【ハロウィン・トリート】狂嵐ナイトメア(柚烏 マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

(……どうしてこうなった)
 その暗闇の中、ウィンクルムたる彼は自問していた。皆でハロウィンパーティやろうぜ! と言う話になって、長閑な森にあるコテージを借りたのは良かった。お菓子やご馳走も持ち込んで、お泊りの準備もバッチリの筈だった。
 ――なのに。夕方からいきなり天気が崩れ、夜が訪れると同時に嵐になった。外は物凄い雨と風、窓に叩き付けられる雨音がすさまじい。それに加えて、先程からひっきりなしに雷の音が轟き、ちかちかと眩い稲光が瞬くのがカーテン越しからでも分かる。
(日頃の行いが悪かったのだろうか)
 更に悪い事は続くもので。それでも何とかパーティはやろうと、クラッカーを鳴らそうとした直前でいきなりの停電。コテージは闇に包まれた。仕方がないので蝋燭で灯りを取っているのだが――停電の事を伝えようにも、電話まで通じなくなっていた。
 長閑な森の筈が、そこはもう孤立した不気味な森と化していて。嵐はすさまじいし雷はものすごいし、楽しいハロウィンの筈が一気にホラーになってしまった。
(しかも、どうしよう。部屋が部屋だし……!)
 丁度ハロウィン期間と言うことで、コテージの管理人さんが色々気を聞かせてくれたらしく、コテージの内装がとんでもないことになっていた。天井からは蝙蝠の剥製がぶら下がり、皆を囲むようにずらーっとお化け南瓜が並べられている。しかもご丁寧に蝋燭の火が灯っているのだから、不気味な事この上ない。
 壁際には骸骨の模型が数体。更に殺人鬼っぽい不気味な人形やら、凶器に仕えそうな鉈のレプリカだとか。立てかけられている棺桶には、何かが詰まっていそうで嫌だ。
 ついでに、皆はハロウィンの仮装済みである。そう、皆何かしらの怪奇っぽい格好をしているのだ。
 ――さて、こんな中でウィンクルムたちは一夜を過ごさねばならない。同じくハロウィンパーティをやろうと誘った仲間たちと一緒にだ。だがそこで、ある者はふとよこしまな考えを抱いてしまう。
(もしや……これはチャンスかも!?)
 パートナーの普段は見れない一面を見られるチャンスなのかもしれない。怖がりさんな彼ならば、からかってやったり――或いは励まし、元気づけてあげたり。ふたりとも怖がりだったらご愁傷様だが、一緒に身を寄せ合って過ごすのもいい。逆にどっちも怖くないという強者同士ならば、敢えてこの恐怖に挑むもよし、更なる恐怖を感じるべく怖い話なんかを始めてもいい。
 ふと、隣に視線を遣れば、仲間のウィンクルムと目が合った。彼は告げていた――お互い上手くやろうぜ、と。そう、ここに紳士協定が結ばれたのである!
 さあ、この恐怖の一夜をどうやって過ごすのか――悪夢となるか、それとも。かくして、奇妙なハロウィンパーティが始まろうとしていた。

解説

●ハロウィンパーティのはずが
ある日の休日、ウィンクルムの皆さんでコテージを貸しきって、ハロウィンパーティのお泊り会を開催しました。しかし、その日は突然の嵐と雷に見舞われました。ついでに停電してしまい電話も通じません。そんな、孤立した森の一軒家で過ごす一夜です。

●あなたは怖がり? それとも……
天候や停電などのアクシデントに加え、皆さんはハロウィンの仮装済み、ついでにコテージの内装はハロウィンにちなんだホラーな感じです。怖がりさんな人なら、ひとりで過ごすのは大変でしょう。
神人・精霊のおふたりは怖いのは大丈夫でしょうか。どちらかが駄目なら、からかうもよし守ってあげるもよし。どちらも駄目なら一緒に怖がって頑張って一夜を過ごすのもよし。逆にどちらも平気なら、とことん怖さを追求してみるのも良しです。

●紳士協定
コテージには他のウィンクルムさんも一緒ですが、このシチュエーションを存分に満喫する為、お互いのパートナー同士の邪魔はしない、という協定が結ばれています。でも、双方で合意すれば、他のウィンクルムさんと絡んでもOKです。一緒になって怪談大会とかにチャレンジするのもまたよしです。

●参加費
宿泊費や食糧費込みで一組600ジェール消費します。

ゲームマスターより

 柚烏と申します。ちょっぴり変化球っぽい、ハロウィンの夜に起こったハプニングです。暗闇はきっと、ふたりの距離を近付けてくれる……かもしれません。
 ホラーとコメディの狭間で揺れ動く心を描写出来たらいいなぁと思います。と言うか、存分に弾けて下されば嬉しいです。恐らくテンション高めになるかと思います。
 それではよろしくお願いします。恐怖の一夜を楽しくお過ごしください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

セイヤ・ツァーリス(エリクシア)

 


アキ・セイジ(ヴェルトール・ランス)
  仮装:ミイラ男


マグナライトを臨時の光源に

天候はどうしようもないからな(楽しみにしてただけに少し残念
いわくのある建物でもないし剥製以外は祟りそうにも無いから寝てしまうに限るよ
と、俺は(ロフトがあれば)ロフトに上がろうとランスを誘う

暫くうとうとして目覚めるとランスが居ない
あれ?何所行った?
きっとキッチンだな
うちにいる時みたいにツマミグイするつもりだな

真っ暗だが皆を起こしたくないので手探りで

…ってギャー!!
ランス!
嘘だろ!?(涙目
誰か回復魔法を!(必死

え?
動い…
ギャーー(二度目

はあはあ)驚かすなよ、もう
イタズラが過ぎるだろ

別に心配はしてない
ビックリしただけだ

こ…これはアクビしたからだしっ(ぽかぽか



フラル(サウセ)
  仮装:神父

停電の中、サウセの側に行く。
大丈夫か聞こうとしたら、どうも様子がおかしい気がする。
お前、暗い場所苦手なのか…?

そっとサウセの頭を撫で、「大丈夫だ。怖くない。守ってやるから、落ち着け」と言う。

サウセの過去は知らない。
おそらく、仮面が関係しているのだろうが、それを聞くことはできない。
知らないことが多い相棒だが、それは仕方のないことだ。

ただ、少しでもサウセが過去を克服して、前を向けるように守ることができたらと思う。


サウセが落ち着いたら、世間話をして闇を恐れる心を和らげるようにしたい。
ハロウィンのこと、普段の生活のこと、任務のことなど。


※2人はまだ一応友情状態です。



月岡 尊(アルフレド=リィン)
  仮装は、スリーピース・スーツに、チェスターフィールドコート。
聞かれれば、「モリアーティ教授だ」と答える訳だが…
何か問題でも?

内装やら格好は兎も角として。
雷雨に停電、孤立とは…
まるでお膳立てな現状に、笑いすら込み上げて来て。
何故って…面白くないか?
滅多に出来ない体験だ。次は何が起こるのかと、愉しくなって来る。
折角だ、序でに有り得んモノでも見るか、或いは悲鳴でも――

…ふと。
珍しく大人しいツレに気付けば、悪戯心も沸くというもの。
「何だ、アル。もしや、こういうのは苦手ってクチか?」
面白いものが見れそうな予感に、今夜ばかりは煙草もポケットに仕舞い。
「ほれ、行くぞ」と。
夜は長い。
取り敢えず、腹ごしらえだ。


明智珠樹(千亞)
  「皆様、素敵な仮装ですね(うっとり)
 千亞さんがバニーガールじゃないのが残念です、ふふ」
(己は白のナース服、返り血付きで)
「え?似合いませんか」

おや、酷い雨、停電もしましたね。
困ったことになりました、はっはっは(楽しそうに)
おやおや、千亞さんから抱きついてくださるなんて
今日は記念日ですね…!!

(己は恐怖耐性強い。むしろ楽しい。
 怖がる千亞に)
「おや。震えてますね、寒いですか?」
(いつもの自分のマントを千亞に羽織らせ)
「ふふ、傍にいます。安心してください、千亞さん」

「スリル溢れる誕生日イブとなりましたが…
 おめでとうございます、千亞さん。
 ふふ、来年どころか毎年お祝いさせていただきますよ…!」



●長い夜のはじまり
 ウィンクルム同士が集まって、長閑な森のコテージで過ごす賑やかなハロウィンパーティ――今宵はそうなる筈であったが、そのパーティは余りにも賑やかになり過ぎた。
 夜の訪れと共に天候が崩れ、今現在はどしゃぶりの雨に激しい風。これはもう嵐と言って良かった。しかも、ひっきりなしに轟く雷と言うおまけ付きだ。
 ――で、恐らくはその所為なのだろう。コテージは急に停電となり、電話も不通。孤立したおどろおどろしい森の一軒家に変じた場所で、集まった彼らは恐怖の一夜を過ごす羽目になったのだ。
 間が悪い事に、丁度怪奇に満ちたハロウィンパーティを始めようとしていた事もあり――不気味な部屋の内装にハロウィンらしい仮装と、そこには更に恐怖を駆り立てる状況が整っていた。これでは、怖がりさんな彼は大ピンチである。
(……ううう)
 そう、稲光が部屋を眩しく照らす中、ずらりと並べられたお化け南瓜のランタンに囲まれて――恐怖に震えるセイヤ・ツァーリスのように。繊細で少し臆病な彼のこと、こんな夜にはお化けが出ると信じ込んでしまっているようだ。
 けれど、そんな主人を守り励ますように――従者たる精霊のエリクシアはセイヤの肩を抱きしめ、優しくブランケットをかけてあげる。雷鳴轟く恐怖の一夜ではあったが、暗闇の中でパートナーと過ごすひとときは、普段は見れない相手の一面を見られるような気がして。
 そう思うと、こうして災難には見舞われたけれど――こんなアクシデントもたまには良いのかもしれない、などと考える。
 ……いや、そう思わないと、やっていられないような状況であった。

●暗闇を照らす光
 暗い、とサウセは仮面の奥の瞳を瞬きさせる。けれどそれは真の暗闇では無く、お化け南瓜のランタンの灯りだとか、カーテン越しに光る雷だとか――微かな光があるからこそ、その暗闇は際立つのだろうと思った。
(暗いのは、やはり苦手ですね……)
 闇を恐れる自分が、吸血鬼の仮装をしているのがおかしかった。無意識に震える指先を、サウセはぎゅっと握りしめる。
 暗い場所は、昔を思い出させた。ずっと心の奥に仕舞いこんでいた過去の記憶――故郷を逃げ出してから随分経つと言うのに、ふとした時にその記憶は甦る。
「……サウセ?」
 停電になり、仄かな蝋燭の灯りが周囲を照らす中。神父に扮した神人のフラルは、手探りでパートナーであるサウセの傍に近付いた。大丈夫か、と尋ねようとしたフラルだが――そこで彼は、相棒の様子がおかしい事に気付く。顔の上半分を隠す仮面で、その表情ははっきりとは分からなかったのだが。落ち着きがないと言うか、何かに怯えているような、そんな様子が伝わって来た。
「もしかしてお前、暗い場所苦手なのか……?」
「……っ」
 その問いかけに、びくん、とサウセが無言で身をすくめる。その仕草でフラルは分かった――彼は本当に闇を恐れているのだと。事実、サウセは落ち着こうにも落ち着けず、どうすればいいのか分からない状態であり。溢れ出す感情を処理しきれないサウセの頭を、その時不意にフラルがぽんぽんと撫でた。
「大丈夫だ。怖くない。守ってやるから、落ち着け」
「フラル、さん……」
 ああ、彼は魔法をかけたのだろうか。その言葉で本当に、怯えるサウセの心がふっと落ち着いた。彼の言葉が嬉しくて、思わず涙まで出そうになる。
(本当は、自分が守るべき存在……神人なのに。その彼が、こうして言ってくれる)
 見た目は儚げな青年であるのに、フラルは驚くほどに男前だ。包容力があって、懐が深くて――だからサウセも、大丈夫だと安心する事が出来る。
(大丈夫。今はもうあの頃の自分ではありません。フラルさんが居る)
 ――そして。一方でフラルは、サウセが暗闇を恐れる理由――彼の過去について想いを馳せていた。彼の過去は知らない。恐らく仮面が関係しているのだろうとは思うが、それを聞く事はフラルには出来なかった。
 知らない事が多い相棒だが、それは仕方のないことだと彼は思っていて。
(……ただ、少しでもサウセが過去を克服して、前を向けるように守ることができたらと思う)
 その想いが伝わったのだろうか。ややあってからサウセは顔を上げ、大丈夫ですと唇に笑みを浮かべた。
「フラルさん、ありがとうございます……」
 どうやら無事に、彼は落ち着いたようだった。それでもまだ、怖いという気持ちは完全に抜けないようだったから――ふたりは隣り合って、他愛もない世間話を始める。普段と変わらないやり取りをして、気を紛らわせて。サウセが闇を恐れる心を和らげられるように。
「よし、折角だから、今夜は語り明かすか」
 話すことは沢山ある。ハロウィンのこと、普段の生活のこと、任務のことなどなど。暗闇と嵐と雷は相変わらずだったけれど――今は、フラルの優しさが嬉しいとサウセは思った。
 心許せる友と、これからも歩んでいこう。あれほど恐れていた暗闇が、ふたりの距離を近付けてくれたのだから――いつか、過去も過去として受け入れられるといい、そんな風に願いながら。

●意地悪紳士と怖がりうさぎ
 美味しいものが食べられると聞いて、明智珠樹についてきた千亞。森のコテージでハロウィンパーティを始めるまでは、まぁ良かった。
「皆様、素敵な仮装ですね。千亞さんがバニーガールじゃないのが残念です、ふふ」
 相変わらずの妖しい笑みを浮かべて、珠樹がうっとりした眼差しで千亞を見つめたのが、今となっては懐かしい。そんな千亞は、黒いローブに十字架を持った神父の仮装をしていたのだが――うさみみは自前だけどそれはない、と突っ込みたくなるのを懸命に堪えた。
(駄目だ、ここで何か言ってもこのド変態を喜ばせるだけだ……)
 そんな珠樹の衣装は白のナース服。しかもご丁寧に、返り血付きのホラーな感じに仕上げている。彼はコスプレ衣装を作るのが趣味だと言うから、これも自前なんだろうかと千亞は思った。
「珠樹、おまえそれ仮装じゃなくて女装だ」
「え? 似合いませんか」
 身長の高さが気になるが、元々見目の良い珠樹のこと、ナース服を着た姿は艶やかでさえあったのだが――結局千亞は溜息と共に言葉を吐き出し、珠樹はと言うと至極真面目に、己の格好を吟味している様子だった。
 ――そんな感じで、普段と変わらぬやり取りをしていたのが先程のこと。部屋の内装凝ってるなぁ、と若干顔を引きつらせて千亞が辺りを見回した時、その異変は訪れた。
「……って、あれ? 雨? 停電……!」
 ぱっちりとした瞳を瞬きさせたのも束の間、コテージを震わせるような大音響と共に、窓の外が激しく光る。これは、そう――おへそを取られると言うアレだ。
「うああっ、雷っ!!」
 叫ぶや否や、千亞は顔面蒼白になって咄嗟に珠樹の後ろに隠れた。おや、と当の珠樹は普段と変わらず悠然と、まるでこの状況を楽しむかのように笑っている。
「酷い雨、停電もしましたね。困ったことになりました、はっはっは」
 全然困っていなさそうな様子で珠樹が囁く。と、必死過ぎる千亞の様子に気付いていたのだろう――珠樹はその整った面に満面の笑みを浮かべ、芝居がかった調子で大仰に両手を広げた。
「おやおや、千亞さんから抱きついてくださるなんて、今日は記念日ですね……!!」
「べ、別に怖いわけじゃないぞ……! そ、外の光が眩しかっただけだっ」
 必死で弁解の言葉を返す千亞だが、再度近くに落ちた雷に慌てて耳を塞ぎ、激しさを増した嵐の気配にびくびくっと身をすくめてしまっていた。
「うあ、なんか窓ガタガタいってるし! あの骸骨、今動かなかったか? ひぃぃ」
「ふふふ、そうですね……私たちと一緒に遊びたいのか、それとも……私たちも模型にして、仲間に加えようとしているのかもしれませんね?」
「ああああ、変な事言うな!」
 すっかり錯乱した千亞に対し、珠樹は余裕たっぷりである。どうやら彼は恐怖耐性が非常に高いらしい。しかし――珠樹はそこで怖がる千亞を抱きしめると、自分のマントを彼にふわりと羽織らせた。
「おや。震えてますね、寒いですか?」
「……珠樹」
 先程のおふざけが嘘のように、珠樹はひどく優しい眼差しで、真っ直ぐに千亞を見つめて――その神秘的な紫の瞳を細める。
「ふふ、傍にいます。安心してください、千亞さん」
(ばか、こんな時に優しくするなんて……)
 ずるい、と千亞はぷいと頬を背けつつ、照れ隠しのようにつんとした仕草でびしっと指を突き付けた。
「きょ、今日だけはずっと隣にいることを許可してやる。こ、怖がってるわけじゃないからな!」
 はいはい、と珠樹は優雅に頷き、こほんと咳払いをして。そして、改まった口調でそっと千亞に囁いた。
「スリル溢れる誕生日イブとなりましたが……おめでとうございます、千亞さん」
「あ、忘れてた。……誕生日、か……!」
 ハロウィンが終われば、千亞の誕生日がやって来る。やっとその事を思い出した千亞は、頬を赤らめて顔をそむけながら、珠樹にだけ聞こえる声で呟いた。
「ら、来年は落ち着いた誕生日を過ごさせろよなっ」
「ふふ、来年どころか毎年お祝いさせていただきますよ……!」

●恐怖さえも愉しんで
 今宵はハロウィンと言う事で、アルフレド=リィンが扮したのはミイラ男。普段のカジュアルな格好の下に、包帯を巻いたら出来上がりである。が、ウィンクルムの片割れ――神人の月岡 尊はと言うと、スリーピース・スーツにチェスターフィールドコートという出で立ちだった。
「ツキオカさん、それ何の仮装っスか……」
 普通の格好にコートを着てるだけのように見える尊の姿に、アルフレドは恐る恐るといった様子で尋ねる。すると尊は、有名な探偵小説の悪役である犯罪者の教授の名前を挙げた。「何か問題でも?」と言うような涼しげな瞳に、やっぱこの人はよく分からんとアルフレドは思う。
 が――そんな些細なやり取りを吹き飛ばすトラブルが、今宵は立て続けに起こってしまったのだった。内装の不気味さに溜息を吐く間もなく、いきなりの雷雨に停電。仕舞いには電話も通じなくなって、森の中で孤立――まるでお膳立てのような状況だなと、尊は笑いすらこみ上げて来ているようであったが、アルフレドの方は気が気でない。
「……ツキオカさん、何でそんな笑ってられるんスか?」
「何故って……面白くないか?」
 くく、と喉の奥を震わせる尊に、アルフレドは心の中でぶんぶんと首を振ったのだが、当然尊は彼の胸中など知る由も無く。
「滅多に出来ない体験だ。次は何が起こるのかと、愉しくなって来る。折角だ、ついでに有り得んモノでも見るか、或いは悲鳴でも――」
 いやいやいや、とアルフレドの額から冷や汗がだらだらと零れ落ちる。此処で黙っていたら、本当に何かが起こりそうな気がしてきたから――微妙に上擦った声で、彼は勢いよくまくし立てた。
「ないないない! 昔っから妙な現象に出くわすだの、半透明の何かが見えただの、思い出してたワケじゃねーし、そんなモンある筈ねーし――」
 嗚呼、語るに落ちるとはこのことだろうか。早口で言いきってから、アルフレドはこの場を支配する奇妙な沈黙に気付いて。気まずそうに押し黙ると、彼はそのままあらぬ方向を見つめだした。
 ――と、それっきり大人しくなったアルフレドに気付き、珍しいと思った尊の心に悪戯心が湧いてくる。ちょっと冷やかすように、彼は口の端を上げてアルフレドに問いかけた。
「何だ、アル。もしや、こういうのは苦手ってクチか?」
「こここ、怖くねえし!? 全然へっちゃらスよ!!」
 精一杯の虚勢を張って答えたアルフレドの姿を見て、自然と尊の顔に笑みが広がる。そのまま堪えきれなくなったのか――尊は顔を押さえて、必死に笑うのを我慢しているようだった。
(ほら、誤魔化すのもベテランだ! ……笑われてンのが釈然としねーけど)
 きっと、アルフレドは気付いていないのだろう。尊からは「苦手か」と聞かれたのであって、「怖いか」と聞かれていた訳ではないと言う事に。だが、尊はその答えに満足したようだ。これは面白いものが見れそうだと言う予感に、今夜ばかりは愛用の煙草もポケットに仕舞って静かに手を差し伸べる。
「ほれ、行くぞ。夜は長い。取り敢えず、腹ごしらえだ」
 その差し出された手を、アルフレドはじぃっと見つめるが――とても嫌な予感がして、そのまま硬直した。
(今夜の場合は何より、何が起こるかっつーよりも、この人オレを嬉々として妙な件に巻き込みそうで、そっちのが不安だ……ッ!)
 それでもきっと、アルフレドは尊の手を取るのだろう。そう、夜はまだこれからだ。恐怖の夜を愉しむ――いや頑張って乗り切るために、ふたりの挑戦は続いていく。

●ヴェルトール殺人事件
「……天候はどうしようもないからな」
 ハロウィンパーティを楽しみにしてただけに、少し残念だとアキ・セイジは呟いて。暗闇の中で出来る事も無いし、寝てしまうに限ると言って、彼はロフトへと上がっていった。いわくのある建物でもないし、剥製以外は祟りそうにもないと言いながら――一緒に寝るかとアキはヴェルトール・ランスを誘う。
 ちなみにアキはミイラ男、ヴェルトールはホッケーマスクの殺人鬼の仮装をしており、そんなふたりが並んで寝ると言うのは、何処かシュールな光景であった。
(よし、よく寝てるな……)
 やがて、アキが寝入った事を確認したヴェルトールは、彼の額をぺしっと弾いた後、意味深な笑みを浮かべた。パートナーを起こさないように気をつけつつ、ロフトを降りたヴェルトールはキッチンへと向かう。
(俺が刺激的なハロウィンにしてやるよ……ふふふ)

 暫くうとうとしていたアキだったが、目覚めると隣に居る筈のヴェルトールが居なかった。
「あれ? 何処行った?」
 が、直ぐに彼はキッチンだろうと見当をつける。恐らく、うちにいる時みたいにツマミグイするつもりだろう――そんな風に考えながら。
 やはりと言うか、コテージの中は真っ暗だったが、アキは皆を起こしたくないので手探りでキッチンへと向かった。が、そこでアキは異様な雰囲気に気付く。
「……窓が、開いている」
 雨は大分収まって来たが、それでも風は強いようでカーテンがばさばさと靡いていた。次に暗闇に慣れた瞳が捉えたのは、外から誰かが侵入したような土足の足跡。よくよく見れば、キッチンも荒らされているようだ。
 そして――その床に力無く横たわっていたのは。
「……ってギャー!! ランス! 嘘だろ!?」
 それはヴェルトールの死体であった。胸に突き刺さっているのはナイフ。更に頭部には鉈が食い込んでおり、その身体はおびただしい朱に染まっている。
(ふふ、驚いてる驚いてる)
 おろおろしているアキの姿を薄目を開けて覗き見ながら、ヴェルトールは内心ほくほく顔で彼の悲鳴を聞いていた。と言うのも、勿論これはヴェルトールの悪戯だったからだ。
 身体を染めている血はケチャップの血糊だし、胸に刺さったナイフは先が引っ込む玩具だ。ちなみに頭部に食い込んでいるように見える鉈は、真ん中が窪んでいる形をしたドッキリグッズなのである。思った以上に効果があったのは、パンプトリックのブレスレットにお願いしたからだろうか。
「誰か回復魔法を! 誰か!」
 けれど、ほくそ笑むヴェルトールの事など知る由もないアキは、すっかり涙目になっていて。彼を助けようと、必死に他の皆を呼ぼうとしている。
(やば、やり過ぎたか……?)
 悪戯だと明かすつもりで、ヴェルトールは慌てて起き上がったものの――そこでアキの瞳が驚愕に見開かれた。
「え? 動い……ギャ――!!」
 今宵二度目のアキの悲鳴が、コテージを震わせる。それからはもう夢中で、ヴェルトールは何とかアキにこれは悪戯なのだと説明をして――ようやく事態を把握したアキは、はあはあと荒い息を吐いてぐったりと座り込んだ。
「脅かすなよ、もう。イタズラが過ぎるだろ」
「……心配、させたか?」
 恐る恐る様子を窺うヴェルトールの姿に、アキは何でもないと言わんばかりに髪をくしゃりとかき上げる。
「別に心配はしてない。ビックリしただけだ」
「悪い……泣かすつもりはなかったんだ。ごめんな、ごめんよ」
 その「泣いた」と言う言葉に、アキが敏感に反応した。ヴェルトールが死んだのだと思ったら、目の前が真っ暗になって、自然と涙が浮かんできたのだ。けれど、泣いたなどと思われるのが嫌で、アキは顔を赤らめてそっぽを向く。
「こ……これはアクビしたからだしっ」
 ぽかぽかと胸を叩くアキが、こんな時だと言うのにいとおしい。ああ、とヴェルトールは頷いて、その身体ごとぎゅっと、アキを己の胸に抱きしめた。
「そうだったな。アクビだったな」

 ハロウィンの夜を襲った突然のアクシデント。けれど、それがもたらしたのは恐怖だけではなかった。いつもと違うひとときを過ごしたふたり――それぞれに思い出は降り積もり、暗闇の中で交わした言葉は大切な宝物になって、いつまでも輝き続けるだろう。
 奇妙な一夜、その夜に何が起こったのかは――閉ざされた森の一軒家に集った、彼らだけが知る。



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター 柚烏
エピソードの種類 ハピネスエピソード
男性用or女性用 男性のみ
エピソードジャンル コメディ
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 5 / 2 ~ 5
報酬 なし
リリース日 10月26日
出発日 11月03日 00:00
予定納品日 11月13日

参加者

会議室

  • [5]明智珠樹

    2014/10/31-18:23 

    こんにちは、明智珠樹のパートナー、千亞です。
    (皆、度胸ありそうだなぁと思いつつ)
    み、みんないるし、な、何も怖いことはないですよね、は、はは(乾いた笑い)

    そして改めて月岡さんおめでとうございます(にこっ)
    僕と同じ、蠍座男ですねっ。
    (自分も月岡さんみたいにかっこいい大人になりたいなぁと思う兎)

    少し早いけれどプラン提出しました。
    出発ギリギリにまた会議室顔出せそうではありますので
    何かあればお気軽に(ぺこ)

  • [4]月岡 尊

    2014/10/30-00:49 

    俺も初めまして、だな。月岡尊という。
    連れはアルフレド。……普段から騒がしいのが更に騒がんよう、首根っこは押さえておくつもりだ。
    何卒、よしなに頼む。

    しかし……そうか、誕生日だったか。明智に言われるまで忘れていた。
    ありがとう。
    この歳になっても、祝って貰えるというのは嬉しいもんだな。

  • [3]アキ・セイジ

    2014/10/29-22:36 

    特にいわくのある建物でもないのだし、暗くなったのなら寝てしまうとするか。

    (PL:というセイジにランスがちょっかいかけてイタズラする予定です。宜しくお願いします)

  • [2]フラル

    2014/10/29-19:49 

    こんばんは。オレはフラル。
    はじめまして、の人がほとんどかな。
    アキは久しぶりだな。
    よろしくな。

    まさか、楽しいパーティがこんなことになるなんてな…。
    仮装して、美味しいものを食べて楽しんでいるはずだったのに。

    サウセが暗いの苦手みたいだから、少し落ち着かせることにするが、あとはどうするか…。

  • [1]明智珠樹

    2014/10/29-14:32 

    皆様、はじめまして。明智珠樹と申します。
    何卒よろしくお願いいたします…!!
    なんとイケメンだらけのハロウィンパーティー…!!(うっとり)

    しかし…ふ、ふふ、とんだ事態になってしまいましたねぇ(楽しそうに)
    私は有り難く紳士協定に甘えさせていただこうかと
    考えております…!!
    皆様はいかがなされますか?
    また、皆様の仮装も楽しみです…!!

    そして、月岡さん誕生日おめでとうございます…!!


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