プロローグ
「ストレスが溜まっているわね」
A.R.O.A.本部のとある一室。
不定期に、任意で行われる健康診断で、唐突にそんなことを言われてしまった。
「いや、でも別に自覚は……」
「無自覚なのが一番危ないのよ!」
ビシッ! と人差し指を突き付けてきたのは、本部でもちょっとばかり名の知れた癖のある女性職員だ。
一応カウンセラー等の肩書きは持ち合わせているらしいのだが、発言内容にはどこか胡散臭さが否めない。
今回もそんな悪い癖の一幕だった。
「休養……いえ、癒しが必要ね」
「癒し」
「例えば、パートナーから与えられる溢れんばかりの愛情とか」
「愛情」
「ウィンクルムは愛の力を以てオーガを打ち倒す戦士達なのよ。ごく自然な回復法だわ」
「……」
つまり何が言いたいのだ、と半眼でもって訴えかければ、ふふんと一つ彼女は鼻を鳴らした。
「診断結果という名目の元、療養のための休暇を与えます。ただし条件があるの」
ひとつ、パートナーと必ず二人で過ごすこと。
ふたつ、必ず双方の了承があること。
みっつ、ストレス軽減のため必ず『甘やかしてもらうこと』
よっつ、『最大24時間以内で、ストレスの蓄積を認められた側が満足するまでは止めないこと』
指折り数えて説明し終えると、カチャリと眼鏡の縁を押し上げ笑った。
「休暇を取るかどうかは自由よ。これを機に、パートナーとの関係を見つめ直してみるのも、悪くないのではないかしら?」
解説
■休暇中のなんだかんだ買い物で300jr.
■概要
ストレス軽減療法という名目のもと、パートナーに全力で甘えてください、というシナリオです。
ただイチャイチャするのではなく、必要に迫られて甘やかさないといけない、と言うピンポイントな建前付き。
■プランに必要なもの
・甘やかす側と甘やかされる側(ストレス診断された方)の明記。神人と精霊どちらがどちらでも構いません。
・休暇の過ごし方。どこかへ出掛けても良いし、同棲しているなら家でゴロゴロ過ごしても良いし、別々に住んでいるならどちらかの家へ遊びに行っても。して欲しい事や、逆にしてあげたい事などの明記もお願いします。
出掛け先一例:遊園地、観光地にある川や花畑、公園などのデートスポット。
・描写内容が著しく過激過ぎなければ内容はなんでもOKです。
ゲームマスターより
お世話になります、梅都です。
別にそうでもないはずなんだけど、質疑応答系の診断でストレスとか体調不良だと診断されてしまう事ってありますよね。もしかしたら本当に疲れているのかも知れません。そんなお疲れのパートナーを、改まって労わる機会なんてのもそうそうないかなぁと。
男性側の焼き直しになりますが、良ければお気軽にご参加ください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
豊村 刹那(逆月)
甘やかされる側 「ああ、今日一日休みだ」(受話器を置く 『ウィンクルムだとそうなるんですね。お大事に。頑張って下さい(総務)』じゃねーよ。(溜息 何を頑張れってんだ。 先に家事でもするか。「どうした?」 なら、掃除機を。 「ん?」 「いや、そういう訳には」 そう、か? でも、任せっぱなしも。 「わかった」 結構早く終わったな。「助かったよ。ありがとう」 「いや、体が動かない訳でもないのに任せるのはどうも」後ろめたいっていうか。 「浮かばなくて、ちょっと困ってる」 甘やかされないと、だもんな。(羞恥心を堪えて座る やっぱ、慣れない。その内慣れるんだろうか。(鼓動が速い まあ、いいか。 「しばらく、このままで」(体を預けて目を瞑る |
瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
甘やかされる側 「ストレス軽減のため、必ず甘やかしてもらうこと、と」 フェルンさんに健康診断結果を報告。 「でも、具体的にどうしたらいいのかよく判りません」 素直に相談するしかありませんね。 読書ですか。それは良いかもしれません。 読めなくて本棚に入れっぱなしの本が何冊が。 その続きも先日出版されたので、本屋さんで買って帰ります。 先日のオーガ騒ぎで本屋さんに行けなかったから。 本の内容ですか? ファンタジーの戦記物です。読みながらノート作成。 内容を俯瞰的に考えたくてそうしてます。 こうすると言及の無い部分が鮮明になって。 そこを考えるのも好きなんです。 お茶とケーキが美味しいです。 ゆったり読書出来て大満足です。 |
ファルファッラ(レオナルド・グリム)
レオのストレス…心当たりがありすぎるわ…! 私とか私とかあと〆切…! 自分でも分かってはいるのよ…迷惑かけてばっかりだし。 甘やかしてくれるからついつい調子に乗っちゃうの。 きっとこんなだからレオが私の保護者になっちゃうんだわ…。 とにかく今日はレオはいっぱい休んで! その本続き読みたいって言ってたよね!今日は好きな本でも読んでゆっくりして! 私の大好きなココアを入れるわ。それを飲んで。 私はねレオに作ってもらったココアを飲むととっても幸せになから、今からそれを入れてくる。とっても美味しいんだから。 今日は私、レオに迷惑をかけないわ!絶対よ! だから安心して休んでて。 今日ぐらい全部私に任せておけばいいんだから! |
アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
甘やかす 精霊宅 ガルヴァンさん 何かして欲しい事ある? 例えば何か買って来て欲しいとか 対の角飾り ドロップ型イヤリングのように角先に嵌める金具の先からトパーズの飾りが下がっている これを? ううん、やってあげるよ それじゃ…失礼して… 角飾りを預かり精霊の角に触れる 綺麗な角… こう、かな…? 角先に金具を嵌める ど、どうかな… えっ…!? ど、どういたしまして…似合ってるよ …あっ、何か温かい物とか買って来るねっ え… ~っ 若干自信を無くした目線に不覚にもキュンときた そ…それで、ガルヴァンさんが満足するなら… 手を繋いだまま隣に座る …? え…もっと傍にって事…? 無言の催促にキュンが止まらず 促されるまま距離を詰める 絶対顔に出てる… |
アンナ・ヘーゲル(ジン・カーディス)
甘やかす 全然気付かなかったわ ジンくんも苦労してるのね それにしても甘やかす…?具体的に何をすればいいのかしら ジンくんは何かして欲しい事とかある? 大丈夫大丈夫。年上の包容力見せてあげるわ(拳ぐっ 喫茶店に入る とりあえず美味しいものでも食べれば少しはいい影響があるんじゃないかしら 好きなもの食べていいわよ。お金の事は気にしないで …何か逆に気を使われている気が やっぱりジンくんはしっかりしているわよね 私は結構適当だから、そういう所すごく尊敬しているのよ ジンくんは偉い子よ、私が保証してあげる じゃあいただきましょう うん、美味しい うーん、私ちゃんと甘やかせてる? 結構難しいものね できればジンくんも自主的に頑張って |
●
「ガルヴァンさん、何かして欲しい事ある?」
精霊、ガルヴァン・ヴァールンガルド宅を訪れた神人アラノアは、率直に当人の意見を仰いだ。
ストレス軽減とは言っても、一人で考え手前勝手に施すよりも、本人の望む事をしてあげた方が良いのではと思ったからだ。
「して欲しい事……?」
「うん。例えば、何か買って来て欲しいとか」
「そうだな……」
問われるも、すぐには答えが出てこない。
改まって、自分がやりたい事だとか欲しいものを考えた事がなかった。
思案した末、引き出しから小さな箱を取り出す。
蓋を開けると、ドロップ型にトパーズのあしらわれた美しい角飾りが、対になって収まっている。
「誕生日に友人から貰った物なんだが、どうにもいつもと勝手が違うからか付け辛い。……付けてもらえないか?」
差し出された角飾りの箱を、そっと壊れ物を扱うよう大事に受け取る。
「これを?」
「駄目か?」
「ううん、やってあげるよ」
そんなことなら、とアラノアも快諾する。
今付けている角飾りを外して、ガルヴァンはアラノアに背を向けた。
「それじゃ……失礼して」
箱から飾りをひとつ取り出し、精霊の右側の角に、そっと優しく触れた。
(綺麗な角……)
初めて触れた彼の角に、少しだけどぎまぎしながら。
「こう、かな……?」
角先に金具を嵌めてみる。
「そういえば……家族以外に角を触られたのはこれが初めてな気がするな」
「えっ……?」
不意にぽそり、と漏らされた精霊の一言にアラノアの肩が跳ねる。
それは、なんだか。とても大切な事なのではないだろうか。
初めて、という言葉が引っ掛かって、左側に金具をはめる指先が震えた。
「終わったよ。……ど、どうかな?」
「ああ。ありがとう」
ガルヴァン自身も指先で嵌りを確認して、改めて向き合い礼を述べた。
「ど、どういたしまして」
「似合うか?」
「うん、すごく似合ってるよ。良い色だね」
「そうか。良かった」
「……」
「…………」
一通り作業が終わって、ふと会話が途切れた。
先ほどの、初めて角を触らせた、という言葉が思い出されて、なんだかアラノアにはいたたまれない。
「……あっ、何か温かい物とか買って来るねっ」
そそくさと立ち上がった彼女の手を、咄嗟にガルヴァンが掴んだ。
「――……ガルヴァン、さん?」
「あ……いや」
無意識に掴んでいた、と言った様子だ。
振り向いたアラノアの視線を受けて、少しだけ躊躇いがちに、彼は言葉を続ける。
「その、もう少し……傍にいてもらってもいいか……?」
「え……」
「だめ、か……?」
「~~っ……!」
若干、自信を無くした様な声色に、心をくすぐられて仕方がない。
言葉尻も目尻もへにゃりと弱っているようで、庇護欲を刺激されてしまう。
「そ、それで、ガルヴァンさんが満足するなら……」
立ち上がりかけた足を止め、手を繋いだまま、隣に腰掛けた。
(あれ……?)
視線もあわせず会話もないまま、ガルヴァンが繋いだ手をくいくい、と引いてくる。
(……もっと傍に、って事……?)
試すように、僅かアラノアは距離を詰めてみる。再度顔色を伺うと、少しだけ嬉しそうに彼は口元を緩ませた。
無言の催促が可愛らしくて先程からときめきが止むことを知らない。
絶対顔に出てる……と思いつつも、そそそ、と促されるまま距離を詰めて、肩と腕とが触れ合う距離までくっついた。
視線を逸らしたまま、赤い顔で俯くアラノアを、ガルヴァンも横目で確認する。
こういう反応を見る度、心が締めつけられるようで。
でも、この感覚は不思議と心地いい。
(……これが幸福か)
胸の中でぽつりと腑に落ちた言葉を自覚して、二人きりの穏やかな時間を、心に刻んだ。
●
『ストレス軽減のため、必ず甘やかしてもらうこと』
そう診断されたのは神人、瀬谷 瑞希だ。
とはいえどうしたら良いのか分からず、率直に精霊へ診断内容をまず報告した。
「なるほど……確かに、君はストレスの自覚がなさそうだ」
色々我慢してしまいがちだからね、と精霊、フェルン・ミュラーは苦笑する。
「でも、具体的に何をしてもらえば良いのか、よくわかりません」
直球な相談も彼女らしい。そう思いつつ、一緒になって過ごし方を考える。
「君はインドア派だから、家でゆっくり本を読むとか?」
「読書ですか。それは良いかもしれません」
買ったは良いが読めてないまま本棚に入れっぱなしの本も何冊かあった。
続きも出版されたばかりだし、それも本屋で購入する運びとなった。
ここ最近はオーガ騒ぎが立て込んで、ゆっくり外出する暇もなかったから。
そうして外出と買物を終え、フェルンは瑞希の家を訪れた。
ちら、と手元を覗き込んでみる。本のジャンルは、ファンタジーの戦記物のようだ。
「ミズキって、読書する時にノート使うんだ?」
「え? ああ」
広げられたノートを目に止めて問いかける。
好きな本を読んでいるというより、教科書を広げてノートをとっているように見えた。
「内容を俯瞰的に考えたくて、ノートを作ってます。こうしてると言及のない部分まで鮮明になって。そこを考えるのも好きなんです」
「そう。それだけ、内容に没頭するんだね」
「ええ」
会話を終えて、瑞希は再び読書に没頭する。
読書中、彼女の顔色が感情やシーンによってコロコロ変わる事にフェルンは気付いて、小さく微笑んだ。
彼女自身はきっと無自覚の癖なのだろう。かわいいな、と思うから、特に指摘はしないけれど。
「キリの良い所でお茶にしよう」と、フェルンが一声掛けると、本の世界に没頭していた瑞希が顔をあげた。
時計を見遣ると丁度三時過ぎ。お茶の時間にはちょうど良い。
「あ、でも。今うちにお茶菓子のようなものが……」
「ああ。大丈夫だよ、買ってきたから」
瑞希の家に来る道中、フェルンは巷でも人気のケーキ屋に立ち寄っていた。
頭を使うと甘いものが欲しくなる、と彼女が以前言っていたのを覚えていたし、なにより瑞希はケーキが大好きなのだ。
「わあ、美味しそう……!」
ケーキボックスを開いた瑞希の瞳がきらきらと輝く。
薫り高いチーズケーキに、たっぷりのシロップコーティングが透明色に輝くフルーツタルト。
洋酒漬けのチェリーが埋め込まれたガトーショコラに、大きなイチゴが乗った定番のショートケーキ。
「どれを食べるか迷っちゃいますね」
「全部食べてもいいよ?」
「あはは。魅力的ですけど、カロリーが大変なことになっちゃいそうだから、一緒に食べましょう」
お茶はいれますね、と立ち上がろうとした瑞希をフェルンがそっと制止した。
「いれてあげるよ。ミズキは座ってて」
「でも……」
「いいんだよ。今日はミズキが甘やかされる側なんだから」
にこ、と人好きのする笑顔で微笑んだフェルンの優しさに感謝して、今日だけは全部、素直に甘えてしまう事にした。
二人で食べるケーキは、これまで食べたどんなケーキよりも甘くて美味しかった。
●
「話は終わったか」
精霊の逆月が、通話を終えた頃を見計らいパートナーに声を掛ける。
「……ああ、今日は一日休みだ」
神人、豊村 刹那は、受話器を置いてから大きなため息を吐いた。
「『ウィンクルムだとそうなるんですね、お大事に。頑張ってください』じゃねーよ」
何を頑張れってんだ、一言吐き捨てる。
電話の相手は仕事先の総務だ。今回の診断結果を受けて取り急ぎ連絡をとった。
常よりも深い様に見えた溜め息に、やはり仕事でも疲れているのだろう、と逆月は心中で察した。
一日休みと急に言われてもどう過ごすべきか考えあぐねて、とりあえず家事でもするか、と洗い場へ向かおうとした神人を「刹那」と精霊は制止した。
「何故流し台へ行く」
「いや、洗い物を……」
「洗い物は俺が行う」
座って待っていろ。
一言だけ告げて彼の足取りはキッチンへと向かってしまう。
それなら、とややあって部屋を移動しようとする彼女を、また逆月が引き止めた。
「刹那、何をする?」
「ん? ああ、掃除を……」
「掃除も、家事全般、今日は俺が行う」
流石に全て任せてしまうのは気が引けて「そういう訳には」と言葉を濁すも、逆月は首を横に振る。
「今日は休むのだろう?」
「ああ……そうだけど」
「自ら動こうとするが故に、すとれす、とやらが溜まるのではないか」
「……そう、か? でも」
任せっぱなしも……と、戸惑う様子を見るに、納得し兼ねる、といった顔だ。
「ならば洗い物は俺が行う。刹那は、掃除機をかけるといい」
「……わかった」
逡巡するもようやく納得したらしい彼女を見送って、逆月もキッチンへと向かった。
結構早く終わったな、と一息ついてソファへ腰掛けた刹那の隣に、ほどなくして逆月も座った。
「助かったよ、ありがとう」
「刹那が教えてくれた。刹那には劣るが、俺も家事が出来る」
何故、任せようとせぬ? じっと刹那の顔を見て、逆月は問いかける。
「いや、体が動かないって訳でもないのに、任せるのはどうも」
後ろめたいっていうか……。なんとなくバツが悪くて、刹那は視線を泳がせる。
真面目な彼女のことだ。責を、負いすぎるのだろうか。
「刹那、何をして欲しい」
ストレートな問いかけにも、肩を竦め苦笑して。
「……浮かばなくてちょっと困ってる」
とだけ刹那は返す。
ふと口元に手を当て逆月は考え、思案した末に。
「刹那、こちらへ」
ソファに腰掛けたまま、逆月が少し開いた自分の太股をぽんぽんと叩いた。
「……座れってこと?」
「うむ」
意図は汲めたが羞恥心は拭えない。子供でもないのに、お膝においで、だなんて。
とはいえ、彼も彼なりに色々考えてくれているのだろう。今日はパートナーから、甘やかされないといけない日、なのだから。
少し考えて、観念したように逆月の膝へ、おずおずと腰を下ろした。
「幼い頃に、確か、こう」
幼少にしてもらった事を思い出しながら、膝に乗せた刹那を軽く抱きしめて、優しく頭を撫でる。
細い体は温かくて、生きているぬくもりだ、と、逆月自身も安堵した。
一方、抱きしめられている側の刹那は安心するどころか鼓動が早まるばかりで、どうしたって落ち着かない。
(やっぱ、慣れない。その内慣れるんだろうか)
くっつくのは初めてじゃないけれど、何度経験しても体が強ばってしまう。
髪を梳いていく手のひらは、けれどもひどく心地よくて、まあいいか、と目を閉じ身を任せた。
「……しばらく、このままで」
「ああ、わかった」
ようやく体重を預けてきた刹那に、逆月の表情も柔らかく解けた。
●
「ストレスだなんて……全然気づかなかったわ」
ジンくんも苦労してるのね、と、心配そうに表情を歪めたのは神人、アンナ・ヘーゲル。
一方、診断結果を受けた当の本人、ジン・カーディスだが――完全に無自覚、青天の霹靂だった。
「そうでもないと思うけど……やっぱり、自分では分からないものなのかな」
頬を掻きつつ言葉を濁す。
療養を、と一日休暇を与えられた以上、どうしたってパートナーと過ごさざるを得ないのだが。
「甘やかすとは言っても……具体的に、なにをすればいいのかしら」
頬に手を当てて思考を巡らせるアンナと一緒に、ジンもうーんと首を傾げる。
「ジンくんは何かして欲しい事とかある?」
「……特に思いつかない、かな」
甘やかされる側ということもあり、ジンには底知れない気恥しさが付き纏う。
それでも思案を続ける彼女に、
「アンナさんも、思いつかないなら無理に実行しなくても」
と遠慮するも。
「大丈夫大丈夫。年上の包容力見せてあげるわっ」
そう言って彼女は拳をぎゅっと握り締めるのである。
「それは、頼もしいね……」
あはは……と、一応調子を合わせてみるも、言い知れぬ不安感に苛まれて、はぁ、と一つ溜息を吐いた。
「美味しいものでも食べれば、何かいい影響があるんじゃないかしら」
アンナに連れられ、一先ずは近所の洒落た喫茶店に足を運んだ。
家に篭ってばかりの彼女がこんな気の利いた店を知っていたのも驚いた。もしかして予め、調べてくれていたのだろうか。
「好きなもの食べてもいいわよ。お金のことは気にしないで」
そう彼女は言うが、ジンの性格上甘えっぱなしと言うのは気が引ける。
とはいえ好意を無下にするのも躊躇われて、値段を確認しつつ無難にベーシックなブレンドコーヒーと、割安なケーキセットを頼んだ。
「……何か逆に気を使われている気が」
じい、と疑心の眼差しを向けるアンナに。
「そんなことないよ、ありがとう」
誤魔化しつつも、素直に感謝を述べた。
「……やっぱりジンくんはしっかりしているわよね」
アンナの言葉に、コーヒーカップを置いてジンは顔を上げる。
「私は結構適当だから、そういう所すごく尊敬しているのよ」
「そ。そう、かな……」
「ええ。ジンくんは偉い子よ、私が保証してあげる」
アンナが適当なのはよく知っているので、そこと比べられたのであれば、それは本当に偉い事なのだろうか……とは思いつつも、手放しで褒められる機会なんてそうそうないものだから、照れた様にジンは笑う。
アンナが嘘をつけない人だと言う事もよく知っていたから、心底から出た言葉なのだとわかって、尚の事。
「じゃあ、いただきましょう」
二人で手を合わせて、別々に頼んだケーキセットに口をつける。
うん、美味しい。と、はにかんだアンナの笑顔に、窓辺から白昼の陽光が差し込んで、とても穏やかな時間だ。
美味しいものを美味しい、と言い合ってする食事は純粋に楽しかった。
「うーん、私ちゃんと甘やかせてる?」
「え? う、うん。……たぶん?」
未だに本日与えられた任務がこなせているのかどうか気になるらしいアンナに、ジンもやはり自信は無く、曖昧に返事を濁す。
「結構難しいものね。できればジンくんも自主的に頑張って」
「それはちょっと……はは」
結構な無茶振りである。年上の包容力とは何だったのか。
どこまでもマイペースな彼女に、けれども確かに和んでいる心も自覚して、楽しいお茶の時間を終えた。
●
(レオのストレス……心当たりが有りすぎるわ……!)
診断結果を持ち帰り報告してきた精霊、レオナルド・グリムの言葉に。
パートナーである神人ファルファッラは、小さな両手の平で頬を挟みこみ、顔色を蒼白に染めた。
「ストレスねぇ……心当たりはまぁ、ないと言ったら嘘になるな」
締め切り前でイライラしてたしなぁ、と、大して気にしてもなさそうにぼやくレオナルドに。
ファルファッラは今正に胸中で考えていたストレスの原因を言い当てられた様な気がして、更に一人大袈裟に落ち込んだ。
(締め切りとか、私とか私とか、あと私……!)
精霊はそんな事を一言も言っていないのだが彼女の中ではどんどん話が進展していく。
彼女自身も分かってはいるのだ、迷惑を掛けているということは。
大人な精霊は、なんだかんだと口先では言いつつも甘やかしてくれるから、ついつい調子に乗ってしまう。
(きっとこんなだから、レオが私の保護者になっちゃうんだわ……)
子供じゃなく、本当は女の子として見て欲しい。そんな想いも、小さな胸に秘めているのに。
「とにかく今日はいっぱい休んで!」
「お、おお?」
診断結果を受けたにも関わらず仕事に向かおうとするレオナルドの腕をぐいぐい引いて、椅子に半ば無理矢理座らせる。
それから、彼の本棚から何冊かの分厚い本をよいしょよいしょと抱えて、どさりと眼前に積み上げた。
「その本、続き読みたいって言ってたわよね? 今日は好きな本でも読んでゆっくりしてて!」
今から私の大好きなココアをいれるわ! と張り切ってキッチンに向かってしまったファルファッラに、俺はコーヒーの方が好きなんだが……という言葉をかけそびれたが、まぁいいさ、と詰まれた本を一冊手に取って開いた。
本に集中しようとするも、キッチンからたまにガチャンバシャンと零したり割ったりするような物音が響いて、結局内容にはあまり集中出来なかった。
後始末が大変そうだ……と天井を仰いでいると、ほどなくしてココアを両手に持ったファルファッラが戻って来た。
甘い香りが鼻をつく。コーヒーの方が好きだが、ココアが嫌いな訳じゃない。
一口啜ると、テーブルを挟んで向かいに座った彼女が、じぃ、とこちらを観察している。
「……なんだ?」
「おいしい?」
「は? ああ、まぁ、そうだな」
美味いな。返された返事に、彼女は笑顔をぱっと咲かせる。
「私ね、レオに作ってもらったココアを飲むととっても幸せになれるの。すごく美味しいんだから」
「……そうなのか?」
「そうよ。だから私もレオを幸せにしてあげたいって思ったの」
両手で頬杖を突いて、良かった、と少女はまた嬉しそうに目を細めて笑う。
それからまた思い立ったように席を立って勇ましく宣言した。本当にころころと、嵐の様に表情が変わる少女だ。
「今日は私、レオに迷惑をかけないわ。絶対よ!」
だから安心して休んでて。続けられた言葉に、もしかして、とレオナルドは思い至るも。
「なぁ、ファル……」
「今日ぐらい全部私に任せておけばいいんだから!」
言葉をかけそびれたまま、彼女はまた一人レオナルドの自室へと駆けていってしまった。
もしや、診断結果の原因が自分にあると思いこんでいるのだろうか?
あのマイペースさでそこまで考えているかどうかは妖しいけれど、ともかくレオナルドが彼女をストレスだと認識した事は一度もない。
というか、そういう次元でもない。確かに面倒な事はあるが、適度に動いて息抜きになるぶん、部屋で缶詰になっているより幾分健康的だ。
レオナルド自身が好きで傍に置いていて、何より一人で居た時よりも毎日が楽しい。
彼女に甘い部分がある事は重々自覚しているけれど、それすら全く不快に感じない。
「……あれは中々の小悪魔になるぞ」
小さな我侭で男を振り回す――今は俺が振り回されてればいい。
少女の明るい未来を思って、本を開いたままくつくつと一人楽しそうなレオナルドの姿に、本を抱え部屋へ戻ってきたファルファッラは、不思議そうに小首を傾げていた。
依頼結果:成功
MVP:
名前:ファルファッラ 呼び名:ファル、嬢ちゃん |
名前:レオナルド・グリム 呼び名:レオ、レオナルド |
名前:アンナ・ヘーゲル 呼び名:アンナさん |
名前:ジン・カーディス 呼び名:ジンくん |
エピソード情報 |
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マスター | 梅都鈴里 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 12月15日 |
出発日 | 12月26日 00:00 |
予定納品日 | 01月05日 |
参加者
会議室
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2016/12/25-22:50
こんばんは、瀬谷瑞希です。
パートナーはファータのフェルンさんです。
皆さま、よろしくお願いいたします。
ストレスが溜まっていたようです。
甘やかしてもらう・・・どうしましょう? -
2016/12/25-21:17
アンナ・ヘーゲルです。
どうぞよろしく。
ストレス溜め込んでたなんて全然気付かなかったわ。
大変よねぇ。 -
2016/12/25-14:07
豊村刹那だ。よろしくな。
ストレスが溜まってるって言われてもな。
満足するまで甘やかされろっても……。(渋い顔 -
2016/12/20-18:45
ファルファッラとレオナルド・グリムよ
よろしくね。
レオのストレス…心当たりがありすぎるわ -
2016/12/18-18:33
アラノアとガルヴァンさんです。
よろしくお願いします。
ガルヴァンさんにストレスが溜まっているらしいので、どうにか甘やかしてみたいと思います。
…ガルヴァンさん、して欲しい事あるのかな…