プロローグ
現在森で発生している瘴気は、愛や喜び、希望といった感情を嫌う。
森の安全な場所や、近隣の町や村でデートを行って瘴気を払うことができる。
古代の森以外ではオーガや妖怪の危険は殆どなく、森や湖、様々な場所で問題なくデートが楽しめる。
……以上の趣旨を命令口調でざっくばらんに五文字でまとめると、さてどうなるのだろうか?
「――別に、いちゃつけとか、見せつけろなんて言いません。ウィンクルムの皆さんが楽しんでくる、それが大事なんですよ!」
初っ端からぶっちゃけたホワイト・ヒルの職員は、なにやらイベントものの用紙を見せる。
「幸いにもこの町は観光都市、あちこち見て回るのも楽しいとは思うのですが――今回はこれをお勧めします!」
そうして見せられたのは、「町の広場でスノー・ハウスを作ろう」というもの。
「雪の多い地域では狩猟を生業とする人が住居として、雪で家を作ったりするそうなんですが、そういうのを作ってみようってイベントですね。流星融合した場所の文化の中にも似たものがあって、かまくらーとか、いーぐるーとかそんな名前で呼ぶ人もいるようです」
作り方としては、雪を氷のブロックのように固めて切り出し、それらのブロックで作る方法。あるいは水で湿気を帯びさせて、ブロックを用いずドーム状の建屋を作る方法などがある。
「作ったスノーハウスの中で暖をとるも良し、創意工夫でどんどん大きな家にしたり、雪像を作ってみたりと、いろいろできますよ」
よければどうでしょうか?
解説
雪で家を作ろう、なイベントです。
当日は作業するに最適な雪が、スタッフによって用意されます。
一応、作ればあとは自由にすごしていいので、
広場でお二人の時間を、過ごして下さいね!
なお、参加料金として500Jrが必要となります。
さらに、スタッフは以下の物も販売しています。
ランタン:100Jr
ろうそく:50Jr
雪ペイント用の画材:50Jr
イルミネーション用のライトなど:50Jr
ゲームマスターより
いざ、かまくらぁぁぁぶてぃめっと!
叶エイジャです。こんにちは!
はい、黒歴史になりそうな奇声でした。
イベントの主旨に則っていれば、自由度は高いことにしたいなと。
雪合戦に興じてみたり、ふらりといなくなって飾り付けの用具やプレゼントを買いに行ったりとかですね……
楽しんでいただければ嬉しく思います。
それでは皆様のプラン、お待ちしております。
リザルトノベル
◆アクション・プラン
夢路 希望(スノー・ラビット)
借: バケツ スコップ 雪遊びなんて何十年ぶりでしょうか…わくわくします ユキは? …じゃあ、今日はいっぱい遊びましょうね まずはスノーハウスから ブロックを使わないかまくら式で作ります どんなお家にしたいですか? 希望を聞いて 集めた雪を水で湿らせながら積み固めてドーム状に 中をくりぬく作業は交代で 最後に壁面を整えて完成です …ふふ ユキの嬉しそうな顔を見ると、私も嬉しくなります 誘われて中へ 照れながら隣に座り 私も、楽しかったです 来年はもう少し凝ったものを作ってみましょうか …はい 約束、です 自分の小指を差し出して 見つめられたら視線は下に つ、次は何をしましょうか? 入口の傍に雪だるまを作って飾ります? それとも雪合戦を… |
八神 伊万里(アスカ・ベルウィレッジ)
注文 ろうそく 画材 100Jr さ、寒そうだね… しっかり防寒しておかなきゃ 後でペイントするから、かまくらはドーム状にしよう 中の雪を削るのはアスカ君にお願い 私は外から削る量や形を考えて伝えるね 削った雪はこっちでまとめて置いておくよ できたら画材で雪をペイント 私はかまくらの外に絵を描こう …サンタとトナカイを描いたつもりが未知の生物になっちゃった もうっ、笑わないで!美術だけは苦手なの 中に入って吃驚 ありがとうアスカ君、最高の誕生日プレゼントだよ 私の方こそ、いつも守ってくれてありがとう これからもずっと一緒に居ようね えっ、スキー? あ…なんだ、ちょっとドキドキしちゃった… でも誘ってくれて嬉しいな、楽しみにしてるね |
アイリス・ケリー(ラルク・ラエビガータ)
水で雪をぺたぺた固める方法で作りましょうか ラルクさんはやったことがないようなので、一度こういう感じにするんだと見せて見ます 子供の頃、よく姉と作っていたんです 雪遊びが好きでしたから ランタンは中に、ライトは波打つようにかまくらをぐるりと囲んで設置します 仕上げは…雪だるまと星の絵をラルクさんにお願いします …絵、下手なんです(残念画伯レベル) 華やかでいいかなと思って、つい 出来上がったらかまくらの中で休憩しましょうか 柚子蜂蜜茶とジンジャークッキーを持ってきたんです ちょっと、悪戯してみましょうか はい、ラルクさん、あーん …食べるとは、意外でした ちょっと悔しいというか、恥ずかしいというか… |
エレオノーラ(ルーイ)
どんな家になるのでしょう まだ作ってもいませんが完成が楽しみです これで瘴気も払えるというのならお得ですね 雪に直接触る機会なんてほとんどありませんでしたから少しどきどきします 寒さや冷たさもあるでしょうから防寒対策はしっかりとしていきますね マフラーぐるぐる巻きにされましたが逆に暑いです… では雪の家を作りましょうか お役に立てるかはわかりませんが私も精一杯頑張りますね …私は見学要員じゃありませんけれど そう簡単には倒れたりしませんから、ちゃんと手伝わせてください と、見得を切ったもののわりと体力を使うものなのですね… 完成したものの少しふらふらします 気を使わせてしまっていますよね いつもごめんなさい |
●
・希望&スノー、scene1
その日の午後、ホワイト・ヒルの空には雪雲がかかっていた。
「雪遊びなんて久しぶり……わくわくします」
ほんのり白く輝く、冬空の下。夢路 希望は借り受けたバケツとスコップを手に、顔を綻ばせる。
「ユキは?」
「僕も、子どもの頃以来かな」
街の広場は思ったよりも広く、親子連れや友だちと来たらしき者、なにやら気合の入った若者など、多くの人がいた。子どもたちが雪遊びに興じているのも見られ、甲高い歓声がそこかしこで聞こえてくる。
その光景を、眩しいような悲しいような、そんな表情でスノー・ラビットは見つめていた。記憶の中にあるのは、冷たい雪を一人で触る光景――
「でも、いつも一人だったから……今日は凄く楽しみにしてたんだ」
「……じゃあ、今日はいっぱい遊びましょうね」
希望とスノーは、ブロックを使わない形式で作ることにした。
「スノーハウスは初めてだけど……どんなお家にしようか」
「どんなお家にしたいですか?」
「僕?」
希望の言葉に、スノーはちらっと周囲を見る。
大人数のところは、様々な道具を使って大きなものを作るようだ。二人でするのは、少し大変そうだ。
親子連れは家族みんなで入れる大きさ。子どもだけのところは、自分たちだけの秘密基地を作っているような感じ……この二つは、自分たちにも合ってる気がする。
「……二人で並んで、座れるくらいの大きだと嬉しいな」
「楽しみですね」
希望が微笑む。つられてスノーも笑顔を浮かべ、二人は歩き出した。
・アイリス&ラルク、scene1
「かまくら作りねぇ……」
購入したランタンや画材などの道具を抱え、ラルク・ラエビガーダは周囲でかまくら作りをしている人々へ目を馳せる。
「こういうのは経験ないんだよな」
「なら、水で雪を固める方法で作りましょうか」
傍らを歩くアイリス・ケリーが、そう提案した。
「そうだな。それなら大して難しいモンでもなさそうだ」
完成形自体は見たことがある。良さそうな場所を見つけたアイリスが早速、シャベルで雪を集め始めた。
(ま、最悪アイリスの見よう見まねでなんとかなるか)
と、ラルクは荷物を置いた。振り返る。
「あ、ラルクさん。大体これくらいの円の内側に雪を集めてもらえますか?」
「ああ。積み上げればいいのか?」
「そうですね。外側が崩れないように、適度に踏み固めながらお願いします」
言いつつ、ささっと手際よく雪を盛っていく神人。ラルクは意外そうな顔をした。
「……アンタ、慣れてるんだな」
「――子どもの頃、よく姉と作っていたんです」
そう言ったアイリスの目には、懐かしげな光があった。
「雪遊びが好きでしたから」
「へえ」
(好きでした、か)
アイリスの言葉は、アルバムの写真をめくっているような響きがあった。
何度か彼女が口にした『姉』の存在。断片的だが大事な存在であったことは分かる。いったいどんな心情を姉に対して抱いているのか、知る由もないが……
(懐かしく感じてるなら、それがいいか)
どこか楽しそうなアイリスの様子に、そう思う。
(しかし、雪合戦をするとか言った日には、気をつける必要があるな)
手際の良く雪を扱うアイリスは、手強そうだ。
・伊万里&アスカ、scene1
「さ、寒そうだね……」
ここは北国。現地の子どもたちがはしゃげる気温とて、タブロスと比べれば断然低い。しっかり防寒しておかなきゃと、八神 伊万里は改めて身だしなみをチェックする。寒いのは苦手なのだ。
「雪遊びか。俺は暖かい所で育ったから、こういうのって珍しくてちょっとわくわくする」
アスカ・ベルウィレッジは身震いではなく、言葉通り雪遊びへの期待で身体を打ち震わせていた。防寒着で対策ができているのか、テイルスの毛が保温効果を発揮しているのか、少年の遊び心が炎を灯しているのか知らないが、寒さに苦手意識はないようだ。
実は、アスカは今日ある決意をしていたのである。
「後でペイントするから、かまくらはドーム状にしよっか。中の雪を削るのはアスカ君にお願いしていい?」
「おう。結構な力仕事っぽいしな。任せろ」
雪を被らないよう気をつけろよ、と早くもやる気まんまんのアスカ。伊万里もこういった時のアスカは頼りになると分かっていた
あとは彼がやり過ぎないよう、計算などでフォローすればいい。
「じゃあ、私は外から削る量や形を考えて、伝えるね」
削った雪も、まとめて自分が対処すれば良いかと考え、ふと伊万里は思う。
(かまくらの中を掘るアスカ君って、ビジュアルが砂山を掘ってる犬となんだか似て――)
「ん、どうした伊万里?」
「あ、ううん、なんでもないよ!」
失礼だと思いながらも、猛烈な勢いで雪をかき集める精霊を見て、神人はその想像が頭から離れなかった。
・エレオノーラ&ルーイ、scene1
「雪だー!」
「ルーイ、雪は逃げません」
広場につくなりはしゃいだ様子のポブルスに、エレオノーラは苦笑を混じりに注意をした。
とはいえ、彼女自身もルーイと同じく、今日のイベントを楽しみにしていたりする。
(どんな家になるのでしょうね)
雪に直接触る機会なんてほとんどなかったのだ。周囲ではすでに、大小様々なスノーハウスが作られようとしている。自分たちの作る雪の家がどんなものになるか想像して、エレオノーラは気分が高揚するのを感じた。完成が今から楽しみだ。
「これで瘴気も払えるというのなら、お得ですね」
「そういう固いコト、今はなしだよ、エレオノーラ。とりあえず楽しもう!――あ」
スキップでもしそうな様子で歩いていたルーイがはたと足を止め、神人の前に来る。
「けっこう冷えるみたいだから、しっかり防寒しないと」
「大丈夫です。しっかりしてきましたから」
「ダメだよお嬢様。念には念を、だよ」
手をつないだ時のことを思い出しつつ、ルーイはマフラーを外す。首元が寒そうなエレオノーラにかけ、巻きつけた。
「これでよし。暖かいよ」
「……ルーイ、これでは逆に暑いです」
ぐるぐる巻きになった首周り。満足そうな彼とは反して、エレオノーラは呆れた表情を浮かべる。声はくぐもっていた。
「まあ、いいです。それより、雪の家を作りましょうか」
良さそうな場所を選び、早速作業開始である。
「お役に立てるかはわかりませんが、私も精一杯頑張りますね」
「あ、作業は俺が全部するよ」
ところが、ルーイが待ったをかけた。
「何もしなくていいから。エレオノーラは休んでて」
「……どういう意味ですか?」
少しだけ、空気が硬くなった気がした。
エレオノーラの表情に変化はないが、ルーイは不機嫌になったと気付く。
「私は見学要員じゃありませんけれど」
「でも」
(体調面を考えると、あまり無茶はさせたくないんだよね……)
実際、健康状態が良いとは言えない。
スノーハウスの楽しみは作った後にも沢山ある。ここで体力を使ってしまうのが、ルーイには心配だった。
エレオノーラもパートナーの表情に、思っていることを何となく理解した。少し考えて、言葉を選んで言葉を吐き出す。
「ルーイが心配してくれているのは分かりました。ですがそう簡単には倒れた」
ちゃんと手伝わせて下さい――そう言った神人にルーイは迷った。今の彼女の意志は前向きだ。彼女の体調は不安だが、その意志を尊重すべきだとも感じる。
それに以前から、もっとわがまま言ってもいいと思ったのは、他ならぬルーイ自身だった。
「……きつくなったら、言ってね?」
「ええ、出来る限りで頑張るだけですから」
そう言った精霊を安心させるように、エレオノーラは微笑んでみせた。
●scene2
ブロックを使わずドーム状に雪を固めていく場合、強く踏み固めるのは主に外側の部分。あとでかきだす内側の部分は、掘りやすくするため少し柔らか目にする。
ある程度までの高さになったら、夜の寒さで雪を固めるという方法もあるが、今回は作る過程や仕上げに塩水を使うことにより固める。
入り口は小さくする。
目印を付けて、壁を均一に掘る。
最後に壁を滑らかにする。
――と、言うのが大まかな流れらしい。
制作人数の少ないところはスタッフが手伝ってくれたりするそうだ。
「入口が小さいのは、壊れにくいようにか?」
「それもあると思うけど、一番は冷たい風が入らないためだって」
アスカの疑問に伊万里が答え、削り出した雪を台車に乗せて動かす。想像よりも重かった。
(全部水だと思えば、当たり前かぁ)
疲労を覚えてきた身体を動かし、雪を降ろす。「かまくら」は大体出来上がっていた。中から必要な雪を除くと、アスカは画材をいくつか手に取る。次はペイントだ。
「俺は内装をするぜ。伊万里、できるまで絶対中を見るなよ!」
なにやら含みのある顔のアスカに、伊万里も興味を覚えて「じゃあ、楽しみにしてるね」と必要な道具を手にする。
「私は外に絵を描くね……見ちゃダメだよ?」
「応!」
中に入るアスカ。そしてどこから手を付けようかぐるりと周囲を歩く伊万里。
その視界の向こう――
希望は集めて積み重ねた雪を水で濡らし、固めていく。
「これを突き刺していけばいいのかな?」
スノーがスタッフから渡された棒を、ドーム状の雪山に刺していった。
あとで削る時、壁を均一にするための目印らしい。
「中をくりぬくのは、交代でしましょうか」
「じゃあ希望さん、入口は二人で作ろうっ?」
スコップを手に、笑顔のスノー。声も弾んでいる。望みも微笑んだ。
(ユキの嬉しそうな顔を見ると、私も嬉しくなりますね)
「はいっ」
希望もスコップを手に取った。
「完成ですね」
アイリスとラルクの作業は、早かった。
アイリス自身が慣れていて、ラルクも途中から雪の扱いにコツを掴んでからは、作る速度が上がったためである。
残りは、飾りつけだ。
「こんな感じでいいか?」
「そう、ですね」
出来上がったかまくらを少し離れて見、アイリスが頷いた。ランタンは中に、イルミネーション用のライトは光が波打つよう、かまくらを囲んで設置している。
そろそろ、陽も傾き始めていた。
「仕上げをしましょう。ラルクさん、雪だるまと星の絵をお願いします」
「……ん? 自分で描かないのか?」
画材はアイリスが購入していた。てっきり彼女が絵を描くと思っていたのだが。
そんなラルクに、アイリスはしかし首を振った。
「……絵、下手なんです」
「アンタ、なんで画材買ったんだ」
当然の疑問だった。
「華やかでいいかなと思って、つい」
「ついって……俺も大して描けるわけじゃねぇぞ」
とりあえずせっかくなので、試しに二人で端っこに描いてみる。適度に手を抜いて雪だるまを描いていたラルクだが、傍らの神人の真剣な表情と、その指先の作品を見て手を止める。
(……マジか)
――結局、ラルクが描くことになった。
一方、エレオノーラたちの作業はゆっくりとしていた。
(見得を切ったものの、わりと体力を使うものなのですね……)
スコップ――シャベルは重すぎたのだ――を持つ手が、悲鳴を上げている。最初こそ苦ではなかったが、積み重ねていく高さが胸元を越えたあたりから、急に雪の重量が増した気がした。今は外の壁が脆くないか確かめたり、内側を掘るルーイの声に合わせて目印の棒を引き抜いていた。
辺りにはもう、薄暗闇が漂いつつある。
ルーイは時折、大丈夫だろうかとエレオノーラの様子を確認しつつ、最後の仕上げにかかっていた。
内壁を均一にして、壁を整え、地面をなめらかにして……
「で、できたー!」
「間に合って良かったです」
入口から外に出た精霊の言葉に、エレオノーラも力を抜く。その足元がふらついているのを見て、ルーイは駆け寄った。
「一仕事終わったし、家の中で休憩しよう!」
その言葉に、神人は頷いた。
●
・希望&スノー、scene3
スノーは目前の家に、感嘆の吐息をした。
「できたね」
「できましたね」
こうして完成すると、二人で作ったという不思議な感慨がある。スノーはそわそわと入り口から、中に手を入れた。暖かい。記憶の中ではどこにもなかった、雪の暖かさだった。スノーは希望へ振り返った。手招きする。
「一緒に、入ろ?」
「……はい」
少し照れながらも、スノーと連れだって入る希望。床には既に敷物を敷いてある。精霊の隣に座りながら、希望は自分たちで作った雪の家を見る。あまり大きなものではなかったが、不思議と広く、温かい気持ちになった。
休憩も兼ねて、二人でのんびりと時を過ごす。
「大変だったけど、それ以上に楽しかった。誘ってくれてありがとう」
「私も、楽しかったです」
スノーの言葉に、希望はふと感じたことを告げる。
「今年は初めてでしたけど、来年はもう少し凝ったものを作ってみましょうか」
「……来年、も?」
驚いたスノーに、希望が笑顔のまま頷いた。
「はい、来年も。よければ」
未来の約束。記憶の中、ひとり雪で遊んでいた少年の姿が、遠ざかっていく気がした。
はにかみながら、スノーは手を出し、小指を立てる。
「……約束、だよ?」
「はい……約束、です」
二人の指が絡まった。誰もが聞いたことのある、約束の歌を口ずさむスノーに見つめられ、希望の頬が染まった。視線を下に動かす。
「つ、次は何をしましょうかっ。入口のそばに、雪だるまを作ったり……それとも、雪合戦を……」
(なんだろう、この気持ちは……)
照れる神人の様子に、不意に抱きしめたいと、スノーは思った。
以前薬の作用で、彼女に甘えた時の気持ち――それとは違う心のうねりに、スノーは口を開いた。
「もう少し、このままで」
そばにいたい。繋がった小指から、互いの熱が伝わってくるようだった。
・アイリス&ラルク、scene3
「かまくらの中って意外に暖かいんだな」
一瞬ランタンの光のせいかと、ラルクが思うほどだった。アイリスが借りたテーブルを中央に置き、その上に、食器を置いていく。
「柚子蜂蜜茶とジンジャークッキーを持って来たんです」
「遠慮なくもらおう」
甘いものはそれほど得意ではないラルクだが、冷えた身体にはありがたい。
だが、ここですんなりラルクに渡すアイリスではない。
「はい、ラルクさん、あーん」
クッキーを差し出すアイリス。ラルクが見れば、神人の目が悪戯っ子のような光を灯している。
(……確か前にもあったな。こんなやり取り)
あれは確か、秋ごろだったか。以前は唐突で不覚をとった気もするが――
(このまま断って、面白がられるのも癪だしな)
「ん、サンキュ」
「……ぇ」
口を開け、普通にクッキーを噛むラルクに、アイリスは動きを止めた。そして慌てて手を引っ込める。
「なんだ、照れてるのか?」
「……食べるとは、意外でした」
アイリスが視線を逸らす。
「ちょっと悔しいというか、恥ずかしいというか」
「前の時のも考えると、これで一勝一敗だな」
そんなことを言って笑うラルクを、アイリスは巻き返しを図る敗将のような顔で――具体的な表情は想像にお任せする――見つめる。
ただ、今は。
(頬が、赤くなってる)
彼女自身がそう分かるほど、熱を感じていた。
・エレオノーラ&ルーイ、scene3
「……気を使わせてしまっていますよね」
完成した雪家で休憩してから、しばらくして。
エレオノーラはそう切り出した。
「結局あなたの言ったとおりでした。いつもごめんなさい」
意気消沈した神人。ルーイはその様子をじっと見て、伝える。
「俺は、楽しかったよ? エレオノーラと一緒に家が作れて」
「でも、ルーイ一人の方が気兼ねもなかったのではないですか?」
「確かに心配は減るけど、一人で作っても楽しくないよ。一緒に作ったって気持ちも湧いてこないし……エレオノーラもただ雪に触るだけじゃなくて、一緒に雪の家を作りたいから、手伝いたいって言ったんだよね」
「……そう、かもしれませんけど」
「それに俺、エレオノーラが外に目を向けてくれるようになったから、嬉しいんだ」
閉じこもり気味だった彼女が望んだからこそ、ルーイもその意志を尊重したのだ。
「……そう、ですね」
ルーイの声に、硬く、沈んでいた神人の声に変化があった。
「たくさん疲れてしまいましたけど、作っている時はとても楽しい時間でした」
柔らかさの戻ったエレオノーラに、ルーイは笑いかけた。
「暗くなってきたし、もう少し休んだら飾りつけしようよ。装飾とかあまり分からないから、付ける場所を決めてほしい」
「分かりました」
エレオノーラの唇が、淡く弧を描いた。
・伊万里&アスカ、scene3
「……ぷっ」
アスカは『それ』を見て、思わず吹き出した。
「あはは、なんだよこの絵!」
「うぅ~」
雪家に描いたサンタとトナカイ――には似ても似つかない未知の生物の壁画に、伊万里は口を尖らせるしかなかった。
アスカはツボに入ったのか、まだ笑っている。
「もうっ、笑わないで! 美術だけは苦手なの」
「くっ……悪い。でも、これもいい記念だろ。よく見ればこのトナカイの角、立派だしな」
笑いをようやく噛み殺すアスカ。伊万里は彼が指したのが、サンタの腕だというのはやめた。
「じゃ、今度はこっちの番だな。中に入ろうぜ」
そう言うアスカに続いて中に入った伊万里は次の瞬間、止まった。
かまくらの中央には雪が盛り上げられていた。台らしきその上で、円形の雪細工がろうそくの炎を灯している。雪細工はケーキだった。内壁には画材で描かれた『HAPPY BIRTHDAY』の文字が、ろうそくの光に淡く浮かんで見える。
「これ、って……」
「ちょっと遅れたけど、誕生日おめでとう!」
伊万里の反応に、アスカは内心でガッツポーズを決めつつ表情を改める。次の言葉は心から真面目に、真剣に言うべき内容だ。
「俺と出会ってくれて……契約してくれてありがとう」
「――」
ろうそくに光を帯びた精霊の顔を、少しの間、伊万里は言葉を忘れたように見ていた。やがてその口が言葉を紡ぐ。
「ありがとうアスカ君、最高の誕生日プレゼントだよ。私の方こそ、いつも守ってくれて……ありがとう」
そして一拍、置く。
改めて言うには、少し気恥ずかしかったかもしれない。
「これからもずっと、一緒にいようね」
(よし、言うなら今だ)
伊万里の表情に、手応えにアスカは決め手を放つべく深呼吸する。
先ほど彼女が言った言葉の意味を、変えるために。
「伊万里」
「なに、アスカ君?」
真剣な表情のまま見つめてくるアスカに、伊万里も自然と居ずまいを正す。
「俺は、伊万里のことが……す、す……すきっ――」
おおおおおおおおおお!
どこかで歓声が上がった。驚いた伊万里の肩がびくりと跳ねるが、それ以上にアスカの中の何かが荒波に揺さぶられ、口が勝手に動く。
「――スキーに行かないか!?」
「え、えっ……スキー?」
(うわあああああ違あああああう!)
「じゃなくて、その……」
「スキーって、山でやるあのスキー?」
「…………うん、そう。それ……」
伊万里の声に、固まったアスカが脱力した。
(ああ、なんだ……ちょっとドキドキしちゃった)
一体何かと思っていた伊万里は、いつの間にか高鳴っていた胸を撫で下ろす。そしてアスカに微笑んだ。
「誘ってくれて嬉しいな、楽しみにしてるね」
――ここから無理やり仕切り直す力は、今のアスカになかった。
(今日は、この笑顔が見られただけで良しとするか……)
そう思い、ため息とともに外へ目を向けた。
日が暮れ、闇は夜の衣を纏いだす。
その中で、広場に並んだ白の家はライトアップされ、夜の底に白の輝きを放っていた。そしてその中からは、暖かな光と楽しげな声がもれてくるのだった。
依頼結果:成功
MVP:
エピソード情報 |
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---|---|
マスター | 叶エイジャ |
エピソードの種類 | ハピネスエピソード |
男性用or女性用 | 女性のみ |
エピソードジャンル | ロマンス |
エピソードタイプ | ショート |
エピソードモード | ノーマル |
シンパシー | 使用不可 |
難易度 | とても簡単 |
参加費 | 1,000ハートコイン |
参加人数 | 4 / 2 ~ 4 |
報酬 | なし |
リリース日 | 12月05日 |
出発日 | 12月13日 00:00 |
予定納品日 | 12月23日 |
参加者
会議室
-
2014/12/12-22:45
-
2014/12/11-00:54
初めまして、エレオノーラと申します。
どうぞよろしくお願い致します。
どう作ったものかという所ですが、精一杯頑張ってこようと思います。 -
2014/12/10-21:40
八神伊万里です。エレオノーラさんははじめましてですね。
皆さん今回もよろしくお願いします。
寒いのは得意じゃないんですが、かまくら頑張って作りたいですね。 -
2014/12/09-16:54
アイリス・ケリーと申します。
希望さんとエレオノーラさんは初めまして。伊万里さんはお久しぶりです。
雪を使っての家作り、どう楽しもうか悩むところです。
どうぞよろしくお願いいたします。 -
2014/12/08-12:43