プロローグ
首都タブロスの郊外に位置する小さな神社。
通称『紅葉寺』と呼ばれるここでは、まさに今シーズン最大の紅葉の見頃を迎えている。
――だというのに。
「知ってるか? オーガナイズ、なんとかの話」
「ああ。なんかやばい種だろ? でもめちゃくちゃ強くなれるんだよな……」
「ばか! 頭おかしくなっちまうんだぞ? 絶対近寄っちゃだめなんだって!」
「外出しないほうがいいのかな?」
物騒な話――ギルティ・シードの話題で、周辺地域はどこも悪い噂に事欠かない。
どこそこにそれっぽい種があったとか、外出したらオーガになるんじゃないか、だとか。
専門機関であるA.R.O.A.にすら、種の正確な場所までは特定できない。
よほど負の感情に敏感な者であれば感知程度の事は出来る様なのだが――、一般人ともなれば尚更の事である。
まさに根も葉もない噂ばかりではあるものの、市民達が負の感情に寄っているのは、種の影響も少なからずあるのだろう。
「折角の見ごろなのに、人が訪れないのは、寺としては寂しい。きっと神様も嘆いておられることでしょう。
ちらほらと、種のようなものが見つかったとも報告はあります。ウィンクルムの皆様。
どうか手塩にかけたわたしの紅葉達を、存分に見ていってくださいな」
住職の御坊が、招いたウィンクルム達に向けて、穏やかに微笑んで告げた。
解説
紅葉寺でデートしてください。
種の位置は特定しなくていいです。親密度が上がれば最終的に枯れます。
見所スポットは以下の通り。
・石階段
神社に続く階段。多種多様な紅葉の木が立ち並ぶポイントです。
・拝殿周辺
大きなお堂を中心に見据え、石畳に沿って建つ鳥居周辺に、赤く色づいたナナカマドの木がアーチ状に並ぶ場所です。
鈴と賽銭箱もあり、常時ならたくさん小銭が置かれていますが、観光客が少なく静まり返っています。
・奥の白滝
小さな滝ですが、周辺に赤々と茂った紅葉や黄金色のイチョウの葉が紅葉の絨毯を作っており、この時期だけの絶景となっています。
滝に触れる事もできます。
・紅葉の谷
滝から続く水が渓流に流れ出ている渓谷です。
30分も在れば戻ってこれる小規模なものですが、最奥では朱に色づいたハナミズキを目にすることができます。
・紅葉の社
最奥でハナミズキに囲まれ祭られている小さなおやしろです。神様を祀る本殿はここになります。
・受付
水みくじ(水に浸すと内容が浮かび出るもの)が買えます。一枚100jr。
恋愛運、金運、健康運など、好きなものを好きなだけプランにどうぞ。
プランにいるもの
・行きたい場所や、デートしつつ話したいことなど
個別描写になります。
外出の準備などで300jr.使いました。
ゲームマスターより
お世話になります、梅都です。
どうしても短い季節しか見れない紅葉関係のシナリオを出したくて、イベントに絡めて作らせていただきました。
一口に紅葉といっても種類がたくさんあって、地方でしか色付かなかったり、意外なものが見頃になったりと、調べてみたら面白いです。ブルーベリーとか。
場所の明記は「滝」とか「拝殿」とか「社」のように、ざっくりわかればいいです。
相談期間長めですが、よければお気軽にご参加ください。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リヴィエラ(ロジェ)
訪れる場所…受付 リヴィエラ: まぁっ! 紅葉がとても綺麗ですね、ロジェ! 水みくじ…? 何でしょう、私もやってみたいです! (水みくじを引きながら) …ロジェ? どうなさいました? もしかして、この前の事を気になさっているのですか? あれはロジェが演じていた偽りの自分。 偽りのロジェは私が消してしまいました。 大丈夫です。ほら、この水みくじを見てください。 恋愛運は『大吉』! これからは良い事しか起きませんよ! (微笑んで背伸びし、ロジェの頬にキス) はわわわっ…こ、これは…その。 頬が赤いのは、周りの紅葉が私の頬を照らしているから、で… は、はうぅぅ…は、はい、ロジェ(真っ赤になり視線をうろうろ) |
豊村 刹那(逆月)
拝殿: 別世界みたいに静かだ。 「なあ、」(振り返り、息が詰まる やっぱり、逆月はこういう場所が合う。(住む世界が違う心地 「あ、いや」……この際、聞くか。 「以前の暮らしに、逆月は戻りたいと思うか?」 「そ、そう」心臓に悪い。(頬を染める 滝: 何時間でも見ていられそうな、綺麗な景色。 逆月は、どこか楽しそうに見える。 「あの、さ」(逆月を見ず、拳をこっそり握る 「私は逆月のこと。好き、だけど」(改めて言うのは恥ずかしい 「無理に私を、好きにならなくても。いいからな」 (顔を見れない 都合のいい言葉が聞こえる。 「何、言って」(見上げる 「え」(目を丸く ええ??(されるがまま ……え。つまり、どうすればいいんだ?(恋愛初心者 |
紫堂 藤(カルア・アトレイア)
谷 なんて綺麗… 見てください、カルアさま。とっても綺麗に色づいていますわ くすくすと笑い 風情、でしょうか? 写真や本で見るのとは大違いですね 実際に見るとこんなに鮮やかで素敵なものだなんて知りませんでした ここの花はハナミズキでしたね 他の場所は確か別の木と伺っております どのように色づいているのか、気になりますね ふふ、そうですね もっと色々と見て行きましょう あらあら、急いだら危ない…あっ 社 神様にご挨拶してから帰りましょう? 手を合わせお祈り とても素敵な紅葉で、一緒に見てくれる方もいて、素晴らしい時間を過ごせました きっと来年は問題も解決して沢山の人がきてくれるはずです だからまた、綺麗な紅葉を見せてくださいませ |
アラノア(ガルヴァン・ヴァールンガルド)
滝 わぁ…綺麗… ご利益あるかなと滝に触れ マイナスイオンたっぷりで癒されるね あ、そうだ 水みくじを出し 恋愛運…気になって買っちゃったけど… 水に浸してみる …吉…可もなく不可もなく、かぁ… へっ?あ、あの…それは…ノ、ノーコメント… ご、ごめん… 良い方にも悪い方にも転ぶかもしれないけど…頑張ろう… 気を取り直し景色を眺めながら谷を通り社へ ここも見事だね お参り ガルヴァンさんともっと仲良くなれますように… …よし ガルヴァンさん す、少し冷えてきたね …手、繋いでいい…? い、嫌なら… そ、それじゃ… 控えめに手を重ね 温かい… ガルヴァンさんは、どう? 人がいないのが幸いでも緊張 な、なに? て、手を繋いで温まってきたからだよきっと… |
アンナ・ヘーゲル(ジン・カーディス)
石階段 折角綺麗に色づいているのに見に来る人がいないなんて残念よね まあ私としては空いてるほうが楽でいいけど 景色を眺めながら階段登り …これは明日筋肉痛になる予感がする 普段は学校と家の往復しかしないもの 急に動くとすぐこれよ そうね、たまには出かけた方がいいかも いいものを見ると心が豊かになるともいうし じゃあ何かよさげなものがあったらまた誘って 自分で探すのは面倒だわ 大丈夫、私心広いからどこでも平気よ 帰る前に受付で水みくじ購入 記念にちょっとやっていきましょうか えーと、じゃあ恋愛運でいいか(こだわりなし 「まず身の回りを整えよ」 恋愛…?しかし部屋があれなのばれてる… いやーお母さんと同じ事言わないでー(耳を塞ぐ |
●
「おー! すげー!」
絶景を見渡す精霊の口から歓声が上がる。
紅葉の谷へと歩を進めた二人――紫堂 藤とカルア・アトレイアは、渓谷が見渡せる岩場の上でその景色にひとたび見惚れた。
「来てください、こんなに綺麗に色付いてますわ」
「うん。綺麗っすよね。なんだっけ、ふじょう? が、あるというか……」
精霊のたどたどしい言葉に、藤は口元に袖口を寄せてころころと笑う。
「風情、でしょうか?」
「そう、それ! いやー、藤さんは頭いいっすねー! はは……」
照れ笑いを浮かべつつ心中を悟られなかった事に安堵して、いきましょうか、と二人は歩き始めた。
「写真や本で見るのとは、大違いなんですね」
とめどなく舞い落ちる紅葉を眺めて、藤はひとつ呟きを零す。
病弱で、神人として顕現するまで家に篭りっきりだった彼女には、こんなとりとめない季節のいち風景が他にも増して美しく思える。
「書籍でしか目にした事がなかったので……実際に見ると、こんなに鮮やかで素敵なものだなんて知りませんでした」
「そうそう、何事も実物が一番っす! 今日は天気もいいし、来れてよかったっすね」
はにかむ精霊に藤も微笑んで、はい、と一言返事をかえして。
ふと見上げた先の紅色に、案内で聞いた説明を思い出す。
「ここの木は確か、ハナミズキでしたね」
「へー、そうですっけ?」
「他の場所は確か別の木だと伺っております。どのように色付いているのか、気になりますね」
あまり説明を聞いてなかったカルアは、藤の言葉にへー、と一声漏らし、次にはなんでもないような顔をして、じゃあ他のとこも周りますか、と続けた。
「でも……長いですよ? 他も見て周っていたら……」
「俺今日は一日空いてるんで! 藤さんが見たいとこ、全部付き合うっすよ!」
流石に欲張りかな、と遠慮していた藤にカルアは白い歯を見せ朗らかに笑った。
「……ふふ、そうですね。じゃあ、もっと色々見て行きましょう」
そのまま奥の社へと歩を進める途中にも、二人はあちこちで違った色を見せる紅葉に目を惹かれる。
「にしても、本当に場所によって種類違うんすね。滝の方とかどうなってんのかなー?」
水辺に点在する岩場を軽く飛び超え、滝が見えそうな位置を探す精霊の足取りが些か心配で藤は声を掛けた。
「あらあら。そんなに急いでは危ないですわ」
「大丈夫っすよー! 運動には自信が……わっ!」
カルアの浮わついた足取りが岩場を踏み損ねる。
あわや転落――しかけたもののすんでで何とか踏みとどまる事に成功して。
「……セーフ!」
ぱちくりと目を丸くした藤は、ちょっとだけ間抜けな格好のカルアを見てつい噴出してしまって。
「ふ、ふふっ……もう、カルアさまったら」
耐え難いというようにころころ笑う彼女はとても可愛らしく、カルアは誤魔化すように頬を掻いた。
神様にご挨拶をという藤の提案から、紅葉の社へと行き着いた二人は、小さな祠の前で足を止めた。
祈る藤を見よう見まねで、カルアも同じように手を合わせる。
「とても素敵な紅葉で、一緒に見てくれる方も居て。素晴らしい時間を過ごせました」
二人がここへ辿り着くまで、道中では少しも人とすれ違わなかった。
綺麗な景色を独占し楽しく会話出来たのは素直に嬉しいけれど、こんなにも素敵な場所が誰にも見て貰えないというのは、やっぱり少しさびしい。
「きっと来年は問題も解決して、沢山の人がきてくれるはずです。だからまた、綺麗な紅葉を見せてくださいませ」
言い終えて合掌する藤に続き、カルアもすうっ、と大きく息を吸い込む。
「今日はいいもの見せてもらったっす。ありがとうございました!」
元気よく声に出して頭を下げると、不意にざああっとハナミズキが風にざわめき、二人に朱色の葉を降り注がせた。
日差しが木枯らしに反射してきらきらと舞う様は、まるでそこに住む誰かも喜んでいるようで、藤は見上げた先の空にひとつ目を細め、微笑んだ。
●
「折角綺麗に色づいているのに、見に来る人がいないなんて残念よね」
紅葉に囲まれた石階段を踏みしめながら、神人アンナ・ヘーゲルはさびしげにぼやいた。
話には聞いていたけれど、ここまで人が居ないだなんて。
「確かに少し寂しい感じがするね」
隣で同じようにイチョウの木へ目をやりつつ「早く誤解と種が無くなって、見に来る人が増えるといいけど」と、精霊ジン・カーディスは付け足した。
景色を眺めつつ、アンナに歩幅をあわせて歩く。
やがて八割登り終えた頃には、彼女の足取りが重くなり始めた事に気付いた。
「大丈夫?」
問いかけてみるものの、そんなに早いペースで登った訳でもなければそこまで多く段数もない。
「……これは明日筋肉痛になる予感がする」
「もしかして歩くのに慣れてない?」
「普段は学校と家の往復しかしないもの……急に動くとすぐこれよ」
はああ、と大きく溜息を吐くアンナの姿にジンは一つ苦笑する。
自分の方が確かに年齢は下だけれど、あまりにも歳相応ではないな、と思った。
「相変わらず体力ないんだね……本を読むのもいい事だけれど、たまには外にも出たほうがいいよ」
一歩ほど先を歩き、さりげなく手を差し出す。
手助けしてくれるのだと気付いて照れからアンナは逡巡したものの、最後の数段は手を取って引き上げてもらった。
「そうね。たまには出かけた方がいいかも。いいものを見ると心も豊かになるっていうし」
「そうだよ。これで疲れたって言うくらいなら、尚更」
「じゃあ、何かよさげな場所があったら、また誘って」
「どこでもいいの?」
「自分で探すの面倒なのよ。大丈夫、私心広いからどこでも平気よ」
だからお願いね! と、マイペースに話しきった彼女にジンは頭を掻きつつも笑って「考えとくよ」と快諾した。
その後もあちこち一通り回って、最後に受付で水みくじへと目が止まる。
「記念にちょっとやっていきましょうか」
ジンは健康運の水みくじを、アンナは自分で購入を勧めておきつつも、特にこだわりなどないように「恋愛運でいいか」と適当なものを一つ手に取り、受付にジェールを払った。
「問題なし、と」
自分のそれに浮かび上がった安定の結果に、面白みはないものの、ほっとジンは安心して。
アンナさんは? と問いかけると、何やら開いた紙を見つめ剣呑な表情を浮かべている。
「『まず身の周りを整えよ』」
覗き込んだジンが結果を読み上げるのと、アンナの声が綺麗に重なった。
「……恋愛運? これ私生活の事なんじゃ……」
「……もしかして」
――相変わらず部屋の掃除出来てないとか。
半眼で告げられた容赦ない一言に、アンナはばっ! としゃがみこみ耳をふさいだ。
「だめだよアンナさん、ちゃんとしなきゃ」
「ううっ、気の知れた人がパートナーならと思ったのが仇に……っ!」
ジンはアンナの弟の友人だ。そのため少なくとも以前、彼女がまだ実家暮らしだった頃の彼女の部屋の惨状はよく知っていたし、彼女がどういう性格なのか、というのもある程度記憶している。
「今は一人暮らしなんでしょ? 自分がやらなきゃ誰もやってくれないよ!」
「いやー! お母さんと同じ事いわないでー!」
耳を塞ぎつつ、頭上で母親の如くこんこんと言説を続けるジンに、アンナはおみくじの結果を恨みがましく思った。
「本当に全然変わってないんだから……」
彼女の様子にはぁ、と一つ溜息を吐き、心配になって苦く笑う。
より一層自分がしっかりついててあげないと、と今後の二人を思いながら、二人はおみくじを真っ赤な紅葉の枝先にくくりつけた。
●
「……別世界みたいに静かだ」
拝殿へと赴いた神人、豊村 刹那は、辺りをぐるりと見渡して呟いた。
住職が話して居たようにこれだけの紅葉、常時であれば人で溢れているような時期だったのだろう。
今はすっかり静まり返ってしまい、心なしか種の影響なのか、木々も現状を憂う様にざわざわと鳴いているような気がした。
「なぁ、逆――」
話しかけようと振り返り、その先に認めた精霊の姿に、思わず息が詰まる。
鳥居の近くに色付くナナカマドの下で、はらはらと舞い落ちる葉の中に佇む精霊の姿は、まるで最初からこの別世界の住人であったかのようで。
(やっぱり、逆月はこういう場所が似合う……)
住んでいる世界が違うような心地がして、不意に、精霊が遠く感じた。
「丁寧に扱われているらしい。良い色をして……刹那?」
不意に振り向いた精霊の視線で我に返る。
隠すのもおかしい気がして、この際聞くか、と。
不意に、思った事を問いかけた。
「以前の暮らしに、逆月は戻りたいと思うか?」
きょとり、と漆黒の狐目を猫のように丸くして。
少しだけ考えて、精霊は答えた。
「戻りたいとは思わぬ。あの場所の霞も、確かに嫌いではなかったが――」
言葉を選ぶように、そこで一拍置いて。
見上げた拝殿から、すぐさま刹那に視線を戻す。
「刹那がいない。それを、耐え難く思う」
「――……っ、そ、」
……そう。
蚊の鳴くような声で一言搾り出すのが精一杯だった。
不意打ちのようで、心臓に悪い。
「滝、行こうか。気になってたんだ」
朱に染まった頬を隠すように、ふいと背を向け先を急ぐ刹那の後姿に、首を傾げながらも、逆月はついて歩いた。
「冷たいな」
さああ、と流れる水流に指先を馴染ませ、逆月はつぶやく。
地を覆う彩が目を楽しませ、鳴る葉音からは更に色濃く秋を感じる。
水と戯れる逆月の姿を、ぼんやりと見つめている刹那の目に、どこか彼は楽しそうに見えた。
気付けば「あのさ」と、語りかけていた。
「私は、逆月のこと。好き……だけれど」
言ってしまってから、振り返った彼の瞳に気恥ずかしさがこみ上げて、視線を逸らしたまま拳を握る。
「……無理に私を、好きにならなくても、いいからな」
言い切ってから、俯いた。
気恥ずかしさは勿論あるけれど。きっと、楽しそうな精霊の姿に気分が高揚したせいだけれど。
好きにならなくても――その言葉に、どこか寂しさを覚えていた。
「伝わってないのだな」
一つ黒目が大きく瞬く。
色とりどりの絨毯を踏みしめて、静かに刹那に近付いた。
「刹那」
返答はない。顔も上がらない。
曖昧なままでは伝わらないのだと理解した。
「俺はお前と共に在りたいと思う。ずっと此の先も」
一歩一歩、柔らかく葉を揺らして、手が届く距離まで歩み寄った。
(都合のいい言葉)
俯いたまま思って。
顔を上げた先に、真摯でまっすぐな眼差しを受ける。
「何、言って……」
「共に居て温かくなる胸の内を、お前と同じ想いと思ってはくれぬか」
握り締めていた手を、やんわり取られた。絡む指先。
「俺も刹那を好いている」
「え、」
目を丸くした瞬間、手を引かれ強く抱き寄せられていた。
強引な仕草であるのに、ぎゅう、と刹那を包む彼の腕はとても温かい。
頬に当たる銀糸は柔らかく、視線の先では滝を舞台に紅葉が舞っていた。
「え、ええっ?」
ようやく我に返って、やり場の無い手先や体をどうしたものかと慌てる刹那に、逆月は告げる。
「心音が早い。……とても、落ち着く」
「……」
つまり、どうすればいいのだろう。
恋愛なんてした事がなくて、こんな気持ちを持て余すのも初めてで。
抱き締められたまま途方にくれる手先を彷徨わせたあと。
「…………もう、少しだけ。だから、な」
躊躇いがちに、その手を精霊の広い背中に回した。
紅葉が、縮まりつつある二人の距離を後押しするように、はらはらと包みこんでいた。
●
「まぁっ! 紅葉がとても綺麗ですね、ロジェ!」
受付に訪れた神人リヴィエラは、視界いっぱいに広がる絶景に弾けんばかりの笑顔を見せる。
「……そうだな」
「水みくじ? なんでしょう、私もやってみたいです!」
「……」
一歩引いた場所から神人を見つめる精霊、ロジェの表情は、決して明るいものではない。
ひとつください、とジェールを支払い、小走りに戻って来た上機嫌なリヴィエラに、ロジェは陰鬱な視線を向けた。
「水桶につけると結果が浮かび上がるんですって。さっき水桶に浸けたから、あと少し待って……」
「……何故そう、平気な顔が出来るんだ?」
「ロジェ?」
どうかなさいました? と小首を傾げる瞳に疑心の色は微塵も見つからない。
ずっと心に引っかかっていた先日の一件。
種の力に捕われて――否、あれは間違いなく自身の心が抱えた闇だった。
彼女の首にかけた手の感触は、今でもありありと思い出せそうだ。
「俺は君の首を絞めた。まがりなりにも、殺そうとしたんだぞ……!」
拳を握り締め、搾り出すようにロジェは告げる。
「……もしかして、この前の事を気になさっているのですか?」
思い当たる節があったようで、リヴィエラは静かにロジェへと問いかけてくる。
「ああそうだ。種のせいだなんて、関係ないっ……おかしいだろ! 何故俺を憎まない!?」
吐き出すように、言葉をぶつけた。
わかっている。リヴィエラを責めるのは筋違いだ。
けれど、そういうことじゃなくて。ただただ歯がゆいのだ。こんな自分にたゆまぬ愛情を注いでくれる、彼女の純真さが――。
「あれはロジェが演じていた偽りのあなた。偽者のロジェは、私が消してしまいましたよ」
ふわりと微笑んで、なんでもないような顔で、リヴィエラはそう言ってみせた。
「ロジェが言ったんですよ? 演技だって……だったら。私は何も、気にしません」
「……そんな、ことで。俺の罪は……」
「大丈夫ですよロジェ、ほらっ!」
先程広げた水みくじの結果をぱっと広げて、嬉しそうに彼女は笑う。
「恋愛運は『大吉』! これからは、良いことしか起きませんよ!」
何があるのか楽しみですね、ロジェ!
満面の笑顔で、頬を軽く啄ばんだリヴィエラに。
毒気を抜かれたように、ロジェは瞠目した。
「……きみは、なんでいつもそうして、俺を救うようなこと、ばかり……っ」
「ロジェ? ……ひゃっ」
たまらず、ぎゅうう、と強くその柔腰を引き寄せて抱き締めれば、細い体がわたわたとたじろいだ。
「顔、真っ赤だぞ」
「はわわわ、こ、これは、そのっ、ま、周りの紅葉が私の頬を照らしているからで……っ」
気恥ずかしさからか、慌てたように視線を泳がせる姿が愛おしい。
ずっとこのまま抱き締めていたいような心地だったけれど、名残惜しく思いながらも、すっかり大人しくなった体を解放した。
「まだ受付を済ませたばかりなんだ。社の方にも行って見るんだろう?」
「はうぅ……」
「行こう、リヴィエラ」
手を差し出せば、真っ赤な顔が安堵したようにほどけて。
はい、とひとつ快諾して、リヴィエラはロジェの手を取った。
辿り着いた紅葉の社では真っ赤なハナミズキが祠を護る様に揺れていた。
(ロジェの心が、これから先ずっと、幸せなものでありますように)
手を合わせたリヴィエラは心中で小さく呟く。
「何をお祈りしていたんだ? リヴィエラ」
「ふふっ。ナイショです。……あ、そういえば」
ごそ、とポケットからもう一枚、開かれていないおみくじを取り出した。
「受付で恋愛運を、と言ったら、もう一枚おまけしてくれたんです。ロジェのぶん」
「そうだったのか。……結果は?」
「まだ開けてないので。帰りに滝で浸してみましょう?」
さっき大吉だったから、きっと今度もそうですよ! と。
はにかむ彼女に心から救われるようで、ロジェは彼女の手を取り、繋いだ。
「楽しみだな」
「はい!」
二人寄り添い帰路に着く姿に、ハナミズキの木々は嬉しそうに揺れていた。
●
「わあ……きれい……」
奥の白滝へと訪れた神人、アラノアは。
滝を中心にして、木製の仕切りで囲われた広場へと敷き詰められた紅葉の絨毯に、感嘆の声を漏らした。
「赤と黄のコントラストが美しいな……石とはまた違った輝きを秘めている」
ウィンクルムと並行して、普段は宝石店に勤務している精霊ガルヴァン・ヴァールンガルドは、かがんで一枚手にしたイチョウの葉を指先で回しつつ呟いた。
「ご利益あるかな」
「冷やさないようにな」
大丈夫、と返し、おそるおそる触れた細い水流は思った以上に冷えていて、季節の移り変わりを嫌が応にも痛感する。
ふと、受付で買った水みくじの存在を思い出し、ポケットから取り出した。
(恋愛運……気になって、買っちゃったけど)
添えてある水桶へそっと浸すと『吉』という一文字が浮かび上がった。
「可も無く不可もなく、かぁ……」
「しばらくは現状維持が続くでしょう、か……」
「わっ……!」
こっそり広げて見ていたつもりが、いつのまにか背後から精霊が覗き込んでいて、素っ頓狂な声を上げてしまった。
「アラノアは、今気になっている人物がいるのか?」
「へ? あっ、あの、それは……の」
ノーコメント……。
しどろもどろに視線を泳がせつつ、小さく呟いて誤魔化す。
「……またそれか」
「えっ? なに」
「いや、なんでもない」
「……」
お互い、なんとなく気まずくなってしまって、妙な沈黙が流れる。
耐え切れなくなり、口火を切ったのはアラノアだった。
「た、滝はもう、見たし。別のところいってみよう?」
「そうだな」
気を取り直して踵を返しつつ、パートナーの隣で少しの距離を置いて並び歩きながら、ぼんやりと思う。
(良い方にも、悪い方にも転ぶかもしれないけど……頑張ろう……)
心中で一人決意を固めるアラノアの隣で、ガルヴァンもひとつ胸の内で呟いた。
(占いは信じない方だが……現状が続くのは少し、困る気がする)
景色を眺めつつ渓谷を通過し、紅葉の社と呼ばれるスポットに到達すると、道幅は一気に狭くなっていて。
細い道筋を辿った最奥に、小さな祠が鎮座していた。
「ここも見事だね」
「そうだな」
呟いて、祠の前でふたり、どちらともなく手を合わせる。
(ガルヴァンさんと、もっと仲良くなれますように)
アラノアは願った。結構、強めにお願いした。
あわせた手の平にも知らぬ内に力が篭っていた。
祈ることで、少しだけ頑張れるような気もした。
「……よし」
拳を一つ握ると、ガルヴァンさん、と改めてアラノアは話しかける。
「なんだ?」
「す、少し。冷えてきたね」
アラノアの言葉に、そうだろうか、と精霊は思う。
先程の渓谷や滝に比べれば、水辺もないぶん気温はさほど低くない。
滝の冷たさに体を冷やしただろうか、と思った矢先、アラノアが小さく。
本当に小さく呟いた。
「……手、繋いでいい……?」
「…………」
思いもよらない提案に、思わず精霊の反応が遅れる。
「い、嫌なら、いいから……! なんとなく、ガルヴァンさんってあったかそうだなー、なんて……」
照れから言動もおかしくなっていたけれど、ほとんどダメ元での提案だったけれど。
存外、ガルヴァンからは快い返事が返った。
「いや……丁度、俺も冷えてきたところだ」
「ほ、んとう。に?」
「ああ。手を繋ごう」
「……。それじゃあ」
そろりと、控え目に。
躊躇いがちに、指先で触れて、そのまま重ねる。
「温かい……ガルヴァンさんは、どう?」
「……ああ、温かい」
アラノアの控え目な問いかけにも、ガルヴァンは素直な心境を返す。
心の芯までじんわりと温まり、なんとも言えない心地だ。
手を繋いだまま歩き出して、元来た道を戻る時も、さっきと天候は変わってなどいないのに、少し温度が上昇しているように感じた。
「アラノア」
「な、なに?」
「……顔、真っ赤だが」
紅葉みたいに。
形容するように付け足された言葉で、体がぽかぽかである様に感じたのは、自分の頬や体温が上昇していたからだと気付く。
「て……手を繋いで、温まってきたからだよ。きっと……」
「そう、か」
どこか言い訳がましい建前にも素直にガルヴァンは納得する。
なんとなく、それ以上つっこんでしまうと、彼女は離れてしまうような気がして。
心も体も温かいこの感覚を、もう少し味わっていたい、と思った。
依頼結果:成功
MVP:
名前:アラノア 呼び名:アラノア |
名前:ガルヴァン・ヴァールンガルド 呼び名:ガルヴァンさん |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 梅都鈴里 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ビギナー |
シンパシー | 使用可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 11月10日 |
出発日 | 11月21日 00:00 |
予定納品日 | 12月01日 |
参加者
会議室
-
2016/11/20-03:27
紫堂藤と申します。パートナーはカルアさまです。
どうぞよろしくお願い致します。
紅葉楽しみですね。
素敵なひと時を過ごせますように。 -
2016/11/18-23:38
初めまして。私はアンナ・ヘーゲル。
パートナーのジンくんともどもよろしくお願いします。
今が見頃って事だし楽しみね。どこに行こうかしら。
水みくじはまだ引くかどうかは決めてないんだけど、私も試しに。とうっ。
【ダイスA(6面):1】 -
2016/11/18-00:30
豊村刹那だ。逆月と紅葉を見に来たよ。
よろしくな。
水みくじは気になるけど。
私たちは拝殿周辺と、奥の白滝が中心になりそうだ。
良い時間になるといいな。 -
2016/11/13-14:53
私はリヴィエラと申します。パートナーはロジェです。
皆さま、どうぞ宜しくお願い致します。
まぁっ! アラノア様、それは面白そうですね!
水みくじは私も気になっていたので、
私も運試ししてみようと思います。えいっ!
【ダイスA(6面):1】 -
2016/11/13-12:39
プランに書くか書かないかは置いといて試しによいしょ
【ダイスA(6面):4】 -
2016/11/13-12:36
アラノアとガルヴァンさんです。
よろしくお願いします。
色々回るところありますね…。どこに行こうか迷います。
ところで、受付で水みくじが買えますが、運試しをプランで操作しちゃってもいいのでしょうか…
なので、本当の運試し用にテンプレでも用意してみようかと思います。
大きなお世話でしたらすみません…
ダイス一回
1:大吉
2:中吉
3:小吉
4:吉
5:凶
6:大凶
活用してもしなくてもいいです。
そもそも水みくじをしないという人には関係ないかもしれませんし…