さつきのきつさ~嘆きのカメリア(キユキ マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

●それはうつくしく

 だれか
 だれか

 わたしの想いをつたえて



●それはふかしぎな
「ミステリーテクスト、ですか?」
 なんのこっちゃと思いながら、A.R.O.A.職員は依頼主の女性に続きを即す。

 目の前に座る女性の名は、ミユキ。タブロス郊外にある庭園<さつきのきつさ>の店員である。『店員』という呼び名は庭園に些か不似合いではあるが、ここは喫茶<さつきの喫茶>もメインであるため、間違ってはいない。総責任者は『店長』と呼ばれている壮年の男性だ。
 応対中のA.R.O.A.職員は彼女と<さつきのきつさ>店長の、破天荒だったりずれていたり突拍子もなかったりする話を幾度か聞いているため、まだ驚かない。まだ呆れない。
 忍耐力がついたと後に彼は語るのだが、まあその話はおいておこう。
 ミユキが話を続けた。

「<さつきのきつさ>の庭園は、幾つか別の場所に離れのような扱いの庭園があります。以前にご案内した<冬霞の庭>もそうなんですけど」
「ええ。存じております」
「そのうちのひとつに、椿の群生地があるんです」

 庭園というよりも、小山ひとつを庭園預りにしたようなイメージだ。冬から春に掛けて様々な椿が咲く名勝として、<さつきのきつさ>が出来るずっと以前から有名だった。その土地の管理者が亡くなり、荒れた小山を店長が譲り受けたとか。

「そこの椿が満開になり始めた頃から、路なりの地面に文字が現れるようになったんです。2ヶ月前くらいからでしょうか」

 閉園間際の夕方から日没の間。客の1人が、地面に何かで彫られた文字を見つけた。その客は悪戯だと思い、店長やミユキの耳には入れなかった。
「でも他の日にもあって」
 複数の場所に文字が描かれているのを見つけた。見つけたのは客だけでなく、他の店員もだ。文字は地面に枝で描かれたようなものから、小石を連ねていたり落ちた椿の花を連ねて象られていたりするのだという。
「ただ、どれだけあるのか分からなくて」
 特に子どもの来園者があると、庭園側の遊びだと思われすぐに崩されてしまう。

「なので、お世話になってるA.R.O.A.さんをご招待するついでに、謎解きを手伝っていただこうかと」
 椿の盛りもそろそろ終わりますし、この機会にいかがかと。

(どっちがついでなんだろう……)
 A.R.O.A.職員には分からなかった。
「『謎を解いてくれ』、ではないんですね」
 そこで素朴な疑問を問うてみれば、ミユキは不思議そうに首を傾げ、ひと言。

「これは文字のパズルなんです。挑まれて誰かに解いてもらうのは、パズラーの名折れですから!」

 A.R.O.A.職員には分からない。
 (`・ω・´)キリッ とした顔で言われたって、パズラーってなんだそれそんな名称あったっけ、というのが普通の心情であるはずなので。

解説

椿を楽しみながら、パズルの破片を探すミユキのお手伝いをしましょう。
店長は時間の都合で閉園間際に来るようです。

 椿を楽しみつつパズルを探す会:参加費150Jr
 時刻:16時~日没(閉園)まで

お菓子はありませんが、庭園に入る前にペットボトルのお茶が配られます。
紅茶・緑茶・おいしい水のいずれかをお選びください。

>>目的
椿の群生地である小山を散策しながら、地面に描かれた文字を探します。
群生地の東側から入り、西側に立っている東屋兼展望台で、見つけた文字を皆で共有する形です。
群生地は人の歩いた跡が何となく道になっている程度ですので、基本は自由に歩き回れます。
散策範囲に特に制限はありませんので、途中で他の参加者と鉢合わせることもあるでしょう。

>>パズル
漢字を中心とした文字のジグソーパズル(アナグラム)、難易度は高め。
解けない場合のペナルティは一切ありませんので、ぜひミユキと一緒にパズルタイムを!(`∀´)b

>>プランについて
通常のハピネスプランに加えて、パズルが得意か/好きか、といった嗜好を少し記載して頂けますと助かります。
(記載がない場合は、皆様のプロフィールを元にアドリブで書かせていただきます)
また、関連する一般スキルをお持ちの場合はそちらも考慮いたします。

 例1)理系問題なら任せろ!
 例2)パズルは好きだけど、言葉遊びは苦手かな……?

ゲームマスターより

キユキと申します。
初めましての方もそうでない方も、エピソードをご覧下さりありがとうございました。

木に春と書いて『椿』。そんな花が示唆するものとはなんでしょう?
いつもはパズルを出題する喫茶の人々が、パズルを挑まれた模様です。
もしかしたら、本当はパズルではないのかも……(ニヤリ
日没までにパズルが解けたら、ちょっと素敵なものが待っている……カモ!(・∀・)

リザルトノベル

◆アクション・プラン

篠宮潤(ヒュリアス)

  パズル:
得意かはジャンルによりけりだがやり始めたら夢中。つまり大好き
※暗号解読スキル4

・散策
他の方と会ったら
「今僕たち、が、来た道の文字、は、メモ済、だ」
「そこ、の…椿の色、とても、綺麗だった、よ」
なんて、はにかみ会話

緑茶飲んでたら
「!ヒューリ!」
精霊が足元花びら文字踏みそうになったら全身全霊で抱きつく様止める
謎を壊させはしない!←超必死

・展望合流
ミユキさんや皆の意見わくわく拝聴。瞳らんらん
「入口東から、西へ、の順番とか、も関係ある…のかな」
「椿…の庭園選んだの、意味が、あったり、とか?」
「…誰かへ、宛てた…想い?椿姫、ふと思い出し、て」
思考夢中でいつものような戸惑う空気が言葉の中にあまり無い



フィーリア・セオフィラス(ジュスト・レヴィン)
  「…椿の、花が、いっぱい…、…きっと、綺麗…。…行っちゃ、だめ…?」
「…文字、描い、てるの、って…、誰、かしら…?…それに、どうして…?」

椿は見たいし、『文字』もちゃんと見つけるつもりだしで、ちょっと忙しい…。
椿の花は一重の小さめのが可愛いけど、他のも…。
(とか言っていると、足元がお留守で素っ転んだり…?)

ただ『文字』を探す時、途中で皆と出会うこともあるみたいなので。
文字を二重に記録すると、パズルを解く時に迷うかも?と…。
見つけた文字には、印(横に『済』レ点とか書いておくとか)とか…?

閉園間際なら夕日も見られる…?

>飲み物
紅茶を希望。
>パズル
好きだけど得意ではないです。


ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
 
ナンバープレイスが好き/理系

庭園MAPがあれば貰う
見つけた場所はメモとレ点の印(重複防止
すれ違ったら情報交換

文字は誰かへのメッセージなのかしら?
山歩きは苦手
文字探しは楽しい、つんとしつつもキョトキョト地面を見ながら歩く
段々疲れて口数が少なくなる

服の汚れを気にしつつ休憩
椿。山茶、椿油に傷にも整腸…と効能を思い出しようやく景色を見る
綺麗…実際来ないと分からないものね
落ちた花も綺麗、絨毯みたい…でも何だか切ないわね

ぶるっと身震い

大丈夫よ、振り払う
強く握り返され、…あったかい(俯き
アルヴィン楽しそう
指示された方向へ視線が向かう
少し山への興味が湧く
言われないと分らなかったわ
展望台に近づいたら手を離す



豊村 刹那(逆月)
  椿の群生か。見応えがありそうだ。
飲物は「何が良い?逆月」

椿に関係してるのかと思ってちょっと調べたけど。
春の訪れを告げる木ってぐらいしか。花言葉は、たぶん関係無いだろうし。

情報は多くあった方が共通点は見つけ易い。
だからなるべく多く『文字』を見つけたい。

そのままがいいだろうから、携帯のカメラ機能を使いたいかな。
駄目ならメモだけしておく。

「こういう資料集めみたいなのは好きだけど」
「植物は嫌いじゃないよ。私が一つに集中しちゃうだけで」
此処に来ただけでも、いい気分転換になってる。

「逆月は、何か浮かぶか?」
単語なのか文章なのかもよくわからなくて。

魔法とかもあるし、そういう事もあってもおかしくは無いかもな。


瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  サンプルから共通事項を抽出する等論理的思考は好き。
直感系でのパズル解きは苦手。
ミュラーさんに「理屈っぽい子だ」と思われないか心配。

ツバキは日本原産。
『椿』の字も漢字だけれど日本で作られた物。
今回見付けた字をパーツに分解して組み合わせるか
見付けた字がパーツそのものになっているかのパズルと予想。
ならば全ての字を見付けないとパズルを解く難易度が上がっちゃう。頑張って捜そう、ミュラーさん。

『何を使って文字が示されているか』もパズルの一環かも。見付けた文字はスマフォで撮影するね。
木片使用の文字なら木偏を追加するとかかもよ?
花弁なら色も関係するとか?
「あらゆる可能性を考慮した方がいいわ」
ついでに記念撮影。



●椿の庭で
 日が傾き始めた時刻。『椿の庭』と書かれた看板の前で、<さつきのきつさ>店員のミユキが参加者たちへ手を振った。
「こんにちは! ようこそ椿の庭へ!」
 一眼レフカメラと大きな肩掛け鞄を持つ彼女は、ぺこりと頭を下げる。
「さつきの店員のミユキです。私の後ろにある山が、お話した椿の小山ですね」
 緩やかな斜面には、赤と白の色合いが多く窺える。『豊村 刹那』は感嘆した。
「椿の群生か。見応えがありそうだ」
 彼女の隣で、『逆月』も同意のような息をつく。
「荒れた小山を整えた、ということか」
 見事に咲いたものだな。
 その眼差しには、興味が見え隠れしている。
『フィーリア・セオフィラス』は、キラキラとした目で椿を見つめていた。
 数日前、彼女は「……椿の、花が、いっぱい……きっと、綺麗……。行っちゃ、だめ……?」と『ジュスト・レヴィン』へ尋ねてきた。そうして結局、「……リアが行きたいなら」と幾度目かのさつきの喫茶だ。
「今回皆さんには、文字を一緒に探して頂きます。最後に西の端にある東屋へ来てくださいね!」
 にこにこと話すミユキは、いつ来ても良い笑顔だなぁと『篠宮潤』はちょっと羨ましい。
「この山のマップがあれば助かるんだけど……」
 声を掛けた『ミオン・キャロル』に、ミユキは任せて下さい! と鞄からA4サイズの紙を取り出した。
「地図と言っても、ざっくりと目印になる椿を書いただけなんですが」
 ミオンは『アルヴィン・ブラッドロー』と共に、地図へ視線を落とす。
『瀬谷 瑞希』はちらり、と隣の『フェルン・ミュラー』を見た。
(直感系でのパズル解きは苦手だけど……論理的なのは好き)
 ミュラーさんに『理屈っぽい子だ』と思われないか、心配。
 瑞希は胸の内に不安を仕舞い込んだ。

 ミユキが全員へペットボトル飲料を配り始める。
「何が良い? 逆月」
 刹那の問いに、逆月は水で良いと答えた。2人でおいしい水を受け取る。
 全員に飲料を配り終えたミユキは、一同へすちゃっと敬礼らしきポーズを取った。
「それでは皆さん、また後で!」
 そしてあっという間に椿の林の中に駆け込んでいってしまった。
「え?!」
「はやっ!」
 その変わり身の早さに驚かなかったのは、1度でも彼女に会ったことのある者だ。
(余程パズルが気になるのかね……)
『ヒュリアス』はミユキを見送って、山へ入ろうとする他の面々を呼び止めた。
「見つけた文字が後で重複せんよう、その横に印でも付けていくかね?」
「ルートも大まかに決めておけば、効率よく文字を探せるのでは」
 ヒュリアスの提案に、ジュストも意見を重ねる。
「そうだね。皆とは違う方向に行こうか」
「見つけた文字は、レ点を書いておくのが良さそうね」
 後は各自メモで、とアルヴィンとミオンも意見を述べ、誰も否やはない。
「手分けして広い範囲を探索だ」
 山ひとつだと大変だし、とフェルンが山を見遣った。



●綴られた文字は
「そ、それじゃあ……また、後、で」
 皆と別れたフィーリアは、並木で咲く赤西王母(アカセイオウボ)に目を奪われる。まさに椿、といったもので、鮮紅色の花は掌より小さい。
「あっ……」
 並木の先に、早速文字を見つけた。地面に枯れ木を集めて描いてある。大きさは掌くらい。
「これ、なんて……読む、の?」
「『安』と『之』か」
 関連性すら不明だ。ジュストはとりあえず、文字の横の地面に枝で『レ』と彫っておいた。
「広範囲に複数の文字を色々な素材で作るのは、1人では難しそうだが……1つ1つ手作業とも限らないしな……」
 どうやらジュストは、椿よりもパズルに気を取られているらしい。
(漢字のパズルだと、見つけた文字が1文字とは限らない……ここにあるのは2文字……)
 描かれた文字を踏まぬよう道を進んだフィーリアは、椿以外の木立の間に別の椿を見つけて目を丸くする。
「見て、ジュスト。あの、これ……」
 まるで、百合のように咲いている赤い椿があった。百合のような花弁をして、名前の札は百合椿(ユリツバキ)。
「これも椿なのか」
 見つけた文字をメモ帳に書き写してから、ジュストも百合椿を物珍しく眺めた。
(椿の、花は……一重の小さめ、のが、可愛い、けど……他のも)
 可愛い、とまた違う椿を見つけたフィーリアが、途中で蹴躓く。
「あっ」
「リア!」
 間一髪、彼女の腕をジュストが掴んだ。どうやら木の根に躓いたらしい。
「あ、ありが……と」
 礼を言ったフィーリアの目の先に、わざと残されたとしか思えない地面の直線が映った。
「あれ……」
 彼女を立たせたジュストが1歩先へ進むと、それは先の彼が描いた文字のように土を削って描かれた文字だった。
「えっと、……『都』と、お婆ちゃん……?」
「ああ。『都』と『婆』と『吉』みたいだ」
 法則性が掴めない。他にも文字を見落とさないように、2人は進む。
(閉園、間際なら……夕日、も、見られる……?)
 フィーリアは紅茶をひと口飲み、そんなことを思った。
「……文字、描い、てるの、って……誰、かしら? ……それに、どうして……?」
「安と之に、都、婆、吉か」
 2文字と3文字で固まっていたので、何か繋がりがあるのだろうか?
 こちらも紅茶で喉を潤しながら、ジュストはフィーリアの足元に気をやりつつ考える。
(東屋に着くまでに、何か解るだろうか?)



 脇を歩く刹那は、山歩きに慣れていないと以前に言っていた。
(ならば刹那に合わせ、緩く歩くとしよう)
 逆月は掌よりは小さな白の蝶千鳥(チョウチドリ)を横目に、速度を落として歩く。
「情報は多くあった方が、共通点は見つけ易い。だから、なるべく多く『文字』を見つけたい」
 そう話す刹那は少々張り切っているらしいと気づき、逆月は思い当たった。
(以前参加した際に、謎解きとやらが解けなかった故か)
 椿の木が山を作るこの場所は、椿の種類や位置も整然とはしていない。木の根や岩があちこちで剥き出しだ。
「椿に関係してるのかと思ってちょっと調べたけど……。春の訪れを告げる木ってぐらいしか分からなかったな」
 刹那は御所車(ゴショグルマ)と札の掛かった椿の木を見上げ、立ち止まった。明るい紅地で、花によっては白い斑が混じっている。
「花言葉は、たぶん関係無いだろうし」
 彼女の言葉を無視するでもなく聞いていた逆月が、唐突に口を開いた。
「夜、都、乎、それに乃……か」
「は?」
 あまりに唐突過ぎて、刹那は彼を振り返る。逆月は刹那の向こうにある拓けた地面を指差した。
「お前の探す文字、だ」
「!」
 落ちた椿の花びらだろうか、明るい紅が文字を象っていた。ところどころ崩れているが、刹那は携帯電話を取り出し写真を撮る。
「これだけじゃさっぱりだけど」
 夜の都で何かあったとか? と推論する彼女を、逆月は見返す。
「刹那は、椿よりもその文字に夢中だな」
 それは、そんなにも楽しいのだろうか。
 本当に不思議そうに尋ねてくる逆月へ、刹那は笑みを向けた。
「こういう資料集めみたいなのは好きだけど」
 それに、と彼女は続ける。
「植物は嫌いじゃないよ。私が1つに集中しちゃうだけで」
 ここに来ただけでも、いい気分転換になってる。
 返答に、そういうものかと逆月は納得した。
「1つの物事に意識を囚われる、か」
 それで今は椿を愛でるよりも、謎解きということか。
 逆月は御所車の花びらをそろりと撫ぜた。

 しばらく歩くと、また別の文字が地面に彫ってあった。
「今度は比、奇、能……か」
 さっぱり解らない、と零した刹那は、自分と違って椿ばかりを見る逆月へ問う。
「逆月は、何か浮かぶか?」
 単語なのか文章なのかもよく分からなくてと付け足せば、答えなど解らぬが、と彼は前置きをした。
「此の小山は、さつきの店長、と言ったか。彼の者が、一度は荒れたところを此処まで仕上げたのだろう?」
 色鮮やかな花の生る斜面をゆるりと見渡した彼は、なれば、と己の意見を述べる。
「此処の椿が、礼か何か告げたいのではないかと。そう思わなくも無い」
 刹那は一理ある、と腑に落ちた。
「魔法とかもあるし、そういうことがあってもおかしくは無いかもな」



 山の斜面は少し傾斜がきつい。潤は大輪の椿の並木におお、と声を上げた。
「ヒューリ、すごい、ね! この、椿」
 掌よりも大きな椿の花は春の台(ハルノウテナ)と札があり、淡桃色の中に紅色が縦に幾筋も入っている。八重の花びらが豪奢だ。
「ここの花は、相変わらず見事なものだ」
 潤の掌を覆う花は、ヒュリアスの知る椿の常識を覆してくれた。
 秩序立っていない並木をそれぞれに避けながら歩き、潤は緑茶のペットボトルで喉を潤す。
「……あ」
 そのとき目に入った地面に、椿のものであろう花びらが固まって見えた。
(もしか、して……)
 椿を1本挟んだ向こう側だ。そちらはヒュリアスが歩いていて。
「! ヒューリ!」
 ハッとした。
 風圧で花びらが崩れてしまうことを承知で、潤はがばりとヒュリアスの腰に抱き着き引き止める。
「な、なんだね?」
 マップに歩いてきた道を記していたヒュリアスは、彼女の突然の行動に驚き硬直した。潤はいつになく強い目線で、動くなとばかりに彼を見上げる。
「あ、足元!」
 ヒュリアスが言われるまま足元を見下ろせば、下ろす寸前の片足の下に花びらが並んでいた。彼から見て左へ、不自然な花びらと地面を削った線が続く。
 ここから見ると横になっているが、それは文字だった。
「……む。すまん」
 潤の剣幕に押され素直に謝ると、ヒュリアスは1歩後退した。謎を壊させはしない! とばかりの潤の剣幕は、珍しいものだ。
「花びら、と……枝? で、字が彫られてる、ね」
 美、等、母、安、可、米、也……?
「東から、西へ、の順番とか、も関係ある……のかな」
 椿の木々に沿い、1文字ずつ描かれた文字。メモを残すのはヒュリアスに任せ、潤は地面に枝でレ点を書いていった。
「椿……の庭園選んだの、意味が、あったり、とか?」
 文字を避けてまた歩き始めた潤は、思考に耽っている。彼女の様子におや? と感じたヒュリアスは、同時に別の声を聞き止めた。

 

 東洋原産の椿。椿という漢字も東洋のもの。
(見つけた字をパーツに分解して組み合わせるとか、見つけた字がパーツそのものになってるとか)
 瑞希はそんな予想を立てながら文字を探す。
「パズルを解くには、ヒントを沢山集めなきゃな」
 ほら、ミズキ。文字を沢山探そうぜ。 
 激励してくるフェルンに、瑞希も笑って頷いた。
「うん。頑張って探そう、ミュラーさん」
 周りには淡桃色の椿が咲いている。名前は楼蘭(ロウラン)。
「あ! あったよ、ミュラーさん!」
 瑞希が見つけた文字は、草地に花びらで描いてあった。
「都、良、々、か」
 なんて読むんだ? と考えるフェルンの横で、瑞希がスマホで文字を撮影する。
「何を使って文字が示されているか、もパズルの一環かも」
 花弁なら色も関係するとか? 木片使用の文字なら、木偏を追加するとかかもよ?
「あらゆる可能性を考慮した方が良いわ」
 ぽんぽんと推測を話す瑞希に、フェルンは感心した。
「そうか。ミズキは色々と考えるのが好きなんだな」
 俺はなんとなく感覚で決めちゃうけど、じっくり考えてみるのも良いと思うぜ。
「それに俺は直感型だから、他の人に巧く説明できないし?」
 笑う彼に、瑞希は山へ入る前の不安が杞憂であったと気がつく。
「あれ?」
 話し声が聴こえた。

「わっ!」
 ばったりと出会ったのは、潤とヒュリアスだ。ばったり過ぎて、瑞希は挙動不審になってしまう。
 潤がおずおずと来た道を指差した。
「今僕たち、が、来た道の文字、は、メモ済み、だ」
 見つけた文字も教えてもらい、瑞希はこちらも見つけたものを教える。
「……共通点が見えない」
 呻く瑞希に、潤も考え込んだ。
「……誰かへ、宛てた……想い? 椿姫、ふと思い出し、て」
「あのオペラの?」
 パズルを解くのに夢中で、潤はいつもの戸惑う雰囲気がない。
(……常に『謎』を傍においておけば、ウルの口下手ぶりは無くなるのでは)
 などと思ったヒュリアスだが、それでは駄目だろうと自分でツッコミを入れた。緑茶を飲みつつ、会話が一段落着くのを待つ。
「そう、だ。そこ、の…椿の色、とても、綺麗だった、よ」
 はにかみながら教えてくれた潤とヒュリアスと別れ、瑞希とフェルンは西へ西へと山道を歩いて行く。
「あ!」
 そこで見つけた別の文字。地面を彫る形で残っていた文字は4つだ。
「家、流、伎、美……?」
 本当に、分からない。傍に生えている椿は何枚もの白い花びらが重なった千重咲きで、名札は白菊(シラギク)とある。
 紅茶を飲み、フェルンは白菊をまじまじと見つめた。
「凄いな、この椿」
 スマホで文字を写そうとしていた瑞希は、思いついて彼の傍へ移動する。
「ついでに記念撮影しようよ」
 良いぞと首肯したフェルンは先の潤たちとの様子を思い出し、おや? と思う。
(パズルのこと考えてる所為か、瑞希が人見知りって感じじゃなかったな)



「文字は誰かへのメッセージなのかしら?」
 地面をきょろきょろと見回しながら歩くミオンの足取りは軽く、楽し気な様子にアルヴィンはこっそりと笑みを浮かべた。
(いつも、仕方なさそうに任務に着いていたし)
 ミオンはそんな彼に気づくことなく、前を歩く。山歩きは得意ではないけれど。
 文字があるなら人が踏み入った場所だろうと、アルヴィンはサバイバルのスキルを用い足跡を確認しながら進む。
「ミオン、あったよ」
 彼の視線の先には、落ちた花で象られた2文字。
「々と尓ね。なんて読むのかしら?」
 横にレ点を描き、メモにも記しながらミオンは首を傾げる。
 周囲に咲いている一重咲きの椿は初音(ハツネ)と名札が下がっており、濃桃色が葉の緑によく映えていた。

 岩肌の多い登り坂に差し掛かり、アルヴィンはミオンへ声を投げる。
「そこは滑る、危ないよ」
「!」
 注意虚しく滑って体勢を崩したミオンの手を取り、彼女を支えた。傾いた身体を元に戻して、ミオンはバツ悪く手を振り払う。
「大丈夫よ」
 疲れてきたのか、口数も減ってきた。アルヴィンは小さな広場になっている箇所を指し示す。
「あそこで少し休憩しようか」
 頷いたミオンは大きな岩に腰掛ける。服が汚れないか心配だ。
 緑茶を飲んで一息つく彼女の横でアルヴィンは水を飲み、周囲の椿に顔を綻ばせた。
「もうすぐ春だな。新芽に蕾、ほらあそこ。蝶も飛ぶよ」
 傾く日の中でそんなことを言われ、ミオンもようやく周囲へ目を遣った。ふと椿の効能を思い出す。
(椿油、お茶に整腸……)
 アルヴィンの示す先を見てみるが、蝶は見つけられない。
「暗いと分からないか」
 楽しげな彼に、少し山への興味が湧く。
 初音の他に太郎冠者(タロウカジャ)と札の掛かる桃色の椿が咲いており、美しさに溜め息が出た。
「綺麗……実際来ないと分からないものね。落ちた花も綺麗。絨毯みたい」
 でも、なんだか切ないわね。
 告げたミオンは、冷たい風にぶるりと身震いする。彼女の手は冷たい。
「寒い? 日が落ちてくると冷えるよな」
 暗くなってきたしそろそろ行こう、と手を引き立ち上がったアルヴィンを、ミオンは拒絶できない。
(あったかい……)
 ぎゅっと手を握り返した。もう少し、山を登らなければ。

 枯れ枝を集めた3文字の漢字……宇、恵、弖……を見つけた後、2人は瑞希とフェルンのペアと擦れ違った。見つけた文字を交換したが、謎は解けない。
「……全然分からないわ」
 今度はちゃんと椿も見ながら、ミオンは悩んだ。彼女が『フリ』ではなく本当に興味があるのを感じて、アルヴィンはどこか嬉しくなる。
「あ、東屋だ」
 彼の声に顔を上げれば、西日が山を照らす中にこぢんまりとした休憩所。他の参加者たちも集まっている。
「行きましょう」
 繋いだ手を離したときに過った想いを、ミオンはまだ上手く説明できない。



●黄昏の逢瀬に
 東屋のミユキの元へ集まり、皆で見つけた文字を地図へ書き出した。
「私の知識不足ですね……全然解りません」
 ああでもない。こうでもない。
 悔しげなミユキと共に皆で知恵を出していると、店長がやって来た。
「文字は見つかりましたか?」
 ほぼ全員でカバーした小山の道、文字は出来うる限り見つけた通りに書き写した。見ていた店長の指が、地図の右から左へと滑る。
「ミユキさん。私がなぞる順番に文字を書いてくれますか?」
「はい!」

 安之比奇能 夜都乎乃都婆吉 都良々々尓 美等母安可米也 宇恵弖家流伎美

 書かれた文字を、東から西へ書いた。
「それっぽいような?」
「漢字……しか、ないの……?」
「組み合わせて別の字に、ってわけでもなさそうね」
 アルヴィン、フィーリア、瑞希と感想を零し、むむ、と誰もが考え込む。
「……なるほど」
 店長の呟きで我に返った。
「これは、パズルでもなんでもありません。初めからこの通りに書かれていたようです」
「ですがさつきの店長。漢字は……?」
 ジュストの問い掛けに、これはと店長が続けた。
「ずいぶん昔の仮名文字ですね。これは万葉仮名と云って、歌詠みに使用するものですよ」
 店長は漢字の横に文字を書いていく。

 あしひきの 八峯(やつを)の椿 つらつらに 見とも飽かめや 植ゑてける君

「読めるようになったわ……」
 ミオンが感嘆の息を吐く。皆の意見を目を輝かせて聴いていた潤が、恐る恐る口を開いた。
「えっ、と。『つくづく見ても』……」

 つくづく見ても見飽きることがあるでしょうか、この椿を植えたあなたを

「うむ。さすがだな、ウルよ」
 史学科に通っているのも伊達ではない。ヒュリアスの褒め言葉に、彼女は照れたように笑った。
 もっとも、最近はミユキと潤が似たもの同士に見えてきた気もするが。
(喜ばしい……のか?)
 刹那が店長へ尋ねた。
「もしかしてこれ、店長のことを詠っているのでは?」
「椿の剪定はしていますが、植えてはいませんねえ」
 謎解きには加わらず夕日を眺めていた逆月が、小山に似つかわしくない崖を見つけた。
「あれは……?」
 東側、崖の端に根を絡めるように立つ1本の樹。赤い花が見えるので、あれも椿だろう。
 店長とミユキが外へ出るのに合わせて、皆も東屋を出た。
 夕陽が眩しい。
「数年前の豪雨で崩れた箇所です。あの椿は根が非常に長く、あのように崩れず残りました」
 逆光ではっきりとしないが、種類は黒椿。崖に近すぎてあまり手入れ出来ないことが店長の悩みらしい。
「この山の以前の持ち主は、『千年椿』と呼び敬っていたようです」
 黒椿の樹はちょうど皆の斜め先、太陽の沈む直線上にある。傾いた日の中に、椿の全容が影絵のように浮かび上がった。

 フワッ

 目の前に、紅の花びらが降る。
「えっ?!」
 黄昏の光の中で、はたりと布がはためいた。

 金地に紅と白の椿が描かれた、しとやかながら絢爛な着物。
 結い上げられた髪に挿された簪の先で、銀の飾りがシャランと鳴る。
 薄っすらと夕日に縁取りされた女性の形が店長の隣に寄り添い、朧に見える横顔で鮮やかな紅の唇が、微笑した。

 ブワッ!

 強風に煽られ、誰もが一瞬目を閉じる。目を開ければ、そこには何もない。
「えっ、えっ?」
 ミユキが忙しなく周りを見ているのを認めて、皆は今のが幻でも何でもなかったのだと思い直す。
「ん?」
 フェルンは、なぜか店長が1本の枝を持っていることに驚いた。少しの葉と、その先に黒紅色の椿が咲いた枝を。
「これは……?」
 店長は手にした椿をまじまじと見る。彼が何も持っていなかったのは、場の全員が証人だ。
「店長さん、の……椿、可愛い……」
 フィーリアは少しだけ、羨ましそうだ。

 いつの間にか店長が持っていた、黒椿の枝。逆月は彼の手にする黒椿と、夕日に照らされる黒椿の樹を見比べる。
 刹那が微笑んだ。
「案外、逆月が言ってたことが本当かもな」
 本当に、まるで礼の代わりみたいだ。

 不思議なこともあるものだと、ミユキと話す店長の手元。枝に咲いた黒椿。その椿にはもうひとつ、黒椿にはあり得ぬ真っ白な椿が共に咲き誇っている。『咲き分け』と言うのだそうだ。
「せっかくですから、挿し木にしましょうか」

 応えるように、黒椿の樹が夕日に梢を揺らした。


 End.



依頼結果:成功
MVP
名前:豊村 刹那
呼び名:刹那
  名前:逆月
呼び名:逆月

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター キユキ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月08日
出発日 03月16日 00:00
予定納品日 03月26日

参加者

会議室

  • [12]ミオン・キャロル

    2015/03/15-23:30 

    >印
    潤さんありがとう、私もレ点の印にしとくわね

  • [11]篠宮潤

    2015/03/15-19:42 

    「済」、だと、本来の謎文字、と、紛れてまぎらわしい…かなぁ;って気づい、て
    一応、ボクの方(というかヒューリの方)に、は、レ点チェック等、ってアバウト、にしてある、よ。
    全員共有、ってあれ、ば、共通のなにかしらのチェックマーク、になるかな…って…
    (単にいいチェック印が思いつかなかった末の苦肉の策←)

    今日、出発、だね…っ
    椿、も楽しみながら、がんばろう…!

  • >印
    …横に、「済」とか、…書いて、おく、の、ね…。
    …ん、…私も、そんな感じ、で…、プラン、書いて、おく、ね…。
    ミオンさん、潤さん…、…ありが、とう…。よろしく、お願い、します…。

  • [9]ミオン・キャロル

    2015/03/15-16:20 

    >印
    フィーリアさん、潤さんありがとう!
    そうよね、何か目印をつけたほうがいいわよね。
    これ以降は確認これるか怪しいので、今の所、こんな感じにしてるわ。

    ↓原文です
    庭園MAPがあれば貰う
    見つけた場所はメモと印(重複防止
    すれ違ったら情報交換

  • [8]篠宮潤

    2015/03/14-23:16 

    >フィーリアさん
    そ、そう、だね…っ。えっと、基本的に、地面に書かれた文字、みたいだから…
    見つけた人、は、その横に、「済」とか…書いておく、とか…?
    チェックマーク、あった、ら、メモ取らなくていい、感じに…する?

    リアルの、ご都合とか…で、すでにプラン提出済で、ここもう見られない方、もいるかもだか、ら、
    僕、か、ヒューリのプラン、に、「散策前に提案」っていう形、で、書いておこう、か?
    運が良ければ…それで、全員で共有出来る、かなー…なんて(行き当たりばったり性格)

  • …あの…、えっと、…その…、…ちょっと、気になった、ん…、だけど…。

    …文字、皆で…、手分けして、探す、のよね…?
    でも、途中で、皆と…、出会う、ことも…、あるみたい、だから…。
    見つけた、文字…、二重に、記録しちゃう、と…、パズル、解く時に…、迷うかも?、って…、思って…。
    二重に、読む、場合も…、あるかも…、だけど…。
    …一応…、見つけた、文字、に、…印とか、した、ほうが…、いい、かしら…?

  • [6]瀬谷 瑞希

    2015/03/14-20:23 

    こんばんは。瀬谷瑞希です。
    フィーリアさんとミオンさんお二方にはまたお世話になります。
    篠宮さんと豊村さんは初めまして。よろしくお願いします。
    パズルは苦手なので文字捜しを頑張ろうと思っています。

  • [5]ミオン・キャロル

    2015/03/14-09:33 

    ミオンです。
    皆さん、お久しぶりね。

    さつきの庭園にいくのは初めでわ。
    誰が文字を書いていくのかしら、解読のお手伝い頑張るわよ!

  • …えっ、と…、さつきのきつさ、に来ると…、素敵なものが、…見られる、から…。
    …潤さん、…また、お世話、に、…。

    …その、…フィーリア・セオフィラスです。パートナーは…、ジュスト・レヴィン…。
    皆さん、よろしく、お願い、します…。(ぺこり)

    …文字、いっぱい、見つけられるように…、頑張り、ます…。

  • [3]篠宮潤

    2015/03/11-23:01 

  • [2]篠宮潤

    2015/03/11-23:01 

    わっ。お久しぶり、な方々…ばかり、かなっ
    篠宮潤、と、パートナーはヒュリアス、だよ。
    フィーリアさん、は、さつきのきつさ、で、よくお会いする、ね(照れくさそうに笑顔向け)

    店長、と、みゆきさん、には、時々お世話になってる、んだけ…ど、
    実、は、パズル、挑むの、初めてで…わくわくする、かなっ

  • [1]豊村 刹那

    2015/03/11-22:45 

    豊村刹那と、逆月だ。
    よろしく頼む。

    謎解きに貢献できる気はしてないけど、
    できる限りたくさん『文字』を見つけたいと思ってるよ。


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