甘い花唇を捧ぐ(巴めろ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●花言葉に願いを込めて
「今年も花の町ルチェリエの花祭りの時期がやってきたよ!」
 瞳をきらきらと輝かせて、ミラクル・トラベル・カンパニーの青年ツアーコンダクターはウィンクルムたちに笑みを向けた。ルチェリエというのは、珍しい花を育ててタブロス市や近隣の町に届けるのを生業にしているタブロス近郊の小さな町。その広場では、この季節になると広場中に季節の花が溢れる花祭りが執り行われる。咲き誇る花の美しさは、思わずため息が零れるほど。
「お祭りは、お花を目に楽しむばかりじゃないよ! 屋台では花の砂糖漬けを飾ったカラフルなカップケーキが買えるんだ。それに、優しい味がするはちみつ入りのローズティーも。カップケーキに飾る砂糖漬けは薔薇か菫の花びらを選べるのだけれど、その花言葉に想いを乗せて親しい人に贈る、っていうのが今年の流行りみたい!」
 菫もだけれど、特に薔薇には色によって様々の花言葉があるものねと青年はにこりとする。
「それからそれから! 忘れちゃいけないのが『誓いの門』! 広場の真ん中のとびきり綺麗なフラワーアーチをね、祭りの日に親しい人と一緒に潜ると、その人とのご縁が末永く続くって言われてるんだよ」
 パートナーさんとの素敵な時間を是非いっぱい楽しんでねと目を柔らかく細めて、青年ツアーコンダクターはぺこりと頭を下げた。

解説

●今回のツアーについて
花の町ルチェリエの花祭りを満喫していただけますと幸いです。
昨年の花祭りが『花祭りと誓いの門』、夏のルチェリエが『花酔いの蜜氷』に登場しておりますが、ご参照いただかなくとも本エピソードを楽しみいただくのに支障はございません。
ツアーのお値段はウィンクルムさまお一組につき300ジェール。
数時間の自由時間の後、日が落ちる前に町を出る日帰りツアーです。

●屋台の食べものについて
ここでしか食べられないものとして、ツアーコンダクターくんがご紹介しているカップケーキとローズティーがあります。
カップケーキに飾られる花の砂糖漬けは、菫と薔薇の花びらの2種類あり色も様々。
花びらは好きな種類・色の物を選ぶことができます。
パートナーに贈る際は、花びらに託す花言葉をプランにご記入いただけますと幸いです。
ローズティーにも、薔薇の砂糖漬けが一枚浮かべられています。
カップケーキは1個30ジェール。紙コップ入りのローズティーは1杯20ジェールです。

●『誓いの門』について
プロローグで語られたような言い伝えがある、広場のシンボル。
色とりどりの季節の花で彩られた、美しいフラワーアーチです。

●プランについて
公序良俗に反するプランは描写いたしかねますのでご注意ください。
また、白紙プランは極端に描写が薄くなってしまいますので、お気を付けくださいませ。

●蛇足
薔薇と菫の花言葉を参考までに幾らか挙げておきます。
ひとつの花・ひとつの色にこれ以外にも沢山の花言葉がございますので、興味がございましたらパートナーに手渡すに相応しいと思うものを探してみていただけますと幸いです。

赤い薔薇:情熱・愛情・熱烈な恋・私を射止めて
ピンクの薔薇:あたたかい心・満足
白の薔薇:尊敬
黄色の薔薇:友情
オレンジの薔薇:信頼・絆
紫の薔薇:誇り・尊敬
青の薔薇:神の祝福・奇跡・夢叶う

菫:誠実・小さな幸せ

ゲームマスターより

お世話になっております、巴めろです。
このページを開いてくださり、ありがとうございます!

わんこの散歩の際、道の端に咲く春の野の花に見惚れる季節になりました。
3度目の花の町へのお誘い、楽しんでいただけますと幸いです!
誓いの門をパートナーと潜ったり、カップケーキを目に口に楽しんだりパートナーに想いごと手渡したり等々。
自由に花祭りを楽しんでいただけると幸いですが、親密度によっては採用できないプランもございますのでご了承くださいませ。
……と言いつつ基本的に好意的な解釈をするつもりですし、どうしても採用が難しい場合も可能な限りニュアンスを汲めるよう頑張らせていただきます!
皆さまに楽しんでいただけるよう力を尽くしますので、ご縁がありましたらよろしくお願いいたします!

また、余談ですがGMページにちょっとした近況を載せております。
こちらもよろしくお願いいたします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

初瀬=秀(イグニス=アルデバラン)

  花祭りか、春だな
なるほどこれが誓いの門、ってこら引っ張るな!
わかった、わかったから落ち着け!!

はー、くぐるだけでどんだけ注目の的だ……
ん?ああそういやそんな話してたな
お互いに、なあ……

で、どれにしたんだ?
(カップケーキ受け取りつつ)
だからお前はなんでそうストレートというか……
まあなんだ、その……ありがとう(小声で)
っ、あー!もうこれ食って大人しくしてろ!
(青い薔薇のカップケーキを押しやり)
理由?……お前の目と同じ色だから。以上!

(聞きかじりだが、青い薔薇の花言葉。
『神の祝福』。
……この出会いが、そうであればいいとか
この先に、祝福があるようにとか
……たぶん気づいてないだろうがな)


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  分かった分かった
好きなだけケーキ買って食べていいから急かすなよ
(ホント、菓子大好きなんだな。そういう所が子犬みたいで可愛い狼)くす

◆行動
焦らなくてもケーキは逃げないよ
俺は一寸変わった色の薔薇で…そうだな紫にしよう
花言葉?ああそうか
それぞれどんな意味なんだ?
んー(考え
やっぱり紫で(笑

ティーも頂いて花が沢山見える席でゆっくりと過ごそう

(ケーキをプレゼント)
尊敬だ
ランスの事はス…(コホン)だけど、その根底だからさ

魔法使いとしての力が上がってる
種族差は分かるけど、でも、凄いなって…
こんな凄いやつの相棒なんだと誇らせてほしい

夕日がアーチを情熱的に染める頃、くぐりに誘う
何も言わなくてもきっと気持ちは同じだ



セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  ■花に目元ゆるめ
本当…。あれ、いつから花好きになったの?
そ、そう。折角だし名前教えようか(好きは花の意味だ、落ち着け)
っ何?

…ちょっと寝不足で(苦笑
大学の勉強が進まなくてね。花を見にきたんだろ
ほらカップケーキある
(父と言い争って、目が冴えてしまったからだけれど…心配かけたくない)

どれにする?僕は
「「青薔薇で」」
同じ、だね。嬉しいけど代わり映えないかな
赤面)自信過剰。当たってるけど…なら一緒で
(口に出すタイプとは思ってたけど今日はいつもと違う…?)

うん(微笑
タイガと世界を回れますように

(あ…気遣ってくれたんだ
胸が暖かい
僕は卑怯かな。タイガの想いも知ってるのに甘えて


…やっぱりこれは)
いつの間にか寝



セイリュー・グラシア(ラキア・ジェイドバイン)
  ラキアが花大好きだろ。
一緒に花を見に行こうぜ、って誘ったら凄くうれしそう。
ルチェリエに着いたら、メインは花見だな。
色々な花の名前とかその珍しさとか、ラキアが色々と教えてくれる。
それがどの位珍しい花なのかも。
珍しい花は、そうだと知っている人にしかその有難みが解らないよな。普通に咲いている花なのかと思った。

ケーキとローズティで一休みしよう。
赤いバラの砂糖漬けをケーキに飾ってラキアへ。
薔薇と言えば赤色さ。
愛情を込めてだな!

帰るまでに『誓いの門』も一緒に潜ろうぜ。
今日は日帰りだから町の花を全部見れないじゃん。
また来てもっと沢山の花を一緒に見よう。
他の季節の花も見たいだろ。
そして来年の春もまた来ようぜ!



アイオライト・セプテンバー(白露)
  春は気持ちいいから好き

誓いの門に到着ぅ☆
パパ、手を繋いで一緒に潜ろっ♪
でも、普通にくぐるだけじゃつまんない
折角の「誓い」の門なんだから、なにか誓いを立てよっかな
あたし絶対女の子になって、もっともーっと、パパと仲良くなるんだ
でも口には出さないの
…パパに聞かれたら、ちょっと恥ずかしいもん

カップケーキとローズティー2つずつくださーい

あたしがパパのケーキを選んであげるから、パパはあたしのを選んでね
紅い薔薇と白い薔薇の花片を両方とも、少しずつ載せてもらってもいい?>お店の人に
2つが合わさると「温かい心」になるんだって
パパにぴったりでしょ?(自慢)
そんで、花片をこういうふうに並び替えると、ぱんつ()



●あたたかな貴方と
「到着ぅ☆ パパー! 早く早くー!」
 『誓いの門』の前で、アイオライト・セプテンバーがぴょんぴょんと跳ねる。今行きますよと柔らかく応じて、白露はアイオライトの元へと歩を進めながら優しい苦笑を一つ。
(まず『誓いの門』に向かったのは正解でしたね。アイはきっと門ではしゃぎすぎて、お腹を減らすでしょうから)
 美しくも荘厳な門の前へと辿り着けば、「パパ遅いよー」とアイオライトが唇を尖らせる。
「はいはい、お待たせしました。それにしてもアイ、今日はいつも以上に元気いっぱいですね」
「だって春だもん! 春は気持ちいいから好き! ね、パパ、手を繋いで一緒に潜ろっ♪」
「はい、いいですよ」
 満開の笑顔と共に差し出されるアイオライトの手を、白露はそっと握り返した。手と手を重ねた温もりにくすぐったいような笑みを零した後で――ふと思いついたようにアイオライトは言葉を紡ぐ。
「あ、でも、普通にくぐるだけじゃつまんないよね。折角の『誓い』の門なんだから、なにか誓いを立てよっかな」
「おや、いい考えですね」
 自分も見倣って誓いをと思いかけて、白露はふと、別の考えに行き当たった。
(いえ……よく考えてみると、ウィンクルムの契約そのものが、そもそも誓いのようなものかもしれません)
 だから、口にするのは。
「どんな波風からもアイを守れますように。……こうでしょうか」
 包み込むような願いに、アイオライトがはにかんだように笑う。そうして、彼もまた『誓いの門』に誓いを掛けた。
(あたし絶対女の子になって、もっともーっと、パパと仲良くなるんだ)
 誓った想いは、けれど口にはしない。白露が不思議そうに首を傾げた。
「アイはどんな誓いを立てたんですか?」
「だーめ、秘密っ! ……パパに聞かれたら、ちょっと恥ずかしいもん」
 照れて俯くアイオライトの姿に、アイは時々妙に恥ずかしがり屋になりますね、なんて思いながら、白露はアイオライトの小さな手を握り直す。そうして2人は、『誓いの門』を共に潜った。

「カップケーキとローズティー2つずつくださーい!」
 アイオライトの元気な声に、屋台の店員の女性は表情を柔らかくした。彼女がローズティーの準備を始めたのを見て、アイオライトはくるりと白露へと向き直る。
「ねえ、パパ。あたしがパパのケーキを選んであげるから、パパはあたしのを選んでね」
「分かりました。……アイのリクエストは、あいかわらず微妙に難易度が高いですね」
「パパ、何か言ったー?」
「いえいえ、何も言っていませんよ。ちゃんと選びますから、安心してください」
 そんな会話を繰り広げているうちに、用意されるは薔薇の花びらが浮かぶローズティー。カップケーキに乗せる花びらの希望を聞かれて、白露は店員に尋ねた。
「ゴールド寄りの黄の薔薇はありますか?」
「あたしはね、紅い薔薇と白い薔薇の花片を両方とも、少しずつ乗せてもらってもいい?」
 はいはーい! とアイオライトも勢いよく挙手すれば、両方すぐに準備できるとの答え。間もなく、カップケーキがローズティーと一緒のトレイに並べられる。
「アイに選んだ薔薇の花言葉は、『愛らしい』というらしいです」
 駄洒落みたいですけど、と苦笑する白露。アイオライトが青の瞳を丸くする。
「愛らしい、で、アイらしい? ……ふふー、パパったら、愛らしいって!」
 ニコニコしながら口元を抑えるアイオライトは、どうやら白露に贈られた言葉がお気に入りのご様子。
「あのね、あたしのはね、赤と白、2つが合わさると『温かい心』になるんだって。パパにぴったりでしょ?」
 えっへん! と自慢げに胸を張るアイオライト。そうして彼は、カップケーキを手に取ると何やら飾られた花びらを弄り始めて。
「そんで、花片をこういうふうに並び替えると、ぱんつ☆」
「はいはい、ぱんつはそこまでにして、お茶を戴きましょう」
 どうせならぱんつを恥ずかしがってくださいと律義につっこむ白露パパ、今日も苦労性である。

●祝福を願う
「花祭りか、春だな」
 咲き誇るとりどりの花を銀の目に映して、感嘆混じりの声を漏らす初瀬=秀。その傍らでは、イグニス=アルデバランが青い瞳を宝石のように輝かせている。
「わー、綺麗なアーチ!」
 彼が見上げるのは、趣深い花の門。イグニスの視線を目で追って、秀は眩しいみたいに色付き眼鏡の奥の瞳を細めた。
「なるほど、これが誓いの門……」
「これをくぐるとご縁が末永く続くそうですよ!」
 聞いた話を弾む声で語りながら、イグニス、秀の手を取りぐいと引く。
「ってこら引っ張るなイグニス!」
「でも、やはりここはくぐっておかなければ! さあ行きましょう! 秀様!!」
「わかった、わかったから落ち着け!!」
 広場に響き渡る2人分の声。衆目を集めながら、何だかんだと2人は共に『誓いの門』を潜った。

「はー、くぐるだけでどんだけ注目の的だ……」
 『誓いの門』を離れて、秀は疲れたような息と言葉を漏らす。秀と一緒に門を潜れてご満悦のイグニスは、秀の心労には気付かずに楽しそうに辺りをきょろきょろ。そして、ある物を目に留めて「あ!」と明るい声を上げるや否や、表情をぱああと益々明るくした。
「秀様、カップケーキです! これが名物だって言ってましたよ!」
 指差す先には、可愛らしい様子のカップケーキの屋台。
「ん? ああ、そういやそんな話してたな」
「美味しそうですよ、一緒に食べましょう! そうだ、せっかくですしお互いに贈りあいっこしませんか?」
「お互いに、なあ……」
 気のないような返事を寄越せば、瞳を潤ませんばかりの勢いでイグニスにきゅるるんと見つめられて。子犬のようなその眼差しに、秀、陥落。2人連れ立って屋台へと向かい、贈る花びらの種類と色は秘密にして、それぞれにカップケーキを買い求める。イグニスに贈るカップケーキを彼に倣い後ろ手に隠して、秀は問いを零した。
「で、どれにしたんだ?」
 問いに、イグニスが満面の笑みを浮かべる。
「ふふー、私からはこれを!」
 差し出されたのは、鮮やかな赤い花びらを飾ったカップケーキ。生き生きとしてイグニスが言う。
「赤い薔薇の花言葉は『愛情』なんですよ! やはりここはありったけの情熱と愛情を!お伝えするところかと!」
 揺るぎのない愛情表現が眩しくて、秀は仄か視線を落として息を吐く。不快なわけではない、面映ゆいのだ。
「だからお前はなんでそうストレートというか……」
 イグニスは、相変わらず真っ直ぐな視線を秀へと向けている。差し出されたカップケーキを、彼の想いを受け取りながら、秀はぽそぽそと口を開いた。
「まあなんだ、その……ありがとう」
 小さな小さな礼の言葉に、イグニスがふわりと幸せそうに笑む。そして、
「さあ秀様お答えを!」
 と、期待にそのかんばせをきらきらとさせて、秀にそう促した。照れ臭さに耳の熱くなるのを感じながら、秀はイグニスへとカップケーキをずずいと押しやる。
「っ、あー! もうこれ食って大人しくしてろ!」
 それは、青い薔薇の花びらを飾ったカップケーキ。
「青い薔薇ですか? 花言葉なんだったっけ……。秀様、どんな理由でこれを?」
「理由? ……お前の目と同じ色だから。以上!」
「え、そういう理由! いえ嬉しいですが!」
 応じて、イグニスは『嬉しい』という言葉そのままに、押しつけられたカップケーキを大切な宝物のように両手で持って、秀へと笑みを向ける。
「というか秀様から頂けたこと、秀様が私を見て選んでくださったことが一番嬉しいですよ」
「……ああもう、お前は……」
 注がれる曇りのない笑顔に額を抑えながら、秀は思う。
(聞きかじりだが、青い薔薇の花言葉。……『神の祝福』)
 この出会いが、そうであればいいとか。この先に、祝福があるようにとか。込めた想いは、口にはしないから。
(……たぶん気づいてないだろうがな)
 それでもちゃんと手渡したと、秀は密か、口元をそっと和らげた。

●これからの約束を
「すごい……珍しい花達がこんなに沢山……!」
 花の町の広場に咲き誇る珍かな花々を見渡して、ラキア・ジェイドバインは緑の瞳をきらきらと輝かせる。
「今日のメインは花見だな!」
 そう言って白い歯を零すセイリュー・グラシアがラキアをこの町へと誘ったのは、彼が花を大好きなのを知っているから。
(一緒に花を見に行こうぜって誘ったら、ラキア、凄く嬉しそうだったな)
 その時のラキアの表情を思い出して、セイリューは口元を柔らかくする。一方のラキアも、心が弾むのは珍しい花達のせいだけではなくて。
(この町の珍かな花達に出会えて益々嬉しいけど……セイリューが誘ってくれたこと、とても嬉しい)
 そんなことを思いながら、ラキアは咲き誇る希少な花にそっと触れた。その様子を覗き込んで、セイリューが不思議そうに首を傾げる。
「その花、珍しいのか?」
「珍しいかって?」
 セイリューの何気ない一言に、ぴくりと反応するラキア。そうして彼は、その花の名を、その花がどんなに珍しい物なのかを滔々と語り出す。
「生育や開花にも色々と条件が必要で……この子以外にも、短期間しか見れない子とか多いんだよ」
 セイリューが目を丸くするのを見て――ラキアは少しはしゃぎすぎてしまっただろうかとふっと我に返った。けれど、セイリューが次いで零したのは、眩しいほどの満面の笑み。
「じゃ、見れるのはレア体験なんだな!」
 その反応に、ラキアはまたその表情を明るくした。セイリューが驚き、そしてこの喜びを一緒に共有してくれるのが、ラキアには酷く楽しく感じられて。
「そう、そうなんだ。知れば知るほど面白いんだよ、こういうことは」
「珍しい花は、そうだと知っている人にしかその有難みが解らないよな。普通に咲いている花なのかと思った」
 目の前に咲き誇る花の珍しさを知らないセイリューだけれど、彼はラキアの話を、興味深そうに聞いてくれる。ラキアの気持ちを理解してくれる。そのことがまた嬉しくて、ラキアはその目元を和らげた。

「そろそろ一休みするか」
「うん、そうだね」
 一通り広場の花を満喫したら、祭りの名物を求めて休憩を。ローズティーと一緒に、セイリューが買い求めたのは赤い薔薇の砂糖漬けを天辺に飾ったカップケーキだ。
「これ、オレからラキアに! 薔薇と言えば赤色さ。愛情を込めてだな!」
 贈られたカップケーキに込められた熱烈なメッセージにラキアは一つ苦笑を漏らし、それでも「ありがとう」と甘いお菓子を受け取って。代わりに、自分が選んだカップケーキをセイリューへと手渡す。
「えっと、オレンジの薔薇?」
「花言葉は『信頼』とか『絆』だよ」
「へー! ありがとな、ラキア!」
 にっと笑って、カップケーキを口に運ぶセイリュー。その様子を眺めながら、ラキアは密か口元を緩めた。
(実は『魅惑』って意味もあるんだよ。目が離せないよね、セイリューって)
 そんなことを思いながら、ラキアもまたカップケーキを口に運ぶ。
「帰るまでに『誓いの門』も一緒に潜ろうぜ」
 セイリューの提案に、ラキアは諾の返事を寄越して微笑んだ。

「なあ、ラキア」
 セイリューに促されて、2人が『誓いの門』を共に潜った後のこと。セイリューの呼び掛けに、ラキアは緑の視線をセイリューの方へと向けた。
「今日は日帰りだから町の花を全部見れないじゃん。また来てさ、もっと沢山の花を一緒に見よう」
 他の季節の花も見たいだろ、とセイリューはどこまでも晴れやかに笑う。その笑みに釣られるようにして、ラキアもそのかんばせに柔らかな表情を乗せた。
「うん、また何度でも一緒に来ようね」
「勿論! そして来年の春もまた来ようぜ!」
 顔を見合わせて、笑みを零す2人。あたたかな約束を交わす2人を、『誓いの門』が静かに見守っていた。

●繋ぐ夢
「わぁ……」
 広場中を彩る花々の美しさに、セラフィム・ロイスは目元を柔らかくした。その傍らで、気分転換にとセラフィムを誘った火山 タイガが、明るい声を上げる。
「今年もすげー。ルチェリエの花祭りは違うな」
「本当……。あれ、いつから花好きになったの?」
「んー、セラが好きだから?」
 にっと笑って応じたタイガのその答えに、セラフィムの胸が跳ねた。
(好きは花の意味だ、落ち着け)
 自分自身に言い聞かせるセラフィムに、タイガが笑みを向ける。
「いつも隣に居るし名前はしらねーけど綺麗さはわかるって」
「そ、そう。折角だし名前教えようか」
「おう。ガイド楽しみにしてるぜ」
 屈託のない笑みを見せたタイガの緑の視線が――ふと、じーっとセラフィムのかんばせへと注がれて。全部見透かされそうな真っ直ぐな視線に、セラフィムはびくりとした。
「っ何?」
「くま、できてる。寝れてねぇのか?」
「ああ……ちょっと寝不足で」
 心配の色をその瞳に滲ませるタイガへと、セラフィムは苦笑を返す。
「大学の勉強が進まなくてね。そんなことより、花を見にきたんだろ? ほら、カップケーキもある」
 ぽん、とタイガの背中を押しながら、ひっそりと胸に思うは。
(父と言い争って、目が冴えてしまったからだけれど……心配かけたくない)
 互いに互いへの気遣いを胸に抱いて、2人はカップケーキの屋台へと向かった。そこには昨年と変わらず、とりどりの花びらが待っていて。
「どれにする? 僕は……」
「そうだな、俺は……」
「「青薔薇で」」
 重なった声に、2人は思わず顔を見合わせる。そして、どちらからともなく揃って笑みを漏らした。くすりと笑って、セラフィムが言う。
「同じ、だね。嬉しいけど代わり映えないかな」
「いいじゃん一緒! 『夢叶う』にこれからの『奇跡』も願って、さ」
 セラの夢叶うってことは俺のも叶うってことだし、とのタイガの言葉に、頬が熱くなるのをセラフィムは感じた。
「自信過剰。当たってるけど……なら一緒で」
 そうして2人は、揃いの青薔薇を飾ったカップケーキを買い求める。
(口に出すタイプとは思ってたけど今日はいつもと違う……?)
 と、僅か心を飛ばしたセラフィムへと、眩しいような声でタイガが言葉を紡いだ。
「あ、食う前に『誓いの門』潜るか」
 末永い縁を紡ぐという門をまた共に潜ろうと、タイガはどこまでもさりげない調子で言う。そのことが酷く嬉しく感じられて、セラフィムは柔らかい微笑をそのかんばせに湛えて「うん」と応じた。そんなセラフィムの手を取って『誓いの門』へと誘いながら、タイガがにかっと笑う。
「それじゃあ俺は……縁がずっと続きますように!」
「僕は……タイガと世界を回れますように」
 想いを乗せて、2人は門を潜った。少し晴れたような表情のセラフィムを見遣って、タイガは思う。
(願掛けでも何でも力になりゃいい。笑顔のセラが見れりゃあそれで)
 その想いの温もりを、セラフィムもそっと感じ取って。
(あ……気遣ってくれたんだ)
 ほっこりと温まる胸に、想いが過ぎる。
(僕は卑怯かな。タイガの想いも知ってるのに甘えて。……やっぱりこれは)
 思考の底に沈み掛けたセラフィムに、タイガが元気良く声を掛けた。
「次はカップケーキだな! セラ、あそこのベンチ空いてる!」
 手を繋いだままのタイガに誘われて、2人はベンチへと向かった。

「セラ? ……寝ちまったのか?」
 咲き誇る花達がよく見えるベンチでカップケーキを食べて、少しお喋りをして、花を眺めて。そのうちに眠ってしまったセラフィムに、タイガはそっと寄り添う。
(花みてぇ。好きになった理由それかな? そうだ、去年も蜜蜂と花の話したっけ)
 蜜蜂をタイガみたいだと言ったセラフィム。タイガはそれに、ならセラフィムは花だと返したのだった。でも、『家』がセラフィムを縛っているのだと、今のタイガは知っているから。
(動けない花じゃなくて、縛られずに一緒にいけたら……)
 そんなことを思いながら、タイガもまた、眠りの中に落ちていった。

●この出会いは奇跡
「セイジ、ほら、カップケーキの屋台! 早く行こうぜ!」
 声を弾ませたヴェルトール・ランスにぐいぐいと背を押されて、アキ・セイジはくすりと笑う。
「分かった分かった。好きなだけ買って食べていいから急かすなよ」
「やりっ、ケーキ食べ放題! そうこなくちゃな!」
 嬉しそうなランスの様子に自分もそっと口元を緩め、
(ホント、菓子大好きなんだな。そういう所が子犬みたいで可愛い狼)
 と、セイジはまた愛おしさに小さく笑みを漏らした。すぐに辿り着いた屋台で、ランスはどれから頂こうかなんて、カラフルなカップケーキと真剣に睨めっこ。
「焦らなくてもケーキは逃げないよ」
「だな。とりあえず、俺は全部1個ずつ!」
「……全部?」
「うん、全部食べる♪ 好きなだけ食べていいって言ったろ?」
 そう問われれば首肯するしかない真面目なセイジである。少し呆れながらも、自分の分のカップケーキを吟味する。
「俺は一寸変わった色の薔薇で……そうだな、紫にしよう」
 そう思い決めたところで――ふと、メニューに添えられた『花言葉を贈ろう!』というメッセージがセイジの目に留まった。
「花言葉? ああそうか」
 花言葉に想いを乗せてカップケーキを贈る、という話を聞いた気がする。それぞれどんな意味なんだ? と店員に問えば、返る答えにセイジは暫し思案して。
「んー……やっぱり紫で」
 そう言ったセイジの顔には、柔らかな笑みが浮かんでいた。一方のランスも、
(花言葉か……)
 とセイジと店員のやり取りを耳に少し考え事。そうして、
「これ1個だけラッピングして下さい」
 と、贈るに相応しいと感じた想いをそれらしく飾ってもらった。

「ランス、これ」
 一緒に買い求めたローズティーと広場に咲き誇る花々をカップケーキのお供にして、2人はベンチでゆっくりと時間を過ごす。セイジが差し出したのは、先ほどの紫の薔薇の花びら飾ったカップケーキ。確りと受け取ったランスへと、セイジは言葉を零す。
「尊敬だ。ランスの事はス……だけど、その根底だからさ」
 間で咳払いをして紡ぐ言葉の照れ臭さを誤魔化しながらも、真摯に想いを告げるセイジ。
「魔法使いとしての力が上がってる。種族差は分かるけど、でも、凄いなって……」
「俺が成長してるんならセイジだってそうだ」
 真っ直ぐな言葉には、真っ直ぐな言葉が返る。「まあ確かに成長速度が違うってのは一寸……うん」なんて少し苦く笑うランスではあるが。セイジが、真剣な面差しを作った。
「とにかく、こんな凄いやつの相棒なんだと誇らせてほしい」
「ふふ、俺だってセイジを誇っちゃうぜ?」
「なっ……! は、恥ずかしげもなく言うな」
「先に言ったのはセイジだろー?」
 耳まで真っ赤になるセイジをふふりとからかって、けれど、パートナーを誇る気持ちはランスにとっても本物だ。ランスは、照れて仄か俯くセイジへと青薔薇の花びらを乗せたカップケーキを手渡した。
「俺からはこれ。世界でたった1人の相手ってのは奇跡だろ? 神人にとっては1人じゃないかもって噂あるけど、俺からは1人だからさ」
 だから、青い薔薇には、できたらずっとただ1人でいたいという心からの願いも込めて。

「なあ、ランス。……『誓いの門』、一緒に潜らないか?」
 夕暮れ時の情熱的な光に染まったフラワーアーチを見遣って、セイジが誘う。セイジからの嬉しいお誘いに、ランスはふっと笑み零した。
「おう、勿論」
 縁を繋ぐ門を潜ろうとすれば、何を言わなくても自然に触れ合い、どちらからともなくしっかりと繋がれる2人の手。込めるのは、唯一の奇跡への揺るぎない願い。
(何も言わなくても気持ちは同じだ、きっと)
 重ねた手の温もりに、セイジは静かにその口元を緩めた。



依頼結果:大成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 巴めろ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 03月26日
出発日 04月01日 00:00
予定納品日 04月11日

参加者

会議室


PAGE TOP