【愛の鐘】ナンパな貴族様(木口アキノ マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 ホワイト・ヒル最大のダンスホール、メリー・ホワイト・ホール。
 ここでは、聖夜の恋人たちが幸せな時間を過ごせるよう、毎年クリスマス舞踏会が開かれます。
 とは言ってもそれほどかしこまったものではなく、村の若者がお気に入りの服を着て訪れ、我流のダンスで楽しむという気軽な舞踏会。
 もちろん、フォーマルなドレスの女性や燕尾服の若者もいますが、基本的には自分の好きなコーディネートで構いません。

 ホールの天窓はステンドグラス。壁には生花が飾られ花園にいるような良い香りでホール中が包まれています。中央には屋内にも関わらず大きな噴水。シャンデリアの光を浴びて水がきらきらと輝きます。
 踊り疲れたらホールの端の休憩スペースへどうぞ。
 美味しい紅茶にスパークリングワイン、チョコレートとミニケーキ、スコーンも用意しています。

 あなたも、大切な人と一緒にあなたが一番魅力的になれるコーディネートで参加してくださいね。


 そして、噂に聞いたお話なんですが……。
 今回の舞踏会には、さる国の王族の血を引く貴族様がお忍びでいらっしゃるそうですよ!
 なんでも、花嫁候補を探しているとのもっぱらの噂。
 魅力の高い女性を見つけては声をかけるとのことですから、もしかしたらあなたにも……?
 貴族様はなかなか強引な方なようです。
 声をかけられたら、一緒に踊る?それとも断る?
 そしてもし、プロポーズをされたりしたら……!
 ああでも、そんな時、あなたの精霊はどんな反応なんでしょう。
 それを考えると、ちょっと怖い気もしますね……。

 ともあれ!
 この舞踏会は参加した皆様の幸せの力でクリスマスを成功に導き、世界に夢と希望をもたらすことにもつながります。
 世界の夢と希望のためにも、是非舞踏会で幸せになってください。

解説

 参加費(神人と精霊の2人ぶん)1000Jr

 貴族データ
 名前はライル・アナトリエ。21歳。
 海の向こう、西の国から遊学でミッドランドに来ている。
 プラチナブロンドの髪に碧の眼。身長は188センチ、自国ではモデル経験もあるらしい。
 花嫁探しを口実に、趣味で女性に声をかけまくっているとかいないとか。「女の子はみんな必ずチャームポイントがあるんだよ」だそうで、特に好みのタイプはないらしい。むしろ、全ての女性が好みのタイプらしい。いやはや。


ゲームマスターより

 舞踏会で精霊と2人でロマンチックなクリスマスナイト!
 のはずが、なんだかちょっとお邪魔虫が?
 軟派で軽い貴族様みたいですが、あなたの魅力が高かったりしたら、本気になってしまうかも!
 

リザルトノベル

◆アクション・プラン

リヴィエラ(ロジェ)

  リヴィエラ:

(神人、精霊共にアドリブOK)
※服装は青のドレス

・ダンス中
あ、あの…ダンスの嗜みがなくて申し訳ございません…
でもロジェ様と舞踏会に来れるなんて嬉しいです。
(ロジェの足を踏んで思い切り彼の胸にぶつかってしまう)
きゃっ、ご、ごめんなさい…恥ずかしい…

・休憩中
ライル様と仰るのですか? あ、あの、お会いできて光栄です…
(ロジェの背に隠れ)えっ、いえその、私は、この方と一緒に来ているので…
い、嫌…手を離してください、困ります…っ!
私はこの方が…ロジェ様が好き。愛しているのです。
で、ですから、その…きゃっ、ろ、ロジェ様!?
ロジェ様、どうか落ち着いてください、私はどこにも行きませんから…っ



ファリエリータ・ディアル(ヴァルフレード・ソルジェ)
  すっごく綺麗なホール! こんな所で舞踏会だなんて素敵っ!
ダンスはあまり踊った事無いけど、転ばない様にすれば大丈夫よね?

わあ、紅茶やお菓子も用意されてるのねっ。
踊り疲れたらヴァルと一緒に楽しむわっ。

え? 貴族様……?
(へー、貴族の人ってこんな感じなのねっ)
ええと、誘われたら一度くらいは踊るのが礼儀、なのかしら?
女性慣れしてる、ってこういう人の事を言うのかしら。
かっこいいとは思うけど、お付き合いしたいとは思わないかなあ。
だって……な、何でもないし!


楓乃(ウォルフ)
  ■衣装
藤色のロングドレスにレースのショール
髪はアップし蝶のコサージュで纏める

■心情
病気で引きこもっていた為、ライルが海の向こうから来たと知り知らない土地の話に興味津々

ふふ。もうウォルフったら、早速ご飯なのね
うん。待ってるね

噴水の水がキラキラ輝いてとっても素敵…
(水面に映ったライルの姿に気付き)
あら、こんにちは
あまりに綺麗な髪と瞳をされているものだから、妖精でも現れたのかと思ってしまったわ

もっと色々なお話聞かせて欲しいわ
(ライルに両手を掴まれ耳打ちで囁かれる)
きゃ…!な、何するの…?
あ、ウォルフ…
(ウォルフに手を掴まれホールの真ん中へ)

わ、私…(動揺で涙目)
…え?踊るの?
で、でも…う、うん…


アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
  お気に入りの水色のワンピースに、ゴールドのストール
髪を結い上げれば少しは舞踏会らしくなるでしょうか

とりあえず二曲だけ
それから飲み物や軽食を頂いて、また踊るか考えましょう
踊るのが好きというよりも、こういう場所にはステンドグラスやシャンデリアがあるでしょう?
ああいうのを見るのが好きなんです

紅茶もチョコレートも美味しい…幸せ

あら、まあ…お上手ですね
今日はパートナーがおりますのでと断りますが、こういう方って簡単に引いてくださらないんですよね
では、一曲だけお相手頂きましょう
ここぞというところで、バランスを崩したように見せかけて全体重をかけてヒールで一踏み
謝りつつも、失礼だからと退散
ただいま戻りました


アメリア・ジョーンズ(ユークレース)
  クリスマス?そんなの関係ない…って、えっ?アンタ誕生日なの?
ちょっ、そーゆーのはもっと早く言いなさいよ!なにも準備してないわよ!
え?プレゼントは要らないから、このドレス着て、一緒に舞踏会に行きましょう?
ちょっと、そんな所行けるわけないでしょ!って、ちょっと聞いてる!?

舞踏会なんて来たの初めて…。
しかも貴族が居るなんて…ユークもそうだけど、なんかこう一杯居ると落ち着かない。
まぁあたしなんて見向きもされないだろうし、ケーキでも食べてよう。

え?アンタがあの例貴族?
ちょっ、気安くあたしの手触らないでよ!
ナ、ナンパとかしても、全然嬉しくないし!
って、えっ?ユーク?どうしたの?
なんでそんなに怒ってるの?



●舞踏会へ行こう!
「エイミーさん」
 午後のティータイム。ユークレースがふいに口を開く。
「クリスマスです」
「はぁ?クリスマス?」
 アメリア・ジョーンズはそんなの関係ナイと顔の前で手を振る。が。
「僕今日が誕生日なので、エイミーさん一緒に舞踏会行きましょう!」
 満面の笑みのユークレース。
「えっ?アンタ誕生日なの?ちょっ、そーゆーのはもっと早く言いなさいよ!なにも準備してないわよ!」
 大慌てのエイミー。知っていれば、プレゼントのひとつも用意してあげたのに。
 しかしユークレースは笑顔でギフトボックスを差し出す。
「なにこれ」
 エイミーが蓋を開けると中には真っ赤なドレス。
「プレゼントは要らないから、このドレス着て、一緒に舞踏会に行きましょう!」
「えぇ?」
「このドレス、エイミーさんに似合うと思うんです。拒否権なんてあげませんよーさー行きましょう!」
 ユークレースにとって、エイミーのドレス姿を拝めるのが1番のプレゼント、なのかもしれない。

●メリー・ホワイト・ホールにて
「すっごく綺麗なホール!」
 ファリエリータ・ディアルは感嘆の声をあげる。
「こんな所で舞踏会だなんて素敵よねっ!」
 隣にいるヴァルフレード・ソルジェを見上げる。2人はクリスマスにぴったりなペア小物を取り入れた、聖夜によく似合うコーディネートでホールに来ていた。
「うふふ、ヴァル、ちゃんとエスコートしてねっ」
「そういうファリエは、ちゃんと踊れるんだろうな」
「転ばない様に頑張るねっ」
「そのレベルか」
 これは、自分がしっかりしないといけないな、とヴァルフレードは気を引き締めた。
 ホールの中には既にたくさんの来客がいたが、ある青年が入場した瞬間、一層、ざわめきが大きくなった。
「誰か有名人でも来たのかしら」
 周囲の人々のざわめきを聞くと、「ライル・アナトリエ様よ」「あの遊学中の貴族か」などという声が聞こえてくる。
 人々の注目を一身に浴び、ライルは悠然と歩いていた。
「貴族様まで来るのねぇ」
「1人みたいだな」
「会場でパートナーを探すのかも」
「ファリエが選ばれるかもな?」
「そんなことあるわけないわ」
「それもそうだな」
「ちょ……何それ~っ!」
 そこはお世辞でも「いいや、もしかしたら選ばれるかも」と言って欲しいところだ。
 そこへ、一曲目の曲が始まる。
「さ、踊るぞ」
 ふくれっ面のファリエの手を取るヴァルフレード。ファリエもすぐに笑顔に戻った。

 曲が始まっても、楓乃とウォルフはまだ踊らずにいた。
 楓乃はホールの美しい内装に見惚れ、そしてウォルフは
「すごいでけぇホールだな。あ、あそこにご馳走があるぜ!ちょっと取ってくっからそこで待っててくれ」
と、食べ物に目を奪われている。
「ふふ。もうウォルフったら、早速ご飯なのね。うん、待ってるね」
 楓乃がくすくす笑う。
 楓乃はいつものデートコーディネートを少し変えて、藤色のロングドレスにレースのショール、髪はアップし蝶のコサージュで纏めている。ウォルフも頭はいつもの黒い布で耳をかくしているが、ネイビーブルーの光沢がかったスーツに身を包み、いつもとは違う雰囲気だ。しかし中身はいつもの2人なのだった。

「舞踏会なんて来たの初めて……」
 人込みに圧倒されるアメリア。
「話には聞いてましたが、凄い人ですね。これじゃエイミーさん迷子になりそうですね。この舞踏会、某国の王族の血を引く貴族が紛れ込んでいるらしいですよ」
「き、貴族……けどまぁあたしなんて、見向きもされないだろうしね、うん」
 ケーキでも食べてよう、とアメリアは休憩スペースへ足を向ける。
「あ、僕紅茶取ってきてあげるので、そこでケーキ食べててください」
 ユークレースは器用に人の間を縫って紅茶を取りに行ってしまった。

 アイリス・ケリーは普段のコーディネートに水色のワンピースとゴールドのストールを合わせ、髪を結い上げ、手持ちの服でも舞踏会らしく見えるような格好で会場に来ていた。
 精霊のラルク・ラエビガータはダークスーツに身を包んでいる。彼は他には和服と仕事着くらいしか持っていないので仕方ない。
「とりあえず、踊りましょうか」
 アイリスの誘いで、ラルクは一緒に踊り始めた。

「あ、あの……ダンスの嗜みがなくて申し訳ございません……。でもロジェ様と舞踏会に来れるなんて嬉しいです」
 少し頬を染めて微笑むリヴィエラ。ロジェも微笑みを返す。
「俺もダンスの嗜みはないさ。でも何とかリードはするから、君は俺についてくれば良い」
「は、はい……きゃっ」
 次の瞬間、リヴィエラはロジェの足を踏んで思い切り彼の胸にぶつかってしまう。ロジェは即座にリヴィエラの背中に手を回し、姿勢を崩した彼女を抱き留める。
「大丈夫か?」
「ご、ごめんなさい……恥ずかしい……」
 真っ赤になって俯くリヴィエラ。ロジェにはそんな彼女も愛おしく見える。
「全く、ドジだな君は」
 と、微笑んだ。

●貴族様、動く
「はぁ~あ、みんな幸せそうなカップルばっかり」
 アメリアは過去の失恋の数々を思い出し、溜息をつく。
「そうでもないよ」
 急に背後から声をかけられた。
「こんばんは」
 笑顔の青年が目の前に現れる。
アメリアは「アンタ誰」という表情になる。それに気付いたのか、青年は
「ぼくはライル・アナトリエ。あなたは?」
と自己紹介する。
「あたしはアメリア……って、アンタが例の貴族?」
 アメリアは目を丸くする。
「貴族サマがあたしに何か用かしら」
 アメリアの冷たい言い様にもライルの笑顔は揺らがない。
「素敵な子に声をかけるのは当然だろう」
 歯の浮くようなことを平然と言う。
「赤いドレス、よく似合っているね」
「友達が見立ててくれたのよ」
「アメリアの魅力をよくわかっている友人なんだね」
「そうかしら」
「そのドレスで踊るともっと素敵だと思うよ」
 ライルはアメリアの手を取る。当然一緒に踊るだろうと言うかのように。
「ちょっ、気安くあたしの手触らないでよ!ナ、ナンパとかしても、全然嬉しくないし!」
 アメリアは動揺し手を引くが、ライルは離さない。
(ど、どうしよう、こういう時、どうすればいいのよ~)
 早くユークレースが帰って来ないかと、アメリアは辺りを見回しユークレースの姿を探した。
 ユークレースは、アメリアが好みそうな香りの紅茶を見つけ、彼女が喜ぶ顔を想像しつつ紅茶を運んでいた。
「あれ、誰……?」
 ライルと共にいるアメリアの姿がユークレースの視界に入る。
 ライルの手がアメリアの手を掴んでいる。それに気付いたとたん、頭の芯がぐらりとするような、胸がざわざわするような、奇妙な感覚に襲われる。
 ユークレースは無意識に紅茶を近くのテーブルに置き、気が付けばライルに歩み寄りその手をアメリアから引きはがしていた。
「僕のエイミーさんに、なにか用ですか?」
 初めて、人を睨んでこんなこと言った。ユークレースは自分の行動に少し驚いたが、今はそれどころではない。
「って、えっ?ユーク?どうしたの?なんでそんなに怒ってるの?」
 いつもと様子の違うユークレースを見てアメリアもうろたえる。
「こんな可愛い子が1人でいるんだもの、ダンスを申し込むのが当然でしょう」
 悪びれずに言うライルに、ユークレースはきっぱりと言い放つ。
「1人じゃありません、僕と一緒に来たんです」
「一曲くらい、ダメかな」
「一曲もダメです」
 ユークレースはライルを睨み続ける。ライルは肩をすくめ、
「じゃあ、気が変わったら教えてね。ぼくはいつでもOKだから」
と笑顔で言うと、アメリアにウインクをして去って行った。
「ユーク……」
 アメリアが声をかけると、ユークレースははっとする。そして自分の一連の行動を思い返す。
 柄にもなく怒りを露わにしたこと。『僕の』エイミーさん、と言ってしまったこと。
 思い返すほどに、顔が赤くなる。
「あ、えっと……紅茶、飲みます?」
 できるだけいつも通りになるように、ユークレースは笑顔で言った。アメリアに顔が赤いのがバレないように、と祈りながら。 

 ウォルフが料理に夢中になっている間、楓乃も別のものに夢中になっていた。
 色とりどりのステンドグラス、鮮やかな花、眩い光。
 楓乃は『見える』ことの素晴らしさを存分に堪能していた。
(噴水の水もキラキラ輝いてとっても素敵……)
 楓乃が噴水に見惚れていると、水面に端正な顔立ちの青年が映った。
「こんばんは、何を見ているの?」
 青年が口を開く。
「あら、こんばんは。あまりに綺麗な髪と瞳をされているものだから、妖精でも現れたのかと思ってしまったわ」
「ぼくも、あなたが水の妖精かと思ったよ」
 ライルと名乗る青年は、他国から来たのだという。
 海の向こうの世界。それは、楓乃にとって魅力的で興味深い話だった。
 ライルが語る楓乃の知らない世界の話にすっかり聞き入ってしまう。
「ん……楓乃?」
 皿に一通りの食べ物を乗せたウォルフが楓乃の姿を探すと、ライルと楽しそうに話しているのを見つけた。
「あれ、誰だ?」
周囲の人々から漏れ聞こえる会話から、楓乃と話している相手が海外から来た貴族だということを知る。
 楓乃は好奇心に輝いた瞳でライルと話している。
「楓乃、また教えろ教えろせがんでるんだろーな。ったく」
 ウォルフは暫く見守ることにした。
 楓乃の楽しそうな声がウォルフの耳にも届く。
「世界には素敵なところがたくさんあるのね。もっと色々なお話聞かせて欲しいわ」
「ぼくと一緒に来てくれたら、話だけじゃなく色々な世界を見せてあげる」
ライルが楓乃の頬を両手で包んだ。突然の接近と接触にびくりとする楓乃。
「……!あのヤロウ!」
 ウォルフはつかつかと近づき楓乃の手をとる。
「あ、ウォルフ……」
「おい!楓乃!行くぞ……!」
 ウォルフは楓乃の手を掴んだままホールの真ん中へ。
「ウォルフ、わ、私……」
 涙目の楓乃がウォルフを見つめる。男性との接触に慣れていないのだ、怖かったのだろう。
「踊るぞ!」
「……え?踊るの?」
「……いいから!ほら!」
「で、でも……う、うん……」
 2人はぎこちなく踊り始めた。
 楓乃をあんな奴には渡せない。ウォルフは楓乃の背に回した手に力を込めた。

 二曲目が終わると、アイリスはダンスの足を止めた。
「二曲でいいのか?」
 ラルクが訊く。
「ええ。飲み物や軽食を頂いて、それからまた踊るか考えましょう」
「アンタがそれでいいなら構わないが……てっきりこういうの好きなんだと思ってたな」
 つい最近も氷上で踊るというイベントに連れ出されたばかりである。
「踊るのが好きというよりも、こういう場所にはステンドグラスやシャンデリアがあるでしょう?ああいうのを見るのが好きなんです」
「……ああ、なるほど」
 ラルクは納得した。実際、アイリスは踊っているときよりもそういった装飾品見ているときのほうが楽しそうに見える。
 休憩スペースに足を運ぶと、アイリスの瞳はさらに輝いた。
「紅茶もチョコレートも美味しい……幸せ……」
(甘いもの食ってる時のこの女は本当に幸せそうだな)
 と、ラルクはアイリスを眺める。
 アイリスが次のチョコレートに手を伸ばした時。
「あ……っ」
 同時に同じチョコレートを取ろうとしていたライルと手が触れた。
「どうぞ」
 にこやかにライルは手を引いた。
「あら、ごめんなさい」
 言いつつ、アイリスは遠慮なくチョコレートをいただく。
「ダンスの時とは別人のようだね」
 とライルは笑う。
「見ていたのですか」
「ええ。とても美しかったものだから。踊っているあなたは高貴な淑女だったけど、お菓子に夢中なあなたは可愛らしい少女だ」
「あら、まあ……お上手ですね」
「あなたと踊ったら、甘い香りがしそうだね。一曲、一緒に踊らないかい」
「今日はパートナーがおりますので……」
「たまにパートナーを変えたほうが、気分も変わって長く楽しめるよ」
 ライルは退く気がないようだ。
(こういう方って簡単に引いてくださらないんですよね……)
 アイリスは内心溜息をつきながら、微笑む。
「では、一曲だけお相手頂きましょう」
 その様子を見ていたラルクは思わずスパークリングワインのグラスを落としかけた。
「ちょっと待った。こいつは俺の連れなんだが」
 ラルクはライルの前に進み出る。
「ではお連れ様を一曲借りるよ」
 全く意に介さない様子のライル。
「いや、だが……」
「行ってきますね、ラルクさん」
 アイリスはそういうと、ライルと共にホールの中央に踊り出る。
(あの男のために止めてやったんだけどな……)
 ものすごく嫌な予感がするラルクは、アイリスとライルの動向を見守ることにした。
 そつなく踊る2人。見た目の良さも相成って人々の注目を浴びる。
 だが、アイリスはここぞというところで、バランスを崩したふりをし全体重をかけてヒールでライルの足を一踏み。
(やりやがった、あの女)
 ラルクの予想通りである。
 アイリスは「ごめんなさい、これ以上失礼にならないよう、私は戻りますね」などと言って何食わぬ顔で帰ってくる。
「……オカエリ」
 思わず棒読みになってしまうラルク。
「退散するにしても、もっと他に方法がなかったのか?」
「私はこれが最善だと思いました」
 平然と言ってのけるアイリスに
「そうか……なら、いい」
とだけ返すと、ラルクはスパークリングワインを飲み干した。

「そろそろ休憩しない?」
 少し踊り疲れてきたファリエリータがヴァルフレードを休憩に誘う。
「紅茶やお菓子も用意されてるの。頂ましょう。ヴァルならワインの方がいい?」
「いや、俺もファリエと同じ紅茶でいい」
「そう?遠慮しないでね……わぁ、美味しそうなチョコレート。スコーンも良い香り!」
 ファリエリータは幸せいっぱいの表情になる。
「どれからいただこうか迷っちゃうわね」
「あんまり欲張るなよ。頬袋を膨らませたハムスターみたいな顔になるぞ」
「またそんなこと言って!」
 からかうヴァルフレードに言い返すファリエリータ。
 すると、後ろからくすくす笑い声が聞こえ、2人は振り返る。
「失礼。あなたたちの会話がとても楽しかったものだから、つい」
 目の前にいるのは、噂の的である貴族、ライルだった。
「仲が良いんだね。ご兄妹かい」
「いいえ、違うわ」
 ファリエリータは首を振る。
「そうか、それはかさねて失礼」
 ライルは優雅に笑う。
(へー、貴族の人ってこんな感じなのねっ)
 物珍しさから、ライルの顔をまじまじと見るファリエリータ。
「失礼ついでに、一曲踊らないかい」
「えっ?」
 意外な流れに目を丸くするファリエリータ。
「ええと……」
(誘われたら一度くらいは踊るのが礼儀、なのかしら?)
 ファリエリータはヴァルフレードを見上げ、小声で訊く。
「こういう時って断ったら失礼なの?」
「失礼ではないかもしれないが、へこむだろうな」
「そうよね……えっと、一回だけ踊ってくるわねっ」
「迷子になるなよ」
 にやりとするヴァルフレードに
「ちゃんと戻って来られるわよっ」
と言い返しつつ、ファリエリータはライルのリードで踊りはじめる。
 ダンスの相手が噂の貴族様とあって、一気に視線を浴びるファリエリータ。
 緊張してしまうが、ライルはそれを和らげるように微笑み、
「あなたの笑顔を見ていると、ぼくも楽しく踊れるよ。魔法の笑顔だね」
と褒めてくれる。
(女性慣れしてる、ってこういう人の事を言うのかしら)
 場馴れしたライルの一挙手一投足に感心する。
「楽しかったわ、ありがとっ」
 踊り終えるとファリエリータはライルに手を振りながらヴァルフレードの元に駆け戻る。
「お、なんだ、戻ってきたのか」
「当たり前でしょっ」
「口説かれでもしたかと思ったんだけど」
「あの人はかっこいいとは思うけど、お付き合いしたいとは思わないし」
 いくら見た目が良くても、他の女の子にも声かける様な人は遠慮したい。
それに……。
 ファリエリータはじっとヴァルフレードの顔を見る。
(ヴァルの方がかっこいいし……)
「って!私ったら何を!」
「?なにひとりで慌ててるんだ?」
「なんでもないわっ」
 ファリエリータは誤魔化すようにチョコレートを頬張った。

「今日は振られてばかりだ」
 ライルは肩をすくめる。が、それほど傷ついてはいない様子だ。振られるのもまた男女の醍醐味と思っているようだ。
 そんなライルの視界に、休憩スペースで一休みしている、青いドレスのリヴィエラが入ってくる。
「あの人……目を引くなぁ」
 華美な出で立ちではないものの、言い知れぬ気品が漂う。それなりの血筋の者だとライルは直感した。
 ライルは周囲の女性たちと挨拶をかわしながら、リヴィエラの方へ近づく。
「こんばんは」
 急に声をかけられて驚きつつも、挨拶を返すリヴィエラ。
「驚かせてしまったかな。僕は、ライル・アナトリエ。あなたがあまりに美しかったから、引き寄せられてしまったんだ」
 リヴィエラの隣で、眉を潜めて立っているロジェはライルの目に入っていないようだ。
「ライル様と仰るのですか?私は、リヴィエラ・F・シエンテと言います。あ、あの、お会いできて光栄です……」
 社交辞令を交えた返事をしつつも、警戒した様子のリヴィエラ。
「シエンテ家といえば……こちらの地方の貴族にそのような家名があったね」
「え、え……」
「やっぱり、ぼくが見込んだ通りだ。是非、一曲踊らせて欲しい」
「えっ、いえその、私は、この方と一緒に来ているので……」
 リヴィエラはロジェの背に隠れようとする。
「あ、待って!」
 思わずリヴィエラの手を掴むライル。
「い、嫌……手を離してください、困ります……っ!」
 ロジェがリヴィエラとライルの間に割って入る。
「馴れ馴れしいのもほどほどにしろ。貴族だか何だか知らないが、俺の女から離れて貰おうか」
 ライルはきょとんとしてから、
「なるほど、一緒に来ているというのは、付き人として来ていたのではなく、恋人として来ていた、ということか」
とひとり納得する。かなり失礼なことを言っているが、本人にその自覚はない。
「しかし君は……見たところ彼女と釣り合う家柄ではないみたいだが」
「何だと?」
 ロジェの眉がぴくりとする。
「結構大変だよ、女性の方が家の格が高いというのは。男だけじゃなく、女性も苦労する」
「で、でも、私はこの方が…ロジェ様が好き。愛しているのです。で、ですから、その……」
 リヴィエラが懸命に反論する。
 ロジェが口を開く。
「……俺は確かにただの孤児さ。けれど……」
 家の格が違うなんてこと、身に染みてわかっている。この先困難が立ちはだかる可能性があることだって。でも、それでも。それら全てを覚悟したうえで……愛しているのだ。
 ロジェは力を込めた声で告げる。
「こいつは俺の神人だ。恋人だ」
「きゃっ、ろ、ロジェ様!?」
 リヴィエラは突然ロジェに力強く引き寄せられ驚愕の声をあげるも、それはすぐにロジェの唇によって塞がれる。
「さぁ、わかったら二度と近づくな」
 ロジェはリヴィエラの唇を解放すると、ライルを睨みつける。
 が、ライルの方はあまり理解していない様子だ。
「それならそれで構わないさ。結婚と恋愛は別ということもある……っ?」
 ロジェはライルのネクタイを掴みあげた。
「リヴィーは誰にも渡さない、と言っているんだ!」
「ロジェ様、どうか落ち着いてください、私はどこにも行きませんから……っ」
 ここで大きな騒ぎを起こせばロジェの立場も悪くなる。リヴィエラはロジェの背を抱き必死で止める。ロジェは冷静さを取り戻し、ライルのネクタイから手を離した。
「二度と俺たちに近づくな」
 そう言うとロジェはリヴィエラの手を引きライルから離れる。
「……どうやったらそこまで強く人を愛してると言えるんだろうな」
 ライルはネクタイを直しながら呟いた。彼が本当の愛を得るには、まだ時間がかかりそうである。

「さっきは、取り乱して悪かった」
 気を取り直してもう一度踊り始めたロジェとリヴィエラ。リヴィエラはくすっと笑う。
「心配しなくても、私はずっとそばにいます。ロジェ様は私が歌えばすぐに来てくれるのでしょう?なら私も、ロジェ様がすぐ来てくださるところに、ずっといますから、ね……?」



依頼結果:大成功
MVP
名前:リヴィエラ
呼び名:リヴィエラ、リヴィー
  名前:ロジェ
呼び名:ロジェ、ロジェ様

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 木口アキノ
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月19日
出発日 12月25日 00:00
予定納品日 01月04日

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