プロローグ
真っ白な外観、すりガラスの扉もすっかり雪に埋もれ、動物たちのオブジェも外のものは店内に移動させられてかわいらしいマフラーなんか巻かれている。玄関には小さな雪だるまが『welcome』の札を持ってお出迎え。そんな小さなかわいらしいカフェ、
『ブランシュネージュ』は、今日は何やら遅くまで明かりがついている様子。
「うーん、こっちのほうがいいかな……?」
あれこれと考えながら、『ブランシュネージュ』の店主、ネージュはペンを走らせる。 数分後、ふんわりとしたよい香りが店内に漂ってきた。
「あ、いけない。ケーキ焼けたみたいね」
ぱたぱたとオーブンに走り寄り、窓を覗き込むとふわふわのシフォンケーキ。
カフェ『ブランシュネージュ』では、クリスマスディナーの試作で大忙し。
ネージュが小さな魔法のハンドベル、メリー・ベルを取り出し、鳴らしながら小さな声で歌う。
「O Holy night……♪」
一曲歌い終わったところで静かにハンドベルを置き、そのケーキの一切れを試食した。
「うん、我ながら美味しい……けど、何か足りないのよね」
クリスマスの魔法はしっかりかかっているはず。けれど、もっと強力に魔法をかけたいな。そう思った時に。
「あ!」
ウィンクルムさんたちがいるじゃない!恋人たちのパワーほど強いものはない!
そう思ったネージュは早速A.R.O.A.に依頼を出すのでした
解説
目的:クリスマスディナーを満喫しましょう!
参加費はかかりませんが、ワンドリンクオーダー制です。
メニューから好きなものを選んでお二人で満喫してください。
ハンドベルは各テーブルに一つずつ、手のひらサイズのものが置かれています。
食事の前に、お二人でお好きなクリスマスソングを歌って魔法をかけてからお召し上がりください。(著作権問題が絡む歌詞はカットしますのでご留意ください)
具体的な魔法の効果は「幸せな気分になる」が基本ですが、特にネージュの料理には「感謝の気持ち」が伝わりやすくなる効果があります。
☆メニュー☆
・ネージュラテ…200Jr
・ブレンドコーヒー…150Jr
・紅茶(茶葉指定、ロイヤルミルクティーへの変更可能)…150Jr
・ホットミルク…100Jr
・シャンパン(白・赤・ロゼ指定OK/未成年はノンアルコールになります)…300Jr
注:紅茶・コーヒーはミルクとお砂糖の量を明記いただけると嬉しいです。
*デザート
・レアチーズケーキ…200Jr
・ミルクプリン…150Jr
・杏仁豆腐…150Jr
・シフォンケーキ…150Jr
・クリスマスケーキ(ミニホール)…500Jr
*お食事(すべてブレッド付)
・クラムチャウダー…400Jr
・ホワイトシチュー…400Jr
・鶏肉とジャガイモのミルクコンソメスープ…400Jr
・ローストターキー(レッグ二本、グレービーソースとクランベリージャム添え)…600Jr
☆ネージュラテご注文の際には、是非ラテアートのご指定を!
ラテが苦手な方も、スイーツのプレートにチョコレートアートが可能ですのでご一考ください。
☆ネージュは基本的には自分から話しかけたりはしませんので、二人きりのお時間を楽しんでください。もちろん、皆様からお声かけ頂けばネージュも喜んでお話しいたします。
逆にネージュとお話をしたいお方はそれもOK!
ゲームマスターより
ハッピークリスマス!寿です!
幸せな気分になれるハンドベルほしいなー!
クリスマスは本来はキリストの生誕を祝い、大切な人に感謝の気持ちを届けながら一年の振り返りをしつつ、あたたかく過ごす日、と
勝手に思ってます。
余談ですがメニューのローストターキーと鶏肉とジャガイモのミルクコンソメは私の得意料理です(笑)
今回もグルメマスター(GM)寿、おいしいものいっぱい書きます~!
歌と料理で暖かい気持ちになってくださいね。
*読むとよりわかるブランシュネージュについては過去作品、
【七色食堂】ブランシュネージュのふわふわ からどうぞ!
リザルトノベル
◆アクション・プラン
リゼット(アンリ)
おしゃれして来い、なんていうから何かと思ったら クリスマスに二人で食事だなんてまるで… あ、あんたこそ正装で黙っていればそれなりに上等なんだから 粗相のないようにしてよね! ベルを鳴らして歌えばいいのね いいわ。私が鳴らす…って…! えっと…別に、いいけど… 早くって言われても… すぐに追いついてやるんだから待ってなさい ふふっ、私もお腹すいちゃった 本当においしそうだもの あの…今日は、誘ってくれて… ううん、今日だけじゃなくて…いつも誘い出してくれて あんたに出会ってから初めてのことばかりで 今年は楽しかった…と思う だからその…ありがと オーダー シャンパン(白:ノンアル クリスマスケーキ クラムチャウダー ローストターキー |
上巳 桃(斑雪)
ネージュラテ2、クリスマスケーキ1 こんちゃー、また来ちゃいました あれからウィンクルムのお仕事ちょっとがんばってちょっと懐が豊かになりました だから、今日はちょっと豪華にケーキ頼んじゃう ま、はーちゃんと半分こにするんだけど そうそう このまえうち帰ってからラテアートやってみたんだけど、あれってやっぱ難しいね 簡単そうなのでもすぐ崩れるから、だいぶ練習しちゃった おかげで眠いかも(いつものこと さて はーちゃん、今年一年お疲れ様でした ついこないだなんて、オーガいっぱい相手してきたもん 他のウィンクルムさんのおかげとはいえ、私たちもよくがんばったよね やっぱ私はーちゃんいないとダメだなあ 来年もよろしく 少しずつがんばろ |
アマリリス(ヴェルナー)
注文:ブレンドコーヒー(ブラック) クリスマスといえば心躍る時期のはずですわね (だというのにここの微妙な空気… 食べ物到着待ち ねえヴェルナー わたくしの名前はなんでしょう? やっぱり覚えていますわよね 露骨に名前を呼ぶのを避けていますから 酒の席での話ですもの 律儀に守る必要はありませんわ 今まで通りで… 適当な事言ったと言いづらい (でも結果的にはよかったのかしら… いつもどきどきするのはわたくしばかりよね 平常心を取り戻そうとしつつ あ、あら、注文した物が来ましたわ ベルを試してみましょう …砂糖は入れていないはずなのですが でも何だか暖かい味です とんだクリスマスだと思っていましたが… 忘れようにも忘れられない日になりそう |
ルン(テヤン)
こういうオシャレな所、行きたいと思ってたの。 だからテディ、今日だけ贅沢させてくれない? ロイヤルミルクティーを注文するね、茶葉はアッサム。 ミルク2杯と砂糖1杯でお願いします。 食事は鶏肉とジャガイモのミルクコンソメでいいかな。 デザートはクリスマスケーキを注文しよう。 「ゴメンね、甘いものは別腹なんだ」 「え?」 お腹の空く音が聞こえたのか、 テディがローストターキーを分けてくれたけど、いらない。 それにテディの分がなくなるし、食事だってもうすぐ来るし。 食事とケーキは来たけど、 結局、ローストターキーは食べる事にした。 本心はとても嬉しいけど、テディには秘密にしとこう。 「あのね、今日は付き合ってくれてありがとう」 |
豊村 刹那(逆月)
逆月、何か頼みたいものはあるか? なら、クリスマスだし。 クラムチャウダーを2つ。 ローストターキーとクリスマスケーキは1つ。この2つは2人で分けるので、取り分け用の皿をお願いします。 飲物はネージュラテ1つ。冬だから、雪の結晶で。 後、アッサムティー1つ。 私が1回歌うから。その後2人で歌おうか。 こういうのは2人でやる方がいいらしいからな。(兄に吹き込まれた いや、2人で持つ必要は……。 ああ、うん。言ったけど。 やっぱり自分で作るより、店で食べる方が美味しいな。 「な、」(思わず絶句 「いや、その。言われ慣れなくて」(人に作った事があまり無い (誤魔化しにラテを飲むが、ハンドベルの魔法に) ……恥ずかしいな、これ。 |
「こういうオシャレな所、行きたいと思ってたの。だからテディ、今日だけ贅沢させてくれない?」
ブランシュネージュの前で、精霊のテヤンの手を引き、神人のルンは目を輝かせた。
「さながら大人の雰囲気って感じだな」
テヤンは店構えを見てほんの少し身構える。
(おいらにゃ、ちったぁ入り辛ぇけど、クリスマスの飯、食いてぇし、菓子も美味そうだからな)
「まぁ、ルンが行きてぇならついて行くぜ?」
照れ隠しにそんな言い方をしている彼のその手は、もうブランシュネージュの扉にかかっていた。
ブランシュネージュの扉が開く。ドアベルがからんとかわいらしい音を立てた。
「いらっしゃいませ」
ネージュの優しい声に合わせ、席に座る。
手渡されたメニューにわくわくしながら、ルンはオーダーを決め始めた。
「ロイヤルミルクティーを注文するね。茶葉はアッサム。ミルク2杯と砂糖1杯でお願いします。食事は鶏肉とジャガイモのミルクコンソメでいいかな。デザートはクリスマスケーキを注文しよう」
一息にそういうと、ネージュはにっこりと笑って頷く。テヤンに向かって、
「ゴメンね、甘いものは別腹なんだ」
と笑いかけると負けじとばかりにテヤンも注文した。
「ネージュラテを注文するぜ、ラテアートは山茶花!食うのは……このローストターキーにすっか!デザートはルンと同じ、クリスマスケーキでぇい」
「かしこまりました、少々お待ちください」
メニューを下げてネージュが微笑む。
ややしばらくしたところで、ローストターキーが運ばれてきた。
「お待たせしました、クランベリージャムとグレービーソースもご用意いたしましたので、お好みでつけてお召し上がりくださいね」
皿に乗せられたターキーのレッグはよい香りと共に温かい湯気を放っている。そのとき、くぅ。とルンのおなかから。
「仕方ねぇ。時間稼ぎじゃねぇが、一本やる」
「え?」
かぁ、と頬が熱くなった。ひょい、と取り皿にレッグを一本渡してくれるが、首を横に振る。
「いらない、それにテディの分がなくなるし、食事だってもうすぐ来るし」
お皿を押し返そうとするとテヤンが笑う。
「ローストターキーの足は2本、1本あげた所でどうって事ねぇよ。だから遠慮すんなって」
もう一度、お皿が押し戻される。そんなことをやっている間にルンの分の食事も運ばれてきた。
「お待たせいたしました……?」
ちょっと不思議そうな顔をして、ネージュが察してふふ、と微笑む。
食えばいいじゃん?なぁ、とばかりに笑ってネージュラテを口に運ぶテヤンがネージュに笑いかける。ネージュは自分が居ては邪魔だろうと、軽く会釈をしてキッチンへ下がった。
「ほら、うまいぜ、食えって」
「う、うん……」
半ば強引に皿を目の前に置かれ、ルンは結局それを食べることにした。
(……美味しい!)
ナイフとフォークで丁寧に食べているルンをよそに、テヤンは豪快にレッグにかぶりついている。
「な!美味いだろ?」
黙って頷けば、彼も上機嫌だ。
鶏肉とジャガイモのミルクコンソメも、暖かいうちに。じっくりと煮込まれた手羽元がほろりと口の中でほどけ、ミルクの風味に優しく混ざっていく。
(これも美味しい……!)
感動して頬をおさえると、テヤンはうんうんと頷きながらラテをすする。
食事を終え、ケーキへ。
ロイヤルミルクティーに砂糖を溶かしながらルンは小さくつぶやく。
「あのね、今日は付き合ってくれてありがとう」
「……おう!」
ニッとテヤンが笑う。
(料理をシェアしてくれたこと、とても嬉しかったけど……秘密にしとこう)
ルンがふふ、と笑うとテヤンは不思議そうに首を傾げる。
「ん?何か言ったか?」
「んーん、レッグ貰っちゃって悪かったかな?って」
たしかにちょっと足りなかったかもな?なんて笑いながら。
「そっか。でも気にすんなよ、おいらも楽しかったから」
ケーキの上のサンタが、優しく微笑みかけたような気がした。
「ちゃんとかわいい格好で来たな」
ブランシュネージュの前で、テイルスの青年、アンリが軽く右手を挙げる。神人のリゼットはふわりとした『アンティークドール』のワンピースを身にまとい待ち合わせ場所に現れた。
「おしゃれして来い、なんていうから何かと思ったらクリスマスに二人で食事だなんてまるで……」
リゼットが言い淀む。
「堅苦しい店じゃないが賑やかしなら華やかにいかねぇと」
似合ってんじゃん、なんて笑いかければ彼女の頬が僅かに染まる。
「あ、あんたこそ正装で黙っていればそれなりに上等なんだから粗相のないようにしてよね!」
ぷい、とわかりやすくそっぽを向くが、その手をアンリは優しくとった。
「心配すんな、デートなんて朝飯前だ。晩飯前だが」
カラン、とドアベルを軽やかに鳴らして店内に誘導し、椅子を引いて窓際の上等な席に座らせる。スマートにオーダーを済ませれば、リゼットが感心したかのように息を吐いた。ほどなくして、料理が運ばれてくる。アンリには白のシャンパン、リゼットは未成年なのでノンアルコールのもの。グラスは合わせず、目の高さに掲げるだけの優雅な“乾杯”をして、料理に目を移した。クラムチャウダー、ローストターキー、ケーキ。全てがクリスマスを凝縮した幸せな香りでこちらに訴えかけてくる。席に用意されたベルを手に取り、アンリがそれをリゼットへと手渡した。
「ベルは一つか。ならリズがベル担当な」
「ベルを鳴らして歌えばいいのね。いいわ。私が鳴らす……って!」
ベルを握ったリゼットの手に、アンリがそっと自分の手を添える。
「……と思ったが、やっぱ一緒にやろうぜ。歌は聖なる夜の歌だ」
立ち上がったリゼットの隣に控え、アンリは優しく微笑みかける。それはさながら本物の王子のようで。
「えっと……別に、いいけど」
柄にもなく照れながら、ベルを鳴らす。アンリの優しく透き通った歌声が、“The First Noel”を奏でた。奏で終わると、リゼットの耳元でアンリが囁く。
「メリークリスマス。早く一緒に酒飲めるようになれよ?」
「早くって言われても……」
ふ、と笑ってリゼットはノンアルコールのシャンパンを口に運んだ。
「すぐに追いついてやるんだから待ってなさい」
同じように、アンリも笑って自分の席に戻り、リゼットと向かい合う。
「さ、食おうぜ!ご馳走お預け状態で腹減ったぜ」
「私もお腹すいちゃった。本当においしそうだもの」
ふふ、と笑ったリゼットの瞳に店内のシャンデリアの光が反射して煌めく。
クラムチャウダーで冷えた体を温め、二人で料理をシェアすれば、自然と心の中まで温まってくる。一年の思い出を振り返るように。
「あの……今日は、誘ってくれて……ううん、今日だけじゃなくて。いつも誘い出してくれて」
おもむろにリゼットが口を開く。アンリはシャンパンのグラスに唇を付けながら、その言葉を聞いた。
「あんたに出会ってから初めてのことばかりで、今年は楽しかった……と思う。だからその……ありがと」
口ごもりながら、いつもは言えない素直な気持ちをほろり、とこぼしたリゼットにアンリは微笑んだ。
「クリスマスの魔法……ってやつか」
気持ちに後押しをしてくれたのだ、と感じる。
「俺の方こそありがとな、リズ。お前といるとなんかこう……あったけえんだ」
互いに顔を見合わせ、笑う。
「これからもまだしらねぇこといっぱい教えてやるさ」
な、とケーキを切り分けてやると、リゼットも小さく、本当に小さく頷いた。
「よし!今日は飲むぞ!マスター!シャンパンおかわり!」
ほんの少し調子づいたアンリが、グラスのシャンパンを一気に煽った。
一年の感謝の気持ちと、来年への期待を込めて。
次にブランシュネージュを訪れたのは何となくぎこちない雰囲気の二人……。
「クリスマスといえば心躍る時期のはずですわね」
神人、アマリリスが窓の外にちら、と視線を向けながらつぶやいた。
「そうですね、皆さん幸せそうです」
同じく窓の外をみながら、道行く恋人たちを眺め精霊のヴェルナーが返答した。
(だというのに、この微妙な空気……)
アマリリスは若干不機嫌になりながらため息を一つ。
ヴェルナーは……。露骨にぎこちない!
祖父の言葉で悩んでたり以前酔った勢いで呼び捨てにすると言ってしまったりで、どうしていいのか自分でもわかっていないのだ。
「ねえヴェルナー」
凛とした声でアマリリスが呼びかける。
はい、と向き直れば、一言。
「わたくしの名前はなんでしょう?」
他者が聞けば、何のことは無いような発言。けれど、これは現在の彼を硬直させるにぴったりなセリフだった。
「……あ、……と」
「やっぱり覚えていますわよね。露骨に名前を呼ぶのを避けていますから」
ふぅ、とため息をつけば、ヴェルナーが申し訳なさそうに俯く。
「酒の席での話ですもの。律儀に守る必要はありませんわ、今まで通りで……」
そういいかけたアマリリスを遮るようにヴェルナーは切り出した。
「確かに酒の席でしたが……」
悩みつつも、決意したようにこぶしを握り締める。
「男に二言があってはなりません。何より自分を呼び捨てるのは信頼の証といったあの言
葉が嬉しかったです。まさか初対面であそこまで認めてくださるとは……」
その発言に、アマリリスが若干苛立ちを見せる。というか、一人で何を勝手に納得しな
がらしゃべっているんだ?と置いてけぼり感が否めない。
(今更、適当なことをいったとは言い出せない……)
あまりに真剣にぶつかってくるヴェルナーに若干焦りながら、アマリリスは視線を逸らしかけた。それを逃さないとばかりにヴェルナーがまっすぐ見つめてくる。そして、一言。
「自分もそれに答えるべき、ですよね。……これからもよろしくお願いします、アマリリス」
真剣な視線、わずかな微笑みにアマリリスはドキリ、と胸を高鳴らせた。
(いつもどきどきするのはわたくしばかりよね)
少し、悔しい。
その時、注文していたブラックのブレンドコーヒーと紅茶がテーブルに運ばれてきた。
「あ、あら、注文した物が来ましたわ」
平常心を取り戻そうと、アマリリスがベルを手に取る。
「ベルを試してみましょう」
ヴェルナーも頷き、アマリリスの歌に合わせて自分も声を重ねた。テーブルに、小さな声で“もろびとこぞりて”が響く。
(これでいいのかしら……)
ちら、とヴェルナーのにこやかな悩みの無い笑みを横目に、アマリリスはコーヒーを口に運んだ。
「……砂糖は入れていないはずなのですが……でも何だか暖かい味です」
ブラックのコーヒー特有の苦みの角が取れてまろやかな味になっているのだという。
アマリリスは驚きに目を見開き、更にもう一口。
ヴェルナーも紅茶を口に含んで大きく頷いた。
「このベルはすごいですね」
そして、にこやかな笑みを一つ。
(とんだクリスマスだと思っていましたが……忘れようにも忘れられない日になりそう)
さて、わたくしの呼び名は変わるのかしら。だなんて少し挑戦的な気持ちを抱きながらも、アマリリスは目の前の青年に期待を隠せなかった。
ヴェルナーは角砂糖をひとつ紅茶にそっと入れる。スプーンで優しくかき混ぜれば、先ほどまでの悩みも嘘のように溶けていく感覚になった。
(……信念は、曲げずに)
「こんちゃー、また来ちゃいました」
少し気だるげでいながら明るい声が店内に響く。神人の上巳桃と、精霊の斑雪だ。
「あら」
ネージュは以前訪れた二人の顔を覚えていて、にっこりとほほ笑んで駆け寄る。
「あれからウィンクルムのお仕事ちょっとがんばってちょっと懐が豊かになりました」
まぁ、とネージュはメニューを手渡しながら。
「だから、今日はちょっと豪華にケーキ頼んじゃう。……ま、はーちゃんと半分こにするんだけど」
にひひ、と笑った桃の顔がなんだか可愛くて、ネージュは少し吹き出してしまう。
「お二人で分けてもいいサイズだと思います。安心して」
ぱぁっと班雪の顔が晴れる。そして、あ、と思い出したように頭を下げた。
「この前は無理を言ってごめんなさいでした」
「え?」
「今日はお店のカップでおねがいします。お茶は器も楽しむものなんですって」
そう、以前持参のマグカップでラテを作るように頼んだことを気にしていたのだ。ネージュが柔らかく笑う。
「いいえ、気にしないで。でも、そうね。ラテボウルで作れば前よりももっときれいに作れるかも」
さらに班雪の顔がぱぁっと明るくなる。
「わぁ!えっと、拙者、クリスマス初めてです!故郷にはそんなのなかったですから……だから、ラテアートもクリスマスにしてくださいっ」
ネージュが笑顔で頷く。
「拙者がツリーで主様がベル!」
桃も、うんうん、と頷く。ネージュも合点承知とばかりに腕を叩いて見せた。
「そうそう。このまえうち帰ってからラテアートやってみたんだけど、あれってやっぱ難しいね」
ネージュがうーんと顎に手を当て考える。
「……私もできるようになるのに時間がかかったからなぁ……」
「簡単そうなのでもすぐ崩れるから、だいぶ練習しちゃった。おかげで眠いかも」
ふぁ、とあくびを一つ。ネージュが慌てて人差し指をぴっと立て、一言。
「今日は、私のアートを見て何か盗んでってくださいねっ」
その様子が大人なのになんだか可愛くて、桃は少し笑った。
用意します、とネージュがキッチンに引っ込んで数分後、ラテアートとケーキが運ばれてくる。
「ごゆっくりどうぞ」
ネージュが微笑み、二人の空気を壊さないようキッチンへと姿を消した。
テーブルの上のメリー・ベルが早く鳴らして、と言わんばかりにきらめいている。
「メリー・ベル……拙者クリスマスの歌なんてよく知らないです……」
少し不安げな班雪に、桃が思い出したように提案する。
「でも、はーちゃん。Twinkle twinkle……なら歌えるでしょ」
不安げな瞳がキラキラと輝きに溢れ出した。
「それなら大丈夫ですよっ」
嬉しそうに、赤いリボンが巻いてあるメリー・ベルを手に取れば桃は班雪の愛らしさに目を細める。
「そういえば、主様と一緒に歌うのって初めてです」
「そだね」
えへへー、と緩んだ微笑みが班雪の頬に満ちた。マキナらしいクールさを狙うことは、
もはやしない。
『Twinkle Twinkle Littlestar♪』
慣れない手つきでのハンドベルの演奏。けれど、その音色は心地よく店内に響く。
一しきり歌い終わってベルをテーブルに置くと、桃がふと向き直って言葉を紡ぐ。
「さて。はーちゃん、今年一年お疲れ様でした」
そして、ボウルに入ったネージュラテのベルをできるだけ崩さないように口に運ぶ。
「え、えと、こちらこそありがとうございますっ」
ぺこ、と頭を下げて班雪はそのくりくりした瞳でじっと桃を見据えた。
「ついこないだなんて、オーガいっぱい相手してきたもん。他のウィンクルムさんのおかげとはいえ、私たちもよくがんばったよね」
こく、と頷いて班雪もラテに唇を付けた。ツリーがほんのちょっとだけ、歪む。そして、一口飲んで答える。
「拙者ちゃんと主様のお役に立てたでしょうか」
もちろん、と桃は頷く。そして。
「やっぱ私はーちゃんいないとダメだなあ」
ふわりと微笑みかけたその顔に、班雪は胸がいっぱいになった。
……必要としてもらっている。
「来年もよろしく」
「来年も主様といろんなところに出掛けたいです」
そして、少しでも役に立ちたい、なんて思いながら。
ケーキの上で願いを込めたろうそくが揺れる。
「少しずつがんばろ」
大切なパートナーの柔らかな感謝の心を感じながら、二人はケーキを切り分けた。
「逆月、何か頼みたいものはあるか?」
蛇のテイルスである青年にそう問いかけたのは神人の豊村刹那。寒さが苦手だということで、家を出るときにもこもこにされて着ぶくれした上着を脱ぎながら、彼は答える。
「任せる」
これはぶっきらぼうなのではなく。閉鎖された空間で生きてきた彼には“わからない”からである。
「なら、クリスマスだし」
(クリスマスというのも初めて聞く……)
町は賑わい、ツリーが飾られ、クリスマスソングであふれている。けれど、彼はそれも“はじめて”なのだ。
刹那はネージュに注文する。
「クラムチャウダーを2つ。ローストターキーとクリスマスケーキは1つ。この2つは2人で分けるので、取り分け用の皿をお願いします」
(分ける……食べ物を、分けるのも、クリスマス……)
ふわりと心の奥が温かくなるのを感じる。
「飲物はネージュラテ1つ。冬だから、雪の結晶で。後、アッサムティー1つ」
「かしこまりました」
ネージュが少々お待ちください、とメニューを下げる。
「……アッサムティーなら飲めるだろう?」
「……?ティー……」
「紅茶だ。ミルク入れるか?そのままにするか?」
「そのまま」
「じゃあ、ストレートだな」
「ストレート」
こくり、と頷くと、刹那が少し微笑んだ。
ほどなくして、料理が運ばれてくる。刹那がハンドベルを手に提案した。
「私が1回歌うから。その後2人で歌おうか」
こういうのは2人でやる方がいいらしいからな、と兄に吹き込まれた知識のまま、刹那がハンドベルを鳴らす。逆月は刹那の歌声を集中して聞いた。
「ねむりたもう……いとやすく……♪」
ちら、と目配せをすると、逆月が頷く。そして、刹那のハンドベルを持つ手に己の手を重ねた。
「いや、2人で持つ必要は……」
逆月が小首をかしげる。
「……?2人で行うのだろう?」
「ああ、うん。言ったけど」
では、と逆月が刹那に歌うよう促す。刹那は優しい声で歌を紡ぎ始めた。
「……きよし、この夜……♪」
なぞるように、逆月の歌声も重なる。
「星は……光り」
合っているか?というように刹那を見る瞳に、刹那は頷く。どこか、照れくさく、暖かい。演奏し終わると、刹那はローストターキーを切り分けて一つは逆月に。自分の分はグレービーソースにつけ、口へと運んだ。
「やっぱり自分で作るより、店で食べる方が美味しいな」
ネージュの料理の腕に感心し、クラムチャウダーにも手を伸ばす。
「確かに、美味いが」
クラムチャウダーの貝を食べながら、逆月がぽつりと告げた。
「俺は、刹那が作るものも好きだ」
そして、刹那の目を見つめる。
「な、」
刹那は思わず絶句し、目を逸らした。
刹那の家に居候状態の逆月は、毎日彼女の料理を口にする。その感想を素直に口に出したまでだ。
「……どうした?」
「いや、その。言われ慣れなくて」
誰かに料理を振る舞うことも、今までなかったから。
ほてりを誤魔化すようにそう告げ、刹那はもう一度クラムチャウダーを口へと運んだ。
「刹那の作るものも、村で食べていたものとは違う。だが、食べていると心が安らぐ」
刹那はスープを飲みながら、その言葉を深く胸に刻んでいく。
……少し、照れる。
「この食べ物は、魔法の効果か。同程度に胸の奥が暖まる」
僅かに微笑みながら、逆月がターキーを一口サイズに切って口へと運んだ。刹那はケーキを取り分けて、逆月へ渡す。
(それは、つまり。魔法をかけていなくても刹那の料理は……)
逆月は話していないのに。刹那は何かを感じ取ってしまいそうになる。また誤魔化すように、次はネージュラテに唇を寄せる。その時、彼の伝えたいこと気付いてしまった。
(つまり、刹那の料理は魔法なしでもあたたかいのだ、ということ)
ベルの魔法か、否か。
「……恥ずかしいな、これ」
目を泳がせ、頬をほんのりと染めた刹那に逆月は首を傾げた。
(本当のことを告げただけなのだが……)
感謝の気持ちは、ベルにはお見通しだ。
きっと、ここに来てベルを鳴らした者たちは感じたのだろう。
互いの“感謝の心”を。そして、次年への希望を。
依頼結果:大成功
MVP:
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 寿ゆかり |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | イベント |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 12月18日 |
出発日 | 12月23日 00:00 |
予定納品日 | 01月02日 |
参加者
会議室
-
2014/12/22-22:21
クリスマススタンプが出来たのでおしてみましたーわーーい♪
皆様、当日もよろしくおねがいしまーす。 -
2014/12/22-22:19
-
2014/12/22-19:17
遅れてすみません、ルンと精霊のテディです。
リゼットさん、花火ではお世話になりました。
他のウィンクルムさん達は初めまして、よろしくお願いします。
おしゃれな店なので、とても楽しみ!
素敵に過ごせるといいなぁ。
-
2014/12/22-18:13
ご挨拶が遅れてごめんなさい。
リゼットと、パートナーのアンリです。
お店、盛り上げられるといいんだけど。
よろしくお願いしますね。 -
2014/12/21-22:12
-
2014/12/21-15:38
-
2014/12/21-15:04
豊村刹那だ。よろしく頼む。
ここはネージュラテが有名なんだったか?
ラテは好きだし。頼んでみるかな。