プロローグ
今年のバレンタインはトラブル続きだった。
バレンタイン城がボッカに占領されチョコ不足。ショコランドもオーガの瘴気で被害続出。
なんとかチョコをかき集めてオーガの目をかいくぐりミットランドにチョコを運んだカカオの精たちは、疲れきっていた。
「なんてこった……」
カカオの精、ビターは茫然自失の表情で呟いた。
この異常事態の中、懸命に働き任務を終えてショコランドに帰った矢先。
「ここは……どこなんだ」
見たこともない場所へと迷い込んでしまったのだ。
全体的に薄紅色の霧で覆われたこの場所は、いくつもの露店のテントが建てられており、見たことのない人間や妖精たちで活気づいている。
「すいません、ここ、どこですか」
ビターは、近くを歩いていた妖精におずおずと訊いた。中年女性のような見た目の妖精は、
「あらぁ、知らずにたどり着いたの?ラッキーだったわね。ここはバザー・イドラよ」
と朗らかに答える。
「バザー・イドラ?」
あの伝説の、彷徨えるバザー。王家に伝わる幸運のランプを使ってもなお、辿り着けないこともあるという。
いつものビターであれば、偶然彷徨えるバザーに辿り着けた幸運に、狂喜乱舞するところであっただろう。
しかし、今は。
「疲れた……もう、動けない……帰りたい……」
例年よりも過酷な勤務だったビターの体は疲弊しきっていた。やっと家に帰れる、恋人のホワイトに会える。それだけを心の支えに気力を振り絞ってショコランドに戻ってきたのに。
ビターは足を引きずるようにして人通りの少ない場所へと移動すると、その場にへたり込んだ。
(このまま、自分は消えちゃうのかな)
バザーには、美味しそうな食べ物の露店も多数出ていた。
空腹が満たされれば、帰る気力も出てくるのだろうが。
アクセサリーの露店もある。
(ああ、あのネックレス、ホワイトに似合いそうだな)
恋人の姿を思い浮かべつつ、ビターはそっと目を閉じた……。
そんなビターを見つけたのは、幸せの灯火を集めるためにバザー・イドラに訪れていたウィンクルムたちだった。
体力だけでなく気力も相当失っているカカオの精、ビター。
どうか彼を、元気づけてあげて欲しい。彼の帰りを待っているホワイトのためにも。
解説
このバザーでデートを楽しみ、かつ、カカオの精のビターを元気にしてあげてください。
バレンタインでの働きを労う言葉もかけてあげると、一層元気になるのではないでしょうか。
ビターが元気になって無事ホワイトの元に戻れれば、きっとそこに幸せが生まれることでしょう。
今回の彷徨えるバザーは、飲食店がメインのようです。
飲み物は1杯10Jrから80Jrまで。
ラインナップはお茶、ジュース、お酒、栄養ドリンクなどなど。
人気はアルコールの妖精が作った秘伝のカクテル80Jr。ほんのりチョコレート味で美味しいのですが、飲むと人格が変わるほど陽気になってしまいます。
食べ物は1皿30Jrから120Jrまで。
屋台風の食べ物が多いみたいです。焼き鳥、おでん、たこ焼き、チーズフォンデュ、ピザ、その他いろいろ……。
異国のスープもありますから、挑戦してみては?味の保障はいたしません。
上記のもの以外の飲食物も、探せばあるかもしれません。
いくつか、アクセサリーのお店もあります。
アクセサリーの値段は10Jrから10000Jrまで。
チープなビーズの指輪もあれば、珊瑚のネックレス、真珠の腕輪も。
しかし、露店ですから、品質が怪しげなアクセサリーも多くあります。高級品と謳われているものほどご注意を。
購入したアクセサリーはアイテム化はいたしません。
ゲームマスターより
露店、屋台って、なぜか心躍りますよね。なんでも美味しく感じてしまうというか。
お腹いっぱい、元気になれば自然と幸せになるような気がします。
少なくとも、私は美味しいものがあれば幸せです、はい。
ちなみに、ビター君はJrを持っていません。その旨ご了承ください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
ビターさん林檎飴どうぞ。 元気になったら急いで恋人さんの所へ帰りましょう? どう行けば早く帰れるかバザーの人に聞いておきます。 バレンタイン頑張ってくれたビターさんに、 今度は私達がお返しする番ですから。 グレンはアクセサリー見てたんですね。 わあ、可愛いのがいっぱい…目を瞑ればいいんです? こうですか?(何でしょう…ちょっと楽しみです) これ、本当に頂いていいんですか? …ありがとうございます、ずっと大事にします! お花だし、好きな色だし…でも何より グレンが私のために選んでくれたっていうのが 一番嬉しいんです。 繋いでくれている手は離さないように しっかり握り返します。 はぐれたくないし、少しでも長く触れていたいから。 |
フィーリア・セオフィラス(ジュスト・レヴィン)
「…ここ…、が、バザー・イド、ラ…?…にぎやか、な、ところ…、ね…?」 「…妖精、さん(ビターのこと)、…大丈夫…?」 とりあえず、地面にへたり込んでいると冷えそうなので、自分のマフラー外して、ビターさんに巻いてあげたら暖かいかも? それで、皆さん、色々考えてるみたいですし…。 疲れて動けないビターさんを、最初は皆さんのところへ運んであげたほうがいいのか、それとも一緒にお留守番…? …一人にしておくのは気になるので。 …デート? …一緒にいられれば、それでいい、かも。 あ、でも…、ジュストに、似合いそうなアクセサリーとか、あったら…、ブレスレット、とか…?…高いのは、買えない、けど…。 |
香我美(聖)
|
アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
ビター用飲食&お土産代 400jr 疲れている様子を見て、声を聞き取りやすい様に腰を屈めて話す いきなり何かを持ってくるよりも… 「アイリス・ケリーと申します かなりお疲れのようです。何か召し上がられませんか? お好きな食べ物や飲み物はありますか?」 疲れてるときには好きな物が染み渡ると思うので 品数が多くてもビターさんの負担になるかもしれません 皆が買いに行ってる間はビターさんの傍で様子見 食事で少し元気になったところにお土産を見ませんかと誘う 恋人がいらっしゃるのですか でしたら、彼女の笑顔が待ち遠しいですね 一緒にお土産を探していると、ラルクさんが何か買っているのに気付く 何かと思えば…すごく、意外で驚きました |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
ビターさんを元気づけたいの。 「バレンタインでプレゼントしたチョコ、ミュラーさんがとても喜んでくれたの。あなた達カカオの精のおかげよ」 とにっこり笑ってお礼を言うわ。 「素敵なチョコをありがとう」とお辞儀。 「このバサーに辿り着いたのも、戻った後ホワイトさんと素敵な時間を過ごせる何かがここで巡りあえるからじゃないかしら。きっと呼ばれたのよ」と。 甘い物食べると元気出るよね。 屋台でクレープ買ってビターさんにも食べて貰おう。 私もクレープ好きなの。 ミュラーさんも一緒に食べよう? ホワイトさんの好きそうな品物を一緒に捜しましょ? 琥珀のペンダントとか良いかも。 濃い色はビターさん。 薄い色をホワイトさんってペアはどう? |
客を呼び込む露天商の声。人々の談笑。美味しそうな匂い。珍しいアクセサリー。
「……ここ……、が、バザー・イド、ラ……?……にぎやか、な、ところ……、ね……?」
辺りを見回したフィーリア・セオフィラスはバザーの喧騒に圧倒される。
ジュスト・レヴィンはその隣で、冷静な目でバザーを見ている。
(一体このバザー、どんな理屈で存在しているんだ?どこから現れた?売られている商品はどうやって調達されているんだ?)
自分の常識を上回る事象が目の前で起こっているのだ、次から次へと疑問が湧いてくるのは当然のことだろう。
「……ね、ジュスト……いろいろ、見て、まわろう……よ……」
フィーリアに誘われ、ジュストは「そうだな」と頷く。一体この空間がどのように成り立っているのか。調べてみたい気持ちにかられる。
例えばそう、露店の裏側などは、どうなっているのか。
ジュストはすぐ傍にあるドリンクスタンドの脇をすり抜け、奥へ行ってみる。
何の変哲もない草原が広がっていた。
すると、フィーリアが声にならない悲鳴をあげ、ジュストの服に縋り付いた。
「どうしたんだ」
フィーリアの視線を追うと、そこに、茶色い塊がいた。
「……あ、あの、岩……かと、思った……の……」
フィーリアが岩と思ったそれは、のっそりと動いた。よく見るとそれは岩ではなく、カカオ色の衣服に身を包んだ、妖精だった。
「……妖精、さん、……大丈夫……?」
フィーリアが地面にへたり込んでいる妖精に声をかけると、妖精は疲弊しきった顔を上げた。
「君は、何者だ?」
ジュストが問うと、妖精は弱々しい声で答える。
「僕は、ビター……カカオの精」
それを聞いたフィーリアをジュストは顔を見合わせる。
「ミットランドにチョコレートを運んだ帰りに……、バザーに迷い込んで、帰れなくて……」
ビターの腹が盛大に鳴った。空腹なのだろう。
フィーリアは自分の首に巻いていたマフラーを外して、ビターにそっとかけてあげた。
「……このまま、じゃ……寒い、よ……?」
それからジュストを見上げる。
「……なんとか、してあげよう、よ……」
ジュストはビターの傍にしゃがむと、スキル「ファストエイド」をかけてみる。
しかし。
「ありがとうございます。でも、僕はもう駄目です。どうか、このまま放っておいてください」
ビターに気力が戻る様子はなかった。
「ファストエイドでも、空腹と精神的疲労は回復できないようだ」
「……それ、なら……せめて、もう少し、温かいところへ……行こう……ね?」
露店越しにバザーの中を見ると、フィーリアたちと同じように、幸運のランプでバザーにやってきたウィンクルムたちの姿が見える。
「仕方ないな」
ジュストは小柄なビターをひょいと片腕で抱え上げ、ビターをバザーの中へ運んだ。
「一体、どうしたんですか」
ジュストが連れてきたビターの様子を見て、アイリス・ケリーが声をあげる。
フィーリアとジュストがかいつまんで説明する。
「随分、疲れているようだな」
ビターの様子を観察していたラルク・ラエビガータの言葉に、アイリスは頷く。
アイリスはビターの傍に寄ると、ビターが声を聞き取りやすいように、と膝をかがめ、話しかける。
「アイリス・ケリーと申します」
後ろに控えていたラルクも、アイリスに倣って名を名乗る。
ビターの腹がきゅるきゅると寂し気な音を立てており、空腹なのがすぐにわかった。
疲れてるときには好きな物が染み渡るだろうと思ったアイリスは、訊ねる。
「かなりお疲れのようです。何か召し上がられませんか?お好きな食べ物や飲み物はありますか?」
「いいんです……僕なんて……このままここで、生涯を終えるんです」
「なんだか、やさぐれてますね」
「かなり落ち込んでいるみたいだ。お腹が減ると気分も滅入るものね」
香我美と聖が囁き合う。
「ビターさん、林檎飴どうぞ」
横からひょいっと、棒に刺さった林檎飴を差し出したのはニーナ・ルアルディ。
「そんなもの、いつの間に買ってたんだ?」
訊ねるグレン・カーヴェルに、ニーナはえへへ、と笑う。
「さっき、駄菓子の詰め合わせを見つけたので、思わず買ってしまいました」
ビターは林檎飴を受けとるも、
「いいですね……皆さんは、楽しそうにデートして……」
と、やさぐれモードのままだ。
「デー……ト?」
フィーリアはジュストの横顔を見上げる。
私たちって、デート、なのかな?などと考えながら。
「僕だって、ホワイトと一緒なら……」
「ホワイトさんって、恋人?」
瀬谷瑞希が訊くと、ビターはこくんと頷く。
「恋人がいらっしゃるのですか。でしたら、彼女の笑顔が待ち遠しいですね」
アイリスが優しく微笑む。
「だったら、尚更!元気になって急いで恋人さんの所へ帰りましょう?」
ニーナが力強くビターを見つめる。
瑞希も、ビターを元気づかせてあげたくなった。
「バレンタインでプレゼントしたチョコ、ミュラーさんがとても喜んでくれたの。あなた達カカオの精のおかげよ」
にっこり笑ってお礼を言う。
瑞希の後ろで、フェルン・ミュラーが1人、あたふたしていた。瑞希からチョコレートを貰った時のことを思い出して、嬉しさがぶり返してみたり、気恥ずかしくなったりしているのだろう。
「素敵なチョコをありがとう」
と瑞希が頭を下げると、やっと、ビターが少し笑った。
「……色々、大変だったからな。……お疲れ」
ジュストは今年のバレンタインを思い返し、ビターを労う。
「バレンタイン頑張ってくれたビターさんに、今度は私達がお返しする番です」
ニーナがすくっと立ち上がる。
「どう行けば早く帰れるかバザーの人に聞いてきます!」
「食べ物も必要ですね」
と、香我美。
「色々な屋台があるようだが、どれがいいだろうな」
ラルクが問いかけると。
「懐石料理……」
意外な答えが帰ってきた。が、おそらくそんなものはここにはない。
皆は手分けして、ビターが好みそうな食べ物を買ってくることにした。
しかし、弱っているビターを1人にしておくわけにもいかない。
「……一緒に、お留守番……しましょうか?」
「私も、ビターさんの様子を見ていますね」
ビターが気になるフィーリアとアイリスは、一緒に残ることにした。
「おいしそうなものを探してきますね」
「食べ物以外にも、元気になれそうなものがあるといいね」
香我美と聖はそう言ってバザーの露店を巡りはじめる。
「ワッフルにジェラート、ドーナツに蒸しパン、チョコレート……美味しそうなお店がいっぱいですっ」
ニーナは甘い香りに引き寄せられるままに、スウィーツの露店を梯子する。
グレンは別の店に興味を引かれたようだ。
「こっちは装飾品か、色々あるな」
タブロスでは見かけないようなデザインのものや、珍しい色合いの宝石で飾られたアクセサリーの露店だった。
「甘い物は後でゆっくりと漁るとして……」
グレンはアクセサリー露店の商品を吟味する。
「ん、このイヤリング……」
グレンの目に留まったのは、小さな、花モチーフの青いジュエルのイヤリング。
澄んだ海のような、晴れた空のようなその青は。
「あいつの目の色と同じ、か……」
イヤリングに手を伸ばしたグレンに、露天商が声をかける。
「お兄さん、女の子にプレゼント?そんな安物の石でいいのかい?たったの300Jrだよ。良い物が欲しいんならさ、こっちの1000Jrくらいのにしないと」
「いいんだよ、これで」
グレンは露天商のセールストークを遮って笑う。
高い石なんて買ったら、ニーナはむしろ恐縮するだろう。
こんな高いものいただけません、と焦ってプレゼントを突っ返してくるニーナが容易に想像できる。
グレンは青い石のイヤリングを購入し、視線でニーナの姿を探す。ニーナは少し離れたドーナツの露店にいて、グレンの姿に気付くとにこにこしながら駆けて来る。
「グレンはアクセサリー見てたんですね」
ニーナはあちこちの露店で買ったのだろう、いろいろな種類のスウィーツがたっぷり入った籠を抱えている。
「わあ、可愛いのがいっぱい」
露店のアクセサリーに目を細めるニーナに、グレンは
「ニーナ、お前ちょっと目瞑ってろ」
と言う。
「目を瞑ればいいんです?こうですか?」
素直なニーナは何の疑いもなく目を瞑り、くいっとわずかに顎をあげる。
これからグレンが何をするつもりなのかと期待に唇が微かにほころぶ。
「……っ」
グレンは瞬間、ヤバい、と思った。
自分でやらせといてなんだが、こうして目を瞑って見上げられてるこの状況は、何か色々試されているような気がする。
ニーナのふわっとした頬、ぷるっとした唇。「触れたい」という欲求をかきたてる。柔らかさを確かめたくなる。
その誘惑にのるか、のらないか。
いや、ニーナ自身にグレンを試すつもりなど毛頭ない事はよくわかっている。しかし、あまりに無防備にこんな顔を見せられると……。
(少しくらい警戒心持ってくれ、頼むから)
懸命に欲求を振り払いつつ、グレンは先ほど購入したイヤリングを、彼女の耳に付けてやる。
「いいぜ、店の鏡見てみろよ」
グレンに促され鏡を覗いたニーナは、両耳に付けられたイヤリングに目を瞠る。
「素敵!あの、これ……」
「やるよ。似合いそうだから」
「頂いて、いいんですか?」
グレンは頷く。
「……ありがとうございます、ずっと大事にします!」
ニーナの顔に喜びの笑顔が広がる。
「お花だし、好きな色だし……でも何より……」
ニーナは視線を落とし頬を染める。
「グレンが私のために選んでくれたっていうのが、一番嬉しいんです」
「な……大げさだな、安物だぜ?」
グレンは照れ隠しなのか、さっとニーナの手をとると、
「俺はまだ食べ物見てねーんだよ、あっち探しに行くぞー」
と歩き始める。
「はい」
ニーナもしっかりとグレンの手を握り返す。
人々の行き交うバザーの中、はぐれたくはないし、それに何より……少しでも長くグレンに触れていたいから。
甘い物好きはニーナだけではないようだ。
「甘い物食べると元気出るよね」
フェルンと共にバザーを回っていた瑞希がクレープ屋台で立ち止まる。
「クレープ買ってビターさんにも食べて貰おう。私もクレープ好きなの」
(ミズキは甘い物が好きなのか)
フェルンと瑞希は契約してまだ間もないけれど、こうやって相手のことを一つ一つ知っていくのは、不思議と楽しかった。
「ミュラーさんも一緒に食べよう?」
瑞希の誘いに、フェルンは、いいだろう、と頷いた。
「何にしよう、うーん……」
瑞希は真剣な表情で悩み始める。
「チョコバナナ……いいえ、イチゴ生クリーム……でもでもやっぱりチョコバナナ?」
フェルンは思わず吹き出しそうになる。
チョコバナナとイチゴ生クリームのどちらにするかで、人生の選択を迫られているかのような表情で悩むとは。
「そんなに悩むなら、両方にする?」
フェルンが訊くと、瑞希は即座に首を横に振り、
「体重増えちゃうから」
と呟く。
そんな瑞希が可愛らしく思えてフェルンは微笑むのだが、おそらく、瑞希本人には重大問題なのだろう。
やがて瑞希は一大決心!と言わんばかりの表情で、
「じゃあチョコバナナ」
と、店員にJrを渡す。
くすくす笑い出したいのを我慢しつつ、フェルンは
「俺?フルーツミックスにしようかな」
と、こちらも店員にJrを渡す。結局イチゴ生クリームはビターの分として買うことに。
瑞希たちがビターの元に戻ると、丁度ジュストも飲み物を買って戻ってきたところだった。
「いくら空腹でも、疲労困憊な状態でいきなり食べるのは胃に良く無さそうだし、最初は温かい飲み物とかがいいんじゃないか?」
と、ジュストが差し出したのはホットココア。
ジュストは「ほら」と、フィーリアにもホットミルクティーを差し出した。マフラーをビターに貸して冷えているだろうと気遣ってのことだった。
「……あり、がとう……」
フィーリアは温かいミルクティーを喉に流し込み、ふぅっと息をつき微笑む。
「……温まる、ね……」
ビターも甘く温かい飲み物に少し元気が出たようで、口元に笑みが浮かぶ。
「美味しいクレープもどうぞ」
瑞希がビターにイチゴ生クリームのクレープを差し出す。
「ここのクレープ屋さん、たくさん生クリーム入れてくれたの」
クレープを語る瑞希はとても幸せそうだ。
瑞希がチョコバナナのクレープを齧る姿を見て、ビターとフェルンも自分の分のクレープを食べ始める。
「お、い、し~~っ」
至福の表情の瑞希を見て、フェルンがくすくす笑う。彼女の鼻にちょこんとクリームがついていたから。
しかし、ココアにクレープ、と甘い物が続けば、そろそろ違う味も欲しくなる頃合いではなかろうか……。
そこにタイミングよく、香我美と聖がおにぎりの入った籠を、ラルクがおでんが入った容器を持って戻ってくる。
ほかほか、湯気の立つおでん。味のしみた大根、卵、がんもにちくわ、そしてふき。
食べればほっこり、疲れが癒されそうである。
「アンタには、こっち」
ラルクがアイリスに差し出した袋の中には、パック詰めされた美味しそうなたこ焼き。ソースの香りが食欲を誘う。
「そして俺は、これだ」
にやりと笑うと、ラルクは自分用に購入した酒の紙コップに口をつけようとする。
「ラルクさん。お酒の前に、一言ありますよね」
アイリスがラルクを肘でつつく。
「ビターさんはバレンタインで頑張ってくれたんですよ」
小声で言われるも、他人をいたわる言葉をかけるなんて、ラルクは不得手である。
「あ~~、そう、だな」
ラルクはアイリスをジトっと見てから、ぶっきらぼうに言う。
「クタクタになるのはな、真面目に働いた奴だけだ。アンタ、相当頑張ったんだな」
これ以上の気の利いた言葉は出てこない。言いなれないことを言った照れ隠しか、ラルクは酒をぐびっと一口。
「そうですよね、ビターさん、すごく頑張ったんだと思います」
香我美がにっこりして、何種類ものおにぎりが入った籠を差し出す。
「みんなで食べましょう」
そこへ、
「食後のデザートもいかがですか」
と、スウィーツの籠を抱えたニーナとグレン。
「ここからショコランドへ帰る方法も聞いてきました。西のはずれにいる占い師さんにお願いすると、帰り道が現れるそうですよ」
ちなみに、帰る方法は毎回同じではないらしい。なんとも不思議なバザーである。
皆は、買って来た物をビターに分けつつ食べ始める。
笑顔の戻ったビターは、ウィンクルムたちにいろいろな話をしてくれた。
バレンタインの話、お菓子の話、そして、恋人の話……。
和気藹々と談笑していると、香我美が、ニーナの耳元に目を留める。
「あら」
そこに、数十分前まではなかったイヤリングを見つけたのだ。
「お花のイヤリング、素敵ですね。バザーで買ったんですか」
香我美が訊くと、ニーナはほんのり頬を染める。
「はい、あの、グレンが……」
はにかみつつグレンを見上げるニーナ。
「プレゼントなのね!素敵!」
瑞希が瞳をきらきらさせる。
アイリスは、ニーナとグレンの様子を羨ましそうに見つめるビターに気が付いた。
「少し元気になったようですし、お土産を見ませんか」
と、声をかけると、瑞希も
「ホワイトさんの好きそうな品物を一緒に捜しましょ?」
と促す。
そこで、アイリスとラルク、瑞希とフェルンがビターと共にホワイトへのお土産を買いにいくことになり、他の皆は、それぞれバザーを楽しむことになった。
「もしかしたら、珍しい古本を売っているかもしれません」
「探しにいこうか」
と、香我美と聖。
「俺たちも、もう少しあちこちぶらつこうぜ」
グレンが言うと、ニーナが
「食後のお散歩ですね」
と、にっこり笑う。
「……リアは、見たい店はないのか?」
ジュストに訊かれ、フィーリアは考える。
「……あ、の……じゃあ、アクセサリー、とか……」
ジュストは頷き、フィーリアと共にアクセサリーの店を目当てに歩き始める。
並んで歩きつつ、フィーリアは、ビターに「デート」と言われたことを思い出す。
これが「デート」なのか、と問われれば自信を持って「そうだ」とも言えない。けれど。
(……一緒にいられれば、それでいい、かも)
フィーリアにとって、デートが否かより、ただ、ジュストと共にいる、それだけでいいのだ。
でも、今日は。ただ一緒にいるだけではなく、ジュストに何か、してあげたかった。先ほど、グレンがニーナにプレゼントしたイヤリングを見たせいかもしれない。
フィーリアは、天然石のアクセサリーが並ぶ露店の前で脚を止め、シートの上のブレスレットを吟味する。
(……高いのは、買えない、けど……)
フィーリアは小さな虎目石と黒のビーズが交互に通されたブレスレットを手にした。
「……それがいいのか?」
フィーリアはこくんと頷く。
「……ジュストに……似合いそう、だから……」
「僕の?」
無表情なジュストには珍しく、少し驚いた顔をした。
「……着けて、くれ、る?」
不安そうに訊くフィーリアに、ジュストは無言で頷いた。彼の表情は、微かに笑んでいるようにも見えた。
アイリスたちは、アクセサリー関連の露店が並ぶ一角に来た。
「ホワイトさんには、どんなものが似合うでしょうか」
紅い石に蒼い石、丸い石に四角い石、ブレスレットにペンダント、イヤリング、チョーカー……。種類が多すぎる。店を巡りながら、アイリスはどれがいいかと悩む。
「俺は、さっきの店をもう一度見て来る」
ラルクがそう言ったのも、聞こえていないくらいだった。
ビターは、吊り下げられているペンダントに目を引かれたようだ。
「恋人へのプレゼントかい?ならこういうのはどうだ」
露店商が、大きなガーネットのペンダントを勧める。
「う~ん……もう少し、落ち着いた感じで……」
ビターは考え込む。
「それなら、これはどうかな」
瑞希が琥珀のペンダントを手にとる。
「色味が薄いのと濃いのがあるんだな」
「どちらも綺麗ですね」
フェルンとアイリスは、瑞希が手にした琥珀のペンダントを覗き込む。
「濃い色はビターさん。薄い色をホワイトさんってペアはどう?」
瑞希が提案する。
「いいですね」
アイリスは同意し、
「どんな形のものにしますか?」
と、ビターに訊いた。
ビターはしばし、真剣に、数ある琥珀のペンダントを見比べる。
そして、銀の鎖に控えめな大きさのオーバル型の琥珀が付いたペンダントを選んだ。
「これが一番、ホワイトに似合うと思うんです」
ビターの言葉に、露店商がひやかす。
「何が一番似合うのか、大切な人だからよくわかる、ってね」
照れるビターに、アイリスと瑞希は、同じ形で濃い色の琥珀のペンダントを探し、ビターが選んだペンダントと一緒に購入した。
そこへ、ラルクが戻ってくる。その手に無造作に、白いカチューシャを持って。
「ラルクさん……」
それは、どうしたんですか?とアイリスが訊く前に。
「ほれ、動くな」
ラルクはカチューシャをアイリスの髪に差し込む。
「さっき通り過ぎた露店で見つけたんだ」
カチューシャをしたアイリスを見て、ラルクは唇の端をあげて満足そうに微笑む。
思ったとおりだ。白いカチューシャは、アイリスの肌の色に良く合い、さらに、彼女の艶やかな栗色の髪の美しさを引き立たせる。ラルクはこのカチューシャが視界に入った瞬間、アイリスによく似合うと直感したのだ。
ラルクが自分にプレゼントを買ってくるなんて、あまりに意外でアイリスはしばし言葉を失ってしまう。
「ケリーさん、鏡、鏡!」
瑞希に促され、アイリスは露店の鏡を覗き込む。
自分でもはっとするほど、カチューシャはよく似合っていた。
何が一番似合うのか、大切な人だからよくわかる……。露天商の言葉を胸の内で反芻し、瑞希は、素敵ね、と笑った。
ビターはお土産を手に、占い師教えてもらった帰り道で、ショコランドに帰っていった。
出会った時とは違う明るい笑顔で、「ありがとう」と大きく手を振りながら。
ビターを見送ったウィンクルムたちは、それぞれが持っていた幸運のランプに、いつの間にか火が灯っていることに気が付き、皆で微笑み合うのだった。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:アイリス・ケリー 呼び名:アイリス、アンタ |
名前:ラルク・ラエビガータ 呼び名:ラルクさん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 木口アキノ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 02月26日 |
出発日 | 03月04日 00:00 |
予定納品日 | 03月14日 |
参加者
- ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
- フィーリア・セオフィラス(ジュスト・レヴィン)
- 香我美(聖)
- アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
- 瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
会議室
-
2015/03/01-20:22
こんばんは、瀬谷瑞希です。
香我美さんとニーナさんは初めまして。
ニーナさんとアイリスさんは、
引き続きよろしくお願いします。
ビターさんが少しでも元気になりますように。
微力ながら何かしてあげたいです。 -
2015/03/01-19:14
…えっと、その、…フィーリア・セオフィラス、です。
…あの、…初めまして…、皆さん、よろしくお願いします…。(ぺこり)
…ビターさん、疲れて、動けないみたい、ですし…。
最初は、運んであげたほうが…、いい、かしら…? -
2015/03/01-11:57
アイリス・ケリーと申します。
香我美さんは初めまして。
瑞希さんとニーナさんは引き続きよろしくお願い致します。
ビターさん、元気になってくださればいいのですが……。
美味しそうなものをあれこれ探してみますね。 -
2015/03/01-01:12
-
2015/03/01-00:24