プロローグ
●砂糖菓子の森に酔う
「砂糖菓子の森に咲く、砂糖漬けの菫の花を摘んできてほしいのです」
甘いパステルカラーの世界・ショコランドにて。貴方とパートナーは、虹の羽を生やした愛らしい妖精からの依頼を受ける。
「先に森に入った妖精が森で角の生えたバケモノを見たというものですから、僕たち妖精は森へ入れなくなってしまって……」
オーガらしきバケモノを見た、というのならもっと大事になってもいいような気がするのだが、依頼の内容はウィンクルム1組で菫の花を摘んできてほしいというものだ。あまりにも不用心が過ぎるのではないかと指摘すれば、妖精は眉を下げて苦笑いをした。
「実は、その証言というのがもう全然当てにならないんです。その、バケモノを見たという仲間は、もうぐでんぐでんに酔っぱらっていたものですから」
何でも、砂糖菓子の森に漂う甘い香りは、森に入る生き物を酔わせてしまうのだという。 酔いの程度は人それぞれだが、菫を摘みに行って砂糖の香りにすっかり酔ってしまった妖精がそう広くもない森で迷子になったり、不思議なものを見たと言い出すのもよくあること。バケモノを見たと証言した妖精も砂糖酔い(と、その現象を妖精たちは呼んでいるらしい)がかなり激しい性質だったのだとか。それに、万一森に危険なモノが迷い込んでも、それだって間もなく砂糖酔いの餌食だ。目撃証言があった日からずっと森にいるのならば、どう考えてもまともに戦える状態ではないはずなのだと妖精は言う。
「ですので、本当は危ないことなんてちっともないはずなんです。でも、オーガらしきものが出たとなると、その真偽が定かでなくても僕らは森には入れない」
ウィンクルムが菫の花を無事摘んできてくれれば、妖精たちは砂糖漬けの菫を手に入れることができるし、森にオーガが出ないことも証明できる。
「ですからどうか、よろしくお願いしますね。ああでも、砂糖酔いにはどうか気を付けて」
そう言って、虹の羽の妖精は、妖精サイズの可愛らしい花籠を貴方へと差し出した。
解説
●目的
砂糖菓子の森に咲く砂糖漬けの菫の花を、妖精の花籠いっぱいに摘んでくること。
この目的を達成すれば、森にオーガが出ないことも証明されて妖精たちが助かります。
つまり、森にオーガは出ません。安全です。
●砂糖菓子の森について
ショコランドにある、森の全てが砂糖菓子で出来たメルヘンな森。
砂糖漬けの菫の花は森の奥に咲いています。
砂糖の甘い良い香りが森中に漂っていますが、ずっと森にいると砂糖酔い(気持ち良くお酒に酔ったような状態)になってしまいます。
酔いの程度には個人差がありますが、お酒に強い方でも例外なく砂糖酔いいたしますのでご注意を。
また、お酒に弱い方でも気分が悪くなったりはしませんのでご安心くださいませ。
砂糖漬けの菫の花を摘み終わるくらいには、お二方とも砂糖酔いしているかと思います。
●その他注意点
リザルトはお二方が砂糖酔いした辺り(菫の花を摘み終わった辺り)からの描写がメインとなります。
が、それ以前の部分に重きを置いたプランが希望! というのも問題ございません。
また、他の参加者様と森で出会うことはございません。
なお、このエピソードはハピネスではなくアドベンチャーとなります。
親密度の上昇がないこと等をご了承の上ご参加くださいませ。
ゲームマスターより
お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださりありがとうございます!!
メルヘンな砂糖菓子の森で、お砂糖に酔ってみませんか?
完全に2人きりですので、酔いも手伝ってちょっとしたハプニングがあったりしても楽しいのではないかなぁと。
親密度も参照いたしますが、酔っているということで判定も甘め予定です。
但し、親密度は加算されませんことをご了承くださいませ。
お二方がどんなふうに砂糖酔いするのか、プランに入れ込んでいただければと思います。
節度のある砂糖酔いを楽しんでくださいね!
皆様に楽しんでいただけるよう全力を尽くしますので、ご縁がありましたらどうぞよろしくお願いいたします!!
また、余談ではありますがGMページちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)
菫の砂糖漬け美味しそうでしたね。 お仕事も無事終わりましたし。なんだかとってもいい気分です♪ 体がっていうよりは心がふわふわしてる感じ。 お仕事終わっちゃったんですよね…そしたらイヴェさんとお別れしなきゃなんでしょうね。 …イヴェさんイヴェさんもうちょっと一緒に居ませんか。 (今ならいつもよりもイヴェさんに近付けそうな気がします…) (精霊に抱き付く) えへへ、イヴェさん、イヴェさん。大好きですよー。 イヴェさんが好きって言ってくれたから私少し自信がわきました。イヴェさんは妹じゃなくて私を見てくれるから…。イヴェさんの隣にいるなら今よりもっと可愛くならなきゃね。いつかイヴェさんが飽きちゃわないように…私は…。 |
夢路 希望(スノー・ラビット)
念のため道中はオーガを警戒しながら進みます 「本当に、砂糖菓子で出来ているんですね」 辺りを見て感動していると 漂う香りに意識がふわふわ 森の奥へと着いて菫摘みを終える頃には すっかり酔ってふらふらに 「ん~…ふふ、大丈夫ですよ」 ほら、ちゃんと歩け…っとと うふふ、だめでした! 何だかおかしくて笑いながら 抱き留めてくれた胸は温かく、離れたくなくて 「ユキも、甘いね」 いいにおいって顔を埋めながら 「私も、好き」 ユキにこうされるの …うふふ、言っちゃった! 「早く戻らないと、妖精さんが待ってます」 差し出された手を取って上機嫌で帰路へ 酔いから醒めたら 記憶はあり羞恥と自己嫌悪 ユキは、えっと…な、何もっ ただ、私が…あんな…うぅ |
豊村 刹那(逆月)
何処も彼処も砂糖漬けか。不思議な光景だな。 奥か。一応、注意して進むか。 周囲に注意し花篭に菫を摘む。 ふわふわして思考が定まらない。これは初めてだ。 普段からそんな飲まないし。こんな酔うまで飲まねえからなあ。(酔いで気が緩み地が出て、堪えが利かない 逆月、こっち向け。(頬を両手で掴む おまえ面白いよな。顔にまで鱗あるとか初めて見たときびっくりしたんだぜ? 嫌いじゃねえよ。(額と額をつける 私なんかが契約相手で悪いとか思ってるし。 だって、おまえ。 私はおばさんで、おまえの方がめちゃくちゃきれいだろ。 言ってなかったか? 三十路だぞ。 だから嫌じゃねぇって。 酔いが醒めた後: (何やってんだ私は……!)(失態を晒し自己嫌悪 |
アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
ラルクさんが、甘い嫌い匂いが駄目でなくてよかった 苦手だったらこの任務を受けたいなんて言えませんでしたから 菫についた、砂糖の粒がきらきら光って見えて綺麗 ふふ、本当に普通じゃ有り得ない不思議な場所ですね でもそれって、すごく楽しくありませんか? 見たことがないもので溢れてるんですもの ああ、なんだかすごくふわふわしてて、いい気持ち ハミングして、時々後ろを歩くラルクさんを振り返ったり、森の植物を見る為に立ち止まったりしながら帰り道を進んでいきます 気のせいかもしれないけれど、いつもよりラルクさんの目が優しい 何故だか姉様を思い出して、すごく懐かしくて心地いい 掛けられる言葉に、はいと返事をするけれど 今はこのまま |
淡雪(ノエル)
菫、このぐらいあれば大丈夫でしょうか…? 今まで特にオーガの気配もなかったですし、本当に安全な森みたい、ですね それにしても甘くて良い香り、ですね 頭がふわふわっとします… これが、砂糖酔いでしょうか? 赤いです? ノエルもうっすらと赤いですよと真似して精霊の頬を掴んでみる 精霊が離すまで離さない なんだか、のぼせたような感じです お酒を飲むとこうなるんでしょうか… 私にはまだまだ先の長い話、ですね …それはそれで、勿体ないかもですね? 確かにぽかぽかとしていて、気持ちがいいですが… 本当に、寝てます?(ほっぺつんつん 寝てますね…、どうしましょう でも幸せそうな顔してますね… 私も、少しだけ 本当に少しだけ、少しだけですよ… |
●お砂糖よりも甘い
「本当に、砂糖菓子で出来ているんですね」
森の中は、甘い砂糖菓子の世界。メルヘンな景色に、夢路 希望は思わず感嘆の声を上げた。オーガへの警戒は怠っていないけれど、ついついあちらへこちらへと目を奪われてしまう。そんな希望の姿に、スノー・ラビットは赤の瞳を和らげて。
「可愛くて面白い場所だね。でもこの香りは……確かに酔っちゃいそう」
「そう……ですね。心がふわふわするような香りです」
森には、蕩けるような甘い香りが漂っている。砂糖に酔ってしまう前にと、2人は森の奥へと急いだ。
(何だか、いい気持ち)
森の奥。咲き誇る砂糖漬けの菫の花を摘みながらスノーはぼんやりと思う。お菓子の花からは上品な、けれどどこまでも甘い匂いがしていて、摘んでいるうちにいつの間にかふわり酔い心地。それでもちゃんと籠いっぱいの菫を摘み終えて――ふとスノーは、傍らの希望へと視線を遣った。
「ノゾミさん?」
名前を呼ぶ。焦げ茶めいた黒茶の瞳をとろんとさせた希望の顔は真っ赤だった。実は、森の奥へ辿り着く前から仄か酔いが回っていた希望。今や完全に、甘い砂糖の香りに酔ってしまっていて。
「ん……ユキ、何ですか?」
やや緩慢にスノーへと顔を向ける希望のその声も、どこか甘い響きを帯びていた。
「ノゾミさん、大丈夫?」
「ん~……ふふ、大丈夫ですよ」
ふにゃりと笑んで、希望はふらふらと立ち上がる。心配顔でそれに倣うスノー。
「ほら、ちゃんと歩け……っとと」
「わ、ノゾミさん……!」
ふらつく彼女を支えようと手を伸ばせば、希望はそのままスノーの腕の中に収まった。
「うふふ、だめでした!」
スノーにその身を預けて、希望は無邪気に笑う。何故だかわからないけれど、可笑しくて楽しくて堪らない。それに、スノーの腕の中は心地良くて、離れたくなくて。希望はぎゅっとスノーにひっついた。
「ふふ、ユキ、あったかいです」
顔を上げてスノーへと笑み掛ければ、釣られたように返る微笑み。そのまま希望は、スノーに優しく抱きすくめられた。
「……ノゾミさんからも、甘い香りがする」
言ったスノーの口元が、柔らかく緩む。砂糖とはまた違う甘い香りに何だかもっとふわふわした気分になって、スノーは希望をぎゅーっとした。希望がくすぐったいように笑う。
「ユキも、甘いね。いいにおい」
自分の胸に顔を埋める希望の黒茶の髪に、彼女を抱き締めたままでスノーは指を通らせた。
「ノゾミさん……好き」
「私も、好き」
甘い言葉が、重なる。僅か目を見開いたスノーへと零される、言葉の続きは。
「私も好きです、ユキにこうされるの」
うふふ、言っちゃった! と希望は上機嫌だ。スノーはくすりとした。
(『好き』の意味は違ったけど……嬉しい)
今はそれだけで胸がいっぱいだと、温かな想いごと彼女を抱き留めるスノー。その温もりを離すのを惜しみながらも、やがてスノーは希望へと声を掛けた。
「ノゾミさん、そろそろ帰ろうか」
「あ、そうですね。早く戻らないと、妖精さんが待ってます」
片方の手に甘い菫の籠を持ち、言葉とは裏腹にやはり足元の覚束ない希望へと、スノーは空いている方の手を差し出した。
「転んだら危ないから……繋ごう?」
「ありがとうございます、ユキ」
希望が機嫌良くスノーの手を取る。手に互いの温もりを携えて、2人は森を後にした。
「ねえ、ノゾミさん。僕、何か変なこと言ったり嫌なことしなかった?」
妖精に菫を渡した帰り道、スノーは首を傾げて希望へとそう尋ねた。酔いが晴れてみれば、記憶が一部曖昧で。対する希望は、森での出来事の一部始終をしっかり覚えていた。
「ユキは、えっと……な、何もっ。ただ、私が……あんな……うぅ」
羞恥と自己嫌悪に、段々とか細くなる希望の声。すっかり俯いて「ごめんなさい」と小さく呟いた希望の耳元に、スノーはそっと囁きを零す。
「……可愛かったよ? いつもと違うノゾミさん」
「……!」
真っ赤になる希望に、スノーはにっこりと笑みを向けた。
●緩んで零すは
「何処も彼処も砂糖菓子か。不思議な光景だな」
眼鏡の奥の黒の瞳を景色の眩しさに細めて、豊村 刹那はそう零した。
「甘い匂いに頭の奥が痺れるような心地だ。砂糖酔い、と言ったか」
酒を飲まずとも酔えるのだな、と淡々と、けれどどこか興味深げに呟いた逆月の方を呆れ顔で振り返る刹那。
「逆月、まだ酔うには早いぞ」
「判っている、問題ない」
「ならいいけど……よし、奥か。一応、注意して進むか」
そうして2人は、オーガへの警戒は怠らずに森の奥へと進んでいく。
「菫は……これで良いだろうか」
小さな花籠には、砂糖漬けの菫が溢れんばかり。逆月、先の言葉への応えを待ったが、反応がない。傍らの刹那へと赤の視線を遣れば――彼女はどこかぼんやりとした表情で手に摘み取った菫の花を見遣っていた。
「刹那」
「……ん?」
呼べば、蕩けたような視線が逆月へと向けられる。
「大事ないか」
「ん……ああ。なんか、ふわふわして思考が定まらない。これは初めてだ」
手に菫を弄びながら答える刹那の口元は、ゆるりと柔らかに緩んでいて。
「刹那、楽しそうだな」
「普段からそんな飲まないし。こんな酔うまで飲まねえからなあ」
「そうか」
逆月が返せば、何が可笑しいのか刹那は笑う。本人にあまり自覚はないようだが、酔いに気が緩んだせいですっかり地が出てしまっている刹那。菫を籠へと放り込むや、ぐいと逆月の方へと身を乗り出した彼女の身体の倒れそうなのを、逆月はそっと支える。此処まで気の緩んだ刹那を見るのは初めてだと思いながら。
「逆月、こっち向け」
堪えも利かなくなってしまっている様子で、刹那は両手で、ぎゅうと逆月の頬を掴む。その力は強かったが、頭にクエスチョンマークを浮かべながらも、逆月は逆らうことなく、じっと刹那の顔を見つめた。刹那はやはり笑っている。
「おまえ面白いよな。顔にまで鱗あるとか初めて見たときびっくりしたんだぜ?」
「確かに他に見ぬ。見慣れぬものは嫌か」
「嫌いじゃねえよ」
言って、刹那は自分の額を逆月の額にこつりと合わせた。そのまま崩れ落ちるように凭れかかってくる刹那を、抱える逆月。
「……私なんかが契約相手で悪いとか思ってるし」
不意に、笑みを含んだままの刹那の声に先までとは違う色が滲む。その色を確かめようとした逆月だったが、自分に力なく凭れる刹那の顔は――その表情は窺えない。だから。
「何故」
逆月は短く問うた。刹那が答える。
「だって、おまえ。私はおばさんで、おまえの方がめちゃくちゃきれいだろ」
「刹那は、俺より年嵩なのか?」
「言ってなかったか? 三十路だぞ」
「そうは見えぬな」
「童顔なんだよ」
言って、刹那はやはり少し笑った。相変わらず表情の窺えぬ相手へと、逆月は問いを重ねる。
「自分よりきれいな男は嫌いか」
「だから、嫌じゃねぇって」
「……そうか」
否定の言葉が、胸に過ぎらせたのは柔らかな安堵だった。そんな想いを抱いた自分を不思議に思いながら、逆月は言葉を零す。
「刹那、立てるか」
「ん……なんか、立てねえ」
「そうか。……籠は持てるな?」
こくりと頷く刹那の手に、逆月は菫の溢れる花籠を持たせてやる。そうして、逆月は刹那の身体を抱え上げた。
「用も済んだ。戻るぞ、刹那」
本人は返事のつもりか、言葉としての意味をなさない声が刹那の唇から漏れる。そのまま寝入ってしまいそうな様子の刹那の表情に先ほど覗かせた色が僅かでも残ってはいないかと逆月は目を眇めたが、そこにはもう、逆月が探そうとしたものは残っていなかった。酔いから醒めた刹那が、「何やってんだ私は……!」と失態を晒してしまったことに自己嫌悪し頭を抱えるのは、もうしばらく後の話。尤も逆月はと言えば、そのことを少しも気にしてはいないのだったが。
●あたたかな微睡み
「菫、このぐらいあれば大丈夫でしょうか……?」
妖精の花籠には、いっぱいの菫砂糖。小首を傾げる淡雪へと、ノエルはにっこりと笑み掛ける。
「うん、これだけあれば充分だと思うよ。お疲れさま」
ノエルの言葉に一つ息をついて、淡雪は森の景色へと青の視線を移した。甘い甘い、砂糖菓子の森。
「今まで特にオーガの気配もなかったですし、本当に安全な森みたい、ですね」
「そうだね、平和そのものだ」
淡雪の言葉に応えて、ノエルはふわりと表情を緩める。頭の芯の方がぼうっとして、何だか気分が良かった。ほろ酔いの心地良さに身を委ねながら、ノエルは淡雪の声に耳を傾ける。
「それにしても甘くて良い香り、ですね。頭がふわふわっとします……これが、砂糖酔いでしょうか?」
「みたいだね。……淡雪、顔赤くなってる」
「え、赤いです?」
ノエルの指摘に、淡雪は両の掌でぺたりと自らの頬を抑えて、むにむにとした。その様子が面白くて、ノエルは淡雪の頬へと手を伸ばし柔らかな頬を摘まむ。ふにふにふにふに。その感触を手に捉えたままで、ノエルは笑った。
「林檎みたいだ」
「……ノエルもうっすらと赤いですよ」
お返しのように伸びる淡雪の手。真似っこで頬を掴めば、始める微笑ましいむにり合い。暫しの後――淡雪に折れる気がないことを悟ってか、ノエルの方が先に降参した。視線が合えば、ノエルが可笑しそうに笑みを漏らす。その様子に、淡雪もあまり表情の乗らないそのかんばせを、ほんの僅か緩めた。
「それにしても、なんだか、のぼせたような感じです。お酒を飲むとこうなるんでしょうか……」
「うん、こんな感じだね」
「私にはまだまだ先の長い話、ですね」
「大丈夫、大丈夫。十代なんて気づいたら終わってるものだから、あっという間だよ」
「……それはそれで、勿体ないかもですね?」
「そうそう、だから今を楽しんでおくといいよ」
どこまでも楽しそうなノエルの言葉は、マイペースな彼の性分を映してかどこか捉え所がない。そんなノエルの言葉をふわふわする頭の内で反芻しようとする淡雪の傍らで、ノエルは大きな欠伸を一つ漏らした。
「眠い……淡雪、ちょっとだけ寝かせて。絶対ここで寝たら気持ちいいはず」
「え? 確かにぽかぽかとしていて、気持ちがいいですが……」
戸惑う淡雪が言葉を紡ぎ終わる前に、ごろんと柔らかな草の上へと横になるノエル。そのまま静かになったノエルの頬を、淡雪はつんつんとつついた。
「……本当に、寝てます?」
問い掛けに、返事はない。
「寝てますね……、どうしましょう」
本当なら、相変わらず甘い砂糖の香りが漂っているこの場所で眠ってしまうのはきっと良くないはず。ああ、でも。
「幸せそうな顔してますね……」
ここで眠るのは、どんなにか気持ち良いだろう。ノエルの幸せそうな寝顔を見ているうちに、酔いのせいもあるのだろうか、瞼が重くなってきた淡雪である。
「私も、少しだけ。本当に少しだけ、少しだけですよ……」
自分に言い聞かせるように、或いは誰かへの言い訳のように呟いて、淡雪もまたノエルの隣に寝転び睡魔に身を任せる。穏やかな眠りが、すぐに淡雪を包んだ。と、一方のノエルは、
(……そういえば、ここで寝てると更に酔いが酷くなるか)
あんまり眠かったので、淡雪に頬をつんつんされても声を掛けられても狸寝入りを決め込んでいたのだが、先刻の淡雪と同じことを思いついて、紫の瞳をぱちりと開いた。隣で丸くなっている淡雪へと声を掛ける。
「淡雪、起きてる?」
反応はない。ただすやすやと幸せそうな寝息が聞こえるばかりだ。頬をつんつんとするも、あどけない寝顔の少女は僅かに身じろぎしただけだった。
(これは、起こすのはちょっと、忍びないね)
水色の髪を軽く撫ぜて、ノエルは淡雪の華奢な身体を、彼女を起こしてしまわないようにそっとおぶる。背にはパートナーの温もりを、手には器用に花籠を携えて、ノエルは森の出口へと歩き出した。
●やさしい時間
「ラルクさんが、甘い匂いが駄目でなくてよかった」
苦手だったらこの任務を受けたいなんて言えませんでしたからと、アイリス・ケリーは淡く笑む。その傍ら、彼女と同じように籠に砂糖漬けの菫を摘む手は止めないままに、ラルク・ラエビガータは言葉を零した。
「甘いものは味が駄目なだけで匂いは嫌いじゃない。ここ何年かは酒じゃ酔った覚えがないんでな。あの感覚が恋しいところだったんで、丁度いい」
その返答に、それならなおのこと良かったですと応じて、アイリスは摘んだばかりの菫砂糖を日に翳す。日の光を受けて煌めく砂糖の粒は、愛らしい菫を彩るアクセサリーのようだ。目を細めるアイリス。
「きらきら光って綺麗……」
優しい手つきで、菫を花籠へと入れる。きらきらしい菫の花でいっぱいになった花籠を、アイリスはラルクに手渡した。それをしかと受け取って、ラルクは「にしても」と呆れたような息をつく。
「このショコランドってのはどうなってんだか。比喩じゃなく菓子が咲くってんだから意味が分からない」
砂糖漬けの菫をしげしげと見遣ってそう漏らすラルクの姿に、口元を柔らかくするアイリス。
「本当に普通じゃ有り得ない不思議な場所ですね」
でも。
「それって、すごく楽しくありませんか? 見たことがないもので溢れてるんですもの」
「……まあ、そういう考え方もあるか」
「ふふ、それじゃあ行きましょうか」
言って、アイリスは機嫌良く森の出口に向かって歩き出す。自然と漏れるハミング。
(ああ、なんだかすごくふわふわしてて、いい気持ち)
ふわり酔い心地のままに、アイリスは歩を進める。その後姿を追いながら、ラルクはぼんやりと思った。
(覚えてる感覚とは違うが、そこは酒と砂糖との違いかね)
それにしても、である。
(心なしかアイリスに可愛げがあるように見える。可愛げを溝に捨ててきたように思えるが、こうやって酔って誤魔化せばなんとか……いや)
ラルクは軽く頭を振った。不意に、踊るようにくるりと振り返ったアイリスの笑顔に、思うことは。
(気のせいじゃないな。いつもの能面みたいな笑い方と違って自然な笑顔だ)
くるくると森を行くアイリスが、砂糖菓子で出来た植物に気を取られたように立ち止まる。危なっかしくも微笑ましいその姿は、お使いの帰りに寄り道をする子供のようで。
「おい、余所見してこけるなよ」
はい、と応えてアイリスが笑う。気のせいかもしれないけれど、いつもよりラルクの目が優しいようなそんな気がして、温かくなるアイリスの心。
(何故だか姉様を思い出す……すごく懐かしくて心地いい)
だから今は、このままで。砂糖菓子の香りに酔ったまま、この温もりを享受していたい。風が吹いた。吹き付ける柔らかな風とそれが運ぶ甘い匂いに、アイリスは天を仰ぎ緑の瞳を柔らかくする。そんなアイリスの姿に、ラルクは苦笑いを漏らした。
(これじゃガキの世話を見てるみたいだ)
けれど、その思いはどこか晴れ晴れとしたもので。
「まあ、悪くないな」
アイリスには聞こえないほどのごく小さな声で呟いて、ラルクはゆったりとした足取りで、少女のように森に遊ぶアイリスを追いかけた。
●貴女の額に甘い口づけを
「菫の砂糖漬け、美味しそうですね」
花籠いっぱいの上品な香りのする菫の花を見遣って、淡島 咲はふんわりと笑った。
「お仕事も無事終わりましたし。なんだかとってもいい気分です♪」
体が、というよりは心がふわふわとしている。甘い香りがもたらす心地良さに身を任せてにこにこと機嫌良くしている咲へと、イヴェリア・ルーツは問いを向けた。
「サク、大丈夫か?」
「ふふ、大丈夫ですよ、イヴェさん」
「それならいいが……しかし、聞いてはいたが本当に酒に酔ったような感じだな」
真面目に咲を心配するイヴェリアは一見素面のようにも見えるが、彼もそれなりに砂糖の香りに酔わされていた。そんなイヴェリアへと、咲はそっと身を擦り寄せる。
(今ならいつもよりもイヴェさんに近付けそうな気がします……)
なんて、そんな気がして。
「お仕事終わっちゃったんですよね……そしたらイヴェさんとお別れしなきゃなんでしょうね……イヴェさんイヴェさん、もうちょっと一緒に居ませんか」
「サク……やはり酔っているみたいだな……」
サクは酔うとスキンシップが激しくなるようだ、とイヴェリアは胸の内に思う。自分に肩に頭を凭れかからせる愛しい人の柔らかな黒髪を指で梳きながら。
(人の前ではあまり飲ませないようにしないと……こんな可愛いところを誰にも見せたくないしな)
イヴェリアの温もりに、咲は澄んだ蒼の瞳を柔らかく細めている。くすぐったいような、幸せそうな笑い声がその唇から漏れた。
「えへへ、イヴェさん、イヴェさん。大好きですよー」
ふにゃりと笑んで、そんな真っ直ぐな言葉を紡ぐ咲。
(……『大好き』とかやばい)
可愛い咲の愛らしい発言に口元を抑えぷるぷるとするイヴェリアに、更なる爆弾が投下された。咲がイヴェリアへと抱きついたのだ。
「ふふ、ぎゅー、ですよ♪」
「……っ」
余計に近く、鮮明になった傍らの温もりに、イヴェリアの口から声にならない声が漏れる。そんなイヴェリアの心中には気づかない様子で、咲は「イヴェさん、イヴェさん」と甘やかな声でイヴェリアの名を呼んだ。
「イヴェさんが好きって言ってくれたから、私、少し自信がわきました。イヴェさんは妹じゃなくて、私を見てくれるから……」
「サク……」
「イヴェさんの隣にいるなら今よりもっと可愛くならなきゃね。いつかイヴェさんが飽きちゃわないように……私は……」
酔いは、人の心を素直にもさせる。切実な響きを帯びた咲の声音に、イヴェリアは眉を下げた。咲が弱音を言うということは、心を許してくれているのだろうと思う。けれど。
「サク、そんな悲しい事を言わないでくれ。俺がサクに飽きるなんてあるわけがないだろう」
そう、だって。
「俺が今欲しいのはサクだけだ。金も名誉もいらない。サクが望むなら別だけど」
「イヴェさん……」
蒼の視線が、イヴェリアの顔に注がれる。その瞳は酔いのせいかそれとも彼女が抱える想いのせいか、仄か潤んでいるような、そんな気がした。
「そういうのは全部置いてきたからな……そうしないと、サクと一緒に居られなかったから……」
言って、イヴェリアは咲の額に柔らかな口づけを零す。見開かれる咲の瞳。
「やっぱり俺も酔ってるみたいだ……これ以上を望んでしまう。帰ろうサク。早く酔いを覚まさないとね」
自分だけに向けられる微笑、差し伸べられる優しい手。溢れる想いを胸に小さく「はい」とだけ応えて、咲はイヴェリアの手を取った。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:夢路 希望 呼び名:ノゾミさん |
名前:スノー・ラビット 呼び名:スノーくん |
名前:豊村 刹那 呼び名:刹那 |
名前:逆月 呼び名:逆月 |
エピソード情報 |
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マスター | 巴めろ |
エピソードの種類 | アドベンチャーエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | 通常 |
リリース日 | 01月27日 |
出発日 | 02月02日 00:00 |
予定納品日 | 02月12日 |
参加者
会議室
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2015/01/31-23:22
アイリス・ケリーと申します。
砂糖酔いというからには甘い香りなのでしょうが、どのような匂いなのか気になりますね。
残念ながら現地ではお会いできませんが、よろしくお願い致します。 -
2015/01/31-20:45
淡雪、です。
よろしくお願いします。
砂糖菓子の森……楽しみです。 -
2015/01/30-21:10
-
2015/01/30-12:49
豊村刹那だ、よろしくな。
淡島さんは……鏡以来か、久しぶり。
菫を摘んで帰って来るだけなら、安全そうな任務だな。
酔っぱらうのが難点だけど。 -
2015/01/30-00:23