桃色ラブ・トラップ(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 タブロス市郊外に、目に鮮やかなパッションピンクの建物があります。
 その建物の前には、いつもカップルの行列が出来ていました。
 そう、ここは知る人ぞ知る『桃色食堂』。
 お袋の味や美味しいスイーツが楽しめる人気スポットです。
 美味しい食事やスイーツを恋人と楽しむ為に、今日もカップル達は店の前に並びます。

「桃太郎クン。私、決めたわ!」
「どうしたんですか? ハルカ店長」
 ピンク色の猫の着ぐるみが、これまたピンクの『魔法少女』な出で立ちの女性に首を傾けました。
「年納めのパーティイベントがしたいの!」
 ハート型のステッキを握り締め、桃色食堂の店長──ハルカ店長は瞳をキラキラさせます。
「私にはピーンと来ましたよ、店長」
 桃色食堂のマスコット──桃太郎は、キラリと瞳を光らせました。
「また、合法的にウィンクルムの方々を呼んで堪能するッスね」
「ふふふ……桃太郎クンも分かってるじゃないの♪」
 二人は顔を見合わせてから、店内に響く高笑いを響かせるのでした。

 A.R.O.A.に、桃色食堂から招待状が届いたのは、それから暫く経っての事。

 ※

「皆さん、ようこそ『桃色食堂』へ!」
 貴方達の前で、ピンクの猫の着ぐるみが元気にお辞儀をしました。
「今日は、いつもと少し違って、アグレッシブに皆さんをおもてなしするッスよ!」
 アグレッシブ?
 貴方達は思わずパートナーと顔を見合わせます。
 今回も、『行列に並ばなくても食堂でデザートを楽しめる』と聞いてやって来たのですが、何だか少し違う?

「パンパカパーン☆ まずは『壁ドン』のコーナー!」
 桃太郎に案内されるまま、店内に足を踏み入れた貴方達に、桃太郎がいきなり大きな声を上げます。
「ここでは、皆さんに『壁ドン』をやって貰います!」
 そこには、『壁ドンスペース』と書かれた壁がありました。
「皆さん、壁ドンはご存知ッスか? 壁際にお相手を追い詰めて、ドン!とこうやって腕を付いて、腕と壁でその人を囲むヤツッスよ」
「良い壁ドンをくれた方々には、シュークリームを進呈するわ♪」
 カメラを構えたハルカ店長の隣に、美味しそうなシュークリームが並んでいます。

「その次は、『肩ズン』コーナー!」
 桃太郎が案内した先には、ピンク色の二人用ソファーが並んでいました。
「『肩ズン』とは、お相手の肩にズーン!と頭をもたれるようにして、甘えるヤツッス!」
「壁ドンもいいけど、肩ズンはギャップ萌えよねー♪」
 ハルカ店長は、カメラを手にテンションが上がっています。
「良い肩ズンを見せつけてくれた人には、杏仁豆腐を進呈するッス!」
 真っ白な杏仁豆腐が、魅力的にプルプル震えていました。

「最後は、『お姫様抱っこ』のコーナー!」
 桃太郎が示した先には、まるで玉座のような椅子があります。
「抱き上げるのが難しい方は、ここに座ってお姫様抱っこするッス♪」
「お姫様抱っこ、これは外せないわっ!」
 カメラを持ったハルカ店長の背後に、燃え盛るナニカがありました。
「良いお姫様抱っこを披露してくれた人には、お好きなパフェをプレゼントするッス!」
 ストロベリーパフェ、チョコレートパフェ、抹茶パフェ、ティラミスパフェ。魅力的なパフェが色鮮やかに並んでいます。

 ……どうする?
 貴方とパートナーは顔を見合わせたのでした。

解説

【桃色食堂】で、『壁ドン』『肩ズン』『お姫様抱っこ』をして、美味しいデザートを頂こう!というエピソードです。

皆様はお好きなものに挑戦して、スイーツをゲットして下さい!
勿論、全部に挑戦頂いて問題ありません。
なお、『壁ドン』『肩ズン』『お姫様抱っこ』をしないと、デザートは食べられません。
ここは、素敵スイーツのため、パートナーと頑張りましょう!

ちなみに、神人さんと精霊さん、どちらがドンやズンや抱っこをするかは、問いません。
また、わざと解釈を間違った肩ズン(肩にズン?→後ろから肩に掴まっておんぶお化け)などを披露するのも良いでしょう。

参加費用として、一律300Jr掛かりますので、あらかじめご了承ください。
希望者には、ハルカ店長が撮影した写真も貰えます。

<登場するNPC>
・ハルカ店長(35歳):こよなくピンクとコイバナ、そしてコスプレを愛する【桃色食堂】の店長。カメラを手に萌えています。
・桃太郎(中の人など居ない):一応♂らしい。気を抜くと敬語を忘れる癖があります。皆さんの案内役をします。

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『壁ドンより肩ズン派!』の雪花菜 凛(きらず りん)です。

【七色食堂】で登場した【桃色食堂】が、よりイチャラブを求めて無茶振りに来ました!
……年の瀬らしいハピネスを考えていた筈が、何故かこんな事になっていました、不思議だなぁ(棒読み)

『し、仕方ないよね? デザートのためだもん! か、勘違いしないでよねっ!』
『普段奥手の彼と、接近するチャーンス!』
などなノリで、今回も楽しんで頂けたらと思いますっ。

皆様の『壁ドン』『肩ズン』『お姫様抱っこ』、楽しみにさせて頂きます♪。

素敵なアクションをお待ちしております!

リザルトノベル

◆アクション・プラン

マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)

  桃色食堂のデザートが食べられるって聞いて
ウキウキして来ましたけれど
そ、そう言えばここはそうでしたわね…!

サフラン、ぼうっとしていますけれど
好きなパフェでもありました?
私はチョコレートパフェが良いですわっ

サフランがお姫様抱っこを選んだので
今回はそれで挑戦してみます
さあ、カモン!ですわ!
と両手を開いて合図をします

ひ、人前だとやっぱりちょっと恥ずかしいですわね
サフラン、重くないです?
手がしびれたりしたら遠慮せずおろして下さいな

って、どうして顔を逸らすんですの?
顔が良く見えないので
サフランの肩に頭を乗せて逸らした顔を見上げます

どどどどうしてそのまま移動するんですの!?
じっ自分で歩けます!歩けますわっ



ミサ・フルール(エミリオ・シュトルツ)
  ☆心情
シュークリームに杏仁豆腐にパフェ、どれも美味しそうっ♪
全部食べてみたいけど…うう、最近美味しいもの食べすぎて体重が…(汗)
好きな人の前では綺麗でいたいもの、我慢しなくちゃ(涙目で俯く)

☆【お姫様抱っこ】を選択
私、お腹の調子が悪いから今日は1つだけでいいや(嘘)
決められないからエミリオさんが選んでよ

パフェを食べるには…お姫様抱っこ!?
(エミリオさんにお姫様抱っこしてもらいたいけど、重くなったってバレたらどうしよう…!ええい、こうなったら私が!)

よし!私がエミリオさんを抱っこ・・あいた!?(精霊にデコピンされる)
エミリオさん…ありがと(精霊の温かい愛情を受け、泣きそうになる)
私も貴方が大好き



淡島 咲(イヴェリア・ルーツ)
  いえ…その並ばなくてもと言われても必要なら並ぶつもりだったのですが。
壁ドン、肩ズン、お姫様抱っこ…ど、どれも想像するだけで恥ずかしいのですが…。
えっ?お姫様抱っこで行くってなんでイヴェさんそんなにノリノリなんですか!
パ、パフェは私も食べたいですけど…わかりました。お姫様抱っこで行きましょう。私はストロベリーパフェが食べたいです。

うぅ、恥ずかしいです…イヴェさん重くないですか大丈夫ですか?…やっぱり男の人ですね力持ちです。
お姫様抱っこ…私が姫ならイヴェさんが王子様ですかね?

パフェ美味しいです。
イヴェさんが甘いものがあんまり得意でないのは知っていますが…
「王子様?あーんしてくださいね」
仕返しですよ



ニーナ・ルアルディ(グレン・カーヴェル)
  グレン楽しそう…本当に甘い物好きですね。
ここはグレンのためにも頑張るしか…っ。

壁:
あのっ、これってこんなに距離近いものでしたっけ!?
私絶対に最後まで逃げませんからっ
うぅ、顔が近すぎて直視出来ないです…っ
何だか私ばっかり慌てたりドキドキしたりでずるいです…

肩:
少し疲れてます?
遅くまで部屋の電気ついてるみたいですし心配です…
何かしてあげられればいいんですけど、
今度お茶を持って行きましょうか。

姫:
指輪つけててくれてるんですね、嬉しいです。
結果的にお揃いになってしまいましたけど、嫌がられてはいない、のかな…

お菓子沢山貰いましたけど…グレンにあげます。
甘い物沢山で幸せそうにしてるし、これでいいんです。



オーレリア・テンノージャ(カナメ・グッドフェロー)
  あまりにカナメさんが大喜びしているものですから、心配でついてきてしまいました。

かべどん?かたずん?何のことでしょうか…。

◆肩ズン
私の方が少し大きいので、屈まないといけませんね
…カナメさんが肩で喋ると、丁度肩がほぐれて心地良いのですが
余りこれは言わない方がいいかしら?

◆姫抱っこ

「…カナメさん?私、きっと重いですよ?」

私を抱っこだなんて、潰れて怪我をしないかしら…
かといって、私もカナメさんを抱っこなんて、出来るかしら。

困っているうちに、抱き上げられてしまいました。

細い腕なのに、思っていたよりずっと力強い
子供だと思っていたのに…びっくりしてしまいます

…けれど、お菓子ではしゃぐ姿はやっぱり子供ですね


●1.

 大事なのは、サクと触れ合う事。これに限る。

「いえ……その『並ばなくても』と言われても……必要なら並ぶつもりだったのですが」
 桃色の店内で恥ずかしそうに頬を染めるパートナー、淡島 咲を見つめて、イヴェリア・ルーツは静かに思考を巡らしていた。
(壁ドン、肩ズン、お姫様抱っこ……この中で一番サクと触れ合うことが出来るのは……お姫様抱っこか……)
 イヴェリアの金の瞳が、玉座のような椅子がある『お姫様抱っこ』のコーナーに注がれる。
 パフェは色々な種類があるし、きっと咲が好きなものもある筈だ。そうと決まれば、悩む事はもうない。
 一方、咲は壁ドンの壁、肩ズンのソファー、お姫様抱っこの玉座を見つめ、青の瞳を揺らしていた。
(壁ドン、肩ズン、お姫様抱っこ……ど、どれも想像するだけで恥ずかしいのですが……)
「よし、サク、俺がサクをお姫様抱っこをする。そうすればパフェも食べられる筈だ」
「え?」
 サラリと隣から言われた言葉に、顔を上げてイヴェリアを見上げる。
「お姫様抱っこ……ですかっ?」
(なんでイヴェさんそんなにノリノリなんですか!)
 咲の視線を受け止めて、イヴェリアは微笑んだ。
「パフェ、食べたいだろう?」
「パ、パフェは私も食べたいですけど……」
 見本のパフェが並ぶ桃色レースのテーブルに視線を向ければ、店長と桃太郎がグッと親指を立ててくる。
 視線を戻せば、イヴェリアが真っ直ぐにこちらを見つめていた。
 その視線に、胸が熱くなるのを感じながら、咲は小さく頷く。
「わかりました。お姫様抱っこで行きましょう」
「そうしよう」
 イヴェリアが嬉しそうに瞳を細めるのに、咲の心臓が跳ねた。
「では、行こう」
 言うなり、咲の身体が逞しい腕に抱えられた。
「きゃ……」
 浮遊感に思わずしがみつけば、近くに端正なイヴェリアの顔。
(うぅ、恥ずかしいです……)
 頬が熱くなるのを感じながら、咲は慌てて腕の力を緩めた。と言っても、この体制では距離を取れる訳もなく、吐息が掛かる程の近さは変わらない。
 クスッとイヴェリアが笑った。
「照れてるサクはやっぱり可愛いな」
 彼女の仕草や反応、一つ一つが愛おしくて堪らない。
「……イヴェさん重くないですか? 大丈夫ですか?」
 耳まで赤くなってしまいつつ、咲は一番心配な事を尋ねた。
「とんでもない。軽い」
 即座に返ってきた彼の答えに、咲はホッと安堵の吐息を吐く。
(……やっぱり男の人ですね。力持ちです)
「こんな軽い体でサクはいつも頑張ってるんだな……」
「え?」
「これからもサクの事は俺が守っていきたい」
 真摯な眼差しが咲を射抜く。
 答えの代わりに、咲は密やかに彼の首に回した手に力を込めた。
「お姫様抱っこはいかがですか、お姫様?」
「私が姫なら、イヴェさんが王子様ですかね?」
 顔を見合わせて微笑んだ瞬間、シャッターを切る音が聞こえる。
「しまったな。抱き上げたのはいいが離しがたくなってしまったな……」
 恥ずかしさに彼の肩口に顔を埋めれば、そんな彼の呟きが聞こえて、咲は微かな声で囁いた。
「私もです……」

 咲が選んだのはストロベリーパフェ。
 二人用にテーブルに並んで座って、咲は苺とホイップクリーム、バニラアイスをスプーンに掬った。
(イヴェさんが甘いものがあんまり得意でないのは知っていますが……)
「王子様? あーんしてくださいね」
 そう微笑んで、スプーンをイヴェリアの口元へと運ぶ。
 イヴェリアは一時停止してから、咲とスプーンを見比べた。
(反則だろうこの可愛さ)
 スプーンに載ったものをパクリと一口すれば、口の中に甘さが広がっていく。
「どうですか?」
 これは咲なりの、お姫様抱っこへの仕返しなのだ。首を傾けて尋ねたら、イヴェリアが小さく口を開く。
「甘いな……確かに甘いものは得意ではないが、一口程度ならわりと平気なんだ」
 そこで、咲はイヴェリアの頬が紅潮しているのに気付いた。
「が……寧ろ、このあ~んてされた事へのダメージの方が強いな」
 反則すぎ。
 そう言われて、咲の頬もまた真っ赤に染まったのだった。


●2.

 美味しいスイーツには、女の子にはキケンな罠が詰まっている。

(シュークリームに杏仁豆腐にパフェ、どれも美味しそうっ♪ 全部食べてみたいけど……でも……)
 ミサ・フルールはぎゅっと拳を握った。
(うう、最近美味しいもの食べすぎて体重が……)
 周囲の人間から見れば、どこが!?という状態だが、ミサはそうは思っていない。
 隣で店内を見渡すパートナー、エミリオ・シュトルツをチラッと見て、ミサは決意を新たにする。
(好きな人の前では綺麗で居たいもの、我慢しなくちゃ)
 涙目で俯いてから、ミサは口を開いた。
「私、お腹の調子が悪いから今日は一つだけでいいや」
「え?」
 エミリオが紅の瞳を丸くしてミサを見つめる。
「決められないからエミリオさんが選んでよ」
 にっこり微笑むミサに、エミリオは内心首を捻った。
(いつもなら全部食べたいって言うのに、どうしたんだろう)
「俺が選んでいいの?」
「うん! エミリオさんが選んで」
 重ねて確認するも、ミサはニコニコ笑顔。エミリオは少し考えてから頷いた。
「それじゃあパフェが食べたい」
「わかった! それじゃ、パフェを食べるには……」
「お姫様抱っこッスね!」
 桃色の猫から返事が返って来て、今度はミサが目を丸くする。
「お姫様抱っこ!?」
(ど、どどどどどどーしよう!?)
 お姫様抱っことは、言わずもがな両手でパートナーを抱え上げる──結婚式とかで新郎新婦が良くやるアレだ。
 という事は、エミリオがミサを持ち上げる事になる訳で。
 それは本来、とても嬉しく幸せな事なのだけれども──今のミサには少し違った。
(エミリオさんにお姫様抱っこしてもらいたいけど、重くなったってバレたらどうしよう……!)
「ミサ、どうかした?」
 覗き込んでくるエミリオに顔を上げて、ミサはキッと視線を向ける。こうなったら、コレしかない。
「よし!」
「ミサ?」
 嫌な予感に、エミリオが少し眉を潜めた。
「エミリオさん」
 じっとそんな彼を見つめ、両手を構えて、ミサはエミリオにじわじわ迫る。
「私がエミリオさんを抱っこ……」
 ぺしっ
「あいた!?」
 ピリリと痛みが走って、ミサは両手で額を押さえた。
「全くミサが俺を抱きかかえてどうすんのさ」
 デコピンした指を引きながら、エミリオの呆れた眼差しがミサに注がれている。
「だ、だって……」
 じわっと涙目になったミサに、エミリオは顔を近付けて微笑んだ。
「知ってる? 男の腕が逞しくできているのは愛しい女性を抱える為なんだ」
 次の瞬間、ふわりとミサの身体は浮く。
「あ……」
 実に軽々とミサの身体をお姫様抱っこして、エミリオは店長と桃太郎に見せ付けた。
 そのまま玉座まで歩くと、ゆっくりとミサをその上に下ろす。
 驚きで固まっているミサの前に跪くと、エミリオは彼女を手を取って、恭しく口付けた。
「ミサが、俺がどんなに醜い姿を晒しても……逃げずに『好きだ』と言ってくれたように──俺もお前のどんな姿を見ても、好きでい続ける」
 真っ直ぐに見つめて、エミリオは誓うようにそう言う。
「エミリオさん……ありがと」
 彼の言葉が温かく胸に響く。熱いものが込み上げてきて、ミサは泣きそうになりながら、彼へ微笑みを返した。
「私も貴方が大好き」
 ふわっとエミリオが微笑んで、二人は見つめ合った。
 もう一度ミサの手に口付けてから、エミリオは立ち上がり店長と桃太郎を振り返る。
「今のは抱っこはどうだった? 俺の可愛い姫にストロベリーパフェを食べさせてはくれないかな」
「勿論」「合格ッスー!!」
 ミサとエミリオは、ストロベリーパフェを美味しく頂けたのだった。


●3.

「おっかし、おっかし~♪」
 カナメ・グッドフェローは、キョロキョロと桃色な店内を見渡した。
「よくわかんないけど、オリィさんと写真撮ってもらえばいいのかな?」
 くるっと振り返って尋ねれば、パートナーのオーレリア・テンノージャは、困ったように首を傾けた。
「かべどん? かたずん? 何のことでしょうか」
 それをしなければ、スイーツは食べられないらしい。
(あまりにカナメさんが大喜びしているものですから、心配でついてきてしまいましたが……)
 彼にスイーツを食べさせてあげたいけれど、その手伝いが出来るだろうか?
 オーレリアが考えていると、くいっとカナメがその手を引いてくる。
「オリィさん、こっち!」
 ぐいぐいと引っ張って来られたのは、ピンクのソファーが並ぶ『肩ズン』コーナーだった。
「オリィさん、座って座って♪ 俺に背中を向けてね」
 カナメに言われるままソファーに座ると、背後からこんな声が聞こえた。
「……えーっと、肩に頭を乗っければいいんだよね」
(私の方が少し大きいので、屈まないといけませんね)
 オーレリアが少し身を屈めると、トンと肩にカナメの顎が乗った。
「肩にズーン♪」
「あら……」
 カナメが喋ると、肩に乗った顎から振動が肩へ伝う。
(……カナメさんが肩で喋ると、丁度肩がほぐれて心地良いですね)
「こう? これであってる?」
 カナメがキラキラした瞳を向ければ、店長がシャッターを切る音がした。
「いいわね! いいわね!」
「何だか和むッスね、店長♪」
 桃色の猫が、『合格』と書かれたプラカードを上げる。
「わ~やったやった~♪」
「よかったですねぇ」
(肩がほぐれて心地よい事は、言わない方がいいかしら……ね)
 喜ぶカナメに後ろから抱きつかれながら、オーレリアはこっそりと心で呟いた。
「ぷるっぷるだ~♪」
「上品な甘さですね」
 早速二人で貰った杏仁豆腐を堪能する。
「ごちそうさま~♪ あっという間に食べ終わっちゃった……!」
 空の器を眺めて、カナメはさっと立ち上がった。
「オリィさん、次行こう!」
 カナメの食べ足りない様子にオーレリアはやんわりと笑い、再び彼に手を引かれて移動する。
「次はね~パフェ~♪」
 玉座のような椅子のあるコーナーに来て、オーレリアは焦った。
「……カナメさん? 私、きっと重いですよ?」
 まだ幼い少年であるカナメに、お姫様抱っこなんて出来ると思えない。
(私を抱っこだなんて、潰れて怪我をしないかしら……かといって、私もカナメさんを抱っこなんて、出来るかしら)
 どうしましょう?と、考えを巡らせるオーレリアに、カナメはVサインをする。
「大丈夫だよ! 僕、精霊だから、オリィさんよりずーっと力だってあるんだ!」
 そう言って、周囲を見渡せば、パートナーをお姫様抱っこする精霊達の姿が視界に入った。
(えーっと、手をこうやって……こう!)
「!?」
 見よう見真似で、カナメはオーレリアを両手で抱え上げた。
 床にしっかり両足を付け、踏ん張る。
「か、カナメさん? 大丈夫ですか?」
「へーき、へーき!」
 絶対に落とさない。
 オーレリアに怪我をさせる訳には行かない。
(細い腕なのに、思っていたよりずっと力強い。子供だと思っていたのに……)
 オーレリアは只々驚きながら、彼の負担にならないよう身動ぎを耐える。
「合格ー!!」
「もういいッよー!」
 店長がシャッターを切り、猫が直ぐに合格のプラカードを上げた。
「凄かったわねぇ♪」
「小さいのに、凄いッス!」
「えへへ~」
 オーレリアを玉座に下ろしてから、カナメは店長と猫に褒められ、満面の笑みを見せる。
「えーっとね、僕、いちごがいいなぁっ」
 カナメの注文に、二人へストロベリーパフェが届けられた。
「いちごがおっきいよ、オリィさん! 一緒に食べよ♪」
 幸せそうなカナメの顔を眺め、オーレリアは瞳を細める。
「えっへへ、お菓子って食べるとしあわせだよね~」
(お菓子ではしゃぐ姿はやっぱり子供ですね)
 テーブル席に並んで座り、二人は笑顔でパフェを食べるのだった。


●4.

「あ? 全部参加して貰えるもんは全部貰いに行くに決まってんだろ」
 きっぱりと言い切るグレン・カーヴェルに、ニーナ・ルアルディは『そうですよね』と頷いた。
(グレン楽しそう……本当に甘い物好きですね)
 活き活きと輝く彼の瞳に、ニーナは拳を握る。
(ここはグレンのためにも頑張るしか……っ)
 しかし。
(甘いもんタダで貰える上に、ニーナからかって遊べるとかいいイベントじゃねーの)
 グレンがそんな事を考えているとは、ニーナは知る由もなかったのだった。

 ドン!
 壁にグレンが手を付いた。そして、ニーナは固まった。
「あのっ……」
 息が掛かる距離にグレンの整った顔がある。
「これってこんなに距離近いものでしたっけ!?」
「あ? 違うのか?」
 しれっとそう言いながら、グレンは片腕をニーナの腰に回した。
(逃さねー)
 壁の腕と、腰に回った腕。ニーナは逃げようもない。
「これくらいしとかねーと」
 微笑むグレンに、ニーナは思わずぎゅっと目を瞑った。けれど、全てはスイーツのためだ。
「私絶対に最後まで逃げませんからっ」
 ニーナが真っ赤な顔で瞳を開け、決意の眼差しを向ければ、グレンは喉を鳴らして笑う。
 その微笑みに、ニーナは再び目を閉じてしまった。
(うぅ、顔が近すぎて直視出来ないです……っ)
「目を閉じてどーしたんだよ? ……キスでもして欲しいのか?」
 耳元で笑みを含んだ声がすれば、心臓がうるさいくらいにドキドキと脈打つ。
(何だか私ばっかり慌てたりドキドキしたりでずるいです……)

「合格ー!!」
「当然だな」
「一気に疲れました……!」
 結局、タイムアップのその時まで、ドキドキしっぱなしとなったけれども、ニーナはグレンと共にシュークリームをゲットしたのだった。
「私の分は、グレンさんにあげますね」
「クリームが丁度良い甘さで美味い」

 次に二人がやって来たのは、『肩ズン』のコーナー。
 桃色のソファーに並んで腰を下ろせば、直ぐにグレンがニーナの肩に頭を乗せた。
(こ、これも近いけど……さっきの壁ドンに比べたら……!)
 ニーナは平常心平常心と心で呟きつつ、深呼吸する。
 すーっ、すーっ……。
(あれ?)
 寝息が聞こえて、ニーナは驚いて肩に凭れるグレンの顔を見た。
 長い睫毛を揺らして、寝ている。
(少し疲れてます?)
 彼の顔に僅か疲労の色を見取って、ニーナは表情を曇らせた。
 最近、遅くまで彼の部屋の電気が付いているのを知っている。何をしているかは知らないけれど……少し心配だった。
(何かしてあげられればいいんですけど……)
「……無理、しないで下さいね」
 そっと髪に触れて撫でる。
(今度、お茶を持って行きましょうか)

 そしてタイムアップ。
「……寝てたのか」
「少しの間でしたけど」
(寝てなかったからな……)
 グレンは最近、夜に医学の勉強をしている。ニーナには話していないし、話す気もない。そんな照れ臭い事は言えない。
「疲れている時は甘いものですよ」
「これもなかなかイケるじゃねーの」
 グレンは、二人分のプルプルの杏仁豆腐を楽しんだ。

 最後に二人が来たのは、『お姫様抱っこ』のコーナー。
 当然とばかりにグレンはニーナを抱き上げたのだが。
(慌てるかと思ったら、意外と大人しいじゃねーの)
「指輪……つけててくれてるんですね、嬉しいです」
 彼の手に光る指輪に瞳を細め、ニーナが嬉しそうにはにかむ。
「……まぁな」
 ニーナが選んだ物だからこそ気に入っている。彼女へは言わないけれど。
(結果的にお揃いになってしまいましたけど、嫌がられてはいない、のかな……)
 ニーナは、心に温かい何かが満ちていくのを感じた。
(私、どうしてこんなにドキドキして……けれど安心して、嬉しいんでしょう……?)
「恋する乙女な表情、頂きよ~♪」
 シャッター音と、店長の声にニーナはハッとする。
(恋? これは……恋なのでしょうか?)

「おい、さっき撮ってた写真を寄越せ」
 帰り掛けに、グレンがニーナに隠れてこっそり桃太郎に声を掛けると、彼はどこからとも無く写真の束を取り出した。
「勿論、良いッスよ! どれにしますか? どれも彼女サン、可愛いッスよ♪」
「彼女……」
 桃太郎の言葉にグレンは停止する。
(彼女、か……)
 自分にとって、ニーナはどういう存在なのだろうか?
 グレンはその意味を考え始めていた。


●5.

 スイーツを食べたければ、イチャラブシーン(?)を。
(そ、そう言えばここはそうでしたわね……!)
 マリーゴールド=エンデは、キラキラ期待の眼差しを見つめてくる店長と桃太郎の姿に、うっと怯んだ。
 桃色食堂のデザートが食べられると聞いてウキウキして来たのだが、こんな罠があるなんて。
 一緒に来たパートナー、サフラン=アンファングを見上げれば、彼は真剣な顔で顎に手を当てていた。
(壁ドン?肩ズン?って何だ……?)
「サフラン、ぼうっとしていますけれど……好きなパフェでもありました?」
「ん? あ、いや、何でもない」
 マリーゴールドの声に思考から戻ってくると、サフランはふるっと首を振った。
 彼の髪を結っているリボンが揺れる。
 そのリボンが、クリスマスに自分がプレゼントしたものだと再確認すると、マリーゴールドの頬が緩んだ。
 無意識に、耳を飾るイヤリングに触れる。サフランからのプレゼントである虹色の花が、キラキラと光った。
「前に来た時の事を思いだしていただけだよ」
「うふふ、前に来た時は、肉じゃがと味噌汁、美味しかったですわよね♪」
 思い出してほっこりしてから、マリーゴールドは表情を引き締めた。
「どれに挑戦します? サフラン」
「んーそうだな、『アレ』カナ」
 サフランが指差す先には、どーんと玉座が構える『お姫様抱っこ』のコーナー。
 サフランが正解を知っているのは、唯一これだけだった。
「狙うはパフェですわね!」
 マリーゴールドはコクリと頷いた。
「私(わたくし)はチョコレートパフェが良いですわっ」
「俺は抹茶にしようかな」
 二人は玉座の前へと歩いて行く。
 店長と桃太郎のキラキラした視線を浴びながら、マリーゴールドは両手を広げた。
「さあ、カモン! ですわ!」
(何ともやり難いケド、これはゲームのようなものダカラ、ネ)
 サフランは小さく息を吐き出してから、身を少し屈めて、マリーゴールドの身体を両手で持ち上げる。
「!」
 軽々と持ち上げられて、マリーゴールドは思わずぎゅっとサフランの服を掴んだ。
 高い視界。サフランの体温。その鼓動まで聞こえてくる。
 頬が熱くなるのを感じて、マリーゴールドは慌てて口を開いた。
「ひ、人前だとやっぱりちょっと恥ずかしいですわね」
 人前というだけ?
 その他にも理由はあるような気がするが、今はクラクラする熱のような熱さに上手く考えられない。
「サフラン、重くないです?」
「いや、そんなに重くはないけどネ」
「手が痺れたりしたら遠慮せず降ろして下さいな」
 マリーゴールドの言葉にサフランは笑って、それからふと真剣な顔になる。
「いつもと身長差が微妙に違うから、視点が新鮮と言うか、シャンプーが良い香りというか……」
「えっ?」
(って俺は何を言おうとしたんデスカネ)
 サフランは口を閉ざすと、マリーゴールドから顔を背けた。
 何を言おうとしたかは、何となく分かっている。これ以上変な事を口走る前に、黙ってしまうのが得策だった。
「って、どうして顔を逸らすんですの?」
 マリーゴールドが不思議そうに、彼の肩に頭を乗せ、逸らした顔を見上げようとしてくる。
「ナンデモナイ」
「何でもなかったら、どうして顔を背けるんですのっ」
「店長さん達、コレ、合格ってことでイイ?」
「OKよ♪」
 店長がカメラを振り、桃太郎が『合格』のプラカードを振った。
「合格ダッテ」
「やりましたわっ!」
 瞳を輝かせるマリーゴールドに口元を上げ、サフランは彼女を抱き上げたまま歩き出す。
「どどどどうしてそのまま移動するんですの!?」
 マリーゴールドが頬を染めて吃った。
「イーカライーカラ」
「じっ自分で歩けます! 歩けますわっ」
「ヤダ、マリーゴールドサンッタラカルーイ」
「サフラン、降ろしてくださいなっ」
「オコトワリシマス」
 サフランはテーブル席までマリーゴールドを連れて行くと、椅子に下ろした。
「乗り心地はいかがでしたカ?」
「もう、知りませんわっ」
 真っ赤な顔でぷいっと顔を背けるマリーゴールドに、サフランは楽しそうに笑ったのだった。

Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:マリーゴールド=エンデ
呼び名:マリー
  名前:サフラン=アンファング
呼び名:サフラン

 

名前:オーレリア・テンノージャ
呼び名:オリィさん
  名前:カナメ・グッドフェロー
呼び名:カナメさん

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月20日
出発日 12月25日 00:00
予定納品日 01月04日

参加者

会議室


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