プロローグ
●『花見』とは
何 だ こ れ 。
穏やかな日差しを浴びる、美しい桜並木。桜の花びらが舞う。
ここまでは春を楽しめる絶好のスポットとしては珍しくない光景。
しかし、しかしだ。
何故、桜の木のドまん前にずらーーーーーーっと畳が立てられているのか。
ちょっと意味分からない。
しかも多くのカップルが『耐久壁ドン受付』とか書かれた小さなテントの下で列を為している。
なんなの、どういうことなの。
「あら、貴方達、ウィンクルムね!耐久壁ドンの参加でしょ?早く、受付締め切っちゃうわよ!」
純粋に花見を楽しみにきた君達が戸惑っていると、『耐久壁ドン実行委員』と書かれた法被を着た中年女性が君達に声をかけた。
そのままぐいぐいと、君達の抗議の声など聞こえていない様子で強引に受付へと連れて行かれる。
逞しすぎる中年女性の力強さに勝てる霊長類はそういない。
あれよあれよといううちに、君達は『耐久壁ドン』への参加が決まってしまった。
花見をしに来たのにどうしてこうなった、と思わなくもないって言うか思う。思わざるを得ない。
が、『耐久壁ドン』参加者には参加賞として花見用の飲食物が後で支給されるという。
まあ、それならいいか――どうにかっていうか無理やり、自分達を納得させながら君達は『耐久壁ドン』のルールを確認するのであった。
『耐久壁ドンルール』
・立てかけられている畳を『壁ドン』で倒しまくれ!
意味が分からないこの競技に、心が折れるまで!
・『壁ドン』する側は自由!『壁ドン』ならそれでいい!
・細かいことは気にするな!(ただし、倒し終わった畳は花見用のスペースとして利用するので壊さないでね)
解説
●参加費
耐久壁ドン参加費 400jr
●すること
立てかけられた畳を壁代わりに『壁ドン』をして畳を倒す
意味が分からないこの競技に心が折れるまで倒した、という扱いになります
実際に倒す畳の枚数は
ダイスA(6面)×抵抗値の10の桁の数字(壁ドンする側)=倒した枚数
となります
例:6×2(抵抗値23)=12枚
また、一部のスキルや性格で多少の増減が出ます。変わっても一・二枚くらい
早々に心を折りたい方は『-10枚』なり『-20枚』なりを『ウィッシュプラン』にいれてください
壁ドン後は畳の上でお花見
いなり寿司とお茶を貰えます
メインは『壁ドン』なのでお花見はちょろっとくらいがお勧め
●その他
会議室で必ず『ダイスA(6面)』を振ってください。
振るだけでいいので、枚数宣言は不要です。
また、発言でミスがあったとしてもダイスを振った分は削除しないようお願い致します。
ゲームマスターより
こーや「蒼色クレヨンGM……私、耐久壁ドンを書きたいの!いいかしら?」
クレヨンGM「ほ、本当なの……?他の人のも読みたいの、お願い><」
こーや(くくく、ちょろいもんよ……)
こうしてこーやは蒼色クレヨンマスターを騙して、耐久壁ドンを出すのであった、まる。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
豊村 刹那(逆月)
壁ドンされる側 「壁際に追い詰めるんだよ」 あんな風に。(他の参加者を指差す 「いや、普通は倒れないから。そんな軟な壁意味無いだろ」 壁ドンにどきりとするも、倒れる畳に思考が止まる。 一拍後に振り返れば、視界に入る畳。 「本当にな」 傍から見てもだけど。実際にやってもシュールだよ……。 (半分意識が飛んでた 「……あ、うん。もういいんじゃない、か?」 心折れるまでらしいし。 私の方が先に折れてた気がするけど。(遠い目 いや、普通は何度も連続してやらねぇから。 来る日を間違えたな。ごめん。 恥ずかしかったような、疲れたような。 座れば近くにある逆月の尾に、疲れに任せ凭れる。 (ひんやりして気持ちいい) ごめん、ちょっとだけ……。 |
紫月 彩夢(紫月 咲姫)
壁ドンってあれよね。壁殴ればいいのよね …冗談よ。ほら咲姫、さっさと畳の前に立って あたしがやるのよ。何よ。文句ある? 今こそ無駄な女子力の発揮し所よ 一枚目、せーの!…っと、わ、バランス崩れ… …咲姫。あんたが一緒に倒れる必要も、ましてあたしまで一緒に倒れる必要もないのよ? 笑ってんじゃないわよ(ほっぺむにー) もう、ほら次行くわよ!さっさと立つ! 力加減気を付けていかないと… それにしても近距離で見上げた咲姫は相変わらず綺麗 しおらしくしてたら本当に女子 …ねぇ、咲姫 今度さ、メイクの仕方教えてよ 何よ。よく考えたら最高のお手本が居るんだから、習えばいいって気づいただけよ ほら、ラスト一枚。これ終わったらいなり寿司よ |
桜倉 歌菜(月成 羽純)
乙女の憧れ=好きな人にして貰う壁ドン それをこんな形とはいえ、体験出来るなんて…! ラッキー!思わずガッツポーズ さぁ、羽純くん、どーんといっちゃって! …アレ? 羽純くんが微妙な表情…もしかしなくても、嫌…なのかな? そんな彼に無理はさせられない じゃあ、私が思い切って彼を壁ドン(これはこれで美味しいっ) …って、あれれ?羽純くんがするんだ… 近!近い、近い、睫毛長い、肌綺麗、瞳に吸い込まれそう、心臓がバクバクいってる…! ああ、幸せだけど…心臓に悪い! …後ろでどすんと畳の音で我に返ります え?大丈夫だよ!頑張って全部倒そう! 終わったら、いなり寿司とお茶で花見 お疲れ様、羽純くん♪彼を労い乾杯 何だか得しちゃったな |
ユラ(ルーク)
アドリブ歓迎 この催しの何が凄いって、これだけの畳を準備してきたことだと思うんだ その労力を無駄にしないように、こちらも全力で挑みたいと思う 人生で一度くらいは壁ドンを体験してみたい これが…壁ドン…! 確かにこんなことされたら惚れちゃうかも (ただしイケメンに限る) あれ、ルー君疲れてきてる?休んでる場合じゃないよ! 壁ドンは全国の乙女の憧れだよ!? 周りを見てごらんよ 皆必死で頑張ってるじゃない もっと全力でキュンッとさせにきてよ!? はーい、お疲れ様でしたー いやいや、私も恥ずかしかったよ?それ以上に滾っちゃっただけで ……したよ、最初の1回くらいは (あんなの、ずっとまともなテンションでやってたら耐えられないよ) |
宮森 夜月(神楽音 朱鞠)
朱鞠が会場の前から動かなくなったのでもう、仕方ないなあ、な参加。 これは…壁ドン、というより、畳ドン? とにかく、朱鞠とドン!して倒れた数が多い方が勝ちってことだよね!負けないからね! え?違う? 壁ドンとはこうやるのだと、少し見下すように畳の前に誘導する朱鞠の言い方に ちょっと拗ねながらも言われたとおり畳の前に立つ。 耳元で囁かれたセリフに何バカなこと言ってんの、と呆れる。 稲荷寿司を朱鞠に取り上げられ、怒る。 「私の稲荷寿司!返してよ!」と手を伸ばすが、取り返せず。 |
●花より油揚げもといいなり寿司
スンと、神楽音 朱鞠の鼻が鳴る。
鼻腔を擽る香り……間違いない。
「宮森、油揚げの匂いがするぞ」
そんなのしないわよ、と突っ込みたい宮森 夜月だが、受付の前から朱鞠が動く気配は無い。
何があっても油揚げを食べると言わんばかりの態度。
油揚げなんてある訳ない――と、視線を動かした先。チラシには『参加賞:いなり寿司とお茶』と書かれてある。
「……どんな鼻してんのよ」
鼻がいいのか、それとも狐テイルスの執念か。
仕方ない。溜息一つ、夜月は参加申し込みを済ませるのであった。
「これは……壁ドンというか、畳ドン?」
競技の説明を受けたが、普通の壁ドンとは到底思えない。
ずらーっと桜並木に立てられた畳は圧巻というかなんというか……うーんと考えた末に、夜月は大きく首を縦に振る。
「とにかく、朱鞠とドン!して倒れた数が多い方が勝ちってことだよね!負けないからね!」
え、そっちなの。
ありとあらゆる突っ込みどころをスルーして勝負に行く夜月は女性らしい小さく白い手を、男らしくぐっと握り締めた。
メラメラと燃えている彼女の後ろで桜の花びらが舞う光景はちょっとシュール。
「そなたの耳はきちんと機能していないのか。畳を倒すだけだ、競争ではない」
「え、違うの?」
朱鞠の冷静な鎮火活動。夜月は目をぱちくりと瞬かせる。
朱鞠が呆れたように息を吐き、豊かな毛並みの尻尾を揺らす。
「そもそも、宮森の細腕でどれほどの畳を倒せると思っているのだね」
「うっ。ご、五枚や六枚なら絶対にいける、し……」
冷ややかな朱鞠の視線が夜月に刺されば、夜月の視線は泳ぐ。
唇を尖らせているのが目に付いた。朱鞠は兎に角、畳の前に立つようにと促す。
渋々とではあるが、畳の前に夜月が立ったのを確認して、朱鞠は袖が邪魔にならないように捲り上げた。
そのまま、勢いに任せ壁ドンじゃなかった畳ドン。
近づく二人の顔。
「好きだぞ。……いなり寿司が」
耳元で朱鞠が囁くも、夜月はしらーっとした表情。
目が語っている。何馬鹿なこと言ってるの、と。
慌てる様子を見たくてちょっと頑張ったというのにこの反応!
朱鞠のプライドが大きく傷付く音の代わりに、ばたんと畳が倒れた。
ただでさえ訳の分からない競技だというのに、プライドにヒビを入れられた朱鞠さんの記録は四枚。
うん、一枚目でのやりとりを考えたら頑張ったよ、とても頑張ったよ!拍手。
ぽかぽか陽気の日差しと、お茶の温かさが疲弊した朱鞠の精神に染み渡る。
随分と慰められた気がするが……いや、まだ足りない。
はらり、はらりと舞い落ちてくる桜の花びらが夜月の髪へ。
「いただきまーす。……あっ!」
ひょい。
夜月が手をあわせている隙に、朱鞠は彼女の分のいなり寿司を取り上げる。
しっかり自分の分は取られないように確保済み。
「私の稲荷寿司!返してよ!」
「断る」
懸命に手を伸ばすも20cm近い身長差の壁は分厚い。
ならばと立ち上がるも、朱鞠が立ち上がってしまえばやっぱり届かない。夜月の頭に乗っていた桜の花が、その拍子に畳へ落ちていく。
抗議する夜月を尻目に、朱鞠はいなり寿司を素早く、しっかり味わって完食。
ああ!と悲鳴を上げる夜月をちらと見て、指についた油揚げの汁を舐める
美味だったと呟けば、盛大な抗議の声。朱鞠はその様子をニヤリと笑みを浮かべて楽しむ。
このくらいの腹いせは許されていいはずだ。
●男のプライド>(越えられない壁)>精神ダメージ
何なんだ、この競技は。
桜の木の前に並べられた畳を前にして、月成 羽純は頭を抱える。意味が分からない、いや、分かりたくないというか。
隣に立つ桜倉 歌菜の青いトパーズの瞳がキラキラと輝き、ガッツポーズまでしている。
好きな人に壁ドンをしてもらうというのは乙女の憧れ。それをこんな形とはいえ体験できるなんて、という喜びに溢れている。
項垂れていた羽純が視線を歌菜へ投げる。
歌菜は握った両の拳を小刻みに揺らし、花びらが右の拳に乗った瞬間、ぐっと振り上げた。
「さぁ、羽純くん、どーんといっちゃって!」
うきうきと楽しみにしている様子から見るに、そんなにも壁ドンをして貰いたいのかと思案する。
それなら、まあ――
と、思っていた頃が羽純さんにもありました。具体的言うと2分前くらいまで。
今の羽純さんの目からは色んな力が抜け落ちてます。ハイライトが綺麗さっぱり塗りつぶされたかのように消えてる感じ。
何故かと言えば――
「私が思い切って羽純くんを壁ドンするから!」
これはこれで美味しいと意気込む歌菜さん。
羽純が乗り気じゃない→嫌なのかも?→無理はさせられない!→じゃあ私がやる!!(今ここ)
男のプライドにアイスピックを突き立てに行ってますね。
羽純さんの周りだけ、桜の花びらが雪のように見えるのはなんでだろうね。
いや、ここで魂を飛ばしてる場合ではないと羽純は自身を叱咤する。
男のプライドがここで退いてはいけないと叫んでいる。
「歌菜に壁ドンされるくらいなら俺がやる」
「あれれ、羽純君がするの?嫌じゃないの?」
「……絵的にその方がマシだ」
肩を落としつつ、畳との間に歌菜を挟んで立つ。
不思議そうに羽純を見上げる歌菜、やっぱり繊細な男心は分かっていない模様。
けれど、歌菜はふいに気付く。常ならぬ距離感。
こんなにも近いだなんて。こんなにも長い間、意識するほどの距離感は初めてだ。
気付いてしまったが最後、歌菜の心音が跳ね上がる。
羽純の長い睫、肌理の整った肌、黒曜石の瞳。全てが近くて、特に瞳は吸い込まれてしまいそうで。
少しでも動けば、バクバクと音を鳴らしている心臓の音が羽純にも聞こえてしまうかもしれない
頬を林檎のように染めて硬直した歌菜を羽純は見下ろす。
比較的余裕のある羽純と違い、歌菜は羽純を見上げるだけで精一杯のようだ。
楽しい、気がする。さらに言えば、もっと困らせてみたい気もする。
こんな歌菜を間近で見ることが出来るのは自分だけの特権だと思うと、なんともいえない高揚感が湧いてくる。
「行くぞ」
羽純は予告し、腕を勢いよく突き出した。
ドンッという音と共に、歌菜と羽純の距離がさらに縮まる。
体温まで伝わりそうで……歌菜は幸せだと思う反面、早鐘を打ち続けている心臓が、痛い。
さらに近づいた羽純から目を逸らせなくなった歌菜の耳に、ドスンと畳が倒れた音が飛び込む。
ハッと我に返れば、顔がどうしようもないほどに火照っていることに気付いた。
そんな歌菜を見て、羽純は口角を緩く吊り上げる。
「どうした?もう降参か?」
「え?大丈夫だよ!頑張って全部倒そう!」
売り言葉に買い言葉。胸が痛い、顔が熱い。
でも、続けられる限りは続けたい。歌菜のそんな想いが迸る。
「よし、じゃあ、どんどん倒して行くぞ」
「うん!」
大きく頷いた歌菜の頬を、優しい風が桜の花びらと共に撫でて行く。
けれど、歌菜の熱を奪うことなんて出来るはずも無く――
二人の記録は八枚。
割とノリノリになっていた羽純さんでしたが、とうとう恥ずかしさに耐えれなくなった歌菜さんの「無理!もう無理ー!」という悲鳴にちょっぴりハートを傷つけられたというか残念だったというか。
あとなんていうか、この意味の分からない競技でこのシチュエーションはなんか違うって気付いてしまったっぽい。
「お疲れ様、羽純くん♪」
「ああ、歌菜もお疲れさん」
倒した畳の上でお互いを労いあう。お茶がじんわりと体と心を癒してくれる。
「なんだか得しちゃった」
ふふと笑い、幸せな心地のまま歌菜はいなり寿司を口に運ぶ。
柔らかな酸味が口内に広がり、思っていたよりも空腹だったことに気付かされた。
それくらい幸せだったのだ。
「そうだな、良い運動になった」
羽純もふっと笑い、歌菜の顔を覗きこんだ。
先の事を思い出し、歌菜の心臓がまた跳ね上がる。
「歌菜の百面相も面白かったしな」
見る見るうちに歌菜の顔が再び染まる。
桜よりも桜らしく、鮮やかに。
●ただしイケメンに限る
「この催しの何が凄いって、これだけの畳を準備してきたことだと思うんだ」
柔和な笑みを浮かべたままユラは言う。
並んで立つルークは視線を向けることなく、彼女の主張を聞いている。
「その労力を無駄にしないように、こちらも全力で挑みたいと思う」
「………本音は?」
「人生で一度くらいは壁ドンを体験してみたい」
きりっという効果音が聞こえた気がする。
壁ドンって何だ?という疑問から始まるルークには何がなんやら。
とりあえず壁を殴ればいいのだろうか?ユラは壁を殴りたいのだろうか?実はストレスが溜まっているのだろうか?
新たな疑問が滝水のようにルークの脳内に追加されていくが、現実はいきなり背後からルークの背中を刺しにくる。
「ルー君、私たちの番だよ」
心の準備も事前学習もままならない間に、ユラを挟んで畳と向かい合うことになってしまったルーク。
哀れなんて思っても言葉にしちゃいけないよ?
とりあえず、畳を倒せばいいということだけは理解している。
なんで間にユラがいるのかと突っ込む余裕は無い。
「それじゃあ……」
指先にまで力を篭め、全力で壁に掌を叩き付けた。
手が畳を叩く音と、畳が地面にぶつかる音が立て続けに響く。
壁ドン初体験にユラはこっそりときめく。
確かにこんなことをされれば惚れてしまうのも仕方ない、ただしイケメンに限る。大事なことなので繰り返すが、ただしイケメンに限る。
壁ドンした側のルークの顔は歪んでいた。
その表情をなんと形容すればいいのか、書いてる人はちょっと思いつかない。
可哀想なことになってるのだけは確かです。
「なんだ、このシュールな光景……これが楽しい、のか?いや、深く考えたら負けだ……多分」
口にした時点で深く考え始めてしまったことの証明に他ならない。
現にルークの瞳から生命の輝きが失われ始めている。
「なんだこのやるせない気持ち……やり方間違ってないよな!?壁ドンってこんな気持ちになるものなのか!?」
追い詰められたルークに追い討ちをかけるのは書いてる人ではなく――
「あれ、ルー君疲れてきてる?休んでる場合じゃないよ!壁ドンは全国の乙女の憧れだよ!?」
味方が背後から撃つどころか、正面から心臓を抉りに行っています。
綺麗に急所を狙ってるね。
「周りを見てごらんよ。皆必死で頑張ってるじゃない。もっと全力でキュンッとさせにきてよ!?
熱くなってよ!!駄目駄目、諦めちゃ!!お米食べようよ!!」
「米関係ないだろ!!お前こそ周り見ろよ!すでに何人かポッキリ逝ってるぞ!?そもそもこんな義務的にやって、どうやったらキュンッとさせられるんだ!?」
「頑張って頑張って頑張って!!出来る出来る、絶対出来るよ!!」
「あああああああああああああああああああああああ!!」
ルークの心が折れそうになる度に、太陽と化したパートナーの攻撃めいた叱咤の言葉がルークの体を鞭打つ。
彼が膝をつくことを許されたのは、十四枚の畳を倒してからであった。なーむー。
「もう……無理……」
膝をついたルークの表情は窺えない。
何かがきらりと光って見えたけど、きっとそれは瞳に光が宿ったからなんだろうね、皆分かってるよ!
「はーい、お疲れ様でしたー」
ニコニコととても満足そうなユラ。
心なしか彼女の周りを桜の花びらが避けてる気がする。熱気かな。
「何でやってる方が羞恥で死にそうになるんだ」
さめざめと泣く間違えた、えーと、うん、なにかがあって呟いたルーク。そのまま目覚めちゃうと気持ちよくなるのだが、残念ながら目覚めてはくれないようだ。
ユラはそんなルークの前にしゃがみこみ、顔を覗きこんだ。
「いやいや、私も恥ずかしかったよ?それ以上に滾っちゃっただけで」
「……で、結局キュンとしたのか?」
問い掛けられたユラは立ち上がった。
まだ立ち上がれないルークは視線でしか彼女を追えない。けれど、それにも限度があり、表情は窺えない。
「……したよ、最初の1回くらいは」
ぽつり、ユラは答えた。
いつものテンションだとこんなの耐えれない、それに最初に一回で気付いてしまった。
結果がアレだ。ああするしか、無理だったのだ。
ユラの顔が赤いことにルークは気付けたのやら。
●女子力(おす)
紫月 彩夢はぎゅっと手に力を篭め、拳を作る。
「壁ドンってあれよね。壁殴ればいいのよね」
「彩夢ちゃん、それ、ちょっと違うんじゃないかしら……」
小首を傾げる紫月 咲姫の視線は妹の握り拳へと向けられている。
彩夢のニュアンスでは、「てめぇうるせーぞ!!(ドン)」と隣の住人に向けて壁を叩く方の壁ドンな気がしてしまう。
それだと別競技になる、あ、でもストレス発散祭としてならいいんじゃないかなどと咲姫の思考は脱線しかける。
「冗談よ。ほら咲姫、さっさと畳の前に立って」
「え?私が壁ドンされる方?え?ここはする方じゃないの?」
「あたしがやるのよ。何よ。文句ある?」
「……彩夢ちゃんがしたいならいいけど……」
『姉』としては妹の希望は聞いてやりたい。しかし『男』としては複雑。
『姉妹』だからこそ、咲姫の心境は彩夢には分からない。
「今こそ無駄な女子力の発揮し所よ」
「む、無駄って言わなくてもいいじゃない!」
そう言う咲姫の長い黒髪が風に浚われる。弄ばれないように髪を押さえる仕草は女性のもの。
少なくとも普通の男のものではない、とその様子を見ながら彩夢は思う。
乱れた髪を整えた咲姫が畳の前に立つと、壁ドンに備えて彩夢が一歩距離を詰める。
彩夢は邪魔にならないように袖を少しだけたくし上げ、準備を整えた。
「一枚目、せーの!」
ドンッと畳へと腕を突き出す。
一気に近づいた彩夢との距離感が家族だからこそ新鮮で、咲姫は軽く目を見開いた。
と、同時に。
15cmもの身長差。背伸びして無理な姿勢を作っていた彩夢がバランスを崩す。
「あ」
「っと、わ」
咲姫は条件反射のように手を伸ばし、バランスを崩した彩夢を抱え込んだのだが――
立て直すことは出来ず、というよりもその気もなかったのではないだろうかという程に、綺麗に畳の上へと倒れこむ。
ゆっくりと上体を起こした彩夢は、咲姫をじとりと一瞥。
「……咲姫。あんたが一緒に倒れる必要も、ましてあたしまで一緒に倒れる必要もないのよ?」
「えへへ、つい。彩夢ちゃんに押し倒されちゃっ
むにーーーっと伸びる咲姫の頬。勿論引っ張っているのは彩夢だ。
限界まで引っ張ってやるという気概を感じてしまう。
「笑ってんじゃないわよ」
「いひゃいわ彩夢ひゃん……」
余計なこと言うからだと言わんばかりにもう一度だけさらに引っ張ってから、彩夢は咲姫の頬から手を離す。
両手で自身の頬をさすさすと撫でる咲姫を尻目に、彩夢は立ち上がった。
「もう、ほら次行くわよ!さっさと立つ!」
「はーい」
咲姫が立ち上がっている間に、彩夢は二枚目の畳の前へ。
利き手を開閉しながら、どのくらいの力加減がいいか見積もっている。
それにしても――
近距離で見上げた咲姫は、相変わらず綺麗だった。精霊だからというよりも咲姫だからかもしれない。
さっきの、頬を引っ張ったときのようなしおらしい時などはどうみても女子にしか見えない。
そこまで考えて、ぱっと視界が開けた。ああ、そうか、そうだ。
「彩夢ちゃん、どうしたの?」
「なんでもない」
咲姫の呼びかけで我に返った彩夢は頭を一振りし、二枚目の畳へと腕を突き出した。
淡々と九枚の畳を倒していった彩夢は、十枚目を前にして一度立ち止まる。
心が折れた訳ではなさそうだが、何かあったのだろうかと咲姫は疑問に思っていると、彩夢が紅玉髄の瞳でじっと彩夢を見つめてきた。
「……ねぇ、咲姫」
「なぁに?」
「今度さ、メイクの仕方教えてよ」
「……メイク?いいけど、急にどうしたの?」
彩夢からのお願いに咲姫は目を丸くした。
今まで彼女がこんなことを頼んできたことは一度も無かったからだ。
咲姫が驚きを見せたことに不満を感じたのか、それとも頼んだことの照れ隠しか。彩夢はじろりと目を細める。
「何よ。よく考えたら最高のお手本が居るんだから、習えばいいって気づいただけよ」
丸くなっていた咲姫の目が徐々に弧を描いていく。
花が咲いたような笑みは、そのまま咲姫の気持ちを表している。
「私は、私の可愛い彩夢ちゃんが美人になるお手伝いなら、幾らでも。貴女の願いは、全部私が叶えてあげたい」
一瞬、彩夢は柔らかな笑みを浮かべるも、すぐに渋面。
「ほら、ラスト一枚。これ終わったらいなり寿司よ」
肩をぐるりと回し、さっさと終わらせたいと彩夢は呟く。
やっぱり謎の競技は精神に来ていたらしい。
「ふふ、格別美味しい美味しいお茶といなり寿司になりそう。嬉しいのよ?彩夢ちゃんが、そう言うのに興味持ってくれるのが」
大切な貴女だから――
●Q&A
「壁ドンとはなんだ?」
「壁際に追い詰めるんだよ」
「壁際に、追い詰める……?」
豊村 刹那から貰った答えで、逆月が想像したのは「いたぞ、こっちだ!」「路地裏に追い込め!」的なやり取りの末に壁際に追い詰める光景。
この状況下では無理ではなかろうかと言おうとすると、刹那が他の参加者が競技に挑んでいる姿を指差した。
あんな風にと示されたものの、新たに沸く疑問。
「常に壁を倒すのか?」
「いや、普通は倒れないから。そんな軟な壁意味無いだろ。……今回は特殊すぎる例だ。深くは気にしなくていい」
逆月が疑問の迷路に迷い込まないよう、刹那は先手を打つ。
次なる疑問に答えを出しても、また新たな疑問が生まれることは目に見えている。
桜舞う絶好の花見日和の中、そんな残念な思考に陥る必要性は皆無である。
逆月はもう一度、他の参加者の壁ドンを見てやり方を確認する。
兎に角パートナーを挟んで畳を倒せばいいようだ。ならばと、畳を背にした刹那と向き合う。
見下ろした刹那は、存外に小さい。トランスをしたことはあるものの、こんな風に意識したことは無い。
誤って刹那に腕が当たらないように気をつけながら、逆月は両腕を突き出した。
ドンと、刹那の耳元で音がした。
意識せざるをえない距離感に刹那の鼓動が跳ね、思考が止まるが、すぐに別の音が刹那を現実に引き戻す。
一拍後に振り返れば、背後では畳が綺麗に倒れていた。
ほんのりと刹那の頬が赤く染まっていたことに気付いたのは逆月だけ。気付いたのも、その近さゆえに。
けれど、それも一瞬。彼女が畳から視線を戻した頃には常と同じ色。
何度目かの疑問が逆月の胸に訪れるも、それを口にすることは無い。
代わりに、畳を見て瞬きを一つ。
「よくわからぬ」
「本当にな」
分かったら怖いよ、書いてる人も分かってないくらいだからね!
傍から見てもシュールだったというのに、体験してみれば一回りも二回りもシュールな競技。
二枚で逆月の精神は疲弊しきっていた。ただ畳を倒すという行為にここまで疲れるものなのだろうか。
刹那もどこか疲れているように見える。心此処に在らずという様子だ。
潮時だろう。
「刹那、そろそろ終えるか」
「……あ、うん。もういいんじゃない、か?」
ハッと我に返って刹那は答えたものの――彼女の心は一枚目で折れていた。
逆月とは別の意味で。
「壁ドンとは疲れるな」
ゆるり、手を揺らしてコップに小さな波を作る。
温かい飲み物がすぐに飲めるというだけで、逆月の精神には大きな支えとなり得た。
「いや、普通は何度も連続してやらねぇから」
「そうか。だが、聞く度に此れを思い出しそうだ」
「来る日を間違えたな。ごめん」
「何故刹那が謝る」
不思議そうに逆月は刹那を見た。刹那は苦笑いで答え、体をほぐすべく伸びをした。
すると、なんともいえない眠気が瞼に圧し掛かってきた。恥ずかしさと疲れのせいかもしれない。
「ごめん、ちょっとだけ……」
刹那はすぐ傍にあった逆月の尾へもたれかかった。
すぐに尾へかかる体重が変わったことに逆月は気付き、口元を緩めた。
桜を見上げれば、ひとひらの花びらが舞い落ちてきた。
その花びらはひらひらと踊り、踊って刹那の髪の上へ――
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | こーや |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 03月28日 |
出発日 | 04月03日 00:00 |
予定納品日 | 04月13日 |
参加者
会議室
-
2015/04/02-23:55
-
2015/04/02-23:54
-
2015/04/02-22:32
-
2015/04/01-11:49
紫月彩夢と、姉の咲姫よ。
なんだか賑やかで楽しそうだなーと思って眺めてたけど…
ほんの一瞬、畳を倒した枚数を競うのかしらと思ったわ。
何だか良く判らない感じが、宴、って感じよね。
どっちがやってもいいのよね。うん、いいのよね。
ちょっと張り切りたい心地よ。どうぞ宜しくね。
【ダイスA(6面):5】 -
2015/04/01-00:42
-
2015/04/01-00:41
桜倉歌菜と申します。
パートナーは羽純くんです。
か、壁ドン?…こ、これも壁ドン……だよ、ね?
うん、壁ドンだよっ
皆様、宜しくお願いしますっ♪
【ダイスA(6面):2】 -
2015/03/31-23:39
どうも、ユラと精霊のルークです。
よろしくお願いします。
やーなかなか楽しそうなことになりそうだねぇ
皆さんの壁ドンを楽しみにしてるよー
【ダイスA(6面):6】 -
2015/03/31-19:49
豊村刹那と逆月だ。
よろしく頼む。
うん。なんというか、斬新な催しだよな……。(額を押さえる
【ダイスA(6面):1】 -
2015/03/31-11:37
宮森 夜月と精霊の朱鞠だ。よろしく頼むぞ。
いなり寿司……楽しみだな。
【ダイスA(6面):5】