プロローグ
ケント伯爵領には300年ほど前から謎の「赤い塔」が存在する。
塔周辺の村々に住む若い女性は、16歳になると必ず見る夢がある。
それは、この塔に招待され、声だけの塔の主人からダンスに誘われるというもの。
その誘いに乗ったか否かは、皆一様に忘れて朝を迎えるという、不思議な話だ。
さて、今から100年ほど前のお話。
当時のケント伯爵の外戚であったマーマレード嬢は、他国にも名が知れるほどの美貌の持ち主。
そんなマーマレード嬢を塔の主人も気に入ったのか、16歳になった朝、彼女は夢の中から戻らなくなった。
そこで、マーマレード嬢と心を通わせていた青年は、眠りについたままの彼女の寝台で、一晩を共にした。
翌朝、彼女はひと月ぶりに目を覚ます。
夢の中で、若い女性に化けた青年が塔の主人を欺き、マーマレード嬢を救い出したというのだ。
その後、マーマレード嬢は無事青年と結ばれ、末永く幸せに暮らしたという。
昔話の真偽は不明であるが、一族では今も、青年の功績を讃えるダンスパーティを開催している。
それは、女性に化けた青年に倣い、男性も女性の装いをするというもの。
その伝統あるダンスパーティが、このたび特別に、一般からの参加も募ることとなったのである。
解説
場所は、ホテル「伯爵の狩猟小屋」。
開催時間は、午後6時30分から午後10時30分まで。途中退席可。
参加費用は一組1000Jr。飲食代金、衣装レンタル料も含みます。
今回ホテルに宿泊はできません。
以前は、男性も女性も、女性の装いでしたが、近年では、女性が男性の装いをすることもあるそうです。
男性の装いを希望する女性には、衣装の貸し出しも行っております。この場合、参加費用は200Jr増しとなります。
貸し出す衣装は、ドレス、スーツ、アクセサリー、小物、ウィッグ、メイク用品。
ヘアメイクの担当者がおりますので、どのようなメイクにするか希望を申し付けてください。
飲食物は、普段ホテルで提供されている食事と同様で、狩猟場での貴族料理が中心となります。アルコールも各種取り揃えています。ただし、未成年は飲酒不可です。
今回のエピソードでは、精霊のデートコーディネートはアンダーウェア以外無効となります。
神人が男装する場合も同様です。ご了承ください。
ゲームマスターより
乗り気の精霊さんも、そうじゃない精霊さんも。
女装が似合う精霊さんも、そうじゃない精霊さんも。
どうかこのパーティを楽しんでいただけたら、と思います。
単に私が精霊に女装させてみたかったとか、決してそういうわけではありません。
これは伝統の!由緒正しき!パーティですから、ハイ。
コスプレ感覚で楽しむもよし、神人さんも男装して、男女入れ替わりプレイを楽しむもよし、です。
プランには、
・どのような装いにするか
・着替え終わった後、お互いどのように思い、相手に何を言うのか
を記載してください。
その他、ダンスパーティでの振る舞いなども書いていただければ嬉しいです。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
手屋 笹(カガヤ・アクショア)
※神人も男装で参加。 ・男装内容 蝶ネクタイスーツ&髪型:首の後ろで1つ縛り。 親睦とカガヤの女装が見たかったので 女装という話は内緒にして来たのですが… 思ったよりカガヤの興味を引いたようです。 用意できましたら合流しましょう。 (合流後) 女装自体そこまでおかしくは無いのですが… 入る前は楽しみそうだったのでこんなに 赤くなっているとは予想外でした… 涙目で耳をぴくぴくさせて…! 子犬ですか、はぁ、可愛い… 一人にしてしまったら縮こまったままになっていそうです… 「カガヤ、今回はわたくしがエスコートしますわ。 一緒に居て下さいね、 これなら恥ずかしくないでしょう?」 そう言ってカガヤの手を引き、ダンスもリードします。 |
ガートルード・フレイム(レオン・フラガラッハ)
・黒とダークレッドに金の装飾の施された、大人っぽい王子様服 ・厚底ブーツで身長は精霊と同じ (「私の誕生日プレゼントの前倒しだと思って!」と懇願し、宥めすかして無理矢理連れてきた 更衣室から出てきたお姫様を見て) レオン、私の思ったとおりだ 前からお前は美男子というより美人だと思っていたが… なんて似合うんだ!(目がキラキラ) では姫君、踊りましょう(スポーツ3で立ち振る舞いがさまになってる) まあまあ(無理矢理引っ張っていき踊る) …あのさ、今のお前は何してても実に綺麗なんだが… その仏頂面、なんとかならないかな (返事に) えっ?! …ここでか? …仕方ないな(微苦笑して、暗がりに連れて行きキス ※部位はお任せで!) |
リオ・クライン(アモン・イシュタール)
興味本位で申し込んでみたが・・・。 男装などは前の任務以来だな(EP2参照) さて、アモンの奴はどんな悲惨・・・どんな姿になってるのか・・・。 服装・男装を希望、中性的な美少年風のスーツ姿、髪の毛は一つ結び <行動> ・せっかくの機会なので男装 ・女装したアモンを見て、見惚れてしまう ・周りの客の姿を見て「なんか不思議な感じだな・・・」といいながらも面白がる ・今回の事はアモンの息抜きになればいいかなー、な感じで応募してみたらしい ・壁の花を決め込むアモンに紳士的な感じでダンスを申し込む 「どうか、私と踊っていただけませんか?」 ・踊り方を知らないアモンに自分に合わせる様エスコート アドリブOK |
吉坂心優音(五十嵐晃太)
☆黒基調の燕尾服 ☆ゆるふわショートウィッグ ☆メイクお任せ ☆心情 ふふっ又晃ちゃんの可愛い姿が見えるなんて! 今度はあたしも男装するから大丈夫だよぉ♪ さぁ楽しもうねぇ、こ・う・ちゃ・ん♪(ニコニコ ☆着替え後 パーティーだし立ち振る舞いも男っぽくしなくちゃ! 一人称も“僕”にしておこうかな… あっ(見惚れる きゃぁぁぁあああっ! 晃ちゃん可愛いっ可愛すぎるっ! 流石僕の晃ちゃんだよね! 僕の目に狂いは無かった! 晃ちゃんと釣り合うなら安心だよ(微笑 では行こうか ☆ダンス 晃ちゃんやった事無いけど踊ろ! では僕と踊ってくれますか、お嬢様?(片膝ついて左手の甲にキス あっ照れた ふふっ(微笑 (周りに合わせ見様見真似で楽しそうに踊る |
アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
追加200jr さあ、ラルクさん 無駄に磨いている変s…女装技術、しっかり活かしましょうね イメージで言えばシャープで細身なものがいいかと悩むも、体格が体格なの細すぎるのは良くないと判断 ワインレッドで飾り少なめドレスを選ぶ 赤系で綺麗めメイクを依頼 …流石、プロの方は違いますね 女性誌のモデルのような仕上がりを称賛 さて、私は何を着ましょうか 私だけが好き勝手させてもらうのもなんなので、衣装はラルクさんに見てもらう 赤系はあまり着ないので落ち着きませんが、 ラルクさんが悪くないというなら問題ないのでしょう お手をどうぞ、お嬢さん からかい気味に腕を差し出す ラルクさんは慣れない格好ですから、曲に合わせて体を揺らすだけで |
●美しき?変身
さすがはタブロスでも名の知れたケント伯爵縁のホテル、「伯爵の狩猟小屋」だ、舞踏会の会場も絢爛豪華である。
並べられた料理も、狩猟場での食べやすい料理とはいえ、使用される食材は一流のものばかり。
集まった美女たちのドレスも美しく……。
ん?美「女」?
「さ、笹ちゃん……?これは、一体……」
カガヤ・アクショアは、わなわなと震えながら、このパーティに自分を連れて来た手屋 笹の名を呼ぶ。
カガヤの眼前には、きらびやかなドレスで着飾った男性たちの姿が。
「見てわかるでしょう。パーティですわ。カガヤと親睦を深めるための」
笹はゆったりと笑う。
親睦を深めるついでに、カガヤの女装も堪能しようという魂胆である。
「いや、待って、何か様子がおかしいんだけど……っ?」
「カガヤ」
笹は言い含めるように説明を始める。
「このパーティは、とーーーっても歴史のある、由緒正しきパーティなんですわ」
笹がマーマレード嬢救出のため女装した青年の話を聞かせると。
「青年……!なんて、行動力のある人物なんだ!」
カガヤは感銘を受けた様子で、俄然興味が湧いたようである。
「その青年の偉業を讃えるパーティなのです」
「女装は聞いてなかったけど……!話はとても興味あるし青年の勇気に肖りたいな」
カガヤが乗り気になったようだ。笹は我が意を得たり、という笑みを浮かべた。
「では早速、このパーティに相応しい支度をしましょう」
数十分後。
ダンスホール前で待つ笹の前に現れたのは、露出少な目で膝に掛かるスカート丈のワインレッドのドレスに、黒タイツ、赤いヒール靴という出で立ちでしっとり大人の女風に変身したカガヤであった。
ゆるい巻きが入った茶髪ロングのエクステと、頬に赤みを持たせたナチュラルメイクで美人度アップである。しかし、頬が赤いのはメイクのせいだけでは無さそうだ。
女装自体はそこまでおかしくはないのだが……。
「やっぱ恥ずかしい……」
涙目で耳をぴくぴくさせているカガヤはまるで可愛い子犬である。
「さっきは乗り気だったじゃないですか」
「メイクされてる間に段々恥ずかしくなってきたんだよ……!」
一方笹も、カガヤが女装している間に髪を首の後ろで一つに縛り、蝶ネクタイのシンプルな黒スーツという姿になっていた。
(笹ちゃんは……男装でもやっぱり可愛いな……)
子犬カガヤは笹を見つめる。それが縋るような視線に見えたのか、笹が
「……参加するのはやめておきますか?」
と心配そうに訊いてくる。
「いいや、行くよ。女装と知って尚やるって言ったのは俺だもんな……」
耳がシュン、と寝てしまっている。
ドレスで見えないが、尻尾も内側に丸まってしまっているに違いない。怯える子犬そのものだ。
笹は苦笑してカガヤに手を差し伸べた。
「カガヤ、今回はわたくしがエスコートしますわ」
今の状態のカガヤを一人にしてしまったら縮こまったままになっていそうだから。
そこにカガヤが手を重ねると、笹はにっこり笑う。
「一緒に居て下さいね、これなら恥ずかしくないでしょう?」
ぎゅっと手を握ると、カガヤも安堵したような笑みになり、しっかりと手を握り返してくる。
「さあ、行きましょう」
笹はカガヤをエスコートして、ダンスホールへと入っていった。
今回のパーティの中身を知らされずに連れてこられた精霊が、ここにもまた1人。
「聞いてねぇぞ、おい!」
アモン・イシュタールは女装の事実を知ると、くるりと身を翻し逃げようとするも。
「お客様、こちらのドレスはいかがですか」
「いえいえ、このドレスもお似合いですよ」
「靴はこれがよろしいですね」
にこやかなホテル従業員たちに取り囲まれ、あえなく脱走失敗。
(帰りてぇ、マジ帰りてぇ……!)
手慣れた様子のヘアメイク担当者に、着替え、化粧、整髪を流れ作業で施される。
(いや、ホントふざけんなよ?あの女、オレに変な格好させるのハマってきてんじゃねーか!)
オフショルダーでタイトなスカートの真っ赤なドレス。筋肉質な肩は金色のストールでカバー。
ロングウィッグの前髪で顔の傷も隠し、さらに薔薇のヘアコサージュで飾り。
ばっちりメイクでモデル系美女の出来上がり。
そんな自分の姿を鏡で見ると、怒りが湧き上がるやら情けないやら。
(興味本位で申し込んでみたが……。さて、アモンの奴はどんな悲惨……どんな姿になってるのか……)
リオ・クラインは、せっかくだから、と自分もフリルの付いたブラウスにライトグレーの細身のスーツを合わせて中性的な美少年風の姿になり、髪をひとつに纏める。男装など、以前、模擬訓練と称したイベント以来である。
アモンの息抜きになればいいかなー、くらいの軽い気持ちで応募した今回のパーティだが、果たして彼にとって息抜きになっているのかいないのか。
更衣室から出ると、丁度、アモンも出て来たところで……。
「むむっ!」
予想以上に美女へと変身したアモンの姿に思わず見惚れ、唸る。
「なんだよ」
面白くなさそうにアモンが問う。
「予想外だ……もっと酷い事になると思ってたのに」
「おいてめぇ」
残念で仕方ない、というように溜息をつくリオに突っ込まずにはいられない。
「私も男装したのだから、これであいこだ」
アモンとしては、どこもあいこじゃねぇよ、と言いたいところだ。
リオの男装は、以前イベントで男装した時とあまり印象は変わらないな、というのがアモンの正直な感想だった。
ガートルード・フレイムは、すでに黒とダークレッドに金の装飾が施された、大人っぽい王子様服に着替えていた。
靴も厚底ブーツで、相手に身長を合わせて。
男性用更衣室の前でレオン・フラガラッハが現れるのを今か今かと待ちわびる。姫君を待つ王子さながらに。
一方レオンは鏡の前で不機嫌この上ない、といった様子でふてくされていた。
綺麗な女の子を眺めるのは大好きだが、自分が綺麗な女の子の格好をするなんて、絶対に嫌だ。
そう主張したのに、ガートルードに「私の誕生日プレゼントの前倒しだと思って!」と懇願され、宥めすかされ嫌々ここに来た。
しかし、誕生日のプレゼントが女装ってなんなんだ。
「はい、美人になりましたよ」
メイク担当の言葉に反応して思わず鏡を見てしまう。
長い金髪のウィッグ。碧眼を引き立てるような同系色のグラデーションアイカラー。影を落とす睫毛。ほんのりと染められた頬。血色良く塗られた唇。
『お前はあいつにそっくりだ』
昔、言われた言葉が脳裏に響く。
「……へっ」
歪んだ笑みを零すと、レオンは床を踏みつけるようにして立ち上がり、ガツガツと靴を鳴らして更衣室の出口に向かう。スカートの下に穿いたパニエが脚に絡みつくのも構わずに。
ばん、と勢いよく開いたドアに驚いたガートルードは――レオンの姿を見てさらに目を見開く。
だって更衣室から出て来たのは、まるで童話の挿絵のような、空色の可愛らしいドレスに身を包んだ金髪碧眼のお姫様だったのだから!
「前からお前は美男子というより美人だと思っていたが……なんて似合うんだ!」
瞳をキラキラさせるガートルードとは対照的に、レオンは褒められるほどに不機嫌さを増してゆく。
「美人って言われたって嬉しかねーよ」
レオンがぷいと顔を背けるも、ガートルードは
「では姫君、踊りましょう」
と、恭しく首を垂れる。
スポーツスキルを持つせいか、そんなポージングまで美しく決まるガートルード。
レオンは、つーんと顎を逸らす。
「王子様、わたくし踊りたくありませんの」
「まあまあ」
ガートルードはレオンの手をとりダンスホールへと誘う。
「またエスコートする姿が似合ってるのが癪に障るなコンニャロ」
堂々とした振る舞いのガートルードに手をひかれ、レオンは小声で悪態をついた。
「ふふっ、又、晃ちゃんの可愛い姿が見られるなんて!」
上機嫌の吉坂心優音に腕を引かれ会場入りしたのは、泣きそうな顔の五十嵐晃太。
「みっみゆさぁん!?又?又なんか!?いくら前にもやった事があるからって……!」
そう、晃太には女装の前歴がある。心優音はその時の晃太の可愛らしさが忘れられないのである。
「今度はあたしも男装するから大丈夫だよぉ♪」
なにがどう大丈夫なんだ。
「楽しむ気満々や無いですかやだー」
思わず棒読みになってしまう晃太。
「さぁ楽しもうねぇ、こ・う・ちゃ・ん♪」
ニコニコ笑顔で瞳を覗き込まれれば。
「うぅ……腹ァ括るか……」
(コレも惚れた弱み、やな…)
溜息で苦笑しつつも、遠い目になる晃太だった。
心優音は黒基調の燕尾服に着替え、ゆるふわショートウィッグで活発な少年風の姿に。
「パーティーだし立ち振る舞いも男っぽくしなくちゃ!一人称も“僕”にしておこうかな……」
うきうきしながら晃太の仕上がりを待つ。
「はあぁぁぁ」
長い溜息と共に更衣室から出て来た晃太に、心優音は「あっ」と見惚れ、言葉を失う。
淡い緑基調のプリンセスドレスに朱金のロングヘアウィッグ。ピンクをベースに無垢な少女のように愛らしいメイクを施された晃太。
「みゆ、どないしたん?」
魂が抜けたように見惚れている心優音に、晃太が問うと、はっと我に返った心優音は。
「きゃぁぁぁあああっ!晃ちゃん可愛いっ可愛すぎるっ!」
一気にテンション最高潮。晃太の周りをぐるっと回り、前から横から後ろから、その姿を堪能する。
「可愛い言われてもあんま嬉しゅうないわ」
遠い目で呟く晃太。
「流石僕の晃ちゃんだよね!僕の目に狂いは無かった!」
口調まですっかり少年に成りきった心優音のテンションは下がる事を知らない。
「みゆやって格好えぇやん。結構似合っとるで」
(ま、みゆは可愛ぇからなんでも似合うんやけどな)
「晃ちゃんと釣り合うなら安心だよ」
微笑み心優音は晃太の手をとる。
「では行こうか」
きりっとした表情を作りエスコートする心優音に、半ばヤケでついて行く晃太であった。
神人の玩具にされてる気がする昨今……。ラルク・ラエビガータは軽く頭痛を覚えた。
「さあ、ラルクさん。無駄に磨いている変そ……女装技術、しっかり活かしましょうね」
微笑むアイリス・ケリー。
「変装だ、変装!わざとらしく言い直すな!」
しかも無駄ってアンタ……。
そんなラルクの様子は意に介さずに、アイリスは
「ラルクさんのイメージならシャープで細身なものがいいかしら。でも、体格的に細すぎるのも良くないですよね」
と、衣装室に吊り下げられた多数のドレスの中から、ラルクの衣装を探しにかかる。
「……」
ラルクは最早諦めの境地。
これまでの付き合いで、抵抗は無駄、労力を消費するだけだと悟っているのだ。
「この、ワインレッドのシンプルなドレスがいいですね。メイクは赤系、綺麗めでお願いしましょう」
てきぱきと決めていくアイリス。段取り力の良さがこんなところで発揮されている。
「さて、私は何を着ましょうか。私だけが好き勝手させてもらうのもなんなので、衣装はラルクさんが見てください」
「アンタに似合うドレスを見つくろえって?」
「いいえ、男性用のスーツです。ラルクさんがドレスを着るなら、私もそれに見合う格好をしなくては」
「ん?男装でもいいって……アンタ、変なとこでフェアになるよな」
しかし、そういう筋を通すところが、なんともアイリスらしい。
ラルクは「そうだな……」と考えた後、自分のドレスと色味を合わせ、少し赤みがかったダークスーツを選んだ。
さて、しばしの後。
アイリスの眼前には、モード系女性ファッション誌のモデルのように仕上がったラルクがいた。
「……流石、プロの方は違いますね」
「あ、そうなの?」
出来るだけ鏡を見ないようにしていたラルクは、どんな仕上がりかよくわかっていない。
アイリスに褒められても渋面のままだ。
「私はちょっと……赤系はあまり着ないので落ち着かないのですが」
メイクは薄め、髪は纏めただけのアイリス。
確かに、彼女が赤系の服を着るのは初めて見るが。
「悪くないな」
いつもと違うイメージのアイリスも、なかなか良い。
「ラルクさんがそういうなら問題ありませんね」
アイリスは微笑むと、
「お手をどうぞ、お嬢さん」
と、からかい気味に腕を差し出す。振る舞いまでも男女逆でやるつもりらしい。
仕方ない、乗ってやるか。ラルクは溜息をつくと、アイリスの掌に自分の手を乗せた。
●君のためなら……
(踊らねぇ!オレは絶対踊らねぇぜ!)
ダンスホールで、アモンは壁の花を決め込むつもりであった。
しかし。
リオはそんなアモンの前で紳士的に一礼すると、
「どうか、私と踊っていただけませんか?」
と丁寧にダンスを申し込む。
その目は優しく、決して女装のアモンを揶揄するようなものではなかった。
男性として、女性であるアモンをもてなそうという気持ちが現れていた。
(仕方ねぇな……)
こんな姿で踊るのはもちろん不満だが、リオの真摯な姿勢には、相応の対応をしなければいけない気がした。
溜息ひとつ、つくと。
「ちゃんとフォローしろよ?オレは踊り方なんて知らねぇんだからな」
リオに向かって手を差し出す。リオはその手を受け取ると、
「承知しました、お嬢様」
と、にっこり笑う。
リオの懸命なエスコートで、アモンはぎこちなく踊る。
リオだって、女性をエスコートするなんて、初めてのことであろう。それでもアモンを丁寧に扱ってくれている。
そんなリオの心意気が、なんだか愛しく思えたりするのであった。
(だからと言って、二度とやらねぇけどな、こんな格好!)
ドレス姿の男性がたくさんいるダンスホールも奇妙なものだったが、皆それなりに踊り、このパーティを楽しんでいるようだった。
そんな様子を見れば、自分たちも踊りたくなってきてしまう、素直な心優音である。
「晃ちゃん、やった事無いけど踊ろ!」
社交ダンス、しかも男女逆バージョンだなんて経験ないけれど。
きっとなんとかなる。前向きな心優音につられてか、晃太も
「ウチらやった事ないけど踊ってみるか」
と乗り気に。
心優音は、コホンとひとつ、咳払い。
「では僕と踊ってくれますか、お嬢様?」
改まった表情と口調で、片膝ついて晃太の左手の甲にキス。
「!!」
目に見えて真っ赤になる晃太、カクカクと硬い動きで頷く。
「あっ照れた」
「べっ別に照れとらん!」
ぷいっと顔を背け強がる晃太が可愛らしくて、心優音はふふっと微笑む。
「よぉし、踊ろっ」
心優音と晃太は、周りに合わせ見様見真似で踊る。
楽しそうな心優音を見ているうちに、晃太も一緒に楽しくなった。自分の格好なんて忘れてしまうくらいに。
(……みゆと一緒だと、なんでも楽しいな)
パーティ終了時には我に返って自分の格好を思い出し、再び赤面することになるのだが。
ダンスホールには優雅な曲が流れているが、ラルクの動きは優雅とはちょっと言えない。
服だけじゃなくて靴も靴、つま先は狭いしかかとは高いしで、動きにくくて仕方ないのである。少し気を抜けばよろけてしまいそうだ。
それを察したのか、アイリスは曲に合わせて体を揺らすだけのダンスでリードし始める。
「碌に踊れず悪いな」
ラルクが謝るが、
「こうしているだけでも、充分に雰囲気を楽しめます」
と、アイリスは微笑んだ。
「私はそれだけで、満足ですよ」
「アンタがそう言ってくれるなら、それでいいよ」
ラルクはほっとした顔で微笑む。
気持ちに余裕が出て来たところで、ラルクはホール内を見回してみる。
女装がサマになっている者、そうでない者……いろいろな男性がいる。
A.R.O.Aで見かけたことがある顔もちらほら。彼らも神人に連れられてきたクチか。
かつて共に戦線に出たレオンとカガヤの姿も見かけたが……。
渋面のレオン、恥ずかしさに縮こまるカガヤ。
戦闘時の勇姿は見る影もない。
彼らとは何度か背中を預けあった仲間だ。お互いの為に見て見ぬふりをするのが良いだろう。
「仕事でご一緒したことのある方々も見えていますね」
楽しげに言うアイリスに、
「今日は知らない人のフリをしてやってくれ」
と懇願するラルクであった。
(俺、このパーティが終わったら、今日のことは記憶から抹消するんだ……)
ガートルードのエスコートでとりあえず一曲踊ってはみたものの、気分が乗るはずもなく。
レオンは立食コーナーで食に走っていた。それはもう、ヤケ食いと言えるほどに。
「……あのさ、今のお前は何してても実に綺麗なんだが……その仏頂面、なんとかならないかな」
ワイングラスを傾けながらレオンの食べっぷりを見ていたガートルードは残念そうな顔で言う。
踊っているときも、食べているときも。ずーっと変わらないレオンの表情は、そんなガートルードの言葉を聞くとさらにむうっと険しくなる。
「ガーティーがキスしてくれたら、笑ってもいい」
どうだ、できないだろ、へっへーんだ。そんな気持ちを込めて言ってやる。
「えっ?!……ここでか?」
思った通り、困惑するガートルード。
はいはい、どうせできないでしょーよ。レオンはさらにローストビーフを頬張ろうとする。
が。
「……仕方ないな」
困ったように微笑んだガートルードに、レオンは食べる手が止まる。
「人目の多いところじゃさすがに恥ずかしいからな」
ガートルードは囁くように言い、ワイングラスをテーブルに置くとレオンの腕を引く。
「まさかお前……本気か?」
レオンの問いには答えずに、微笑んだまま彼をホールの隅、カーテンの陰の暗がりへ連れていく。
ワインのせいか上気した頬と潤んだ目のガートルードは、レオンの真正面に向きなおると、彼の頬をそっと両手で挟み、優しく下を向かせる。
そして、すうっと唇を寄せるとレオンの額に、押し当てた。
ふわりと、ワインの香り。やけに素直にキスに応じると思ったら、そういうことか。
レオンから唇を離し、これでどうだと言わんばかりに笑うガートルード。
「仕方ねえな」
レオンは開き直り、にこーっと美しい笑顔をガートルードに向けた。
「ほら、やっぱり美人だ!」
ますます瞳を輝かせるガートルードに、
(ったく、人の気も知らないで)
と、密かに嘆息するレオンであった。
カガヤは必要以上に笹の手をぎゅっと握り締めて踊る。
今の彼の心の拠り所は笹のみである。
(笹ちゃんが居る事が今どれだけ心強いか……!)
いつもは小さな笹が、今は大きく見える。
しかし、まず、そんな心細いことになる原因の女装というものを仕向けたのは笹なのだが……そこには気づいていないようだ。
(笹ちゃんや周りの人にぶつからないように踊らなきゃ……!)
慣れない服装で緊張して踊るカガヤを、笹が優しくリードしてあげている。
(恋人のマーマレード嬢を助けるためとはいえ、こんな格好に挑むなんて……青年すごいよ、青年……!)
カガヤは100年前の勇気ある青年に想いを馳せた。
もしも自分なら、同じことができただろうか。
カガヤは目の前の笹をじっと見つめる。
(笹ちゃんは可愛いから、誰かに連れていかれちゃったりしても不思議はないよな)
果たしてその時、自分は……?
カガヤの視線に気づいたのか、「どうしたんですか?」と言うように笹が微笑む。
この笑顔が、自分の目の前から消えてしまうのだとしたら。
答えはもう出てる。
笹を取り返すためならば、自分は、きっと……。
カガヤが決意を新たにしているところへ、笹がふふっと笑う。
「今日のカガヤは可愛いですわね。今日みたいなパーティじゃなくとも、いつでもこんな格好をしてもいいんですのよ?」
「い……いやだ!」
先ほどの決意はどこへやら、即答するカガヤ。
有事に形振り構わぬ覚悟はあれど、危機でもなんでもないときに女装なんて、やっぱり御免なのであった。
こうしてパーティの夜は更ける。
皆それぞれに、楽しんでいた……ということにしておこう。
依頼結果:大成功
MVP:
名前:手屋 笹 呼び名:笹ちゃん |
名前:カガヤ・アクショア 呼び名:カガヤ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 木口アキノ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | コメディ |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 03月22日 |
出発日 | 03月28日 00:00 |
予定納品日 | 04月07日 |
参加者
- 手屋 笹(カガヤ・アクショア)
- ガートルード・フレイム(レオン・フラガラッハ)
- リオ・クライン(アモン・イシュタール)
- 吉坂心優音(五十嵐晃太)
- アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
会議室
-
2015/03/27-23:55
-
2015/03/27-23:34
-
2015/03/27-21:37
-
2015/03/27-21:36
まあ…ガートルードさんの優しさが素敵ですね!
レオンさんも凄く嬉しそうですし、きっといいパーティになりますよ。
笹さんは、いざというときのために、なにの備えにロープの用意があると、きっと何かがスムーズにいくんじゃないかなって、私、思いました(にこ)
本当に楽しみですね。
勇ましいお姿も拝見した方々がどんな哀れな、じゃなかった、美しい姿になられるのか、すでに楽しみで仕方ありません。
ラルク(「お互いのために、向こうで見ても見なかったふりをする」というダイイングメッセージ) -
2015/03/27-16:48
手屋 笹です。
ガートルードさん、心優音さんはお久しぶりですね。
女装の事を知らせずにカガヤを連れてきたのですが…
さて大人しく女装してくれるのでしょうか。
他の精霊さん達の勇姿(?)も楽しみにしています。 -
2015/03/26-22:21
皆さんどうも、リオ・クラインだ。
ちょっと興味があったから応募してみたが・・・。
男装や女装は前に経験があるが・・・今回はプロの方がやってくれるそうだな。
-
2015/03/25-23:23
リオさんとアモンさんは全体イベント以外では初めましてかな。
他の皆さんは今度もどうぞよろしくな。
…被害者?犠牲者?
いや、アイリスさん、私はそんなつもりはこれっぽっちもないぞ。
ただ、パートナーにとてもよく似合う衣装を一度で良いから着てみてほしい、という、
彼を大切にする想いからの参加だ(握り拳ぎゅ)
レオン:
「ちょっと待てー!! 離せ、止めろッ!!
俺は女装なんか嫌だー!!(絶叫)」
…何故だ、レオン。
何故、お前にドレスが似合うという現実から逃げようとするんだ…
(真剣に説得中) -
2015/03/25-17:43
-
2015/03/25-17:42
心優音:
初めましての方は初めまして!
お久し振りの方はお久し振りです!
ふふっ晃ちゃんの女装姿が又見れるなんて…!
あの時の晃ちゃん可愛かったから虎視眈々ともう一度女装させようと狙ってたら…っ!
あたしも男装とかしてみたかったし!
皆で楽しみましょうねぇ!(満面の笑み
晃太:
……何故又こないな任務に俺はおるんやろうか(遠い目)
女装とか女体化なんぞ懲り懲りなんやけど…
(……でもまぁみゆが楽しいなら、腹ァ括ってやるしかあらへんよなぁ(苦笑)
惚れた弱みか、コレが……(溜息))
心優音:
と言う事で改めまして… -
2015/03/25-08:54
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2015/03/25-08:53
「私が一番、ラルクさんを酷く扱えるんです」が今月の標語。
アイリス・ケリーと申します。
リオさんとアモンさんは初めまして。他の皆さんはお久しぶりです。
被害者?犠牲者?の皆さんの勇姿、この目に し っ か り 焼き付けさせていただきますね(にこ)