プロローグ
──氷のお城で、夢のような一時を──
タブロス市郊外に、氷の城をイメージしたスケート場が期間限定でオープンしました。
古城を模した外観。
白とブルーが基調の室内には、氷と雪をモチーフにした彫刻が施された柱や壁。
天井には綺羅びやかな夜空と、氷の結晶の形のシャンデリアが華やかに訪れた人々を照らします。
何とも幻想的な一時を楽しめる場所として、主にカップルに人気を集めていました。
そして、聖夜に、スケート場では特別なイベントを開催される事になります。
『氷上の舞踏会』
そう、氷の上で、華やかな舞踏会を行うというのです。
リンクの周囲では、オーケストラによる生演奏あり、一層綺羅びやかに彩られた空間が皆様を出迎えます。
ドレスはスケート靴同様に貸し出しがあり、お好きな衣装で着飾る事が可能です。
ドレスアップして、氷の上を滑る一時は、きっと特別な時間となるでしょう。
スケート場と併設しているレストランでは、クリスマスディナーが振る舞われます。
スケートが滑れない、滑りたくない人々も、氷の城の風景を楽しみながら、お食事を楽しんで頂けます。
勿論、滑り疲れた時に、休憩して食事を楽しんでいただく事も可能です。
なお、スケート初心者の方向けに、小さめなスケートリンクもございます。
初めて滑る、または久し振りに滑るという方は、パートナーと一緒にこちらで練習すると良いでしょう。
少しひんやりとした空間ですので、自然と二人の距離も近くなるかもしれません。
幻想的な氷の城の一時を、お過ごしください。
解説
※注意※
本エピソードのリザルトノベルお届けは、12月24日となります。
氷のお城を模したスケート場で、舞踏会のような一時を過ごして頂くエピソードです。
どのような衣装でどのように過ごすのか、プランに明記をお願い致します。
(ドレスコードは御座いません!)
レストランでは、クリスマスディナーが楽しめます。
コースは以下の料理となります。
・オマールエビと野菜のプレッセ
・ビーフコンソメスープ
・ローストチキン ヨークシャープディング添え
・牛フィレとフォアグラのソテー バルサミコソース
・ティラミス
・珈琲、または紅茶
コースにせず、お好きなもの単品でもご注文頂けます。この場合は、食べたいものを明記願います。
成人している方はお酒も飲めますが、飲んだらスケートは滑れませんので、ご注意ください。
なお、参加費として、入場料(スケート靴や衣装代込み)がパートナーと併せて「200Jr」。
レストランで料理を楽しむ場合は、更に、パートナーと併せて「200Jr」掛かります。
あらかじめご了承ください。
ゲームマスターより
ゲームマスターを務めさせていただく、『スキーもスケートも年単位で行ってない!』方の雪花菜 凛(きらず りん)です。
白羽瀬 理宇GM主催【聖夜】クリスマス連動シナリオです。
リザルトノベルを12月24日の夜にお届けしよう!という素敵企画となっております。
リザルトノベルお届けは、12月24日となりますこと、あらかじめご了承ください。
皆様のサンタクロースとなれるよう、頑張りますっ!
色々悩んだのですが、氷上の舞踏会って単語が浮かんでしまったので、こんなエピソードにしてみました。
のんびりと、スケートと氷の城の一時を楽しんで頂けたらと思います。是非お気軽にご参加ください!
皆様の素敵なアクションをお待ちしております♪
リザルトノベル
◆アクション・プラン
マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)
○衣装 橙色のボールガウン ○クリスマスプレゼント サフランイエローのリボン ○行動 氷のお城…うふふ とっても素敵ですわっ 靴とドレスを借りてリンクへ それにしてもサフランはこの間まで スケート初心者でしたのにもう上手なんですから 何だか悔しいですわ 少し滑ったら他の人の邪魔にならないように 端の方でプレゼントを渡します サフランの髪を纏めているリボン 前に渡したチョコレートを包んだ時に 作ったリボンをしている時がありましたの だから今度はちゃんとプレゼント 「メリークリスマス、サフラン」 …私に、ですの? あ、ありがとう、ございます イヤリングを付け替えて 似合います?と笑い掛けます そのままもう一度 音楽に乗って氷の上を滑りましょう |
手屋 笹(カガヤ・アクショア)
【PC意識】 カガヤの事が好きかもしれない?と自問状態。 確かめたい。 【衣装】 貸衣装の和ドレス(膝丈)、防寒タイツ 【手段】 氷上の舞踏会…素敵… 舞ですか? 他の方の邪魔にならないようにしつつ 氷上なのでいつも通りにはなりませんけど… (ダンスLV4) アイスダンス未満で 演奏曲に合わせてゆっくりと滑ったり ゆったりと回転して見せたりします。 カガヤが楽しそうかどうか見ます。 わたくしの舞どうでしたか? カガヤの見たかったものに出来ていたかどうか… 楽しかったですわ! 綺麗な場所で舞う事が出来て本当に勿体無い… スケート靴が脱げないです… うーん(引っ張ってみるも脱げず) ありがとうございます…あったかい…けど何だか恥ずかしい… |
アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
淡いブルーの、アイスダンスの衣装のような膝下までのドレスをお借りします 小さな星のモチーフが気に入ったので 氷の城自体も素敵ですが、シャンデリアと夜空が特に綺麗 私、夜空が好きだって話しましたか? …嬉しいものですね、自分を理解してもらえるということは なんだか、胸が温かい 差し出された手に、手を重ねてそのまま中央へと ダンスの心得は一応ありますけど、やっぱり氷の上は随分勝手が違いますね でも、軽く滑るだけでも充分だと思います だって見せる為ではないんですから 満足、ですか?楽しんでますけど、何故? くすっ、確かにその必要はありますね そうですね、お腹がすいてきました 差し出された手を再び取って、レストランへ |
ユラ(ルーク)
アドリブ大歓迎 Aラインのショートドレスにボレロ うわぁ、綺麗! でも、こうカップルだらけだとちょっと気が引けちゃうね 私ダンスなんてしたことないよ?(苦笑 ちゃんとエスコートしてね そういえばこんなに近づいたのは初めてかも 子供だと思ってたけど、こうして見ると男の人なんだなぁ 今日はいつもと雰囲気違うし……やめよう なんか恥ずかしくなってきた… 疲れたらレストランで休憩 小さいホールケーキ+ノンアルコールワインをサプライズで注文 少し早いけどお誕生日おめでとう ねぇびっくりした?ごめんね プレゼント色々考えてたんだけど、良いのが思いつかなくて… せめて一緒に祝ってあげたいなって ハッピーバースデー、ルーク メリークリスマス |
アメリア・ジョーンズ(ユークレース)
クリスマスに向けて彼氏を作ろうとしたけど、大失敗…。 このままじゃ、惨めに一人クリスマスだわ…。 え、なにユーク? スケートと、デザート食べに行こう? なんでアンタと行かないといけないのよ! そりゃ、予定はないけど…って、ちょっと待ちなさいよー! 前とは違う、赤いドレス…服装が釣り合わないからこれに、着替えて? (これって、ある意味サプライズ…よね?) で、これでスケートやれってゆーの? はぁ?滑れない!? もうしょうがない…あたしが教えてあげるから、滑りましょう。(常にリードした滑り) ん~運動の後のデザートって格別よね! で、今日なんで誘ったのよ? 秘密ぅ!?女子かアンタは! ちょっと!無視しないで教えなさ…えっ? |
●1.
煌めく氷の結晶が天井を彩り、スケートリンクを照らしている。
(素敵……)
手屋 笹は、ほぅっと小さく吐息を吐き出した。吐く息もほんのりと白い。
「舞踏会が出来るスケートリンクって、雰囲気がすごいね!」
隣ではカガヤ・アクショアが、瞳をキラキラさせて周囲を見渡していた。オーケストラの演奏が、更に空気を華やかに彩っている。
「笹ちゃん、寒くない?」
私服のダウンジャケット姿のカガヤは、膝丈の和ドレス姿の笹を少し心配そうに見つめた。
「あ、いや、すっごく似合ってて可愛いんだけどさ!」
慌てて付け加えるカガヤに、笹は小さく笑う。
「平気ですよ。意外と暖かいんです」
スカートは短めだけど、防寒タイツで寒さ対策は抜かり無い。
「そっか。よかった!」
カガヤもまた笑顔を見せると、うんと一つ頷いて、思い切ったように口を開いた。
「ねえ笹ちゃん、折角舞踏会って言われてるイベントなんだし、舞を見せて欲しいな」
「舞、ですか?」
笹は目をパチパチとさせてカガヤを見上げる。
「うん」
真っ直ぐに見つめてくる彼に、少しだけ体温が上がるような感覚。
「そう、ですね。氷上なのでいつも通りにはなりませんけど……」
ざわめく胸を押さえて、笹は頷いた。
カガヤの顔に嬉しい色が満ちるのに、ドクンと大きく心臓が跳ねる。
その感覚を誤魔化すように、笹はゆっくりと踏み出した。
氷上を滑らかにスケート靴が滑っていく。
響くオーケストラの音色に合わせて、片足で氷を蹴り、もう片方のエッジの上に乗った。
両手を上げて、滑らかにカーブを描く。
カガヤもまたエッジを蹴って踏み出し、笹の隣に並ぶと彼女に手を差し伸べた。
笹はその手を取って、ゆっくりと氷の上に華麗なスピンの華を咲かせる。
繋いだ指先が温かい。
視線を向けると、カガヤが瞳を細めてこちらを見ていた。
その視線も温かくて──笹は自然と微笑む自分を感じていた。
「わたくしの舞、どうでしたか?」
二人でエッジを横にして止まってから、笹はカガヤを見上げる。
「カガヤの見たかったものに出来ていたかどうか……」
不安が込み上げて僅かに俯いた彼女の耳に、明るい声が響いた。
「楽しかったし綺麗だったよ!」
顔を上げると、彼の輝くような笑顔がある。けれど、そんな笑顔が曇った。
「それとも笹ちゃんは嫌々やったのかな? 俺としてはそっちの方がしょんぼりだけど……」
耳をぺたんとさせるカガヤに、笹は即座に首を振る。
「楽しかったですわ!」
僅か頬を紅潮させ、両手を合わせた。
「綺麗な場所で舞う事が出来て本当に勿体無い……」
「そっか。それなら俺も嬉しい!」
そんな笹の様子に、カガヤは嬉しそうに耳をピンと立てる。
「ね、笹ちゃん、疲れたでしょ? ちょっと休憩しようよ」
「そうですね」
リンクを上がって、スケート靴を脱ごうとして──笹は停止した。
「あれ?」
靴が脱げない。
「笹ちゃん、どうかした?」
先に靴を履き替えたカガヤが、覗き込んでくる。
「スケート靴が脱げないです……」
近くに来たカガヤの顔にドキッとしつつ、笹は思い切り靴を引っ張った。けれど靴はぴったり嵌ったまま。
「慣れなくてむくんじゃったのかな」
無理に引っ張らない方がいいよと、カガヤの手が笹の手を止める。
「俺がおんぶして移動するよ」
言うなり、しゃがんで笹の方へ背中を向けた。
「えっ? でも……」
「いいプレゼント貰っちゃったしね。お返しって事で」
振り返ってパチンとウインクする彼に、笹は僅かに悩んでから小さく頷く。
「ありがとうございます……」
そろりと彼の背中に身を委ねれば、二人の体温が重なった。
(あったかい……)
(笹ちゃん、軽くてあったかいな)
「よーし、じゃ、カガヤ号しゅっぱつしまーす!」
元気な声が直接身体に響いて、いつもより高い視界で世界が動き出す。
(何だか恥ずかしい……)
ふわふわ熱を持ったような不思議な感覚で、笹は少しだけ瞳を閉じたのだった。
●2.
「氷のお城……!」
目の前に広がる氷と雪の世界に、マリーゴールド=エンデは金色の瞳を煌めかせる。
「うふふ、とっても素敵ですわっ」
ね、サフラン?と、パートナーを振り返れば、彼、サフラン=アンファングもまた、周囲を見渡して感心している様子だった。
「へー、細かい部分まで凝ってるな。シャンデリアなんて氷の結晶の形しているよ」
「折角ですし、衣装をお借りして滑りませんか?」
「そーだネ。折角ダシ」
マリーゴールドとサフランは、それぞれ衣装を選んで更衣室へと入る。
マリーゴールドが選んだのは、橙色のボールガウンドレス。
ストラップレスのトップに、タイトなウェストラインには花のコサージュが。そして、レースを重ねたフルボリュームのスカート。
防寒用にショールを羽織り、パーティバックにこっそりとラッピングしたプレゼントを忍ばせて、マリーゴールドはスケートリンクへ向かった。
綺羅びやかな照明に瞳を細めていると、耳慣れた声がする。
「マリー、こっち」
リンクの入り口に、紺色の燕尾服姿のサフランが居た。
白のウィングカラーシャツに、白のベスト、白の蝶タイに、紺色のジャケットとパンツが映える。
(いつもと雰囲気が違うからでしょうか……少し照れてしまいますわね)
「お待たせしましたわ」
僅かに頬を紅潮させてしまいつつマリーゴールドが微笑めば、サフランも瞳を細めた。
「そーでもないヨ。じゃ、行こうカ」
二人並んで、スケートリンクへ踏み出す。
サフランは少し慎重にエッジの感覚を確かめながら、前へ進んだ。
滑らかな危なげないその様子を見て、マリーゴールドは瞬きする。
「すっかり滑れるようになりましたね」
「まだちょっと慣れないけどネ」
「この間までスケート初心者でしたのに、もう上手なんですから……何だか悔しいですわ」
拗ねたような響きの声に、サフランは喉を鳴らして笑った。
「ヤダ、マリーゴールドサンッタラ、オレノサイノウニシットシテルー」
「むむむ」
(だって、サフランに頼られる機会が無くなった事になるんですもの)
「眉間に皺」
トンとサフランの指が、マリーゴールドの額を押した。
「……お前の教え方が良かったからじゃない? マリー先生?」
「あ……」
悪戯っぽいサフランの笑顔に、マリーゴールドは目を見開く。
「と、当然ですわねっ」
エヘンと胸を張ると、またサフランが笑う声がした。
そのまま二人はリンクを一周しながら、天井の星空や氷や雪のモチーフに彩られた光景を楽しむ。
「サフラン、ちょっとこっちに来てくださいな」
二周程した所で、マリーゴールドはサフランをリンクの隅へと連れ出した。
「メリークリスマス、サフラン」
用意してきたプレゼントを彼に差し出す。
「……俺に?」
サフランは驚いた様子でプレゼントとマリーゴールドを交互に見た。
「勿論。サフランに、ですわ」
「……アリガトウゴザイマス」
サフランはプレゼントを受け取ってから、懐へ手を入れる。そして小さなラッピングされた箱をマリーゴールドへ差し出した。
「先越されちゃったけど……メリークリスマス、マリー」
今度はマリーゴールドが瞳を丸くする。
「私(わたくし)に?」
頷くサフランからプレゼントを受け取って、マリーゴールドは微笑んだ。
「有難う御座います。開けてもいいですか?」
「いいよ。俺も開けるけど、イイ?」
えぇとサフランに頷いて、マリーゴールドはラッピングを解く。
「これって……」
「マリーは恋虹華が大好きだからな」
四つの花びらの恋虹華を模したイヤリングが、虹色に光っていた。
「こっちはリボン?」
サフランの手には、サフランイエローのリボンがある。
「髪を纏めるのに使ってくださいな」
バレンタインの時、プレゼントしたチョコレートのラッピングに使っていたリボンが、時折サフランの髪を纏めているのを見た事があった。
だから、今度はきちんとプレゼントでリボンを渡したいと考えていた。
サフランはその場で髪を解いて、プレゼントのリボンで結わえ直す。
マリーゴールドもイヤリングを付け替えた。
「似合う?」「似合います?」
同時に問い掛けて、二人で笑う。
「似合ってますわ」「似合ってるよ」
答える声も同時だった。
「お手をどうぞ、お嬢さん」
サフランが手を差し伸べ、マリーゴールドが手を重ねる。
二人は、流れる音楽に乗せて、氷上のステップを刻み始めた。
●3.
「どーしてこうなった……!」
アメリア・ジョーンズは、絶望に打ち拉がれていた。
「このままじゃ、惨めに一人クリスマスだわ……」
断固それだけは阻止しようと、クリスマスに向けて彼氏を作りに励んだのに、無情にも大失敗。
「妻持ちなら、ちゃんと最初に言いなさいって言うのよー!」
指輪外してるなんてインチキだわっと、机を叩いた瞬間、
「クリスマスに一人とか、エイミーさん可哀想に……」
よく知った声が聞こえ、アメリアは机に沈んでいた顔を上げた。
「ユーク! アンタ、いつの間に入って来たのよ!」
ここ私の家!と、指差すアメリアの言葉を無視して、ユークレースはにっこり微笑んだ。
「しょうがないので、僕が夢のような世界に連れて行ってあげますよ」
「……ハァ?」
「スケートとデザートです、エイミーさん」
「意味が分かんないけど、何でアンタと行かないといけないのよ!」
「予定ないんでしょう? このままだと一人でクリスマスになりますよ。さ、行きましょう、今直ぐ」
「そりゃ、予定はないけど……って、ちょっと待ちなさいよー!」
アメリアは、ユークレースの引きずられるようにして自宅を出発した。
「わぁ……綺麗な所……」
辿り着いた先は、予想外にロマンチックな雰囲気に包まれたスケート場で、アメリアは思わず感嘆の吐息を漏らす。
「服はこれでお願いします。僕と釣り合うように」
その間、貸衣装を選んでいたユークレースは、アメリアに赤いドレスを押し付けた。
(前とは違うドレス……)
先日のカップルコーディネート大会で、ユークレースが選んだドレスより、少し大人びた印象のドレスだった。
ホルターネックの胸元にあるラインストーンが美しい。
(これって、ある意味サプライズ……よね?)
一体どういうつもりなのか?
ユークレースを見上げると、彼はにっこり笑う。
「着替えて来てくださいね」
「わ、わかったわよ……」
あくまでドレスが綺麗だから、着てあげてもいいかなって思っただけ。
自分にそう言い聞かせながら、アメリアはドレスの袖に手を通した。
「着てきたわよ」
更衣室から着替えて出てみれば、ユークレースもスーツ姿に変わっている。
スリーピースのフォーマルなダークカラーのスーツが、彼をぐっと大人っぽく見せた。
「で、これでスケートやれってゆーの?」
スケートリンクでは、着飾った人達が楽しげに氷上の一時を楽しんでいる。
「あ、でも僕……スケート、出来ない……」
「はぁ?」
ぼそっと呟かれたユークレースの言葉を、アメリアは聞き逃さなかった。
「もうしょうがない……あたしが教えてあげるから、滑りましょう」
そう言うと、ユークレースの手を引っ張る。
「え、僕はいいですって~」
「何言ってるのよ、ここに来て滑らないとか、意味分かんないわよ」
アメリアは躊躇なく氷上に踏み出した。淀みなく滑る様子に、ユークレースは瞬きした。
「エイミーさん、ドレスでも滑れるんですね」
「こんなの、どうってことないわ。アンタも来なさいって」
「いや本当いいですって!」
「問答無用!」
アメリアにぐいぐい手を引かれ、ついにユークレースも氷上の人となる。
「エイミーさん、こ、転んでしまいますって!」
「姿勢が悪いのよ。手すりに掴まり過ぎ!」
暫く悪戦苦闘したユークレースだったが、気付けばめざましい上達を遂げて、周囲からは二人の滑りに拍手が巻き起こる程になっていた。
「ん~運動の後のデザートって格別よね!」
滑りを十分に楽しんだ二人は、レストランに来ていた。ティラミスの程よい甘さに、アメリアは満面の笑顔だ。
「デザートと珈琲、美味しいですね」
ユークレースもにこにこと珈琲を口に運ぶ。
「で、今日なんで誘ったのよ?」
そんな彼に、アメリアはびしっとフォークを突き付けた。
「それは秘密ですよ♪」
ユークレースは口元に人差し指を立てて微笑む。
「秘密ぅ!? 女子かアンタは!」
「だから秘密です」
「ちょっと! 無視しないで教えなさ……」
「……もーしつこいですね」
「えっ?」
身を乗り出したユークレースの顔が、際限なく近くなったと思ったら、額に柔らかい感触。
「うるさいので、静かにしてください」
元通り椅子に座ると、ユークレースは涼しい顔でティラミスを口に運んだ。
「え……な、何!?」
(キ、キス……!? 嘘!? まさかっ)
ぐるぐる混乱するアメリアを見つめ、ユークレースは気付かれないよう小さく笑う。
(もう一度可愛いドレス姿見たかったなんて言ったら、怒られますからね)
●4.
(こういうのには疎いんだよなぁ……)
ラルク・ラエビガータは、ずらっと並んだ貸衣装を眺め唸った。
氷の城もモチーフにした幻想的な空間。それに合わせた衣装にすべきなんだろうが。
「無難にしとくか」
白シャツに、黒のベストとパンツをチョイスする。
パートナーの選ぶ衣装と釣り合いが取れていればいいのだが。
「これ、素敵ですね……」
一方、アイリス・ケリーは淡いブルーのドレスを手に取っていた。
アイスダンスの衣装のような、膝下までのドレス。ドレスに散りばめられた小さな星のモチーフが、アイリスの心を捉えた。
身に纏うと、一層星のモチーフが眩く輝く。
「お待たせしました」
「……」
更衣室から現れたアイリスに、ラルクは小さく目を見開いた。
「どうかしましたか?」
首を傾ける彼女に、ラルクは頭を掻く。
「あ、いや……ドレス、似合ってる」
「……そう、ですか?……有難う御座います」
僅か驚いた様子で頬を染めるアイリスに、ラルクは小さく咳払いをした。
「じゃ、行くか」
「ええ」
二人は並んで、スケートリンクへと足を踏み入れる。
スケートリンクの中は、シャンデリアの光が氷に煌き、より明るく幻想的な空間となっていた。
シャンデリアの光を追い掛け、上を見上げたアイリスは、足を止める。
(綺麗……)
天井を彩るのは、星空。無数の星の中、氷の結晶のシャンデリアが輝いていた。
「急に立ち止まったかと思えば、ああ、天井を見てるのか」
隣から声がして、アイリスは視線をそちらに移す。
ラルクが、並んで上を見上げていた。
「アンタ、星とか見るの好きだもんな」
「え?」
アイリスは大きく瞬きする。
「私、夜空が好きだって話しましたか?」
問い掛けに、ラルクは小さく笑った。
「聞かなくても分かるだろ、夜にはしょっちゅう空を見てんだから」
「!」
息を呑む。その言葉の意味と、何処か優しいその瞳の光に。
(……嬉しいものですね、自分を理解してもらえるということは)
じんわりと広がる温かいものに、アイリスは胸元を押さえた。
「さて、天井ばっか見てるわけにもいかないな」
それが当たり前のように、ラルクはアイリスへ手を差し伸べる。
アイリスもまた、自然とその手に自らの手を重ねていた。
そのまま、二人はリンクの中央へと移動する。
厳かに華やかにフロアを流れる音楽に合わせ、軽くステップを踏んだ。
「やっぱり氷の上は随分勝手が違いますね」
「……ま、それもそうだな」
ダンスの心得がある二人だが、曲調に合わせて軽く滑るだけで精一杯。
でも、アイリスはそれで充分だと思う。人に見せる為のものではないのだから。
「兎にも角にもだ、しっかり滑ってアンタに満足してもらわないとな」
「満足、ですか? 楽しんでますけど、何故?」
問い掛けに首を傾けると、ラルクはニヤリと笑った。
「いいモノを食うんだ、腹を空かせといた方がいいだろ?」
クスッとアイリスの口元にも笑みが広がる。
「確かにその必要はありますね」
二人は手を取り、踊る。
二人だけの舞踏会。星空とシャンデリアに照らされて。
「そろそろ食事にしないか?」
頃合いを見て、ラルクがアイリスへ声を掛ける。
「そうですね、お腹がすいてきました」
「足元、気を付けろよ」
ラルクは先にリンクへ上がると、アイリスへ手を差し出した。
「有難う御座います」
その手を取って、ラルクは気付いた。
(……そういえば、こうすることに抵抗がなくなったな)
何故?
「どうかしましたか?」
「……何でもない」
自問は思考の隅に。今は輝く時間に、彼女と乾杯を。
●5.
「うわぁ、綺麗!」
氷と雪の城、幻想的な光景に、ユラは瞳をキラキラと輝かせた。
(それは、このスケート場だけじゃなくて……)
そんな彼女を見つめながら、ルークは小さく息を呑む。
ユラは、Aラインのショートドレスにボレロを身に纏っている。
胸元の大き目なリボンが可愛い印象ながらも、少し大胆に背中の開いたショート丈のドレス。
ボレロで隠れているものの、いつもより大人っぽく、知らない女性になったみたいで落ち着かない。
「でも、こうカップルだらけだとちょっと気が引けちゃうね」
くるっと振り向いて来たユラに、ルークは慌てて思考を切り替えた。
「こっちもカップルっぽく振舞えば気にならないだろ?」
口元に笑みを浮かべて、ルークは真っ直ぐにユラを見つめる。
「俺……私と踊っていただけますか?」
ふわりと優雅な仕草で一礼し、手を差し伸べた。
「私、ダンスなんてしたことないよ?」
何だか胸がドキドキする。ユラは眉を下げてそう言ってから、
「ちゃんとエスコートしてね」
少しぎこちない様子で、差し伸べられた手に自分の手を重ねた。
「任せとけって」
ルークは瞳を煌めかせると、ユラの手を引いてリンクへと入る。
「手はココ」
リンクの中央まで来ると、ルークはユラの手を自分の背中に回させた。二人の距離がぐっと縮まる。
「背筋伸ばして」
「!?」
腰をぐいっと引き寄せられ、ユラは目をパチパチさせた。
「あとは俺に合わせて」
「る、ルーくん、ち、近くないっ?」
「ダンスなんだし、こんなもんだろ」
ルークは事も無げに言うと、流れるオーケストラの音色に併せてステップを踏み始める。
(こんなに近付いたのは初めてかも)
ルークのリードで踊りながら、ユラは速くなる鼓動を感じていた。
(子供だと思ってたけど、こうして見ると男の人なんだなぁ……)
ダークブラウンのショートフロックコートに身を包んだ彼は、ぐっと大人びていて。
(今日はいつもと雰囲気違うし……)
力強い手も逞しい背中も──男の人、だ。
(やめよう。なんか恥ずかしくなってきた……)
顔が熱くなるのを感じて、ユラは思考を止めようと軽く首を振る。
(あ、また何か考え事してるな)
ルークはユラの様子に気付くと、顔を近付けて囁いた。
「おい、余所見するなよ」
「へっ?」
「つーか顔赤くね? 冷えたか?」
「あ、えっと、その……」
(ち、近いよ!)
「少し休憩するか」
ルークはアワアワしているユラの返事を待たず、その腕を引いてリンクの外へと移動した。
(気を取り直して、サプライズ!)
レストランで食事を楽しむ事となり、ユラは気合を入れて、彼の居ない間に注文をした。
「ユラ、取ってきたぞ」
「ごめんね、ルーくん」
わざと忘れてきたハンカチを持ってきてくれた彼に、微笑んでお礼を言う。
そこへ、タイミングよく注文した品が運ばれてきた。
「……は? え?」
ルークの瞳が見開かれる。
小さいホールケーキに、ノンアルコールワイン。
「少し早いけどお誕生日おめでとう」
ユラは笑顔でルークを見つめた。
「誕生日って知ってたのか……」
「ねぇびっくりした?」
「ああ、驚いた」
「ごめんね。プレゼント色々考えてたんだけど、良いのが思いつかなくて……せめて一緒に祝ってあげたいなって」
「いや、これでいいよ」
申し訳無さそうに笑うユラに、ルークはゆるりと首を振る。
「考えてるなんて知らなかったから、なんかすげぇ嬉しい」
ふわりと彼が微笑んで、ユラの胸にじわっと喜びが広がった。
「ハッピーバースデー、ルーク。そして、メリークリスマス」
「サンキュ、ユラ。メリークリスマス」
カチンと、二人のワイングラスが澄んだ音を響かせたのだった。
Fin.
依頼結果:大成功
MVP:
名前:アイリス・ケリー 呼び名:アイリス、アンタ |
名前:ラルク・ラエビガータ 呼び名:ラルクさん |
名前:ユラ 呼び名:ユラ |
名前:ルーク 呼び名:ルーク、ルー君 |
エピソード情報 |
|
---|---|
マスター | 雪花菜 凛 |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | 普通 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 5 / 2 ~ 5 |
報酬 | なし |
リリース日 | 12月11日 |
出発日 | 12月16日 00:00 |
予定納品日 | 12月26日 |
参加者
- マリーゴールド=エンデ(サフラン=アンファング)
- 手屋 笹(カガヤ・アクショア)
- アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
- ユラ(ルーク)
- アメリア・ジョーンズ(ユークレース)
会議室
-
2014/12/15-23:00
-
2014/12/15-19:31
-
2014/12/15-18:21
アメリアよ。
みんなはじめまして…だよね?
今回はなんかロマンチック的なイベントみたいだけど、べ、別にユークと行きたいわけじゃないわよ!
た、ただ…当日、暇だから…そ、それだけよ!(顔真っ赤) -
2014/12/15-13:31
手屋 笹です。
アメリアさんは初めまして、よろしくお願いしますね。
マリーゴールドさん、ユラさん、アイリスさんもよろしくお願いします。
氷上舞踏会とはまた素敵なイベントですね…!
楽しみにしています! -
2014/12/15-11:08
アイリス・ケリーと申します。
マリーゴールドさんとアメリアさんは初めまして。
笹さんとユラさんはお久しぶりです。
氷の城のスケート場、とても楽しみです。
よろしくお願い致します。