赤く、彩る(こーや マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

●ルージュ
「ね、貴方の周りでお遊びに付き合ってくれそうな人、いない?」
 正面に腰掛けた女からの問い掛けに、シレーヌはゆるり、首を傾げた。
質問の意図が読めないのだ。
「お遊び、とは?」
 ティーカップから、じんわりと指先に熱が伝わってくる。入店したばかりで、まだ指先は温まっていないのだ。
けれど、席について早々の質問でも、シレーヌは驚かなかった。初めて会った時からそうだったから。
 女――ルイーズは頬杖を付き、溜息一つ。
「デザインだけでも、好き勝手させてくれる人がいないかなーって。
店に置くのは流行だとかも考えなくちゃいけないし、オーダーだとお客さんの好みを考えなくちゃいけないし」
 シレーヌちゃんは丸投げしてくれたから、好き勝手出来たけど。
ルイーズは悪戯っぽく笑う。
 彼女はこの店、貸し衣装店『ソレル・ルージュ』の店主兼デザイナーだ。
レンタルだけでなく販売やオーダーメイドも行っており、扱っている衣装は全て彼女の作品。
もう一店舗、違う地区に兄が経営する『ソレル・ノワール』もあるのだがそれはさて置き。
「好きにデザインだけさせてくれたらそれでいいの。デザイン画を使って他所で仕立ててもらっても良いし、気に食わないならそのまま捨ててもらっても良いし。
でもね、迂闊に募集しちゃうと面倒になりそうでしょ?だから信頼できる人から紹介してもらえたらなーって思って」
 紅茶をすすりながら、シレーヌは少し考え込む。
出来れば彼女の要望に応えたい。
けれど、シレーヌ自身が直接声をかけることが出来る相手は少なく、さらにいえば連絡先を知らない人すらいる。
 どうしようか、そう考えたのも束の間。シレーヌは少し前の自分が採った手段を思い出した。
あっと、小さな声を上げたシレーヌに、ルイーズは目を丸くする。
「なになに、どうしたの?」
「あの、だったら……」

解説

○参加費
デザイン料300jr


○すること
最終的にはルイーズのデザイン画できゃっきゃして頂ければ幸いですが、
それまでは、下記からお好きにお選びください

・店内のドレスを見て回る
ドレスの試着は出来ませんが、体にあてて楽しんだりは出来ます
店内のドレスは好きに考えてくださってかまいません
(ただし酷いものは御遠慮ください)


・座って紅茶or珈琲を飲みながらおしゃべり
紅茶か珈琲を出してくれます
店内のドレスをぼーっと眺めながらおしゃべりでもいいですし、
どんなデザインになるのかなーとおしゃべりしてもいいですし、
ルイーズやシレーヌとおしゃべりでもいいです


○登場人物
スルーでも絡んでいただいても、どちらでも構いません

・ルイーズ
『ソレル・ルージュ』の店主兼デザイナー
気さくな人です
ちょっとお話しするくらいなら大丈夫ですが、がっつり話し込むことはNG

・シレーヌ
紹介者ということで同行しています
口数は少ないですが、ちゃんと話を聞いてくれます
過去の『~曲』エピに登場しております


○注意
ルイーズさんがどんなドレスをデザインするかは指定できません
こーやが趣味と趣味と趣味と趣味で考えますので御了承ください

ゲームマスターより

わたし、こーや!
とってもぴゅあーな豆腐なの!(きらきら)

リザルトノベル

◆アクション・プラン

豊村 刹那(逆月)

  ルイーズさんに軽く挨拶。
シレーヌさんにも声を掛けておく。「お元気そうで良かった」

店の端の方に移動。
紅茶を貰う。「逆月も紅茶でいいか?」

「逆月?寒いのか?」
逆月の手を取って握る。
冷え切っている事に驚いて、立ち上がりもう片方の手も思わず握る。

「冷えすぎだろう」
蛇は変温動物だと聞くし。そういえば夏の暑さも駄目だった。

椅子に座り直し逆月の様子を伺う。
「今からこんなんで、冬は今までどうしてたんだ」

「今日は連れ出して悪かった」
シレーヌさんが気になったとはいえ、逆月の事を考えるべきだった。

「そう、だな。もう少し、逆月のこと知らなきゃな」

ドレスはよく知らないんだが。
自分だけのデザイン画っていうのは、嬉しいな。



イドゥベルガ=アイマー(御伽 世辞)
  ドレスなんて写真でしか見た事無かったッス!
うちの家系はうち以外皆男だったんで
こういう女性っぽい服は全然無かったッスよ

今日はドレスデザインしてくれるって言うからもう本当に嬉しいッス~!
あぁ、でもうちがドレス見ても汚しちゃったり破いちゃったりしそうッスから
できればお茶を飲みながら待ちたいッスね

付き合ってくれないッスか?御伽さん

ありがとうッス!
じゃあ、うちは紅茶でお願いするッス

あ、ところで御伽さん
女性だとどんなのが好みッスか?
あ、服ッスよ服
えー!知らないとか無いとかそういうのは無しッス!

ほう!ヤマトナデシコ!
頑張ってヤマトナデシコるッスね!

意味?良く判らないけど気合いで何とかなるッス~♪


紫月 彩夢(紫月 咲姫)
  デザイン画が出来上がるまでは、店内のドレスを少し見せて貰おうと思う
普段から袖を通すものでもないし、どんなのがあるのか、興味があるもの
海外の女優さんが着るような、こういうスレンダーなのとか…
はぁ…綺麗すぎて溜息出ちゃう

…あー…このドレス、咲姫に似合いそう
でも体のラインが出るのは駄目だって言ってるしなぁ…
…はぁ
あたしが着るより、やっぱり咲姫の方が似合うよ
…どうして、咲姫は「兄」なんだろ
……しれっとそう言うこと言うんじゃないわよ。バカ

デザイン画が出来たら、髪とか靴とかも、アドバイス貰えたら嬉しい、なんて、欲張りかしら
ぜひ、仕立てて貰いたいって思うし…着こなせたら、見て貰いたい
あたしも女の子だなぁ…



クラリス(ソルティ)
  シレーヌさんのドレスをデザインをしている方なの?
どんなデザインになるのかしら…楽しみ!

滅多に触れる事のない華やかなドレスに上機嫌で店内を見て回る
見て見てソルティ!このドレス素敵じゃないっ(薔薇の刺繍が入った赤いカクテルドレスを体にあて)
ドレスを着たのは任務(E4)での一度きりだし、また機会があれば着たいわね
…確かにドレスには憧れるけど、仕事以外で着る機会なんてないじゃない
あたしは憧れるだけで十分。装備の方が大事!

▼完成
素敵!(目を輝かせ)
勝負服…そうね、いいかも
いつか、あたしだけのこのドレスで大切な人とデートするのも素敵かも
でもきっと、一番に着て見せる相手はソルだと思うわ
あたしの大切な兄だもの


ジェシカ(ルイス)
  ドレスは女の子の憧れよね
どんなデザインになるのか楽しみだわ

ちょっと、興味あるに決まってるでしょ
私だって女なんだからね!
まあ服装は機能性重視で選んでるのは否定できないけど
白とかすぐ汚れるし

まあ待ってる間は店内を見て回りましょ
ああ、そういえばあの時のドレスはこんな感じだったような…(エピ10)
着てたじゃない真っ白なドレス
私はめちゃくちゃ苦労したのに全く覚えてないとか…
まあ無事だったからいいわ、でもこれっきりにしてよね
別にまた同じ事があっても助けにいってはあげるけど

でもあの時思ったのよね
負けたと
私も白とかレースとか着れば女の子らしくなるのかしら…

何?喧嘩売ってるの?買うわよ
まずは形からって言うでしょ


●オフショルダー
 シレーヌは緩く首を傾げた。
それというのも「シレーヌさんのドレスをデザインしている方なの?」と、クラリスに話しかけられたから。
ドレス姿を見せたことがないどころか、初対面なのだ。報告書などにより、自身について相手が知っているという認識がシレーヌには無い。
 A.R.O.A.に声をかけたのはシレーヌだったから、そちらから自分の話が出たのかもしれないと思い至ったようだ。
「ええ、勤め先のオーナーの紹介で。店で演奏する人や歌う人のドレスを、必ず一着はここでお願いするようにしてるそうだから」
「へえ、そうなの。どんなデザインになるのかしら……楽しみ!」
 くすり、シレーヌは笑みを浮かべてクラリスの名を尋ねた。
名乗っていなかったことに気付いたクラリスが慌てて自己紹介する様を、ソルティは苦笑いで見守った。
 お洒落関係の話をクラリスから聞くことはあまりないが、本当は興味があったりするんだろうか。
兄妹とはいえ、ソルティは男だ。こういった話はしづらいだろうから、この機会を楽しんでもらえるといいと、ソルティは思う。
だから、今日はクラリスにとことん付き合うつもりだ。


 クラリスは踊るような足取りでドレスの海を渡り歩く。
滅多に触れる機会のない、華やかなドレスは見るだけでも高揚するというのに、触れることも出来るのだからクラリスの興奮ぶりは無理も無い。
「見て見てソルティ!このドレス素敵じゃないっ」
 大きな薔薇が縫い取られた赤いカクテルドレスをクラリスは体に当てて見せる。
ソルティはしっかりとその姿を見てから感想を言う。
「赤もいいけど爽やかな青も似合うと思うよ」
 ほら、あれとか。ソルティが指差した先のドレスを手に取る。
水色に近い青のドレスはワンショルダーで、裾は片側が膝丈までなのに対し反対側はくるぶしまでと、全体的にアシンメトリーなデザインだ。
 体に当てて鏡を覗き込むクラリスを見て、ソルティがぽつり。
「仕事以外でも着ればいいのに。一着くらい持っててもいいんじゃない?大切な人が出来た時の為にあった方が
「……確かにドレスには憧れるけど、仕事以外で着る機会なんてないじゃない。
あたしは憧れるだけで十分。装備の方が大事!」
 ソルティの言葉を皆まで聞くより前に、クラリスの口から飛び出す現実的な話。
最後に「でしょ!?」とまで言われてしまう始末。
これは聞いてないなぁと思いながらも、クラリスらしいかとソルティは小さく溜息を吐いた。

「はい、こんな感じ」
 ルイーズが二人にデザイン画を差し出した。
デザイン画にはすぐ横にところどころ素材やインナーなどの注釈が加えられている。
 クラリスの為に考えられたのは、黒に近い濃い紫のドレス。
色合いは大人びているが、パニエで膨らませた膝丈までのドレスは可愛らしさもある。
オフショルダーのネック部分には赤で刺繍が施されており、腰を飾るリボンは踝まで垂らされていて、先端に行くにつれ徐々に明るい紫になるようグラデーションがかけられている。
 クラリスは目を輝かせた。
「素敵!」
「貴方、綺麗な髪色してるからね。髪が引き立つ色にした方が調和が取れていいと思うのよ」
 クラリスが気に入った様子を見せたからか、ルイーズは満足気だ。
一緒にデザイン画を見ていたソルティが顔を上げる。
「このデザイン画、貰えませんか?」
「ソル?」
「元よりそのつもりかな。好きにしてくれていいわ」
 さて、次いきましょーと楽しげに呟いて、ルイーズは次のデザインに取り掛かる。
不思議そうにこちらを見ているクラリスに、ソルティが言う。
「折角素敵なデザイン画を描いて頂いたんだから仕立てて貰おう。ドレスって女性の勝負服だろ?
いつもの様に俺に選ばせた服じゃなくて、自分に自信を持てる一着があってもいいんじゃないかな」
 クラリスは少し考え込んだ。
正確に言えば、自分に言い聞かせるような感じだったが、すぐに笑みへと変わる。
「勝負服……そうね、いいかも。いつか、あたしだけのこのドレスで大切な人とデートするのも素敵かも」
 それがいいよ、ソルティは言う。
けれど、彼の妹はごくごく当たり前のことのように言い添えた。
「でもきっと、一番に着て見せる相手はソルだと思うわ。あたしの大切な兄だもの」
 そんな妹を見て、ソルティはしみじみと思う。
妹離れ、できるかなぁ……。



●ビスチェ
「今日はドレスをデザインしてくれるって言うから、もう本当に嬉しいッス~!」
 店に入るなり瞳を輝かせたイドゥベルガ=アイマー。
その様子が御伽 世辞には意外だった。
「お前、こういうのに興味あったんだな。全く興味無いのかと思ってた」
「うちの家系はうち以外皆男だったんで、こういう女性っぽい服が全然無かったんッスよ」
 だから、ドレスなんて写真でしか見たことが無かったというイドゥベルガの言葉に世辞は納得した。
確かに男だらけの家系であれば自然と女の子らしいものには疎くもなる。
 イドゥベルガは店のドレスを見て回りたそうだが、自制して椅子へと腰掛ける。
曰く「うちがドレス見ても、汚しちゃったり破いちゃったりしそうッスから」。
 そんなイドゥベルガを待つのもパートナーの務めだ。同じように世辞も席に着いた。
飲み物はどうするかと尋ねてきたスタッフに、世辞はブラック珈琲、イドゥベルガは紅茶を頼む。
 大して待つことも無く飲み物が運ばれて来た。
まだ熱い珈琲に、世辞はすぐに口をつけた。
「あ、ところで御伽さん。女性だとどんなのが好みッスか?」
 ぶほっ。
ストレートなイドゥベルガからの問い掛けに、世辞がむせる。珈琲が淹れたてだった為、舌を火傷してしまった。
「あ、服ッスよ服」
 世辞は口を拭いながらも、付け加えられた言葉にほっとする。
「知らん、というより。今まで女性の服なんて興味持った事無かったからな。言葉にできん」
「えー!知らないとか無いとかそういうのは無しッス!」
 ぶーぶーと言わんばかりのイドゥベルガに、世辞は眉を顰めつつも少し考えて見せた。
ふいに、その表情に意地の悪い笑みが浮かぶ。
「……そうだな、質素で慎みがあるおしとやかな女性は好みだ。俗に言うと大和撫子って奴か?」
 服の好みの話なのに女性のことを答えた世辞に少しばかり「あれ?」となるものの、イドゥベルガは素直に頷いた。
「ほう!ヤマトナデシコ!頑張ってヤマトナデシコるッスね!」
 その様子を世辞は無言でちらと見る。
暗にイドゥベルガには無理だという意地悪が込められていた訳だが、本人はそのことを理解していないようだ。
「……お前、意味判って言ってるか?」
「え、何がッスか?」
「嫌みの言いがいがない奴」
 はぁと大きく溜息を吐き、世辞は再び珈琲カップを口元へと運んだ。
やれやれと言いたげなその態度を、イドゥベルガは不思議そうに眺めていた。

 そんなイドゥベルガ用のデザインは、淡いイエローの、全体的にふんわりとしたシルエットだった。
膨らんだスカート部はチュールを重ねることで柔らかさとボリュームが出ているが、イドゥベルガの髪と同色のリボンが腰を引き締めることでメリハリがついている。
ビスチェタイプのボディは、胸が豊かなイドゥベルガにはよく映えるだろう。
膝丈の可愛らしいデザインだからか、足の近くに「アンクレットをつけるか編み上げのパンプスが良し」と添えられていた。



●マーメイド
 豊村 刹那はシレーヌの姿を見つけると、すぐに小さく会釈した。
シレーヌもうっすらと笑みを浮かべて会釈を返す。
「お元気そうで良かった」
「おかげさまで。あの時は、ありがとう」
 一度だけゆるりと店内を見渡してから、逆月は言葉を交わす刹那とシレーヌを黙って見守った。
刹那が側に戻ってきた際に、シレーヌは逆月にも頭を下げた。逆月は黙って会釈をし、刹那に促されるまま店の一番隅にあるテーブルへと移動する。
 二人が店内を見て回らないと判断したスタッフが飲み物はどうかと尋ねてきたので、刹那は紅茶を頼んだ。
「逆月も紅茶でいいか?」
「ああ」
 逆月の返事はどこか力なく聞こえたから、刹那は気になって様子を見た。少し眠そうに見えた。
逆月は運ばれて来たティーカップを一度手に取ろうとして、すぐにソーサーの上へと戻す。
それが気になった。
「逆月?寒いのか?」
 手を伸ばし、逆月の手を取る。逆月の手は、ひんやりという表現が適切なほどに冷えていた。
その冷たさに驚いた刹那は、立ち上がって反対側の手も取る。刹那は眉を顰めた。
「冷えすぎだろう」
 心地よい温かさに逆月の頬が緩む。
じわりじわりと刹那の体温に温められて、ようやくティーカップに触れられるほどの体温を取り戻した。
 蛇は変温動物だ。逆月は蛇のテイルスであって蛇ではないが、やはり寒さには弱いのかもしれない。
そういえば彼は夏の暑さにも弱かった。
 椅子に座りなおした刹那が問い掛けた。
「今からこんなんで、冬は今までどうしてたんだ?」
「村では、屋敷に篭っていた。寒くなると、動きが鈍く眠くなる。雪が解けるまで、ほぼ寝て過ごしていた」
 偶に村の者が様子を見に来たと逆月は言い添えた。
刹那は再び眉を顰めた。ただ、今度のそれは申し訳なさの表れで。
「今日は連れ出して悪かった」
「何故謝る。お前は、知らなかっただけだろう」
 逆月の答えに刹那は苦笑いを浮かべた。確かに、そうではある。
けれど、シレーヌが気になったとはいえ、逆月のことも考えるべきだったと刹那は思うから――
「そう、だな。もう少し、逆月のこと知らなきゃな」
 刹那の笑みの理由が分からない逆月は、一度瞬きをした。それでもやはり理解は出来ず。
眠気の引いた眼で、もう一度店内をゆるりと眺めてみた。
先程とは違った目つきには、鮮やかな店内がどう映ったのだろうか。

「はい、こんな感じ」
 二人のテーブルにルイーズがデザイン画を置いて見せた。
濃い赤に、ところどころオレンジが乗ったドレスだ。横に「赤とオレンジのマーブルで」と付け加えられている。
アメリカンスリーブでソフトマーメイドラインのシルエットだが、腰の辺りから裾にかけて螺旋状につけられたオレンジのフリルが華やかだ。
 隅の方に「装飾品はゴールド一択!」。二重線まで引かれている。
「ドレスはよく知らないんだが。自分だけのデザイン画っていうのは、嬉しいな」
 嬉しそうに、仄かに口角を吊り上げた刹那の反応がお気に召したらしい。
ルイーズは嬉々として言い添えた。
「貴方みたいな人には明るすぎる色は落ち着かないかもしれないけど、暗めの赤ベースならいけるでしょ」
 どう?とルイーズは逆月の反応を待った。
ドレスのデザインのことはよく分からないが、逆月はじっくりとデザイン画を見て率直な感想を述べた。
「刹那の雰囲気に合っている」
「そう、なら良かった」
 満足気に自身の席に戻るルイーズの背を見送ってから、逆月は再びデザイン画へと目を落とした。
熱すぎない、先程触れたばかりの刹那の手のような暖かさの色合いだと、逆月は思った。



●エンパイア
「どんなデザインになるのか楽しみだわ」
 うきうきと楽しそうに店内を歩くジェシカの足取りは軽い。
ドレスは女の子の憧れだ、それも当然なのだが――
「ジェシカもドレスとか興味あったんだ」
 そんなルイスの言葉が水を差した。
むっとした表情でジェシカは言い返す。
「ちょっと、興味あるに決まってるでしょ。私だって女なんだからね!」
「動きやすいのを優先で、お洒落とかしてるのを見たことなかったから……」
「まあ、服装は機能性重視で選んでるのは否定できないけど。白とかすぐ汚れるし」
 すぐ汚れるのはよく駆け回っているからだろうな……とは思ってもルイスは言葉にしなかった。
言えば面倒なことになるのは目に見えているから。
 ふいにジェシカが立ち止まった。何かを見つけたらしく、合わせてルイスも立ち止まる。
「そういえばあの時のドレスはこんな感じだったような……」
 言いながらもジェシカは一着のドレスへと手を伸ばし、それをそのままルイスの体に当てた。
真っ白なドレスは華奢なルイスに……うん、これ以上はやめておこう。
「……なんで僕に当てるの?」
「着てたじゃない真っ白なドレス」
「着てないよ!?」
 抗議するルイスに、ジェシカはやれやれと息を吐いた。
「私はめちゃくちゃ苦労したのに全く覚えてないとか……」
 助けてもらったことは覚えていても、具体的な内容をルイスは覚えていない。
夢の内容は気になるが、こうやってドレスを当てられたことを考えると詳しく聞かない方がいいだろう。
ルイスは話を別の方向に進めることにした。
「あの時はありがとう」
 とはいえ、これは本心。
実際に助けられたことに勿論感謝はしているのだ。
「まあ、無事だったからいいわ、でもこれっきりにしてよね。別にまた同じ事があっても助けにいってはあげるけど」
「うん、すごく頼もしい……」
 僕もジェシカみたいに頼もしくなれればいいんだけど……その言葉は口の中に溶かす。
それは華奢な少年の、男の意地だ。
 けれど、そんな男の意地など知らないジェシカは、再びルイスの体にドレスを当てた。
まじまじとその姿を眺めている。
「でも、あの時思ったのよね。負けたって。私も白とかレースとか着れば女の子らしくなるのかしら……」
「勝っても嬉しくない……」
 肩を落としたルイスには哀愁が漂っている。
そんなルイスがぼそり。
「でも女の子らしいジェシカ、それはもはやジェシカではないような」
 途端、ジェシカの眦が吊り上る。
ばっちり聞こえてしまったようだ。
「何?喧嘩売ってるの?買うわよ」
「売ってない売ってない!……女の子らしくなりたいのなら内面も気にした方が」
「まずは形からって言うでしょ」
 あ、これ可愛いかもと言ってジェシカが別のドレスを手に取る姿を、ルイスは見つめる。
隣の芝生は青い、かな。お互い欲しいものほど手に入らないね……。
羨望の色があるルイスの眼差しにジェシカは気付くことなく、手に取ったドレスを自身の体に当てた。

 ジェシカの為に描かれたのは、ピーコックグリーンのエンパイアライン・ドレス。
結び目が右胸の下にあるリボンは柔らかな白で、先端にはピンクの薔薇の刺繍が入っている。
全体的な明るい雰囲気でシンプルなデザインだが、スカートがフィッシュテールになっている。
動けば裾がひらひらと靡くだろうから、歩いたときが一番映えるデザインとも言えるだろう。
 ドレスの絵のすぐ横には「手袋とパンプスは白がいいけど、ネックレスの石はピンク系でいいかも」と書かれていた。



●プリーツ
 はぁと、紫月 彩夢の口から零れる溜息。
普段はドレスなんてあまり見られないものだから、デザイン画が出来上がるまではと店内を見て回っているのだが、あまりの華やかさに溜息が出てしまったのだ。
興味もあるのだ。女優が着るようなスレンダーな形のドレスを見て、再び溜息を吐いてしまう。
 その彩夢の隣で、紫月 咲姫は楽しそうに次から次へとドレスに手を伸ばす。
彼女、もとい彼も彩夢とは別のベクトルでドレスに心奪われている。
「あぁ、端から全部彩夢ちゃんに着て行って貰いたいくらい!ね、彩夢ちゃんはどんなのが好き?」
 そう言う咲花の指先はあちらへ、こちらへ。
どれにしようか悩んだ指先は、時間に余裕もあるからと思い直したからか一番手近なところにあったピンクの可愛らしいドレスを手元に引き寄せようとした。
 けれど、彩夢が一着のドレスを見ていることに気付き、すぐにそのドレスを手に取る。
スレンダーなそのデザインは、装飾ではなくシルエットを魅せるものだ。
「ふふ、気になるなら、ちょっと前に当ててみましょうよ。ほら、鏡あっちよ!」
 ぐいぐいと咲花は鏡へと彩夢の体を押し出す。
彩夢は僅かに抵抗を見せたものの、結局は勧められた通りに鏡の前へ。
 彩夢の体に咲花がドレスを当てる。
黒い細身のドレスは胸元にゴールドの刺繍が施されていて、そこが一段と輝いて見える。
瞳と肌の色がくっきりと出てとても似合っているのだが、彩夢の表情は冴えない。
先程とは違う溜息が彩夢の口元から漏れた。
「あたしが着るより、やっぱり咲姫の方が似合うよ」
「そんなことないわよ。彩夢ちゃん、とっても似合ってるのに」
 彩夢がこのドレスを見ていた理由は、咲姫に似合いそうだと思ったから。
とはいえ、咲姫は男だ。体のラインが出るドレスは御法度。
「……どうして、咲姫は『兄』なんだろ」
 ぽつり、彩夢は呟いた。
そんな一言に咲姫は目をしばたかせた。
「どうして、って。そんなの、彩夢ちゃんを守るために決まってるじゃない」
 さらっとしたその言い方は、当然のことだと思っているからこそ。
咲姫は少し首をかしげながらも、言葉を続ける。
「パートナーにまでなっちゃったのはちょっと想定外だけど……それで、彩夢ちゃんを守る力が得られたんだもの。
良かったって。心から思うわ」
 ね?と笑う咲姫から彩夢は顔を背けた。
そこに浮かんでいる表情が羞恥か、気まずさか。兄妹ゆえに、顔を見ずとも咲姫には分かる。
「……しれっとそう言うこと言うんじゃないわよ。バカ」
「バカでもいいわよ。彩夢ちゃんがくれる言葉なら」
 そんな咲姫の言葉が、彩夢には眩しかった。
体に当てたままのドレスの、ゴールドの刺繍よりも、ずっと。


 受け取ったデザイン画に、先に反応したのは咲姫だった。
まじまじと彩夢と見比べた後に思わず出た言葉は「プロって凄い……」。
「どういう意味よ、それ」
「いい意味よ、いい意味!だって彩夢ちゃんにぴったりなんだもの!」
 キラキラと輝く目で言われれば信じるより他は無く。
咲姫からデザイン画へと再び視線を落とす。
 ホルターネックのドレスはベージュで描かれているが、「シャンパンゴールド!」と書き添えられている。
スカートの左サイドには大きなスリットが入っており、その下には濃い茶色のプリーツスカートが覗くようになっている。
胸元には「赤系の、大きなコサージュをつけること」。
「他にも髪とか靴とかも、アドバイス貰えたら嬉しい、なんて、欲張りかしら。ぜひ、仕立てて貰いたいって思うし……」
「そこまで言ってもらえると嬉しいわ。
髪は片耳だけ出るようにゴールドのピンで流すように留めるくらいでいいわね。あ、でもちょっと後ろ気味に小さめのコサージュをつけるといいかも。で、靴は黒だと色が締まりすぎるから、靴も茶色で、うんと高いピンヒールね。あ、ネックレスはシンプルで小ぶりなものがいいわ」
 勢いよく言い出したルイーズの迫力に彩夢が押されている横で、せっせと咲姫がメモを取っている。
妹のドレス姿をより良いものにする為の兄の努力。
 余さずルイーズの言葉を書き取った咲姫が顔を上げた。楽しみで仕方ないと、その顔が物語っている。
「ドレス着たら、私に一番に見せてほしいな?お店まで、エスコートさせてよ」
「じゃあ、お願いする」
 だから、着こなせたら見てね。
そんな妹の、女の子のささやかな願いがデザイン画へと託された。



依頼結果:成功
MVP
名前:紫月 彩夢
呼び名:彩夢ちゃん
  名前:紫月 咲姫
呼び名:咲姫

 

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター こーや
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル ロマンス
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月29日
出発日 12月05日 00:00
予定納品日 12月15日

参加者

会議室

  • [6]ジェシカ

    2014/12/02-21:43 

    ジェシカよ。
    今回はよろしくね!
    普段はこういったドレスとは全然縁がないから、一体どうなるのか楽しみだわ。
    折角だから私は店内のドレスを見てまわってくるわね。

  • [5]豊村 刹那

    2014/12/02-20:58 

    豊村刹那だ。こっちは契約した精霊の逆月。
    よろしく頼む。

    私も普段からこういったものには疎くてな。
    どういったデザインになるのか楽しみだ。

  • [4]紫月 彩夢

    2014/12/02-14:36 

    初めましての人ばっかりね。紫月彩夢と姉の咲姫よ。
    咲姫が、折角だからって勧めてきたから応募したけど…
    あたしがやって貰うより咲姫がやって貰った方が映えるんじゃないかしら…(ぎり)

    (はっ)ま、まぁ、折角、だからね!イメージくらいは、あたしも聞かせて貰いたいわ。
    ドレス、とか、普段あんまり見ないから、ちょっと緊張しちゃう。
    紹介して貰ったシレーヌさんにも、迷惑かけないようにしなきゃ。
    うん、どうぞよろしくね。

  • 皆さん初めましてッス!
    うちはイドゥベルガ=アイマーって言うッス♪
    名前は長いからイドゥって呼んで欲しいッス!

    服って動きやすいのしか着た事がなかったッスからこういうドレスとかって憧れるッスよね~♪
    とはいえ、うちは余りはしゃいじゃうとお店のドレス汚しちゃうかもしれないッスから…
    今回は御伽さんの好みを聞きながら何か飲みたいなぁって思ってたっすよ!

    皆宜しくッスー♪

  • [2]クラリス

    2014/12/02-09:21 

    皆さん初めましてね!私はクラリスよ。よろしくねっ

    ドレスをデザインしてくれるなんてとっても素敵な依頼よね!
    こんな任務なら毎日でも受けたいくらいだわっ
    ドレスなんて任務以外では縁がないし、せっかくだから店内を見て回ろうかしら

    シレーヌさんにも一度会ってみたかったし、本当に楽しみだわ!

  • [1]クラリス

    2014/12/02-08:49 


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