プロローグ
――その、ふっくらしたお姿は、まさに御餅。
白雪のように汚れなき羽毛はふわふわしつつも、何処となくもっちりで。そおっと触れて引っ張ってみれば、ふよん、と伸びてとっても柔らかだ。
「こけ!」
――ああ、心なしか、そのお声も自信に満ち溢れているかのよう。
あたまに、おみかん――だいだいを乗せたその鳥は、モチドリと呼ばれている珍しい鳥で。そのタブロスの外れにある、ちいさな村では『モチドリ様』と呼ばれ、新年を告げる縁起の良い鳥とされているのだった。
「……そんな珍しい鳥が棲む村で、新年のお祝いがあるんですけれど!」
満面の笑みを湛えたA.R.O.A.職員は、机の上に置いてあった手作りのパンフレットを広げて「どう、どう?」と言うようにウィンクルムたちの瞳を覗き込んできた。
「山奥にある長閑な村ですが、新年のお祭りは賑わうみたいなんですよ。村にいるモチドリと言う鳥は、名前の通りお餅みたいにもっちもちで、ふっくらしつつしっとりして……どこまでもふよーんと伸びていくような、そんな不思議な質感を備えているのです!」
何だか分かったような分からないような、とにかくお餅のような不思議な鳥が、その村には居るらしい。その特徴から、特に新年には縁起の良い鳥とされ、珍重されているとか。村のお祭りでは『モチドリ様』と呼ばれ、頭にだいだいを乗せておめかしして――村の至る所で見られるのだそうだ。
「本当に鏡餅そっくりみたいで、新年のお祭りでモチドリ様を撫でたり抱っこしたりすれば、幸せに過ごせると言われているのだそうです」
村の社には屋台も出ており、新年を祝う雰囲気に包まれている。モチドリ様にちなんで、お餅を使った料理――しるこやお雑煮が特に人気らしい。勿論、お祭りらしく綿菓子や飴も売られているし、モチドリ様を模ったぬいぐるみやマスコット、根付にTシャツなどのグッズも売られていて――村おこしにも一役買ってるっぽい。
「お祭りの屋台めぐりの締めくくりは、お社でおみくじの運試しですね。自分の手でおみくじを引くのもいいですが、モチドリ様に選んで貰うことも出来るそうですよ。……ただし、たまに変なおみくじも混ざってるみたいですけれど」
新たな年を迎え、大切なひとと今年最初の思い出を作ってみるのは如何でしょう――職員はそう言って締めつつも、最後にちょっぴり苦笑して付け足した。
「……ああ。でも最近、モチドリ様に一緒に『ちゅー』すれば、恋愛のご利益がある……なんてジンクスも生まれていて、恋人同士で訪れる人も多くてですね」
――ええと、それはつまり。初恋宮にいらっしゃる甕星香々屋姫――かの女神様が黙ってはいないのではないか。
「新年を祝う神聖な鳥に、接吻をして……い、いちゃいちゃするなんて破廉恥ですっ!」
案の定、鏡で地上を観察していた姫様は顔を真っ赤にし、早速童子にデートの監視を命じるのであった。
解説
●村の新年祭
モチドリと言う、お餅に似た珍しい鳥が棲む村では、新年のお祭りが開催されています。パートナーと一緒にお祭りを楽しんで、監視役の童子に『恋愛って素敵なんだよ』と教えて上げられれば成功です。
●モチドリ
村に生息する珍しい鳥。まんまるでにわとりに似ていて「こけ」と鳴きます。ふかふかでお餅のようにふよーんと伸び、新年には『モチドリ様』と呼ばれて珍重されます。頭にだいだいを乗せて鏡餅のようにおめかしして、村のあちこちで見かけられます。
新年に撫でたり抱っこしたりすれば、幸せに過ごせると言う言い伝えが。最近では、カップルで『ちゅー』すれば、恋愛のご利益があると言われて人気上昇中です。
●お祭りの屋台
普通のお祭りで出ていそうな屋台なら、大体見つかると思います。食べ物ではお餅が人気。お土産にはモチドリ様グッズが沢山出ているみたいです。
●運試しのおみくじ
お祭りを堪能したら、最後におみくじを引いて行きましょう。自分で引く場合は『どんな結果でどんな反応しちゃうのか』を記入、モチドリ様にお任せする場合は此方でダイスを振ってランダムに結果を出します。しかしその場合、変な結果も混ざるかもしれません……。
●監視役の童子
神聖なお祭りでいちゃいちゃするなどけしからん! と言う甕星香々屋姫が、こっそり監視役の童子を潜り込ませています。皆さんの行動を後で姫に報告しますが、関わろうとしない限りは大人しく見守っています。
●参加費
屋台での買い物、おみくじやお賽銭などなどの出費で、一組300ジェール消費します。
●お願いごと
今回のエピソードとは関係ない、違うエピソードで起こった出来事を前提としたプランは、採用出来ない恐れがあります(軽く触れる程度であれば大丈夫です)。今回のお話ならではの行動や関わりを、築いていってください。
ゲームマスターより
柚烏と申します。遅くなりましたが、今年も頑張って行きたいと思います!
お正月気分も薄れてきた頃ですが、新年のお祝いがまだだよ、と言う方。よかったら、お餅のようなモチドリ様と一緒に戯れてみませんか?
ほのぼのとした感じになるかなと思います。パートナーと素敵なひとときを過ごしつつ、恋の素晴らしさを教えてあげられるといいですね。
楽しんで頂けるよう精一杯努めたいと思いますので、よろしくお願いします。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
スウィン(イルド)
モチドリ様発見!こんにちは、モチドリ様 なでなでしてもいいかしら?(そっと抱っこして撫で) 可愛い!ふかふか~♪ お餅みたいに伸びるって事だけど…(うずうず) ちょっとだけ伸ばしてもいい?(ふよーん)わあ、凄い♪ このだいだい落ちたりしないのかしら(つんつん) それと、一緒にちゅーすればご利益があるとか いいじゃない、折角だからやってみましょ! イルドは目を閉じてるだけでいいから!ご利益あるかしら 屋台巡り~♪(モチドリ様のぬいぐるみ購入 本物と並べて)ほらそっくり♪ イルドの家に飾りましょ☆ちゃんと撫でに行くから! どうもありがと♪またいつか会いたいわ (モチドリ様におみくじと 今日一緒に過ごしてくれた事へのお礼) |
アイオライト・セプテンバー(白露)
もっもっもちどりー♪ ねーパパ。肩車してー 橙色の着物着たあたしが、白い着物着たパパの上に来たら…モチドリごっこ!←白露がモチドリ、自分が橙のつもり (大満足) ようっし、このままモチドリ様のところまでれっつごー☆ お雑煮食べたーい でも、パパの頭じゃ食べられないね←降りる気は更々ない じゃあ帰りに食べようよ 行きはチョコバナナがいいなーあるかなー あ、モチドリ様みーけっ パパ、肩車降ろして あたし自分で捕まえるっ 待てーきゃー鬼ごっこだーいっ わーい。ふにょふにょでいい気持ち あたしのほっぺも、ふにょふにょだよ おみくじはモチドリ様におまかせ♪ モチドリ様ってパパの好きなアヒルさんに似てるよねー 『そういえば、そうですね』 |
鹿鳴館・リュウ・凛玖義(琥珀・アンブラー)
折角モチドリちゃんが祀られているんだから、 彼女に囲まれた1日にしたいよねぇ。 だって、餅みたいに柔らかい鳥なんでしょ? 頬ずりしてでも触りたいと思わない? 「というわけで行くよ!琥珀ちゃん!」 頭にはモチドリちゃん人形付きカチューシャをつけて、 彼女を探しに行こう。人形は僕の手作りだよ? 「モチドリちゃんカチューシャは、琥珀ちゃんの分もあるよ」 (嬉しそうな顔で琥珀の頭に付ける) しかし、モチドリ……様を見つけたら、どうしようか。 (モチドリを見つめながら呟く) 「ねぇ琥珀ちゃん。 モチドリちゃ……様とトランスごっこしちゃダメ?」 勿論インスパイアスペルは嘘のやつを唱えるけど。 最後はモチドリ様頼みで御神籤を引こう。 |
ロキ・メティス(ローレンツ・クーデルベル)
モチドリ…(可愛いな) 本当に村のあちこちに居るんだな…。 モチドリがいっぱいのこの村では新年がいつも楽しいだろうな…。 モチドリは居るだけでほっこりする。 (もちもち触りつつちゅー) 癒しだな…。 グッズもあるのか…根付は携帯に着けるとしてぬいぐるみは家に置いておくか…。 …?俺がこういうのを買うのは意外か? そうだな…今までは切っ掛けがなかったからな興味を持つことは疲れることだと思って避けてた節もあるしな。 クールでもなんでもない。ただ面倒くさがりなのかもしれない。 せっかくだし何かたべるか…お雑煮…か。これって正月に食べるものだよな…ん、じゃあこれにしよう。 最近よく食欲が増した気がする…。 おみくじお任せ |
芹澤 奏(ラム・レイガード)
・心情 え?祭?そんな人多そうなとこ、俺行きたくないっス… (モチドリ様の写真見て) …か、かわいいス…! 行きましょう、ぜひ連れて行ってくださいラムさん。 ・会場 モチドリ様グッズを黙々と買いあさる。 「モチドリ様マジ可愛いっス…」 心なしかニヤニヤ。 Tシャツ二枚買って一枚すぐに着る。もう一枚は保存用。 ・キス え?モチドリ様にキスしていいんスか!?(嬉び) 一緒に?ラムさんこれ以上コミュ能力上げてどうすんスか。 キス☆ 「モチドリ様マジ気持ちぃっす。連れて帰りたいス…!」 ・おみくじ モチドリ様にお任せ! どんな結果が出ても 「来てよかったス、楽しかったス。ありがとうございます、ラムさん(にこ)」 精霊共々アドリブ大歓迎! |
●ささやかなきっかけ
こけーこけーと言う元気な鳴き声が、そのちいさな村のあちこちから響いてくる。年が明けてから日は経ったとは言え、新年を祝うお祭りはひと月に渡って盛大に行われるのだ。
モチドリ様をなでなでしたり、抱っこしたり。そうすれば、今年一年を幸せに過ごす事が出来ると言うけれど――やっぱり、あのひとと一緒に甘い『ちゅー』を贈るのがいいだろうか。
――それは、愛らしい秘密の恋の魔法。この胸に満ちるあたたかな想いを、モチドリ様はきっと叶えてくれる。
「モチドリ……」
ちょこちょこと足元に集まってくる、まんまる鳥を見下ろして――ロキ・メティスの涼しげな青眼が微かに和らいだ。可愛いな、と言う呟きは胸の裡に留めたけれど、つぶらな瞳で「こけ?」と言うように見上げて来る仕草は、やはり愛らしい。
「本当に村のあちこちに居るんだな……。モチドリがいっぱいのこの村では、新年がいつも楽しいだろうな……」
お社に続く参道には、手作りの屋台が幾つも軒を連ねていて。村の人々も訪れた客人たちも、みなモチドリと共に祝う新年を楽しみ、ふんわりとした笑顔が通りに溢れている。
「うん、モチドリは居るだけでほっこりする」
そう呟いたロキは、ぴとりと身を寄せた一羽を抱き上げ――もちもちと触りつつも、そっとそのほっぺと思しき場所に唇を近付けた。
「癒しだな……」
「わーモチドリ様可愛い! 本当にお餅みたいだー」
一方、ロキと共に新年祭へやって来た、ローレンツ・クーデルベルは優しいまなざしをモチドリに注ぎながらも――そっと横目でクールな相方の様子を窺う。
(あ、ロキも触ってる。で、ちゅーしてる……)
まるで、精緻な硝子細工のような美貌を持つロキが、まんまるのモチドリに整った唇を寄せる姿は、微笑ましいと言うよりは壮麗な絵画を眺めているようで。
「ロキって唇綺麗だよねー。なんかちゅーしてても様になるっていうか色っぽい? ……何か変な感じ」
気が付けばローレンツは、感じたままの想いを素直に口に出していた。幸い、と言うべきか、その呟きはロキの耳には入らなかったようだが。
「いや、その……似合ってるって言いたかったんだきっと……!」
わたわたと慌てるローレンツの姿に、ロキは微かに眉根を寄せる仕草をしつつも、ふたりは連れ立って屋台巡りに繰り出した。お目当ては、この村限定品のモチドリ様グッズだ。
「色々なものがあるんだな……根付は携帯に着けるとして、ぬいぐるみは家に置いておくか……」
そこかしこで「買って買って」と言うように此方を見つめて来る、大小様々なモチドリ様グッズたち。その内のひとつ――根付を手にしたロキは、ローレンツの分も一緒に代金を払う。
「根付、俺の分も買ってくれるの? じゃあ、ぬいぐるみはソファーに置く?」
ふよんとした手触りが心地良いぬいぐるみを抱きしめたローレンツは、そう相方に尋ねるが――その相貌に浮かんだ微かな戸惑いに、ロキは眼鏡を直しながら静かに吐息を零した。
「……? 俺がこういうのを買うのは意外か?」
「んっと、俺がロキの家に来たての時は、ロキの家ってかなりシンプルだったから、こういうの興味ないのかと思ってたんだけど」
んーと部屋の様子を思い浮かべるように、空を仰ぐローレンツ。ややあってからロキは、ぽつりぽつりと己の胸の裡を言葉にしていった。
「そうだな……今までは切っ掛けがなかったからな。興味を持つことは疲れることだと思って、避けてた節もあるしな」
「じゃあ、ロキはクールだと思ってたけど……結構好き?」
「クールでもなんでもない。ただ面倒くさがりなのかもしれない」
それでも――そんな自分を少しずつ変えていったのは、紛れも無くこの気弱でヘタレで、だけどそんな所も嫌いじゃないこの精霊なのだろう。
「きっかけかぁ、まぁ俺もきっかけがなければこの村にも来てないわけだし」
――その辺は感謝かな。そう言って微笑んだふたりは、折角だし何か食べようと言う事で、お雑煮を振る舞う屋台へと向かった。
「お雑煮……か。これって正月に食べるものだよな……ん、じゃあこれにしよう」
「お雑煮だねー。俺としても正月の朝のイメージが強いかな?」
お餅のびるから気を付けてね、と言うローレンツの言葉通り、本当にお餅はふよーんとどこまでも伸びていくような感じで。最近食欲が増した気がする、と呟くロキはばっちりとお雑煮を完食した。
――そしてふたりは、最後におみくじで運試しをする。モチドリ様にお任せして、ロキが引いて貰ったのは末吉。一方のローレンツは――ハートマークが一杯に散りばめられた『らぶ吉』と書かれたおみくじだった。
●秘密のちゅーのご利益は
「え? 祭? そんな人多そうなとこ、俺行きたくないっス……」
自宅でのんびりしたい、と言う態度を崩さずに溜息を吐く芹澤 奏であったが――にこにこしながら、ラム・レイガードの差し出したモチドリ様の写真を見ると、その赤い瞳が「くわっ」と見開かれる。
「……か、かわいいス……!」
そんな呟きが零れるか零れないかの内に、奏は真剣な顔でラムに向かって、己の望みを口にしていた。
「行きましょう、ぜひ連れて行ってくださいラムさん」
――そんな訳で、ふたりはモチドリ様の新年祭へとやって来たのだが。ぱぁぁ、とラムが華やかな笑顔を浮かべる傍らで、奏は黙々とモチドリ様グッズを買い漁っていた。
「やぁん、モチドリ様かーわいいーーーん☆」
「はい、モチドリ様マジ可愛いっス……」
余り感情を露わにしない奏だが、心なしかその表情はニヤニヤしているようで――一緒にお出かけ出来て嬉しいっ、とラムの心がときめく。ちなみに女性のような言葉遣いをするし、見た目も中性的な美人さんであるが、ラムはれっきとした男性だ。
「それにしても……カナちゃんたくさん買うのね……! このTシャツ、あたしの?」
モチドリ様Tシャツを二枚買い、早速その内の一着を身につけた奏に向かいラムが尋ねるが、奏は無言でふるふると首を振った。
「え? 保存用……? さ、流石ね……!」
驚くラムはそう返すのが精一杯。しかも奏の着ているTシャツには、モチドリの姿と一緒に『根性』と言う文字がでかでかと書かれていたし――もう片方のシャツには『餅人』と書かれてあったような。流石にこれで、ペアルックだとはしゃぐ勇気は無かった。
――と、買い物が一段落したふたりは、お社近くの木陰でモチドリと一緒に小休止をしていた。
「カナちゃん、モチドリ様に仲良しさんと一緒にちゅーすると、ご利益あるんだって☆」
悪戯っぽくウインクしたラムが、奏にモチドリをそっと差し出すと――奏はぱちぱちと瞬きをして、じっとモチドリと見つめ合う。
「え? モチドリ様にキスしていいんスか!? ……でも、なんで一緒なんスか?」
「それは恋……えと、コミュ障が治るとか! 対人運がよくなるのよ! トランスの練習にもなるし!」
至極真っ当な質問をしてきた奏へ、ラムは慌てて『ちゅー』の効能をまくしたてた。恋愛にご利益がある、とは正直に伝えられなくて――でも、嘘は言ってない筈だと自分に言い聞かせる。
「……ラムさん、これ以上コミュ能力上げてどうすんスか。はぁ……わかったっス」
少々奏は訝しげな様子だが、モチドリと触れ合うと言う誘惑には勝てなかったらしい。ふたりで一緒にモチドリを抱っこしながら――両のほっぺに、ちゅ☆
(やーん! カナちゃんと間接キッス!)
悦びに打ち震えるラムはぴょんと跳び上がり、満面の笑みでまんまるのモチドリをなでなでした。
「ラム嬉しいっ♪ モチドリ様ありがとー!!」
予想以上にはしゃいでいる相方に、奏は首を傾げたものの。唇に優しく触れたモチドリの羽毛は、ふわっとしていて――本当にお餅のように柔らかかった。
「モチドリ様マジ気持ちぃっす。連れて帰りたいス……!」
――だから、奏も。精気が無い、と言われがちなその瞳を、幸せそうに細めたのだった。
「おみくじはモチドリ様にお任せっス!」
最後に引いて貰ったおみくじはと言うと、奏は何と大吉。そしてラムは吉だった。どんな結果が出ても良いと思っていたが――楽しそうな奏が見られたラムは、とっても満足だった。
「来てよかったス、楽しかったス。ありがとうございます、ラムさん」
「うふふ、楽しい思い出をありがと、モチドリ様♪」
にこ、と笑った奏の顔を、きっとラムは忘れない。最後にもう一度モチドリに『ちゅー』をして、ふたりは新たな年の訪れをお祝いした。
●モチドリ様といっしょ!
お祭りを楽しむ人々の喧噪から、少し離れた人気の無い場所で。ベンチに座っていたスウィンとイルドの前に、ちょこちょことだいだいを乗せたモチドリが姿を現した。
「モチドリ様発見! こんにちは、モチドリ様。なでなでしてもいいかしら?」
優しい声で語りかけたスウィンは、広げた手に元気よく飛び込んで来たモチドリをそっと抱っこして、よしよしと言うようにそのもっちりとした羽毛を撫でる。
「可愛い! ふかふか~♪」
物怖じしないモチドリの様子に、スウィンはうずうずと好奇心を隠せなくなって。つぶらな瞳を覗き込みながら、きゅんとした表情で真剣に尋ねた。
「お餅みたいに伸びるって事だけど……ちょっとだけ伸ばしてもいい?」
いいよ、と言うように「こけ」と鳴いたモチドリに、えいとばかりにスウィンの手が伸ばされて――まんまるのお腹をつまめば、本当にお餅のようにふよーんと伸びた。
「わあ、凄い♪」
「ほんとに餅そっくりなんだな」
神人のスキンシップを見守っていたイルドが、ぼそりと呟く。目つきが鋭く、一見無愛想に見える彼だが――実際は満更でもない事に、スウィンはちゃんと気付いていた。このだいだい、落ちたりしないのかしら――とスウィンはつんつんしつつ、なでなでが一段落したイルドへ向かって、とっておきの一言を放つ。
「それと、一緒にちゅーすればご利益があるとか」
「……っ!?」
ちゅー、と言う言葉に嫌な予感がしてイルドがスウィンを見遣れば、彼はきらきらした瞳でこちらを見つめていた。
「し、しないからな!」
「いいじゃない、折角だからやってみましょ! イルドは目を閉じてるだけでいいから!」
咄嗟に拒否の言葉がイルドの口から飛び出したけれど、そんな事でめげるスウィンではない。強引な説得に負けてイルドが渋々目を閉じると、スウィンが彼の唇にそっとモチドリのほっぺをあててきた。
(これって、反対側で……おっさんもキス、してるんだよな)
モチドリ越しにキスをする感覚に、知らず知らずイルドの胸はドキドキと高鳴って――ご利益あるかしら、なんてお茶目に呟くスウィンの声に、モチドリ様との『ちゅー』は恋愛の加護があるのだと思い出す。
(ご利益……俺とスウィンで?)
――いやいやいや。そこまで考えてイルドはぶんぶんと頭を振って、その考えを消した。
「さあて、次は屋台巡り~♪」
静寂から再び喧噪へ。ずらりと並んだ屋台を眺めて歩く内に、ふたりはモチドリ様のぬいぐるみを発見。早速購入したスウィンは、本物と比べてにこにこしている。
「ほらそっくり♪ イルドの家に飾りましょ☆ ちゃんと撫でに行くから!」
「何で俺の家なんだ?! 自分ちに飾れ!」
甘党ではないものの、甘党の神人に付き合ってしるこを啜っていたイルドは、いつの間にか我が家にやって来ることになったぬいぐるみを見て思わずツッコミを入れた。
――けれど、悪くないと思うのだ。こうやって他愛のないやり取りが出来るのも。照れ臭いから、口に出す事はしないけれど。
「で、おみくじな訳だが。鳥が引けんのか……すげーな」
ふたりが見守る中、社に設えたおみくじの山からモチドリが「よいしょ」と言うように紙片を引っ張って来て。撫でて労わったイルドがおみくじを開けば――それは何と宝くじだった。しかも期限がとっくに切れてる奴っぽい。
(変な結果も混ざってるとは聞いていたが……)
一方のスウィンのおみくじはと言うと、『我が麗しのお餅の君』と言うタイトルが付いた謎のポエムだった。果たしてこれは、おみくじと言えるのだろうか。
「どうもありがと♪ またいつか会いたいわ」
けれどもスウィンはモチドリに、おみくじと今日一緒に過ごしてくれた事へのお礼を言って。イルドも名残惜しそうに――本人はそう言う雰囲気を出している自覚は無く――手を振ってお別れをした。
「また、な……」
●トランスごっこに祈りをこめて
折角モチドリちゃんが祀られているんだから、彼女に囲まれた一日にしたいよねぇ――そう言って白い歯を見せて笑う鹿鳴館・リュウ・凛玖義に、琥珀・アンブラーは「はくも!」と勢いよく手を挙げて応えた。
「だって、餅みたいに柔らかい鳥なんでしょ? 頬ずりしてでも触りたいと思わない?」
「うんっ、はくもモチドリ楽しみ!」
渋く、彫りの深い顔立ちに似合わず――と言って良いのか、愛らしいモチドリを愛でる気満々の凛玖義。そんな彼に頷いて、舌っ足らずな口調で喜びを表現する琥珀――そんなふたりは、仲睦まじい親子のよう。
「というわけで、行くよ! 琥珀ちゃん!」
びしっと目的地を指差す凛玖義の髪には、彼お手製のモチドリ人形付きのカチューシャが飾られている。手作りで人形までこしらえてしまうのだから、凛玖義の意気込みも伝わると言うものだ。
「あ、モチドリちゃんカチューシャは、琥珀ちゃんの分もあるよ」
「って! りく、やめてよぅ」
嬉しそうな顔で、琥珀の髪にもカチューシャを付ける凛玖義。急な神人の贈り物に、琥珀はむずがるようにして慌てるが――内心では彼の心遣いが嬉しかった。
さて、そんな感じで準備を整えたふたりは、仲良く連れ立ってお祭りの屋台を覗いていく。ジェール硬貨をぎゅっと握りしめた琥珀は頬を上気させ、きらきらとした瞳で凛玖義を見上げた。
「はく、モチドリのグッズを買ってきたら、りくの分と一緒におしるこも買ってくるね!」
「ああ、琥珀ちゃん、気を付けて行っておいで」
ぱたぱたと元気に駆ける琥珀が先ず目指すのは、モチドリのペアストラップ売りのお店だ。りくとお揃いだね、と琥珀はふわりと微笑んで――おしるこを振る舞う屋台で、ふたりぶんのお椀を受け取る。
「ねえ、モチドリの形をしているお餅はある?」
「そうだねぇ、運が良ければ入ってるかもしれないよ」
にっこり笑う店主の言葉に、琥珀はぱっと顔を輝かせて。急いで凛玖義の元に返って来た彼は、石段の上にちょこんと座って熱々のおしるこを口に運んだ。
「一緒に食べると、おいしいね! ……あっ!」
その時琥珀の箸が、ふよんとしたまんまるのお餅を摘まむ。よく見るとそれはモチドリによく似ていて――凛玖義は良かったねぇと言って、優しく琥珀の頭を撫でた。
「しかし、モチドリ……様を見つけたら、どうしようか」
――と、そうしている内に、のんびりとモチドリがふたりの前にやって来た。わぁと顔を輝かせるふたりだったが――さて、と其処で凛玖義が琥珀の顔を覗き込む。
「ねぇ琥珀ちゃん。モチドリちゃ……様と、トランスごっこしちゃダメ?」
トランスごっことは、つまり『ちゅー』するという事で。琥珀は余り深く考えずに頷き、同意を得た凛玖義はモチドリにそっとくちづけをした。ごにょごにょと唱えたインスパイア・スペルは、勿論嘘のものだ。
「りくぅ、モチドリにちゅーしてもオーラ出ないよぅ」
けれど、そんな琥珀はちょっぴり不機嫌だった。モチドリを見つけたのはいいけれど、凛玖義がベタベタと甘え過ぎだったから。
「んもう! りくだけずるいっ! はくもモチドリにちゅーするっ!」
てくてくと歩み寄った琥珀も、モチドリに唇を寄せて――それは図らずも、モチドリ様への恋祈願となった。
「……琥珀ちゃん、もしかして妬いてる?」
「む、違うぅ。違うんだからぁ!」
ぽかぽかと凛玖義を叩く琥珀だが、その顔は照れたように赤くなっている。それでも、最後にモチドリ様頼みでおみくじを引く頃になると、ふたりはいつものふたりに戻っていた。
「僕は……小吉か。琥珀ちゃんは?」
「はくは、えっと……吉、だね」
――これから始まる新しい年を、ふたりで一緒に歩んでいこう。
●今年も仲良しのふたり
「もっもっもちどりー♪ ねーパパ。肩車してー」
「アイ……この人込みの中を、私に肩車しろというんですか?」
即興の愛らしい歌を口ずさみ、アイオライト・セプテンバーはよいしょ、と白露の背中を掴む。お祭りの為にふたりはおめかしをして、アイオライトは橙色の着物――そして白露は、白い着物で着飾っていた。
「橙のあたしが白いパパの上に来たら……モチドリごっこ!」
「まあ、勝手に動き回られて迷子になるよりはマシですけれども」
夏祭りの苦い記憶を思い出し、白露がはぁと溜息を零したが――その代わり、おとなしくしてくださいと言い聞かせる言葉は、本当の父親のようにしっかりしていて優しい。
「ようっし、このままモチドリ様のところまでれっつごー☆」
「って、アイっ……!」
大満足で肩の上で跳ねるアイオライトを、白露は必死に落とすまいと力をこめて。仲睦まじいふたりは肩車をしながら、新年のお祝いに沸く屋台を巡る。
「お雑煮食べたーい。でも、パパの頭じゃ食べられないね」
どうやら降りる気は更々ないアイオライトが、残念そうに言う。確かに、手元が狂って熱々のお雑煮が頭にぶちまけられたら、白露もたまったものではない。
「じゃあ帰りに食べようよ。行きはチョコバナナがいいなーあるかなー」
「はいはい、チョコバナナですね。なかったら綿菓子で我慢ですよ」
と、お祭りの定番ゆえか、チョコバナナのお店は直ぐに見つかった。にこにこ笑顔でチョコバナナを口にするアイオライトは気付いていないようだったが――白露はそこで、こちらをじっと観察している子供を見つける。
(チョコバナナが欲しいんでしょうか。よかったら、分けてあげるんですが)
その子は初恋の女神様が潜り込ませた、監視役の童子だったのだけど。白露が「食べますか?」と言うように童子に目配せすると、恥ずかしがり屋らしい彼はぴゅーっと逃げていって見えなくなった。
「あ、モチドリ様みーけっ。パパ、肩車降ろして」
気が付けば、お社の方まで足を伸ばしていたらしい。「こけこけ」と鳴いて、のんびりお散歩するモチドリを見つけたアイオライトが瞳を輝かせる。
「あたし自分で捕まえるっ。待てーきゃー鬼ごっこだーいっ」
ぴょんと元気よく地面に着地したアイオライトは、そのままびっくりするモチドリと追いかけっこを始めた。静かなお社が一気に賑やかになって――白露はやれやれといった様子で溜息を吐く。
「アイ、モチドリ様を苛めちゃいけません」
「わーい。ふにょふにょでいい気持ち。あたしのほっぺも、ふにょふにょだよ」
けれど、モチドリと戯れるアイオライトは本当に楽しそうで。ひとしきりなでなでをした後で、白露は「う」と硬直した。
「……えっと、ちゅーですか……」
「やるやるーあたし絶対パパと一緒にちゅーするのー」
ええい、と腹を括った白露は、すいませんと謝りながらアイオライトと一緒に『ちゅー』を終える。
「やったー! これで今年もパパとあたしは仲良しー!」
――それでも、この子の笑顔を見れたのなら良いだろうか。
「ええ、今年も二人でがんばりましょう」
モチドリ様が引いたおみくじは、アイオライトがハートいっぱいの『らぶ吉』で、白露が中吉だった。
「モチドリ様って、パパの好きなアヒルさんに似てるよねー」
「そういえば、そうですね」
そんな他愛のないやり取りが、楽しくて。物陰からウィンクルムたちを見守っていた童子は、そっと吐息を零した。
――モチドリ様への『ちゅー』も、姫が言うような破廉恥な物では無く、とても心が温まるものだった。恋や想いの形はそれぞれで、そのひとつひとつがかけがえのないもの。
この事を、姫様に伝えよう――そう童子は心に決めて、笑顔溢れる新年祭を後にした。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 柚烏 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 男性のみ |
エピソードジャンル | ハートフル |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 01月09日 |
出発日 | 01月19日 00:00 |
予定納品日 | 01月29日 |
参加者
- スウィン(イルド)
- アイオライト・セプテンバー(白露)
- 鹿鳴館・リュウ・凛玖義(琥珀・アンブラー)
- ロキ・メティス(ローレンツ・クーデルベル)
- 芹澤 奏(ラム・レイガード)
会議室
-
2015/01/18-23:14
-
2015/01/18-22:04
ラム:
やーーん、アイちゃんかわいこちゃーん!それに素直ね、正直者ね!ありがとっ!ラム嬉しい♪(ウィンク)
うふふー。パパさんもステキ☆だし、あたしアイちゃんのママになりたわぁ♪
あら。スウィンさんも可愛いわよぉ♪イルドちゃんも可愛いけ・ど☆
奏:
ラムさん今日もテンション高いっス。ついてけねぇっス…。
あ、プラン提出完了っス。
祭…人多い…でもモチドリ様可愛いっス…
-
2015/01/18-19:20
いやん、かわいこちゃんなんて~♪
イルド「絶対お前じゃないぞ?!」
冗談よぅ、イケメンさん。
皆久しぶり!お祭り楽しみましょうね♪ -
2015/01/16-23:24
アイ:
いやん。かわいこちゃんだなんて、そんな、もっと言ってーー♪
ラムさんも美人だよっ♪
白露:
アイ…誰もアイがかわいいと名指ししたわけでは……。
「優しそうなパパさん」は私のことでしょうか。
ありがとうございます。 -
2015/01/14-22:27
ラム:
きゃ!色んな人が集まったわねぇ♪
スウィンさん、イルドちゃん今回もよろしくぅー!
他は皆、はじめましてさんね!
ラムちゃんとカナちゃんよ♪よろしくお願いするわー♪
イケメンさんにかわいこちゃんに渋いおじさまに優しそうなパパさんに…うふふ、
皆の楽しんでる姿こっそり見てるわね、うふふ☆ -
2015/01/14-00:09
嘘です。自分から来ちゃいました。
鹿鳴館さんとスウィンさん以外は初めまして、でいいかな?
アイオライト・セプテンバーです。よろしくおねがいしまーす☆ -
2015/01/14-00:06
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2015/01/12-21:02
鹿鳴館さん家の凛玖義と相方の琥珀ちゃんだよ。
ロキ君、奏君はお初だね。スウィン君は久しぶりかな。
というわけでよろしく。
僕も琥珀ちゃんもモチドリちゃんが気になるからねぇ、
何かを食べながら、彼女を追っかける予定だよ。
琥珀:
りくぅ、モチドリって女の子なの?
凛玖義:
ううん、僕の想像。
琥珀:
んもう、りく!変なこと言わないっ!(ぷんすか)
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2015/01/12-20:22
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2015/01/12-20:08
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2015/01/12-00:39
こんにちはー!
芹澤 奏ちゃんの精霊、ラム・レイガードよー♪
よろしくぅー!!