オーガは出たけどハピネスです(白羽瀬 理宇 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

「ヤックドーラ3体とヤックハルス5体、その他多数のデミ・オーガに村が襲われました!」
そんな情報がA.R.O.A.本部に寄せられたのは今日の夕方の事だった。

首都タブロスから南東へ200kmほど。ミノス山地にある小さな村がオーガ達に襲われたのだという。
襲われたのは、山あいの、ほとんど限界集落と言っても過言のないようなモンスという村。
数少ない住民は、手に手を取り合って隣のフルーメン村まで逃げ、そこからA.R.O.A.本部へと連絡が入れられたそうだ。
農業倉庫や家畜小屋が被害に合いはしたが、不幸中の幸い、モンス村の住民は全員無事らしい。
けれども、いつ避難先となったフルーメン村までオーガがやって来るかも分からない。
緊急招集されたウィンクルム達は、A.R.O.A.職員のハセが運転するバンに乗り急いでフルーメン村まで向かった。

しかし……。

「もうすっかり暗いですね……」
たどり着いたフルーメン村で、日の落ちた空を見上げてハセが言う。
知らせを受けたのが夕方。急いで来てはみたものの、あたりはすでにどっぷりと暮れていた。
こんな状況では、人気がなく灯りの少ない山間の村で活動するのは難しいだろう。
「暗い中での戦闘は困難ですから、オーガ討伐は日が昇ってからにしましょう」
幸いなことに、モンス村の近くには、ここフルーメン村以外に人の住んでいる場所はない。
仮にオーガ達が移動して人里を襲うとしても、最初の標的はこの村になるだろう。
「今夜はこの村を警備しつつ休息を取って、明日の朝、改めて出発したいと思います」

そういう訳で、フルーメン村の人々の好意により、ウィンクルム達には村の集会場が開放され、仮眠用にと毛布が配られた。
集会場で簡単なブリーフィングを済ませてしまうと、その後は特にする事もない。
早々に毛布を被って眠るもよし、警備がてら村の中を散歩してもよし。
旅行のノリで枕投げなどしてはしゃぎ回るのは、さすがにウィンクルムの品位に関わるため止めたほうが良さそうだが、
それ以外であれば、割と自由に過ごすことができそうである。

弱くはない敵と戦う前夜。
あなたはパートナーとどんな時間を過ごすだろうか。

解説

●目的
戦いの前夜をパートナーと過ごしてください。
全体での作戦会議は既に終了していますので、他のペアと作戦について話す必要はありません。
パートナーだけで過ごしても構いませんし、他のペアと一緒になってお喋りしたりしても構いません。
他のペアと一緒に過ごす場合には、会議室にて双方の合意を取っておいてください。
合意さえあれば、全員で一緒に何かをしてくださっても大丈夫です。

●村の集会場
いわゆる公民館のような場所です。
靴を脱いで上がる、20畳ほどの広さの板の間を使わせてもらっています。

●村の雑貨屋さん
普段は夜は閉店していますが、今夜は特別にウィンクルム達のために営業しています。
下記のようなものが売られており、全て50jrです。
 軽食
 トランプ
 週刊誌
 塗り絵
 ホラー小説
 推理小説
ここに書いていないものでも、雑貨屋に売っていそうなものであれば購入していただいて構いません。

●フルーメン村
500m四方くらいの小さな村です。
ヤギ小屋、ニワトリ小屋などの家畜小屋が数棟あります。
また、村の西側にはせせらぎのような川が流れています。

●仮眠用の毛布
何故かとても手触りの良い、あたたかい毛布です。
毛布の貸し出し料として200jrを徴収させていただきます。



ふと見ると、集会場の隅でA.R.O.A.職員のハセが手帳に挟んだ写真を眺めている。
覗き込んでみると、どうやらそれはハセの家族写真のようだ。
あなたの視線に気づいたハセがあなたに写真を見せながら幸せそうに笑う。
「これ、私の子供達なんです。可愛いでしょう?……この仕事が終わったら、休暇を取って家族で旅行に行く予定なんです」

ゲームマスターより

プロローグを読んでくださってありがとうございます。

ハセが一人で不吉なフラグを立てておりますが、フラグの有無は別として、戦いの直前などの静かな時間の描写って素敵ですよね。
今回は、そんな時間を物語にしてみたいと思っております。
敵の数は多くしてありますが、実際に戦うわけではありませんので、レベルやジョブ等は気にせず参加してくだい。
どうぞよろしくお願いします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)

  (作戦を再確認)
ヤックドーラ3体に、ヤックハルス5体か
数が多いな、上手く纏めて攻撃できりゃいいが

……お前は相変わらずというかなんというか……
はいはい、手入れ終わるまでもうちょっと待ってろ
(槍を仕舞いトランプに合流)
手入れの方法?まあ研いだり磨いたり……
包丁と同じようにやってるな
刃物だから大丈夫だろう、たぶん

……薄々わかっちゃいたがお前、本っ当にわかりやすいな
(尻尾眺め)
その正直さが仕事に響かなきゃいいがな……
ほら、いいところで寝るぞお前ら

(毛布にくるまって)
……何だよ急に
そりゃ怖いさ、料理人が腕やったら終わりだしな
けど、誰かがやらなきゃならん
それに。お前が守ってくれるんだろう?
頼むぜ、騎士様?



信城いつき(レーゲン)
  村人達の様子見に行こうか
不安げ人がいたら、大丈夫だよ!と笑顔で励ます

(集会所戻って)
トランプ?やるやる!
※表情を隠そうとするが、すぐボロが出る

心構え……って程じゃ無いけど
依頼者の顔を思い浮かべる、かな。
怯えたり辛そうな様子の人が多いから
早く安心させてあげるんだっ、絶対オーガなんかに負けるもんかっ、て気になるんだ

レーゲンと会話
俺、戦いごとに強いとは言えないけど
不安な時に笑いかけて、少しでも安心させるのはできるから。

レーゲンやみんなが俺にそうしてくれたから、俺も同じようにしたいんだ。

それに嘘は言ってないよ
ここにいるのは俺達一組だけじゃない
みんなもいるから、大丈夫

もう寝ないとね、おやすみ……



柊崎 直香(ゼク=ファル)
  仲間に村の周囲見回ってくる旨伝えて外へ

家畜が騒いでいないか確認し
空に不穏な雲がないか見て
川も特に増水してる様子はないかな

明日の天気は大丈夫そう
今のところ作戦通りでオーケー。かな?
とゼクの意見も聞き。

え?
熱心ていうか任務だから真面目なの当たり前でしょ
それに明日相対する敵情報忘れちゃったのかなゼク君
どう考えても呑気に構えていられる相手だと思えないんだけど?

いつも通りの応酬で終わるかと思ったら
ゼクが変なこと言い出すからちょっと真顔になっちゃったよ

だって僕にはこれしかないもの
自分に宛てがわれた役目は、役割は、配役は、ちゃんとこなすよ
『今度』も。

なんてね。ハイ終わり
さすがに明日に響くから帰ろ
お腹空いたし


セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  荷物を再確認し店で補充■軽食
ここまでで減ったろ。余分にあれば万が一に備えれるし、分ける事もできる
…先に寝るね。おやすみ


びくっ)タイガ。もしかして起した?
寝れなくて、夜風に当たればすっきりするかなって

あ…あるよ。ごめん。いつもの事だから少しなら問題ないかと思って

ベットは、ないこともないだろうけど…心の問題
外出先では寝れないんだ
不安や明日うまくできるか、色んな事が頭をよぎって
駄目だね(苦笑)
いつまでも心配かけて親にも皆にも…タイガにも

!?な…ちょっと!タイガ苦しいってっ
え…?
わか、らない…(赤面。徐々に落ち着き)
(皆は僕より強い人間だと思ってた。皆同じ…)

あ。トランプはそういう理由だったの?



終夜 望(イレイス)
  (トランプ参加組。顔にむっちゃ出ちゃうタイプ。でも負けは負けで素直に認める。兄には毎回ひっかかる)

(終了後、部屋の片隅にて)

明日は楽じゃない戦闘が待ってるから早く寝ちまった方がいいんだろうけど……
やっべぇ、全ッ然寝れねぇ……(毛布の中でぐだぐだごろごろ)
とりあえず体を横にしてたら眠気がそのうち来るだろうし、それを待つしかないか?

『……そうだよ、緊張してんだよ、悪いか』

戦って誰かが怪我をしちまうかもしれないだけじゃない。
俺が死ぬならともかく、兄貴に何かあったら、俺は……。いや、口に出したら本当になる気がする。
俺はあの時からずっと、今も、怖いんだ。

(微妙なシリアスをしますが兄に即ブチ壊されます)


●夜のはじまり

「村人達の様子見に行こうか」
 ブリーフィングも済み、各自自由行動となったウィンクルム達。
 一番最初にそう言って立ち上がったのは信城いつきであった。
「そうだね、そうしよう」
 彼のパートナーであるレーゲンが続き、2人は連れ立って集会場の外に出る。
 静かな静かな夜。だがやはり僅かな緊張をはらんだ空気が常とは違うのだろう、
 見回りを兼ねて村の中を歩いていた2人は、程なくしてヤギ小屋の前に屈み込んでいる男に出会った。
 いつき達がウィンクルムであるとすぐに気づいた男に、いつきは気さくな笑顔を向ける。
「こんばんわ」
 男はヤギ達が不安そうにしているから様子を見ているのだと言うが、いつきの目には、男もまた不安を抱えているように見えた。
「大丈夫だよ!俺達がいるから」
「私達以外にも見回ってる人もいるから、安心して休んで」
 2人に言われ、男は先程よりは穏やかな表情で家へと戻っていった。
 その背中を見送ったいつきが、ポツリと言う。
「依頼者とか巻き込まれた人って、やっぱり怯えたり辛そうな様子の人が多いよね」
「そうだね」
 顕現した直後の、いつきの固い顔を思い出しながら頷くレーゲン。
 星が輝く夜空を見上げ、いつきは小さく拳を握った。
「早く安心させてあげるんだっ、絶対オーガなんかに負けるもんかっ、て気になるんだ」

 その頃、村の雑貨屋にはセラフィム・ロイスと火山 タイガの姿があった。
 手持ちの荷物を再確認し、軽食を購入するセラフィム。
 そんなセラフィムにタイガが言った。
「まめだなー。出発前も確認したじゃん」
「ここまでで減ったろ。余分にあれば万が一に備えれるし、分ける事もできる」
「確かにな」
 確かにその通りではあるのだが。やっぱりセラフィムはまめだとタイガは思う。
「お!これいいな」
 手に取るのはシンプルなトランプ。
 これで少しセラフィムの気持ちがほぐせれば良いのだが。


●ゲームをしよう

 セラフィムとタイガが村の集会場に戻ってみれば、そこには既に見回りを終えて戻ってきたいつき達の姿もあった。
「戻った!皆でババ抜きしねー?気分転換にさ!」
 柊崎 直香とゼク=ファルの姿は無かったが、タイガは残っているメンバーに向けて明るく声を掛ける。
「トランプ?やるやる!」
 ボールに飛びつく仔犬のような表情で参加表明をするいつき。
「俺達もやるか?兄貴」
 興味を示したらしく目を輝かせながら終夜 望が言えば。
「そうだな、そうしよう」
 全く表情は変えないものの、どこか楽しげにイレイスがそう応じた。
「何やる?」
「ここはオーソドックスにババ抜きじゃね?」
「いいね、楽しそうだ」
「よーっし、じゃあ始めるぞ」
 トランプの箱を開け、まだ真新しい手の切れそうなカードを手の上に出すタイガ。
 しかし……。
「……先に寝るね、おやすみ」
 セラフィムがするりと輪を外れる。
「そっか。おやすみー」
 毛布を一つ手に取って離れてゆくセラフィムを、タイガは笑顔で見送った。
 本当は『セラフィムと一緒に』みんなとトランプがしたかったのだが……。

 集会場の壁際。一人毛布をかぶるセラフィムの横では、イグニス=アルデバランが待ちきれぬといった様子で尻尾を振っている。
「作戦会議も終わりましたし後は明日に備えるだけですね。タイガ様にお誘い受けましたのでトランプやりましょう!」
 一方、イグニスのパートナー初瀬=秀は。
「ヤックドーラ3体に、ヤックハルス5体か。数が多いな、上手く纏めて攻撃できりゃいいが」
 難しい顔のまま、自分の槍を磨いていた。
「秀様もほら!コミュニケーション大事ですよ!」
 秀の袖を軽く引くイグニス。
「……お前は相変わらずというかなんというか……」
 少し呆れたような、けれども冷たくはない苦笑を漏らし、秀は肩をすくめる。
「はいはい、手入れ終わるまでもうちょっと待ってろ」
 槍の穂先を最後にひと拭きし、手入れの道具と槍を片付ける秀。
「お待たせしましたー」
 そう言ってトランプの輪に加わるイグニス達を、タイガが笑顔で迎えた。
「ちょうど今からトランプを配るとこだったんだ」
 望とイレイスが少し動いて秀とイグニスのスペースを空け、車座になった7人にタイガが順にトランプを配ってゆく。
 配られるカードを手元に手繰り寄せながら、望が秀に尋ねた。
「なぁ。アンタ今、槍の手入れしてたのか?どうやってやるんだ?」
 ウィンクルムとなってこれが初の依頼である望には、落ち着いた表情で己の武器を手入れする秀の姿がとても印象的に見えたのである。
 少しでも見習ってみたい……そんな思いのこもった質問に、世話焼きの気のある秀は少し首を傾げた。
「手入れの方法?まあ研いだり磨いたり……包丁と同じようにやってるな」
「包丁?!」
「料理人だからな。刃物だから大丈夫だろう、たぶん」
「はぁ……」
 納得したような、しないような。
 微妙な表情を浮かべている望に、イグニスが自分の両手杖を思い起こしつつ、にっこりと笑って言う。
「磨くと何となく調子がいい感じがしますね!」
経験を重ねていくうちに、愛用する武器なども持てるようになるのだろうか。
 そんな自分の姿が今は上手く想像することができずに、押し黙る望にレーゲンが穏やかに口を開いた。
「心構えという程ではないけれど……私の場合は、冷静でいるよう心がける、かな」
「冷静……」
「遠・近距離関係なく瞬時に攻撃できるのはプレストガンナーの強みだけど、当たらなければ意味がないからね」
 そのためには冷静さが必要なのだと説くレーゲン。
(……うん、でも時々焦るのは自覚あるよ)
 心の中だけで呟くレーゲンの視線の先では、いつきが楽しそうな笑みを浮かべながら手札を確認している。
 つられるようにして手元のカードに目を落とした望だったが……。
「……!!」
 見る見る強張る望の表情。
(これは、ババがあったな……)
 口には出さずとも、その場にいた誰もが一斉にそう思った。
 望がレーゲンの言う冷静さを手に入れるのは、まだまだ先のようだ。


●読めない手札

 タイガ達がトランプを楽しんでいる頃、
 仲間達に村の周囲を見回ってくる旨を伝えて外へ出ていた柊崎 直香とゼク=ファルは、家畜が騒いでいないか確認し、
 空に不穏な雲がないかを見て、それから川も特に増水してる様子はないことを確認していた。
 念のため武器も携帯し、ゼクは直香の後ろをついて歩く。
 建物の影や物音を確認する際に見え隠れする、直香の感情を排した仕事用の横顔。
 集会場で仲間に見せた気安い笑顔とは程遠いこの表情も、だいぶ見慣れはしたものの……。
 胸の裡でささくれのように引っかかるモノを口にできずにいるゼクの視線の先で、夜気を深く吸い込みながら直香が言う。
「明日の天気は大丈夫そう。今のところ作戦通りでオーケー。かな?」
「ああ。特に変更や加味すべき事柄もないと判断する」
 直香の言葉に同意を返したゼク。
 だが直香が更に見回りを続けようと歩き出すのを見て異を唱えた。
「おい、まだ続けるつもりか?そろそろ戻って休んだらどうだ」
 歩みを進めつつ、視線だけでゼクを振り返る直香。
 その瞳が、まだ戻る気は全く無いことを雄弁に物語っている。
「休息も任務のうちだろう」
 ゼクがそう言い添えると、直香はようやく足を止めた。
「分かったよ。戻ろうか」
 足は集会場に向かいつつも、相変わらず周囲の様子を慎重にチェックしながら歩く直香の後姿。
 その姿にゼクは溜め息をつく。
「相変わらず、熱心なことだ」
 それはゼクにとってはただの独り言のつもりだった。
 しかし、優秀なレーダーのような直香の耳が敏感にそれを拾う。
「え?」
 振り返る直香。
「熱心ていうか任務だから真面目なの当たり前でしょ」
 その視線にゼクは己の発言を失言だったと悟るが、声として出てしまった以上、いくら後悔しても後の祭だ。
「それに明日相対する敵情報忘れちゃったのかなゼク君。どう考えても呑気に構えていられる相手だと思えないんだけど?」
 立て板に水のごとく返ってくる嫌味に、ゼクとしては返す言葉もない。
 が……。
「そうじゃなく、て」
 いつもならば押し負けるところ。ゼクは何とか踏みとどまってその先を口にした。
「お前、前々から思ってたが、任務に対して妙に気負ったところ、ないか?」
 虚を突かれ、一瞬、呆けたような表情を見せる直香。
(いつも通りの応酬で終わるかと思ったら、ゼクが変なこと言い出すから……)
 無防備にゼクに向けていた視線を脇に逸らせて直香は言う。
「だって僕にはこれしかないもの。自分に宛てがわれた役目は、役割は、配役は、ちゃんとこなすよ。『今度』も」
「今度……?」
 眉根を寄せ直香に向かって踏み出してくるゼクに対し、直香はふっと気安い笑顔を向けた。
「なんてね。ハイ終わり。さすがに明日に響くから帰ろ」
「……おい直香、茶化すな」
 踵を返す直香を慌てて追うゼク。
「早く戻ろう。お腹空いたし」
「それにこんな時間に物を食うな……じゃねえ」
 そうじゃなくて、さっきの『今度も』とはどういう意味なのだと、問いただすゼクから逃げるように直香は集会場の中へと入ってしまった。
 静かな夜道に一人取り残されて、ゼクは再びのため息を漏らす。
「いつか。……いつかきっと、聞き出してやるからな」


●読みやすい手札

 手札が顔に出る望といつき。尻尾に出るイグニス。
 表情は豊かなくせに、運なのか何なのか滅多にババを引かないタイガ。
 ポーカーフェイスを崩さないレーゲンとイレイス。
 そして色のついた眼鏡のせいで表情の読みづらい秀。
 七人七様のババ抜きが何周かして、そろそろ夜も更けてきた頃。
「あれ?まだみんな起きてたの?」
 外から戻ってきた直香が、車座でトランプに興じていた7人を見てそう声を上げた。
 その言葉に顔を上げ、集会場の時計を見上げる秀。
「もうこんな時間か。ほら、いいところで寝るぞお前ら」
 そしてパンパンと手を打ち、まるで引率の教師のような口調で解散を宣言する。
「そうだね。明日が本番だしそろそろ休もうか」
 積んである毛布を皆に配りつつ言うレーゲン。
「そうですね。あんまり夜更かししないで寝ましょう。明日は宜しくお願いしますね!」
 その毛布を受け取って、イグニスが言った。
 そう、明日には戦いが控えているのだ。

 イグニスと共に壁際に身を寄せて、寝支度をする秀。
 こちらに背中を向けて毛布を広げているイグニスの、揺れる尾に先程のババ抜きの光景を思い出す。
「……薄々わかっちゃいたがお前、本っ当にわかりやすいな」
 秀の言葉に反応してピンと立つイグニスの尻尾。
「そういえば秀様は何で私がババ持ってるってわかったんですか!?まさか、エスパー?」
 エスパーでなくともバレバレなのだが。
 やはり身体の後ろ側にある尾の表情というものは、持ち主の意識にもあまり上らないものなのだろうか。
「その正直さが仕事に響かなきゃいいがな……」
 ひっそりと溜め息をつき、秀は毛布にくるまって床の上に転がった。
「おやすみなさい。秀様」
「ああ、おやすみ」
 そう言って二人、目を閉じたはずなのだが、どうもイグニスは寝付かれぬらしく頻繁に寝返りを打っている。
 ややあってイグニスは、身体を包む毛布ごと秀に寄り添った。
「……秀様?」
「……何だ?」
 身じろぐイグニスの気配が気になっていたのか、それとも別の理由からか。
 じっと目を閉じてはいたものの、眠りには落ちていなかったらしい秀が、静かに、けれどもすぐに呼びかけに応じる。
「秀様は、戦うのが怖い時ってありますか?」
「……何だよ急に。そりゃ怖いさ、料理人が腕やったら終わりだしな」
 オーガは凶暴で、秀は神人ではあるものの精霊とは違い、スキルも無けければ大した攻撃力もない非力な存在だ。
「けど、誰かがやらなきゃならん」
 ウィンクルムである自分達がオーガに立ち向かわなければ、人々はオーガの脅威に対抗する手段を失うのである。
「それに……」
「それに?」
 並んで寝転がったまま、上目遣いに見つめてくるイグニスの顔を見て秀は笑みを浮かべた。
「お前が守ってくれるんだろう?」
 ならば、怖いものなどあるはずがない。
 返答を聞いたイグニスの尻尾が、最初はピンと立ち、すぐに嬉しげに左右に揺れる。
「……はい!私が、必ずお守りしますから!」
「頼むぜ、騎士様?」
「お任せ下さい!」
 毛布の中から手を伸ばしイグニスの肩を三度叩く秀。
 かつて騎士に叙任されるものは主君の剣で三度肩を叩かれたという。
 イグニスの肩を叩くものは秀の手であったが、それはイグニスにとっては主君の剣と同じ意味を持つものだった。


●寄り添う二人

「おやすみ……」
 寄り添って横になりながら、いつきの手をそっと握るレーゲン。
 そんなレーゲンの顔を覗きこむように顔を寄せて、いつきが囁く。
「俺、戦いごとに強いとは言えないけど。不安な時に笑いかけて、少しでも安心させるのはできるから」
 さっき村人と話をしていた時のように。
「それに嘘は言ってないよ。ここにいるのは俺達一組だけじゃない。みんなもいるから、大丈夫」
 もしも、いつきとレーゲンだけだったならば、オーガを前に「大丈夫」などとは言い切れないかもしれない。
 けれども、ここには共に戦う仲間がいるのだ。
「レーゲンやみんなが俺にそうしてくれたから、俺も同じようにしたいんだ」
 不安だった自分を救ってくれた人達に恩を返すかのように、いつきは笑顔を周囲に届けつづける。
 その一番の対象はもちろん……。
「……」
 いつきに撫でられて、レーゲンは無言のまま小さく溜め息をついた。
 身体の中に溜まっていた無駄な力をも押し出すような、深い深い溜め息。
(うん、本当にそうだね)
 いつきの笑顔は人を安心させる。
 手と手を握り合い、2人はどちらからともなく眠りの中へと落ちていった。

 一方、集会場の反対側には全く眠れない男が一人。
(やっべぇ、全ッ然寝れねぇ……)
 明日には楽とは言えない戦闘が待っている。
 だから早いところ寝て体力を回復させた方が良いというのは、頭では分かっているのだが……。
(……)
 それでも、身体を横にしてさえいればいつかは眠気が訪れるだろう。望はそれを願ってじっと天井を見上げ続けていた。
 そんな望の様子に、隣で横になっていたイレイスは思う。
(望の奴が寝れんようだ。ひたすらごそごそしていて、衣擦れの音がうるさくて仕方ない。しょうがない。ここは兄が一肌脱いでやろう)
 落ち着いているのか不遜なのか。
(自らの安眠の為にな)
 どちらにしろ相手のためというよりは自分のためである辺り、なかなかに図太い。
 身体を動かして望の顔を覗きこむイレイス。
「緊張しているのか?」
「……っ」
 寝ていると思っていた相手から不意に訊ねられ、望は思わず息を詰めた。
 それをゆっくりと吐き出しながら望は答える。
「……そうだよ、緊張してんだよ、悪いか」
「悪くはないさ」
 望に話しかけ、警戒や緊張を解いてやるフリをしながら、手触りの良い温かな毛布で望の身体を包み込むイレイス。
「戦って誰かが怪我をしちまうかもしれないだけじゃない。俺が死ぬならともかく、兄貴に何かあったら、俺は……」
 望の言葉を聞きながら、イレイスはふと思う。
(寝る前に、奴の財布を持って店に行っとくべきだったな。縄を買っておけばこのまま紐で縛り上げられたし、完璧だった)
 こうなる事が予測できた訳ではなかった為、買い物にも行けなかったし、
 何よりこの環境下で望の財布を抜き出そうとすれば、望は気づかずとも他のメンバーはそれに気づいたに違いない。
 イレイスの場違いなくらいの胸中をよそに、望は天井を見上げたまま重い胸の裡を吐露し続けている。
「いや、口に出したら本当になる気がする。俺はあの時からずっと、今も、怖いんだ」
 たった一人の家族であった『兄』が死んだその日から……。
 その事は『新しい兄』であるイレイスもお見通しだ。
 望がこれから始まる戦いを怖がってる事も、イレイス自身が傷を負う事で望にどれだけ衝撃を与えるかも。
 けれどもイレイスは言う。
「あまり重苦しい空気を出すのは好ましくないな。変なフラグが立つぞ」
 だからイレイスは望の事を茶化すのだ。
 奇妙な攻防を繰り返しながら、2人の夜は更けてゆく。
 

●手の内

 そして夜も更け、日付ももうすぐ移り変わろうかという頃。
 眠りの気配の漂う集会場の中で静かに起き上がる影があった。
 セラフィムである。
 タイガ達がトランプをしている時からずっと、頭まで毛布に包まったままだったのだが、どうやら眠ってはいなかったらしい。
 物音を極力立てぬよう、立ち上がるセラフィム。
 そして集会場の出入り口に向かって歩き出そうとしたところで、不意に誰かに手をつかまれ、セラフィムはビクリと身を竦ませた。
「タイガ!!……ごめん、もしかして起した?」
「どこ行くんだ。夜中に一人で」
「寝れなくて、夜風に当たればすっきりするかなって」
 その言葉にタイガの眉が跳ね上がった。
「神人だろ!」
 思わず飛び出してしまった大きめの声に慌てて自らの口元を抑え、タイガは立ち上がる。
「いつ襲われるかわかんねー自覚あるのか!?」
「あるよ。でも……ごめん。いつもの事だから少しなら問題ないかと思って」
「連れてけよ」
「……うん」
 眠っている他のウィンクルム達を起こしてしまわぬよう、2人は静かに集会場を出る。
 夜風にあたりつつ空を見上げてみれば、満天の星空が2人を見下ろしていた。
「さっきは怒鳴っちまって悪りぃ。いつもなのか?眠れないのって。それともベッドが違うから?」
 大理石の彫像を思わせる青白い顔をタイガの方に向けて、セラフィムが答える。
「ベットは、ないこともないだろうけど…心の問題。外出先では寝れないんだ」
 例え自宅のベットを持ち出して出かけたとしても、きっとそこでは眠ることはできないだろう。
「不安や明日うまくできるか、色んな事が頭をよぎって……」
 自嘲的な苦笑を浮かべるセラフィム。
「駄目だね。いつまでも心配かけて親にも皆にも…………タイガにも」
 そんなセラフィムの肩を、不意に何か暖かなものが包みこんだ。
「……っ、た、タイガ?」
 正面からセラフィムを抱きしめるタイガ。
(脆い。これじゃ、周りが過保護になんのもわかる)
 今にもバラバラに砕け散って、風に運ばれて消えていってしまいそうなセラフィムの姿。
 支えるように、存在を実感するように、セラフィムを抱きしめてタイガは考えた。
(今までも沢山励ましてきたのに……それでもセラフィムの不安を消すことはできない。俺は一体どうすりゃ……)
 それはまるで、穴の開いた瓶に水を貯めようとするようなものに感じられて、タイガは悩む。
 だが、程なくして考える事そのものを放棄してしまった。
 その代わり、腕の中の存在を確かめるようにキツく抱きしめる。
「!?な……ちょっと!タイガ苦しいってっ」
 もがくセラフィムに、少し笑ってタイガは答えた。
「充電中」
 これはあくまで自分がセラフィムから元気をもらうのだと、そういう言い方をするタイガ。
「え……?」
「……こうすると安心しねぇ?」
「わか、らない……」
「俺だって皆だって不安抱えて戦ってんだぜ。だから、こうやって、分けて、もらって、頑張れる」
 タイガの言葉が胸に響き、セラフィムはようやく不安の沼から顔を上げた。
(皆、僕より強い人間だと思ってたけど。皆同じ……)
 不安を感じるのは悪ではないのだと、セラフィムは一つ己を許す。
 先程よりも、幾分か血の通った表情を見せるセラフィムの顔を覗き込んで、タイガが微笑んだ。
「次はトランプしような」
 はっと顔を上げるセラフィム。
「あ。トランプはそういう理由だったの?」
「今、気づいたのか」
 いつでも側にいて、気遣ってくれるタイガの存在。
 それがあれば、きっと大丈夫なのだろうと、セラフィムはそう思った。


 朝が来て、村人達に見送られながら出発していったウィンクルム達。
 そして午後には無事オーガの討伐が完了したと連絡が入り、村人達は胸をなでおろした。
 いつきの「大丈夫」はきちんと現実となったのである。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 白羽瀬 理宇
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 04月02日
出発日 04月08日 00:00
予定納品日 04月18日

参加者

会議室

  • [9]セラフィム・ロイス

    2015/04/07-20:33 

    :タイガ
    >トランプ
    とりあえず俺はトランプ確定。セラはしねぇ、で書いてる
    皆のは個人に任す!
    皆で集会場で泊まるけど、せっかく戦闘前夜の場面だし
    やりたいこと優先でいこうぜー!もちろん来るなら歓迎だ

    >俺達の動き
    あ、でもこっち。見回り多いー、みてーだから集会場の傍か、寝床から少し離れた場所で
    2人で会話に変更してみた
    店で軽食、トランプ購入→トランプ勝負→就寝前後の会話(メイン)

    特に外が重視でもないし、どこでもできる会話だし
    代わり映えあった方がいいかなーってさ

  • [8]終夜 望

    2015/04/07-18:37 

    望と相棒のイレイスだぜ。
    えーっと、皆纏めて初めまして、って事で良いかな。今回はよろしくな。

    みんな見回り出るんだったら、俺部屋の中で大人しくしてようかな……
    どうせ寝れねーし、外に出たら出たで迷子になる恐れもあるし……(方向音痴の男である
    って、トランプやんのか、俺も参加した方が良いかな?

    一応見回りでガイド書いてたけどよう、こりゃ大幅に変更だな……。

  • [7]セラフィム・ロイス

    2015/04/07-04:03 

    :タイガ
    トランプのサンキューな!大人数でのババ抜きって楽しいしいいと思うぜ!
    言いだしっぺだし俺がもちかけた事にして誘ってっから!
    強さか。俺はどうだろー(PL:運で押すタイプ。感情表現豊かだしわかりやす・・・?)

    んー、見回り多い?
    手入れとかしてねーなら、トランプに文字数さくかなぁ
    ちなみにセラはトランプは考え中だって(文字数のせい)

  • [6]信城いつき

    2015/04/06-21:18 

    レーゲン:
    ババ抜きとか、顔に出やすいと不利だよね……頑張ってね(いつきの方をちらり)
    いつき「え?なんでこっち見るの!?」

    >秀
    オーガの特徴はそれで合ってるよ。
    ヤックドーラ 
     頭が魚なオーガ。長い舌の先にある毒針はデミを回復・強化させ、人間を麻痺させる
    ヤックハルス
     ハイエナの頭部を持つオーガ。かなり素早い。伸縮自在の長い鍵爪と、鋭い嗅覚

    こんな感じだね。

  • [5]初瀬=秀

    2015/04/06-13:53 

    初瀬と相方イグニスだ。
    望とイレイスは初めましてだな、よろしく。

    トランプはまあ、次の日に響かない程度に。
    たぶんこいつ(イグニス)ババ抜きとかすさまじく弱い気がするがな
    (イグニス:そんなことないですよー!)
    後の時間はイグニスと2人で話してる予定だ。

    アドエピじゃないからあんま関係ないがフレーバー的に確認。
    ヤックドーラが魚頭でヤックハルスがハイエナ頭だったか?
    どうにもオーガの名前が覚えられない俺だ。

  • [4]柊崎 直香

    2015/04/06-01:35 

    はいはい。クキザキ・タダカとゼク=ファルだよ。
    よろしくどうぞ!

    警戒に村をぐるっとしてるんじゃないかなー。
    なのであまり他のひとと絡めない位置な気がする。るる。

  • [3]信城いつき

    2015/04/05-23:53 

    こんばんはー、信城いつきと相棒のレーゲンだよ
    望たちは初めましてだね。みんなもどうぞよろしく!

    俺たちは村の人達の様子を見てから、集会場に戻るよ。
    多分不安で落ち着かないだろうから、少しでも不安を取り除けたらいいなって。

    トランプ?うん、やるやる。
    翌日に影響しない程度にだけど、でもみんなと話とかしたいから(にこにこ)

  • [2]セラフィム・ロイス

    2015/04/05-19:21 

    :タイガ
    あ。聞くのは、武器の手入れとか、準備つか心構え的な、な!
    こういうの聞くのも戦闘前の醍醐味♪

    あとトランプするーって書いてる(する人いないなら代えるかも)

  • [1]セラフィム・ロイス

    2015/04/05-19:17 

    セラフィムと相棒のタイガだ
    望とイレイスは初めましてになるね。皆もよろしく頼むよ
    こちらのプランはすでに提出してる
    主にタイガと2人でいる予定だけど・・・(夜の散策)

    軽い雑談、タイガが手入れや準備の仕方を尋ねてるから(仲間に)
    もし気が向いたら相手してくれると嬉しいな『俺がな!』


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