*4月エピソードイベント*
『夜桜を彩る紅の月』



架神玲那 IL

『夜桜を彩る紅の月』
*プロローグ*

『サクラウヅキ』に咲く『ヨミツキ』

 城下町『サクラウヅキ』は、『紅桜城』を中心に栄える場所である。
 青空の下の、桜並木。
 桃色の花弁を開く『ヨミツキ』を見上げ、人々はほうとため息をついた。
「ああ、今日も『ヨミツキ』が綺麗に咲いていますね」
「まるで、紳士や淑女のようだな。隙がない美しさだ」
 天からは、柔らかな日差しが降り注ぎ、風は緩やかに、通りゆく人の髪を撫ぜる。
 常と続く春の陽気は心地よく、さらには珍しい花が見られるとなれば、人が集まらぬはずはない。
「お客さん、桜を見るなら、お供に甘酒を一杯どうだい?」
「それとも花見団子がいいかしら?」
 露天の主たちが、桜並木を進む恋人たちに声をかけた。
 その先では、桜の太い幹に寄り添い立って、花を愛でる者が数名。
 彼らのうち、ひとりが口を開く。
「本当に美しい。『ヨミツキ』はそろそろ満開ですかな」
「ということは、『紅桜城』も、近々ですか」
 桜に手を伸ばしていた者が、その枝の向こうに視線を向けた。
『ヨミツキ』が満開の時のみ姿を現す『紅桜城』は、未だ其処にあらず。
 だがきっと、今年も荘厳たる姿を見せてくれるに違いない。

『サクラウヅキ』と『サクラヨミツキ』

 日が傾き、空に橙と藍が混じる夕刻以降。
 『ヨミツキ』は、昼とは違う妖しい美しさで、人々を惹きつける。
 青い空と白い雲に、健全な華やかさを添えていた花は、月光を纏い白く見える花弁で、闇を薄める役割を担うのだ。
 その『ヨミツキ』の美の変化を称え、人は、昼の世界を『サクラウヅキ』、夜の世界を『サクラヨミツキ』と呼んでいた。
 町そのものが変わるわけではないが、時刻で分けて考えねばならぬほどに、異質な空気だということである。

 陽光の下、鮮やかな桜を堪能した人々は、月下に浮かび上がる薄紅の花を求め、また桜見物に訪れる。
「夜は夜で、イメージが変わりますね」
「本当だな。まるで昼の紳士や淑女が、薄布一枚に着替えたような艶やかさだ」
「……また、そのようなことを」
 昼の恋人たちは桜を見上げ、その美しさに、あるいはなまめかしい例えに、口角を上げた。
 そこに、露店の主たちが声をかける。
「お客さん、夜桜を見るなら、こっちの酒をお供にどうだい?」
「それとも焼き鳥がいいかしら?」
 その先では、太い幹に寄り添い立って、花を愛でるものが数名。
 そのうちのひとりが「あっ」と小さな声を上げた。
「『紅桜城』が……」
「……現れましたか!」
 桜に手を伸ばしていた者が、その枝の向こうに視線を向ける。
 ――が。
 彼が見たものは、いつも通り荘厳な姿の城ではなかった。
 白塗りの城壁も、瓦の屋根も、そして見事な天守閣も。
 現れたと思った直後にすべてが歪んでいく『紅桜城』の姿だったのだ。

分かたれた世界

 それより少し、前のこと。
 夜の訪れを待たず、彼女――ギルティ・ヴェロニカは、『テネブラ』と『ルーメン』、両の月に向かって手を伸ばした。
 夕刻の空が、じわじわと薄暗い瘴気に包まれていく。
 それはゆっくりと『テネブラ』と『ルーメン』を覆い、代わりに第三の月『紅月』を生み出した。
 名の通り、毒々しいほどに赤い月は、美しい桜咲く世界を、昼と夜のふたつに分かつ。
 そして、それと同時にそれぞれの世界を、今までとは全く異なる場所へと変えた。
 昼の世界『サクラウヅキ』では、瘴気が生まれ。
 夜の世界『サクラヨミツキ』では、客を呼ぶ声の代わりに、オーガの咆哮が響き渡るようになったのだ。
「これはいったい、どういうことだ!」
「私たちの大切な『ヨミツキ』が……」
 それぞれの住民たちは、扉を閉ざし、屋内にこもった。
 これはぜったいに、脅威の力が働いている。
 だが、自分たちにはどうすることもできないのは、明らかだった。

A.R.O.A.とギルティ

 しかし当然、A.R.O.A.はこの事態を、ただ黙って見ていたわけではない。
 これはどう考えても、明らかにオーガたちの仕業である。
「おそらくはまた、ギルティが絡んでいるのでしょう」
「まったく、いつもいつも……」
 職員たちは歯噛みした。
 ギルティに花見の風情を理解しろというのは難しいことではあろうが、なにもこんな時に、である。
 城下町『サクラウヅキ』は最も深く瘴気に包まれ、ウィンクルムすら、長時間の滞在は厳しい状況だ。
 だが、だからと言って、分かたれた世界をこのまま放置すれば、次元の歪みは、確実に世界へと波及していくだろう。
 そうなったら、たぶん救いは……ない。
「これまで数々の戦いに挑んできた君たちだ。やってくれるだろう?」
 A.R.O.A.職員の言葉に、ウィンクルムは深く頷く。
「もちろんです!」
「オーガと戦うのが、我々の使命ですから」
「なに、報酬が安いことなど気にしないでください。いつものこと、でしょう?」
 やる気に少々の棘を含ませ、それでも彼らは、『紅桜城』へと向かった。
 この城から昼の『サクラウヅキ』、夜の『サクラヨミツキ』、それぞれの世界へと向かうことができるのだ。
 ――逆に言えば、『ヨミツキ』咲く場所へ訪れるものは皆、ここを通ることになる。

 その城の屋根の上から。
 ヴェロニカは、各地へと向かうウィンクルムの姿を見下ろしていた。
 お洒落をして、昼の『サクラウヅキ』に向かうペアも。
 武器を携え、夜の『サクラヨミツキ』に向かうペアも。
 ヴェロニカには、酷く馬鹿げて見える。
「あらあら、あんなに張り切って……人間というのはいつもいつも、本当に滑稽だこと」
 瘴気と、集まったオーガの力。
 今回こそ、彼らにとって決して楽な戦いにはならないはずだ。
 ――否、今回こそ、こちらの思い通りの結果にならなければ、困る。
 そのために、セレネイカ遺跡の月の力を、使ったのだ。
 ヴェロニカは、紅い唇で艶然と微笑む。
「まあ……好きにすればいいわ。戦いで桜が散ってしまったら惜しいけれど……どうせまた、咲くでしょう。
 とりあえず今は、高みの見物としましょうか」

 しかし彼女も、ウィンクルムも知らない。
 この城に近付く影があることを。
 彼は『紅桜城』を見、ひゅっと高く口笛を吹いた。
「俺様に似合いの城、はっけーん! あー、前の城壊してから、どんだけたった? 長かったな~」
 ばさりとマントをはためかせ、男は進む。
 瘴気に満ちた空気も、オーガの集まる町も、彼の歩みを止めることはなかった。


(プロローグ執筆:瀬田一稀 GM


*エピソード情報*

寒く雪の多いノースガルドとは真逆の方角に存在する、春を象徴する城下町『サクラウヅキ』。
この城下町では、ここでしか見られない珍しい品種の桜『ヨミツキ』を見ることが出来ます。
月明かりに照らされるとその光によって風貌を変え、妖しくも美しい姿を見せてくれるとか。
この城下町の人々は、その『ヨミツキ』の妖しさと美しさを神格化し、
夜桜が夜を彩る時間になると、城下町の名前を『サクラヨミツキ』と呼ぶようになったといわれています。

そして、さらにこの桜が満開の時期にのみ現れるといわれている城『紅桜城』は、
『ヨミツキ』という桜の原初となっているとされており、
神格化され人々から恐れられつつも、丁重に祭られています。

『サクラヨミツキ』が満開に開花し、『紅桜城』が現れようとした時、
ギルティ『ヴェロニカ』が姿を現しました。
『ヴェロニカ』が、一般人とウィンクルムに見える月『ルーメン』と、
ウィンクルムだけに見える月『テネブラ』に手を伸ばすと、
辺りは薄暗い瘴気に包み込まれ、ふと上空を見やれば、『ルーメン』と『テネブラ』が、
まるで一体化したかのような、大きく紅い月が出現しているではありませんか。
紅く彩られた月に、そして瘴気に反応しオーガ達が集まってきます。
『ヴェロニカ』は、セレネイカ遺跡で手に入れた月の力を使い、
一時的に、オーガやデミ・ギルティを活発化させる『紅月』を出現させたのです。

『紅月』の出現により、城下町の昼と夜が別たれ、
昼の世界『サクラウヅキ』、夜の世界『サクラヨミツキ』の二つの世界が、出現してしまいました。
このままでは、『ヴェロニカ』の振るう月の力によって、
『サクラウヅキ』と『サクラヨミツキ』が別たれ、世界に歪みが生じてしまいます。

『ヴェロニカ』が操る月の力は、『サクラヨミツキ』で出現しているオーガとデミ・ギルティ達を倒し、
同じく、『サクラウヅキ』に発生している瘴気をウィンクルムの力で浄化する必要があります。
幸い、『紅桜城』の城門より、二つの世界へ行き来出来るようになっているようなので、
『ヴェロニカ』の野望を阻止する為にも、二つの世界でウィンクルムの愛の力を振るい、
この城下町を護って下さい!

そして、『紅桜城』に忍び寄る影がもう一つ。
特徴的なマントをはためかせ、自信に満ちた様子で口角を吊り上げている一人のギルティ。
彼は『紅桜城』を満足そうに見やり、愉しそうに笑いました。


*用語解説*

『サクラウヅキ』
ノースガルドとは間逆に位置する、一年中ぽかぽかとした気候が特徴的な町。
『紅桜城』を中心に栄えている城下町であり、タブロスほど近代化は進んでいないが、大体のデートスポットがある。
中でも、この町にしか存在しない桜『ヨミツキ』が町の至る所で咲き誇っており、
デートスポットに美しいアクセントを施している。
『サクラヨミツキ』
城下町『サクラウヅキ』の別名であり、夜の時間のみ、そのように呼称される。
『サクラウヅキ』にだけしか存在しない桜『ヨミツキ』が妖しくも美しく咲き誇っている姿は、見るものすべてを魅了する。
『二つの世界の出現』
この世界に存在する、桜『ヨミツキ』と『紅桜城』で有名な城下町『サクラウヅキ』。
しかし、『ヴェロニカ』の手によって、『サクラウヅキ』と同じに見えるが、少し違う世界が作られてしまった。
その二つの世界は、本来の世界の『サクラウヅキ』の『紅桜城』に繋がっており、実際に行くことが可能になっている。

二つの世界は別々に分かれていながらも、元々は同じ存在である。
そのため、「本来の『サクラウヅキ』に住んでいた人物が両方の世界に存在する」現象等が起こっている。
本来、同時に存在することが不可能な二つの世界が同時に存在することにより、
この二つの世界に繋がってしまっている『紅桜城』を中心に、次元の歪みが発生してしまっている。
放置しておけば、次元の歪みは世界をも飲み込み、崩壊させてしまうのではないかと言われている。

現在、先行したウィンクルムの活躍によって、どちらの世界も人々が通常通りに暮らせる程度には瘴気が晴れている。
しかし、瘴気はいまだに残っており、城下町の人々は完全に瘴気が消え、事件が解決することを願っている。
昼の世界『サクラウヅキ』
現在、『ヴェロニカ』が行使している月の力で出現させた『紅月』の影響により、
新しい1つの世界として出現した『サクラウヅキ』。

本来の城下町『サクラウヅキ』の『紅桜城』から行くことができるようになっており、
本来の城下町『サクラウヅキ』と比べて、昼の時間が長くなっている。
短いながらも『サクラヨミツキ』と呼ばれている夜の時間も存在し、夜桜を堪能することが出来る。
夜の世界『サクラヨミツキ』
現在、『ヴェロニカ』が行使している月の力で出現させた『紅月』の影響により、
新しい1つの世界として出現した『サクラヨミツキ』。

本来の城下町『サクラウヅキ』の『紅桜城』から行くことができるようになっており、
本来の城下町『サクラウヅキ』と比べて、夜の時間が長くなっている。
そのため、本来は短い夜の時間帯だけの『サクラヨミツキ』を長く堪能することができる。
しかし、デミ・ギルティ、オーガ等が蔓延っているため、外を出歩くには相応の危険が伴うだろう。
『ヨミツキ』
『サクラウヅキ』でしか咲かない、妖しいながらも美しい桜の品種名。
かつて起こったとされる大火による進化からか、火には滅法強く燃やすことは出来ない。
夜桜として他の追随を許さないほどの妖艶さを兼ね備えており、
その恐怖心と同時に、人を魅了する様子から、人々に神格化されている。
また、元々が『紅桜城』の内部から芽吹いたものだとされており、
町の人々は、この桜と『紅桜城』には畏怖と敬意を払っている。
『紅桜城(べにさくらじょう)』
『ヨミツキ』が満開に開花した時に姿を見せる城。
『ヨミツキ』の原初の種を芽吹かせた城だとされている。
現在、『ヴェロニカ』が行使している月の力の影響によって
城門より、別たれた二つの世界『サクラウヅキ』『サクラヨミツキ』へと行き来することが可能となっている。
また、『紅月』の出現によって城下町部分は瘴気に包まれてウィンクルムですら
迂闊に進入できない状況となっていたが、
現在、先行したウィンクルムの活躍によって、どちらの世界も人々が通常通りに暮らせる程度には瘴気が晴れている。
しかし、瘴気はいまだに残っており、城下町の人々は完全に瘴気が消え、事件が解決することを願っている。
『ヴェロニカ』
狼女の姿をしたギルティ。
元々備えている強大なギルティの力と共に、『マシナリーファンタジア』で手に入れた月の力を振るい、
多くのオーガやデミ・ギルティを従えて全てを蹂躙しようと画策している。
『紅月(こうづき)』
『ヴェロニカ』の振るった月の力と、瘴気によって現れた、三つ目の月。
妖しく紅く輝いており、『ヨミツキ』と『紅桜城』を妖しく照らしている。
蜃気楼のような現象で出現しており、実際に質量はなく、
『テネブラ』と『ルーメン』が融合して出現したわけではない。
昼には、『ルーメン』のように普通の月として確認できる。
『ルーメン』
誰にでも視認出来る、世間一般で言うところの月。
現在、『ヴェロニカ』が行使している月の力の影響により、姿を確認できない。
『テネブラ』
ウィンクルムにしか視認出来ない、赤い月。
現在、『ヴェロニカ』が行使している月の力の影響により、姿を確認できない。
『???』
『紅桜城』を見て、嬉々としているギルティ。
偉そうな態度と、特徴的なマントが目に付く。




*エピソードイベント『夜桜を彩る紅の月』について*

3月31日(木)00:00 から 4月20日(月)23:59 までの期間、
タイトルの先頭に特別な文字が記入されたエピソードが公開されます。

ハピネスエピソード ―【桜吹雪】―

春の陽気と『ヨミツキ』の可憐さが人々を楽しませる昼の姿『サクラウヅキ』で、
パートナーとのデートなどを楽しみながら、瘴気を晴らしていくことになります。

大きな城下町であり、タブロスほど栄えてはいませんが、技術革新が進んでいます。
カフェ等、大抵のデートスポットは揃っています。

夜になると、『ヨミツキ』が夜桜としての真価を発揮し、妖しくも美しい情景を確認することが出来ます。

アドベンチャーエピソード ―【夜桜】―

妖しくも美しく、見るもの魅了する夜の姿『サクラヨミツキ』で、
被害を発生させるオーガなどの討伐を目的とした戦闘を行います。

妖しい雰囲気の『ヨミツキ』の下で戦闘することとなります。
『紅月』が常に輝いており、視界は悪くないため、昼間と同じように行動が可能です。

城下町の中で戦闘することも出来ますが、家の中に避難している方もいます。
なるべく離れて戦い、被害を最小限に抑える戦い方が望まれます。





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