俺のヨメはお前(白羽瀬 理宇 マスター) 【難易度:とても簡単】

プロローグ

 誘拐婚という言葉をご存知だろうか。

 まず若い男が近隣の村などから目星をつけた生娘を略奪してくる。
 そして娘の意思などは一切無視して、強引に婚姻関係をつくってしまう。
 突然に略奪された娘は、生家に帰ることも許されぬまま妻として夫に仕え、一生を終える。
 そんないささか……いや相当に乱暴なプロポーズの方法である。

 少なくとも娘側としては、幸せな形にはなりにくいこの結婚。
 かつては当たり前に行われていた地域もそれなりの数があったようだが、
 時代の流れとともにその姿は徐々に見られなくなり、
 今となっては、ごく一部の地域において以前とは違った形で残っていることがほとんどである。
 例えば、結婚式の中のブーケトスとかファーストバイトとかそのようなイベントの一環として
 新郎が「誘拐」と称して新婦を抱えて入場する……などだ。

 そして、かつての誘拐婚が姿を変えたもう一つの形が……


「花嫁運びレース?」

 聞きなれぬ言葉に、互いの顔を見合わせるあなた達。
 秋晴れの心地良い日。散歩がてらにハト公園までやってきたウィンクルム達を待ち受けていたものが、それだった。

 声を掛けてきた運営スタッフに話を聞いてみれば、
 要は2人組の一方が、もう一方を抱えるなり何なりの方法で運ぶレースなのだという。
 『花嫁運び』と銘打たれてはいるが、パートナーが新妻である必要はないそうで、
 2人一組でさえあれば、その関係は友人でも兄弟でも、果ては初対面でもいいらしい。
 つまりは神人と精霊のペアでも構わないということだ。
 
「軽い運動会的なイベントを……と思いましてね。
 自由参加でレースを開催してみたんですが、思いのほか参加者が集まらなくて。
 だからどうか参加してくれませんかね?」

 そう言いながら頭を掻く運営スタッフの男。
 それもそのはず。
 コースだと示されたものを見てみれば、
 急勾配の砂山に始まり、丸太の一本橋、しまいには水壕まで存在している。
 これでは、とてもではないが軽い気持ちでの参加は難しいだろう。

 しかも……

「そうそう。
 2人組はどういう組み合わせでも……例えば親子などでも構わないのですが、
 運ばれる方の体重が50kg未満の場合は、
 ペナルティーとして総重量が50kgになるように重りを追加させてもらいますね」

 そんなルールまであるなら尚更だ。
 子供1人なら抱えて走ることはできても、50kg以上の相手を抱えて走るのは並大抵のことではない。


 それでも、好奇心が勝ったのか、あるいは闘争心に火がついたのか
 参加の意思を見せたあなた達にスタッフの男が言った。

「それはありがとうございます。
 では、参加費として500Jrをいただけますか?
 ウィンクルムの皆様が参加して下さるなら、イベントもより盛り上がるでしょう。
 優勝賞品『嫁の体重分の新米』を目指して頑張ってくださいね!

 あと、花嫁花婿ということでウェディングドレスとタキシードの貸し出しもしています。
 50Jrで利用できますので、ご希望の方は仰ってくださいね」


 かくして花嫁運びレースは開幕した。
 今、愛の力を試す戦いの火蓋が切って落とされる!

解説

●花嫁運びレースのルール
パートナーの一方がもう一方を担いで障害物のあるコースを走ります
神人と精霊のどちらが担ぐ方でも構いません
担がれる側の体重が50kg以下の場合には、合算で50kgになるように重りを背負います
担ぎ方は自由です。お姫様抱っこや、おんぶなど好きなスタイルで走ってください
但し足を持って引きずったり、紐などの道具を使用することは禁止です


●コース
急勾配の砂山(高さ2m)→丸太の一本橋(長さ5m)→水壕(深さ1m、長さ10m)


●プランに書いていただきたいこと
・神人と精霊、どちらが走るのか
・パートナーの運び方、どのように抱えて走るのか
・走る方を決める時やレース中などにどんな会話を交わすのか
・障害を越える作戦や、どんな失敗やハプニングを起こしそうかなど


●参加費と賞品
参加費として500Jrをお願いします
優勝者には『嫁の体重分の新米』が、それ以外の方には新米5kgが渡されます
※賞品については、本リザルトのみでの描写となります


●体重について
担がれる方の体重が50kg以下になりそうな方はできるだけ自己申告をお願いします
またプロフィールを確認させていただき、該当しそうな場合に重りを追加する場合があります
目安としては、身長160cm以下で細身の方が該当します


●貸衣装
ウェディングドレスとタキシードの貸し出しをしています。50Jrです
花嫁姿で走ったっていいじゃない!

ゲームマスターより

プロローグを読んで下さってありがとうございます。
男性側では初めましてになります。白羽瀬 理宇と申します。

ちょっとハードな運動会ということで、奥様運びレースをモチーフにしてみました。
楽しいレースが展開できたらうれしいです。
どうぞよろしくおねがいします。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

スウィン(イルド)

  誘拐婚ってのはとんでもないけど
花嫁運びレースってのは面白そうね
おっさんが嫁って全然似合わないけど!(ぷふーっと噴出す)
折角だから二人ともタキシード着ましょ
何だかんだでこれ着るの何回目かしらね~
あ、ドレスはノーセンキューよ!
(イルドの方が背も高く体重も重く疲れるので
自分が運ぶ気は更々ない)
旦那様、大事な嫁のために頑張って☆(けらけら)

(背負われると、あの時の事思い出すわね…)
(イルドの背中は温かくて落ち着く)

あら~、砂山疲れそう
一本橋!バランス崩さないでね!(ぎゅっとしがみ付き)
水壕…タキシードが汚れちゃうわ~…;

(順位関係なく笑顔で)イルド、お疲れ様!ありがとね♪
ふふ、もちろん。任せなさ~い♪


セラフィム・ロイス(火山 タイガ)
  50キロだよ。嘘!?…痩せすぎかな
うるさい。!?
おんぶにして。姫って柄じゃないしきついだろ
~~っ(赤面)どうしても?

■根負けドレス着用。タイガはタキシード白
タイガのために勝たせてあげたい。協力は惜しまない
注意を払う。おんぶされ温もりに今までを思い出す

ごめん(わざと
(あれ何だったんだろう。いつも通りだし思い違い?
そうだよね、僕を好きだなんて物好きがいる訳…友達と呼べるだけで僕は
ドレスは撮影会以来か。キスの真似事…よくできたよね。体重も背も日に日に大きくなって…
今はレースに集中しないと)

◆申し訳なさそう
…走り辛いなら体制をかえてもいいからね

う、うん(だから顔ちか!?トランスではいつもしてたのにな)


アイオライト・セプテンバー(白露)
  あたしお嫁さんするのっ
パパはお婿さんね、ちゃんと衣装も借りるのっ
あたし女の子だから、重しもしなきゃ♪(ツッコミ可
わーいドレスだきれー♪

おんぶだとパパの顔が見られないから、つまんない
だから、こっち(お腹にひっつく)
離れないもんっ

砂山は汚れたくないから、パパにもっと顔をぴたっとする
それに、パパのおっぱいはあたしのだもん
『アイ、だから誤解を招く言い方は止めましょうね』
一本道は落ちるのやだから、やっぱりぴとっとする
あ、お空を蝶々が飛んでる
かわいー(手を伸ばそうとして、ナチュラルに白露の邪魔する奴
水壕は、仕方ないから、パパに肩車してもらう
あ、また蝶々だ
パパあれ取ってー(脚をばたばたさせて、また邪魔する奴



瑪瑙 瑠璃(瑪瑙 珊瑚)
  お嫁さんの体重分の米と、5kgの米か。
少しでもご飯代が浮くなら、やはり前者が欲しい所。
けど、このメンバーの頂点に立てるのか?

「珊瑚、優勝するぞ」
(ローブを宙に脱ぎ捨て、予め着たウェディングドレスを披露)
「花嫁は、おれがやるべさ」

「珊瑚、おれに構うな」
くっ・・・・・・悪寒がする。
ジャケットを着ても、水濠の水温が低いのか、
自分の体温が低いのかわからないが、意識が遠のきそうだ。
「珊瑚、おれを背負って。お前の・・・・・・背中の体温で暖を取る」

「・・・・・・ばっ、勘違いするな」
何を言ってるんだろう、おれ。
恥ずかしいだなんて言っている場合か?

仕方ないな。
このレースが終わったら、二人で暖かいご飯を食べるぞ。



暁 千尋(ジルヴェール・シフォン)
  アドリブ歓迎
貸衣装希望

スタッフさんも困っているようですし、参加しましょう
良い鍛錬にもなりますから、僕が運びます

ドレス着るのですか!?
そうなると抱え方としては、おんぶか神輿担ぎか…
はっ!確かにこれは「花嫁」運び…見た目も重要ということですね
さすがは先生です
では王道に乗っ取って、お姫様抱っこでいきましょう

…先生、少しじっとしていてもらえませんか
お気持ちは分かるのですが、あまり動かれると腕がつら…いえ、何でもありません
この程度で根を上げるなど、僕はまだまだ未熟ですね
一人前のウィンクルムになる為、必ずや花嫁を送り届けてみせます!

先生は先にお戻りください
僕は片付けを手伝ってきます…お店には後で寄ります



●出場プロポーズ
 
「誘拐婚ってのはとんでもないけど、花嫁運びレースってのは面白そうね」
「何でこんなレースに……米のためか」
 純粋に興味を示すスウィンと、げんなりしつつも賞品のためと自らを納得させるイルド。

「お嫁さんの体重分の米と、5kgの米か。少しでもご飯代が浮くなら、やはり前者が欲しい所」
「嫁運びレース、楽しそうだよな!オレ、張り切って走るぜ!」
 食費のために賞品が欲しい瑪瑙 瑠璃と、快活さが前面に出る瑪瑙 珊瑚ことコライユ珊瑚。

「あたしお嫁さんするのっ!パパはお婿さんね、ちゃんと衣装も借りるのっ!」
「ま、いいでしょう。お米は魅力的です、うちには食べ盛りが1人いますしね」
 貸衣装のドレスに釣られるアイオライト・セプテンバーと、我が子の食べ物を求めるお父さん白露。
 白露の横ではアイオライトが「えー。あたしそんなに沢山食べないもん」と頬をふくらませている。

「憧れのウェディングドレスが着れて、新米まで貰えちゃうなんて素敵なレースよねぇ」
「スタッフさんも困っているようですし、参加しましょう」
 一石二鳥に喜ぶジルヴェール・シフォンと、あくまで真面目にスタッフを助けようとする暁 千尋。

「家計と燃えるゲームのために!それに密着度は役得だよな」
 一石二鳥どころか一石三鳥を狙う火山 タイガと、その勢いに押されて戸惑ったように沈黙しているセラフィム・ロイス。

 形はそれぞれだが、各組無事に花嫁花婿となる約束が結ばれたようだ。

●見た目も大事

「だ、旦那様……嫁……」
「おっさんが嫁って全然似合わないけど!」
 未だ立ち直れないイルドの呟きに対し、ぷふーっと噴出しながら貸衣装のテントに向かうスウィン。
「折角だから二人ともタキシード着ましょ。何だかんだでこれ着るの何回目かしらねー」
 ただのお楽しみだとばかり思っていたが、衣装コーナーは意外にも充実している。ズラリと並んだ衣装を物色しているスウィンに係員が言った。
「ここにある衣装はタブロス市内の結婚式場で貸衣装として使われていたものなんです」
 以前は実際に使われていたものの、流行遅れになったり、汚れが目立つようになってきてしまったため廃棄される予定だったものを集めたのだそうだ。
「だからこんなに本格的なのね!本当に素敵だわぁ」
 係員との会話を耳に挟んだジルヴェールが、レースを撫でながら頬に手を当ててうっとりとしている。
「ねえチヒロちゃん。こっちとこっち、どっちが良いかしら?」
 そして、右手にマーメードドレス、左手にエンパイアードレスを持って千尋を振り返った。
「ドレス着るのですか!?」
 というか、長身なジルヴェールに合うドレスがあることが驚きだ。目を白黒させている千尋にジルヴェールが答える。
「もちろんよ!ウェディングドレスは憧れだもの!」
 そして少し離れた所にいるスウィンに向かって軽いウィンクを飛ばした。
「ね。あなたもそう思わない?」
「あ、おっさんはドレスはノーセンキューよ!」
「似合いそうなのに残念だわ。でもあなた、タキシードも似合いそうね」
「オネーサンには負けるわよ」
 盛り上がるオネェとオネエ言葉のおっさん。
 その少し向こう、小さめのドレスのコーナーでは……。
「わーいドレスだきれー!」
 アイオライトが楽しげにはしゃいでいる。
「あたし女の子だから、重しもしなきゃ」
 しれっと言い放つ男の娘。白露は慣れたもので、少しも動じずに「そうですね……」などと答えていた。

 一方セラフィムはギリギリで重りは必要なかったらしい。
「50キロだよ」
 体重チェックの結果を伝えるセラフィムに対し、タイガが誇らしげに胸を反らす。
「俺55キロだぜー!やっとセラに勝てたな!」
「嘘!?……痩せすぎかな」
「かもなー」
「うるさい」
「腰細いし」
 ニヤリと笑い、セラフィムの腰に手を回すタイガ。突然の事に、セラフィムは飛び上がってタイガの手を逃れた。
 そんなセラフィムの様子を笑ってながめながらタイガが訊ねる。
「衣装どうする?」
「別に……このままでいいだろ」
「えー。花嫁運びレースなんだしいるだろ。ドレスにすっか?前似合ってたし」
 その言葉にセラフィムの頬が紅く染まる。
「……どうしても?」
 うかがうように上目遣いで訊ねるセラフィム。嬉しそうに笑ってタイガは頷いた。
「どうしても!」
 セラフィムが押し切られるのは、もはや時間の問題のようである。
 それぞれの事情でそれぞれに盛り上がる貸衣装テント内。
 皆が順調に準備を進めている中、瑠璃と珊瑚だけが隅の方でコソコソと何かをやっていた。 

●決戦直前

 用意が整った各組がスタートラインに集まってくる。個性豊かな出場者に観客達も盛り上がりを見せはじめていた。

「体格的にはワタシが走った方がいい気がするけれど」
「良い鍛錬にもなりますから、僕が運びます」
「……あらそう?それじゃあ頑張るのは若者に任せるわぁ」
 そんな事を言い合うホルターネックのマーメードドレスに身を包んだジルヴェールと、燕尾服を身に着けた千尋。
「先生はドレスですから、抱え方としては、おんぶか神輿担ぎか……」
 呟く千尋を軽く睨みながら、ジルヴェールが立てた人差し指を左右に振る。
「ねぇねぇチヒロちゃん。これ何のレースか知ってる?」
「花嫁運び……。ですよね?」
「そうよ、これは結婚をモチーフにしたイベントなの。効率を考えるのはとても良いことだけど、見ている人を楽しませるのも大切だと思うの」
「はっ!確かに……見た目も重要ということですね!」
「うふふ、分かればいいのよ」
「さすがは先生です。では王道に乗っ取って、お姫様抱っこでいきましょう」
 千尋の腰が少し……いや、かなり心配だ。

「おんぶにして。姫って柄じゃないしきついだろ」
 半ば無理やりエンパイアラインのウェディングドレスを着せられたことが不満なのか、拗ねたような表情で言うセラフィム。
 それでもタイガの押しには敵わないセラフィムは……。
「抱っこしたかったなー」
 タイガのそんな台詞に譲歩案を出してしまう。
「……走り辛いなら体勢をかえてもいいからね」
「あ、丸太は姫抱っこでお願いできるか?」
「……いいよ」
 してやったり。白いロングタキシードを身につけたタイガが嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「担ぎ方はおんぶが無難ですかね、アイいらっしゃい」
 ウェディングドレス姿の花嫁……というよりは、フラワーガールのような姿ではしゃいでいるアイオライトを呼び寄せる白露。
「はーい」
 いい返事ではあったが、アイオライトがひっついたのはモーニングコート姿の白露のお腹である。 
「アイ、おんぶは背中にしがみつくことです。どうして私のお腹なんですか、これじゃまるでコアラの抱っこです」
「おんぶだとパパの顔が見られないから、つまんない。だから、こっち」
「こんな恰好ではスピードが出せるとは思いません」 
「やだやだ、絶対ここがいいもーんっ」
 引き剥がそうとする白露と、抵抗するアイオライト。しばしの間格闘していたが、アイオライトが離れる気配はない。
 結局、白露は諦めてそのまま走ることにした。
「離れないもんっ!」
 小さな身体のどこにそんな力があるのか。白露にへばりくつアイオライトは、まるで強力磁石のようだった。

「旦那様、大事な嫁のために頑張って」
 漫画的表現をするならば、バチンと星が飛びそうなウィンクをするスウィン。
 イルドの方が背も高く体重も重いため、自分で運ぶ気は更々ないらしくケラケラと楽しそうに笑っている。
「まあ、体力はそれなりにあるつもりだけどな……」
 膝の屈伸などの軽い準備運動をしながら答えるイルド。
 こちらはこちらで、自分が抱っこやおんぶをされる等考えられないらしく、運ばれる気は更々ないようだ。何だかんだで良いペアである。
「動きやすさで考えるなら、やっぱりおんぶかしら?」
「そうだな。それが良いだろう」
 背中を向けて、少しだけ腰を落とすイルドの背中に身体を預けるスウィン。
(こうやって背負われると、あの時の事思い出すわね……イルドの背中は温かくて落ち着く)
 以前、デミ・ワイルドドックの討伐に行った時のこと。雨の中で熱を出したスウィンをイルドが負って帰還したのだ。
 あの時の温かさを思い出してちょっとだけ和むスウィン。レースが始まる前のつかの間の安息だった。

「珊瑚、優勝するぞ」
 少ししんみりしているスウィン、イルド組の隣。羽織っていたローブをまるでプロレスラーの入場のように宙に脱ぎ捨てる瑠璃。
 下に着ていたのは、いわゆる『ウェディングドレス』として誰もが一番初めに思い描くようなドレス。ゴージャスなレースの花がこれでもかとあしらわれたプリンセスラインのウェディングドレスである。
「花嫁は、おれがやるべさ」
 と瑠璃。
「おっし!タキシードも着たし、可愛い女の子がお嫁さんだろ?」
 と珊瑚。
 潔い態度にどっと沸く観客。
「くそー!こうなったら優勝してやる!ちくしょおおおお!」
 声援を受けて珊瑚の闘志が燃え上がった。
「瑠璃!このジャケット羽織ってろ!つっ、ついでに、おっ、お姫様抱っこして砂山でも丸太でも走ってやらあ!」
 
 そして号砲が高らかに鳴る。

●人生は二人三脚

「位置について!よーい、ドン!」
 オーガ討伐のためであれば相手に背中を預けあうこともあるウィンクルム達だが、今日は互いが敵である。
 まず先陣を切って飛び出したのは瑠璃をお姫様抱っこした珊瑚だった。スポーツスキルを使用し、軽快な足取りで砂山へと向かう。
 そのまま砂の中に足を踏み出せば、自分の体重と瑠璃の体重を受けて想像以上に足元が沈み込む。
「前屈みになりながら、ゆっくり登ろう……」
 少し時間はかかるかもしれないが、一歩一歩を着実に進めたほうがきっといい。
 一度、身体を揺すって瑠璃をしっかりと密着させてから、珊瑚は落ち着いた足取りで砂の山を登り始めた。
 珊瑚は自力で瑠璃の首にしがみついてきてくれているため、腕に掛かる負荷はさほどではないが、二人分の重量を支える足には大きな負荷が掛かる。
「……くそー。意外と足にくるな、これ」
「珊瑚、大丈夫か?」
「大丈夫、だっ!」
 砂山を半分程まで登ったところで、瑠璃は一度顔を挙げて砂山の頂上を仰ぎ見た。
「……長い目で見りゃあさ、夫婦って、二人三脚のマラソンみたいなもんだよな」
 夫婦ではない、けれどもパートナーとして困難を乗り越えて行く。そういう意味ではウィンクルムも夫婦にも似ているのかもしれない。

 珊瑚の後を追って走るタイガ。砂山は頂上を過ぎて下り坂に差し掛かっている。
 下りというと楽そうに感じられるかもしれないが、足場の悪い急な坂道は重力に負けぬように踏ん張らねばならないため、実は足腰への負担が少なくない。
 スポーツスキルを使用しつつも、タイガがバランスを取るのに苦戦している様子が肌越しにセラフィムに伝わってきた。
 優勝を狙うタイガのために勝たせてあげたい。そう思い注意を払うセラフィム。
 タイガができるだけ走りやすくなるよう、セラフィムはよりしっかりとタイガにしがみついた。
 密着する身体。伝わる温もり。二人の過ごしてきた時間がセラフィムの中でよみがえる。
(ドレスは撮影会以来か。キスの真似事……よくできたよね。体重も背も日に日に大きくなって……)
 そんな事を思っていたところ……。
「やっぱ抱っこしたかったなー」
 タイガ言葉が耳に届き、セラフィムはふと、ある事を思い出した。
 あの日、タイガの口から出た「愛している」という言葉。
「……」
 少し考えて、セラフィムはタイガの首に回した腕にわざと力を込めてみる。
「セラ?セラ!苦しいって!?」
「あっ。ごめん」
 苦しいと言いつつも少し嬉しげなタイガの反応。
 それを確認したセラフィムは慌てたふりを装って腕の力を緩めた。
(あれ何だったんだろう。いつも通りだし思い違い?そうだよね、僕を好きだなんて物好きがいる訳……友達と呼べるだけで僕は)
 いつもと何ら変わらないタイガの反応に、一人もやもやとするセラフィム。
(今はレースに集中しないと……)
 そう思い直し、セラフィムは再びタイガの背中にしっかりとしがみついた。
 一方タイガは、セラフィムの戸惑いの意識を感じてうずうずしていた。
(本番の予行練習になるな!なーんて。事件で言ってよかった)
 背中で申し訳なさそうにしているセラフィムを元気付けるように言う。
「鍛えられてるし体力有り余ってるって知ってるだろ。へーきへーき」
 そうこうしているうちに二人は丸太の一本橋へと到達した。ここで二人の体勢はおんぶからお姫様抱っこに変わる。
「下見ないようしがみついとけよ!」
「う、うん」
 頷いてみたものの、セラフィムの心情は穏やかではない。
(だから顔ちか!?トランスではいつもしてたのにな)
 真横にあるパートナーの真剣な顔。その額に光る汗がさらにセラフィムの鼓動を早くさせる。
 不安定な一本橋。
 左右に揺れるその道のりは、セラフィムとタイガのシーソーゲームのようだった。

 珊瑚とタイガから遅れること少し。砂山の下り坂を一塊になって走っているのは、白露と千尋、それにイルドだった。
「汚れたくないから、パパにもっと顔をぴたっとする!それに、パパのおっぱいはあたしのだもん!」
「アイ、だから誤解を招く言い方は止めましょうね」
 真っ昼間から叫ぶには少々……いや、かなり問題のある発言をぶちかますアイオライトと冷静に突っ込む白露。
 そのやりとりを横目に見ながら、イルドに背負われたスウィンが「あらー、砂山疲れそう」と暢気に呟いている。
 一方。
「……先生、少しじっとしていてもらえませんか? お気持ちは分かるのですが、あまり動かれると腕がつら……いえ、何でもありません」
 見物客に手を振ったり、時には投げキッスをしたり……と、サービス精神旺盛なジルヴェールに苦戦をしているのは千尋だった。
 自分より大柄な相手をお姫様抱っこして走るという、無謀とも思える行為。千尋は弱音を飲み込んだが、それが苦行であることは誰の目にも明らかである。
 ジルヴェールのサービスと千尋の奮闘に向けられる、観客達の熱い声援。
 その温度に心に火がついたのか、或いは苦痛を紛らわせるために変な方向にスイッチが入ってしまったのか、不意に千尋が上がりかけていた顎を引き、背筋を伸ばした。
「この程度で根を上げるなど、僕はまだまだ未熟ですね。一人前のウィンクルムになる為、必ずや花嫁を送り届けてみせます!」
 うおぉぉ……!という雄たけびが聞こえてきそうな猛ダッシュ。
(……なんだかチヒロちゃんの主旨が変わってきている気がするけれど、まぁいいかしら)
 上下に激しく揺れる千尋の腕の中で、ジルヴェールもまた暢気にそんな事を考えていた。

 そして一行は丸太の一本橋へと差し掛かる。
「落ちるのやだから、やっぱりぴとっとする」
 白露のお腹にぴったりと張り付くアイオライト。
 アイオライトの身体に視界を遮られ、足元がよく見えない白露は両腕を伸ばし、やじろべえのようにバランスを取りながら丸太の上を進む。
 が……。
「あ、お空を蝶々が飛んでる!かわいー」
 まるで子猫並のアイオライトの集中力。レース中、しかも不安定な一本橋の上にいるというのに、アイオライトは蝶に向かって手を伸ばした。
「アイ、危ないですよ」
 広げていた両手を引き寄せて、アイオライトの身体を支える白露。
 その様子を見ていたスウィンがケラケラと笑う。
「おにーさんも大変ね」
 そしてスウィンは「バランス崩さないでね!」と言いながら、イルドの背中にぎゅっとしがみついた。
「ちょ、おいッ?!首ッ、首絞まってるッ!?」
 首に回ったスウィンの腕をギブギブッといった感じに叩くイルド。
「あら、ごめんなさい」
「ったく、大人しく掴まってろ!」
 悪態をつきながら身体を揺すってスウィンを背負い直し、負けず嫌いのイルドは全力で前に進む。

 三組のだいぶ先。現在トップを走っている珊瑚。
 平均台に乗ってバランスを取るように、慎重に丸太の一本橋を攻略し、ついに最後の障害である水壕に到達した。
 ザブリと踏み込む深さ1mの水。その深さは、お姫様抱っこの瑠璃がちょうど水中に浸かるくらいである。
 そして水に入った瞬間。水濠の水温が低いのか、瑠璃の体温が低いのか……瑠璃の全身を悪寒が襲った。
 冷たい水の中、遠のきかける意識を瑠璃は必死につなぎとめる。
「珊瑚、おれを背負って。お前の……背中の体温で暖を取る」
「分かった背負うぞ!オレの体温で温めてやるからな!」
 が、その言葉を聞いた瑠璃が急に暴れ出した。
「……ばっ、勘違いするな」
 どうやら自分の言ったことに慌てたようだが、恥ずかしいなんて言っている場合ではない。
 それに気づいたらしく大人しくなった瑠璃を一旦水の中に立たせ、珊瑚は瑠璃を背中に担ぎ上げた。
「珊瑚、おれに構うな」
「馬鹿野郎っ!瑠璃と一緒に優勝しなきゃ意味がねぇんだ!」
 まるで今際の際のような瑠璃の言葉に珊瑚は奥歯を噛み締める。
「もう……!一人は嫌だ!」
 水を掻き分けながら必死に進む珊瑚の背の上。瑠璃がポツリと呟いた。
「珊瑚、このレースが終わったら……二人で暖かいご飯を食べるぞ」

 そんな二人の横を……
「タキシードが汚れちゃうわー」
 イルドに背負われたスウィンが通り過ぎてゆく。
「アイ、溺れないよう気を付けてください」
「パパ、がんばれー。いい眺めー!」
 アイオライトを肩車した白露が通り過ぎてゆく。
「あ、また蝶々だ!パパあれ取ってー」
 白露の肩の上で脚をバタバタとさせるアイオライト。
 悲喜こもごもの水壕障害。ゴールまではあと少しだ。

●新米は誰の手に?

 スタートは早くなかったものの、安定したペースで進み続けた白露とアイオライトが逆転1着でゴールテープを切る。
 続いてタイガとセラフィム。やや遅れて千尋とジルヴェール、イルドとスウィンがほぼ同時にゴールになだれ込んだ。
「イルド、お疲れ様!ありがとね」
 順位のことは全く気にしていないのだろう。イルドの背から降りたスウィンが爽やかな笑顔を見せる
 そして最後に珊瑚と瑠璃がゴールする。水壕の水の冷たさにすっかり参ってしまった瑠璃を背負い、肩を落としながらのゴールだった。
「終わっ……た」
 長い息を吐きながら瑠璃を下ろす珊瑚。
 強張った関節のまま地面に立とうとしてよろめいた瑠璃を、横にいたスウィンが支える。
「冷えちゃったみたいね。早く着替えて暖まったほうがよさそうだわ」
 貸衣装で出走していたため着てきた自前の服は濡れていない。ウィンクルム達は足早に着替え用のテントへと向かった。

 優勝賞品である30kgちょっとの米を貰った白露と、5kgの米を貰ったその他のメンバー。
「うふふ、楽しかったわねぇ。貰ったお米で、うちのお店でも新米キャンペーン始めようかしら……」
 小料理屋を営んでいるジルヴェールが米袋を抱えながら言う。
「せっかくだから何か温かいものでも作るわ。腕によりをかけるから皆さん食べにきて。もちろんチヒロちゃんもよ」
「それはいいなっ!」
 食べ物の気配に真っ先に反応を示すタイガ。
「温かいもの……食いたい」
 未だ歯の根の合わない瑠璃も青白い顔をほころばせた。
「それでは、みんなでジルヴェールさんのお店で打ち上げでもしましょうか」
「わーい、楽しそう!」
「お店の名前は『蒼月』よ。せっかくだから覚えてね」
 白露が誘いに乗る姿勢を見せれば、アイオライトが無邪気に喜び、さらにジルヴェールが抜け目なく営業活動をする。
「では先生達は先にお戻りください。僕は片付けを手伝ってきます……お店には後で寄ります」
「相変わらず真面目なんだから」

 蒼月で打ち上げを楽しんだ帰り道。
 同じマンションの隣同士に住むスウィンとイルドは並んで家路を歩いていた。
「終わったか……」
 とイルド。
「本当、楽しかったわね」
 とスウィン。
「いい米が手に入ったんだ、旨い飯作れよ」
「ふふ、もちろん。任せなさーい」

 かりそめの夫婦の役はもう終わり。
 けれども神人と精霊の二人三脚はこれからも続いてゆく。



依頼結果:普通
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 白羽瀬 理宇
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 とても簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 11月04日
出発日 11月11日 00:00
予定納品日 11月21日

参加者

会議室

  • [7]瑪瑙 瑠璃

    2014/11/10-23:51 

  • [5]瑪瑙 瑠璃

    2014/11/08-17:54 

    珊瑚:

    たまにはオレも挨拶!瑪瑙珊瑚やっさー!
    千尋とジルヴェールは初めましてだよな!よろしく!
    レースが何かど偉い事になったけど、頑張ろうな!

    にしても、瑠璃の奴どこほっつき歩いてんやっさー?(ぶつぶつ)

  • [4]暁 千尋

    2014/11/08-09:20 

    はじめまして、暁千尋です。
    なかなかハードなレースのようですが、楽しみたいと思ってます。
    未熟者ですが、よろしくお願い致します。

  • [3]セラフィム・ロイス

    2014/11/08-02:10 

    :タイガ

    よーーーすううう!(手を上げ)
    お馴染みタイガとセラだ。よろしく!レース頑張ってこうぜ!
    暁ははじめましてだな。正々堂々いい勝負しようなー!

  • [2]スウィン

    2014/11/07-23:48 


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