【愛の鐘】A.G.O.クッキングスタジオ(あご マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 
「メリークリスマース!A.G.O.クッキングスタジオでーす!
おいしいクリスマスケーキを作りませんかー!」

 クリスマス用の電飾で飾られたショーウィンドウが賑やかな大通り
一人の女性が大きな声で道行く人にチラシを手渡そうとしている。

彼女が着けているエプロンはトナカイの顔が前面に描かれ、
角の部分が肩紐になっているデザインで、胸元のバッジにはA.G.O.クッキングスタジオと書かれていた。




「あっ!」


 女性が、二人を見て駆け寄ってきた。
無理やりねじ込むような勢いで、二人の手に配っていたチラシを手渡す。

「ウィンクルムさん、助けてください!」

 彼女の切実な声音に、二人はとりあえず話を聞いてみることにした。


A.G.O.クッキングスタジオは、タブロス市内では有名なクッキングスタジオだったが、
先日の食中毒事件以来、営業停止から復帰はしたものの客足が伸び悩んでいるのだという。


オーガの肉を使った料理で食中毒を起こしたのだ、市民もさぞ警戒しているだろう。


「このままではクッキングスタジオは立ち行かなくなってしまいます!

そこで!

ウィンクルムさんたちが美味しいクリスマスケーキを作って楽しんでいる姿を
大通りに面した教室を使って公開して、そのケーキを売ってがっぽり……じゃなかった、
うちのスタジオの安全性を市民の皆さまにアピールしたいんです!

さらに、ケーキにこのメリー・ベルを使って魔法をかけてください」


 そう言った女性の手には、やや小振りな金のハンドベルが握られている。
持ち手には細かな蔦模様の彫金が施され、持ち手とベルの繋ぎ目には小さな羽根が付いていた。

彼女がメリー・ベルを揺らすと、ベルは透明な音を立てた。


「このメリー・ベルは
作った料理に食べた者を幸福な気持ちにさせる魔法をかけるためのハンドベルなんです。

つまり、皆さんが作ったケーキの前で
メリー・ベルを演奏しながらクリスマスソングを歌うと、料理に魔法がかかる仕組みです。

このメリー・ベルを使って市民の皆さまが楽しいクリスマスを過ごせるよう、
ぜひウィンクルムのみなさんにもお手伝いいただきたいんです」


 お願いします!と頭を下げられ、
二人は顔を見合わせ、再度チラシに目を落とした。



〜Merry Christmas!〜

街のイルミネーションを見ながら美味しいクリスマスケーキを作ろう!

ロマンチックなムードと甘いケーキで
素敵なクリスマスのひとときをすごしませんか?

材料はキット販売のお手軽クッキング!
担当講師の丁寧な説明で、初心者の方も簡単に可愛いケーキが作れます!

エプロンもスタジオで用意させていただきますので、事前準備は一切不要!


選べるキットは4種類!
どのキットも安全な材料を使っております、安心してご参加ください!

1.トナカイさんのブッシュドノエル
トナカイが住む森の木をイメージしたブッシュドノエル。
甘いチョコクリームに舌がとろけそう!

2.粉雪のふわふわチーズフロマージュ
粉雪に見立てたふわふわのスポンジクラムの中に、
コクのあるチーズクリームがたっぷり!


3.サンタさんのいちごショートケーキ
甘酸っぱいいちごと生クリームのハーモニーが堪らない、定番のケーキ。
スポンジを綺麗に焼くのにはちょっとコツがいる!?

4.雪夜のガトーショコラ
濃厚なチョコレート生地に、雪のような粉砂糖を添えて。
甘さ控えめで、甘いものが苦手な方にもお楽しみいただけます。


飲み物は、紅茶、コーヒーどちらかお選びください。


参加費
エプロンレンタル費用、材料費、飲み物代等々合わせて一組500Jr

※キット販売のケーキ作り体験のため、材料の持ち込みはご遠慮ください



「このチラシは一般の皆様用です

ウィンクルムの皆様には、さらに、メリー・ベルを使ってケーキに魔法をかけていただきます

販売は私たちが行いますのでご心配なく!

皆さんはご自分で作ったケーキを最大お一人1ピースずつ試食していただけます
魔法のかかったケーキ、きっととっても美味しいですよ!」



 女性の話を聞き終えた二人は、早速クッキングスタジオへと足を向けた。

解説

●流れ
ケーキ製作→ハンドベルで魔法をかける→パートナーと一緒に試食
と言うのがおおまかな流れです。

●プランには
作りたいケーキを最低限ご記入いただきたいと思います。
クリスマスソングに関しては、ご自分でお好きな曲を選んでもよいですし、
記載がなければGMの趣味で選ばせていただきます。

●試食
1個でケーキ一切れ(8等分サイズ)
最低1個、最高2個です。
2個頼んで、甘いものが苦手なパートナーの分も独り占めするもよしされるもよし、
1個頼んで、パートナーと分けっこ食べさせ合いっこするもよし。
いろいろ妄想しちゃってください!

ゲームマスターより

クッキングスタジオ第二弾です。
イベントに乗せていくスタイル。


年末年始は忘年会→クリスマス→お正月と
ハイカロリーなイベントが続きますね。
絶賛ダイエット中なのにこんなプロローグ!
ケーキ食べたいケーキ食べたい!
でもお雑煮も食べたい。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

ハロルド(ディエゴ・ルナ・クィンテロ)

  【お菓子選択】
ガトーショコラ、珈琲
(ディエゴが唯一味見できそうと考えた為)

……お菓子
馬の負担を考えて、体重は増やさないと言っておいた筈なんですが
はぁ…わかりました、今回だけですよ。

ディエゴさんがお菓子を作り、私はそれを毒味すると言うわけですか
まあ変なもの入れなきゃ無難に出来るでしょう…(もぐもぐ)
……
………美味しいです。

ディエゴさんの放った一言で噎せました
が、粉っぽかったと誤魔化しておきます
……あと、食べてるときに顔を見ないでください(背中を向けて食べる)
それと、いちいちそういうこと説明するのやめてもらえませんか。気まずいです。

…あ、皆さんのはほんとに美味しそうなお菓子で素敵です(にこ)



エリー・アッシェン(ラダ・ブッチャー)
  心情
うふふ、なんだか家庭科の授業を思い出します。

ケーキ
ブッシュドノエル
試食二個
紅茶二杯

行動
調理の邪魔にならないよう、髪はまとめてあります。
エプロンをつけるのに苦戦しているラダさんを手助け。
基本を守って真面目に調理します。
歌は何にします? 難しい歌は私には無理ですよ。
これはっ! 厳つい外見からは想像もつかない伸びやかな美声! 優しげなハスキーボイスで歌っています!
あ、はい。私も一緒に歌いますね。
ケーキを丁寧に味わうラダさんの様子を眺めます。
さっきは驚きのあまり茶化すように盛り上げてしまいましたが、ラダさんの歌声があんなに綺麗だったのは意外な発見でした。歌声を思い返しながら、ケーキをいただきます。


水田 茉莉花(八月一日 智)
  …あの時のクッキングスタジオか
鶏肉、まだ食べらんないのよねーって、ほづみさん?
…エサに釣られてやる気満々だわ

え、ここってオープンキッチン?!
あわわ、どうしたら良いのよ、ほ、ほづみさぁん!

…よし、イチゴを曲がらないで飾り付けられた
後はベルを振るんだっけ?
ハイハイ、コレ付けて、真っ赤な付け鼻
そういうトナカイさんの歌があるでしょ♪

つっかれたー!
子どもだけを相手にするのとは訳が違うわね…
あ、ありがとほづみさん(ガトーショコラとコーヒー受け取り)
ホントに甘いの好きね…

うん、あたし会社の託児所で保育士してたの
だから子ども相手なら大丈夫なんだけどね…
あ、つまらない?…別の話にした方がいい?
ん…じゃ、もう少し


アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
  作成:雪夜のガトーショコラ

二種類食べたいので…二個作りませんか?
あら、ショートケーキはラルクさんが?
じゃあ…私はガトーショコラにします

ケーキ作りなんて一度か二度したかどうかですが、
キットと先生のお陰で、ちゃんと作れそうです
それにしても…ラルクさんのエプロン姿、似合いませんね
ふふっ、ちょっとおかしい
いえ、なんでもないです、笑ってなんていません、真面目です、きり

これが魔法のハンドベル…綺麗な音
むしろ二人でやろうなんて言われないかと構えていたので安心しました

おかしい、同じことを考えていたわけですか
お言葉に甘えてラルクさんから頂いて
代わりにガトーショコラの半分をラルクさんに
クリスマスプレゼントです


ブランシュ・リトレ(ノワール)
  ノワールさんて甘いものが好きって聞いた事、あります
美味しいのが作れれば、アピールになるでしょうか…

1のブッシュドノエル作成
トナカイさんといえば、以前会った子達を思い出しますね
あ、あの格好は恥ずかしかったですが、可愛かったなと
反応に首傾げ

では頑張って作ります、ね
で、でも、どう見てもノワールさんの方が手際がいいですね…
背伸びはしない方がいい、という事でしょうか
ノワールさんにコツとか色々と聞いてみます
も、もしかして、手と手を取り合って教えて貰えたり…!

歌は好きなんですが、人前で歌うのは苦手で…
でも頑張ってみます、ね

ケーキは私も一切れ頂きますね
飲み物は紅茶
共同作品ですし、ね
ぜひ味わって食べる事にします



「あの時のクッキングスタジオか
鶏肉、まだ食べらんないのよねーって、ほづみさん?」

「あー、結局オーガの肉使っちゃったのね
おれも肉喰いたかった……え、ケーキ喰えんの?やるやるー」

 大通りで配られていたチラシを手にした水田 茉莉花がぽそりと呟く。
以前味わったグルヌイユ退治というおぞましい体験を思い出し身震いする。

隣にいるはずの八月一日 智から返答がない事を不思議に思い見回すと
智は既にクッキングスタジオの方へ向って足を進めていた。

「……エサに釣られてやる気満々だわ」




 スタジオ内に一歩足を踏み入れると、正面と左右はガラス張りになっていて
クリスマスのイルミネーションで飾られた大通りと道行く人の楽しそうな笑顔が見えた。

「えっ、ここってオープンキッチン!?
あわわ、どうしたら良いのよ、ほ、ほづみさぁん!」

「おっしゃー!
スポンジケーキ作りはおれの腕前披露する所だゼ!
みずたまり~緊張してんのか?
生クリームの泡立ては頼むぜー!」

 茉莉花が慌てた様子で智の方を見たが
彼はさして気に留めた風もなく
いそいそとショートケーキ作りの準備を進めていた。

スタジオから借りたサンタ風のデザインのエプロンの紐を締め
茉莉花にもトナカイのデザインのエプロンを投げて寄越す。

ふと、智のサンタエプロンの裾がフリルのように広がっていることに気づき
茉莉花が隣の調理台を見るとブランシュ・リトレがサンタエプロンを
ノワールがトナカイのエプロンを着けている。

「ほ、ほづみさん、これもしかしてエプロンがあべこべなんじゃ……?」

「おう、ホントは精霊がトナカイみたいだな
でも、おれがトナカイ着けると裾引きずっちまうんだよ
だから交換、な?」

「そ、そんなぁ!」

 フリルのサンタエプロンを身につけ智が事も無げに笑うのを見て茉莉花は情けない声を上げた。




(ノワールさんて甘いものが好きって聞いた事、あります
美味しいのが作れれば、アピールになるでしょうか)

 ブランシュがちらりと横目でノワールを見る。
一方トナカイのエプロンをつけたノワールは全く別の事を考えていた。

(オーガ食べて食中毒って、大丈夫なのかここは……
だがブランシュが乗り気なようだし……付き合っていくか)

 ブッシュドノエルの材料を準備しながら、ブランシュは以前訪れた古代の森での事を思い返した。

「トナカイさんといえば、以前会った子達を思い出しますね」

「ああ、あれか」

 いろいろな意味で大変な目に遭った以前の依頼を思い出し
ノワールは遠い目をする。

「あ、あの格好は恥ずかしかったですが、可愛かったなと」

「……あの格好はもうやめて置いた方がいいと思うが」

 思い出して、ふいと目を逸らすノワールの様子にブランシュは首を傾げる。

「似合ってなかった……ですか?」

「いや、似合っていなかったとかではなく、色々と際どいという意味で……」

 照れに任せて滑る口を慌てて抑え、ノワールは手際良くチョコレートを湯煎にかけ始めた。
そんな彼の様子を見て、ブランシュも講師の言葉に従って製菓に取りかかった。





「……お菓子」

 ディエゴ・ルナ・クィンテロに連れられてきたスタジオ
受付に並ぶパッケージを見てハロルドはぼそりと呟いた。

(馬の負担を考えて、体重は増やさないと言っておいた筈なんですが)

 じろりとディエゴの方を見れば、思いつめたような表情でケーキのパッケージを見つめている。

(ハルは一変して物を食べなくなった
元々表情が乏しかったが、食事の時には笑ってたんだ
美味いものを作って食べさせればあるいは……)

 それはディエゴなりに考えた、ハロルドへの気持ちの伝え方だった。
自身が甘い物が苦手な事などこの際問題ではない。

(この菓子は、ハロルドの為に)

 その願いは、以前の‶ハロルド‶がモンブランに込めた思いに似ていた。

(誰かが自分のために作ってくれた料理というものは
どんな高級レストランにも勝る美味だ、と……誰が言っていたんだったか)

そんなディエゴの気持ちを知ってか知らずか、ハロルドは今回だけですよ、と
ガトーショコラのパッケージを選び取った。





「わーい、ケーキが食べられるぅ!」

 ズラリと並んだケーキのパッケージに、今にも踊りだしそうなラダ・ブッチャーを横目に
ブッシュドノエルのパッケージの裏を確認してエリー・アッシェンはうっすらと笑った。

「うふふ、なんだか家庭科の授業を思い出します。」
 
「家庭科? そういう科目もあるんだねぇ
お菓子を食べる科目なの?」

 違いますよ、と答えながら、エリーは手早く髪をまとめてエプロンを身に着ける。
目の前ではラダがエプロンの紐をうまく結べず苦闘しているのが見えた。

「ラダさん、手伝いましょうか」

「ホント!?ありがとう」

 講師の指導を受け、基本に忠実に作業を進めていくと少しずつブッシュドノエルが形になっていく。
その様子を、ラダは期待に満ちた瞳で見つめていた。







「申し訳ありません、ガトーショコラは売り切れてしまったんです……」

「そうですか……」

 すまなそうに頭を下げるスタッフに、アイリス・ケリーは残念そうに肩を落とした。

ラルク・ラエビガータは
甘い物を多く食べる方ではなかった。

そして、甘い物をあまり食べない彼の為に
アイリスがショートケーキとガトーショコラを頼もうとしてくれたことも
ラルクはきちんとわかっていた。

「仕方ないな
ま、一緒にショートケーキでも作るか」

 ぽんぽん、とアイリスの肩を叩くと
ラルクはショートケーキのパッケージを手にスタジオの中へと入って行った。






「……よし、イチゴを曲がらないで飾り付けられた」

 綺麗に焼けたスポンジと純白の生クリーム。

絞り出したクリームの上に真っ赤な苺をそっと乗せ
茉莉花はケーキの上に屈みこんでいた体を起こした。

「後はベルを振るんだっけ?」

「いえーす!ベルを振って幸せをおとど……
みずたまり、なにすんの?」

 茉莉花が出してきた赤いつけ鼻に首を傾げた智だが
茉莉花は全く気にせずつけ鼻を智に手渡した。

「ハイハイ、コレ付けて、真っ赤な付け鼻
そういうトナカイさんの歌があるでしょ」

「マヂか!よし、じゃあ…」

 二人で歌いながらメリー・ベルを振る。

「ちょ、ちょっとほづみさん、なんでオクターブ下なんですか!」

「ん?んんっ、よし、もう一回」

 智が咳払いを一回。

そうして再度二人で歌いだし、ベルを振る。
ベルから零れた輝きが、二人で作ったショートケーキを包みこんだ。








ちらり、とブランシュがノワールの手元を見る。

(どう見てもノワールさんの方が手際がいいですね……)

 
 手際良くスポンジ生地を巻いていくノワールの手際の良さに自分の手元を見る。
ノワールは甘いものを食べるのも、作るのも好きなのだ。

次の行程で使うはずのブランシュが担当しているチョコクリームは未だ完成していない。
刻んだチョコレートがうまく溶けないのだ。

(背伸びはしない方がいい、ということでしょうか)

 本当は一人でうまくやり遂げてみたかったブランシェだが
諦めてノワールにコツを聞きに行くことにした。

「ノワールさん、あの、チョコが……」

 ノワールに声をかけたところで、ブランシュの脳裏にふと妄想がよぎる。

(も、もしかして、手と手を取り合って教えて貰えたり……!)

 ゴムべらを握る自身の手にノワールが後ろから包みこむように手を添え
一緒にチョコクリームを混ぜる光景を思い描き、きゃっと一人で赤面する。


そんなブランシュの期待とは裏腹に
ノワールはブランシュが抱えているボウルのお湯にそっと指先を浸す。

「湯温が少し低いようだな
待ってろ、今湯を足してやる」

 的確なアドバイスと共に湯煎用の湯を少し足され
ブランシュのボウルの中のチョコクリームは完成したものの
当のブランシュは釈然としない表情をしている。
どうかしたか、と問うとがっかりした様子でなんでもないです、と返され
ノワールは意味がわからず首を傾げるのだった。

チョコクリームを塗り、飾り付けたブッシュドノエルを前に
ブランシュとノワールはベルを手にした。

(歌は好きなんですが、人前で歌うのは苦手で……
でも頑張ってみます、ね)

 一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせたブランシュが
そっと歌い出したのは聖なる夜を讃える静かなクリスマスソングだった。

その普段の声との差にノワールは耳を疑った。

(腹から声が出ているとはこの事か?
普段の喋り方の調子からは想像できないな)

 ブランシュの美しい歌声にそっと声を合わせると
ベルから零れた輝きが、ブッシュドノエルに降り注いだ。








目の前の調理台には寸分の狂いなく計られ
または綺麗に振るいに掛けられた材料が並んでいる。

写真の手本通りに湯煎されたチョコレートと、しっかりと泡立てられたメレンゲ
金属製のケーキ型に敷かれたクッキングシートは端まできっちりと整えられていた。

「なかなか……楽しいな
菓子作りは化学だと聞いたことがあるがその通りかもしれん」

 几帳面なディエゴの性格は製菓に向いていたようだ。

すべての材料を混ぜ合わせ綺麗に型に流し込んだところで
事前に準備しておいたオーブンの余熱が終わり
ディエゴがオーブンにケーキを入れるのを、ハロルドはじっと眺めていた。





「ウヒャア……ブッシュドノエルは飾り付けも楽しいねぇ」

 皿に載せられたデコレーションパーツをラダが飾り付けていく。

スノーウッドの森の木をイメージして一つ一つ丁寧に並べると
程なく賑やかに飾られたブッシュドノエルが出来上がった。

「歌は何にします? 難しい歌は私には無理ですよ」

 エリーがハンドベルを手渡しながら尋ねると、ラダは少し考える。

(歌かぁ
ボクはラップが好きだけど、場違いだしエリーと一緒に歌えないよねぇ)

 ふと調理台の上のブッシュドノエルに、ラダはツリーにも使われる樅の木を連想した。
出だしの一節を高らかに歌い上げると、ラダの声は見た目に似合わず朗らかで
その美声に思わずエリーは自身が歌うことも忘れ驚きの声を漏らす。

「これはっ!
厳つい外見からは想像もつかない伸びやかな美声!
優しげなハスキーボイスで歌っています!」

「歌声を褒められたのは嬉しいけど
エリー、実況してないで一緒に歌ってよぉ」

「あ、はい
私も一緒に歌いますね」

 ラダに促され、エリーもベルを振りながら同じ歌を歌い出す。
ベルから零れた輝きが、ブッシュドノエルを華やかに彩った。





「ケーキ作りなんて一度か二度したかどうかですが
キットと先生のお陰で、ちゃんと作れそうです」


「菓子作りなんざ初めてやるが……意外と力が要るもんなんだな」

 講師の指示に従い生クリームを泡立てながらアイリスが隣を見ると
トナカイエプロンを着けたラルクが小麦粉を振るっていた。


(それにしても……ラルクさんのエプロン姿、似合いませんね
ふふっ、ちょっとおかしい)

 見慣れないラルクのエプロン姿にアイリスが小さく笑みを漏らすと
見咎めたラルクがじろりと睨む。

「何笑ってんだ、アンタ」

「いえ、なんでもないです、笑ってなんていません」

 真面目です、と言いながら、きりっとしきれないその頬は未だ少し緩んでいる。
全く、とぼやきながらラルクは再度ケーキ作りに意識を向けた。


講師の丁寧な説明もあり、しばらくすると二人の前には雪のように白いクリームと
真っ赤な苺が飾られたショートケーキが出来上がった。


「これが魔法のハンドベル……綺麗な音」

 手にしたベルをそっと揺らし、アイリスが感嘆の声を漏らす。

「確かにいい音だな
アイリス、アンタが鳴らせ
二人でどうのこうのって話はあるがな、俺らはそういう関係じゃないだろ」

そう言って、ラルクが自分の分のベルをアイリスの方へ寄せる。

「むしろ二人でやろうなんて言われないかと構えていたので安心しました」

 ほっとした表情でベルを手にしたアイリスが救世主の来訪を歓迎する歌を歌う。
清廉な音で鳴り響くベルの音と、涼やかなアイリスの歌声が調和するが
一人きりで鳴らしたベルから祝福の光が零れる事は無かった。




みなさん、お疲れさまでした!と元気なスタッフの声と共に
一同が作ったケーキは外へと運ばれていく。
ウィンクルム達が作ったケーキは、興味津津といった表情でガラス窓の外から眺めていた市民に
あっという間に買われていった。



「つっかれたー!
子どもだけを相手にするのとは訳が違うわね」

 トナカイエプロンを外し、椅子に座りこんだ茉莉花のもとに
智がコーヒーとショートケーキを二人分運んでくる。

「ほれ、みずたまりは甘いの苦手だろ」

「あ、ありがとほづみさん」

 ブラックコーヒーを茉莉花に渡し、自身も椅子に腰かけると
智は早速ショートケーキの一口目を嬉しそうに頬張った。
その傍らには、ミルクと砂糖を入れたコーヒーが湯気を立てている。

「ホントに甘いの好きね」

「甘味はデスクワークの友だからな!
アプリ作る時も喰ってるぜ!」

 笑顔でショートケーキを食べながら、智は調理中に気づいた質問を茉莉花にぶつける。

「みずたまり
お前途中からちびっ子達に手を振ってたろ
前の職ってちびっ子関係の職だったりする?」

 スタジオに足を踏み入れた当初は、がちがちに緊張していた茉莉花だったが
調理中、窓の外を通った子供たちには笑顔で手を振っていたのを智は見逃してはいなかった。
そして、丁度その辺りから茉莉花の表情が和らぎ、緊張が解れてきたようにも見えていた。

「うん、あたし会社の託児所で保育士してたの
だから子ども相手なら大丈夫なんだけどね……」

「……それで緊張しなくなったのか」

 子供たちに笑顔で手を振ることがスイッチとなり
茉莉花は自然にリラックスする事が出来、落ち着いたのだろう。

智は手にしたコーヒーを一口啜り窓の外を見た。
大通りのイルミネーションは、楽しげな子供たちの笑い声と一緒にちかちかと瞬いている。

その仕草を、自分の話に飽きたのだと思った茉莉花が
慌てて話題を変えようとする。

「あ、つまらない?……別の話にした方がいい?」

「うんにゃ、知らないみずたまりもいいな」

「ん……じゃ、もう少し」 

 自分の知らない昔の茉莉花の事を知るまたとないきっかけだと智が笑顔で答えると
茉莉花は少しほっとした表情で保育士時代のエピソードを話していく。

その茉莉花の生き生きとした表情に、智は茉莉花の新たな一面を発見したような気がした。





ブランシュは紅茶、ノワールはコーヒー。
一切れずつブッシュドノエルを用意し、いただきます、と手を合わせる。
ケーキにフォークを入れようとして、ブランシュの手がはたと止まった。

(二人で一緒に作ったケーキ……共同作品……
初めての、共同作業……)

 ブランシュの頭の中で、妄想のファンファーレが鳴り響く。
大通りで輝くイルミネーションも二人を祝福する光に見えた。

自分の妄想に自分で照れ、ちらりとノワールの様子を伺うと
ノワールはブランシュの様子には気付かず
早速ブッシュドノエルを口に運んでいるところだった。

「ん、美味いな」

 菓子に関しては舌が肥えているほうではあるが
今回のケーキはなぜか特別美味しく感じられた。
二口、三口と、味わいつつもフォークを進める手が止まらない。

(私も、ぜひ味わって食べる事にします)

 ノワールが喜んでくれた気配を感じながら
ブランシュもケーキを一口頬張った。






「ディエゴさんがお菓子を作り、私はそれを毒味すると言うわけですか」

 ディエゴが運んできたガトーショコラを前に、ハロルドが呟く。

「毒など入っていない
ほら、見ておけ」

 敢えて‶毒見‶なんて物騒な表現を使うハロルドに
ディエゴは自分の分のガトーショコラをひとかけ食べてみせた。
そんなディエゴの姿に、ハロルドもまたガトーショコラを口に運び始めた。

「まあ変なもの入れなきゃ無難に出来るでしょう」

 咀嚼し、飲み込む。

「…………美味しいです」

 たっぷりの沈黙の後、ハロルドはどこか悔しげに呟いた。

「美味いか、良かった
俺は何より食べ物を美味そうに食う奴が好きだからな」

 その何気ないディエゴの一言に
ハロルドはごほ、と噎せ、慌てて手にしたコーヒーを飲んだ。

「大丈夫か」

「少し、粉っぽかったようです」

 しっとりと濃厚ながートーショコラには
粉っぽいところなどどこにも見当たらないがハロルドは咄嗟にそう言ってごまかした。

「粉っぽい?俺のは全然粉っぽくないぞ」

「……あと、食べてるときに顔を見ないでください」

 眉間に皺を寄せ、自身の目を真っ直ぐに見るディエゴに居た堪れなくなったハロルドは
ふいと顔を逸らし、ディエゴに背を向けてケーキの続きを食べ進めた。


 「言ってること可笑しくないか?」

 納得しないディエゴが食い下がると
ハロルドはようやく小さな声で視線を合わせないまま呟いた。


「……いちいちそういうこと説明するのやめてもらえませんか
気まずいです」

「………!
違う、さっきのはそういう意味で言ったんじゃない
男でも女でも嬉しそうに食事する奴のほうが良いだろ」

 

 ハロルドの言葉に
ディエゴはようやく先ほどの自分の言葉を振り返り
遅まきながら少し焦った様子を見せたのだった。

大通りのイルミネーションが、ディエゴの顔に赤い光を落とす。


「皆さんのはほんとに美味しそうなお菓子で素敵ですね」

(他の奴には笑顔を見せるんだな
俺には意地の悪いことを言ってる時以外笑わないのに)

 ディエゴには構わず、ハロルドは他の調理台を見回し力作の姿に頬を緩ませる。
その自然な笑顔に、ディエゴは心の奥で苛立ちを感じた。







「ヒャッハーッ!お楽しみの試食タイム!」

 切り分けたブッシュドノエルを前に大喜びのラダ。

「せっかくのクリスマスだし、イルミネーションを見ながら行儀よく食べようっと」

 椅子に座り直すと
ラダは普段のガツガツした食べ方は止め
自分たちで作ったケーキを慈しむようにゆっくりと味わい始めた。


(さっきは驚きのあまり茶化すように盛り上げてしまいましたが)

 紅茶を一口啜りながら、エリーは隣で嬉しそうにケーキをつつくラダを見る。

(ラダさんの歌声があんなに綺麗だったのは意外な発見でした)

 ラダの歌声を聴いたのは初めてだったが、まさかあんなにうまく歌うとは思わなかった。
エリーの脳裏には先ほど歌ったクリスマスソングが流れ続けている。

(また聴貸せていただける機会はあるでしょうか)

 ラダの美しい歌声を思い返しながら
エリーもケーキにフォークを入れ、二人で作ったブッシュドノエルを味わうのだった。





 
二人で並んでケーキを見つめる。
アイリスは、ラルクの様子を少し気にしていた。

「大丈夫、ですか?」

 甘いものが苦手なラルクの前にはショートケーキ。
一切れ全部は少し多く思える。
ラルクは未使用のフォークで自分のケーキを半分にし、片方をアイリスの皿に載せた。

「クリスマスプレゼントだ
甘いもの、好きだろ
俺には半分が丁度いい」

 いつも穏やかな、本心を隠すような笑みを湛えているアイリスが
甘いものを食べている時だけ心からの笑顔になることをラルクは知っている。

「まあ、ありがとうございます
じゃあ、これは私からのクリスマスプレゼント」

 アイリスは、フォークで自分のケーキの上の苺を取り
そっとラルクの半分だけのケーキの上に載せた。

「それなら、甘すぎないですよね」

 にっこりと微笑むアイリスの、イルミネーションに照らされた笑顔がきらきらと輝いて見えた。








オープンキッチン作戦と、ウィンクルム達が作ったクリスマスケーキの美味しさで、
A.G.O.クッキングスタジオもまた少しずつ以前までの評判を取り戻していった。





依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター あご
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月15日
出発日 12月21日 00:00
予定納品日 12月31日

参加者

会議室

  • [8]ブランシュ・リトレ

    2014/12/20-22:10 

    えと、ブランシュ・リトレ、です。
    よろしくお願いします、ね。

    ケーキは私もブッシュドノエルに、してみようと思っています。
    うまくできると、いいな…。

  • [7]エリー・アッシェン

    2014/12/20-17:49 

    うふふ、エリー・アッシェンです。
    初めましての方も、お会いしたことのある方も、どうぞよろしくお願いします。

    ケーキはブッシュドノエルを作ってみるつもりです。
    でもクリスマスソング選びが難航しております……っ! 主に著作権の関係で、ですね……。

  • [6]水田 茉莉花

    2014/12/20-09:58 

    「ぼちぼちでんなぁ」・・・じゃなくて!
    どうも、水田茉莉花です。皆さんよろしくお願いします。
    ハロルドさんとアッシェンさんはお久しぶり!

    作るケーキ、あたし達は定番の苺ショートにしようかなって思ってるの。
    クリスマスソングはまだ決まってないかな?

    ま、毒味役っていうか、宣伝、頑張りましょうね♪
    ・・・・・・ほづみさんに毒されてきたかなぁ?

  • [5]水田 茉莉花

    2014/12/20-09:41 

  • [4]アイリス・ケリー

    2014/12/19-08:16 

    ごめんなさい、うっかり二重投稿してしまったので削除しました。
    アイリス・ケリーと申します。
    エリーさん、茉莉花さん、ブランシュさん、初めまして。
    ハロルドさんはお久し振りです。
    どのケーキもとても美味しそうなので、どれを作るか非常に悩みます…。
    それでは、どうぞよろしくお願い致します。

  • [2]アイリス・ケリー

    2014/12/19-08:07 

  • [1]ハロルド

    2014/12/18-20:28 


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