夢見る花と妖精の庭(木口アキノ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 私の祖父は、タブロス郊外でフラワーガーデンを経営していた。
 祖父の健康が思わしくなくなり、引退を余儀なくされたのが5年前。
 それから4年経過したころ、私は祖父の経営していたフラワーガーデンを引き継いだ。
 当初荒れはてていたフラワーガーデンは、なんとか体裁が整いつつあった。

 私がガーデンで花の手入れをしていると、視界の端に、小さなものが動く。
「あっこら~っ」
 私が声をあげると、草花で編んだ服をまとった少年と少女が、ぴゅうっと逃げていく。その身長は、大人の膝くらいまでの高さ。
 ガーデンに花が増えると共に現れた彼ら。
 祖父の管理日誌を読み返してみると、どうやら彼らは「花の夢を集める妖精」なのだそう。この近辺のごく限られた地域にしか存在しないらしい。
 彼らは、ガーデン内に勝手に花の種を植えていく。
 仕方がないので私は、ガーデンの一番奥の一角を、妖精たちに明け渡してやることにした。このエリアだけなら、好きな花を好きなだけ植えても良いよ、と。
 その頃から、妖精が小さな声で私にささやきかけてくれるようになった。
 はじめは、おはようとか、良い天気ね、とか挨拶程度。
 それがだんだん、世間話をしたり、時には妖精たちの恋の悩みなんかも聞くようになった。

 そうして、私がフラワーガーデンの経営者となって1年が経った春。
 今年とうとう、6年ぶりにガーデンをオープンすることになったのだ。

 敷地は外側に姫リンゴ、内側にツツジの植え込みで囲まれており、蔓バラのアーチをくぐると両脇には色とりどりのパンジーのプランターが並ぶ。
 内部は右前、左前、中央、右奥、左奥、さらに一番奥と6つのエリアに分かれており、右前にはアジサイ、左前にはアルメリアとマリーゴールド、中央にはラベンダー、右奥にキンギョソウ、左奥にヒャクニチソウを植えている。
 一休みしながら花を楽しんでもらえるように、中央のエリアを囲むようにベンチを設置した。
 そして一番奥は、妖精たちの花壇。
 マーガレットやナデシコ、カーネーション、いろいろな花が植えられている。
 恥ずかしながら、私はそのすべてを把握しきれていない。
「これだけお花がたくさん咲けば、やっとあたしたちも花の夢を集めることができるの」
 花に水をやりながら、妖精の女の子が嬉しそうに言った。
「花の夢?」
 そう。彼女たちは「花の夢を集める妖精」。
 妖精が言うには、花も夢を見るのだそう。
 人や動物のように、眠っている時だけ夢を見るのではなく、昼も夜も、常に現実を見つつも夢を見ているらしい。
 そしてその夢を集めることが「花の夢を集める妖精」たちの存在意義であり生命の源なのだ。
 しかし、長らくこのフラワーガーデンが荒地であったため、花の夢を集めることができず、妖精たちはだんだんとその数を減らしていった。
「だから、お花がたくさん咲いても、人数が足りなくて夢を十分集められないかもしれないの」
 妖精はがっくりと肩を落とす。
「なるほどね」
 そうだ。私はあることを思いつく。
 フラワーガーデンを訪れるお客様に手伝ってもらうのはどうだろう。
 妖精たちも、それは楽しそう、と言ってくれた。
「あたしたちと一緒に夢を集めるとね、一緒に花の夢を見ることができるの」
 妖精は、何やら興味深いことを言う。
「それは、夜に見る夢?」
「ううん、ある一定の量、夢を集めるとね、目の前に、ぱあっと、夢が広がって見えるの」
 白昼夢みたいなものかな。
「見られる夢は、集めた花の種類によっていろいろ変わってくるの」
 妖精が言うには、香りの強い花は色彩豊かな夢、色の濃い花は派手な夢、色の薄い花は穏やかな夢が見られる傾向にあるんだそうな。
「一緒に花の夢を集めてくれた人が、楽しい夢を見られるといいね」
「うん。そして、幸せな気持ちになってもらえたら、とっても嬉しいの」

 そして私は、次のようなキャンペーンを打ち立て、さっそく宣伝して回った。


 フラワーガーデンオープンキャンペーン。
 妖精と一緒に、「花の夢」を集めませんか?
 参加者は、入場料50Jrのところ半額の25Jr!(ペアだと40Jr)
 花の夢の集め方は簡単。
 妖精が草で編んだ小さな壺を、花の前で振るだけです。
 たくさん集めたら、あなたも花の夢を垣間見ることができるかも!


 さて、お客様は集まってくれるかな……。

解説

 一組40Jrの費用が必要です。
 ガーデン内の花から夢を集めてください。
 いくつかの花を選んでも良いですし、すべての花の夢を集めるのも良いでしょう。
 また、赤い花の夢を集める、など、決まった色で集める方法もあります。
 妖精の花壇には、プロローグ中に書かれていない花もあります。
 あなたが好きな花も、咲いているかもしれません。
 どの花の夢を集めるのか、プランに記載してください。
 そして、どんな夢が見たいか、希望がありましたらお聞かせください。
 希望通りになるかどうかはわかりませんが……、あなたの希望と花の夢が混じり合った夢が見られることと思います。


ゲームマスターより

 楽しい夢、幸せな夢を見ると、目覚めた後も幸せな気持ちになりますよね。
 あなたとパートナーが、幸せなひとときを過ごせますように。
 良い夢を!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リーリア=エスペリット(ジャスティ=カレック)

  フラワーガーデンの話を聞き、ジャスティを誘って行ってみることにした。
花の夢を集めるのは、不思議だけど面白そうだと思った。
いったいどんな夢を見ることができるのだろうか…。

咲き誇る花々に目を輝かせる。
どれも素敵でどの花から夢を集めるか悩むが、少し考えて、ジャスティも好きそうな花のある方に行ってみることにした。

キンギョソウやアルメリアなどピンク色の花から集める。

最近少し花の本を読んだりしているが、まだまだ知識不足なので、軽く説明してもらえるか聞いてみる。
普段はあまり表情が変化もなくわかりにくいが、やはり植物が多い場所だからなのか楽しそうに見える。

淡い色の花では穏やかな夢。
どんな夢なのか楽しみ…。



アリシエンテ(エスト)
  まあっ、なんて珍しいのかしら!お花の夢を集める妖精だなんて何て素敵!お手伝いもし甲斐があるわね。
この籠を花の前で振れば良いのねっ。花の夢…一体どんな夢が見れるのかしら。
ここは色で集めたほうが見れる夢も統一性があるかしれないわ。

何となく、白ユリ等の整った白い形の花の前で無心に籠を振って夢を集めるわ。
色つきの華やかな夢を見せてもらうのは…何だかちょっと似合わない様な気がして…
ああ、何だか規律正しく折り目正しいような夢を見そうな気がする…

そんな事を思った時、ふと、最後に甘いピンク色の花の前で籠を振っている自分に気付いた。
一つくらい『淡い恋の様な夢』を見たっていいわよね…?
素敵な夢が見れますように……



コカコ(ポヴァラ)
  「え…ど、どうしても行くん………ですね、いえ…はい…、いいですよ。」

心境:ポヴァラさんはよほど綺麗なものが好きなんだ…
あまり人のいる所へ行くのは好きじゃないけど…
…静かにしてられるなら、たまにはいいかな…。

行動:精霊の後を着いて夢集め しぶしぶ壷持ち役
(あまりに距離を取る彼女との距離を少しだけ詰めようとした
精霊からの気遣いという事は気づいていない)
他のペアとすれ違い→会釈程度、話しかけられたら赤面し
目を泳がせつつ必死に対応
花の選択は精霊任せ、意外にも淡い色彩の花ばかり


フィーリア・セオフィラス(ジュスト・レヴィン)
  「…お花も、夢を、見るの…。…それに、お花の夢を集める妖精、もいて…。
…知らないこと、たくさん、ある、ね…。

…お花の夢、いっぱい集まったら…、妖精さんたちも、助かる、かしら…?」

姫リンゴの花の夢を集めようと思います。
リンゴの花は可愛いし、外周に沿って回って行くと、ガーデンの色んなエリアの色々な花も見れるかもしれないので。

最初に花の夢の集め方をやってみせてもらえると助かるかもです。
やり方、これでいいの?って悩まなくてすむと思うので。


ファリエリータ・ディアル(ヴァルフレード・ソルジェ)
  花から夢を集めるなんて素敵ねー!
どんな夢が見られるかすっごく楽しみっ♪
妖精さん達も喜んでくれるかしらっ。

ヴァルと一緒に夢を集めるわねっ。
集めた夢って、壺の中でどんな風に見えるのかしら。
液体? それとも光みたいな感じかしら??
一緒に夢を集めたら、同じ夢を一緒に見られるのかしら。
だったら素敵よね! そうなるといいなあ。
一緒の方がきっと楽しいし!

花はアルメリアと、マーガレットと、ラベンダーにするわ。
色も形もバラバラだからどんな夢になるか分からなくて面白そう!
せっかくだし楽しい夢が見られます様にっ。

(花言葉:「共感」「恋を占う」「期待」
夢の内容に花言葉が関係するか分かんないけど、したらいいなあって)


「……あの、ね……、これ、良かったら、行かない……?」
 そう言ってフィーリア・セオフィラスは、パートナーであるマキナの青年、ジュスト・レヴィンにフラワーガーデンの広告を差し出す。
「……お花が、夢を見てて……、それに……、その夢を、集められるって、不思議、だから……見てみたい、って、思って……」
 普段から引っ込み思案で自分の意見を前面に出すことの少ない彼女が言うのだから、よほど見てみたいのだろう。
「いいだろう。次の休みにどうだ」
「……ありがとう……」
 フィーリアは嬉しそうに笑った。


 数日後。
 フラワーガーデンでは、妖精がちらちらと入口を気にしていた。
「一緒に夢を集めてくれる人、来るのかな?」
「来るのかな」
「来る?」
 蔓バラのアーチの向こうに、1組の男女の姿が見えた。
 美しい金色の髪の女性、アリシエンテと、マキナの青年、エスト。
「お花の夢を集める妖精だなんて何て素敵!お手伝いも、し甲斐があるわね」
 アリシエンテの声を聞いて、妖精たちは喜んで2人を出迎える。
「いらっしゃいませなの!」
 アリシエンテを見上げた妖精が、草で編んだ、大人の手のひらほどの大きさの壺を差し出す。
「この壺を花の前で振れば良いのね。はい、エスト」
 アリシエンテは草の壺をエストに手渡した。いきなり壺を渡されたエストはぽかんとする。
「エスト。貴方、私に1人で花の妖精の手伝いをさせるつもり? ジェールは払っているのだから、もちろん参加して然るべきよね」
 参加したいと言い出したのはアリシエンテなのだが。
「わかりました。では、お手伝いさせていただきましょう」
 アリシエンテとエストが蔓バラのアーチをくぐると、妖精も1匹、後をついてきた。
「夢の回収に手が回っていないところはありませんか?」
 エストが妖精に訊く。
「あのね、一番奥に、ボクたちが自由にお花を植えられる花壇があるの。好きなだけ、好きなように植えてたら……いろんなお花が咲いちゃって、ちょっと夢を集めにくいの」
「そうですか、では、そこに行きましょう」
 アリシエンテとエストは、ガーデン内に咲く花を楽しみつつ、奥へと進んでいった。


 次にガーデンを訪れたのは、活発そうな少女、リーリア=エスペリットと銀髪のディアボロ、ジャスティ=カレック。
「花の夢を集めるのは、不思議だけど面白そうだよね」
 このフラワーガーデンの話を聞いて、リーリアはすぐにジャスティを誘った。植物の育成と実験が好きなジャスティなら、きっと興味を持つだろうと思ったのだ。
 ガーデンに着くと、まず目に入るのが蔓バラのアーチ。
「きれいだね」
「……」
「ジャスティ?」
 予想と違って、何も言わないジャスティにリーリアは若干不安を覚えた。
 もしかして、楽しくないのかな……。
「こんにちはなの!」
そこへ、壺を抱えた妖精がやってくる。
「こんにちは。この中に、夢を集めればいいんだね」
 リーリアは妖精から壺を受け取った。
 アーチをくぐると、さらにたくさんの花が咲き誇っている。
「どの花から夢を集めようか迷っちゃうね、ジャスティ」
 ジャスティは今くぐってきたばかりの蔓バラのアーチをじっと見ている。
(まさか、もう帰りたいとか?)
 不安を募らせるリーリア。
(でも、ジャスティが好きな花があれば、楽しくなるはず!)
 リーリアは、ジャスティが好きそうな花を探すことにした。


「花から夢を集めるなんて素敵よね!どんな夢か気になるし、妖精さん達のお手伝いもしてあげたいね」
 ファリエリータ・ディアルのうきうきした声がフラワーガーデンに近づいてくる。
「ヴァルはどんな夢が見たい?」
 ファリエリータはヴァルフレード・ソルジェの紫色の瞳をのぞき込む。
「さぁね。俺は夢よりもっと良い物を毎日見せてもらっているから」
「何よ、それ~っ」
 ヴァルフレードはくくっと笑う。ころころ表情を変えるファリエリータは、夢よりよっぽど面白い。
「あれが妖精さんかしら」
 ファリエリータは、蔓バラのアーチの奥から駆け寄ってくる小さな影に気付く。
「こんにちは」
 ファリエリータが声をかけると、妖精も笑顔で挨拶を返す。
「来てくれてありがとうなの」
妖精は草で編んだ壺を差し出す。
「これが夢を集める壺ね!ヴァル、一緒に夢を集めましょうねっ。壺を振るのはかわりばんこにする?妖精さん達の為にも、素敵な花の夢を見る為にも、いっぱい集めましょうね!」
 楽しそうにはしゃぐファリエリータ。
「一緒に夢を集めたら、同じ夢を一緒に見られるのかしら。だったら素敵よね! そうなるといいなあ。一緒の方がきっと楽しいし!」
「ファリエと同じ夢ねぇ、ま、悪くない」
「ほんと?嬉しい!」
「変な夢は見ないでくれよ」
「もう、一言余計よ!」
 

「あの……ね、2人でお出かけって……なんだか楽しくなる、ね……」
 フィーリアはフラワーガーデンに着くまでずっと、嬉しそうに微笑んでいた。
「いらっしゃいませなの!」
「妖精さん……、こんにちは」
「これが、夢を集める壺か」
 ジュストが妖精の持つ壺を見て言う。
「これ……どう使えば……いいの?」
「はい、この壺を、お花の前で振ってあげるの。こういう風に……」
 妖精は、蔓バラのアーチの両脇に並ぶ姫リンゴの木に向かって歩く。
「よいしょ、っと」
 妖精は壺の口を花の方向に向け、壺を軽く左右に振る。すると花から、淡く光る粉のようなものが生じ、すうっと壺の中に入っていった。
「……今のが、夢……なの?」
 妖精は頷いた。
「さて、どの花から集めるんだ?」
「あの……このお花……」
「姫リンゴか?」
「このお花……可愛いし……外周に沿って回ったら……ガーデンの色々なお花も見える……から」
「では、外周を回ってみよう」


 そんなフィーリアとジュストの姿を、遠くから見つめる者がいた。
 コカコだ。彼女は少し、人付き合いが苦手ならしい。
「だ、誰かいます……」
「客がいるのは当然です」
 と、コカコのパートナー、ディアボロのポヴァラ。
「だって……中で会ったりしたらどうしたらいいんですか!」
「ふつうに挨拶したらいいのでは」
 それができたらコカコだって苦労しない。
「ど……どうしても行くんですね」
「外から見てもこんなに美しいフラワーガーデンですよ。是非中で楽しみたいものです。いいでしょう?コカコさん」
「いえ……はい……、いいです」
 ポヴァラが花や美しいものが好きなのだ。
 コカコは他人と会うのは苦手だけれど、フラワーガーデンなら静かそうだし、たまになら、ポヴァラに付き合ってあげるのも良いかもしれない。でも。
「行きますけど……花はポヴァラさんが選んで下さいね……?」
 ガーデンの入口で妖精が待っていた。
「あなたが花の夢を集める妖精ですね」
「よろしくおねがいなの」
 ポヴァラは妖精の持つ壺を受け取る。
「はいどうぞ」
 そしてコカコへ壺を手渡した。
「ちょ……自分で行きたいって言ったんですから、1人で集めればいいじゃないですか!」
「ええ、花を選ぶのも、集めるのも自分でやりますよ。だからコカコさんは、壺を持つ係です」
「なんなんですか、それ……」
「あまり俺から離れないでくださいね。壺を持つ係がいないと、花の夢が集められないですから」
 ポヴァラが楽しそうに、そう言った。


 リーリアは、ジャスティの好みそうな花は、どんな花だろうと考えていた。
 本人に、花のことをいろいろ聞いてみれば、何かわかるかもしれない。
「ねえジャスティ、この花は、なんて言うの?」
「パンジーです。スミレ科スミレ属の花で、その根と茎には毒成分があります」
「向こうのアジサイにも、毒があったりする?」
「ここに咲いているのはホンアジサイですね。アジサイ科アジサイ属は、今のところ毒性は明らかになっていません。ですが、間違っても口に入れたりしないように」
「しないよ、さすがに」
 思わず笑ってしまうリーリア。
「あ、この花可愛い」
 アジサイの隣のエリアに咲く花を見て、リーリアが言う。
「それはアルメリアですよ。気に入ったのなら、夢を集めてみては」
「そうだね。赤や白もいいけど……ピンクの花が一番可愛い」
 リーリアがピンク色のアルメリアの夢を集めていると、
「あら、こんにちは」
 と、声をかけられる。
 ファリエリータだった。
「ファリエリータも、来ていたの?」
「ええ。綺麗なお花がいっぱいで、なんだか素敵なジュエリーのデザインが閃きそうよ」
「花モチーフのジュエリーって、いいね」
「楽しそうですね」
 と、声をかけてきたのは、ポヴァラ。後ろにいるコカコも小さく頭を下げる。
「あなたも、アルメリアの花の夢を集めに来たの?」
 ファリエリータが訊くと、コカコは一気に赤面する。
「いえっ、そのっ、はい」
 コカコはその場にしゃがみ込んで、アルメリアの花の夢を集めるのに没頭し始める。
「コカコさんたら……あ、集めるなら白とピンクをお願いしますよ」
「私はそろそろ別のエリアに行こうかしら」
 と、ファリエリータ。
「私も違う花の夢を集めに行こうかな。また会ったらよろしくね」
 リーリアとジャスティ、ファリエリータとヴァルフレードはそれぞれ別のエリアに向かった。


 ガーデンの一番奥、妖精の花壇で、アリシエンテは瞳を輝かせた。
 エリアごとに整然と種類分けして植えられた花も良いが、妖精たちが思いのままに花を植えたこの花壇も、また違った美しさがある。
「白いユリがたくさんあるわ。私、この花の夢を集めることにするわ」
「アヤメやガーベラも綺麗ですよ」
「ええ、綺麗ね。でも……私には、ちょっと似合わないような気がして」
 エストは、そんなことはないと思ったのだが、アリシエンテに命じられるまま、白いユリの夢を集めた。
 そこに、ポヴァラとコカコもやってきた。
「こんにちは、アリシエンテさん、エストさん」
 アリシエンテも挨拶を返す。
「ここだと、たくさんの種類の花の夢が集められそうですね。どの花にしましょうか」
「ポ、ポヴァラさんが決める約束です……」
「じゃあ、マーガレットと、スズラン、ワスレナグサの夢を集めたいですね」
 ポヴァラが答えるやいなや、コカコは猛スピードでマーガレット、スズラン、ワスレナグサの夢を集める。
「あ、集めました……だから、次の場所に……っ」
 やはりコカコは、他の人がいる場所は苦手なようだ。
「仕方ないですねぇ。それでは、また」
 ポヴァラとコカコが妖精の花壇を去ると今度は、ファリエリータの明るい声が。
「こんにちは!私たちも、お邪魔させてください」
「あら、こんにちは」
「ここには、マーガレットも咲いているのね。私、この花の夢を集めるわ」
 ファリエリータとヴァルフレードは、マーガレットの夢を集める。
「ここに来る途中でラベンダーが咲いてたわよね。次は、ラベンダーにしましょう」
 ファリエリータとヴァルフリードは、アリシエンテたちに挨拶をして、ラベンダーのエリアに向かっていった。
「もうだいぶん夢を集めたけど……まだ充分じゃないのかしらね」
 アリシエンテが溜息をついて辺りを見回す。
 その目に、ピンク色のヒャクニチソウが飛び込んできた。
「エスト、ちょっと、壺を貸して」
 エストから壺を受け取ると、アリシエンテはヒャクニチソウのそばへ。
「一つくらい、こういう夢があっても、いいわよね」
 アリシエンテが壺を振る。
 すると。
 一気に周囲の景色が変わった。
 眩しい太陽はシャンデリアに。柔らかい土はカーペットに。揺れる花は、正装した男女に。
 どうやらここは、社交パーティの会場。
 人混みの中に、エストの姿を見つけてほっとして駆け寄る。
「どうしようエスト。私ったら社交パーティに普段着でいるなんて……」
「大丈夫ですよ。あなたはこれだけで、充分美しいですよ」
 エストが白ユリの花束をアリシエンテに手渡し、そのうちの一輪を彼女の髪に飾ると、徐々に周りの風景が元に戻っていった。
「い、今の……」
「不思議ですね。起きたまま、夢の中に入ってしまうなんて」
「やっぱり今のが花の夢だったのね。花もパーティをしたいのかしら」
 くすっと笑ったアリシエンテは、手の中にユリの花束が残っているのに気が付く。
「これは……」
 目の前で、にっこり笑うエスト。
「なんだ、私、まだ夢の中なのね」
 アリシエンテの言葉に、エストは溜息をつく。
 彼女がヒャクニチソウの夢を集めている間、こっそり、妖精にユリをわけてもらったのに、夢扱いされてしまった。
「夢だと思うなら、今晩眠るとき、その花束をベッドの横に飾っておいてください。明日の朝目覚めたときにその花があったら現実、なくなっていたらきっと夢ですよ」


 リーリアが興味を惹かれる花を見つけるたび、ジャスティは花の説明をしてくれた。
「この花、おもしろい形をしているね」
「それはキンギョソウですよ。繊細そうな外観ですが、意外に生命力の強い花です」
「あ、確かに金魚みたいな形!可愛いね」
 リーリアはキンギョソウの夢も集める。
 結局、ジャスティはどんな花が好きなんだろう。どの花を見ても、同じような反応で。
 唯一違ったのは……。
(そうだ!)
「ね、ジャスティ、今度はこっち!」
 リーリアはガーデンの出口に向かって駆け出す。
 ジャスティが一番、見つめていた花。
 そう、あれは、「早く外に出たい」と思ってアーチを見ていたんじゃないんだ、きっと。
 ジャスティが好きな花だったから、見ていたんだ。
 リーリアとジャスティは蔓バラのアーチに辿りつく。
「はい、ジャスティ」
 リーリアはジャスティに壺を手渡す。
「ジャスティ、バラの花、好きかなぁって思ったの」
 ジャスティは一瞬だけ、目を見開く。
「かないませんね、リーリアには」
 ジャスティがバラの夢を集めるたびに、周りの景色が変わっていった。
「あれ?なんだか、花が増えた?」
 気が付けば、360度どこを見渡しても花、花、花。
 そして風が吹くたびに、その形を変えてゆく。
「うわぁ、花の万華鏡みたい!」
 リーリアが歓声をあげる。
「ああ、珍しい花もこんなにたくさん……研究欲がそそられますね」
 時間が経つと、地面の花は消え、空中に浮かんでいた花々は雨のように降り落ちて地面に吸い込まれていった。
「綺麗な夢だったね。来て良かった」
 まだ興奮冷めやらぬ様子のリーリア。
「ええ、私も」
「だけど私、質問ばっかりで邪魔しちゃってて……」
「いいえ。他人に説明することで、自分も改めて勉強になります」
 それに、リーリアに説明をすることは全く苦ではなかった。人と関わるのが得意ではないジャスティにとって、それは不思議な感覚だった。


 フィーリアとジュストは、ゆっくりガーデンの外周を歩きつつ夢を集めていた。
 夢が壺に入っていく様子もきらきらと美しく、フィーリアの目を楽しませた。
 そして、幾つ目かの夢を集めた時。フィーリアは足元がぐにゃりと柔らかくなるのを感じた。
 足元を見ると、そこはふかふかの巨大な風船の上。
 顔を上げると、ジュストはフィーリアとは違う風船の上に。
「これ……夢……なのね」
 ここが夢の中だと認識し、フィーリアの顔に笑みが浮かぶ。
 風船の上で、ぽんと跳ねてみる。体がふんわり優しく跳ねた。
「……気持ち、いい……」
 あちこちに同じような風船がたくさん浮かんでいる。
 フィーリアはぽよんと跳ねて違う風船に飛びうつってみた。
 地面が見えないのに、不思議と怖さは感じない。
 しかしジュストは気が気ではない。フィーリアに何かあったら大変だ。
「リア!」
 ぽんぽんと風船の上を跳んで移動し、フィーリアに手を伸ばす。
 あともう少しで、その手がフィーリアに届く。そこで、夢が終わった。
「……あ……」
 ジュストは伸ばした手を引っこめる。
「あの……、ジュスト、ありがとう……」
「何がだ?」
「だって……私、を……助けてくれようと、してくれた……」
「それは、まぁ……」
「ふふ……素敵な夢、だったね……」


「夢って、どんなふうに入っているのかしら」
 ラベンダーの夢を集めている途中で、ふと気になったファリエリータ。
 片目を瞑ってそっと壺の中を覗く。
 小さな壺の中で、小さなオーロラが渦を巻いていた。
「どんな夢が見られるのか、ますます楽しみになったわ」
 ファリエリータは再びラベンダーの夢を集める。
「ラベンダーって良い香りよね。確か、安眠にも効くんだったっけ……」
 などと考えていると、急にラベンダーの香りが強くなる。
 もしかして、夢の中かしら。そう思って辺りを見ても、あまり変わった様子はない。
(夢が見られるのは、まだみたいね)
 次の夢を集めようとラベンダーの花を見る。
「!」
 目の前にあるラベンダーは、花の形を模したジュエリーに代わっていた!
「これは、なかなか素晴らしいね。タンザナイトとアメジストでできたラベンダーか」
 ヴァルフレードもラベンダーのジュエリーに見惚れている。
「他のお花も?」
 ファリエリータが見回すと、2人の周りに、たくさんのジュエリーの花が現れ、陽の光を浴びてきらきらと輝いている。
「綺麗……」
 ファリエリータは足元に咲くマーガレットのジュエリーを手にとる。
 よく見ると、花弁の一つ一つが外れるような仕組みになっているようだ。
 ファリエリータは、ジュエリーの花弁を丁寧に一つずつ外してみた。
「好き、嫌い、好き……なんてね」
「誰との相性占ってるの?」
 ひょいっと背後から、ヴァルフレードがのぞき込む。
「きゃあっ」
 思わず悲鳴をあげるファリエリータ。その途端、夢の世界が消えた。
「あ~あ、もっと見ていたかったのに」
 ヴァルフレードが落胆する。
 しかしファリエリータは動悸を押さえるのに必死だった。
(もう、ヴァルが急に声をかけるから!)
 だけど、自分はいったい、誰を想って相性占いなんてしたんだろう。
(もしかして……?)
 ファリエリータはヴァルフレードの横顔をちらりと見る。
(いやいやいや!そりゃあヴァルはかっこいいかな~とは思っているけれど恋愛対象とかは!)
 そして結局、占いの結果はわからないまま……。


 はぁ~あ、とコカコが深いため息をつく。
「みなさん、楽しそうでしたね」
「俺も、楽しいですよ。美しい花を愛でると自分もより美しくなれるような気がして」
「……はぁ。でも、意外ですね、ポヴァラさん。派手なお花の夢ばかり集めるかと思ったのに」
 ポヴァラが集めたのは、どちらかと言えば色味が薄く、小さな花。
「そうですね。派手なものにも興味はありましたが……気まぐれ、ですかね」
「そういうわけですか」
(私も気まぐれで選ばれた地味な花、ですかね)
 コカコは、ぷいとポヴァラから顔をそむけ、目の前にあるアジサイの花の前で壺を振った。まるで流れ作業のように、次から次へと。
「あ、コカコさん!」
 ポヴァラに呼ばれて、はっと顔をあげると、すでに景色が変わっていた。
 どこまでも広がる、だだっ広い草原。流れる風が、心地いい。
「ここ……どこですか」
「どこって、夢ですよ、花の」
「え……思っていたのと、違う」
 もっと非現実的な夢が見られると思っていたのに。
「何言ってるんです。ただ草原だけが広がる世界なんて、夢でなければありえません」
 ポヴァラはこの夢に満足している様子だった。
「ポヴァラさんはもっと華やかなところが好きなんじゃないですか?」
「大好きですよ。でも、こういう穏やかな場所も、大好きですよ」
 ひとしきり草原の風を楽しんでいると少しずつ周りの景色が元に戻ってきた。
「夢の時間が終わってしまいましたね」
「あの場所……誰もいなくて居心地良かったのに……」
 他人が苦手なコカコには、快適な空間だった。
「おや、俺がいたじゃないですか。それとも、俺がいたのも含めて、居心地良かったですか」
 ポヴァラがにやりとする。
「……!もう、からかわないでくださいっっ」


 ウィンクルムたちのおかげで、花の夢がたくさん集まったと妖精たちは大喜びだった。
「みなさんも、夢を楽しんでくれていたら、とっても嬉しいの」
 と、妖精たちは言う。
 ウィンクルムたちはそれぞれ、今日の夢を思い返しながら帰途についた。
 どうか、今日見る夢も、幸せな夢でありますように……。



依頼結果:成功
MVP
名前:ファリエリータ・ディアル
呼び名:ファリエ
  名前:ヴァルフレード・ソルジェ
呼び名:ヴァル

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月13日
出発日 04月21日 00:00
予定納品日 05月01日

参加者

会議室

  • …あ、あの、フィーリア・セオフィラス、です。
    …はじめまして、…よろしく、お願いします。

    …花の、夢…、…集める、お手伝い、頑張ろうと、思います…。

  • 初めまして! 私はファリエリータ・ディアル、よろしくねっ。

    花から夢を集めるなんて素敵ねー!
    どんな夢が見られるかしらっ。

  • 初めまして。私はリーリア。
    よろしくね。
    パートナーが植物好きで、花の夢が気になっているみたい。
    どんな夢が見られるのか楽しみね。

  • [2]コカコ

    2014/04/17-00:51 

    (辺りに人数が増え縮こまりながらも)
    は…っ あ、あの…初めまして…コカコです。
    精霊が凄く興味をもったみたいで…わ、私も入場する事にしました。

    起きているのに夢なんて不思議、です…あの、よろしくお願い、しますね…っ

  • [1]アリシエンテ

    2014/04/16-22:42 

    一番乗りね……(辺りの様子を伺いながら)
    初めまして、アリシエンテと言うわ。

    花から夢を集めるだなんて、嘘のように素敵な話っ!
    今からとても楽しみだわ!


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