さくら舞う虹色の花(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

「村長! シリル村長! 大変なんだ!」
 慌ただしく喫茶店へと飛び込んできた村の猟師達に、ケスケソル村の若き村長シリルは、眉を上げました。
「どうしたんですか? 皆さん、そんなに慌てて……」
「恋虹華(れんこうか)が、咲いてるんだよ! 森の中に!」
 興奮に瞳を輝かせて猟師の一人がそう言えば、シリルの目が驚きに見開かれます。
「森の中、ですか?」
「ああ! 去年、ウィンクルムの皆さんにデミ・オーガを退治して貰った森だよ!」
「……成程」
 シリルは小さく頷きました。

 タブロス市近郊にある『ケスケソル村』。
 『恋虹華(れんこうか)』という、この村にしか咲かない花が有名な、小さな村です。

 『恋虹華』は、クローバーに似た三つの花びらを持っている花。
 角度によって虹色に輝く不思議な色を持つ、花びらが特徴です。
 大変デリケート、且つ寿命が短かい花で、手折ったり掘り起こしたりなどすると、虹色の花びらは色を失い、すぐに枯れてしまいます。
 何故か、この小さな村にしか存在していない、筈でした。

 それは昨年の事。
 村の近くの森に現れたデミ・オーガ退治を、シリルはA.R.O.A.に依頼しました。
 ウィンクルム達は見事、森の奥に巣食っていたデミ・オーガを討伐し、森には平和が戻りました。
 その時、ウィンクルム達にまるでお礼をするかのように、森の奥の広場に恋虹華が咲き誇ったのでした。
 村人達は、その時だけ咲いたものと思っていたのですが、どうやら違ったようです。

「丁度、桜の花も咲き始めて、凄く綺麗な光景だったよ!」
 猟師達は、撮ってきた写真をシリルへと見せます。
「……是非ウィンクルムの皆さんに見てもらいたいですね」
 写真を手に少し考えてから、シリルはそう微笑みました。
「恋虹華を咲かせた『幻の虹色リンゴ』の主も、それを望んでいるような気がしますから」
「そうだな!」「それがいい!」
 猟師達も口々に賛成します。

 A.R.O.A.に招待状が届いたのは、それから直ぐの事でした。

 ★恋虹華と桜を楽しむピクニックへ行きませんか?★

 森の奥に咲く、恋虹華と桜。
 恋虹華の花畑へ桜の花が舞い散る光景を見ながら、のんびり食事を楽しみましょう。

 ベテラン猟師が、森の奥まで皆様を引率いたします。
 そして、今回は特別に、皆さんで『恋虹華の花びらを浮かべた紅茶』を作って飲む事が可能です。
 (一組二名様で、一輪のみとさせて頂きます。)

 花の花びらを紅茶に浮かべ飲むと、願い事が叶う。
 極稀に存在する、四つの花びらを持つ個体を見つけたカップルは、永久に結ばれる。

 そんなロマンチックな言い伝えのある恋虹華を、桜と一緒に心ゆくまで堪能して下さい。

 ご用意させていただくお弁当と紅茶の料金のみ、ご負担をお願いします。(一組二名様で、400Jr)

 皆様のご参加をお待ちしております。

解説

恋虹華と桜を楽しむピクニックに参加いただくエピソードです。

参加費用として、400Jr掛かります。

紅茶を飲む以外に、恋虹華の花畑から花を採る事はできませんので、ご注意ください。
(きついお叱りを受けます)

ピクニックの行程は以下となります。

・村に集合し、お弁当と紅茶の入った水筒を受け取り、猟師の案内で森へ出発します。
 (お弁当と紅茶は希望者のみに配布します。ご自身でお弁当と紅茶を用意してきても構いません。)
・森の奥まで、のんびり景色を楽しみながら歩きます。
・到着したら、お好みの場所にレジャーシートを敷いて、食事や景色を楽しんで下さい。
 希望者は、『恋虹華の花びらを浮かべた紅茶』を作って飲む事が可能です。
 (一組二名様で、一輪のみ採る事が許可されています。)
・後片付けをして、帰路に付きます。日が暮れる前には村に到着する予定です。

森の奥は、下記のような状態です。

・恋虹華の花畑(森の奥の広場の真ん中に、円形で花が咲いています。)
・桜の花(丁度、恋虹華の花畑を扇状に囲うような形で、木々が花を付けています)
・花畑から少し離れた所に、綺麗な水の流れる小川があります。

お弁当は二種類。お好みで選べます。
・おにぎり+おかず(好きなものがあれば、プランに明記頂くと反映いたします)
・サンドイッチ(好きな具などがあれば、プランに明記頂くと反映いたします)

四つの花びらを持つ恋虹華を探して頂く事も可能ですが、見つけられるかは運次第です。
(親密度や直感力を参考に、ダイス判定になるかと思います。ご了承下さい。また、見つけたからといって、親密度に大きく反映される事もございません。)

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『お花見したいけど花粉症辛すぎる…!(涙)』な方の雪花菜 凛(きらず りん)です。

桜と恋虹華の組み合わせは、いつかやってみたかった……!
過去の恋虹華関係のエピソードは、読んでいなくても全く問題ありません。

どんなピクニックとなるか、ワクワクです♪

皆様の素敵なアクションをお待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)

  桜の季節に恋虹華も咲くなんて
うふふっ素敵ですわね、サフラン!

○調理スキル使用
ピクニックと言えばお弁当ですわね
はりきって作って行きますわ!

中身はサンドイッチ、卵焼き、タコさんウィンナー
飲み物はミルクティー

前より上達していると思うのですけれど
サフラン喜んでくれるかしら?

○ピクニック
景色を見ながらのんびり歩きます
お弁当はやっぱり恋虹華の花畑が良いですわっ
恋虹華はいつ見ても綺麗ですわね
大好きですわっ

四つの花弁の恋虹華は今回も探しますわっ
お花見をしながらのんびり探しましょう
見つけられなくても次の楽しみになりますものねっ

もしも見つける事が出来たらサフランに
「恋虹華の言い伝え、覚えています?」と聞いてみます



アマリリス(ヴェルナー)
  お弁当はサンドイッチ
あら、ありがとうございます

恋虹華の花畑近くで食べる事に

楽といえば楽なのですけれど…
わたくし何もやっていませんね、いいのかしら
…こんな事を考えるようになったあたり、人って変わるものですのね
声を掛けられたらねぎらい一緒にお弁当

花びらを浮べた紅茶も飲んでみませんか?
願い事が叶うのでしたよね
何にしようかと考えていたら今日の様子が思い浮かび
もう少し、わたくしに甘えてくれても…いえ、やっぱり今のなしで

会話が途切れ静かに花を眺める
ふと隣を見れば船を漕ぐ精霊
まあ、昼寝には丁度いい気候ですものね

そっと頭を引き倒して膝に
ここには花とわたくし達しかいませんわ
今ぐらいゆっくり休んでくださいませ


アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
  おにぎり+おかず(卵焼き)

猟師から遅れたり迷ったりしないように注意し、道中の花や樹を楽しみながら歩く
緑の匂い…ふふ、春なんですね

すごい…自分の語彙の少なさがもどかしいです
綺麗としか言えません
促されて我に返り、恋紅華にも程近い桜の木の下へ
シートを広げて、昼食…の前に、
希望すれば紅茶に恋紅華を浮かべれると聞いたので、猟師に声をかけて一輪だけ摘み取る
華を崩してしまうのを少し惜しみつつ、それぞれの紅茶に花びらを浮かべる
精霊の驚いた様子に、独り占めは勿体無いですからと笑う

コップを揺らし、華の色を楽しむ
紅茶の中に虹が咲いてるみたい
見入っている精霊に気付くも、そっとしておく
…こういう一日もいいですね



アメリア・ジョーンズ(ユークレース)
  場所:桜の木の下

毎回思うけど…ユークの強引さには呆れる。
今回もいつも通り連れ出されたけど…なんでまたこの村なのよ!
今日はピクニックだから、この間みたいなことには、ならないはずだけど…一応気を許さないようにしないと。

紅茶もサンドイッチも美味しいけど、ヤバい、ドキドキが止まらない。
この間のこと、思い出したくないはずなのに、この花見ると、どうしても思い出す。
初めてユークが男っぽく見えたけど…ちょっとだけ、怖かったあの時…。
いつもと同じなのに、なんか少し違う気がする。
ここに居るだけで、なんでこんな思いしないといけないのよ!

「…好みじゃ、ないはずなのに…」

この言葉が、赤面したあたしをますます追い詰める。



牡丹(シオン)
  お弁当はサンドイッチでどうかな
…既製品て、素晴らしいよね?(にこ

桜も恋虹華も一緒に見れるなんて贅沢だね
恋虹華は初めてみるからすごく楽しみ
うきうきとした気分で歩く

お弁当は恋虹華の近くで食べたいな
虹色に輝く不思議な色、近くで見ていきたいの

うん、花は大好きだよ
牡丹の名前が花の名前だったからっていうのもあるかな
調べているうちに他の花の事も詳しくなって知れば知るほどどんどん好きになったんだよ

美味しかったね、ごちそうさまでした
私ばっかり喋っちゃった気がするかも
シオンさんて聞き上手だよね、すごく楽しかった

恋虹華には花言葉とかないのかな?
確かに、そんな感じはするかも
あとで調べてみない?いい土産話ができそうだよ



●1.

「ピクニックに行きましょう」
「はぁ?」
 扉を開ければ、爽やかな笑顔。
 慣れっこになった彼からの突然の誘いに、アメリア・ジョーンズは顔を顰めた。
 ぐいとユークレースがアメリアの腕を引っ張る。
「ちょっと! まだ行くなんて言ってない!」
「こんな良い天気の日に、閉じ篭ってるのは勿体無いですよ」
 歩き出すユークレースの力は強くて、手を離す気配は無い。
「わ、分かったから、取り敢えず手は離しなさいよ!」
 逃げないからと視線で訴えれば、ユークレースは瞳を細め、アメリアの腕を離した。
 代わりに指を絡めるようにして手を繋いで来る。
(……腕を掴まれるよりマシよね)
 アメリアは自分に言い聞かせるように心で呟き、彼の横顔を見上げる。
「何所に行くのよ」
「ケスケソル村です。恋虹華と桜が楽しめるとか」
「えぇ!?」
 アメリアは思わず声を上げて目を見開く。ユークレースが不思議そうに見下ろしてきた。
 恋虹華を初めて見たのは、雪の日。
 今も思い出すと胸がかき乱される。
 息が掛かる程近付いたユークレースの顔は、知らない『男の人』だった──。
「エイミーさん?」
 覗き込んでくるユークレースに、アメリアは慌てて一歩下がった。
「な、何でもない! けど、どうしてケスケソル村なのよ……」
「もう一回見たいじゃないですか、恋虹華」
 行く場所に難ありと言いたげなアメリアに、ユークレースは微笑むと構わず歩き出す。
(今日はピクニックだから、この間みたいなことにはならない筈だけど……一応気を許さないようにしないと)
 アメリアは、平常心平常心と心で唱えながら彼の背中を見ていた。

「綺麗ねぇ……!」
 辿り着いたそこは、幻想的な空間だった。
 満開の桜が薄紅色の花びらを散らしている。その花びらが落ちる先には、虹色の絨毯が広がっていた。
「来て良かったでしょ?」
 瞳を輝かせるアメリアに笑って、ユークレースは桜の木の下にレジャーシートを敷く。
「折角ですから恋虹華の紅茶も頂きませんか?」
 レジャーシートが風に飛ばないよう荷物を置いて固定すると、ユークレースはアメリアへそう声を掛けた。
 アメリアがコクコクと頷くと、ユークレースは再び彼女の手を引いて、猟師の元へ移動する。
 そして、猟師が紅茶を入れてくれたカップを手に恋虹華の元へ。
 一輪の恋虹華から一枚ずつ花びらを採って、紅茶に浮かべた。
 虹色が二人の紅茶の上でゆらゆらと揺れる。
 嬉しそうに花びらを見つめるアメリアに、ユークレースは小さく笑うと彼女を促して桜の木の下へと戻った。
「はい、どうぞ。エイミーさん」
「あ、ありがと」
 桜の形の可愛らしいサンドイッチをユークレースから受け取って、アメリアは恋虹華の花畑へと視線を向ける。
 まともにユークレースの顔が見れなかった。
 ツナと卵のサンドイッチも、恋虹華の紅茶もとても美味しくて、景色だって綺麗で心躍るのに──。
(ユークの事ばかりが気になって仕方ない)
 ちらりと彼を見ると、彼は目一杯景色を楽しんでいる様子だった。
 あの時とは違う、いつもの顔。
 けれど、恋虹華を見るとどうして思い出してしまう、あの夜の彼を。
(初めてユークが男っぽく見えたけど……)
 同時に怖いと思った。
(ここに居るだけで、なんでこんな思いしないといけないのよ!)
 叫び出したい衝動に駆られていると、クスッとユークレースが笑う気配がした。
「エイミーさん、さっきから変な顔してますよ」
 距離を詰めて、ユークレースがアメリアを覗き込んでくる。
「ち、近いわよ! 馬鹿!」
 アメリアは後ろへ下がり、彼を睨んだ。
「変ですよ? エイミーさん」
「……好みじゃ、ない筈なのに……」
 ぼそりとか細く零れ出たアメリアの言葉に、ユークレースは口の端を上げる。
「エイミーさんとこうして過ごせるなんて……思ってもみませんでした」
「どうしてまたここなのよっ」
 アメリアの背中に桜の木の幹が当たった。もうこれ以上は逃げられない。
「そんなの……」
 ユークレースがアメリアの顔の横に腕を付く。その青い瞳に浮かぶ色に、金縛りにあったみたいに動けない。
「もう少し色々したら、僕の事をしっかり意識し始めるからだ」
 耳元に囁かれた声に、アメリアの肩が跳ねた。
「さて、何をしてあげましょうかね……」
 低く笑う声がアメリアの耳朶を擽って、暫し彼女の時は止まったのだった。


●2.

 マリーゴールド=エンデはその日、早起きしてお弁当作りに勤しんでいた。
 サンドイッチ用のパンに、卵とトマト、鶏ハムとクリームチーズ、手作りのポテトサラダを丁寧に挟む。
 卵焼きとタコさんウィンナーを添えて、飲み物にミルクティーを魔法瓶に入れた。
「前より上達していると思うのですけれど……サフラン、喜んでくれるかしら?」
 パートナーの顔を思い浮かべながら、マリーゴールドは微笑む。

「おはようございます、サフラン」
 大きなバスケットを持つマリーゴールドに、サフラン=アンファングは大きく瞬きした。
 お弁当を作ってきてくれるとは聞いていたけれど、実際に見るとじわじわと嬉しさが胸に広がっていく。
「荷物、俺も持つヨ」
「有難う御座います」
「晴れて良かったなー」
「ええ、本当に!」
 サフランが魔法瓶を持ち、二人はケスケソル村へ向かって歩き出した。

 森は春の空気に溢れていた。
「サフラン、見てくださいな!」
 陽の光が穏やかに降り注ぐ中、咲き誇る春の花達をマリーゴールドが指差す。
「ルリソウですわ」
「鮮やかな色ダネ」
 空色の可憐な野草に、サフランは瞳を細めた。
「コガネネコノメソウも咲いてますわ!」
「マリー、足元、気を付けテネ」
 瞳を輝かせるマリーゴールドが転んだりしないよう、さりげなく気を配りながら、サフランは彼女の輝く笑顔を見ていた。

「うふふっ、本当に素敵ですわね、サフラン!」
 森の奥で、薄紅色と虹色の共演に魅入って言葉を失って。マリーゴールドの顔に満面の笑顔が広がる。
「色んな季節の恋虹華を見て来たけれど、やっぱり綺麗だな、マリー」
 サフランも大きく頷いた。
「花畑の隣でお弁当を食べましょう」
 二人でレジャーシートを花畑に寄り添う位置に敷く。
 マリーゴールドは作ってきたお弁当を広げた。
「ヤダ、マリーゴールドサンッタラハリキッテルー」
 色彩豊かなサンドイッチ、焼き目も美味しそうな卵焼き、タコの形の可愛らしいウィンナーに、サフランが頬を緩ませる。
 ミルクティーの入ったコップも受け取ると、両手を合わせた。
「では、いただきます」
 ドキドキする胸を押さえながら、マリーゴールドはサフランを見守る。
 サンドイッチをもぐもぐと咀嚼して、サフランの口元が上がった。
「美味しい」
「……よかったですわ!」
 マリーゴールドはホッとした様子で嬉しそうに笑い、自分もサンドイッチに手を付ける。
「美味しい食事に、綺麗な風景。贅沢だなー」
「ふふっ、恋虹華はいつ見ても綺麗ですわね。大好きですわっ」
 二人は景色を眺めながら、食事を楽しんだ。
「そう言えば、恋虹華の紅茶は飲んだ事なかったな。折角だから飲んでみるかい、マリー?」
 食後のミルクティーを楽しみながら、ふとサフランがそう尋ねる。
「飲んでみたいですわっ」
 大きく頷くマリーゴールドに笑って、サフランは丁度通りがかった猟師に許可を貰った。
「貰うね」
 恋虹華に語りかけてから、そっと花びらに触れる。
 優しく花びらを採ると、マリーゴールドと自分のミルクティーに浮かべた。
「願い事、考えた?」
 マリーゴールドは少し考えた後、こう答えた。
「ナイショですわ」

 ミルクティーを楽しんだ後、二人は恋虹華の花畑を歩く事にする。
「四つの花弁の恋虹華、今回も探しますわっ」
 のんびり歩きながらも、マリーゴールドの眼差しは真剣だ。
(花びらにお願いしましたの。見つかりますようにって)
 隣を歩くサフランを見ると、彼は舞い落ちてくる桜の花びらを掌でキャッチしていた。
「見つかった?」
「ま、まだですわっ」
 こちらを向いた彼と目が合い、鼓動が跳ねる。
「見つけられなくても次の楽しみになりますものねっ」
 慌てて口走った言葉に、サフランが肩を揺らして笑った。
 頬が熱くなるのを感じる。浮かび上がるこの不思議な感覚は、どんどん回数が増えていた。
「あ」
 その時、ふわりと揺れた。
「サフラン……あれ……!」
 マリーゴールドが指差す先に、四つの虹色の花びら。風に揺れている四つの花弁。
「見つけましたわ……!」
 マリーゴールドが興奮に上擦る声で、胸元を押さえた。
「……俺は二度目だけどネ」
 四つの虹色の花びらを瞳に映し、小さく小さくサフランが呟いた。
 昨年のバレンタインデーに一人で見つけた四つの花弁の恋虹華。マリーゴールドには見つけた事を告げなかった。
 呟きはマリーゴールドに届いていたのか。彼女の金の瞳がサフランを見た。
「恋虹華の言い伝え、覚えています?」
 風が吹いて、舞い落ちてきた桜の花びらが、マリーゴールドの金の髪を彩る。
「うん、覚えてるよ」
 サフランが微笑んだ。彼の髪も、桜吹雪に揺れている。
「恋虹華の言い伝え、少しだけ信じてみようカナって……思うよ」
 柔らかい声が、優しく響く。


●3.

 アマリリスのお弁当箱を、ヴェルナーが自然な動作で受け取った。
「あら、ありがとうございます」
「いえ」
 ヴェルナーは至極当然という顔で、荷物を全て請け負う。結果、アマリリスは手ぶら同然となる訳で。
(楽といえば楽なのですけれど……)
 アマリリスは少しもやもやする気持ちのまま、ヴェルナーと並んで歩き始めた。

 森の空気は清浄で、春の匂いがする。
「木の根に気を付けて下さい」
 ヴェルナーの声に、アマリリスは足元を気にしながら歩を進めた。
 彼は常にアマリリスの行く道に気を配っているようだ。
(もう少し、わたくしを信用というか、頼ってくれても……)
 アマリリスがヴェルナーの横顔をじっと見るが、彼がその視線に気付く事は無かった。

 辿り着いたそこは、幻想の世界だった。
 咲き誇る桜の花の下、虹色の花がキラキラと光っている。
 ほぅっとアマリリスが感嘆の吐息を吐いているのを見て、ヴェルナーは花畑の隣へとレジャーシートを広げ始めた。
 ここなら間近でじっくりと恋虹華が観察出来る。
 ヴェルナーにしてみれば、その行動は苦ではなく。わざわざアマリリスの手を煩わせるべきではないではないという考えだった。
「アマリリス、どうぞ」
 綺麗に敷かれたシートの上にアマリリスが座れば、紅茶とお弁当を渡される。
(わたくし何もやっていませんね、いいのかしら)
 そう思考して、口元に僅かに苦笑。
(……こんな事を考えるようになったあたり、人って変わるものですのね)
「ヴェルナー」
「はい」
「ありがとうございます」
 労いを込めてお礼を述べれば、ヴェルナーはふわりと瞳を細めた。
 二人はいただきますと手を合わせて、サンドイッチに手を付ける。暫し無言で、風に揺れる花々を眺め食事に専念した。
「花びらを浮べた紅茶も飲んでみませんか?」
 サンドイッチを平らげた頃、アマリリスの提案にヴェルナーは立ち上がった。
「用意します」
「わたくしもご一緒しますわ」
 アマリリスは彼と一緒に猟師の元へ向かう。
 許可を貰って、二人で慎重に花びらを紅茶の上に浮かべた。虹色の花びらが、琥珀色の上で揺れる。
「願い事が叶うのでしたよね」
 アマリリスは花びらを眺めて考えた。
 浮かんだのは今日のヴェルナーの姿。
「もう少し、わたくしに甘えてくれても……」
 消え入りそうな声で呟いてから、アマリリスは首を振る。
「……いえ、やっぱり今のなしで」
 顔を上げたヴェルナーが不思議そうに首を傾けている。
「何でもありません」
 そんな彼に笑顔を向け、アマリリスは紅茶に口を付けた。
(どうして無しにしたのだろう?)
 無かった事にするのは勿体ない気がする。
 ヴェルナーはそう思いながら、自分の紅茶を飲んだ。
 花びらが紅茶と一緒に喉を通って、不思議だなと思ってから。
「願い事、忘れていました……」
「あら、残念ですわね」
 肩を落とすヴェルナーにアマリリスは笑って、それから再び沈黙が落ちる。緩やかな風が二人の髪と花びらを揺らしていた。
 心地よい日差しと空気に、ヴェルナーは瞼が重くなるのを感じる。
(まあ、昼寝には丁度いい気候ですものね)
 船を漕ぎ始めた彼に気付き、アマリリスは微笑んだ。
 ヴェルナーの肩に手を掛けると、ゆっくりと自分の方へ引き倒す。力の入ってない身体は簡単に倒れて、彼の頭はアマリリスの膝に乗った。
(あれ?)
 身を起こそうとするヴェルナーの肩を、アマリリスの手が優しく制す。
「ここには花とわたくし達しかいませんわ。今ぐらいゆっくり休んでくださいませ」
 アマリリスの声。優しい手が頭を撫でている。
(……ならばいいか……)
 アマリリスがそう言っているならば、今は甘えよう。ヴェルナーは心地よい睡魔に身を委ねた。


●4.

「お弁当はサンドイッチでどうかな」
 牡丹は笑顔でパートナーを見上げた。
「うん、俺もサンドイッチがいい」
 シオンは笑顔で頷く。
 ベーコン、レタス、トマトのサンドイッチは見た目も華やかで美味しそうだし、カツサンドも食欲を唆られた。
「こういう時って手作りできたらいい感じかなと思ったけど……俺あんまり料理得意じゃないんだよね」
 お弁当を眺めつつ、シオンが眉を下げる。
「牡丹ちゃんはどう? お料理する?」
 家の手伝いでとか。
 牡丹の実年齢を知らないシオンは、軽い気持ちで尋ねたのだが──。
「……既製品て、素晴らしいよね?」
 にこ。
 微笑む牡丹の周囲がどよんと淀んだ気がした。
 妙な威圧感にシオンはゴクンと息を飲む。
 質問への答えではなかったのだが、存外に『聞くな』と言われている事を悟った。
「そ、そうだね! 既製品最高!」
 そう返事を返せば、牡丹は満足そうに頷いたのだった。

 春の日差しがポカポカして暖かい。
「桜も恋虹華も一緒に見れるなんて贅沢だね」
 牡丹は軽い足取りで森の道を歩く。
 その横顔からは、先程のドス黒い雰囲気は消えていた。その事に安堵しながら、シオンはそうだねと頷く。
「恋虹華は初めて見るから、凄く楽しみ♪」
「楽しみだよね、虹色の輝くってどんななんだろう。子供ってこういう話好きだからさ、きっといい土産話ができそう」
 瞳を輝かせるシオンの姿に、牡丹は笑みを零す。
 彼の職業は保育士。今日の話を子供達にする姿を想像すると、微笑ましい気持ちになった。
 実年齢と一致しない外見の彼が、子供達と語る姿はきっと可愛らしい。

 辿り着いた森の奥は、虹色の世界だった。
 陽の光に揺れる虹色の花。それに降り注ぐ桜の花びら。
 暫し二人でその光景に圧倒されてから、先に口を開いたのは牡丹だった。
「お弁当は恋虹華の近くで食べたいな。虹色に輝く不思議な色、近くで見ていきたいの」
「そうだね、そうしよう」
 二人で協力して、花畑の傍にレジャーシートを敷く。
 花の方を見て二人肩を並べて座った。
「美味しい♪」
 嬉しそうにサンドイッチを頬張る牡丹を見て、シオンにも自然に笑みが浮かぶ。
 ふと、彼女の髪を飾る花の髪飾りが気になった。
(名前も花の名前だし……)
「牡丹ちゃんは花が好きなの?」
「うん、花は大好きだよ」
 牡丹は頷いて、舞い降りてきた桜の花びらを掌で受け止める。
「牡丹の名前が花の名前だったからっていうのもあるかな。調べている内に他の花の事も詳しくなって……知れば知る程どんどん好きになったんだよ」
「それで花の髪飾りなんだね」
「色々集めてるんだ」
「いつも違うの付けてるもんね。今日の花ははなんていう花なの?」
 他愛無い話をしながら、二人の時間がゆっくりと過ぎていく。
「美味しかったね、ごちそうさまでした」
 牡丹はきちんと手を合わせてから、シオンを見遣って笑った。
「私ばっかり喋っちゃった気がするかも。シオンさんて聞き上手だよね、凄く楽しかった」
「そ、そうかな?」
 真正面から褒められて、シオンは少し頬を紅くさせ照れた。そんな彼に笑みを深めてから、牡丹は虹色の花に視線を落とす。
「恋虹華には花言葉とかないのかな?」
「伝承的に、あるなら恋愛関係っぽいやつじゃないかな」
 恋虹華の伝説を思い出しながらシオンがそう答えると、牡丹はそっと花びらに触れて頷いた。
「確かに、そんな感じはするかも。後で調べてみない? いい土産話ができそうだよ」
「そうだね」
 道中の自分の言葉を牡丹が覚えていてくれた。それが嬉しくて、シオンは満面の笑みを見せたのだった。


●5.

「それじゃ、花見で目の保養といきますかね」
 ラルク・ラエビガータは、おにぎりと卵焼きの詰まった二人分の弁当と、紅茶の入った魔法瓶を抱えた。
 ふとパートナー、アイリス・ケリーの視線に気付く。
「気にするな」
「では、よろしくお願いします」
 アイリスはぺこりと軽く頭を下げた。

 木漏れ日が煌めく道を、森の奥を目指して歩く。
「緑の匂い……ふふ、春なんですね」
 アイリスはすぅっと息を吸い込んだ。
「絶好の花見日和だな」
 穏やかな彼女の横顔を眺めてから、ラルクもまた彼女に倣って深呼吸してみる。
「空気が美味い」
「ええ、癒されます」
「お、ツクシだ。佃煮にすると美味いんだよな」
「これを見ると、本当に春を感じますね」
 二人で一斉に頭を出しているツクシを眺める。ラルクはちらりとアイリスを見遣った。彼女の表情が柔らかい。珍しく少しはしゃいでいる風に見える。
 ラルクは僅か口元に笑みを浮かべ、空を仰いだ。本当に良い天気だ。
「さ、遅れないように行かないとな」
「ええ」
 猟師から遅れないよう気を付けながら、二人は春の訪れを身体いっぱいに感じて先へと進んだ。

 二人を出迎えたのは、虹色と桜色の世界。
 舞い散る桜吹雪に、虹色の花が揺れている。
「すごい……自分の語彙の少なさがもどかしいです」
 アイリスは瞬きも忘れて、その光景に魅入った。
「綺麗としか言えません……」
「これは見事だな」
 ラルクもまた景色に感嘆の吐息を吐く。
「このまま立ったまま魅入っているのも勿体無いな。場所取りをしようぜ。何所にする?」
「あ、……そうですね」
 ラルクの声に我に返ったアイリスは頷くと、辺りを見回して、恋紅華にも程近い桜の木の下へ視線を向けた。
「彼処が良いかと」
 ラルクがレジャーシートを広げ、アイリスがその四隅に拾った石を置いて固定する。
「飯にするか」
「少し待って貰えますか」
 早速弁当を広げようとしたラルクにそう言い、アイリスは魔法瓶とコップを手に持った。
「希望すれば紅茶に恋虹華を浮かべれると聞いたので。ラルクさんはここで待っていて下さい」
「いや、俺も行く」
 ラルクは立ち上がり、アイリスと共に猟師の元へ向かう。
 猟師の許可を取ってから、花畑の片隅にしゃがんで恋虹花に向かい合った。アイリスがコップに紅茶を入れる。
(華を崩してしまうのは……勿体無いですが)
 アイリスは一輪の花から一つの花びらを採って、コップにそっと入れた。
「ラルクさんの分です」
 差し出されたコップにラルクは目を丸くした。自分の分を入れて貰えるとは思ってなかった。
「独り占めは勿体無いですから」
 アイリスはにこりと笑う。
(この女なりの厚意、か)
 ラルクは軽くコップを掲げて感謝を示した。
 アイリスもコップに花びらを浮かべ、二人は桜の木の下へと戻った。

 虹色の花びらが、琥珀色の液体の上を滑るように踊っている。
 アイリスはコップを揺らして、華の色を楽しんだ。
「角度で色が変わると聞いちゃいたが……不思議なもんだな」
「紅茶の中に虹が咲いてるみたいです」
「風流でいいな」
 ラルクが喉を鳴らして笑う。
 彼の笑い声が心地良くて、アイリスは瞳を細めた。
「どれ、この角度にしたら……」
 ラルクは頭を動かして角度を変えてみる。花が緑に見えた瞬間、既視感を覚えた。
 鮮やかな深い色。
「いい色だ……」
 無意識に呟いてから、気付いた。
 顔を上げると、こちらを見ていたアイリスと目が合う。
 ああ、この色だ。
 アイリスの瞳の色。
「悪くない」
 ラルクの紅の瞳が穏やかな色を見せて、アイリスは瞬きした。
「……こういう一日もいいですね」
 そう言った自分も、きっと穏やかな顔をしているのだろうと、そう思った。

Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:マリーゴールド=エンデ
呼び名:マリー
  名前:サフラン=アンファング
呼び名:サフラン

 

名前:アメリア・ジョーンズ
呼び名:エイミーさん
  名前:ユークレース
呼び名:アンタ/ユーク

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ハートフル
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月02日
出発日 04月08日 00:00
予定納品日 04月18日

参加者

会議室

  • [6]アイリス・ケリー

    2015/04/07-23:28 

  • アメリアよ、よろしくね。
    久しぶりのメンバーは久しぶり…その、えっと…。
    ちょっと気まずいけど、ピ、ピクニックなだけよね…。
    た、楽しんでやろうじゃない!

  • [4]牡丹

    2015/04/07-02:03 

    初めまして、私は牡丹。
    よろしくね。
    恋虹華も桜も楽しめるだなんて、何だか贅沢だね。
    きっと素敵な思い出になりそう。
    みんなも素敵なひと時を過ごせますように。

  • [3]アイリス・ケリー

    2015/04/06-09:04 

    アイリス・ケリーと申します。
    牡丹さんは初めまして。他の皆さんはお久しぶりです。
    虹色の花と桜の花でのお花見なんて、とても素敵ですね。
    お茶に浮いた恋虹華の花、目に焼き付けて帰ろうかと思っております。
    それでは、よろしくお願い致します。

  • [1]アマリリス

    2015/04/05-13:53 


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