『奥』か『静かな所』。
 そうセラフィムは見当を付けていた。
 タイガが敵の気配を警戒し、先導しながら、一行は奥へ奥へと進んでいく。
 奥へ進む度、空気が重く、瘴気が強くなっていくのを感じた。
 間違いなく、この奥に居る。
 確信を深め、やがて最深部へ辿り着いた一行は、新月の湯で寛ぐボッカの姿を発見したのだった。


 いつの間にか雨は止み、薄い雲の後ろにぼんやりと月明かりが映っている。
 攻撃部隊は、イルドからの『ルミノックスへの扉が開かれた』との連絡を受け、一路ルミノックスへ向かった。
 女神の湯から月の道を通って、ルミノックスへ到着した一行は、満身創痍の潜入部隊に合流する。
 更に、ボッカを探していた部隊と合流を果たすと、その道案内で、ボッカのいる新月の湯へ足を踏み入れたのだった。


 そこは、大きな鍾乳洞の部屋だった。
 中央が大きな湯船になっており、月のように輝く美しい湯が満たされている。
 湯気に煌めく銀髪。額にある3本の角。
 悠々と湯に浸かった格好で、イヌティリ・ボッカは侵入者達を不思議そうに見た。
「なんだ!てめーら! 俺のファンか?! ……ん? なんだ、ウィンクルムかァ」
 一行の顔を見渡し口の端を上げると、ボッカはゆっくりと立ち上がる。
 隙だらけな動きの筈なのに、誰一人として動けない。
 迂闊に動けば、一瞬で終わってしまう。
 ウィンクルム達は、皆、そう悟っていた。
 ボッカは、包囲するウィンクルム達をニヤニヤしながら見回した後、鼻で笑う。
「へっ……これっぽっちか。 ま、しゃねぇ……遊んでやるよ」
 そう言うなり、彼は人差し指を出すと、ほんの少し動かしてみせた。
「!!?」
 それを同時に眩い閃光が走り、足元の温泉が一瞬で蒸発していた。
 岩肌は飴のように溶けている。
「特別さぁびすだ! 感謝しろよォ?」
 哄笑と共に、ボッカの身体が2つに別れた。
 そして、二人となったボッカは、それぞれ2つの部隊へ戦いを挑んで来たのである。

 その力は圧倒的だった。
「甘い、甘い! はーっはっはっはっはははははァ!!」
 放たれた銃弾は、ボッカの指先の動き一つで到達する前に粉砕された。
「はっはっはっ! どーした、どーしたァ!?」
 斬り付ける剣も、ボッカが指先をすっと動かしただけで生じた風に、簡単に吹き飛ばされる。
「ヌルい。ヌルぅーいッ!」
 魔法のエネルギー弾さえ、ボッカは掌で受け止め、握り潰した。
「なんだ、なんだァ? こんなモンか~? つまんねーなァ」
 完全に遊んでいる。
 ボッカは酷薄な笑みで、ウィンクルム達を眺めていた。
「準備運動にもなりゃしねェ。もう、終わっとくかァ?」
 ボッカが人差し指を立てる。
 あのとんでもないエネルギーの一撃が、来る。
 ウィンクルム達が身構えた時。

『コケッコッコー!』

 場違いなまでに明るい、鳥の鳴き声がした。
 それは朝を告げる鳥の鳴き声。
 人間であれば、とても身近な……あの、鶏の声。

「うわぁあああああああああ!?」
 次の瞬間、ボッカの顔が恐怖に歪み、その場にしゃがみ込んで頭を抱えた。
「……え?」
 思わず停止するウィンクルム達。

『コケコケコッコー!』

 更に元気よく鶏が鳴く。
「やめ……やめろォ、やめろォーッ!!」
 ぶんぶんと首を振り、ボッカが嫌がる。まるで子供のようだ。
 セラフィムとイルドが、テープレコーダーで鶏の声を流していたのだが、それに気付く余裕もない。
 今が好機!
 最後の力を振り絞り、ウィンクルム達はボッカに攻撃を仕掛けた。
「おま、お前らァ! 卑怯だぞ~ッ!」
『コッコー!』
 ボッカは一歩も動けずに、次々と繰り出される攻撃を受けるのみ。
 雨あられのように、魔法と銃弾、斬撃がボッカへ降り注いだ。


「く、クソがァ……!」
 満身創痍となったボッカが、よろよろと立ち上がる。
「お前ら……ぜってェ、許さねェ……! 覚えてろ!!」
 歯軋りをするその身体を薄紫の霧が覆っていく。
「逃すか!!」
 振り翳された剣は空を斬った。
 ボッカの姿は、霞のように消えていたのだった。

「……勝った、のか?」
 誰かがぽつりと呟く。
「勝ったんだ」
 誰かが力強く言い、ウィンクルム達は一斉に勝利の声を上げた。

 そしてその後、支援部隊の活躍により、ルミノックスはかつての姿を取り戻し、それにより何千の命が救われた。
 長い長い夜が明け、朝がやって来る。
 眩しいばかりの明るい太陽が、雲と空を赤く輝かせていた。

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