ずっと君が好きでした(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 貴方がその手紙に気付いたのは、事務手続きを終えてA.R.O.A.から出て来た時でした。
 見覚えのない封筒が、ぽつんと貴方の鞄の中に入っていたのです。
 小首を傾げた貴方に、パートナーが声を掛けます。
「どうかしたのか?」
「ちょっと見覚えのない手紙があって……」
 先ほどの手続きの際、提出を忘れたものだったり?
 貴方はそっと手紙を手に取りました。
 宛先には貴方の名前。差出人の名前は──知らない名前です。
 僅かざわめく胸を押さえ、貴方は手紙の封を切りました。

『貴方が好きです。
 本日、16時──グルーンヒル公園の東屋で待っています。
 そこでお返事を下さい。』

 簡潔で、しかし丁寧に書かれたと一目で分かる文章を見て、貴方は目を見開きます。
「なんだ、これ……」
 隣から、不機嫌に聞こえるパートナーの声。
 貴方が顔を上げると、手元の手紙に視線を下ろしているパートナーが眉根を寄せました。
「ラブレター?」
 パートナーの言葉に、貴方の胸は大きく跳ねます。
 そうです。何処からどう見ても、これはラブレター。
「で? どうするんだよ?」
 依然として不機嫌そうなパートナーが、着けている腕時計に視線を落としました。
 時刻は14時半。
 貴方はパートナーとお茶でもして帰るつもりで居たのですが……。

 どうしよう。

 貴方の手の中で、手紙がくしゃりと音を立てました。

解説

突然のラブレターにどう対処頂くか、というエピソードになります。

プランには以下を明記して下さい。

・ラブレターを貰ったのは、神人か精霊か。

・ラブレターを貰った後、手紙の指定場所へ行くか、行かないか。

・指定場所へ行った場合、どうやって告白を断るか。
 その時、パートナーはどうするか。(パートナーと告白相手のやり取りを妨害する行動もOKです)

・指定場所へ行かない場合、パートナーとどのように過ごすか。

また、指定場所へ行く場合は、どのような人物に告白を受けるか、こだわりのある方はプランに明記をお願いします。
※ウィッシュプランへの記載でも構いません。
※記載がない場合は、雪花菜のアドリブが炸裂します。
※文字数の都合上、描写は薄めになりますこと、あらかじめご了承ください。

こだわりはないけれど、大まかに指定したいという場合は、以下テンプレをご活用下さい。
(テンプレにない項目も、自由に足して頂いて問題ありません)

1.性別 男性/女性/性別不詳
2.年齢 同年/年上/年下/年齢不詳
3.貴方への執着度 ライト/普通/ヘビー

<場所情報>
グルーンヒル公園
タブロス市にある小さな公園です。
この土地を所有していたグリーンヒル男爵の趣味がサボテンで、彼が集めたサボテンコレクションが公園全体を覆っています。
ちょっとした迷路になっており、男爵が使っていた東屋やベンチなどがそのまま残っています。入場は無料です。
公園の南半分は巨大な温室となっており、温室に入るには、別途『40Jr』のチケットを購入する必要があります。

手紙の差出人は、公園の北半分にある東屋の一つで待っています。

なお、A.R.O.A.やグルーンヒル公園への移動代などで、一律「300Jr」消費しますので、あらかじめご了承下さい。

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『学生時代、下駄箱にラブレターって存在するんだ!と、隣のクラスのイケメンをガン見した』方の雪花菜 凛(きらず りん)です。
バレンタインデーのあの日、靴箱から溢れていたラブレターとチョコは圧巻でした。漫画みたい!とワクワクした想い出です。

そんな事を思い出して…ではないのですが、突然ラブレターが来たらどうする?なエピソードです。
男女共に見たいので、両方で出してみました。
皆様がどのように行動されるのか、ドキドキです!

皆様のご参加と、素敵なアクションをお待ちしております♪

リザルトノベル

◆アクション・プラン

クロス(オルクス)

  ☆神人貰う

☆行く

1.男
2.年下
3.ヘビー(ストーカー並

☆心情
「アレ?俺宛に手紙なんて珍しい…
わぉ、ラブレターなんて初めて貰った…」

☆公園
「お前が俺に手紙くれたのか?
えっと、気持ちは嬉しいぜ?
でもな、生憎俺には愛してる恋人がいるんだ
だから…(相手が如何にクロスが好きなのかを語り始めた為ドン引きしている)…(滝汗
(何コイツキモイてか怖いんだけどっ!
ストーカーかって言う程なんだが!?)
あっオルク!
……!?(アレ!?なんか凄い怒っていらっしゃる!?背後に閻魔大王見えるんだけどっ!でも嬉しい(照)
俺、オルクを愛してんだ
だから御免な」

☆その後
「オルクの想い嬉しかった(微笑
さぁてこのままデートでもする?」



アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
  会って直接お断りした方が良さそうです
占いで「向き合え」と出てましたから、素直に従っておこうかと思いまして
…すみません、面倒ですが行って来ます

初めまして、と挨拶してすぐにですか
どこでどう私の事を知って、どこがいいかなどと語られても困るのですが、一応最後まで話を聞くのが礼儀でしょう
その後、しっかり目を見てお断り
私はウィンクルムとしての活動に専念したいのでお応えできません
捕まれた手を振りほどこうとするもののうまくいかず押し問答していると、精霊に気付く

なる、ほど
そういうつもりですか
私にベタ惚れで将来の約束を交わした方がいるので貴方に用はありません、消え失せなさいと強く睨んで追い払う
…これで満足ですか?


ブリジット(ルスラン)
  へえ、ルスランにラブレターねぇ
首を突っ込むのは淑女らしくないと思い気のないふり
横目でちらちらっと手紙覗きこもうと

解散後、足は公園方面に
き、気になる訳じゃないわ
丁度そっちに散歩しに行きたくなっただけだもの

遠くから隠れながらこそこそ覗く
なかなか美人ね…身長差的にも釣り合いが取れているし
くっ、この距離だと何を言っているのか聞こえないわ
とても淑女じゃない

ルスランもここらで幸せ掴んでもいい時期よね
私は大人だもの、ルスランがどこへ行こうとなるとちゃんと祝福するわ
そりゃあちょっとは、寂しいけど…

げっ、何かこっちきてる気がするんだけど
散歩よ、散歩!
何て返事したか気になるが興味ない振りしてたので聞けずもごもご



メイリ・ヴィヴィアーニ(サクヤ・クオン)
  さっくんがラブレターもらったよ!
わぁ、ラブレターなんて初めて見た。
貰ったの私じゃないのにちょっとドキドキする。

貰った本人は送ってきた人が可哀そうなくらい無反応。
つい「何とも思わないの?」って聞いちゃった。
会ったばっかりだけど嬉しすぎて固まってるわけじゃないのはわかるよ。
「行くの面倒」って考えてるのかも。

どうやら行く気は全くないみたい。
待ってる人には悪いけど予定通りさっくんおすすめの本屋さんに行くね。

連れてきてもらったのは店長さんの気に入った本しか置かない店。
なんか秘密基地みたいな雰囲気。
お父さんの絵本置いてあったのがなんか嬉しいな。
店長さんとさっくんにおススメ聞いて、短編集と童話買って帰るよ。



御神 聖(御神 勇)
  古風な手だね
あたしがスルーしたら、勇が勝手に行ってややこしくなりそうだし、行くよ
勇、家で留守番しててね

あれ、店によく来る…(飲食店のウエイトレスをしてる)
(挨拶と手紙書いたか確認)
音月 陽登君…10歳年下ね
(古風な手使ったけど、ポジティブそうな男の子だね)
いきなり好きって言われても困…
(勇登場にげっとなる中、勇の発言)
言うと思った
だから、勇は留守番しててと
(聞かれ)
こっちは息子、そいつは契約精霊
(面白くていい奴だし)世話になってるし息子が懐いてる分あんたよりはそうなる確率高いかな

口説くのは自由だけど、あたしが応じるかは別問題だし、嫌なら他行きな

(勇の手を引いて帰る)

勇…ママは将来が心配だよ…



●1.

 手紙からは、仄かに香水の香り。
 ブリジットはパートナーの手の中にある手紙を見つめた。
「何度見ても……宛先が俺だな」
 ルスランはその文面に眉根を寄せて、何度も手紙が入っていた封筒と手紙を見比べる。
(まじか)
 こんな手紙を貰う心当たりは全くないと言うのに。
(へえ、ルスランにラブレターねぇ)
 思わず口に出しかけた言葉を、ブリジットは飲み込んだ。
(首を突っ込むのは淑女らしくない……わよね)
 敢えて気のないフリに努める。とは言っても、横目でチラチラ手紙を見てしまっていたのだが。
 幸い、ルスランはラブレターの事に集中しているらしく、そんな彼女の行動には気付いていない。
「じゃあ、私は帰るわ」
 用事も終わったしと、ブリジットが言うのに、ルスランは顔を上げた。
「それじゃね」
 ひらひらと手を振って、あっという間にブリジットは背を向け早足に行ってしまう。
「……」
 ルスランは風に揺れる喪服のレースを見送り、一つ息を吐き出した。
「……時間できたし、とりあえず行くか」
 誰に向けた訳でも無いが呟いて、ルスランは重い足を上げる。

 手紙には、グルーンヒル公園の東屋で待つと書いてあった。
 気付けば、自然とブリジットの足は公園方面を目指している。
「き、気になる訳じゃないわ」
 丁度そっちに散歩しに行きたくなっただけだもの。
 そう、これは散歩! 他意は無いったら、無い。
 ブリジットは小さく拳を握り、サボテンに囲まれた公園を見上げる。
 辺りを警戒。ルスランの姿はない。
 ブリジットは忍び足で公園内へと足を踏み入れた。
(東屋……こっちね)
 案内板を確認し、サボテンの影に隠れるように移動すれば、知っている声が聞こえる。少し固い声。

「手紙をくれた人?」

 ブリジットはこそこそと移動し、サボテンの茂みを盾に、東屋に佇む二つの影を凝視した。
 固い表情のルスランと、彼の前には大人の女性。
(なかなか美人ね……身長差的にも釣り合いが取れているし)
 頬を染めた女性は、ルスランを見上げ頷く。
 たぶん、ルスランは『そうか』とか言ったと思うのだが、少々距離があり声は聞こえなかった。
(くっ、けどこれ以上距離を詰めたら見つかる可能性があるわ)
 レースのハンカチを握りしめ、じれったさにブリジットは震える。
 女性の唇が動いた。きちんとルージュが引かれた唇は色っぽい。
(ルスランもここらで幸せ掴んでもいい時期よね)
 私は大人だもの、ルスランがどこへ行こうとなるとちゃんと祝福するわ。
 笑っておめでとうを言おう。
(そりゃあちょっとは、寂しいけど……)
 何時の間にか、握り締めたハンカチは皺だらけで──それが何だか悲しかった。

(何してんだあいつ……)
 視界に映った黒いモノに、ルスランの目線は眼前の女性を通り越し、サボテンの茂み方向へ釘付けになる。
(あれで隠れているつもりなのか)
 パートナーだと確信し、呆れるのと同時に、おかしさが込み上げた。
 ふっと肩の力が抜けた気がする。
「とりあえず、手紙ありがとう」
 自然と感謝の気持ちを口にしてから、ルスランは女性へと微笑む。
「気持ちは嬉しいけど──叶えたい夢もあるし、今はそういう気持ちになれない」
 風に揺れる喪服のレース。
「ほんと、色んな意味で目を離すと危ないというかほっとけないのがいるから──それが落ち着いてからじゃないと、恋とかはあんまり考えられなそう」
 だから、ごめん。
 軽く頭を下げれば、目の前の女性が少し寂し気に微笑んだ。

(あれ? どうしたのかしら)
 女性が東屋を出て行って──。
(げっ、何かこっちきてる気がするんだけど)
 ブリジットは、真っ直ぐこちらを目指してくるルスランに慌てて後退しようとした。が、サボテンに喪服のレースが引っかかってしまう。
「何してるんだよ」
 呆れ顔のルスランが、サボテンに絡むレースを外してくれた。
「散歩よ、散歩!」
 有難うと言いたかったけれど、色々気になる過ぎるけど、まずは誤魔化さなければ。
「……考えてる事が全部顔に出てるんだよな」
「え?」
「断った」
 ぽんと、ルスランの大きな手が頭を撫で、ブリジットは息を飲んだのだった。


●2.

 花柄の可愛らしい便箋には、丸っこい可愛らしい文字が綴られている。
「なんか知らない手紙入ってた……」
 一言、そう言うなり、サクヤ・クオンはさっと目を通しただけで、その手紙をパートナーへと手渡した。
「わぁ、ラブレターなんて初めて見た」
 条件反射的に受け取って、その内容を確認するなり、メイリ・ヴィヴィアーニは目を丸くする。
 丁寧に綴られている愛の言葉に、自然と頬が熱くなった。
(貰ったの私じゃないのにちょっとドキドキする……)
「行こう」
 興味なさそうに手紙を一瞥し、サクヤは早々に歩き出そうとする。
 手紙の差出人が可哀想なくらいの無反応に、メイリは慌てて口を開いた。
 この手紙によると、告白してきた人は、公園でサクヤを待つ筈なのだ。
「何とも思わないの?」
 ピタ、とサクヤの歩みが止まる。
(さっくんとは会ったばっかりだけど、嬉しすぎて固まってるわけじゃないのはわかるよ)
 肩越しにこちらを振り返るサクヤの瞳と視線がぶつかり、メイリは真剣にその瞳を見返す。
(もしかして……『行くの面倒』って考えてるのかも)
 ハァと溜息を吐き出すと、サクヤはメイリに向き合った。
「まず、手紙入れたなら、その場に留まっててくれよ」
 何でわざわざ呼び出すんだと、翠の瞳が半眼になる。
「告白聞くのも面倒なのに、それ以上の事までさせないで欲しい」
 メイリはパチパチと瞬きした。
「なんかテンション削られたんで、パス」
 淡々と言い切り、サクヤは手を伸ばしてメイリの手を掴んだ。
「それより早く行こう」
 時間が勿体ないとばかりに歩き出す。
(どうやら行く気は全くないみたい……待ってる人には悪いけど……)
 そっとサクヤの横顔を見上げれば、彼は何となくウキウキしているような気がした。繋いだ手が温かい。
 メイリだって、今日サクヤと出掛けるのを楽しみにしていたのだ。
 せめて、手紙の主が早々にサクヤが来ない事に気付いて帰ってくれますように。
 祈るように思いながら、メイリは手紙をそっと鞄へ仕舞う。
 
 サクヤに案内されたのは、古風な外観の書店だった。
「読書友達の爺さんの店」
「なんか秘密基地みたいな雰囲気!」
 メイリが華やいだ声を上げれば、サクヤが僅か口元を緩める。
「爺さんの気に入った本しか置かないんだ」
 二人で扉を潜れば、人のよさそうな品の良い老齢の男性がいらっしゃいと二人を出迎えてくれた。
 店内には大きな本棚が立ち並び、ぎっしりと詰まった本のジャンルは多岐に渡る。
「色んな本があるね」
「全部爺さんの趣味だけどな」
 これが良い趣味をしてるんだと、自分の事のように誇らしげなサクヤに、メイリはにっこり瞳を細めた。
「あ、お父さんの本だ!」
 ふと絵本が並んだ棚に、見知った背表紙を見つけ、メイリは手を伸ばす。
「……お父さん?」
 サクヤがメイリが手に取った本をまじまじと見遣った。
「うん、お父さんが描いた本なの」
 メイリが広げるパステルカラーの表紙には、見覚えがある。
(へぇ……)
 サクヤは心の中でニヤリと笑った。何時だったか──もう一人のメイリのパートナーであるチハヤが好きだと言っていた作家の本。
(面白いから、黙っとこう)
 チハヤが知ったときの反応が楽しみだ。
「俺のお勧めはこっち。心理描写に定評のある作家の短編集」
 サクヤが小説をメイリに差し出し、店長は新作の童話を案内してくれた。メイリは両方とも購入する事にする。
 サクヤも新入荷の本を数冊選んだ。
 のんびりと店内を見て回ると、時刻は直ぐに夕暮れ時を迎え、二人は帰路へと付いた。

「さっくん、有難う」
 家の前まで送ってくれた彼に礼を述べると、彼は『ん』と小さく頷く。
「あのね……」
 少し迷ってから、メイリは鞄に仕舞っていた手紙を取り出した。
「これ……私が持ってるのは、違うと思うから」
「……」
 サクヤは数秒程考えるようにした後、メイリから手紙を受け取る。
「じゃあ、またね、さっくん」
「ああ、また」
 夕焼けの中、歩くサクヤの伸びる影を、メイリは見送ったのだった。


●3.

「これはまた、古風な手だね」
 何時の間にか鞄に入っていた手紙に、御神 聖は感心した様子で呟いた。
 今時、手書きの手紙で告白とは何とも珍しい。
「ママ! 行くの!?」
 突き刺さる視線に手紙から顔を上げれば、彼女の愛息子でありパートナー、御神 勇が、塀の上から拳を握りしめてこちらを見ている。
 何時の間にか、塀の上によじ登って、手紙の内容はガン見されたようだ。
「あー……」
 どうしたものかと、聖は視線を彷徨わせた。手紙には、グルーンヒル公園の東屋で待つと書いてある。
(あたしがスルーしたら、勇が勝手に行ってややこしくなりそうだね……)
「行くよ」
 聖は一つ息を吐き出して頷くと、手を伸ばして勇の頭を撫でた。
「勇、家で留守番しててね」
 塀の上から彼の身体を下ろすと、聖は公園へ向かうべく歩き出す。

 大変!
 歩き出した聖に、勇はぐぐっと唇を噛み締めた。
(だいきおにーちゃんがパパになってほしいのに……!)
 『だいき』とは、聖のもう一人のパートナー、桂城 大樹の事である。
 ママにはパパが必要とは思っている勇のイチオシなのだ。
(だいきおにーちゃんはまだ会社でお仕事してるはず!)
「ぼくが阻止しなきゃ!」
 湧き上がる使命感に、勇は大きく頷いた。そのまま、聖の尾行を開始する。
 歩く聖は、我がママながらスタイルが良くて、男達は放って置かないと思った。
(ママはぼくが守る!)

 公園内は静かで心地良い風が吹いている。
 手紙の差出人を探し、東屋の一つにやって来た聖は大きく瞬きした。
「あれ、店によく来る……」
「こんにちは!」
 聖がウェイトレスとして働いている飲食店によくやってくる青年は、白い歯を見せて微笑む。
「こんにちは。君がこの手紙を?」
「はい。俺が書きました。あ、俺は音月 陽登っていいます。歳は21です。改めて宜しくお願いします、聖さん」
「音月 陽登君……10歳年下ね」
「という事は、聖さん、31歳ですか? うわー見えない! よく若く見えるって言われません?」
 陽登は瞳をキラキラさせて聖を見てくる。
(古風な手使ったけど、ポジティブそうな男の子だね)
 聖は心の中で唸った。
「聖さん! 俺の気持ちはその手紙に綴った通りです。貴方が好きだ! 歳の差なんて気にしません! 俺と付き合って下さい!」
 がしっと聖の手を掴んで、陽登が身を乗り出してくる。
「いきなり好きって言われても困……」

「とーう!!」

 その時、小さな塊が二人を割くように突撃してきた。

「ママ!」
 小さな身体で必死に陽登を押しのけ、聖の脚に捕まってくるのは勇だ。
「ぼくの未来のパパはだいきおにーちゃんと決まってるので、ママはダメ!!」
 キッと陽登を見上げ、睨み付ける。
 聖は軽い眩暈を覚えた。
「言うと思った……だから、勇は留守番しててと……」
「あの……この子は一体? ダイキって?」
 聖と勇を交互に見遣り、陽登が尋ねてくる。
「こっちは息子、あー……大樹は契約精霊」
 はぁと息を吐き出して、聖は呆然としている陽登を見遣った。
「世話になってるし、息子が懐いてる分、あんたよりはそうなる確率高いかな」
(大樹は面白くていい奴だし)
 大樹の顔を思い出すと、自然と穏やかな気持ちになれた。
 口をぱくぱくさせる陽登を一瞥すると、聖は勇の頭を撫でながら、口の端を上げる。
「口説くのは自由だけど、あたしが応じるかは別問題だし、嫌なら他行きな」
 そのまま、固まっている陽登を置き去りに、勇の手を引いて歩き出した。

「えへへ、ママ、ぼく、ママを守ったよ?」
 サボテンの並ぶ道を歩きながら、勇が嬉しそうに聖を見上げる。
「だいきおにーちゃんもきっとほっとしてるよ!」
 得意満面。
「だいきおにーちゃんに、あとでちゃんとほーこくしなきゃ!」
 本日、大樹は何回くしゃみをする事になっているだろうか。
「勇……ママは将来が心配だよ……」
「……あれ? ママ、頭いたいの?」
 海よりも深い溜息を吐く聖の頭を、撫でようと勇は必死に背伸びしたのだった。


●4.

 その手紙の中には、婚姻届けが一緒に入っていた。
 手紙の内容に視線を落とし、アイリス・ケリーの唇から深い溜息が零れる。
「会って直接お断りした方が良さそうです」
 元通り手紙を折りたたみ、婚姻届けと一緒に封筒に収める様子を眺めながら、ラルク・ラエビガータが片眉を上げた。
「アンタ会うつもりか? 面倒だから無視するんだと思ったが」
 心底意外そうな顔をする彼へ、アイリスは穏やかに笑みを返す。
「占いで『向き合え』と出てましたから、素直に従っておこうかと思いまして」
 アイリスの特技は占星術だ。
 封筒を鞄に入れて、アイリスは軽くラルクへ頭を下げた。さらりと栗色の髪を揺れる。
「……すみません、面倒ですが行って来ます」
「へいへい、行って来い」
 軽い調子で手を振るラルクに背を向けて、アイリスは手紙で指定された公園を目指し、歩き出した。
 その背中が遠ざかるのを確認してから、ラルクの緋色の瞳が好奇心に煌めく。
(物好きの顔が見たい)
 純粋な好奇心の赴くまま、ラルクはアイリスの後をこっそりと追った。

 公園内は人もまばらで静かだった。
 アイリスは東屋に立つ人物へと歩み寄る。恐らくはアイリスより年上できちんとした身なりの人物だ。
「初めまして……」
「待っていたよ! 愛しい人!」
 アイリスの挨拶を遮るように、男性は両手を広げた。
「来てくれて嬉しいよ! 手紙は見てくれたね?」
「ええ……」
「初めて君を見た時から、私にはピンと来たんだ。君こそが私の運命の女神だと!」
 再び言葉を遮り、男性はうっとりとアイリスを見つめてくる。
「君を初めて見たのは、忘れもしない一か月前だ──A.R.O.A.から出て来た君の神々しい美しさに私は息を飲んだよ」
 一か月前……アイリスは記憶を辿ってみたが、これと言って切欠になるような事は思い出せなかった。
(語られても困るのですが、一応最後まで話を聞くのが礼儀でしょう)
 男の話を遮る事を諦めたアイリスは、無言で男の話を聞く。
「それからは恋い焦がれる日々さ! 栗色の髪に触れたい、そのエメラルドグリーンの瞳に囚われたいと、何度思った事か!」
 男はずいっとアイリスとの距離を詰めて来た。
 ぞわっと鳥肌が立つのを感じ、アイリスは一歩下がる。
「私と結婚して欲しい!」
 男の手には、結婚指輪の入ったジュエリーケース。
 アイリスは一つ息を吐き出すと、真っ直ぐに相手の目を見た。
「私はウィンクルムとしての活動に専念したいのでお応えできません」
 きっぱりと拒絶の言葉を言った瞬間、男の目の色が変わった気がした。
「君を幸せに出来るのは、私だけだよ」
 男が手を掴んでくる。食い込む指に、アイリスは眉を顰めた。

(おーおー、見るからに面倒臭そうな奴だな)
 サボテンの影から東屋を観察しつつ、ラルクはふっと鼻で笑う。
(あの女は断ったつもりだろうが……この手の輩が簡単に退くわけ無いだろうに)

「離して下さい」
 拒否の意思を見せながら、アイリスは絡むような視線──眼前の男とは違うものを感じて、目線を向けた。
「あ……」
 ラルクだ。こちらを見ている。付いて来ていたのか。
(目ぇ据わってるぜ)
 ラルクは彼女の視線を真っ直ぐに受け止め、ニヤニヤと笑う。さて、どうする気かね。
(なる、ほど。そういうつもりですか)
 アイリスは一瞬瞳を閉じた。視界を閉ざしても、ラルクの視線を感じる。
 瞼を開けると、迫る男を睨んだ。
「私にベタ惚れで将来の約束を交わした方がいるので、貴方に用はありません、消え失せなさい」
 普段のアイリスからは想像できない、氷のナイフのような視線と声に、男が手を離して一歩下がる。
(確かに、アンタを壊せるかどうかってのは……ある意味『将来の約束』だな)
 『アイリス』の花言葉──私は賭けてみる。貴方が私を壊せるかどうか──。
 肩を落とし去っていく男には見向きもせず、ラルクは笑みを張り付けたまま、アイリスの元へと歩み寄った。
「……これで満足ですか?」
「悪かない」
 ラルクは朗らかに笑って、アイリスの鞄から手紙を取り上げた。
「ご褒美にケーキでも食わせてやるよ」
 破られた手紙が風に舞う。


●5.

 クロスは、可愛らしい封筒に大きく瞬きした。
「アレ? 俺宛に手紙なんて珍しい……」
 そして綴られている愛の言葉に、クロスは目を丸くする。
「わぉ、ラブレターなんて初めて貰った……」
 クロスの言葉に、隣で成り行きを見守っていたオルクスの思考が一瞬停止した。
 俺のクーにラブレター、だと?
「うーん、返事しに行かなきゃだよな」
 クロスは少し困った様子で眉を下げる。
 優しいクロスが、無視するなんて出来ないって、知ってた!
「オルク、ごめん。ちょっと俺、行ってくるな」
 先に帰っててと、クロスが両手を合わせた。そんな仕草も可愛いとオルクスは思う。
「また後でな!」
 去っていくクロスの鞄から、ひらりと手紙が零れ落ちたのを、オルクスはそっと拾った。
 無言のまま封筒から便箋を取り出す。
 字面を目で追いながら、湧き上がるのは何処までも黒い嫉妬の炎。
「クク、クククク……」
 笑うオルクスの手の中で、グシャア!と手紙が潰れた。

 公園内は不気味な程静かだった。
 行き交う人も殆ど居ない。そんな中、クロスは待ち合わせ場所に指定された東屋へと辿り着く。
「お前が俺に手紙くれたのか?」
 年下らしき青年に声を掛ければ、彼はパァと顔を輝かせた。
「あぁ!待ってたよ、ハニー!」
 早々に断った方が良い。クロスは表情を引き締めた。
「えっと、気持ちは嬉しいぜ? でもな、生憎俺には愛してる恋人がいるんだ。だから……」
「それは君が俺に出会って居なかったからだ! 僕は過去のアヤマチには拘らない!」
 男は頬を染めてクロスを見つめる。
 クロスはぽかんとした。
「さぁ、この僕と結婚しようではないか!」
「はぁ?」
「綺麗な銀の瞳と蒼い髪! スタイル良し!」
 男は手をわきわきさせる。
「ロングも良かったがショートもね! 素敵な可憐で美人な君は、まさに僕の運命の人だ!」
 クロスはじりっと後退した。嫌な汗が出てくる。
(何コイツ。キモイ。てか怖いんだけどっ!)
「君の事なら、何でも知ってる! スリーサイズを言おうか!?」
(ストーカーかって言う程なんだが!?)
 ぞわぁと背筋を嫌なものが走り、クロスは逃げようと考えたのだが、すかさず男が回り込んでくる。
「今こそ誓いのキッスを……」
「やめッ……!」

 ドカァ!

 男の身体が宙を舞った。

「おいコラ、何オレの許可も無しでクーに接近してんだよ」
 地の底から這うような怒りに満ちた声。
「あっ、オルク!」
 自分を庇うように立つ恋人の姿に、クロスが安堵の笑みを見せた。
「クーに目ぇ付けたのは褒めてやるが……既にクーはオレのもんなんだよ。何勝手に告ってんの?」
 地面に転がった男に、オルクの稲妻のような鋭い視線が突き刺さる。
「……!?」
 その迫力に、クロスは目を見開いた。
(アレ!? なんか凄い怒っていらっしゃる!?)
「ただでさえ新たに契約者いるってのにさぁ? マジふざけんじゃねぇよ、あ゛ぁ゛?」
「で、でも僕の方が彼女の事、愛してるし……」
 地べたを這いつつ、男が必死の抵抗を見せると、更にオルクスの瞳が険しさを増す。
(背後に閻魔大王見えるんだけどっ!)
「オレの方がクーを愛してるに決まってんだろうが、ドカスが!」
 きゅんと、クロスは胸が高鳴るのを感じる。嬉しい。
「殺されたくなきゃ、失せやがれ!」
「俺、オルクを愛してんだ。だから御免な」
 オルクスの一睨みと、クロスの駄目押しに、男は泣きながら脱兎の勢いで去っていった。
「クー、無事か……!」
「オルクの想い、嬉しかった」
 振り返るオルクスの手をぎゅっと掴んで、クロスは微笑む。ほんのりとオルクスの頬が染まった。
「当たり前だ。オレはクーを愛してるんだからな」
 掴まれた手を引き上げ、クロスの手の甲にキスを送る。
「さぁて、このままデートでもする?」
「勿論、姫の仰せのままに」
 恋人達は寄り添い、歩き出した。

Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:クロス
呼び名:クー
  名前:オルクス
呼び名:オルク、ルク

 

名前:ブリジット
呼び名:お嬢、ブリジット
  名前:ルスラン
呼び名:ルスラン

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 09月19日
出発日 09月26日 00:00
予定納品日 10月06日

参加者

会議室

  • [5]ブリジット

    2015/09/23-23:46 

    ブリジットよ。
    どうぞよろしくね。

  • [4]アイリス・ケリー

    2015/09/23-16:40 

    アイリス・ケリーとラルクと申します。
    ブリジットさんとルスランさん、聖さんと勇さんは初めまして。
    なかなか困ったことになりましたね。
    厄介なことにならなければいいのですが……それでは、よろしくお願い致します。

  • [2]御神 聖

    2015/09/22-21:44 

    御神 聖だよ。
    ラブレターはあたしが貰ったよ。
    吃驚だよ!

    勇が受け取っても吃驚というか複雑になるからいいけど。

    そういうワケで、よろしくー!

  • [1]クロス

    2015/09/22-13:04 


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