【ハロウィン・トリック】夢見る為の協奏曲(こーや マスター) 【難易度:簡単】

プロローグ

●眠る娘
 自分の娘同然の存在だった。息子を亡くしてからは、特に。
息子の恋人だっただけでなく、幼い頃から慈しんできた娘だったから。
 彼女の姿を見るのは久しぶりだった。
彼女が移り住んだ場所は自分の住む村からは遠くて、様子を見に行けたのは一度だけだった。
今は、それを後悔している。
 エイアは娘の顔に目を向けた。
ベッドに横たわる娘の、鮮やかなコバルトブルーの瞳は閉ざされたまま。
 娘は息子が死んだ直後と同じように、随分と痩せてしまった。
何日も眠ったままなのだからそれも当然。
元より線の細い娘だったが、今ではあまりにも儚すぎる。
 眠り続ける娘を見つけた雇用主によると、部屋に『ジゼル』の絵本が落ちていたという。
だから、娘も死んで妖精になってしまうのではと危惧してしまう。
 そっと娘の頬に手を当てる。
エイアは何度も何度も頬を撫でた。
愛しい娘の頬を、何度も。
「お願いよ、シレーヌ……目を覚まして頂戴……」


●第一幕
 心臓が弱いある村娘が、恋をした。
歌うことが好きなシレーヌは、デュウスという男と恋をした。
 デュウスという名は偽物。本当は婚約者のいる貴族のアルブレヒト。
けれど、シレーヌを愛した心は本物。真実を隠したまま婚約した。
 シレーヌに恋する村の青年――ヒラリオンは腹立たしかった。デュウスが憎かった。
それというのも、彼はデュウスが貴族の格好から村の男へと変装する姿を見つけたから。
 シレーヌと会うときは村の男、そうでないときは貴族。
その意味は?少し考えて調べれば答えはあっという間。
 そんなある時、アルブレヒトの婚約者――バティルドが狩りの途中に村に立ち寄った。
バティルドもシレーヌも、結婚を間近に控えた身。身分は違えど話が弾み、仲良くなった。
 二人が仲良くなった後、ヒラリオンはここぞとばかりに剣をジゼルとデュウスに見せた。
その剣はアルブレヒトがデュウスになる為、森の小屋に置いて来た剣。
彼の身分を証明することが出来てしまう、剣。
 しかも困惑するシレーヌをデュウスが宥めている間に、ヒラリオンはバティルドとその父の公爵を連れてきてしまった。
言い逃れが出来なくなったデュウスはシレーヌの目の前でバティルドに跪き、その手に口付けた。
 彼がどちらを取ったかは、それで一目瞭然。
シレーヌの嘆きは深く強く。
錯乱した彼女は、そのまま――

解説

●目的
シレーヌが見ている『ジゼル』の夢をハッピーエンドに導く、もしくはトラオム・オーガを倒すこと。

●登場人物
・シレーヌ
ジゼルに該当します。
死んだ後、結婚を前に死んだ娘の精霊ウィリーとなっています。
本来のストーリー通りに話が進めば女王の命令のもと、歌と踊りでデュウスを誘い、えんえんと踊り続けます。
『【夏の思い出】貴方の為に歌う小夜曲』、『貴方達に贈る夜想曲』で登場したシレーヌと同一人物です。
彼女の願いが「デュウスの歌を再び聴くこと」という一点さえ押さえておけば、過去作は見なくとも問題ありません。

・デュウス
シレーヌの死んだ恋人を模しています。
デュウスが死ぬか、朝を迎えるかのどちらかでバッドエンドとなります。

・ヒラリオン
ノータッチで大丈夫です。

・ウィンクルム
神人の皆さんはシレーヌと同じくウィリー
精霊の皆さんは村の男達
となります。

・トラオム・オーガ
ウィリーの女王、ミルタとなっています。
なお、本来のウィリーは自身たちが踊ることで森の迷い人や裏切りを働いた人を踊らせ続け、死に至らしめますが
今回のウィリーは歌うことで前述の人たちを踊らせ続けます。


●その他
夜中の、森の中にあるシレーヌの墓前が舞台です。
他のウィリー達がヒラリオンを殺し、神人の皆さんがデュウスを捕まえるところからの話になりますが
精霊の皆さんは、デュウスがシレーヌの墓参りに行く前に会話をしたということにできます。
森では隠れて待っていてもいいですが、慎重に隠れなければすぐに見つかってしまうでしょう。
オーガが正体を現す前に見つかれば、えんえんと踊らされます(正体が発覚次第、解除されます)
ハッピーエンドを目指す場合は御注意を。

ゲームマスターより

それでは頑張ってください。

リザルトノベル

◆アクション・プラン

豊村 刹那(逆月)

  トラオム・オーガってのは、随分と性質が悪いな。

行動:
捕らえた状態の時、密かにデュウスに「貴方、シレーヌを愛してるんですよね?」と真面目な声で言う。(他とは違うと印象付け

少し様子を見て、踊るデュウスにさり気無く近づき耳打ち。
「シレーヌの好きな歌は知ってます?」
シレーヌさんに近づき、手の甲の文様をさり気無く見せる。(味方アピール

シレーヌさんがデュウスを庇えば歌うのは止める。
女王の顔色を窺う振りをし、女王に見えない角度でデュウスに口パク。『歌ってあげて』

オーガが正体を現せば逆月を大きな声で呼ぶ。
戦闘は前衛。
相手を見据え、致命傷は避け後衛に攻撃がいかぬ様に立ち回る。(気合
眼鏡を飛ばされぬ様に注意する。


リセ・フェリーニ(ノア・スウィーニー)
  シレーヌさんの様子を確認し
デュウスさんをかばおうとしたり何かを伝えようとするような行動をとっていれば
歌うのをやめてシレーヌさんが行動しやすいようにしつつ
彼女に対してどうしてそのようなことをするのかと敵対するような態度をとる

歌ってデュウスさんを踊らせている間
女王に怪しまれない範囲でできる限りデュウスさんに近づき
シレーヌさんに向かって歌ってあげてほしいと告げる
私はできるだけ女王の怒りを買わないよう
女王に従順に従っているように振舞ってみせる

女王がオーガの姿を現しデュウスさんを狙うなら
大声を出してノアを呼ぶ
お話の通りならオーガの攻撃を防げるかもしれないから
デュウスさんには墓に触れているように言う


●第二幕
 トラオム・オーガってのは、随分と性質が悪いな。
暗闇の中、豊村 刹那はその手でアルブレヒト――デュウスを捕らえながらも思う。
人間の最も弱い所を絡めとって底なし沼へ引きずり込むような手段は、伝え聞くヤグアートやヤグズナル等の姑息さとは意味合いが違う。
 デュウスの向こう側にいるリセ・フェリーニの目配せを合図に、刹那は小声でデュウスに問い掛けた。
「貴方、シレーヌを愛してるんですよね?」
 他のウィリー達とは違う、狂気のない真面目な声にデュウスは目を見開いて驚く。
刹那の意図通り、彼女が他のウィリー達とは違うと察したデュウスは小さく頷いた。
 反応に満足しながらも、刹那は心中で舌打ちする。
ならば何故という想いが胸に渦巻く。結果的とはいえ、何故シレーヌを騙した……そう問いたくなる。
 その衝動を堪えながら、刹那は歌った。
他のウィリー達と同じように。
夜の森の闇の中、青白く光るウィリー達は迷いなく奥へ、奥へと歩を進める。
 リセも同じように歌う。
彼女の胸の内は窺えないが、一つだけ分かることがある。
シレーヌの願いを叶え、夢の檻から彼女を救うという確固たる意思が、そこにあるということだ。
 そのことがデュウスに分かるはずはない。
けれど、二人の態度で、シレーヌの墓へ向かう前に村で出会った男達のことを思い出させた。


「身分を偽ってまで、お前はシレーヌのどこを気に入っていたのだ?」
 問い掛けてきた逆月を、デュウスは村の男だと判断した。
束の間の逢瀬でしか村を知らないデュウスは、逆月とノア・スウィーニーを自分が知らなかっただけだと考えたのだ。
「彼女の、歌が好きだった。……うん、歌っている彼女に、惹かれたんだ」
 自嘲めいた笑みをデュウスは浮かべる。
彼自身の行いが招いた事態だ、同情の余地はない。デュウス本人も分かっているのだろう。
「たとえ言わなくても、伝わっているとしても、想いは言葉にして伝えてもらいたい。……女性っていうのはそういう生き物だからさ。
愛しているのか、愛していたのか……ちゃんと伝えてきてあげたら?」
 ノアが提案すると、デュウスはじっとノアを見た。
デュウスの瞳には後悔という名の濁りがある。
「……あんなことをした僕に、その資格はない」
 軽い仕草で首を傾げ、ノアは自身の考えを紡ぐ。
俺だったら……――
「愛してるって言ってあげるかな。それで浮かばれるならそれでいいじゃない。
嘘なら見通されちゃうかもしれないけど」
「嘘ではないよ。嘘では、なかった。僕は……彼女を愛していたよ」
 ノアの穏やかな笑みからデュウスは何を感じ取ったのだろうか。
真っ直ぐな眼差しで返された言葉に、ノアは笑みを深めた。
「なら、それでいいじゃない。行くんでしょ?言ってあげなよ。
それでも幸せだって思う子もいるかもしれないしさ」
 さあっと、風が吹きぬけていく。濃い緑の香りを乗せた風だ。
まるでデュウスの迷いを振り払うような風のようだと、逆月には思えた。
「シレーヌは歌が好きだった。お前がせめて墓前といえど歌うなら、喜ぶやも知れぬ」
 愛する男の歌を聴きたいと、生前言っていたのを聞いたことがある、逆月は付け加えた。
己を捕らえて離さない眼差しを受け止めながらも、デュウスは苦く笑う。
「歌は、下手なんだけどね」
 でも、彼女が望むのなら――
言外に歌うのだと告げたデュウスは二人に感謝の言葉を述べ、森へと入っていく。
暗い、暗い森の中へと飲み込まれるような錯覚をデュウスは覚えた。


 あの二人の男達は助言こそくれたものの、それはデュウスに対してではなくシレーヌの為のものに思えた。
今、自分の両隣を歩く二人の女――ウィリーからも、男達と同じような雰囲気を感じる。
そのことが、歌に誘われるがまま歩くデュウスに愛した女との再会を予感させた。



●第三幕
「ミルタ様、男を捕まえてきましたわ」
 ウィリーの一人が歌を止めると、デュウスはどさりとシレーヌの墓へと身を投げ出した。
デュウスの背中を見守る刹那とリセを他所に、すぅっと青白い人影が新たに二つ現れる。
 他のウィリー達よりも豪奢のドレスに身を包んでいるのがミルタで、他のウィリー達と同じドレスを着ているのシレーヌだろう。
シレーヌの表情が強張っているのを刹那は見逃さなかった。
 姿を現したミルタを囲むように、他のウィリー達は心底愉快げに、狂気を宿した声で喋りだした。
「不実な男、嘘つきな男」
「許しを請いにやってきた?」
「許してもらえるなんて思っちゃいけないのに?」
「嘘を操る手と足は、死ぬまで踊る為に」
 クスクスと笑いさざめくウィリー達に刹那とリセも倣う。
本当はこんな真似などしたくもないが、今は怪しまれる訳にはいかない。堪えねば。
 ミルタは満足げな表情を浮かべ、シレーヌの名を呼んだ。
びくり、その体が跳ねた。
「歌いなさい」
「……」
「歌いなさい、シレーヌ」
 温かみを全く感じさせない視線がシレーヌを貫く。
シレーヌは震えながらも音を紡ぎだした。
 すると力ない様子でデュウスが立ち上がり、ふらふらと踊り始める。
やはり狂気の笑みを湛えたウィリー達がそんなデュウスとシレーヌの周りで歌いながら踊る。
 一人、また一人とウィリーがデュウスの側に近づき、嘲笑っていく。
だから刹那が近づいても怪しまれることは無かった。
彼女はただ一言問い掛けて、答えを聞くことなく離れたから。
「シレーヌの好きな歌は知ってます?」
 驚く力も無くしたデュウスが離れていく刹那の姿を見ると、今度はリセが囁きかけた。
「シレーヌさんに向かって歌ってあげて」
 二人の言葉に、村で言われた言葉を思い出す。
愛する男の歌を聴きたいと、シレーヌが願ったのなら。まだ、自分を愛してくれているのなら。
 疲れきっているというのに、するりとデュウスの口から旋律が漏れ始めた。

嗚呼、愛しい君
美しい声は喜び
優しい旋律は幸福
愛しい君よ、君の待つ家へ、さあ

 シレーヌの様子が変わったことに、すぐにリセは気付いた。
震えたままだが先程までとは違う。恐れから来るものではない。
 歌が止まると同時にデュウスの体が再び崩れ落ちる。
荒い息を繰り返し、シレーヌの墓に倒れこみながらもデュウスはシレーヌを見つめていた。
 リセはすぐに動いた。
ミルタとシレーヌの間に体を割り込ませ、歌を続けるよう求めた。
「歌いなさい、早く、歌うのよ」
「……出来、ない。出来ない……」
「ミルタ様に逆らうというの!?」
 勿論、リセの言動は本心ではなく演技だ。
彼女はミルタに従順であるように装いつつ、シレーヌを庇っているのだ。
従順に物語を進めている間は、トラオム・オーガも正体を現さないと判断したから。
 ミルタの後ろから機嫌を窺い、二人の成り行きを見守る刹那とデュウスの目が合う。
声を発することなく、口の動きだけで語りかけた
歌ってあげて、と。
 デュウスは頷くこともせず、刹那の要請に応じた。

標は帰路を
灯火は君を
君の歌声が、いつだって
家へ、君の元へ導いてくれる

 シレーヌが両手で顔を覆った。指と指の僅かな隙間から涙が零れ落ちていく。
微かに聞こえる彼女の泣き声には隠し切れない喜びがある。
「いいから、歌いなさい!」
 リセは変わらずシレーヌに続きを促しながら、後ろの気配を探る。
ぞっと、冷たい何かが背筋を走る感覚を覚えたリセはそのまま振り返った。
 ミルタは、笑っていた。
「そういう、こと」
 異様に赤い唇が描く弧は、禍々しい以外の表現を持たない。
ミルタはリセとその後ろにいるシレーヌを指差した。
「夢の中までわざわざご苦労なこと。折角その女に愛しい男の夢を見せてやってるというのに」
「夢は夢でも、最悪な夢じゃない」
「愛した男が裏切る姿を見たいと思う女がどこにいる」
 刹那はリセの隣に並んで立つ。
左手の甲――神人の文様を後ろのシレーヌにさりげなく見せたが、今の彼女にはその意味が分からない。
けれど、この二人が自分の味方だと言う事は疑いようが無い。
「威勢はいいな。だが私の勝ちだ」
 ミルタの掌にぽうっと光球が現れる。紫と黒で彩られ、見るからに禍々しい魔法弾だ。
リセと刹那は身構え、大きくパートナーの名を呼んだ。
「終わらせる手段は他にもあるのだからな!」
 紫と黒の魔法弾が放たれ、真っ直ぐに刹那へと飛来する。
けれど、衝撃が刹那の体を襲うことは無かった。
「無事か、刹那」
「……お陰様でな」
 逆月とノアだった。



●第四幕
「ギリギリだったね」
「間に合ったんだからそれでいいわ」
 ――勝利の美酒を私に。
口早にインスパイア・スペルを唱え、リセはノアの頬に口付けた。
トランスしたノアが逆月に触れると、先の魔法弾により受けた傷が癒えていく。
 刹那は逆月と視線を合わせ、力強く頷いた。
今こそ、この悪しき夢を――
「打ち払う」
 オーガを滅ぼす力をその身に灯した逆月が弓を引く。
それに合わせて剣を携えた刹那が駆け、ミルタへと肉薄する。
 再び放たれた魔法弾が刹那の肩で炸裂し、衝撃で眼鏡が落ちかけるものの剣を振るう勢いを利用し、頭を振ってずれた眼鏡を戻す。
攻撃直後の隙を狙って逆月の弓から放たれた矢がミルタの体を貫き、今度は刹那の刃がミルタの腕を掠めれば、鮮血が弧を描いて地へと落ちていく。
 ドレス共々焦がされた刹那の肩が痛々しい。
勿論、痛まないはずなどないが彼女は構う気配すらなく、甘んじてさらなる魔法弾を受け止めた。
その刹那の両脇を二本の矢と、それを追ってさらに一本の矢がすり抜けていく。
「小賢しいっ!」
「誰が好きにさせてなどやるものか!」
「その通りだね」
 ミルタが刹那へ意識を向けている隙に近づいたノアが懐から小刀を抜き放つ。
豊かなミルタの胸に赤い、一筋の線が走る。
無慈悲な妖精の女王が怯むと、その隙にノアは癒しの力を以って刹那へ触れた。
「やっぱり触るんなら女の子がいいよね」
「ノア!真面目にやんなさい!!」
 シレーヌとデュウスを庇うリセが飛ばした叱咤も、ノアはどこ吹く風。
「やってるじゃない?ねぇ、刹那ちゃん?」
「感謝はしている」
 引き戻した刃でミルタの体を刻むノアに、刹那はそれ以上言及することなくミルタの胴を薙ぐ。
後ろに控える者達を守れるのであれば、致命傷さえ受けなければそれでいいと考えていた刹那だ。
ノアの癒しは渡りに船であったことに間違いはない。
 激昂したミルタの魔法弾を、刹那は避けようとすらしない。
青白いミルタの肌は、怒りと流れる血により赤く染まっている。

 他のウィリー達は困惑した様子で手出しを控えている。
彼女達も戦いに加わっていたのであれば、戦況は非常に厳しいものになっていたはずだ。
そのことに安堵しながらもリセは気を抜かない。
 そんな彼女の後ろでシレーヌはデュウスの肩に触れた。
温かい。今のシレーヌにはない温かさ。
そして、本来ならば感じるはずのない温かさ。
「夢、なのね……」
「……うん。オーガの見せている夢、『ジゼル』の夢だよ」
「そう……」
 ちらと、リセはシレーヌの様子を窺った。
彼女は涙を零しながら、ゆっくりと、何度もデュウスの頬に触れている。
その感触を記憶に刻み込もうとしているように見えた。

 逆月は釈然としない様子で弓に矢を番えた。
護る対象であるはずの神人が、剣を手に果敢にトラオム・オーガへと挑んでいる。
これでは役割が逆ではないか。
 そう思いながらも口には出さない。
代わりに、矢を放つ。
 放ったばかりの矢を道標に、続いて番えた二本の矢が追う。
一本目はミルタの胸を、二本目と三本目の矢が左右の肩を突き刺した。
 呻き声を上げるミルタに、ノアが小刀を振るう。
そして返す刃が胸元を抉る。
ノアの緑の瞳とミルタの間に妨げるものなど何もなく、避けられるはずもない。
 『風』が叩き込まれ、ミルタは絶叫した。
その声には隠されることのない、怨嗟の色が立ち込めている。
「終わりだ。悪夢の報い、受けてもらう」
 傷を掻き毟るように体を抱くミルタを刹那の刃が貫いた。
怨嗟と悪夢を断ち切るように、迷いのない剣で。



●終幕
 森の中は徐々に明るくなっていく。
朝を迎える為ではなく、夢が明ける前兆なのだろう。
「このデュウスも、夢。やっぱり、もういないのね……」
 ぽつり、シレーヌが呟くが、彼女の言葉が聞こえていないかのようにデュウスは愛を囁いた。
「シレーヌ……僕は、君を愛しているよ」
「知っているわ、デュウス。だから、私は歌っていたのよ」
 眼前で交わされる、恋人達の会話は噛み合っているようで噛み合っていない。
ウィンクルム達とシレーヌ本人はそれを理解している。
シレーヌは死んでしまった恋人に、デュウスは与えられた役割通り死んだ恋人に語りかけている。その差だ。
 立ち上がったシレーヌが振り返る。
「貴方達が、デュウスに歌うように言ってくれたの?」
「そうだ。それが、お前の願いだと聞いたから」
 逆月が答えると、シレーヌは笑った。
泣きながら、笑った。
「ありがとう」
 はらはらと零れるシレーヌの涙が光となって消えていく。
それでも彼女の涙が尽きることはない。
「夢でもいい、もう一度、一瞬でもいいからデュウスの歌を聞きたかった。それが、叶った」
 『一瞬』の名を持つ女が口を開きかけて止めた。
愛した男が裏切る夢でも良かったのか、そんな問いは野暮だろう。
 シレーヌだけでなく、ウィンクルム達の体も光となって消え始める
「ずっと、この時を願っていたの。それに、あの人の『愛してる』を聞けた。
本当のデュウスじゃなくても……私には、充分」
 最早お互いの顔すら分からない。ぼんやりとした存在感が分かるだけ。
全てが白へと溶けていく。夢の終わりは近い。
 そこに、シレーヌの声が響いた。
「ありがとう。私は、生きていける」


「帰ってこれたか。別段異常は感じないが、違和感は拭えないな」
 現実の世界へと帰還した逆月は、言いながらも自身の手を見て感覚を確かめている。
「シレーヌさん、本当にあれでよかったのかな……?」
 リセが呟いた。
言葉に出しはしないが刹那も同様の疑問を抱いている。
確かに彼女の願いは叶ったのだろうが、オーガが作り上げた偽物の、夢のデュウスによるものだ。
本当に、これでよかったのか……自問自答してしまう。
 そんな二人の後ろで、ノアが絵本を拾い上げた。
ぱらぱらと、ページをめくり続け、最後のページで彼は笑みを深める。
「いいんじゃない?嬉しそうだったし」
 ほらと、絵本の最後のページを開いてみせる。
朝日と共に消えるジゼルの顔は、笑っているように見えた。


 シレーヌはうっすらと瞳を開いた。
自宅でも、かつての住まいでもない見知らぬ天井がそこにある。
 けれど、すぐ側には幼い頃から良く知る母代わりの女性がいた。
声が上手く出なくて、手を持ち上げる。それもいつも以上に気力を用いたが、止める事はない。
 身動ぐ音で、シレーヌが目を覚ましたことに気付いたエイアの瞳からは涙が溢れてくる。
「シレーヌ……!よかった……よかった……」
 エイアは涙を拭うことなく、横たわるシレーヌを抱いた。
彼女の生を実感しようとしているようだ。
 シレーヌの唇が緩い弧を描く。
気力を振り絞って、エイアの背を撫でる。
何度も、何度も撫で続けながら、パシオン・シーと同じ、淀みのないコバルト・ブルーの瞳から一筋の涙が零れ落ちた。
「デュウス……」



依頼結果:成功
MVP

メモリアルピンナップ


エピソード情報

マスター こーや
エピソードの種類 アドベンチャーエピソード
男性用or女性用 女性のみ
エピソードジャンル イベント
エピソードタイプ ショート
エピソードモード ノーマル
シンパシー 使用不可
難易度 簡単
参加費 1,000ハートコイン
参加人数 2 / 2 ~ 5
報酬 多い
リリース日 10月16日
出発日 10月22日 00:00
予定納品日 11月01日

参加者

会議室

  • [13]豊村 刹那

    2014/10/21-19:52 

    なら、当初の予定通り。
    逆月には森の外に待機して貰おう。

  • [12]リセ・フェリーニ

    2014/10/21-15:05 

    作戦のイメージはその通りです。

    精霊については、森の入口から墓までの距離がわからないから
    何かあった時に呼びつけられるような距離、という
    すこし曖昧な表現にあえてしていたというところでしょうか。
    ウィンクルムはお互いの考えていることが少しわかるようになる
    ということだから、もしかしたらある程度距離があったとしても
    強く思えば届いたりするのかしら?そのあたりはわかりませんが。
    他のウィリーに襲われる可能性も考えると、森の外が適切なんですけどね。

    せめてあと一人誰か来てくれれば戦闘でオーガを倒すことも可能だと思うけれど
    今のままでは少々厳しいかしら…。
    ノアにはとどめをさせそうなら攻撃するようにと頼んでいるけど
    今のまま依頼を成功させるには戦闘は起こさないのがベストだと考えているわ。

    だとすると不用意に森に精霊を入れない方がいいかもしれない。
    ノアには届くと信じて森の外にいるように伝えておくわ。

  • [11]豊村 刹那

    2014/10/21-14:32 

    リセさんのをまとめると、こういうことか?
    ---
    神人:
     女王に従順な振り。
     デュウスが踊ってる時に、さり気無く近づき歌うよう耳打ち。
     シレーヌさんがデュウスを庇おうとしたら
     →歌うことを止めて、シレーヌさんの味方であることをアピール
     →同時に、シレーヌさんを避難して女王に従順なフリ

    精霊:
     デュウスに歌わせるための布石を打つ。
     →彼女は歌が好きだったことを告げる
     →墓前で歌うように言う
     神人が呼ぶまで、声が聞こえる範囲で待機。
    ---
    逆月には、森の外で待機して貰おうと思っていたけど。
    それなら、ノアさんとはまた別の声が聞こえる範囲に待機して貰おうか。
    まとまって隠れるより、分散した方が隠れやすいよな。

    ハッピーエンドを目指せるなら、私はリセさんの方法でも構わない。
    私の頭じゃハッピーエンドへの道筋が浮かばなかったからこその、オーガ討伐優先だったからな。


    戦闘になったら、最初の宣言通り私が前衛を務める。
    逆月は、その援護の予定だ。

  • [10]リセ・フェリーニ

    2014/10/21-13:58 

    プランに手をつけ始めて思ったんだけど
    ハッピーエンドに持ち込むなら、女王の正体をさらさせない方がいい…?

    戦闘を避けるのであれば、私たちは女王に従順なウィリーを演じて
    歌は止めないまま機会をうかがって
    さりげなくデュウスさんに近づいて彼女に向って歌うように耳打ちしたり

    シレーヌさんがデュウスさんがかばうようなそぶりを見せたら
    歌うのをやめることでその手助けをしているように見せつつ
    彼女になぜそんなことをするのかと非難してみたり…

    精霊の出番は最初の会話でいかにデュウスさんを動かすか
    というところにとどまってしまうかもしれないけど。

    現状私の手元では精霊は声の届くギリギリの距離で待機してもらって
    女王がオーガになったら呼びつける、という風にしているわ。

  • [9]豊村 刹那

    2014/10/21-13:41 

    ハッピーエンドか……。
    おそらくシレーヌさんにとって、幸せなこと。だよな。

    シレーヌさんの願いが「デュウスの歌を再び聴くこと」
    だから、デュウスに歌って貰うことで合ってるとは思うんだが……。

    嘘でも最後に、か。
    私の場合はどうなんだろうな……。浮かばないな。(苦笑い

  • [8]リセ・フェリーニ

    2014/10/21-12:42 

    それであれば同意見ですね、ありがとうございます。

    戦闘については
    正直なところノアは完全に支援タイプだから
    今回はオーガを倒すことを狙うよりも
    ハッピーエンドに向かうように仕向ける方が
    現状の編成では作戦として適当であると思う。

    どうなればハッピーエンドなのか、というのが明確でないのが難しいわね。
    シレーヌさんにデュウスさんの歌を聴かせるだけでいいのか
    デュウスさんは本当はシレーヌさんの方を愛していると
    たとえ言葉だけだとしても伝えてもらうのがいいのか…

    私の個人的な意見としては
    嘘でもいいから最後に愛していると言ってほしい、と思うかもしれないわ。

  • [7]豊村 刹那

    2014/10/21-11:56 

    ああ、言葉が足りなかったみたいだ。すまない。
    墓に行けばシレーヌさんに会えると伝えさせる気はないよ。

    「彼女は歌が好きだった。お前が墓前で歌えば喜ぶかも知れない」
    そんな風に、逆月に言って貰おうかと考えていたんだ。

  • [6]リセ・フェリーニ

    2014/10/21-09:21 

    墓へ行く前に伝える、というのは
    墓へ行けばウィリーになってしまっているシレーヌさんがいる
    というのを伝えるということかしら?
    だとしたらそれは話の筋が変わってしまう可能性があるから
    やめておいた方がいいんじゃないかしら。
    普通はお墓参りに行ったらその人に本当の意味で会えるとは思わないもの。

    私たちがウィリーとしてデュウスさんを捕まえるところから始まる、とあるけれど
    自分が殺されてしまうかもしれないと知ったら墓へ来ない、なんてことになるかもしれない。

    「墓参りに行く前に会話をしたということにできます」というのは
    顔見知りになる機会くらいはある、ととらえておいた方がいいかもしれないわ。
    その際に伝えるとしたら…そうね、他愛のない世間話として
    歌が好きだった彼女のために墓の前で歌ってみてやったらどうだ?くらいにしておくと
    頭の片隅に残って、いざ私たちがお願いするときに聞き入れてもらいやすくなるかもしれないわね。

  • [5]豊村 刹那

    2014/10/20-23:33 

    リセさんに、ノアさんだな。初めまして。
    よろしくな。

    そうだな。
    シレーヌさんとデュウスの守りは一応、あった方がいいか。
    私達の他にもウィリーはいるんだものな。

    デュウスに歌をお願いする。ふむ。
    シレーヌさんが歌うのが好きなのは、デュウスも知っているかも知れないな。
    今までの、そしてシレーヌさんが今歌っていることへの「返歌」という形で頼んでみるか。

    シレーヌさんが、歌うことをデュウスが知らない可能性を考えると。
    村の男役の精霊から、墓に行く前に伝えておけば保険にはなるかな。

  • [4]リセ・フェリーニ

    2014/10/20-22:56 

    初めまして。
    精霊はライフビショップのノア。
    初仕事なのだけれど、よろしくお願いするわね。

    最初に起こす行動としては刹那さんの提案通りでいいと思うわ。
    その後については神人だけで少し粘って
    オーガが本性をあらわすまでの時間を稼ぎたいわね。
    その後精霊を戦場に呼びこむ、と。

    戦闘中のシレーヌさんとデュウスさんについては
    うちのノアに守らせれば殺されはしない…かしら。

    もしもシレーヌさんが歌うのをやめてくれない場合には
    デュウスさんに歌を歌うようにお願いしてみるのはどうかしら?
    歌声を聞けば心が動くかもしれない。

  • [3]豊村 刹那

    2014/10/20-22:36 

    会話か……。(一度考えるように目を伏せ、瞼を上げひたりと見据える)

    『あの娘のどこが、それほど良かったのか』
    そう、聞くぐらいだ。

  • [2]豊村 刹那

    2014/10/20-09:26 

    ああ、そうだ。言い忘れてた。
    他に方法があるならば。どんな方法になろうと私は構わない。
    今回の被害者であるシレーヌさんが救われるのなら、なんだってな。

    別の方法や、意見とかなんかあれば遠慮なく言ってくれ。

  • [1]豊村 刹那

    2014/10/20-09:12 

    他に誰が来るとも知れないが。
    豊村刹那だ。よろしく頼むよ。

    契約した精霊は、プレストガンナーの逆月だ。
    使うのは、銃じゃ無く両手弓になる。


    私としては、内心はどうであれ。結果的に騙した男は罰を受ければいいと思うんだが。
    死なせることも、朝を迎えるのも駄目らしいからな。
    トラオム・オーガを倒せばハッピーエンドで無くとも構わないらしいし。
    私は討伐の方で考えている。

    本来のジゼルの物語のままなら、シレーヌさんもデュウスの命乞いをするだろうし。
    デュウスの謝罪と言うよりも、シレーヌさんの心情を慮って、私は女王に逆らってシレーヌさんを歌わせるのを止めようと思っている。
    シレーヌさんが歌わなければ、デュウスは踊らないんじゃないかなと。

    そうすれば、女王が怒って正体を現して討伐って流れに。なんていう、希望的観測だな。

    前衛がいなければ、私が引き受ける。
    ジョブも何も気にせず、遠慮なく誰でも来てくれ。待っている。


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