支配された都市・回想―分かたれた2人―(沢樹一海 マスター) 【難易度:難しい】

プロローグ

 都市カロンがギルティとその部下のオーガ、デミオーガ達に襲われたのは、半年ほど前のこと。
 当初、A.R.O.A.本部は都市の異常に気付かなかった。
 カロンのA.R.O.A.支部に居たウィンクルム達がギルティに捕えられ、無力化されてしまっていたからだ。

 ギルティは、精霊が1人の時を狙って捕まえて身動きを取れなくした。それから神人を捕えて別々の場所に監禁したのだ。

 結果、支部は機能しなくなり、住人達は次々にオーガに食われ、生き残っていた人々は隠れ震え――カロンはギルティの掌の上に収まってしまった。
 監禁されていたウィンクルム達は、事態を知った本部が送ったウィンクルムによって救出された。

 これは、救出「される前」のウィンクルム達の物語である――

          ◆◆◆

          ◆◆◆

 カロン、A.R.O.A.支部2階――
 衣服以外の全ての所持品を奪われた神人達は、1人ずつ縛られ、部屋の隅に座らされている。室内に監視のデミオーガの姿は無い。
 何とか身を起こして窓の外を伺うと、支部の周りでデミ・トレントが枝をうねらせていた。デミ・リビングデッドの姿もある。
 扉の外は見えないが、廊下にもデミ達がうろついているのだろう。
 身動きが取れない中、神人達は考える。
 この都市で今、何が起きているのか。
 外は今、どうなっているのか。
 パートナーは今、どうしているのか。無事なのか、無事ではないのか。
 また――

 自分達を捕えたギルティの姿についても。
 捕まった時、確かに自分達はギルティの姿を見ている。
 直接攻撃してきたギルティを。
 もしくは、オーガに指示を出すギルティを。
 それは、一瞬のことだったかもしれない。
 けれど、確かに、一度は網膜を通して見ているのだ。
 “彼”はどんな様子だっただろうか。
 どんな姿をしていただろうか。
 気絶したショックで曖昧になってしまった記憶を呼び起こそうと、考える。

 やがて、このまま殺される気の無い神人達は、
 外に聞こえないようにこそこそと話し合いを始めた。

          ∞∞∞

 ――そして、精霊達も。
 地下牢に囚われているデュークは、牢の外をうろつくデミ・ゴブリン達を睨みつけながら思い出す。
 自分が捕えられた時のことを。
 だが――
 支部に入った時、中はがらんとしていた。
 皆はどこへ行ってしまったのか。
 まずは自分の働く部屋へ行ってみようと思った時に外から追いかけてきたデミ・ゴブリン達に殴られて気絶し、気が付いたら牢にいた彼はギルティの姿を見てすらもいなかった。
 敵の姿すらわからないというのが、どうしようもなく歯痒い。
「……おい」
 共に捕えられている精霊に、デュークは小声で話し掛ける。
 牢を脱出しようとしなければ、多少会話してもゴブリンは気に留めない。
「お前は、ギルティの姿を見なかったか?」

解説

★「支配された都市――新たな神人――」のほぼ同時期に発生していたエピソードです。

※他のらぶてぃめっとエピソードとは時期が異なり、過去の出来事となります。
※今回は、監禁時~救出され、バスに乗って脱出、本部に到着するまでを描写いたします。
※基本的に、神人と精霊は別行動になります。救出後は、2人でのやりとりも描写可能です。

★行動として可能なこと★

(メイン。相談不要)
神人と精霊は別々の場所で捕まっています。その時の、神人と精霊、それぞれの心情とかを書いてください。

(第2要素)
ギルティの姿、通称名を皆で決めます。
(リザルト上で捕まったメンバーで情報をまとめて、人物像を固めていきます)
ギルティ(男性)本人は出てきません。

状況的な情報としては、
・前回、ウィンクルム達を助ける際に、救出組は何度か爆竹を使っている。だが、ギルティが様子を見に姿を現すことがなかった。
ということが挙げられます。
(ギルティの戦闘能力に関する情報は今回は扱いません。戦闘に関係ない部分について考えてください)

容姿について一切相談せずにプランに書くと、ピカソの絵みたいなギルティになる可能性がありますので(それはそれで面白いですが)、そこそこの相談はした方がいいかもしれません。
(会議室での会話は、今回沢樹は参照しません。なので、必要な相談は遠慮なく行ってください)

★登場NPC
神人側→名もなきモブ神人NPC(物語の状況によって人数は前後します。0人の可能性も)

精霊側→デューク(正義感の強い青年。カロンA.R.O.A.支部職員。この時点ではウィンクルムではありません。ウィンクルム達に助けられた後、神人と契約します。

★治療費として一律500Jrが消費されます。


ゲームマスターより

第2要素の説明の方が長いですが、メインは神人と精霊が捕まっている時の心情です。

第2要素についてのプランは、箇条書きでも問題ありません。
皆様のピカソな……ではなく素敵なプラン&ギルティ像をお待ちしております!
(念のため:一応このエピソードはシリアスです)

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)

  誰かが酷い怪我をしてて、オーガがいて、
逃げろって言われて、昔こんな光景を、私、私は、

…すっごく腕痛いんですけどこの状況は一体…
買い物が終わって外に出たらグレンがいなくて、
また一人で何処か行ったのかと思って探しに…
その後所々霧がかかったみたいに思い出せないです、
何ででしょう?

首の懐中時計は覚えてます!
あとは歯車が沢山付いたブレスレット…でしょうか。

グレンも今どこかに閉じ込められてるんでしょうか…
いつもの乱暴な言葉でもいいから
声を聞いて安心したいです…

よかった、いつものグレンです。
着くまでの間、袖の端だけでもいいので
握ってていいですか?
明日またお買い物行きましょう。
今度は置いて行かないで下さいね。



ミオン・キャロル(アルヴィン・ブラッドロー)
  ■心情
もう最悪、最低…今年は厄年なの!?
最初の仕事はボッカとかいうギルティだったし、またギル
ティ…お家帰りたい
だいたい契約したのに何してるのよ…アイツ
早く助けに来なさいよねっ………無事、かしら
(強気で怖さを紛らわそうも段々弱気)

■救出後
精霊の姿をみかけ安堵
ぽんとされじわっと涙
「髪型崩れるから触らないでくれる!」ぱしっと手を払う

「な、泣いてなんかないわよっ!!」
狼狽え距離をとりつつ素直にだせない自分にバツが悪く、ふいっとそっぽ向き、ぼそぼそ
「…お互い無事で良かったわね」
「次からはちゃんと守りなさいよね!」意を決して相手の目をみてびしっと一言
「なんでそこで笑うわけ?」
むーっしつつとされるがまま



ミヤ・カルディナ(ユウキ・アヤト)
  【前置き】
「新たな神人」エピ参加者です
以下のどちらかで個人時系列矛盾を防ぎます
A:囚われた行動が不可なら、救出時とか車で皆様をお送りする時を行います
B:可能なら、人質の身になって想像した場合として行動します

【A】
助け出せた安堵と新たな仲間への喜び
それ以上に感じてたのは、恐怖
それと、不安

アヤトに「何故私達しかダメージをいれられないのでしょう」とぶつけるの
狙われるのはそのためなのだから…

【B】
恐怖を押し込め、気力を奮い起こす

私は弱い女じゃない
足手纏いじゃない
と、自己暗示

体力の消耗を避けましょう
チャンスはきっと来ます
と、励すわ

横になる事を提案
左手の顕現印を抱き抱えるようにして、アヤトの無事を祈ります



アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
  縄を外せないか試むも断念
こんなことなら縄抜けの仕方を父様に教えてもらうんでしたと溜息混じりに悔やむも、抜けたところで脱出は至難の業だと思い直す
となればいざという時の為に体力を温存するのが得策
そういえば、ラルクさんは無事でしょうか
組んだばかりで互いに情が無いとはいえ、無事かどうかもわからないというのは少しばかり不安
今、彼にいなくなられるのはとても困る
まだ神人として何も成してないのに
初めての任務が駄目になってやっていけるのかという不安から、手袋越しに手の紋様を見つめる

ギルティについて思い出そうと目を閉じて少し考え込み…ああ、そうでした
白いファーのついた、すごく豪奢な茶色のロングコートを着ていました



瀬谷 瑞希(フェルン・ミュラー)
  先日契約したばかりなのに、こんな目に遭うなんて酷い。
捕まっている間は大人しくして体力温存。
でも私達どうして殺されたりしてないのかしら。
ボスっぽいオーガは男性体。デミオーガを連れていたけど指示するだけたったから名前とか判らない。もしかして人手不足なの?
高スケールオーガをまだ配下にしていないのかもしれないわ。
私より身長は高く、ミュラーさんよりは低かった気がする。(167~185cmの間)
ミュラーさんは無事かな。
酷い目に遭っていないと良いけど。
私達が狙われた理由がウィンクルムだというのなら、私と契約しなきゃよかったとミュラーさんが思っていたらどうしよう。

助けて貰ったらミュラーさんの無事を心底喜ぶわ。



 昨年のこと。
 神人と精霊の距離が、今よりも離れていた頃。

 ■ 牢の中で彼女を思い、窓の外を見て彼を思う。

 ――悲鳴が聞こえる。
 ――酷く血を流し、倒れ呻く人達がいる。
 ――オーガが、すぐ近くに――
『逃げろ!』
 切迫した誰かの声がする。
(昔こんな光景を、私、私は、……)
 混乱の極致に達した時――

 ニーナ・ルアルディは意識を取り戻した。目を開ける前、どんな夢を見ていたかは思い出せない。ただ、背中に回された腕が凄く痛かった。何重にも撚られた紐で縛られているのだ。
「この状況は一体……」
 訳も分からないまま、拘束を解こうと手を動かす。それを見て、アイリス・ケリーは彼女に話しかける。
「外すのは難しいと思います。私も試してみましたが断念しました」
 溜め息を吐き、アイリスは思う。
(こんなことなら、縄抜けの仕方を父様に教えてもらうんでした……)
 悔やまれるところだが、仮に自由になっても脱出は至難の業だろうと思い直す。この部屋には、神人しかいない。窓から確認する限り、このA.R.O.A.カロン支部の周囲をうろついているのはデミばかりだ。だが、数が多いし――捕われた時、街にはDスケールオーガの姿もあった。精霊達が居なければ、安全な場所まで逃げられそうにはない。
(そういえば、ラルクさんは無事でしょうか)
 アイリスとパートナー精霊のラルク・ラエビガータは、初任務に赴く途中でカロンの街を通り掛かり、結果として捕えられた。
 組んだばかりで互いに情が無いとはいえ、無事かどうかも分からないというのは――少しばかり、不安だった。

              ∞

(初任務だったってのに、このザマか。全く……)
 ツイてない、とラルクは1人溜め息を零す。
「すぐに殺されることはなさそうだな」
 デミ達の様子を見て、アルヴィン・ブラッドローが口を開く。捕まった自分にむかっとしていたアルヴィンだったが、冷静に状況を確認していた。
「そうだな。だけど……」
 フェルン・ミュラーが表情を歪める。敵にまんまと捕まってしまった自分のふがいなさが、心底悔しい。
 ――ミズキに、危険が及んでいないだろうか。
 ――俺が居ないと、彼女を守れないじゃないか。
 先日契約したばかりの瀬谷 瑞希の顔を思い出し、フェルンは悔しさと同時に焦りを感じた。一方で、ラルクは縄が解けないことを改めて確認していた。
「ご丁寧に、縄抜け出来ないように縛ってくれているな」
 少しの苛立ちが声に混じる。抜けてどうにかできるものではない状況とは分かっているが、やはり窮屈だった。
 手首に込めていた力を抜いて、壁に背を預ける。アイリスはどうしているだろうか。箱入り娘のような彼女が、泣いていなければいい。泣かれるのは、ちょっと、面倒だ。
 ここから無事に出られたとして、あれこれ宥める羽目になるのは勘弁したい。でも、ウィンクルムとして組んだ以上はそうも言えない。
 縛られている縄の先を意識する。
 手袋に隠れて見えないが、手の甲には彼女と契約した証である紋様が浮かんでいる。
(初っぱなからこれで、上手くやってけんのかね……)
 紋様を脳裏に描きながら、ラルクは再度溜め息を零した。「……おい」とデュークに話しかけられたのは、その時だった。

              ∞

 アイリスも、手袋の下に浮かぶ紋様を思い浮かべて不安を募らせていた。
(初めての任務が駄目になって、やっていけるのでしょうか……)
 今、ラルクにいなくなられるのは、とても困る。
 まだ、神人として何も成していないのに――

「そうですか……」
 そして、アイリスから縄が外せないと聞いたニーナは、何が起きてこうなったのかを思い返そうとしていた。
(……買い物が終わって外に出たらグレンがいなくて、また1人で何処か行ったのかと思って探しに……その後……)
 そこからスムーズに記憶が辿れず、ニーナは頭に疑問符を浮かべた。

「いって……思いっきり好き放題しやがって……」
 その頃、地下牢では目を覚ましたグレン・カーヴェルが顔を顰めていた。彼は、ギルティに捕えられた時の事をよく覚えていた。近くでは、グレンと同様に拘束された精霊達が抑え気味の声で話している。
「俺はカロン支部で働いている、デュークという。それで……」
「ああ、悪い、ギルティについてだな」
 デュークが名乗ると、彼に誰何の目を向けていたラルクは『ギルティの姿を見なかったか?』という問いに答えるべく襲われた時の状況を改めて思い出す。あの時は、相手がギルティであると認識する暇もなかったが、間近で感じた強烈な瘴気を思うと『彼』がギルティであったことは間違いないだろう。
「……突然だったんではっきり姿を見たわけじゃないが……耳がマキナのものだったことだけは確かだ」
 鉛色の耳は直径15センチ程の丸みを帯びた円形で、内側に“+”の形をした溝が刻まれていた。まるで、ネジの頭部のような。
「ネジか。俺は耳はよく見なかったけど、そういえば金属質だったな」
 ラルクとデュークが話している傍で、さてどうするかと思案していたアルヴィンもにこっとひとつ笑みを浮かべて会話に加わる。現状を楽観視しての笑みではなく、自身を鼓舞する為にも明るく振る舞う。
 この状況でやれる事は少ない。その中で、雑談しつつ情報を纏めるのは有益な事だと判断したのだ。
 デミ達の動きを見ながら、逃げ道は見つかるかな? とアルヴィンは考える。そこで、彼とラルクにフェルンが訊いた。
「耳を見たってことは、ギルティの顔も見たのか?」
「……いや、顔は見なかったな。髪に隠れて見えなかった」
「俺は見たよ。髪は金色で……顔は、そうだな……」
 ラルクに続いて答えたアルヴィンは、瘴気に中てられて倒れた中で、自分を見下ろしてきたギルティの風貌を思い出す。
「赤い目がやけに強く印象に残ってる。眉間には皺が寄ってて、肌は……青白かった」
「……マキナで……金髪赤目、青白い肌……」
 話を聞いたデュークの中で、ギルティの姿が徐々に形作られていく。そこで、グレンが更に付け加えた。
「あの野郎、何かと時間を気にしてたぜ。秒単位にな。ああいう神経質で細かい奴には関わりたくねーわ」
 吐き捨てるような声に顔を向ける。どこか痛みを堪えるような表情をしているグレンに、デュークは言った。
「大丈夫か?」
「ああ。今度会ったら、5倍くらいにして殴り返す……!」
 ――グレンがギルティにやられたのは、ニーナが捕まった後のことだった。彼女の買い物を待つ間、彼は店から離れて別の小売店を覗いていた。破壊音や悲鳴が聞こえて何事かと外へ出ると、街中に複数のオーガ、デミオーガの姿があり、ニーナは倒れた男の近くで体を震わせていて――
 逃げ惑う人々と比べても一線を画した状態を見せていたニーナは、オーガに担ぎ上げられた。駆け寄ろうとしたグレンの前にオーガが立ちはだかり、ニーナを睨むように見ていた“額に2本の角を持つ”男がこちらを向いて。
 足早に近付いてきた男に攻撃され、倒れたグレンはやがて意識を失った。男が時計を見ながら背を向けたところで記憶は途切れている。
(あいつ……連れて行かれた後どうなっただろうな……)
 グレンは、ニーナの表情を思い出す。遠目から見ても、あれは普通じゃない様子だった。
(……何かあって堪るか)
 強く、そう思う。
 自分の態度に、いつも戸惑ったり困ったりした顔を見せる彼女。仲良くなろうと必死な姿が面白いとは思うが――ほんのりと独占欲があるのも否定しないが――好意の大小とは関係のない理由で、彼はニーナの身を案じていた。
 捕まる前、どうしてあんな過剰な反応を見せていたのか。
(それを聞くためにも、俺達がここを出るまで、あいつには無事でいて貰わないとな……)

(グレンも、今どこかに閉じ込められてるんでしょうか……いつもの乱暴な言葉でもいいから、声を聞いて安心したいです……)
 所々、霧がかかったみたいに思い出せない。その霧は、いくら考えても晴れることはなかった。何ででしょう? と内心で首を傾げつつ記憶を辿るのを止め、ニーナははぐれたままになっているグレンを思う。
「逃げられない……となれば、いざという時の為に体力を温存するのが得策ですね」
 アイリスの声が聞こえる。それに、瑞希が同意した。
「そうね、捕まっている間は大人しくしていた方がいいと思う……」
 瑞希の目は、オーガへの恐怖で揺れていた。契約したばかりなのに、こんな目に遭うなんて酷い――
 オーガに捕まった時、彼女は体の自由が効かない中でも意識を失わなかった。元々オーガに恐ろしさは感じていたが、持続した恐怖は、時間が経っても消えなかった。
「でも……私達、どうして殺されたりしてないのかしら」
 生きて帰る為の希望を持ちたい。そういった気持ちもあったが、これは瑞希の純粋な疑問でもあった。遭遇した瞬間に殺されてもおかしくないのに、何故、こうして生かされているのか。
「わかりません……単純に考えれば食料として備蓄されている、ということなのでしょうが……」
「……じゃあ、やっぱりこれから殺されちゃうの!?」
 名を知らぬ神人女性の発言に、瑞希は心臓が縮む思いだった。神人女性は、力なく首を振る。
「そうでなければいいですけど……ギルティが何を考えているのかわからない以上は、それが一番……そもそも……」
 女性はそこで、言葉を切った。それから、顔を上げて皆に言う。
「私、ギルティの姿を見てないんです……皆さんは、ギルティを見たんですか?」
 Dスケールオーガに囲まれて捕まったという彼女に、最初に答えたのはニーナだった。靄に紛れ、これだけは記憶に残っている。
「首の懐中時計は覚えてます! あとは、歯車が沢山付いたブレスレット……でしょうか」
「…………」
 アイリスも、ギルティについて思い出そうと目を閉じて少し考え込む。ややあって「……ああ、そうでした」と彼女は目を開けた。
「白いファーのついた、すごく豪奢な茶色のロングコートを着ていました」
「……ええ、確かにコートを着てた。身長は私より高くて……ミュラーさんよりは、低かった気がする。あ、ミュラーさんっていうのは私と契約してる精霊で、身長が185センチなんですけど……どうかした?」
 そこまで話して、瑞希は神人女性が驚いた顔をしている事に気付いた。あ、と我に返った女性は、「いえ……」と話し出す。
「この時期にコートは、暑くないのかなと思って……」
 そういえば、と皆は顔を見合わせる。今は、防寒着で身を包む季節では全くない。
「ギルティには、私達の常識が通用しないのかもしれませんね……何にせよ、ギルティはコートを着ていたんですね」
 女性の確認に、アイリスと瑞希は頷いた。
「年齢は、見た目22歳くらいだったと思います。細身で……比較的若く見えたかと……」
 また違う神人が、彼女達の話に付け加える。
「……性格とかまでは、わかりませんよね……」
「性格……私は、随分偉そうというか、話し方が上から目線だと思ったわ」
 ミオン・キャロルが、少しの不安を目に宿しながら口を開く。
「丁寧語なんだけど、それでも、何か癪に障るというか……」
「そうね。オーガへの指示の仕方がそんな感じだったわ。でも、ごめんなさい。話は聞こえていたけど、ギルティが一方的に指示するだけだったから名前とかは判らない」
「そうですか……」
 女性は考え込む。神人達も黙り込み、話は途絶えた。
(もう最悪、最低……今年は厄年なの!?)
 静かになった室内で、ミオンはそう思わずにはいられない。最初の仕事はボッカとかいうギルティだったし、またギルティだ。
(……お家帰りたい)
 ふと、パートナー精霊のアルヴィンの顔を思い出す。
(契約したのに、何してるのよ……アイツ。早く助けに来なさいよねっ!)
 八つ当たり気味に、いつも通りに振る舞う自分を想像しながら強気に思う。怯んでなんかいない。怖くなんかない。いつも通りだ。怖くなんか――
(…………)
 紛らわそうとしていた本音が、不安が顔を出す。段々と、弱気になってくる。
「……無事、かしら」
 ここにいないアルヴィンが今どうしているのか。彼の身が気になり、ミオンはぽそりと呟いた。

(無事、みたいだな)
 牢の中で、精霊達の話を聞きながらアルヴィンはミオンが生きている事を感じて少し安堵していた。絆で、契約した神人が近くにいるのがわかったのだ。
 初対面時、一瞬小鹿の目をしたミオンを思い出す。彼女の纏う空気は、感情豊かな幼馴染(男)と、どこか似ている。
(……何か、ほっとけないんだよな)
 つい、くっと笑いが込み上げる。
「どうした?」
「いや、こっちの話」
 まだ笑みを残しつつ答えると、それを聞いたラルクは少々不思議そうにしながら話に戻った。
「デュークは、何か覚えてないか? ギルティのこと」
「いや、俺はギルティを見ていないんだ」
 続けてデュークは、自分が捕まった時の状況を精霊達に語る。
「そうか……でも、ギルティの特徴はまとまってきたな。これで似顔絵でも作れれば、討伐に一歩近付くはずだ」
 そう言って、フェルンは鉄柵の先に目を遣った。何も変わらない、デミオーガがうろつくだけの光景がそこにはある。
「……とにかく、今はまずここから脱出しないとな」
「ああ、だが……今は危険だ」
 デュークは言う。
 鍵さえ開けば、デミ達だけなら何とかなるかもしれない。だが、更に先にはオーガがいるであろうことは想像がつく。トランス出来ない現状、自分達の力だけで脱出するのはかなりの危険が伴うだろう。第一――無理に鍵を開けようとすれば、オーガやギルティが駆けつけてくる可能性もある。
「じきに、事態を知ったウィンクルム達が救出に来るだろう。脱出する機があるとしたらその時だけだ」
「そうか……そうだな」
 デュークに答えながら、フェルンは考える。彼は、この事件の背景が気になっていた。予感でしかないが、今回のは単なる襲撃事件とは色々と違う気がする。
 脱出したら体勢を立て直し、ギルティについて調べて討伐を目指す。
 瑞希が無事であることに疑いを持っていなかった彼は、当然のようにそう思った。

(ミュラーさんは無事かな。酷い目に遭っていないと良いけど)
 瑞希は同じ建物、2階の部屋でフェルンの安否について考えていた。ずっと意識を保っていた彼女は、彼が連れて行かれるところも目にしていた。
(もし、私達がウィンクルムだから狙われたのだとしたら……ミュラーさんが、私と契約しなきゃよかったと思っていたらどうしよう)
 助かることが出来たとしても、契約を解除しようと言われたら――と、瑞希は不安を募らせた。

 ■ 脱出を果たして

 解放されたのは、それから一週間程が経過した時だった。

              ∞

 神人と精霊はカロン支部1階で合流した。ミヤ・カルディナとユウキ・アヤトを始め、救出に来たウィンクルム達が追撃してくるデミ・ゴブリンに対応する中、外に走り出る。
「あっちに公用バスがあるわ!」
 ミヤが指差すバス目指して走りながら、ミオンはアルヴィンの姿を見かけて無事だった、と安堵せずにはいられなかった。こちらに気付き、近付いてくる彼と一緒にバスに乗る。
 ボックス席に座ると、窓の外の景色が流れていく中でアルヴィンが頭にぽん、と手を乗せてくる。
「怪我をしてなくて良かった」
 その途端、じわっと生まれた涙に目が熱くなる。思わず、彼の手をぱしっと払った。
「髪型崩れるから触らないでくれる!」
「あぁ悪い、癖なんだ」
「そ、それは、知ってるけど……」
 にこっと笑顔を浮かべられ、しどろもどろになってちょっと俯く。
「あれ、泣いてるのか?」
「な、泣いてなんかないわよっ!!」
 反論した直後、アルヴィンの指が目頭に触れる。「……!」と驚くミオンの涙をゆっくりと拭い、彼は言った。
「ごめんな」
「…………」
「契約したのに、怖い思いをさせてごめんな」
「う……」と、ミオンはふいっとそっぽを向いた。素直になれない自分にバツが悪かったし、彼の視線に多少狼狽えてもいた。
「……お互い、無事で良かったわね」
 目を逸らしたまま、小声で言う。少しの間の後、意を決してアルヴィンの目を見る。
「次からはちゃんと守りなさいよね!」
 居丈高風味にびしっ、と言うと、彼は一瞬きょとんとしてから可笑しそうに笑った。また頭をぽんぽんされる。
「……なんでそこで笑うわけ?」
 頭身を縮めながらむーっと上目遣いで抗議する。
 ――やっぱり、楽しい……かな。
 彼女の頭を触りながらそう感じたアルヴィンは、自然と柔らかい笑みを浮かべた。

「私、グレンを探しに行った後の事……覚えてないんです」
 捕われた時の事を覚えているかというグレンの問いに、ニーナは申し訳なさそうに首を縮めて答えた。それから、彼を見てふわん、と笑う。いつもと変わらぬ彼の姿に、ニーナはよかった、とほっとしていた。
「あの……着くまでの間、袖の端だけでもいいので握ってていいですか?」
「ん? ……ああ、好きにしろよ」
 グレンが言うと、ニーナは遠慮がちに袖を摘んで小さく息を吐いた。
(あの時の事は覚えてないか……追及するのは今度でいい)
 安心しきっている彼女の顔を、もう少し近くで見ているのも悪くない。そう思い、グレンは今回の事を話題にするのを止めた。
「明日またお買い物行きましょう」
 外を見ながら、ニーナは嬉しそうに言った。意外に立ち直りは早いのか、声には買い物への期待が込められていた。
「……お前1人にしとくと危ないしな。考えとく」
「今度は置いて行かないで下さいね」

「ミュラーさん、良かった……!」
 瑞希は、再びフェルンに会えた事に心底から喜んだ。一方で、フェルンの方に笑顔は無い。瑞希が捕まっていたと知った彼は、ギルティへの怒りを禁じ得なかった。
(俺のミズキに、何しやがる)
 この屈辱は絶対返すと心に誓い、フェルンは瑞希を抱きしめる。
「え? みゅ、ミュラーさん……!?」
 彼女を安心させようとしての行為だったが、契約して間もない中での抱擁に驚き、瑞希は安心するよりわたわたした。
「…………」
 だが、それだけ思いあまる何かがあったのだろう。
 それを察した瑞希は、彼を押し戻したりはしなかった。

              ∞

 バスはタブロスのA.R.O.A.本部に到着し、捕えられていたウィンクルム達は念の為にと病院に行く事になった。それを見送り、ミヤは彼女達を助け出せたことに安堵する。デュークと、カロンの状態を報告してきたリースが契約できたことにも彼女は喜びを感じていた。
 けれど――
 それ以上にミヤの心を占めていたのは、恐怖と不安だった。
 これから本格的に始まるウィンクルム生活に対して、彼女はとても意気揚々とした気分にはなれなかった。
 元々緊張はあったが、そういうことではなく。
「何故、私達しかオーガにダメージを入れられないのでしょう」
 ウィンクルムがオーガに狙われるのは、狙われたのはその為だ。
 そうでなければ――と思わずにいられない。
「俺が知るかよ」
 ユウキは、感情のままにきつい口調で突き放す。何を思ってミヤがそう言ったのかが分かったから。彼の口調に、ミヤはびくりと怯みを見せた。
 しまったと彼女を見下ろし、ユウキは言葉を改める。
「……俺達にしか出来ないんじゃなく、俺達なら出来ることなんだよ」
「…………」
 少しでもプラスに考えられるように言ってみたが、ミヤは笑顔にはならなかった。
 解っている。違うのだと。
 ミヤが言いたいのは、もっと別の事だのだと。
 こんな建前じゃなく、別の……
「……ミヤ」
 気持ちを上手く伝えられないのが、もどかしい。
「俺はドジ踏まない。それじゃダメか?」
 ミヤが縋るような目で見つめてくる。そこで、デュークが苦々しげに口を挟んできた。
「ドジ踏んだ男がまだここに残ってるんだが……」
 ――確かに今の台詞は、捕まっていた精霊が聞けば失礼この上ないものだったかもしれない。

              ∞

 後日、作成したモンタージュを元に、ギルティの通称名が決定した。
『クロック』と名づけられた彼が、何故時間に追われていたのかは分からない。
 それは、当人に訊くしかないのだろう――



依頼結果:成功
MVP
名前:ミオン・キャロル
呼び名:ミオン
  名前:アルヴィン・ブラッドロー
呼び名:アルヴィン

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 沢樹一海
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル シリアス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 難しい
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 02月20日
出発日 03月01日 00:00
予定納品日 03月11日

参加者

会議室

  • [22]瀬谷 瑞希

    2015/02/28-23:36 

    身長は私より高くて、パートナーのミュラーさんより低かった気がします。
    167cm<ギルティの身長<185cm
    一緒に居たのがデミオーガばかりだったので名前は判りませんでした。
    高スケールのオーガをまだ配下に持っていないのかしら?

  • [21]ミヤ・カルディナ

    2015/02/28-22:32 

    スタイルは良い人のような気がします。「細マッチョ」とかかもしれません。
    見た目の年齢は「22才」くらいなのかしら。

    髪の長さは私にも分かりません。
    ウイッグだったら嫌だなあ…(苦笑
    エクステならいいけど(ふふ

  • [20]ミオン・キャロル

    2015/02/28-21:58 

    金の髪で赤い目だった気がするの…
    あぁ、でも、髪の長さとかは覚えてないわ

  • [19]アイリス・ケリー

    2015/02/28-21:34 

    【種族的特徴】【衣服(豪奢な毛皮がついたコート)】を盛り込んでありますが、
    他にこれらの点について記述されたい片がいましたら、別のものに置き換えますので。

  • [18]ニーナ・ルアルディ

    2015/02/28-14:05 

    も、文字数…
    下で宣言した項目は二人で分担させてもらう感じになります。
    一応プランに載せられたこと置いていきますねー

    装飾品:懐中時計、歯車が沢山ついたブレスレット
    仕草:よく時計を確認する(グレン曰く「ぜってー神経質だあいつ」とのことです)

    次の相談確認+プラン修正出来るのが23時半頃になるので
    変更することがあればその時に直しますねっ

  • [17]ニーナ・ルアルディ

    2015/02/28-00:40 

    書き込みできてなくてごめんなさいーっ!
    私は『特徴的だった装飾品』と『仕草』が印象に残ってますね。

    ※二度再投稿しました、すみませんorz

  • [14]ミオン・キャロル

    2015/02/27-21:36 

    皆さんの相談を待とうと思ったけどせっかちでごめんなさい。

    今上がってる所だと
    ・豪奢な毛皮がついたコート(?
    ・マキナ(?

    私は「目と髪の色」、「雰囲気」をうっすら覚えてるから添えておこうと思うわ

    >瑞樹さん
    初めまして、宜しくお願いします

    ■ギルティ(ワールドガイドより)
    ・かなり高い知性と能力を持ったオーガ
    ・精霊であった頃の外見特徴を色濃く残しており、角さえ隠してしまえば通常の精霊と区別がつかない

    ってあるわね。
    私が知ってるのは、裸マントでファータ(←教えて貰い気づきました)
    「もてびーむ」だかなんだか叫びながらチョコを占領してた人ね(遠い目

    >アイリスさん
    えと、えっと失礼なんて何もないと思うわ。
    むしろ私が意見をコロコロ変えててごめんなさいっ!!
    (沢山削除投稿して番号が飛んでいて申し訳ありません)

  • [11]アイリス・ケリー

    2015/02/27-17:17 

    必要な相談は遠慮なく行ってくださいとあったので、相談する前提のものだとばかり思っておりました。
    あれこれと失礼致しました。

  • [10]瀬谷 瑞希

    2015/02/26-21:23 

    初めまして。瀬谷瑞希です。
    パートナーはファータのミュラーさんです。
    皆さんよろしくお願いします。

    ギルティの事はよく判らないので、
    ミオンさんの仰いますように
    「宣言したい人は宣言しておく」で良いかもですね。
    裸マントさんと被らない方が、よりシリアスになりそうです。
    アイリスさんの「マキナ案」ならとてもシリアスな感じですね。
    凄く頭よさそうに思えます。

  • [9]ミオン・キャロル

    2015/02/26-13:19 

    私ばっかり発言してごめんなさい。

    矛盾が出たらよくないのかな、と【7】で提案してみたけど
    非常事態で記憶が曖昧…で何とかなるのかもと思いなおしました。

    ダイス振って→宣言だと2回発言が必用で
    ハピは本来相談を必要しないので、よくないかなと感じたので「宣言したい人は宣言しておく」が楽でいいのかしら?

    ある程度相談するいう方向でしたら意見を言いに来ます
    最終日(28日)はあまり来れないので、様子見つつプラン提出するわね。

  • [8]アイリス・ケリー

    2015/02/25-23:52 

    瑞希さん、はじめまして。
    よろしくお願いします。


    あっ、すみません…ピカソみたいなというのは、
    相談なしでバラバラにプランを組めば…例えば長髪と書いた方に対して断髪と書いた方がいれば
    混ざりあってごちゃごちゃになるよという意味かと思っておりました。
    ミオンさんがおっしゃった、ダイスをふって各組で一つずつ記述する特徴を宣言するというのはとても良いと思います。

  • [7]ミオン・キャロル

    2015/02/25-01:06 

    あのヒトがファータなら違う種族がいいのかしら?

    えっと、私は「ピカソな…」でもおもし…じゃなくて、良いと思うけど
    相談して大まかに決めます?

    1組いらっしゃるかもしれないし、時間もあるけど
    もし「ピカソな…」をするのなら
    案としてダイス振って出目が高い人からプランに記入する特徴を宣言するとかどうかしら?
    (種族、雰囲気、服装…等々)

  • [5]アイリス・ケリー

    2015/02/24-14:05 

    裸マントの方はファータのようですね。
    ニーナさんがあげてくださった中なら…マキナが一番解りやすそうなと思います。

  • [4]ニーナ・ルアルディ

    2015/02/23-23:25 

    ニーナ・ルアルディですっ
    はじめましての方もお久しぶりな方もよろしくおねがいしまーす!

    ファータさんマキナさんテイルスさんならぱっと見て分かりやすそうですよねぇ。
    服装とか髪型とかにもよりますけど。

  • [3]ミオン・キャロル

    2015/02/23-11:47 

    ミオン・キャロルよ。
    皆さん、よろしくお願いします。

    裸マントは勘弁願いたいわね…。
    ギルティって精霊だった頃の種族特徴が残ってるって聞いたわ(ワールドガイド→■種族:オーガ)
    どんな種族かしらね?



  • [2]アイリス・ケリー

    2015/02/23-09:30 

    アイリス・ケリーと申します。
    ミヤさんは初めまして。
    ニーナさんはお久しぶりです。
    どうぞよろしくお願い致します。

    ギルティというと、オーガの中でも高位の存在ですし……豪奢な毛皮がついたコートとかを着てそうな印象です。
    状況が状況ですし、通称はあまり捻らない方がいいかなと思いました。
    思いついた限りでは「ギル」…すみません、ネーミングセンスには自信が無いので(そっと目を逸らし)

  • [1]ミヤ・カルディナ

    2015/02/23-00:31 

    ミヤ・カルディナと申します。よろしくお願いします。

    ギルティの案ですか…。
    姿は、マント一枚とか全裸とかは避けたいですね。普通に服は着ていてほしいです。
    通称は、カタカナ表記のお名前だと嬉しいなと思います。私もニーナさんもデュークさんもカタカナですし、バランスとして。


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