【聖夜/愛の鐘】氷上の舞踏会(雪花菜 凛 マスター) 【難易度:普通】

プロローグ

 ──氷のお城で、夢のような一時を──

 タブロス市郊外に、氷の城をイメージしたスケート場が期間限定でオープンしました。
 古城を模した外観。
 白とブルーが基調の室内には、氷と雪をモチーフにした彫刻が施された柱や壁。
 天井には綺羅びやかな夜空と、氷の結晶の形のシャンデリアが華やかに訪れた人々を照らします。
 何とも幻想的な一時を楽しめる場所として、主にカップルに人気を集めていました。

 そして、聖夜に、スケート場では特別なイベントを開催される事になります。

 『氷上の舞踏会』

 そう、氷の上で、華やかな舞踏会を行うというのです。
 リンクの周囲では、オーケストラによる生演奏あり、一層綺羅びやかに彩られた空間が皆様を出迎えます。
 ドレスはスケート靴同様に貸し出しがあり、お好きな衣装で着飾る事が可能です。
 ドレスアップして、氷の上を滑る一時は、きっと特別な時間となるでしょう。

 スケート場と併設しているレストランでは、クリスマスディナーが振る舞われます。
 スケートが滑れない、滑りたくない人々も、氷の城の風景を楽しみながら、お食事を楽しんで頂けます。
 勿論、滑り疲れた時に、休憩して食事を楽しんでいただく事も可能です。

 なお、スケート初心者の方向けに、小さめなスケートリンクもございます。
 初めて滑る、または久し振りに滑るという方は、パートナーと一緒にこちらで練習すると良いでしょう。
 
 少しひんやりとした空間ですので、自然と二人の距離も近くなるかもしれません。
 幻想的な氷の城の一時を、お過ごしください。

解説

※注意※
本エピソードのリザルトノベルお届けは、12月24日となります。

氷のお城を模したスケート場で、舞踏会のような一時を過ごして頂くエピソードです。

どのような衣装でどのように過ごすのか、プランに明記をお願い致します。
(ドレスコードは御座いません!)

レストランでは、クリスマスディナーが楽しめます。

コースは以下の料理となります。
・オマールエビと野菜のプレッセ
・ビーフコンソメスープ
・ローストチキン ヨークシャープディング添え
・牛フィレとフォアグラのソテー バルサミコソース
・ティラミス
・珈琲、または紅茶

コースにせず、お好きなもの単品でもご注文頂けます。この場合は、食べたいものを明記願います。
成人している方はお酒も飲めますが、飲んだらスケートは滑れませんので、ご注意ください。

なお、参加費として、入場料(スケート靴や衣装代込み)がパートナーと併せて「200Jr」。
レストランで料理を楽しむ場合は、更に、パートナーと併せて「200Jr」掛かります。
あらかじめご了承ください。

ゲームマスターより

ゲームマスターを務めさせていただく、『スキーもスケートも年単位で行ってない!』方の雪花菜 凛(きらず りん)です。

白羽瀬 理宇GM主催【聖夜】クリスマス連動シナリオです。
リザルトノベルを12月24日の夜にお届けしよう!という素敵企画となっております。
リザルトノベルお届けは、12月24日となりますこと、あらかじめご了承ください。
皆様のサンタクロースとなれるよう、頑張りますっ!

色々悩んだのですが、氷上の舞踏会って単語が浮かんでしまったので、こんなエピソードにしてみました。
のんびりと、スケートと氷の城の一時を楽しんで頂けたらと思います。是非お気軽にご参加ください!

皆様の素敵なアクションをお待ちしております♪

リザルトノベル

◆アクション・プラン

マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)

  ○衣装
橙色のボールガウン

○クリスマスプレゼント
サフランイエローのリボン

○行動
氷のお城…うふふ
とっても素敵ですわっ

靴とドレスを借りてリンクへ

それにしてもサフランはこの間まで
スケート初心者でしたのにもう上手なんですから
何だか悔しいですわ

少し滑ったら他の人の邪魔にならないように
端の方でプレゼントを渡します

サフランの髪を纏めているリボン
前に渡したチョコレートを包んだ時に
作ったリボンをしている時がありましたの
だから今度はちゃんとプレゼント

「メリークリスマス、サフラン」

…私に、ですの?
あ、ありがとう、ございます

イヤリングを付け替えて
似合います?と笑い掛けます

そのままもう一度
音楽に乗って氷の上を滑りましょう



手屋 笹(カガヤ・アクショア)
  【PC意識】
カガヤの事が好きかもしれない?と自問状態。
確かめたい。

【衣装】
貸衣装の和ドレス(膝丈)、防寒タイツ

【手段】
氷上の舞踏会…素敵…

舞ですか?
他の方の邪魔にならないようにしつつ
氷上なのでいつも通りにはなりませんけど…
(ダンスLV4)

アイスダンス未満で
演奏曲に合わせてゆっくりと滑ったり
ゆったりと回転して見せたりします。
カガヤが楽しそうかどうか見ます。

わたくしの舞どうでしたか?
カガヤの見たかったものに出来ていたかどうか…

楽しかったですわ!
綺麗な場所で舞う事が出来て本当に勿体無い…

スケート靴が脱げないです…
うーん(引っ張ってみるも脱げず)
ありがとうございます…あったかい…けど何だか恥ずかしい…



アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
  淡いブルーの、アイスダンスの衣装のような膝下までのドレスをお借りします
小さな星のモチーフが気に入ったので

氷の城自体も素敵ですが、シャンデリアと夜空が特に綺麗
私、夜空が好きだって話しましたか?
…嬉しいものですね、自分を理解してもらえるということは
なんだか、胸が温かい

差し出された手に、手を重ねてそのまま中央へと
ダンスの心得は一応ありますけど、やっぱり氷の上は随分勝手が違いますね
でも、軽く滑るだけでも充分だと思います
だって見せる為ではないんですから
満足、ですか?楽しんでますけど、何故?
くすっ、確かにその必要はありますね

そうですね、お腹がすいてきました
差し出された手を再び取って、レストランへ



ユラ(ルーク)
  アドリブ大歓迎
Aラインのショートドレスにボレロ

うわぁ、綺麗!
でも、こうカップルだらけだとちょっと気が引けちゃうね
私ダンスなんてしたことないよ?(苦笑
ちゃんとエスコートしてね

そういえばこんなに近づいたのは初めてかも
子供だと思ってたけど、こうして見ると男の人なんだなぁ
今日はいつもと雰囲気違うし……やめよう
なんか恥ずかしくなってきた…

疲れたらレストランで休憩
小さいホールケーキ+ノンアルコールワインをサプライズで注文

少し早いけどお誕生日おめでとう
ねぇびっくりした?ごめんね
プレゼント色々考えてたんだけど、良いのが思いつかなくて…
せめて一緒に祝ってあげたいなって

ハッピーバースデー、ルーク
メリークリスマス



アメリア・ジョーンズ(ユークレース)
  クリスマスに向けて彼氏を作ろうとしたけど、大失敗…。
このままじゃ、惨めに一人クリスマスだわ…。
え、なにユーク?
スケートと、デザート食べに行こう?
なんでアンタと行かないといけないのよ!
そりゃ、予定はないけど…って、ちょっと待ちなさいよー!

前とは違う、赤いドレス…服装が釣り合わないからこれに、着替えて?
(これって、ある意味サプライズ…よね?)
で、これでスケートやれってゆーの?
はぁ?滑れない!?
もうしょうがない…あたしが教えてあげるから、滑りましょう。(常にリードした滑り)

ん~運動の後のデザートって格別よね!
で、今日なんで誘ったのよ?
秘密ぅ!?女子かアンタは!
ちょっと!無視しないで教えなさ…えっ?



●1.

 煌めく氷の結晶が天井を彩り、スケートリンクを照らしている。
(素敵……)
 手屋 笹は、ほぅっと小さく吐息を吐き出した。吐く息もほんのりと白い。
「舞踏会が出来るスケートリンクって、雰囲気がすごいね!」
 隣ではカガヤ・アクショアが、瞳をキラキラさせて周囲を見渡していた。オーケストラの演奏が、更に空気を華やかに彩っている。
「笹ちゃん、寒くない?」
 私服のダウンジャケット姿のカガヤは、膝丈の和ドレス姿の笹を少し心配そうに見つめた。
「あ、いや、すっごく似合ってて可愛いんだけどさ!」
 慌てて付け加えるカガヤに、笹は小さく笑う。
「平気ですよ。意外と暖かいんです」
 スカートは短めだけど、防寒タイツで寒さ対策は抜かり無い。
「そっか。よかった!」
 カガヤもまた笑顔を見せると、うんと一つ頷いて、思い切ったように口を開いた。
「ねえ笹ちゃん、折角舞踏会って言われてるイベントなんだし、舞を見せて欲しいな」
「舞、ですか?」
 笹は目をパチパチとさせてカガヤを見上げる。
「うん」
 真っ直ぐに見つめてくる彼に、少しだけ体温が上がるような感覚。
「そう、ですね。氷上なのでいつも通りにはなりませんけど……」
 ざわめく胸を押さえて、笹は頷いた。
 カガヤの顔に嬉しい色が満ちるのに、ドクンと大きく心臓が跳ねる。
 その感覚を誤魔化すように、笹はゆっくりと踏み出した。
 氷上を滑らかにスケート靴が滑っていく。
 響くオーケストラの音色に合わせて、片足で氷を蹴り、もう片方のエッジの上に乗った。
 両手を上げて、滑らかにカーブを描く。
 カガヤもまたエッジを蹴って踏み出し、笹の隣に並ぶと彼女に手を差し伸べた。
 笹はその手を取って、ゆっくりと氷の上に華麗なスピンの華を咲かせる。
 繋いだ指先が温かい。
 視線を向けると、カガヤが瞳を細めてこちらを見ていた。
 その視線も温かくて──笹は自然と微笑む自分を感じていた。

「わたくしの舞、どうでしたか?」
 二人でエッジを横にして止まってから、笹はカガヤを見上げる。
「カガヤの見たかったものに出来ていたかどうか……」
 不安が込み上げて僅かに俯いた彼女の耳に、明るい声が響いた。
「楽しかったし綺麗だったよ!」
 顔を上げると、彼の輝くような笑顔がある。けれど、そんな笑顔が曇った。
「それとも笹ちゃんは嫌々やったのかな? 俺としてはそっちの方がしょんぼりだけど……」
 耳をぺたんとさせるカガヤに、笹は即座に首を振る。
「楽しかったですわ!」
 僅か頬を紅潮させ、両手を合わせた。
「綺麗な場所で舞う事が出来て本当に勿体無い……」
「そっか。それなら俺も嬉しい!」
 そんな笹の様子に、カガヤは嬉しそうに耳をピンと立てる。
「ね、笹ちゃん、疲れたでしょ? ちょっと休憩しようよ」
「そうですね」
 リンクを上がって、スケート靴を脱ごうとして──笹は停止した。
「あれ?」
 靴が脱げない。
「笹ちゃん、どうかした?」
 先に靴を履き替えたカガヤが、覗き込んでくる。
「スケート靴が脱げないです……」
 近くに来たカガヤの顔にドキッとしつつ、笹は思い切り靴を引っ張った。けれど靴はぴったり嵌ったまま。
「慣れなくてむくんじゃったのかな」
 無理に引っ張らない方がいいよと、カガヤの手が笹の手を止める。
「俺がおんぶして移動するよ」
 言うなり、しゃがんで笹の方へ背中を向けた。
「えっ? でも……」
「いいプレゼント貰っちゃったしね。お返しって事で」
 振り返ってパチンとウインクする彼に、笹は僅かに悩んでから小さく頷く。
「ありがとうございます……」
 そろりと彼の背中に身を委ねれば、二人の体温が重なった。
(あったかい……)
(笹ちゃん、軽くてあったかいな)
「よーし、じゃ、カガヤ号しゅっぱつしまーす!」
 元気な声が直接身体に響いて、いつもより高い視界で世界が動き出す。
(何だか恥ずかしい……)
 ふわふわ熱を持ったような不思議な感覚で、笹は少しだけ瞳を閉じたのだった。


●2.

「氷のお城……!」
 目の前に広がる氷と雪の世界に、マリーゴールド=エンデは金色の瞳を煌めかせる。
「うふふ、とっても素敵ですわっ」
 ね、サフラン?と、パートナーを振り返れば、彼、サフラン=アンファングもまた、周囲を見渡して感心している様子だった。
「へー、細かい部分まで凝ってるな。シャンデリアなんて氷の結晶の形しているよ」
「折角ですし、衣装をお借りして滑りませんか?」
「そーだネ。折角ダシ」
 マリーゴールドとサフランは、それぞれ衣装を選んで更衣室へと入る。
 マリーゴールドが選んだのは、橙色のボールガウンドレス。
 ストラップレスのトップに、タイトなウェストラインには花のコサージュが。そして、レースを重ねたフルボリュームのスカート。
 防寒用にショールを羽織り、パーティバックにこっそりとラッピングしたプレゼントを忍ばせて、マリーゴールドはスケートリンクへ向かった。
 綺羅びやかな照明に瞳を細めていると、耳慣れた声がする。
「マリー、こっち」
 リンクの入り口に、紺色の燕尾服姿のサフランが居た。
 白のウィングカラーシャツに、白のベスト、白の蝶タイに、紺色のジャケットとパンツが映える。
(いつもと雰囲気が違うからでしょうか……少し照れてしまいますわね)
「お待たせしましたわ」
 僅かに頬を紅潮させてしまいつつマリーゴールドが微笑めば、サフランも瞳を細めた。
「そーでもないヨ。じゃ、行こうカ」
 二人並んで、スケートリンクへ踏み出す。
 サフランは少し慎重にエッジの感覚を確かめながら、前へ進んだ。
 滑らかな危なげないその様子を見て、マリーゴールドは瞬きする。
「すっかり滑れるようになりましたね」
「まだちょっと慣れないけどネ」
「この間までスケート初心者でしたのに、もう上手なんですから……何だか悔しいですわ」
 拗ねたような響きの声に、サフランは喉を鳴らして笑った。
「ヤダ、マリーゴールドサンッタラ、オレノサイノウニシットシテルー」
「むむむ」
(だって、サフランに頼られる機会が無くなった事になるんですもの)
「眉間に皺」
 トンとサフランの指が、マリーゴールドの額を押した。
「……お前の教え方が良かったからじゃない? マリー先生?」
「あ……」
 悪戯っぽいサフランの笑顔に、マリーゴールドは目を見開く。
「と、当然ですわねっ」
 エヘンと胸を張ると、またサフランが笑う声がした。
 そのまま二人はリンクを一周しながら、天井の星空や氷や雪のモチーフに彩られた光景を楽しむ。
「サフラン、ちょっとこっちに来てくださいな」
 二周程した所で、マリーゴールドはサフランをリンクの隅へと連れ出した。
「メリークリスマス、サフラン」
 用意してきたプレゼントを彼に差し出す。
「……俺に?」
 サフランは驚いた様子でプレゼントとマリーゴールドを交互に見た。
「勿論。サフランに、ですわ」
「……アリガトウゴザイマス」
 サフランはプレゼントを受け取ってから、懐へ手を入れる。そして小さなラッピングされた箱をマリーゴールドへ差し出した。
「先越されちゃったけど……メリークリスマス、マリー」
 今度はマリーゴールドが瞳を丸くする。
「私(わたくし)に?」
 頷くサフランからプレゼントを受け取って、マリーゴールドは微笑んだ。
「有難う御座います。開けてもいいですか?」
「いいよ。俺も開けるけど、イイ?」
 えぇとサフランに頷いて、マリーゴールドはラッピングを解く。
「これって……」
「マリーは恋虹華が大好きだからな」
 四つの花びらの恋虹華を模したイヤリングが、虹色に光っていた。
「こっちはリボン?」
 サフランの手には、サフランイエローのリボンがある。
「髪を纏めるのに使ってくださいな」
 バレンタインの時、プレゼントしたチョコレートのラッピングに使っていたリボンが、時折サフランの髪を纏めているのを見た事があった。
 だから、今度はきちんとプレゼントでリボンを渡したいと考えていた。
 サフランはその場で髪を解いて、プレゼントのリボンで結わえ直す。
 マリーゴールドもイヤリングを付け替えた。
「似合う?」「似合います?」
 同時に問い掛けて、二人で笑う。
「似合ってますわ」「似合ってるよ」
 答える声も同時だった。
「お手をどうぞ、お嬢さん」
 サフランが手を差し伸べ、マリーゴールドが手を重ねる。
 二人は、流れる音楽に乗せて、氷上のステップを刻み始めた。


●3.

「どーしてこうなった……!」
 アメリア・ジョーンズは、絶望に打ち拉がれていた。
「このままじゃ、惨めに一人クリスマスだわ……」
 断固それだけは阻止しようと、クリスマスに向けて彼氏を作りに励んだのに、無情にも大失敗。
「妻持ちなら、ちゃんと最初に言いなさいって言うのよー!」
 指輪外してるなんてインチキだわっと、机を叩いた瞬間、
「クリスマスに一人とか、エイミーさん可哀想に……」
 よく知った声が聞こえ、アメリアは机に沈んでいた顔を上げた。
「ユーク! アンタ、いつの間に入って来たのよ!」
 ここ私の家!と、指差すアメリアの言葉を無視して、ユークレースはにっこり微笑んだ。
「しょうがないので、僕が夢のような世界に連れて行ってあげますよ」
「……ハァ?」
「スケートとデザートです、エイミーさん」
「意味が分かんないけど、何でアンタと行かないといけないのよ!」
「予定ないんでしょう? このままだと一人でクリスマスになりますよ。さ、行きましょう、今直ぐ」
「そりゃ、予定はないけど……って、ちょっと待ちなさいよー!」
 アメリアは、ユークレースの引きずられるようにして自宅を出発した。

「わぁ……綺麗な所……」
 辿り着いた先は、予想外にロマンチックな雰囲気に包まれたスケート場で、アメリアは思わず感嘆の吐息を漏らす。
「服はこれでお願いします。僕と釣り合うように」
 その間、貸衣装を選んでいたユークレースは、アメリアに赤いドレスを押し付けた。
(前とは違うドレス……)
 先日のカップルコーディネート大会で、ユークレースが選んだドレスより、少し大人びた印象のドレスだった。
 ホルターネックの胸元にあるラインストーンが美しい。
(これって、ある意味サプライズ……よね?)
 一体どういうつもりなのか?
 ユークレースを見上げると、彼はにっこり笑う。
「着替えて来てくださいね」
「わ、わかったわよ……」
 あくまでドレスが綺麗だから、着てあげてもいいかなって思っただけ。
 自分にそう言い聞かせながら、アメリアはドレスの袖に手を通した。
「着てきたわよ」
 更衣室から着替えて出てみれば、ユークレースもスーツ姿に変わっている。
 スリーピースのフォーマルなダークカラーのスーツが、彼をぐっと大人っぽく見せた。
「で、これでスケートやれってゆーの?」
 スケートリンクでは、着飾った人達が楽しげに氷上の一時を楽しんでいる。
「あ、でも僕……スケート、出来ない……」
「はぁ?」
 ぼそっと呟かれたユークレースの言葉を、アメリアは聞き逃さなかった。
「もうしょうがない……あたしが教えてあげるから、滑りましょう」
 そう言うと、ユークレースの手を引っ張る。
「え、僕はいいですって~」
「何言ってるのよ、ここに来て滑らないとか、意味分かんないわよ」
 アメリアは躊躇なく氷上に踏み出した。淀みなく滑る様子に、ユークレースは瞬きした。
「エイミーさん、ドレスでも滑れるんですね」
「こんなの、どうってことないわ。アンタも来なさいって」
「いや本当いいですって!」
「問答無用!」
 アメリアにぐいぐい手を引かれ、ついにユークレースも氷上の人となる。
「エイミーさん、こ、転んでしまいますって!」
「姿勢が悪いのよ。手すりに掴まり過ぎ!」
 暫く悪戦苦闘したユークレースだったが、気付けばめざましい上達を遂げて、周囲からは二人の滑りに拍手が巻き起こる程になっていた。

「ん~運動の後のデザートって格別よね!」
 滑りを十分に楽しんだ二人は、レストランに来ていた。ティラミスの程よい甘さに、アメリアは満面の笑顔だ。
「デザートと珈琲、美味しいですね」
 ユークレースもにこにこと珈琲を口に運ぶ。
「で、今日なんで誘ったのよ?」
 そんな彼に、アメリアはびしっとフォークを突き付けた。
「それは秘密ですよ♪」
 ユークレースは口元に人差し指を立てて微笑む。
「秘密ぅ!? 女子かアンタは!」
「だから秘密です」
「ちょっと! 無視しないで教えなさ……」
「……もーしつこいですね」
「えっ?」
 身を乗り出したユークレースの顔が、際限なく近くなったと思ったら、額に柔らかい感触。
「うるさいので、静かにしてください」
 元通り椅子に座ると、ユークレースは涼しい顔でティラミスを口に運んだ。
「え……な、何!?」
(キ、キス……!? 嘘!? まさかっ)
 ぐるぐる混乱するアメリアを見つめ、ユークレースは気付かれないよう小さく笑う。
(もう一度可愛いドレス姿見たかったなんて言ったら、怒られますからね)


●4.

(こういうのには疎いんだよなぁ……)
 ラルク・ラエビガータは、ずらっと並んだ貸衣装を眺め唸った。
 氷の城もモチーフにした幻想的な空間。それに合わせた衣装にすべきなんだろうが。
「無難にしとくか」
 白シャツに、黒のベストとパンツをチョイスする。
 パートナーの選ぶ衣装と釣り合いが取れていればいいのだが。

「これ、素敵ですね……」
 一方、アイリス・ケリーは淡いブルーのドレスを手に取っていた。
 アイスダンスの衣装のような、膝下までのドレス。ドレスに散りばめられた小さな星のモチーフが、アイリスの心を捉えた。
 身に纏うと、一層星のモチーフが眩く輝く。

「お待たせしました」
「……」
 更衣室から現れたアイリスに、ラルクは小さく目を見開いた。
「どうかしましたか?」
 首を傾ける彼女に、ラルクは頭を掻く。
「あ、いや……ドレス、似合ってる」
「……そう、ですか?……有難う御座います」
 僅か驚いた様子で頬を染めるアイリスに、ラルクは小さく咳払いをした。
「じゃ、行くか」
「ええ」
 二人は並んで、スケートリンクへと足を踏み入れる。
 スケートリンクの中は、シャンデリアの光が氷に煌き、より明るく幻想的な空間となっていた。
 シャンデリアの光を追い掛け、上を見上げたアイリスは、足を止める。
(綺麗……)
 天井を彩るのは、星空。無数の星の中、氷の結晶のシャンデリアが輝いていた。
「急に立ち止まったかと思えば、ああ、天井を見てるのか」
 隣から声がして、アイリスは視線をそちらに移す。
 ラルクが、並んで上を見上げていた。
「アンタ、星とか見るの好きだもんな」
「え?」
 アイリスは大きく瞬きする。
「私、夜空が好きだって話しましたか?」
 問い掛けに、ラルクは小さく笑った。
「聞かなくても分かるだろ、夜にはしょっちゅう空を見てんだから」
「!」
 息を呑む。その言葉の意味と、何処か優しいその瞳の光に。
(……嬉しいものですね、自分を理解してもらえるということは)
 じんわりと広がる温かいものに、アイリスは胸元を押さえた。
「さて、天井ばっか見てるわけにもいかないな」
 それが当たり前のように、ラルクはアイリスへ手を差し伸べる。
 アイリスもまた、自然とその手に自らの手を重ねていた。
 そのまま、二人はリンクの中央へと移動する。
 厳かに華やかにフロアを流れる音楽に合わせ、軽くステップを踏んだ。
「やっぱり氷の上は随分勝手が違いますね」
「……ま、それもそうだな」
 ダンスの心得がある二人だが、曲調に合わせて軽く滑るだけで精一杯。
 でも、アイリスはそれで充分だと思う。人に見せる為のものではないのだから。
「兎にも角にもだ、しっかり滑ってアンタに満足してもらわないとな」
「満足、ですか? 楽しんでますけど、何故?」
 問い掛けに首を傾けると、ラルクはニヤリと笑った。
「いいモノを食うんだ、腹を空かせといた方がいいだろ?」
 クスッとアイリスの口元にも笑みが広がる。
「確かにその必要はありますね」
 二人は手を取り、踊る。
 二人だけの舞踏会。星空とシャンデリアに照らされて。

「そろそろ食事にしないか?」
 頃合いを見て、ラルクがアイリスへ声を掛ける。
「そうですね、お腹がすいてきました」
「足元、気を付けろよ」
 ラルクは先にリンクへ上がると、アイリスへ手を差し出した。
「有難う御座います」
 その手を取って、ラルクは気付いた。
(……そういえば、こうすることに抵抗がなくなったな)
 何故?
「どうかしましたか?」
「……何でもない」
 自問は思考の隅に。今は輝く時間に、彼女と乾杯を。


●5.

「うわぁ、綺麗!」
 氷と雪の城、幻想的な光景に、ユラは瞳をキラキラと輝かせた。
(それは、このスケート場だけじゃなくて……)
 そんな彼女を見つめながら、ルークは小さく息を呑む。
 ユラは、Aラインのショートドレスにボレロを身に纏っている。
 胸元の大き目なリボンが可愛い印象ながらも、少し大胆に背中の開いたショート丈のドレス。
 ボレロで隠れているものの、いつもより大人っぽく、知らない女性になったみたいで落ち着かない。
「でも、こうカップルだらけだとちょっと気が引けちゃうね」
 くるっと振り向いて来たユラに、ルークは慌てて思考を切り替えた。
「こっちもカップルっぽく振舞えば気にならないだろ?」
 口元に笑みを浮かべて、ルークは真っ直ぐにユラを見つめる。
「俺……私と踊っていただけますか?」
 ふわりと優雅な仕草で一礼し、手を差し伸べた。
「私、ダンスなんてしたことないよ?」
 何だか胸がドキドキする。ユラは眉を下げてそう言ってから、
「ちゃんとエスコートしてね」
 少しぎこちない様子で、差し伸べられた手に自分の手を重ねた。
「任せとけって」
 ルークは瞳を煌めかせると、ユラの手を引いてリンクへと入る。
「手はココ」
 リンクの中央まで来ると、ルークはユラの手を自分の背中に回させた。二人の距離がぐっと縮まる。
「背筋伸ばして」
「!?」
 腰をぐいっと引き寄せられ、ユラは目をパチパチさせた。
「あとは俺に合わせて」
「る、ルーくん、ち、近くないっ?」
「ダンスなんだし、こんなもんだろ」
 ルークは事も無げに言うと、流れるオーケストラの音色に併せてステップを踏み始める。
(こんなに近付いたのは初めてかも)
 ルークのリードで踊りながら、ユラは速くなる鼓動を感じていた。
(子供だと思ってたけど、こうして見ると男の人なんだなぁ……)
 ダークブラウンのショートフロックコートに身を包んだ彼は、ぐっと大人びていて。
(今日はいつもと雰囲気違うし……)
 力強い手も逞しい背中も──男の人、だ。
(やめよう。なんか恥ずかしくなってきた……)
 顔が熱くなるのを感じて、ユラは思考を止めようと軽く首を振る。
(あ、また何か考え事してるな)
 ルークはユラの様子に気付くと、顔を近付けて囁いた。
「おい、余所見するなよ」
「へっ?」
「つーか顔赤くね? 冷えたか?」
「あ、えっと、その……」
(ち、近いよ!)
「少し休憩するか」
 ルークはアワアワしているユラの返事を待たず、その腕を引いてリンクの外へと移動した。

(気を取り直して、サプライズ!)
 レストランで食事を楽しむ事となり、ユラは気合を入れて、彼の居ない間に注文をした。
「ユラ、取ってきたぞ」
「ごめんね、ルーくん」
 わざと忘れてきたハンカチを持ってきてくれた彼に、微笑んでお礼を言う。
 そこへ、タイミングよく注文した品が運ばれてきた。
「……は? え?」
 ルークの瞳が見開かれる。
 小さいホールケーキに、ノンアルコールワイン。
「少し早いけどお誕生日おめでとう」
 ユラは笑顔でルークを見つめた。
「誕生日って知ってたのか……」
「ねぇびっくりした?」
「ああ、驚いた」
「ごめんね。プレゼント色々考えてたんだけど、良いのが思いつかなくて……せめて一緒に祝ってあげたいなって」
「いや、これでいいよ」
 申し訳無さそうに笑うユラに、ルークはゆるりと首を振る。
「考えてるなんて知らなかったから、なんかすげぇ嬉しい」
 ふわりと彼が微笑んで、ユラの胸にじわっと喜びが広がった。
「ハッピーバースデー、ルーク。そして、メリークリスマス」
「サンキュ、ユラ。メリークリスマス」
 カチンと、二人のワイングラスが澄んだ音を響かせたのだった。

Fin.



依頼結果:大成功
MVP
名前:アイリス・ケリー
呼び名:アイリス、アンタ
  名前:ラルク・ラエビガータ
呼び名:ラルクさん

 

名前:ユラ
呼び名:ユラ
  名前:ルーク
呼び名:ルーク、ルー君

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 雪花菜 凛
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 普通
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 12月11日
出発日 12月16日 00:00
予定納品日 12月26日

参加者

会議室

  • [5]ユラ

    2014/12/15-23:00 

  • アメリアよ。
    みんなはじめまして…だよね?
    今回はなんかロマンチック的なイベントみたいだけど、べ、別にユークと行きたいわけじゃないわよ!
    た、ただ…当日、暇だから…そ、それだけよ!(顔真っ赤)

  • [2]手屋 笹

    2014/12/15-13:31 

    手屋 笹です。

    アメリアさんは初めまして、よろしくお願いしますね。
    マリーゴールドさん、ユラさん、アイリスさんもよろしくお願いします。

    氷上舞踏会とはまた素敵なイベントですね…!
    楽しみにしています!

  • [1]アイリス・ケリー

    2014/12/15-11:08 

    アイリス・ケリーと申します。
    マリーゴールドさんとアメリアさんは初めまして。
    笹さんとユラさんはお久しぶりです。
    氷の城のスケート場、とても楽しみです。
    よろしくお願い致します。


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