プロローグ
彷徨えるバザー「バザー・イドラ」。
それは夜な夜な現れる不思議なバザー。
飲食店やサーカスなど大小無数の様々なテントが立ち並び、訪れる人々を不思議な世界へと連れて行ってくれる。
そのテントの一つにこの店『月の雫』はあった。
店の中に並べられた商品はどれも不思議な物ばかり。
表紙に何も書かれていない古書や、取っ手のとれた花瓶。
怪しい雰囲気をまとったアクセサリーに、どう使っていいのかさっぱりわからない謎の道具の数々……。
色々な物が雑多な様子で机に置かれていた。
「おや、いらっしゃい」
客人を出迎えたのは、背が曲がった痩せた白髪頭の老婆だった。
落ち窪んだ眼窩の奥では、黒い瞳が小さく丸く光っている。
立ち上がった拍子に肩からずり落ちたカーディガンは、使い古されてすっかり色褪せてしまっていた。
「外の世界からの客人なんて何年ぶりだろうねぇ……」
老婆は嬉しそうに訪れた客人を順番に見つめると、その中の一人が手にしていたランプに目を止めた。
「そうかい。あんた達がウィンクルムだね。話は聞いているよ」
手にしていたランプはショコランド王家に伝わる『幸運のランプ』。
これを持っていれば、高確率で彷徨えるバザーに出会うことができる。
そしてそのバザーで幸せを見つけ、幸運のランプに幸せの火を灯し持ち帰らねばならなかった。
「ここで幸せが見つけられるかはわからないけれども、折角来たんだ。ゆっくりして行っておくれ」
ゆっくりして行ってと言われても、と一同は目配せをする。
置かれた商品はどれもこれも扱いの分からない物ばかり。
「あぁ、すまないねぇ。ここに来る人は皆同じ顔ばかりだったもんだから。新しいお客さんにはちゃんと説明しないとねぇ」
そう言って老婆はいくつかの品をウィンクルム達の前に持ってきた。
「どの子達も皆恥ずかしがりやだから、ここでしかちゃんと動いてくれないんだけれどもね。たまに気が合う人が見つかると別の場所でも力を発揮しちゃうことがあるんだねぇ」
老婆は皺だらけの手で愛しそうに品々を撫でる。
まるで生きているとでも言うように。
「それじゃあ、説明しようかねぇ」
解説
■魔法の道具
老婆が出した品々はどれも魔法の道具でした。
その中から1つだけ貴方は商品を買うことにしました。
魔法の道具は以下の4種類。どれも500Jrになります。
・魔法の万年筆
・魔法の鳥かご
・魔法のルーペ
・魔法の小箱
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「魔法の万年筆」
…空中に光る文字が書ける万年筆です。
この万年筆で生き物などを描くと、息が吹き込まれた様に動き出します。
(絵心ないとホラーになるよ!)
「魔法の鳥かご」
…手にした瞬間、鳥かごの中に光る鳥が現れ綺麗な声で囀ります。
かごを開けると、鳥が出てきて肩に乗ったりします。
「魔法のルーペ」
…ルーペをあてた人の頭の中を覗き見る事が出来ます。
その時考えていることが、映像として覗けます。
(例:神人の頭を撫でたいなと精霊が考えていた場合、神人の頭を撫でる精霊の映像が浮かび上がります)
物などにあてると、その物の過去の記憶を見ることができます。
「魔法の小箱」
…とても不思議な小箱です。
小箱の真ん中に口がついていて、手にした瞬間おしゃべりを始めます。
この小箱。とてもナンパな性格をしており、女性と見るや口説きはじめますので注意が必要です。
小箱「よぉ~ねーちゃん!俺とおしゃべりしない?」
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どの道具を選び、どういう行動をとったのか、プランに記載ください。
道具名称は省略で大丈夫です。(例:筆、鳥、覗、箱)
また、老婆が話したとおり、ここで購入したものは元の世界では力を発揮することが出来ません。
一時だけのお楽しみとなってしまいますが、どうか大事にしてあげてください。
また、お店の中の商品はどれも壊れやすい物が置いてあります。
うっかり壊してしまった場合は、そちらもお買い上げ対象となってしまいますので、ご注意くださいね。
ゲームマスターより
こんにちは。まめです。
ホワイトデーイベントが開催されましたね。
皆さんに楽しんでもらえるよう、微力ながら頑張ります。
さてさて今回のエピソード、僅かにではありますが、
過去に公開された「不思議な鏡ともう一人の自分」とお話が繋がっております。
魔法の道具シリーズ、とでもいいましょうか。
(ずっと出すタイミングをうかがっていたとかいないとか…ごにょごにょ)
今回のお話次第で、継続も考えてみたいなぁと思います。
参加者さんが来てくれますよーに!(祈りのポーズ)
リザルトノベル
◆アクション・プラン
篠宮潤(ヒュリアス)
筆 未知のモノ好き、活き活きと老婆の話に耳傾け 「これ、が気になる、かなっ」 「えっ。も、文字、書くつもり…だったん、だけど…う、確か、に」 言われればぎこちなく宙に描いてみる 絵心ナシ⇒鳥、のつもり⇒まるで蝙蝠 「こ、個性…だよ」 苦し紛れに言った言葉だったのに…と首傾げ ちらちら、と相手の狼耳盗み見参考に 「狼…の、つも、り…」ごにょ 「え、わ!?……あ、ホント、だ!」 戸惑うも、出来上がった絵が動く様子に感動 下手なりに夢中に描いて 最後は上手く描けた鳥を嬉しそうに眺めた 後日 自室で一人宙に狼描いてみたり(心の目で) 当然描けない様に老婆の言葉「どの子も恥ずかしがりや」思い出し どこか自分と重なりそっと筆撫でていたとか |
リヴィエラ(ロジェ)
リヴィエラ: ※神人、精霊共にアドリブOK 最近ロジェが悩んでいるように見えるの…魔法の道具には依然お世話になった事がありました。 あの時は確か、魔法の鏡でしたね。 だからお願い魔法のルーペ、私に力を貸して…! (魔法のルーペをロジェに当てる) は、はい、見ました…でも、どうして? どうしてそんな事を仰るの…? (泣きながら首を振ってロジェに詰め寄る) 私はロジェの全てを受け止めます。貴方にならなにをされたって良いの! 貴方にならなにをされたって、私は幸せなんです! 私達は恋人同士ではないのですか!? お願い、待って! ロジェ…ロジェ様!(雑踏の中へ追いかけていく) (泣き崩れて)行かないで…貴方を愛してるの…っ |
エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
心情 バザーの雰囲気がステキですね。この妖しさ、落ち着きます。 行動 楽しそうな道具ですね。幸せが見つかりそうです! 動物好きなラダさんにまず鳥を薦めてみます。ラダさんは万年筆に興味があるようですね。筆を購入。 五種類の動物を描き終えたラダさんに、ブチハイエナ描いてくださいとリクエスト。なんといっても、私が一番好きな野生動物ですから。 人気なんてものは無数にある価値尺度の一つでしかなく、絶対的な真理ではありません。参考にする程度ならともかく、他者が軽薄にこぼした言葉で自分を左右されるのは危険ですよ。哲学者気取りで話しかける。 ラダさんから万年筆を受け取り、私も動物の絵を描きます。下手でも堂々と楽しみながら。 |
豊村 刹那(逆月)
鳥 わ、光ってる……。(魅入る 綺麗な声だな。 邪魔にならないように、端に行こうか。 見た目も綺麗だな。開けて良いか? 此処でしか使えないなら、触るのも此処でしか試せないだろ。 案外懐っこい。 ああ、こら。逆月の髪を啄ばんじゃ駄目だって。 逆月がいいなら、構わないけど……。 本当に綺麗だよな……。 (鳥もだけど、逆月も) な、何を……!(羞恥に耐え切れず、つい小声で叫ぶ (何の衒いも無く言いやがって……!何でこう、今まで誰にも言われない事ばっかりこいつは言うんだ!) 私、か? (逆月の精神の安定を優先してたから、考えて無かったな) 嫌だと思った事は無いけど。 (自分の事も考えないと、逆月が気にするのか。今度から気をつけよう) |
ゼロ(エドガー)
どれも素敵ですねっ あ、一番素敵なのはエドガーさんですから安心してくださいね! ああっ、つれない所も素敵… エドガーさん、どれがいいですか? え、私がですか…? えっと、魔法の鳥かごとか、いかがでしょうか よかった…!(ほっとして お婆さん、この子ください! わあ、綺麗な声…いつまでも聞いていたいです あ、でも一番は…、まだ全部言ってないのに そういえばかごを開けてもいいんでしたっけ 肩に乗るなんて可愛いですよね でも、いいんでしょうか? だって籠の中で育った鳥は結局籠の中でしか生きられないとか聞きますもの 私達の都合でそういう事してしまってもいいのかなって… わ、肩にきてくれた…! いやあ、それほどでも…(てれてれ |
●全ては君の自由
「わぁ~どれも素敵ですねっ!」
目の前に並べられた道具を手に、ゼロは青磁色の瞳をキラキラを輝かせる。
柔らかそうな亜麻色の髪が揺れ花のような甘い香りがふわりと漂う。
「なかなか興味深い」
エドガーと呼ばれた少年(とはいっても既に成人している)は、並べられた道具を見つめながら呟いた。
右目にかけられたモノクルからは、紫水晶のような瞳が静かに輝く。
「あ、でも一番素敵なのはエドガーさんですから安心してくださいね!」
「はいはい」
「ああっ、つれない所も素敵……」
冷たいエドガーの反応に全く怯むことのないゼロ。
エドガーはゼロの熱視線を軽くかわすと、道具の一つを手に取った。
それは何気なく手に取った魔法の鳥かごだった。
「エドガーさんは、どれがいいですか?」
「君の好きなの選んでいいよ」
「え、私が、ですか……?」
ゼロは戸惑った様子で視線を泳がした。
視線を彷徨わせていると、エドガーが手に持った魔法の鳥かごが目に入る。
「えっと、その魔法の鳥かごとか、いかがでしょうか……?」
顔色を伺うようにおずおずと尋ねるゼロ。
「僕もそれがいいと思う」
「よかった……!お婆さん、この子ください!」
ぱあっと笑顔を見せたゼロは、老婆の元へと鳥かごを持って行く。
「言動はぐいぐい迫ってきてるけどやっぱり壁があるよね……」
ゼロの去った後で、残されたエドガーはぽつりと呟いた。
脳裏には先程のゼロの戸惑った顔。
「まあ暇だししばらくは相手するよ、パートナーでもあるし」
前のようにあてもなく世界を巡るのも楽しいだろうが、今は隣にゼロがいる。
まだしばらくは慣れないこの状況を楽しむのも悪くない。
「エドガーさん!見てください!」
鳥かごを手に戻ってきたゼロは、大興奮の状態だった。
かごの真ん中には、光り輝く美しい鳥の姿があった。
エドガーは眩しそうに目を細めた。
「早く置いてあげて」
ゼロは興奮しすぎて今にも鳥かごを振り回しそうだった。
「あ、そうですね。よいしょ……」
ようやく安定し落ち着いたのか、鳥はかごの中の止まり木に止まって身を休める。
そしてすぐに透明感溢れる美しい声で囀り始めた。
「わあ、綺麗な声!いつまでも聞いていたいです」
美しい声にうっとりとするゼロ。
「あ、でも一番は」
「わかったわかった」
”一番はエドガーさん”と言いかけたゼロの言葉を、冷静な言葉が遮る。
「まだ全部言ってないのに」
「いや、ワンパターンだから大体わかるよ」
ゼロは肩を落とした様子を見せるも、またすぐ鳥に夢中になり、晴れやかな笑顔を浮かべる。
「あ。そういえばかごを開けてもいいんでしたっけ」
老婆から聞いた説明を思い出し、ゼロはかごに手をかけた。
けれどその手は扉を開く直前でぴたりと止まってしまう。
「本当に……いいんでしょうか?」
ゼロは感情の読み取りにくい複雑な表情を浮かべていた。
「いいのかって何が?」
「だって!かごの中で育った鳥は結局かごの中でしか生きられないとか聞きますもの。私達の都合でそういう事してしまってもいいのかなって」
そう言うゼロの指先は僅かに震えていた。
エドガーは真剣なゼロの発言から、彼女がその鳥を何かに重ねているのだろうと気づく。
「別にいいんじゃない、開けても」
「……でも!」
ゼロの震える手を机に伏せ、エドガーは鳥かごの扉に手をかけた。
「その後どうするかは鳥の自由だよ。かごにとどまり続けるかも外に出てみるかも全部ね……ほら」
エドガーが鳥かごをあけると、光る鳥は迷いもなくゼロの肩へと飛んで行く。
「わ、肩にきてくれた…!」
まるでゼロの頬に頬ずりするように寄り添う鳥。
「……この状況で心配なんてしなくても、大丈夫だと思うけどね。全く君も結構想像力豊かだよね」
「いやあ、それほどでも……!って、もしかしてエドガーさん!私のこと褒めてくれちゃったりしてます……?」
ゼロの真ん丸に丸まった目を見て、エドガーはくすりと小さな笑いを溢す。
「褒めては……いるかな」
●君に問うは……
老婆から受け取った鳥かごを手に、豊村刹那は静かに息を溢した。
「わ、本当に光ってる……」
魔法の鳥かごの中に現れた光る鳥にすっかり魅入られているようだった。
刹那の落ち着いた雰囲気に溶け込み、光る鳥も自然な振る舞いを見せる。
囀る声は子守唄のように体を優しく包み込み、まるで広い草原に寝っ転がっているような、そんな気持ちにさせられる。
「綺麗な声だな」
「しかし、ここで楽しむには少々、手狭だな」
隣に並び立った逆月は、辺りをゆるりと見回し呟いた。
「邪魔にならないように端に行こうか」
刹那は店の端にあった丁度いい高さの台に鳥かごを置くと、自身もそれと同じ目線になるようしゃがみ込む。
人差し指を差し出すと、光る鳥はじゃれるようにその指を軽く啄んだ。
その可愛らしい仕草に、刹那の顔も自然と綻ぶ。
(楽しげに鳥を眺める刹那は、やはり俺より若く見える)
逆月は鳥とじゃれる刹那を少し離れた位置から見つめていた。
刹那の楽しげな表情を見ていると、何故だか胸が暖かい気持ちになる。
「見た目も綺麗だな。開けて良いか?」
思案していた逆月に、刹那の明るい声が届く。
「開けるのか」
「此処でしか使えないなら、触るのも此処でしか試せないだろ」
(確かにそうか)
納得したように口を噤む逆月を見て、刹那は鳥かごの扉を開いた。
待っていたとばかりに鳥が飛び出し、刹那の肩に着地する。
「案外懐っこいんだな」
動く鳥の足が肩に食い込んでくすぐったい。
刹那がクスクスと笑いを溢すと、鳥はその肩を飛び立ち……。
「む」
逆月の頭に着陸。
突然頭に乗られたにも関わらず、逆月は気にもしない様子。
抵抗されないことにご機嫌になった鳥は、逆月の髪をツンツンと啄ばみ始める。
「ああ、こら。逆月の髪を啄ばんじゃ駄目だって」
慌てて刹那が止めに入ろうとするが、逆月がそれを片手を上げて制す。
「好きにさせておけ」
ただ戯れているだけだと分かっていた逆月は鳥の成すがままとなる。
頭の上がすっかり気に入った鳥は、髪を啄むだけでなく、体を埋めそのままじっと座り込んでしまった。
「逆月がいいなら、構わないけど……」
改めて逆月を見ると、光る鳥の羽が逆月の白い髪をキラキラと輝かせていることに気付く。
舞った羽が逆月の周りで淡い光を放ち……。
「本当に綺麗だよな……」
(鳥もだけど、逆月も……)
刹那はその光景に目を細めながら呟いた。
「俺は、刹那も綺麗だと思う」
逆月は刹那の瞳をまっすぐ捕え、はっきりとそう告げた。
「な、何を……!」
突然すぎる逆月の言葉に、羞恥に耐え切れなくなった刹那は小さな声で叫んだ。
(何の衒いも無く言いやがって……!)
本当に、全くの無表情で、なんてさらりとすごい事を言うのか。
(何でこう、今まで誰にも言われない事ばっかりこいつは言うんだ!)
慌てる刹那を前に逆月は胸中で静かに言葉を紡いでいた。
(刹那は綺麗だ……。俺のような者にも気遣う心根が、好ましい。あの時村を守れなかった自分は無価値だというのに)
過去の記憶が逆月の胸に鈍い痛みを与える。
(あれからと言うもの刹那は……)
「刹那は、俺ばかり優先している。自らの事は良いのか」
「私、か?」
突然の問いに刹那は一瞬困惑の表情を浮かべた。
(逆月の精神の安定を優先してたから、考えて無かったな)
契約したばかりの逆月は、自失状態で本当に不安定だった。
けれどそのことを嫌だと思った事は一度たりともなかった。
「嫌だと思った事は無いけど」
「……そうか」
突然の逆月からの問い。
(自分の事も考えないと逆月が気にするのか。今度から気をつけよう)
刹那は逆月の質問の意図を考え、そう思うのだった。
逆月の差し出した指に、頭で休んでいた鳥が舞い降りる。
(この場でしか見えぬ鳥か。……刹那も、そう為らぬようにせねばな)
鳥と楽しそうに戯れる刹那。
顔を僅かに赤らめたまま、目を瞬かせる刹那。
逆月の目には、その姿は見目よりもずっと幼く映っていた。
●それぞれの真価
夜の帳が下り、ぼんやりと浮かび上がるバザーイドラの大小様々なお店の灯火。
夢か現かはっきりとしないどこかぼんやりとしたこの雰囲気に、エリー・アッシェンは言い知れぬ安堵感を感じていた。
それと同時に、何が起きるか分からない魔法の道具に期待で胸を膨らませていた。
「楽しそうな道具ですね。幸せが見つかりそうです!」
「ウヒャァ……!魔法の道具だなんてすごいねぇ!」
魔法の万年筆に鳥かご。そしてルーペに小箱。
(ラダさんは動物好きですから……)
エリーは四つの道具から鳥かごを選んで持ち上げた。
「ラダさん、鳥はいかがですか?」
「う~ん……、確かに鳥も気になるけど、ボクは万年筆を使ってみたいな」
「そうですか。では、万年筆にしましょう」
ラダの興味が万年筆にあるとわかると、エリーはすぐに老婆から万年筆を購入した。
「ここだと他の人の邪魔になっちゃいそうだねぇ。ちょっと移動しよぉ」
二人は購入した筆を手に、店から少し離れた空き地へと移動した。
「ボクの故郷はさぁ、乾季と雨季がとてもはっきりしている土地だったんだよぉ」
万年筆を手にしたラダは、空中に長く横一文字の線を書く。
筆が通った所には光が集まり、目ではっきりと見ることができる。
「だから雨がいっぱいふるお陰ですっごい背の高い草が広がる草原地帯があったり、逆に砂漠みたいな地帯があるんだよねぇ」
ラダの言葉を聞きながら、エリーは瞳を閉じる。
閉じた瞳の先に、ラダの故郷の壮大な景色が広がる。
「草がいっぱいある所には色んな動物達がいたなぁ」
ラダは故郷の思い出をエリーに語りながら、空中に色んな動物達を描き始めた。
「ゾウ、サイ、ヒョウ、バッファロー」
生きた動物達を近くで見てきたラダの描く動物達は、どれも動物学風のリアルなスケッチだった。
ラダに描かれた動物達は、魔法の力によって息を吹き込まれ、周囲を自由気ままに動き回る。
「……あとは、ライオン。この辺りが人気の野生動物だねぇ」
そう言って描かれた百獣の王は、他の動物よりも迫力的に描かれていた。
王は一度遠吠えをするように体を震わせると、逞しくもしなやかな動きで一直線に駆けて行く。
その王を見つめながら、エリーはぽつりと呟いた。
「足りません」
「え?エリー何か言ったぁ?」
「……ブチハイエナも描いてください。なんといっても、私が一番好きな野生動物ですから」
エリーのリクエストに一瞬眉をひそめるラダだったが「わかったよぉ~」と言いながら、小さくブチハイエナを描き足した。
控えめに描かれたブチハイエナは、ラダのコンプレックスのあらわれだった。
ブチハイエナはその場にしゃがみ込むと、鼻を鳴らすように夜空を見上げた。
「いいですかラダさん?」
エリーはラダのすぐ隣へ歩み寄ると、銀色の瞳でじっとラダを見つめた。
「人気なんてものは無数にある価値尺度の一つでしかなく、絶対的な真理ではありません。参考にする程度ならともかく、他者が軽薄にこぼした言葉で自分を左右されるのは危険ですよ」
まるで哲学者が書き記した文章かのような話しぶりで、自身の考えを主張する。
ラダの考えを否定する。
人気や価値についてのエリーの説に、ラダは素直に頷くことはできなかった。
(ボクの考えとは違うから今は素直に頷くことはできないけど……エリーがボクのコンプレックスを汲み取ってくれたのはわかるよぉ)
エリーの気遣いに感謝しながら、お礼とばかりにラダは万年筆を走らせた。
ラダの描いた蝶はすぐに羽ばたき、エリーの周りをキラキラと舞った。
「ラダさん、私にも万年筆を貸してください」
万年筆を受け取ったエリーは、空中に様々な動物達の絵を描き始めた。
その絵は決して上手とは言えなかったが、描かれた動物達はどれもいきいきと動き出す。
エリーの堂々と楽しむ姿に呼応するように。
●心のかけらを探して……
「あの、それじゃ、これは……?」
「それかい?それはね、魔法の万年筆だよ。その筆で描かれた絵は、どれも息を吹き込まれたように動き出すのさ」
「すごい、なぁ……!」
いきいきとした様子で話を聞く篠宮潤に、老婆はくすりと微笑みをこぼした。
「そんなに夢中になって話を聞いてくれるなんて嬉しいねぇ。お嬢ちゃんは随分、魔法の道具が気になるみたいだねぇ」
「う、うん。見たことないモノ……とか、知らないモノ……とか、そういうお話、聞くの、好きだから……」
照れながら告げる潤の姿に老婆は優しく微笑んだ。
その光景を見て微笑むのは、店の入り口で潤の様子を見守っていたヒュリアスも同じだった。
「さて、お嬢ちゃんはどの子が一番気になったんだい?」
「えっと……。これ、が気になる、かなっ」
そう言って潤が指差したのは魔法の万年筆だった。
少し広い場所へと移動してきた潤は、早速購入した万年筆を片手に宙に向かう。
しかし書き出しに戸惑った潤は、中々その手を動かせない。
見かねたヒュリアスが後ろから声をかける。
「何か絵でも描かんのか?その方が道具も喜ぶのではないかね」
「えっ。も、文字、書くつもり…だったん、だけど…う、確か、に」
確かに先程老婆に聞いた話では、この万年筆は描いた絵に息を吹き込むという魔法の道具だった。
であればヒュリアスの言うように、絵を描くことがこの筆の本望かも知れない。
「そ、それ、じゃあ……」
背中を押され、潤はぎこちなく筆を走らせる。
「……ウルよ、これは何かね……」
ヒュリアスの呟きが虚しく宙に響く。
遅れてヒュリアスの下から「鳥」と小さな声が聞こえた。
潤は万年筆で鳥を描いたつもりだったのだが、ガタガタとした線がまるで蝙蝠のよう。
ヒュリアスの狼の耳が、二度見ならぬ二度ぴこぴこ動く。
しかしその困惑、ヒュリアスだけにあらず。
描かれた方も、鳥のように羽ばたく様子を見せたかと思えば、近くの木に逆さまにぶら下がったりと自身が何者か計り兼ねてしまっているようだった。
その光景にショックを受けた潤。
「こ、個性…だよ」
上手くヒュリアスに説明することが出来ず、更に小さな声でそう呟くのが精一杯だった。
「…個性、か」
その言葉にヒュリアスは一度目を見開き、潤を見つめた。
(ウルと共にいれば……取り戻せるだろうか、ね……)
苦し紛れに発した言葉だったはずなのにと、潤は不思議そうにヒュリアスを見上げた。
潤の視線に気づいたヒュリアスは、何でもないと首を振る。
「もっと、他にも描いてみたまえ」
「う、うん……」
潤によって宙に増える不思議な動物たちを、ヒュリアスはどこか暖かい目で見守っていた。
次に何を描こうと悩んだ潤の視界の端に、ヒュリアスの横顔が映る。
筆を持つ潤の手がゆっくりと動き始める。
視線はチラチラとヒュリアスの狼耳へ。
ヒュリアスはその視線に気づくも、ただ黙って見つめていた。
絵が出来上がると、潤はふぅと小さく息をついた。
出来上がった絵を見て、ヒュリアスの狼耳が再度ぴこぴこと動く。
「……人を参考にしていたはずではないのかね」
出来上がったらしい絵はどう見ても子犬。
「狼…の、つも、り…」
潤の返答にヒュリアスはふっと小さく笑った。
「耳と尾をもう少し大きく描いてみろ」
筆持つ潤の手ごとをがっしりと掴み、子犬の耳と尾を描き足してゆく。
「え、わ!?……あ、ホント、だ!狼に、見える……!」
潤は突然手を掴まれて戸惑うも、出来上がった狼が動き回る様子に感動していた。
その後も潤は夢中に絵を描き続けた。
最後に描き上げた鳥は思いのほか上手く描けて。
潤は嬉しそうに鳥を眺めた。
ヒュリアスは自身に欠けた何かを探すように、目を細めて自由に飛び回る鳥を見つめる。
その表情は次第に満ち足りた顔になっていった。
後日……。
潤は自室で一人、魔法の万年筆で宙に狼を描いてみたりと楽しんでいた。
決してあの時と同じように、光る線や動き出す動物は描けないのだが、潤の心の目にその姿はしっかりと浮かび上がっていた。
老婆の「どの子も恥ずかしがりや」という言葉を思い出し、どこか自分と重なるその筆をそっと撫でたのだった。
●閉ざされた心に触れたい……
老婆から差し出された魔法の道具を見て、リヴィエラは優しく目を細めた。
(魔法の道具には以前、お世話になった事がありましたね)
リヴィエラが魔法の道具に触れるのは今回が初めてでは無かった。
ダブロスにあった古道具屋『ムーンドロップ』。
そこで出会った魔法の鏡。その鏡は映した者の分身を作り出してしまう魔法の道具だった。
ハプニングはあったものの、あの鏡に出会えたことでロジェとの絆も深まった。
今回は四つのうちの一つを選ばなければならない。
(私には、最近ロジェが悩んでいるように見えるの……)
リヴィエラは、ロジェが見えない何かと葛藤していることに気付いていた。
けれど奥深く隠されたロジェの心の内が、彼の抱える苦悩が何なのかがわからない。
(ロジェが何に悩んでいるのか知りたい……!だからお願い魔法のルーペ、私に力を貸して!)
手に取った魔法のルーペをロジェの後ろ姿に当てる。
透明なルーペにぼんやりと何かが浮かび、段々と形作っていく。
そこにはどこかの部屋だった。
部屋の真ん中にぽつんと置かれた椅子に腰かけるリヴィエラ。
表情は俯いているせいではっきりと分からないが、細い手には手錠ががっちりと付けられていた。
そこから伸びた鎖を追うと足首にも同じような物が鈍く光っている。
ルーペの端でリヴィエラの髪が一房、宙に浮かぶ。
その髪に愛おしそうに口付けながら、背後に忍び寄るロジェの姿が映る。
動かないリヴィエラを後ろから抱きしめ、その首筋に唇をよせて……。
ルーペが映し出したものは、ロジェの醜い独占欲そのものだった。
愛しい恋人のもう一つの顔に、リヴィエラの手は自然に震えだしてしまう。
その気配を感じとってか目の前のロジェが振り向いた。
いつもの優しい目をしていたロジェの顔が、リヴィエラの手にしたルーペを目にした途端、豹変する。
「……っ、見たのか?俺の欲望を……っ!」
鋭い目に射抜かれリヴィエラの瞳に涙が滲む。
「もう一緒にはいられない。リヴィー……リヴィエラ。俺と別れよう。」
「どうして?どうしてそんな事を仰るの……?」
泣きながら首を振ってロジェに詰め寄るリヴィエラ。
「……どうして、だと?わからないのか!?」
ロジェの怒りが激しい波のようにリヴィエラに押し寄せる。
「私はロジェの全てを受け止めます。貴方になら何をされたって良いの!何をされたって、私は幸せなんです!」
その波に必死に抗いながら、リヴィエラは自身の心をロジェにぶつける。
「俺になら何をされても良いだと……?フッ、クク、ハハハ……ッ!!」
その言葉にぴくりと反応して、ロジェが狂ったように笑いだす。
唐突に笑いだしたロジェにリヴィエラは戸惑いの心を隠せない。
迷うように差し出した手は、ロジェに強引に掴まれ引き寄せられる。
無理やり顔を押し上げられたリヴィエラの唇に、ロジェの唇が激しく重ねられる。
リヴィエラの身体に触れようとした所で、わずかに残ったロジェの理性がリヴィエラを解放した。
「わかっただろう?これ以上の事を俺は望んでいるんだ」
すっかり力が抜けてしまったリヴィエラはその場に座り込んでしまった。
「恋人ごっこは楽しかったか?お嬢様」
「ロジェ……!」
踵を返して去ろうとするロジェを止めようと、リヴィエラは震える足で立ち上がる。
心は今すぐにも追いかけたいと思っているのに、肝心の足が言うこと聞いてくれない。
「私達は恋人同士ではないのですか!?お願い、待って!ロジェ……!ロジェ様!」
「うるさい!このままじゃ、お前を壊してしまうからだよ!」
泣き叫ぶリヴィエラの声を背に、激昂したロジェは叫ぶ。
リヴィエラはただ、雑踏の中へと消えていくロジェを見送ることしか出来なかった。
「お願い。行かないで……。貴方を愛してるのっ!」
泣き崩れるリヴィエラの肩に、老婆はそっとカーディガンをかける。
頭を撫で、優しく「大丈夫」と囁きながら。
依頼結果:成功
MVP:
名前:篠宮潤 呼び名:ウル |
名前:ヒュリアス 呼び名:ヒューリ |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | まめ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 02月25日 |
出発日 | 03月04日 00:00 |
予定納品日 | 03月14日 |
参加者
会議室
-
2015/03/01-23:29
ゼロといいます。
どうぞよろしくお願いします!
どれか一つ、となると迷ってしまいますね。 -
2015/02/28-19:13
うふふぅ……、エリー・アッシェンです。どうぞよろしくお願いしますね。
どの商品も魅力的ですが、動物好きのラダさんは、ある道具を使ってみたいようです。 -
2015/02/28-14:29
えと、初めまして、な方、も、
お久し、ぶり、な方も、コンニチハ、だ。
篠宮潤(しのみや うる)と、パートナー、の、ヒュリアス、だよ。どうぞ、よろしく、ねっ
す、すごい、ね…っ、こんな道具、が、あるんだ…(好奇心いっぱいの瞳)
僕、は…少し、悩んでる、けど、……うん、コレ…にしよう、かな。
皆が、何を選んだのか、も、楽しみ、だ…っ -
2015/02/28-14:11
リヴィエラ:
リヴィエラといいます、宜しくお願い致します。
使ってみたい道具はもう決まっていて…ドキドキしています。 -
2015/02/28-11:31
豊村刹那だ。よろしく頼む。
魔法の道具か。
世の中には、変わったものがあるんだな。(しげしげと商品を眺める