ゆきの IL
8月エピソードイベント
『城塞都市とウィンクルムの謎』

プロローグ『城塞都市とウィンクルムの謎』

◆首都タブロス市街にて
「旧タブロス市街でのあの惨状はなんなんだ!」
「私達の家を返して!」
「この首都タブロスは、オーガに侵攻されないんだろうな!?」
 A.R.O.A.の本部の前には人々が集まり、口々にA.R.O.A.への不信感を隠さず曝け出し続けている。
 旧タブロス市街で行われた大規模演習の最中に、オーガの侵攻を受けたこと、そしてその被害状況に、
 不安を隠せずに暴動が起こってしまっているのだ。
『落ち着いてください、現在復興が続いている状況です。
 倒壊した建築物についても、今後の復興対象となっています』
 A.R.O.A.職員が、建物内から巨大モニターを通して謝罪をするが、人々に効果は見られない。
 それどころか、有耶無耶な回答が余計に、不信感を煽ってしまっているようだ。
「いつになると思ってるんだ!」
「その間にまた侵攻を受けたりしないだろうな!?」
「出て来い! ぶん殴ってやる!」
 暴動は止まることを見せずにA.R.O.A.職員への暴言が投げつけられ続ける。
 職員が困惑し、続く言葉に困っていると、A.R.O.A.職員を押しのけて、一人の男性がマイクを取った。
『A.R.O.A.代表のレイジです。皆さん、静粛にして下さい』
 モニターに映ったのは、現A.R.O.A.代表のレイジ。
 人々は現れた責任者に一瞬虚を突かれながらも、すぐに不満を爆発させようと口を開く。
 しかし、レイジはそれを予見していたかのように、言葉をはさむ。
『――静粛に』
 その一言で人々は静寂に包まれ、続くレイジの言葉を待つ。
『今回の全責任は私にある。演習の企画、そして運用も私が指示を出した。
 その点において、言い逃れも言い訳もするつもりはない。本当に申し訳ない』
『しかし、今回の一件でこのタブロスも危険だということを実感出来た。
 こう言っては不謹慎だが、精霊一名が連れ去れたのみで住民への被害はなく、
 旧タブロス市街自体も復興が困難なほどの被害は受けていない』
『私達は、オーガ達の脅威を再度認識することが出来たのだ。
 そして、もっと言えば強大な存在だと考えられていたデミ・ギルティ、高スケールオーガも、
 完成、実戦導入には至っていないシンパシー・リバレイトですら、問題なく倒せることがわかった』
 人々は、レイジの言葉に一言も口をはさむことなく耳を傾ける。
『つまり、対策さえ行えばオーガは恐れるに足りない存在だと言う事だ。
 しかも、だ。私達A.R.O.A.は今回の戦いでオーガ達の情報を新たに得ることが出来た』
『精霊1名が連れ去らされたとは言え、死んだわけではない。連れ戻せばいいだけだ。
 何より皆の命は、ウィンクルム達によって護られた。一人の犠牲者もなく、だ。
 これは素晴らしいことだ。相手に損害を与え、こちらは利益を多く積んでいる。
 つまり今回の戦いは失敗などでは断じてない。これは、勝利だ』
 勝利、という言葉の響きに、一部の人々が口々に「勝利……」と呟く。
 レイジはその呟きに同調するように、もう一度繰り返す。
『そうだ、勝利だ。私達は今回、オーガに勝利したのだ!』
 そしてその一言が発せられた瞬間、人々は勝利に湧いた。
 その盛り上がりを見逃さず、レイジは続けて言葉を紡ぐ。
『皆の住居等の復興は、A.R.O.A.が主導して行う。何も心配する必要はない。
 この度の勝利を、大いに喜ぼうではないか!』
 そのレイジの言葉によって、人々は爆発するように湧き、勝利を喜び合いはじめた。
 不安はまだ残っている筈にも関わらず、狂気的なまでに喜び合う。
 レイジはそれを一瞥した後、モニターを切り、マイクを職員に返した。
「これで一日程度は時間が稼げるだろう。引き続き、復興についての情報をまとめておけ」
「は、はっ!」
レイジに指示され、A.R.O.A.職員は慌ただしく旧タブロス市街へと向かう。
「レイジ様、こちらを」
 職員が慌ただしく立ち去ってほどなくして、レイジの傍に使えていた秘書が数枚の書類をレイジに手渡す。
 レイジは書類を受け取り、ざっと目を通した。
「……なるほど。旧タブロス市街の下には古代ビスチオ王国時代の城塞都市の遺跡が存在していることについては、
 すでに把握していたが……、ウィンクルムに関係する遺跡だったか」
「はい、それも『ヴァルハラ・ヒエラティック』と呼ばれる石碑が存在し、そこには『ラドの壁画』に書き記されていた古代文字と同じ文字が使用されているようです」
 ラドの壁画。約800年ほど前に書き記されたとされている壁画で、失われた秘儀とされていた「精霊契約の密議」が、書き綴られていた。
 この壁画については、ラド調査団として参加したウィンクルム、A.R.O.A.の研究により解読され、現在ウィンクルムの複数契約が可能になっている。
「石碑の名が『ヴァルハラ・ヒエラティック』か、聖域とは良く言ったものだ」
 旧タブロス市街の攻防の際に遺跡の一部が発見され、ウィンクルム達に休養を取るように指示を出していたが、
 調査をしている際に、ウィンクルムであれば物理法則を無視したギミックを使用できることが判明していた。
 水中で呼吸が出来たり、恐るべき高さから飛び降りて地面にぶつかる寸前で止まったりと、物理学者が真っ青なものだ。
 そして、遺跡内にある鍾乳石もウィンクルムの愛に反応していたのだから、まさにウィンクルムのための場所――聖域なのだろう。
「はい、古代ビスチオ王国時代の城塞都市の遺跡についても、調査を進めた学者が『ウィンクルムの居城ヴァルハラ』と名付けたようです」
「それで、その石碑に書かれている碑文は解読出来ないのか」
「それが、どういうことか一部の文字が不思議な苔で覆われており、碑文によればウィンクルムの愛を深めれば苔が消え続きが読めるそうです」
「つまり碑文を解読するために必要な、試練というわけか」
「はい、碑文にもウィンクルム達への試練だと記載されておりました。
 そしてもう一点ございまして、人々へ災厄をもたらすモノを討伐するようにとの記述もあるそうです」
「なるほど、把握した。すぐに『テンコ』達に連絡し、協力して『紅月ノ神社』で祭りを開催しろ。
 オーガに関しては何も言うことはない。オーガを討伐することなど、当然のことだ」
「しかし『テンコ様』へのコンタクトはいかがなさいましょう」
「問題ない。本来であれば祭りが開催される時期だ。あの者共も姿を現していることだろう」
「承知しました。……もう一点、少し気になる点がひとつございまして、説明させていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
 秘書の言葉に反応し、レイジはふと秘書のほうへ視線を向ける。
「『ウィンクルムの居城ヴァルハラ』に、『ムーンアンバー号』が出現しているようなのです。
 これも『ヴァルハラ・ヒエラティック』による試練のひとつに含まれるのではないかと学者は申しております」
 ムーンアンバー号と言えば、『ショコランド』にて発見され、『女神ジェンマ様』の力を借りて一時的に運行していた蒸気機関車だ。
 現在は『女神ジェンマ様』の力も消え、運行が止まっている筈なのだから『ウィンクルムの居城ヴァルハラ』に出現することは通常まずありえない。
「ウィンクルムに『女神ジェンマ』からの通達は来ていないのか」
「はい、どうやらそのようです」
「なるほど……」
「恐らく、『女神ジェンマ様』がそうしていたように『ムーンアンバー号』に愛の力を集め、運行を再開させることが試練のひとつなのではないでしょうか」
「もしくは『セレネイカ遺跡』のゲートを使い異空間に干渉し『テソロ・ペルソナ』と接触したことによる何か、か。
 ……明確な原因の究明を行えないというのがネックだが……やむを得ない、そのまま祭りの開催に努めろ」
「承知しました」
 秘書はすぐさま部屋を後にし、祭りの開催準備に移った。
◆紅月ノ神社・納涼花火大会!
 『紅月ノ神社・納涼花火大会!』では、たくさんのウィンクルムがお祭りを楽しみ、
 その中に『ムスビヨミの眷属神』達も混じってあれやこれやと遊んでいる。
「こ、これ! 遊んどらんでわたしの仕事を手伝わんかー!」
 『テンコ様』も、『ムスビヨミ様』に頭の中で色々指示を出されているのか、あっちにいったりこっちにいったりとしている。
 指示を出されて大変なのが目に見えて伝わってくるが、何よりも好奇心が旺盛ですぐに脱線する『ムスビヨミの眷属神』達に仕事をさせることが一番大変そうだ。
 その様子を眺めながら、神人はりんご飴を一口齧って呟く。
「旧タブロス市街が落盤して落ちた時は、死んじゃうと思ったよ」
 すると、浴衣の帯を締めなおしながら、一人の精霊が言葉を返す。
「まったく、無茶苦茶してくれるなあのメガネ野郎は。
 ま、でもあのメガネのお陰であんな碑文を見つけられたんだ、万々歳だろ」
「確かに不幸中の幸い、なのかな」
「それにまぁ、A.R.O.A.がこんな祭りを企画してるみたいだしな。
 試練の内容にあった『思っていること、普段感じていること、不安やらを吐露しやすくなる』ってのが気になってたが……。
 そんなに大して気にするようなことでもねぇか」
 精霊が気だるげな動きで再び歩き出すと、横を歩いていた神人が居ないことに気がついた。
 振り向くと、神人は歩き出す前の場所で立ち止まりこちらをじっと見つめている。
「ど、どうしたんだよ?」
「君はいっつもそうだよね」
 問うと、神人は悲しい顔をしながら呟く。
「……は?」
 突然のことに素っ頓狂な声で返すと、神人は顔色を一変させ、大きく口を開いた。
「ボクを大事にしてくれているのか、そうじゃないのかすごく不安なんだ。
 本当に大事に思ってくれているのか、証拠を見せてよ!」
 普段コイツは、こんな風に怒鳴ることは滅多にない。
 精霊は目を丸くしながら神人を眺め、そう心の中で呟いていた。
 そして、先ほどの石碑に書かれていた試練について思い出す。
 大して気にする必要がないとは言った。しかし、それは間違いだった。
(――これは、かなりキツイ試練かもしれねぇな……)
 精霊は、今度は涙を流し始めた神人を見て、そう思い知らされた。
◆『鎮守の森』の百鬼夜行
 祭りの進行は、順調に進んでいた。
 怖いくらいに、順調に。だから、こんなことは想定していなかった。
 レイジが『旧タブロス市街』の復興に伴って必要となる資料をまとめていたところ、
 突然職員が礼儀も何も弁えずに扉を開け放ち、レイジの元へ駆け寄る。
 その社員が、普段取り乱すことのない社員であったことから、レイジは一瞬の内に事態の大きさを覚悟する。
「何があった」
 その問いに、職員は息を整えることをせずに、そのまま決死の形相でレイジに訴えた。
「鎮守の森に屋台を設営しようとしたところ、スタッフが一名負傷!
 す、スタッフは意識不明の重体となっています!」
「何?」
 レイジは職員の言葉に眉を顰める。
 紅月ノ神社に、それほど活発なオーガが出現しているとは耳に入っていない。
「どうやら、敵はデミ・オーガの模様です!
 それも、動物などが堕ちたものではなく、妖怪達が堕ちたものと思われます!」
 その言葉に、レイジの脳裏に二つの事象が過ぎる。
 かつて『炎龍王』によって妖怪達が人々への憎悪を膨らませ、急襲してきた事態があった。
 その時は収束してはいたが、その時の憎悪を持ち続け、堕落した妖怪達が今回のデミ・オーガなのではないか。
 そして、もう一つは今回碑文に記載されていたという、二つ目の試練。
「人々に災厄をもたらす人々に災厄をもたらすモノを討伐せよ……」
 遥か太古に作られた碑文である以上、今回の事態を予見していたわけではない筈だ。
 しかし、それにしてもタイミングが良すぎる。これではまるで、試練として用意されていたかのようだ。
「そうか、わかった。相手がオーガでないのならば不幸中の幸いだ。
 ウィンクルムでなくても、オーガよりは足止めをすることが出来るだろう。
 部隊を編成し、デミ・オーガ化妖怪達の討伐に向かえ。ウィンクルムにはこちらで連絡する」
「承知しました! すぐに部隊の編成を行い、討伐へ向かいます!」
 職員は今にも吐きそうな形相をしながらも、すぐに走り出し部隊の編成へ向かった。
◆デミオーガ化した妖怪達
「ぐあああああっ!」
「だ、大丈夫か!? クソッ!」
 『鎮守の森』に多数の銃撃音が響き、反響する。
 しかし、その銃撃音はひとつ、またひとつと少しずつ減っているようだ。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!」
「お、おい! しっかりしろ!」
 物理的な攻撃だけではない。精神的な攻撃が、銃撃を放つ部隊員を戦闘不能に貶めていく。
 熊や鹿などがデミ・オーガ化したのならば、まだ戦えただろう。
 だが、今回の敵は人々が古来より恐れを抱き続けている存在、妖怪なのだ。
 そして、恐れを抱いてしまった瞬間、それは妖怪の格好の餌食になる
 戦意を喪失した部隊員の首に、デミ・オーガ化したかまいたちの鎌が振りぬかれた。
「しっかりしてよ、一応軍隊の人なんでしょ~?」
 しかし、間一髪現れた精霊の剣によって弾かれ、首が飛んでいくという事態は免れる。
「それにしても、すごいですね。まるで妖怪のバーゲンセールみたいです!」
 妖怪達は、現れたウィンクルムに憎しみを宿した視線をぶつけ始め、そして飛び掛る。
 精霊が神人の元へと駆け寄って、神人にトランス状態へ移行することを促した。
 けれど、神人は一向にインスパイアスペルを唱えない。
 どうしたのか、そう問う前に神人は寂しそうに精霊に呟きを漏らす。
「ねぇ、トランスは仕方ないですけど、普段もそうやって求めてばかりで、
 そっちからはほとんどキスやハグ、してくれないですよね」
「え?」
 突然のことに、精霊は一瞬神人が何を言っているのか理解できなかった。
「こっちだって、愛されているって思いたいんです。もしかして……愛してくれてないんですか?」
 涙ぐんだ顔で、神人は精霊に食って掛かる。
 しかし、今は戦闘中だ。そんなことを言っている場合ではない。
「い、今は戦闘中だし、その話はまた後で――」
「そうやっていっつもはぐらかしてばっかりじゃないですかぁ!
 どうして、どうしてどうしてそんな……っ!」
 さらに取り乱す神人に、精霊は困惑するばかりだが、妖怪達の攻撃が休まることはない。
 一体神人はどうしてしまったのか、そう考え、ふと試練の内容を思い出す。
 ――思っていること、普段感じていること、不安などを吐露しやすくなる。
「まさか、戦闘中でもなっちゃうのかっ……!?」
 神人はもはや戦闘出来る状態ではない。このままでは、確実にやられる。
 どうにかして、神人を落ち着かせて戦闘をする必要がある……。
(この試練、もしかしたらかなり苦しいものなのかもしれない)
 胸中でそう呟きを漏らしながら。
 精霊は、意を決して神人の元へ駆け寄った。
◆機械を宿したオーガ
「反応は良好、といったところですね」
 学者の一人が何やら紙に書きとめながら、『ウィンクルムの居城ヴァルハラ』に出現している『ムーンアンバー号』を、
事細かに調べ続けている。
「『ムーンアンバー号』全体のディテールを詳しく知る絶好の機会だが、
 やはり使用されている物質等は以前特定出来そうもないな」
「そうですね……ここでは調査に限界がありますので、『ムーンアンバー号』の一部でも持ち帰って研究したいところですが……」
「まぁ、コンセンサスを得るのは相当難しいだろうな」
「ですよね」
 はぁ、と学者が溜息をつきながら『ムーンアンバー号』の内部に視線を送ると、先ほどまで見えていた空間の中に何か動いている。
 なんだろうと、学者が目を細めてみると、
「あ、あれは……!」
「どうした!?」
 狼狽した様子に驚き、もう一人の学者が身を乗り出して『ムーンアンバー号』内部を見る。
 するとそこには、オーガの姿が存在していた。
「なんでこんなところにオーガが!?」
 それも、よく見れば普通のオーガではない。
 『ムーンアンバー号』のパーツと思われるものをその身に着けているオーガだ。
 殺される、そう思い咄嗟に『ムーンアンバー号』から離れる学者達であったが、
 数秒経ってもオーガがこちらに向かってくることはない。
「このオーガ達は、この空間の中から出られない?」
「そうかもしれないな。恐らく何かしらのレーゾンデートルがあるのだろうが、オーガである以上害であることは間違いない」
「こちらに出てこられないのであれば十分な準備をしてから望むべきですね」
 学者二人は『ムーンアンバー号』から離れ、A.R.O.A.とウィンクルム達に事態の連絡を行った。
◆ウィンクルム達に与えられた試練
 立て続けに発生したオーガ達により、A.R.O.A.職員達は奔走を続けていた。
 『鎮守の森』と『ムーンアンバー号』内部に出現しているオーガ達、どちらも討伐しなければならないとなると、
 戦力など様々な面で十分な準備を必要とする。
「レイジ様! 『ムーンアンバー号』内部での調査結果です!」
「『鎮守の森』での交戦状況です!」
「『紅月ノ神社・納涼花火大会!』での催しについてですが――」
 しかし、突発的な出現であったため、十分な準備を行うことが出来ず、結果レイジの元へ膨大な量の情報が送られてくる。
 レイジはそのそれぞれを的確に捌き、A.R.O.A.職員達に命令を行い、混乱していたA.R.O.A.内部が少しずつ落ち着きを取り戻した。
「レイジ様。今回の一件、どうお考えですか」
 祭りの開催を執り行っていた秘書が事態の急変にレイジの元へ戻り、ふと疑問を呈する。
「精霊は、オーガになり得る存在。それは既に判明していることだ。
 ウィンクルムの情報を得られる場所にオーガが出現しようとも、何も驚くべきことではない」
 レイジは、山積みになった書類に目を通しながら、秘書の問いに答える。
「しかし、事態が事態だ。オーガの動きも活発になり、ギルティによって引き起こされた事件も多発している。
 そこに、ウィンクルム達の謎を解き明かす鍵となる『ヴァルハラ・ヒエラティック』の出現だ。
 世界の歯車というものがあるのならば、まさに動き始めたというべきだろうな」
「その歯車は、一体どのように動くのでしょうか?」
「それはわからない。神ではないからな。……いや、もしかすると神でもわからないのかもしれないな。
 人の上に立てば、世の中のことはわかりやすくなる。それと同じだ、天に立つ神も世界のことがわかりやすいだろう。
 だが、だからと言ってすべての事がわかるわけではない」
 つまり、とレイジは区切り秘書を見据えて続ける。
「もし世界の歯車が動きだしているのならば、その歯車がこのまま動き続けるのか。
 それとも壊れて世界を終わらせるのか。それは、誰にもわからないということだ」
 秘書は固唾を飲み込んでレイジの言葉を聞き、「ありがとうございました」とひとつ頭を下げて退室した。
 レイジは一人残された部屋で書類を読む手を止め、ふと書類から目を離す。
「歯車が回っているのを見続けるのは敗者のすることだ。
 勝者は常に、歯車がどう回るのかを考えるのではなく、どう回すかを考えなければならない」
「……『イシス』」
 レイジは、壁に掛けられている初代A.R.O.A.代表であるイシスの写真に視線を移し、呟く。
「あなたの残したA.R.O.A.は、どれほどの犠牲を出そうとも……必ずウィンクルムと共にオーガを滅ぼす」

あらすじ

『タブロス旧市街』の地下に存在していた、古代ビスチオ王国時代に建造された『城塞都市』の遺跡に、
足を踏み入れ、辺りを見渡し調べてみれば、『城塞都市』の遺跡は神秘的な空間となっていました。

ウィンクルムが遺跡の奥地へと足を運んでいくと、
そこにはウィンクルムについての情報が記された、大きな石碑『ヴァルハラ・ヒエラティック』が鎮座していました。
それにより、学者達はここが遥か昔ウィンクルム達が居城にしていた聖なる領域であるとし、
『ウィンクルムの居城ヴァルハラ』との名称を名付けました。

『ヴァルハラ・ヒエラティック』には碑文が書かれており、
碑文の文字は『ラドの壁画』に書かれていたのと同じ文字でした。
しかし、途中までしか読めず、その先は不思議な苔で覆われてしまっています。
そして、碑文の続きは、ウィンクルム達が愛を深める事で読むことが出来るようになると書かれていました。

ですがそう簡単にはいかず、碑文には試練があるという記述もありました。
その内容によれば、ここに訪れたウィンクルム達は、思っていること、普段感じていること、不安などを吐露しやすく、
それによって仲違いをしてしまう可能性が出てくるのだといいます。
試練はその状態で行われ、クリアするには二つの条件をクリアしなければなりません。

①ウィンクルム同士の愛を深め、石碑に愛の力を溜めること。
②人々に災厄をもたらすモノ(オーガ達)を、討伐すること。

そして、その碑文の内容を解読したA.R.O.A.は、ウィンクルム達がパートナーとの距離を縮めやすくなるよう、
『テンコ様』達と結託し紅月ノ神社で、お祭り『紅月ノ神社・納涼花火大会!』を開催することにしました。
また、『鎮守の森』では、『炎龍王』がかつて『紅月ノ神社』を襲った際に憎悪を煽った妖怪達が、
その際から憎悪を払拭することが出来ずに、デミ・オーガ化してしまっているようです。
出現している妖怪達がお祭りに出現しないよう、A.R.O.A.職員が様々な手を尽くして戦闘を繰り広げています。
デミ・オーガ化した妖怪達がお祭りに被害を出さないよう、A.R.O.A.職員とともに妖怪たちの討伐を行うのも、
ウィンクルムの任務となるでしょう。

さらに、『ウィンクルムの居城ヴァルハラ』には、近日セレネイカ遺跡のゲートを使用し、
異空間へ干渉した影響からか、展示品となっている筈の『ムーンアンバー号』が出現しました。
現在はまだ確認出来ませんが、恐らくこの『ムーンアンバー号』の出現も、ウィンクルムの試練と関係があるのではないか、
そう考えた学者が、もう一度『ヴァルハラ・ヒエラティック』を確認したところ、
『ムーンアンバー号』の出現により、一部の苔が消え、読み進めることが出来る部分が増えていました。
そこに書き記されていたのは、試練①によって石碑に溜めた愛の力が『ムーンアンバー号』にも蓄積され、
『女神ジェンマ』がしたように、異世界へ運行出来る力を有するというものだったのです。
さらなる情報はないかと学者が『ムーンアンバー号』内部に入ってみると、そこでは空間の歪みが生じ、特異な空間が広がっていました。
そして、なんとその中には、『ムーンアンバー号』に使用されている歯車や発条といったパーツをその身に宿したオーガ達が出現しているではありませんか。
オーガ達を倒さなければ『ムーンアンバー号』は運行を再開することも、展示品として展示されることもままならなくなってしまいます。
オーガ達を倒してパーツを取り返してください!

『紅月ノ神社』で開催される『紅月ノ神社・納涼花火大会!』で愛を深め、
デミ・オーガ化してしまった妖怪達、『ムーンアンバー号』のパーツを宿したオーガ達を討伐して、碑文の謎を解きましょう!

用語解説

『A.R.O.A.』
オーガに関する事件が急増する中、対オーガを目的として発足した組織のこと。
Anti the Risk of Ogre Agency
通称「A.R.O.A.」。
武力を保有するものの、警察、軍隊とは違い
国境を隔てることなく、全世界のすべてのオーガ関連の事件の調査、解決を主な活動としております。
オーガ事件に関しては、警察や地方自治体は、A.R.O.A.に対して可能な限りの協力を行うことになっています。
また、A.R.O.A.の要請があれば、軍隊の派遣も可能です。
『ステージを照らす二つの月』
この世界では、月が二つ存在します。
一つは明るい月と呼ばれる「ルーメン」は、見た目の大きさで(我々が住む現実の)
地球の月とほぼ同じ大きさ、同じ色をしています。
もう一つは、見えない月と呼ばれる「テネブラ」で、契約を行った神人と精霊にしか見えないようで、
神的な力の作用によるものではないかと言われています。

ルーメンは、地球の月と同じく満ち欠けをし、
東から出て西に沈みますが、テネブラは満ち欠けはせずに色が変化します。
ちょうどルーメンが新月の時に明るい赤色になり、満月の時に暗い濃紺にまで変色するようです。 
また、テネブラは空を移動することなく常に北の空に見えており、
太陽が沈むとゆっくりと姿を現し、昇る頃にゆっくりと姿を消します。
『ムーンアンバー号』
ショコランドで発見された、伝説の蒸気機関車です。
動かすための燃料や方法が解明されなかったため、展示品となる予定でしたが
ジェンマの愛の力によって、フェスタ・ラ・ジェンマの期間だけ空を駆け、時空も超える蒸気機関車となっていました。
光のレールをはじめ、イベリンでは花をモチーフにしたもの、また既存のレールなど一般人にも
視認できるレールを使用し動いていました。
フェスタ・ラ・ジェンマが終了したため、運行を停止し展示品となっておりましたが、
ウィンクルムの試練の重要な鍵として、今回紅月ノ神社に姿を現したようです。
『ヴァルハラ・ヒエラティック』
ラドの壁画に似た文字で、ウィンクルムの情報が書き綴られている石碑。
ウィンクルムの愛に反応して文字が浮かぶ用に作られており、
全貌を明らかにする為には、デートスポットで愛を深める必要があります。

現在『シンパシー・リバレイト』によって放出した愛の力を僅かに吸収し、
文字を浮かび上がらせています。
『テソロ・ペルソナ』
らぶてぃめっとステージの世界に点在しているという小さな異空間、
そこで生活しているという一風変わった、精霊に良く似た姿をしている者達のことです。
ワールドガイド『テソロ・ペルソナ』
『ラドの壁画』
約800年ほど前に書き記されたとされている壁画。
失われた秘儀「精霊契約の密議」が、書き綴られています。
ラド調査団として参加したウィンクルム、A.R.O.A.の研究により、
解読され、過去にウィンクルムの複数契約が可能になっています。
『シンパシー・リバレイト』
『A.R.O.A.』が新たに開発した『シンパシー』をエネルギー弾にすることで、
オーガに攻撃する事ができる対オーガ用設置型兵器。
試作段階の為、『A.R.O.A.』職員がシステムを起動させないと効果を発揮しません。

命中すればAスケールオーガを簡単に討伐するほどの力を持ち、
ギルティでさえも直撃を避けるほどの破壊力となっています。

地域解説

『首都タブロス』
スペクルム王国の首都。
中心部にはA.R.O.A.の本部があり、
式典などが行われる白亜のゴージャスな旧館と、科学文明式の新館が建っている。
旧タブロス市街での演習の管理体制を見て、人々がA.R.O.A.に不信感を募らせ、
A.R.O.A.に今回の件についての詳細を開示するように求めています。
『旧タブロス市街』
城壁に囲まれており、古代ビスチオ王国時代の城塞都市の遺跡の上にあります。
グノーシス・ヤルダバオートの侵攻によって、中央部が大きく損壊していますが、
現在、人々が協力して復興を目指しています。
『ウィンクルムの居城ヴァルハラ』
古代ビスチオ王国時代の城塞都市の遺跡と、名称が不詳になっていましたが、
石碑に、ウィンクルム達の魂が眠る聖域と記されていたことから、この名称がつけられました。
『紅月ノ神社』
タブロス周辺にある謎スポットの一つで、異空間にある和風な雰囲気が特色のエリアです。
『鎮守の森』
紅月ノ神社の裏にあり、神社で働いている者達でもめったに踏み込まない不思議な場所です。
現在、妖怪達がデミ・オーガ化し、暴れまわっているようです。
『ショコランド』
バレンタイン城の裏の丘にそびえる巨大な樹木「ショコランドの木」から繋がったメルヘンワールド(異空間)です。
ショコランドの木の幹に空いた穴からショコランド世界へ入ることができます。
このショコランドも名目上伯爵領なので、伯爵は連邦地図上に同土面積よりもずっと広い領土を持っていることになり、財政を潤してきました。
今までこの世界へは、伯爵の許可を得た極僅かな者たちしか出入りが認められておりませんでした。
ボッカの襲撃に会うも、ウィンクルム達の功績により撃退することが出来、またギルティガルデンへの道を発見しました。
『セレネイカ遺跡』
タブロスから車で往復2時間ほどの場所にある、大昔にマキナの先祖が作った遺跡で、
月の力を地上に中継するための施設が存在しています。

ここに出現しているゲートは異空間に繋がっており、こちらの世界ととても良く似た異空間へ移動することが出来ます。
異空間ではテソロ・ペルソナと呼ばれる存在と出会うことが出来ます。
今回出現した『ムーンアンバー号』は、双方とも別世界への移動を可能とすることから、
このゲートを使用したことによって出現したのではないかとの見解を示している学者も存在しているようです。

主な登場人物

『愛の女神・ジェンマ』
スペクルム連邦全土のみならず異世界でも信仰される愛の女神。
その姿は謎に包まれている。
『ムスビヨミ』
紅月ノ神社の祀神で、遥か昔からウィンクルムと関わりの深い神様です。
中でも流星融合の予言をウィンクルム達に伝え、被害を少なくした話は有名です。
『テンコ様』
神社の宮司にして妖狐一族の長でもある子狐です。
先代が早世したため長を継いだ、今年8才の黒髪おかっぱの男の子です。
完全にお飾りですが、重要な会議やA.R.O.A.に妖狐の代表として依頼を出すときは姿を見せます。
変身の術が未熟で、しっぽも耳も出っぱなしで、引っ込められません。
『ムスビヨミの眷属神』
好奇心旺盛なため、ちょくちょく姿を現しては人間や精霊に姿を見せます。
神様たちは直接話す事ができまないため、近くの地面や壁、紙などに話したい内容を浮かび上がらせます。

【眷属神達】
ワタガシニコ・ハイテル姫
砂糖菓子の神、ふわふわした雲のような存在で、ふわふわした手足がついています。美味しい綿菓子の守護神です。

リンゴアメノ・サカサの尊
真っ赤な顔をした童子の姿の神様で、りんご飴の神様です。

クジノアタリ・ソウナ姫
籤の神様で色白の美人だが実は二次元、性格は見た目に反していい加減です。
『炎龍王』
かつて紅月ノ神社内に祀られていた龍神でしたが、悪事を重ね追放されてしまい、
恨みを持つムスビヨミの力を完全に削いだあと、社を乗っ取ろうと企んでいましたが、
その計画も虚しく瓦解し、命を落としました。
今回出現している妖怪達は、炎龍王が死した後も憎悪を払拭することが出来なかった者達であるそうです。
『レイジ』
A.R.O.A.の代表を勤めている中年男性。
旧タブロス市街で行った演習の体勢、ひいてはオーガの侵攻を許した事態について、
市民に説明と謝罪を求められています。
かつてのA.R.O.A.の代表、イシスの家系で、
若くして代表の座に立ったエリートとされていますが、職員ですら彼の詳細な過去を知らないようです。
『イシス』
A.R.O.A.の創始者。
A.R.O.A.設立後から数年後、謎の失踪を遂げており死亡扱いとされています。
オフラインセッションで登場したキャラクターです。
『グノーシス・ヤルダバオート』
羊のように生えた片角と、銀髪、そして張り付いたような笑みが特徴的なギルティ。
邪眼のオーブの強化、特異な容姿や能力を持ったオーガを造り出し続けています。
自分の力で戦う事はほぼなく、冷酷かつ非情な方法でウィンクルム達を捕らえ、
研究をしようと画策しています。

エピソードイベント『城塞都市とウィンクルムの謎』について

8月16日 23:00 から 9月20日 23:59 まで のイベント期間中、
タイトルの先頭に特別な文字が記入されたエピソードが公開されます。

本エピソードイベント対象のエピソードは
ハピネスエピソード    … 【祭祀】
アドベンチャーエピソード … 【討魔】
となっております。

注意

本エピソードイベントに関連するエピソードでは、碑文『ヴァルハラ・ヒエラティック』の影響により
ウィンクルム達は『思っていること、普段感じていること、不安なこと』などをパートナーにさらけ出しやすくなっています。
お互いの本心を聞くチャンスですが、同時に仲互いや喧嘩も起こりやすくなっています!

ハピネスエピソード【祭祀】について

現在、紅月ノ神社では『紅月ノ神社・納涼花火大会!』が開催されています!
参道や境内には定番のものからかなりマイナーなものまで、様々な屋台が並んでいます。
また、21時から22時までの間には花火の打ち上げが始まります。
花火を独り占めできるような、素敵な穴場スポットもあるようです。
年に一度しかない夏の季節をパートナーとともに楽しみきろう!

また、パートナーと愛を深めることで発生した愛の力が碑文『ヴァルハラ・ヒエラティック』に蓄積されていきます。
多くの愛の力が碑文に蓄積されることで、碑文の文字がさらに読めるようになります。
予測でしかありませんが、この碑文を解き明かすことでウィンクルムの新たな真実に近づけると言われています。

デートスポット

屋台
様々な屋台が並んでいます。どんなに変わった屋台でもあるとの噂です。
屋台がとても多いので、来訪客は多いですが歩くのに邪魔になったり、屋台に長く並ぶことはほぼありませんが、
人が多いことには間違いないので、パートナーとはぐれないように手をつないでおくといいかもしれません。
大輪の園
屋台から少し離れた場所で、用意された花火を見るスポットです。
多くの人が集まってきますが、かなり広い場所になっているので、人との距離はそう近くありません。
カップルが多く来ているようです。
また、花火が上がっていない時刻には、様々な花が咲いている美しい公園としてデート出来ます。
屋台で買った食べ物をこちらで食べるのも良いかもしれませんね。
一部ですがこちらにも屋台が存在しているようです。
花降る丘
屋台から少し離れた場所で、知る人ぞ知る穴場スポットです。
ここでは、他の人が居らず、自分達しか居ません。
花火を自分達だけで独り占めしてみたい方は、ここで見るのがおすすめです。
花火が上がり終わった遅い時間には、満天の星空を見ることが出来るそうです。

アドベンチャーエピソード【討魔】について

今回戦闘を行う場所は二箇所となっています。
それは『鎮守の森』と『ムーンアンバー号』内部です。

出現しているデミ・オーガ、オーガは倒さずに放置してしまうと、
紅月ノ神社とムーンアンバー号を破壊してしまうことでしょう。
なんとしてもそれを阻止し、デミ・オーガ、オーガを討伐してください!

対象区域

鎮守の森
鎮守の森に出現している、デミ・オーガ化し暴れまわっている妖怪達を討伐します。
鎮守の森は、木々が生い茂る薄暗い森となっており、障害物が多い場所になっていますので、
死角からの攻撃には注意して望みましょう。
妖怪達は、元々妖怪の姿をしていた時に有していた能力を使用して戦闘を行ってきます。
個々の能力はそれほど高くはないですが、油断や慢心をせず戦わなければ手酷い目に合ってしまうかもしれません。
『ムーンアンバー号』内部
『ウィンクルムの居城ヴァルハラ』に出現した『ムーンアンバー号』内部に発生している、
特異な空間での戦闘となります。機械仕掛けのスチームパンク的な世界が広がっており、
変わったギミックの中で、その身に『ムーンアンバー号』のパーツを宿したことによって、
通常とは違う動きを行うオーガと戦闘を繰り広げることとなります。

鎮守の森について

デミ・オーガ化した妖怪って?
かつて炎龍王が妖怪達と共に紅月ノ神社で人々を襲った時から、
人々への憎悪を払拭することが出来ずに堕ちてしまった妖怪達です。
妖怪等はデミ・オーガとしてその身を堕落させ、今回ウィンクルム達が集まってきたことを機に、
ウィンクルム達を倒してしまおうと飛び出してきたようです。

【妖怪化の例】
デミ・オーガ化かまいたち
本来切り傷を作る程度であったが、デミ・オーガ化したことで力を増し、
尾に付属している鎌が大鎌へ変貌し、大木をも斬るほどの力を得た。

『ムーンアンバー号』内部について

『ムーンアンバー号』のパーツを宿したオーガって?
自分の身体の一部にパーツを宿し、戦闘能力を強化しています。
例えば、皮膚での防御が得意なオーガは、車輪を身に着けてさらなる硬化をはかるなど、戦闘に有利になるよう利用します。
中には普通の使い方ではないトリッキーな使い方をするものもいるかもしれません。
『ギミック』って?
戦闘を行う場所には、戦闘の結果を左右するギミックが仕掛けられていることがあります。
うまく利用することが出来れば敵を出し抜くことが出来ますが、
逆にギミックによって不利な状況になってしまうこともあるかもしれません。

【ギミックの例】
ベルトコンベア
足元にベルトコンベアが設置されており、常に動き続けている。
足場を確認して戦闘に望まないと、足元をすくわれて思わぬ隙を作ってしまうことになる。




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